次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 16
2010/03/18 Thuリリカル・クロニクル
「――どけぇぇええええええええええええええええっっっ!!!!」


 UCAT内の廊下を神速のごとく、勢い良く駆け抜けていく影がある。その影とは――佐山御言だ。
 彼の顔はまるで鬼のような形相を浮かべ、眼を合わせた者全てに畏怖を与える。黒の軍勢もその彼の形相に萎縮し、思わず道を譲る。
 その後、なんとか意識を取り戻したかのように銃で狙おうとするも、佐山の後を追うように続く風見によって撃墜される。


「ちょっ、佐山! こら、先走り過ぎ…って聞こえてないわよね、絶対っ!!」


 あぁもうっ、と風見は速度を上げる。佐山があの状態になったのは――自分の「偽物」が新庄を守っているという事実。
 断じて許しておけん、おのれ偽物、肖像権の侵害で訴えてやる、だの何だの呟いたかと思えば、現在のあの状況だ。
 にしても早い。風見は背にある概念武装「X-Wi」を用いて加速する。光を吸収し、力と変える風見の武装。それを使っても追いかけているというのはどういう事なんだ、と。
 概念だとか、いろいろな事象を自ら覆している馬鹿な後輩に呆れ返る。ふと、脳裏に今日のテレビ、録画予約してないや、と。
 だがこの状況ではメールは送れないだろう。諦めるか、と溜息。


「…いや、諦めたら、そこで終わりだよね」


 だったら終わらせよう。テレビが始まるその前に。くすっ、と小さく笑みを浮かべて風見は飛ぶ。そのスピードを上げて佐山の元へと追いつく。
 佐山はただ真っ直ぐに前を見据えて走っている。そこにしか目的がないと言わんばかりに。良い事じゃない、と風見は頬をつり上げる。
 私たちは確かに軍の、ハジの言う通り何も知らない無知な馬鹿なのかもしれない。だから間違えて、その悔しさを知る。時にはそれに押しつぶされそうにもなる。
 だけど、それでも私たちはそれを背負っていかなければ生きていけない。だから強くなる。強くなっていく。
 時に一人で、時には仲間と共に。頼る事の大切さを、頼られる事の尊さを身を改めて知っている私たちだからこそ。


「佐山」
「――何かね。今は言葉を吐く為の呼吸も惜しい」
「勝てるわよね?」
「何を当たり前の事を」


 くだらん、と佐山は告げる。あぁ、らしいな、と思いながら風見は佐山と駆けていく。


「風見」
「何よ、言葉を吐く呼吸も惜しいんじゃなかったの?」
「――ここを、頼む」


 佐山の見据える眼前、そこに一人の老婆が立つ。真っ白な戦闘用コートを纏った女性だ。
 その横を佐山が駆け抜けていき、風見が足を止め、G-Sp2を構えて牽制する。女性は佐山に見向きもせず、風見へと視線を向ける。


「ほぅ…。出雲の眷属を待っていたんだけど、面白いのが来たね。聞いてるさね? あたし達のGの概念核を封じたG-Sp2を持つ女の子の話をね。
 あたしゃ10th-Gのヨルス。期待外れのヨルス。そして出雲・覚の祖母さね。――相手をしてもらうさね? あたし達の世界そのものを持っているからには、覚悟を確かめないといけないからね」


 ヨルスと名乗った女性に対し、風見はへぇ、と呟きを漏らし、眉を立てた。改めてG-Sp2を構え直し、風見は不適に笑う。


「そうなの。でもごめんなさい。覚は10th-Gのことをあまり話さないのよ。だから残念だけど、――アンタなんか知らないし、今は馬鹿な後輩達に認められてすっごく恥ずかしくて照れ隠しに暴れたいの。…手加減無しだからそっちも覚悟を決めて」
「ほほ、いいねぇ、いいさねその言葉。久しぶりにいい子だ、いい子さねアンタは。…泣かし甲斐があるってもんさ」


 ヨルスが両袖の口から、機関銃を滑らせ、それを手に握る。グリップを握るのと同時に風見が駆ける。射撃と突撃。
 まったくの同時のタイミングで音は鳴り、二人の戦いは幕開けた。





    ●





 地上の戦いも終わりの気配を見せない。更に激化の一路を辿っている。だが、確かに来るだろう終わりへと向けて戦場は動いている。


『マスター! 術式構築完了ですっ!!』
「ありがとう、レイジングハートッ!!」


 デバイスモードに戻り、首にかけていたレイジングハートの声になのはは素直に感謝と賞賛の意を込めて礼を告げる。レイジングハートが煌めきを帯び、魔法の発動を宣言する。


『Divine saber』


 不破・雪花にまとわりつくように展開される桜色の魔力。それは次第に硬質化していき、1つの形を取る。小太刀を包むようにして出来たのは二本の長剣。
 ディバインセイバー。レイジングハートが現在のなのはのスタイルを考慮して作り上げた、今、最もなのはの力を発揮出来る魔法。
 なのははそれを強く握りしめ、プライヤーフィンで加速し、黒の軍勢へと向かっていく。
 魔力刃を纏った不破・雪花が唸りを上げる。なのはは一切の破、つまり死を許容しない。
 その意志を希望と変えて、雪花がその出力を向上させていく。動きは精細を欠かず、洗練されていく。
 世界の色が落ちていく。モノクロに近づく世界。色が抜けていくにつれ、敵の動きがスローに変わっていく。その感覚になのはは戸惑う。
 だが、それも一瞬の事。プライヤーフィンによって加速し、距離を詰め、的確に敵の防御を擦り抜けて刃を振るっていく。


「おぉ…っ!!」


 そこに迫るのは命刻の刃だ。なのははディバインセイバーでそれを受け止め、命刻との視線を交わす。
 命刻の刀はディバインセイバーによってじりじりと刀身を疲弊させられていく。それに命刻は顔を歪めて舌打ちを1つ。
 命刻が下がる。同時になのはのディバインセイバーが命刻を裂く。かなり深く斬った感触を感じるが、なのはは驚愕する。
 命刻の動きは止まらない。まるで何事も無かったかのように刀を振るう彼女に、なのははすぐに気を取り戻して命刻と相対する。


「それが、貴方の力っ!?」
「そうだっ!! 私に託された…不砕の力だっ!!」


 攻撃が利かない。つまりはそういう系統の概念だとなのはは判断する。ならばいくら武器の相性が良くとも、命刻を戦闘不能に陥らせるのは難しいか、となのはは判断する。
 ならば、となのはは命刻の鍔迫り合いを行う。命刻へと真っ直ぐに向かって行き、命刻の刀とディバインセイバーを噛み合わせる。
 だが命刻は刃をすぐに離して、自らの身体で受け止める。なのはによって斬られた部分がすぐさま再生を開始するが、それが彼女の致命的な隙。
 なのははすぐさまレイジングハートに指示を送る。胸元にかけられたレイジングハートがなのはの意志に応え、命刻の身体の桃色の光が纏わりつく。


『Chain Bind』


 桃色の光は鎖となりて命刻の身体を縛り上げる。突如、自らの動きが拘束された命刻は動揺し、眼を見開く。


「なっ…!? なんだ、これはっ!?」
「動き回られたら厄介だから…貴方はここで封じさせて貰います」


 かといって、なのはのリンカーコアはまだ快調な訳ではない。むしろ不調だ。術式の構成が甘い。あまり押さえつけられてる時間は無いか、となのはは歯噛みする。
 だが命刻の足を止めている数分。その数分があれば軍の勢力を削る事が出来る。
 そう思い、なのはは戦場へと戻ろうと歩を踏み出しかけた時だ。森。UCATの周囲に広がる森の方向からその声は来た。


「命刻義姉さん!」


 田宮詩乃。その声はなのはにも届いた意志疎通の概念で声を届けていた張本人。彼女は捕らわれた命刻を見て、その声に悲痛の感情を乗せる。
 なのはは沸き上がる感情を噛み締める。あぁ、私は大事なものを踏みにじっている。彼女の大事なものを踏みにじっていると。
 彼女たちの思いも、願いも、全て踏みにじる。そうして自分の守りたいものを守ろうとしている自分は酷く愚かしく、醜いのだろう。
 思いが届かない苦しみを知っているというのに。願いが叶わない悔しさを知っているというのに。
 だが、それでもなのはは止まれない。止まらない。止まるつもりもない。ただ感情は軋みを与えるも、動きを止める事はない。
 壊れそうな軋みを抱えても、それでも守りたいものがある。そして軍は少なくとも今は敵だ。そして詩乃の持つ概念は正直厄介だ。
 それは迷いを与え、迷いは刃を鈍らせる。だからこそ、今は、少なくとも今は――。


「っ! 詩乃っ!! 逃げろぉっ!!」


 命刻がなのはの意識が詩乃に向いた事に気付いたのだろう。命刻もまた、悲痛な叫びで詩乃に訴える。軋みが酷くなる。
 感情がなのは自身の心がなのはの身体を引きちぎりそうな程の軋みをもって訴える。お前は正しくない。間違っていると。
 命を守る? ハジの言った通り、Low-Gの人間がそんな事を言う資格はないのかもしれない。元々滅ぼした筈の世界の人間がそんな事を言う資格はないのかもしれない。
 ――だけど、それでも命は大事なものだから。それだけは絶対に譲れない。軋んで、苦しんで、絶望するだけの人生でも、可能性がゼロじゃなかったら手は伸ばしたい。
 勿論、全ての人間が救える訳じゃない。なのはが守りたいのはほんの一部の人間だ。だけど、だからといって全てを投げ出せる程、なのはは非情にもなれない。
 だからなのはは踏みにじる。思いを押しつけ、生きろと丸めた背中を叩いて起き上がらせる。
 幸せには出来ない。だけど…死という終わりしか本当に救いがないのだとしても。命を捨てて欲しくはない。あぁ、それがたとえ自分の我が儘だったしても。
 一歩、なのはは踏み出す。そして速度を乗せる。詩乃が息を呑み、命刻の瞳に殺意が灯る。身体が軋む。命刻の殺気を受けて、後悔や恐怖が軋ませていく。
 身を内側から食い破ろうとするような錯覚。だが、それを噛み締めてなのはは更に一歩、踏み出す。


「あぁ…っ!!」


 吼える。意識を奪い、倒す。刃に込めるのは抗いを。そう、抗う為にこの刃を振るう。死をもたらすこの戦場に少しの命でも残るように。
 死を強要する者達に生きたいと、生きろと意志を叩き付ける為に。ただ、己の我を通す為に。


「詩乃ぉぉおおぉっ!!」
「っ…ぁっ!?」


 叫びと、竦む顔と。軋みが酷くなる。だが、それを押し殺して駆けようとし――チェーンバインドを砕いてこちらに疾走してきた命刻への対応が遅れた。


「しまっ…!?」
「詩乃に、触れるなぁぁあっ!!」
『Protection』


 なのはに一瞬の隙。だが、レイジングハートがそれをカバーし、障壁を張る。が、その障壁の力は弱い。
 リンカーコアがブレるような感覚になのはは顔を顰めた。点滅するかのようにプロテクションの光が弱まっていく。


(ま、ずっ…こんな、時に…っ!!)


 魔力切れとは違う。リンカーコアの疲弊状態。魔力が上手く発散されず、吸収も出来ない。いわば呼吸不全のようなものだ。
 ディバインセイバーの刃が消え、プロテクションもかき消える。なのはの胸に掻き毟るような痛みが走り、命刻の刀を止めるので精一杯になる。


「詩乃っ、早く逃げろっ!!」


 だが、命刻の意識はなのはには向いていない。ただ詩乃へと向かっている。ただ一心に詩乃を守る為に命刻は叫ぶ。
 だが、それに対して詩乃は命刻の言葉に従うのではなく、逆に彼女に反抗するかのように叫んだ。


「どうしてっ!? どうして命刻義姉さんは私を遠ざけようとするのっ!?」


 詩乃の叫びは、咄嗟の感情の爆発だったのだろう。なのはと相対していた命刻の表情が苦しげに歪むのをなのはは見た。
 二人の間にどのような関係があるのか、なのはは知らない。だが、ここは戦場。――それは致命的な隙。


「レイジング…ハートォッ!!」
『Jacket purge』


 レイジングハートの保管魔力によって形成されたバリアジャケットの切り離し、炸裂させる。
 それによって命刻の身体が吹き飛び、詩乃の視界を封じる。その一瞬があれば良い。なのはは再び世界がスローになる感覚を身に投じる。一歩、二歩、踏みだし――。


「――ぁっ!?」
「ごめんなさい。私は――貴方達を押しのけてでも守りたいものがあるんだ」


 ドンッ、と。詩乃の身体に衝撃が走る。なのはが魔力による強化を含めた全力。それを込めて放った拳が詩乃の鳩尾に叩き込まれる。
 なのはのジャケットパージによって吹き飛ばされた命刻はその光景を眼にし、喉を絞り上げるように声を上げた。


「詩乃ぉぉおおおっっ!?!?」
「ぁ…っ……」


 かくん、と。詩乃の身体が崩れ落ち、なのはがそれを抱える形となる。そこに迫るのは憤怒と憎悪に感情を燃やす命刻。
 なのははすぐさま動こうとするも、詩乃の身体が重くのしかかってすぐには動けない。マズイ、となのはは思う。だが動けない。
 ――そこに一発の銃弾が叩き込まれる。命刻の足が止まり、なのはの前に一人の女性が舞い降りる。
 薄紫色の髪を揺らし、金色の無感情に近い瞳。白の装甲服を纏った彼女になのはは目を見開く。


「ウ、ウーノさん!?」
「Tes.ご無事で何よりだと言わせていただきます。彼女は…クワットロ」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃーんっ!!」


 命刻を牽制するように拳銃を向けるのは、なのはをこの地まで送り届けてくれたウーノであった。
 彼女はいつの間にか装甲服を身に纏い、この戦場へとやってきていた。ウーノはなのはが抱える詩乃へと視線を向け、クワットロと名を呼ぶ。
 そうすれば陽気な様子で、どこからともなく装甲服を纏ったクワットロがポーズ付きで現れる。ピースサインを片目に当てるようにしながら現れた。
 そんなクワットロに対し、ウーノはただひたすらに冷静な仕草で顎を向けて、詩乃を示すようにして見せて。


「運んでやりなさい。――今宵の戦場は命を大事に。ならば、我らドクターの配下の名の下に親切な治療をしてさしあげましょう。それが今宵の遣り方なのですから」
「えぇ。お任せください。それでは急患一名、ご案内~」
「貴様等、詩乃を離せぇぇえええええええええええっっ!!」


 命刻が激高しながら迫る。それに対してウーノが両手の拳銃を乱射し、牽制する。しかし再生の概念を持つ命刻は止まらない。
 そのまま一気にウーノへと迫るが、その間になのはが割って入り、命刻の刃を受け止める。一撃、二撃、命刻の捨て身の攻撃になのはは確実な防御を重ねて防いでいく。
 その間にも再びクワットロの姿が詩乃と共に消えていき、命刻が眼を見開き、その感情の矛先はなのはとウーノへと向けられる。


「ウーノさんっ!! ここは私に任せて他の人達を!!」
「Tes.よろしいので?」
「私は大丈夫です! 助けを必要としている人達の下へ!! 私は大丈夫ですっ!!」


 命刻との鍔迫り合いをしながらなのははウーノへと叫ぶ。それにウーノはもう一度頷き、拳銃を構える。目標は――なのは。
 ごり、となのはの背骨辺りに拳銃を向ける。なのはが疑問に思ったのは一瞬。ウーノは引き金を引き、なのはの身体に弾丸が放たれる。
 命刻が突然の奇行に一瞬呆然とする。なのはも眼を見開く。互いに何が起きたのかわからないまま、一瞬時が止まる。


「きゃぁあああぁぁ…? …あ、あれ? 身体が…」


 驚きに悲鳴を上げるなのはであったが、すぐにその表情は疑問に変わる。なのはが感じたのは痛みではない。むしろ、力が漲ってくる。
 一体これは何なのだろうか? と疑問に思う。その疑問に即座に答えたのは、弾丸を放ったウーノ自身だ。命刻へと弾丸を無造作に放ちながら彼女は告げる。


「Tes.1st-Gの概念を用いた私の特製弾です。「元気注入!!」と刻み込んだ回復弾はいかがでしょうか?」
「心臓に悪っ!? 死ぬかと思ったんですけど!!」
「Tes.――あなた様は殺しても死ななそうですが」
「ど、どど、どういう意味ですか!?」
「Tes.失礼、つい本音が。忘れてください」


 こ、この人…!? となのはは思わず怒鳴りそうになるが、命刻が迫り、その叫びは飲み込む。鈍い金属音が鳴り、なのはは歯を食いしばってそれを押しとどめる。


「それでは高町なのは様。良い戦場を」
「あ、後で覚えていてくださいねっ!!」
「Tes.お礼の品は期待しています」


 最後の最後まで飄々とした様子でウーノは去っていく。その姿に何とも言えないような苛立ちを覚えるが、逆にそれで肩の力が抜けた。
 あぁもうっ、と口の中で呟きを入れながらなのはは命刻を見据え、彼女との剣舞を続けるのであった。





    ●





 UCAT地下6階。概念核が収められているパレットがある鉄扉の前。そこで殴り合いを続けるのはハジ、そして「佐山御言」に扮したドゥーエ。
 ドゥーエは不敵な笑みを浮かべながらハジとの戦闘を繰り広げており、ハジは忌々しげに槍を振るう。


「ほほぉ、さすが大将軍と名乗るだけはある」
「ぬかせ! 偽物がっ!!」
「偽物でも本物を越えてしまうかもしれないね――どう思う? 新庄君」
「え? あ、えと……ボクは本物が良いかなぁ?」
「――絶望した!! だがそこで終わらないのが私だ、ふふふ、底辺から這い上がって君の心を虜にしてみせよう。障害があるからこそ燃えるものではないかね?」
「うわぁ…偽物なんだけど佐山君にしか見えない言動に頭痛がしてきた…」


 ハジの振るわれる槍をドゥーエは危なげ交わしていく。白髪交じりのオールバックの髪がその形をやや崩し、ハジの振るう槍によって何本かの毛が宙に舞う。
 纏う装甲服にも大少なりの傷がついており、激戦の様子を表している。ふっ、とドゥーエが呼吸を吐き出し、ハジの腹に右拳を叩き付ける。
 ハジの表情が歪むも、ハジも槍を振るってドゥーエをはじき飛ばそうとする。ドゥーエはそれを装甲の厚い部分で受け止め、吹き飛びながらも体勢を保つ。


「さて、どう思う? ハジ君」
「何!?」
「偽物でも足止めには十分のようだ。残念だね。そして私の本物に負ける。預言しよう、例え私に勝てたとしても――貴様は「佐山御言」に敗北しよう」
「巫山戯るなぁっ!!」
「巫山戯てなどいないさ。――新庄君との約束を「本物」が果たさぬ訳がない。ここに来て、交渉を果たすさ。それは決定事項だっ!!」


 ドゥーエがハジの頭部を狙ったハイキックを放つ。が、それは片腕で押しとどめられてしまう。衝撃はあったが、ハジの体がやや傾くだけに終わる。
 くぬっ、とドゥーエが顔を歪めたその瞬間、ドゥーエのガードよりも早く叩き付けられる槍。そのままドゥーエは槍に投げ飛ばされ、壁へと叩き付けられる。
 短い吐息と共に血が吐き出される。そのままドゥーエの姿が佐山御言のものから本来の女性の姿へと変わる。ドゥーエは血を拭いながらも苦笑を浮かべて。


「あ、あらら…やっぱり本物に敵いませんか」
「ふん。偽物が本物を凌駕する事など出来る訳がない」
「――いいえ、出来ますわ。本物にも、偽物にも等しく与えられるもの。それが本物も、偽物も関係なく、誰にも勝利をもたらします」


 壁に手を付き、吐き出された吐血を拭いながらドゥーエはハジに不敵に笑って見せる。ハジが怪しげな視線を向ける中、ドゥーエは告げる。


「何かを為すための…意志! それこそが本物も偽物も、その全てを垣根を越えて万人に勝利をもたらすでしょう!」


 何を、とハジが叫ぼうとした瞬間だった。その影は来た。影は一瞬にしてハジの懐に入り込み――。


「――粗悪な偽物が失礼した。これはほんの少しばかりの…「本物」からの謝礼だっ!!!!」


 叩き込まれる。腹に力を込めて堪えるも、その衝撃は並ではない。ハジがその勢いに蹈鞴を踏んで後ろへと下がる。
 そこに立つ影にハジは敵意を以て睨み付ける。スーツを身に纏い、ネクタイを緩めているその姿を。


「あ…!」


 新庄が歓喜の声を漏らす。そこに立つ姿は…彼女が待ち望んでいた姿だったのだから。


「…9年…」
「…ぅん…」


 9年。佐山が呟くその言葉に新庄は声を震わせて頷く。
 1つの昔話。それは一人の少年のお話。
 かつて彼は母に手を連れられて「大事な人に会いに行こう」と手を引かれていた。だがしかし、母の死によってその人と会う事は叶わなかった。
 1つの昔話。それは一人の少女のお話。
 かつて彼女は大事な人が迎えに来てくれると言われ、それでもずっとその迎えは来なくて涙に枕を濡らした日々。そして今尚、敵わなかったその迎え。
 今、2つの物語は交錯する――。


「……君の、名前は?」
「……新庄。…新庄・運切」
「そうかね。――では新庄君」


 佐山は告げる。それは笑みと共に。


「君の望む佐山御言が迎えに来たよ」


 …あぁ、それは―――。


「うん……うん…!!」


 ずっと待っていた迎えであったのだから。止まらぬ涙を拭いながら新庄は何度も頷いて。
 そして、佐山は視線を向けた。そこにはハジが立っていた。佐山は構えを取り、ハジと睨み合う。


「来たか、愚かなる交渉役。…自分に酔って底辺へと落ちていくがいい。うん」
「はは…、言われずとも落ちていくとも。しかし人間、下を見ればきりがない。だからこう言っておこう。――君はこれから愚か者に負け、超愚か者となるのだと」


 廻る。廻っている。終わりへ至る為の歯車が、熱く、激しく、火花を散らしながら廻り行く…。
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