次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 15
2010/03/17 Wedリリカル・クロニクル
 なのはと命刻は刀を合わせる。互いの身を切り裂かんが為に振るう。刀と小太刀が交錯し、なのはと命刻の視線が絡み合う。互いの瞳に浮かべるのは打倒の意志。呼気が勢いよく吐き出され、甲高い金属音が奏でられる。
 命刻の心にあるのは苛立ち。今、ここで足止めされているという事。自分たちの悲願を叶える為の力になれない事。そして、相対する少女の幼さ。まだ10を数えて間もない年齢だろう。されどこの戦場に立つ。己の前に立っている。それが命刻にとっては苛立たしい。


「何も知らない子供がっ!!」
「何も知らなければ、ここには居ないっ!!」
「何も知らないからそこに居るのさ!! そして後悔する!! 世界の真相を知って!! お前達が信じてきたものが崩れるその瞬間に!!」
「さっきからっ!!」


 なのはが命刻の刀に小太刀を重ねる。ギギッ、と刃と刃が噛み合う音を奏でながらなのはは命刻に食らい付く。命刻が踏み止まり、なのはが押し切ろうとする。なのはの振るう雪花に埋め込まれた賢石が光を帯びる。
 雪花が写し取るのは希望。なのはの願いを汲み取り、雪花はその出力を上げていく。命刻が歯を噛み締め、僅かな呼気と共に声を上げて拮抗させる。なのはは命刻を睨み付けながら吼えた。


「後悔しろと、何も知らないと、上から目線で! 人を見下してっ!! そんなんじゃ伝えたい事も…伝わってこないよっ!!」
「何をっ!!」
「願いがあるんでしょう!? その願いを、歪めているのは、叶えさせようとしていないのは貴方自身じゃないのっ!? 他人に願って、他人に頼って、自分で納得させようともしていないっ!! そんな人の言葉が届く訳がないっ!!」
「っ!?」


 命刻の刃が一瞬ブレる。その隙をなのはは見逃さない。足に桃色の翼が羽ばたきを帯びる。命刻の刃を二本の小太刀で押さえつけるように地に下ろさせる。そして足を上げ、レイジングハートに意志を送る。
 プライヤーフィンは本来、飛翔用の魔法だ。だが、このように使う事も出来る、となのははプライヤーフィンで蹴りを加速させた。無理な体勢から放つ蹴りで本来ならば威力は出ない。だがプライヤーフィンの加速によって命刻の顔面になのはの蹴りが炸裂する。


「がっ!?」
「貴方達が何も知らないと私たちに言うなら、そしてそれを知るべきだ、と思っているなら、こんな方法じゃなくて、もっと別の方法があったんじゃないのっ!? 人にされて嫌な事は人にしちゃいけないんだよっ!!」
「っ! ならば問おうっ!! ある日突然、理不尽に全てを奪われた!! その奪った相手にお前は何を思うっ!! 憎いだろう!! 全てを奪ったんだ!! そう、全てを!! そんな相手に、優しく声をかける事は出来るか!? 出来ないだろう!? なら、それが答えだっ!!」


 命刻は体勢を立て直し、自らも拳を振るってなのはを殴りつける。命刻の拳を受けてなのはが後ろへと下がる。口の端を切ったのか、血がなのはの口から零れていく。なのはは口に入った血をペッ、と唾液と共に吐き出しながら命刻を睨む。
 そしてなのはが何かを告げようとした瞬間だった。男の声が戦場に響き渡る。その声は「軍」の長、そして9th-Gの元大将軍と名乗る。命刻がなのはを睨みながら告げる。


「知れ…! お前達が私たちに与えた痛みを! 10年前に忘れた私達の痛みを!!」





    ●





 ハジの言葉の始まりは、世界の答え合わせをしよう、という台詞から始まった。
 そしてハジは語った。この世界の「真実」を。それを前提として話を始めよう、と。
 ハジが皆に示したのは世界創造のシミュレートだった。なのはも一度見たことがある。あれは確か、全竜交渉部隊が解散する前、鹿島という技術課の人に説明されたものと全く同じものだ。
 概念は元々混沌の状態にあり、今の状態を維持してはいなかった。全ての概念の母体とも言える母因子。その中に納められていた10の概念。それが1stから10thのGを産む要因になった、と。
 母因子である母体概念が飽和爆発し、10の概念核はそのまま離れていこうとした。しかしそれを引き留めるものがあった。それが10のG が外に飛び出した際に発生した反発力を持って生まれたLow-Gなのだと。これが今の概念創造の主論だ、と。
 だがこれにはまだ謎があるのだ。プラスの概念が世界を作るのはまだ良い。だが、何故マイナスの世界、つまり今のLow-Gが出来たのか? それは闇の中であった。
 しかし…今、ハジによって世界の真実が明らかにされた。なのはは、それをただ黙って聞いていた。
 Top-G。母体概念が崩壊した際、その全てのカケラを集め、進化させ新たな姿を得た、全てのGの特性を秘めた最高のG。それがTop-Gなのだ、と。そしてそれに応じるかのようにマイナスの力が発生する。それはTop-Gと隣り合うように発生する世界、それこそ――Low-G。
 つまり…Top-Gが生まれ、その反発力として、それに相反するものとして、全てを間逆にして移した世界こそが……この、Low-Gなのだと。そしてLow-Gが発生した事により、概念戦争の発端となった世界の崩壊時刻が生まれ、概念戦争が始まった。

 ハジは更に告げる。自分たち、「軍」の正体を。それは…Top-Gにおいての「UCAT」。つまり、真のUCATだと言う。そして…Top-GはLow-Gによって破壊された、と。
 10年前に起きた関東大震災がその影響なのだと彼は告げる。その戦闘の際にTop-Gは破壊された。
 故に彼は告げるのだ。眼前に立つ佐山御言の本物――戸田命刻や、テュポーンを駆り、飛場竜司と相対する彼の本物――長田竜美。サンダーフェロウと相対しているヒオ・サンダーソンの本物――アレックス。そして…田宮詩乃。彼らこそがこの世界を継ぐべきだと。導いていくべきだと。

 そして大阪での、関東大震災の原因となった戦いの発端が語られる。
 元々、Top-GとLow-Gは条約を交わしていたのだ。世界崩壊時刻まで決着を待つ、と。その契約を結んだものこそ、佐山の祖父である佐山薫その人であった事。
 Low-Gが未熟であった時代、Top-Gの人間がマイナス概念の漏出を恐れて、それを破壊出来る為の保険である格納私設としての「バベル」を作り上げた。そして長い間、忘れられた「バベル」尊秋田学院の広大な書庫を作り上げた衣笠天恭によって発見された。そして…全てが始まった。
 そしていつかなのはが聞いた始まりへと、概念戦争へと至るのだとなのはは理解した。

 そしてまだ真実の暴露は終わらない。
 Top-Gは決戦後、Low-Gを併合させる為にマイナス概念をある人物に作らせようとした、と。だが、その人物によって未完成のマイナス概念が暴走させられた。そしてそれが関東大震災へと至った。
 そしてその人物こそ――新庄由起緒。そして新庄は彼女と、Top-Gにいる本物、新庄由起雄と結ばれ、その際に生まれた子供が…新庄運切。。故に新庄は男性と女性の身体を持つのだと言う。時間によって入れ替わるその肉体を。
 そして新庄の母親である由起緒はTop-Gに亡命した。Top-GにLow-Gの併合の為の場所を与えようとしていたのだ、と。だが、Top-Gはその未完成のマイナス概念によって消滅した。そして活性化したマイナス概念を押さえ込む為にプラス概念を解放しようとしている。
 だが、それでは駄目だとハジは言う。そうすれば全てのマイナス概念もまた共鳴反発するのだ、と。そしてTop-GのようにLow-Gもまた消滅するだろう、とも。軍は逆にプラス概念を全て消す事によって対応するマイナス概念を対消滅させようとしている、と。


『どうたLow-G! 貴様等の罪が解ったか? 貴様等は母たるTop-Gの偽物であるばかりか他のGを滅ぼし、更には母たる、自分たちの”本物”であるTop-Gを滅ぼし、その上――、自分たちの世界に大震災を起こした!!』


 ハジの叫びが響き渡る。感情に声を震わせ、訴えかけるように彼は告げる。


『全G居留地の者よ、今間でLow-Gが隠していた真実が聞こえるか? 貴様等が自分のGの概念を預けるべきGは他にあったのだ! そのGでは全Gの人々がマイナスの苦痛なく住める筈だった。しかし偽物共は自分達の命欲しさに自ら決めた条約を破り、もう一人の自分達を滅ぼし、なおかつ自分達のGに被害を与えながら……――それを隠した!!
 全竜交渉とは何だ!? 自分たちの本当の罪を隠したまま、全Gと交渉して事後承諾を得る交渉ではないのか!? マイナス概念の活性化も何もかも、十年前にTop-Gが滅びてバランスが崩れたからに過ぎない! それをLow-Gは明かすことなく、自分達を概念戦争の勝者として交渉しているのだ! 無知な馬鹿共を交渉役にしてな!!』


 ハジの叫びに黒の軍勢達が答える。Low-Gの罪を責め、滅ぼし、そして残されたTop-Gの子達に全てを託せ、と。
 解ってください、と軍の一員であり、Top-Gの遺児が一人、田宮詩乃は願う。彼女の持つ意思疎通の賢石が光を放つ。
 黒の軍勢が走る。あの世界は素晴らしかった、芳醇だった、そして信じていた。あの世界が全てを統べ、概念など気にせず平和に暮らす事が出来ると信じていたんだ、と。
 だから、滅びろ。滅びてくれ、と彼らは叫ぶ。戦場が一気に黒が盛り返した。黒が進撃する。黒は進む。滅びをもたらす為に。
 なのはは…俯いていた。その俯くなのはに命刻は眉を寄せ、刀を下げながら見据える。


「…わかっただろう? 理不尽に全てが奪われ、壊れていくその痛みを…!」


 訴えかけるように命刻はなのはに言う。なのはは俯いたまま、何も言わない。
 そして……――。




「――ふざけないでくださいっっっ!!!!」





 その叫びが戦場を支配した。白の軍勢も、黒の軍勢も、誰もが彼女に眼を奪われた。眼前に居た命刻もまた、驚きに眼を見開く。息を荒らげながら彼女は命刻を睨む。


「認めるよ。それは罪だ。絶対、謝って、償って、そしてちゃんと罰を受けなきゃいけないものだって! でも、それでも巫山戯ないで!! こんな伝え方で、こんな遣り方でっ! 貴方は満足ですか!?」
「なっ…」
「私は知らない。60年前、そして10年前、その人達がどんな思いを持って戦争をしていたのかなんてわからない! どんな思いを持って戦争をしていたのかなんて解る事はない!! だけど、わかる為の全竜交渉があった!! その為の全竜交渉部隊があった!! そして…あなたたち、軍が居た!! 私は…その全てを悪いとは思わない!!」
「…どういう意味だっ!? 滅びを、滅ぼされる事を肯定するのか!?」
「うるさい、本物!! 偽物、最低、劣化物と私たちを見下し、上から目線で押しつけられて誰が、はいそうですか、なんて従える!? あぁ、確かに私たちは何も知らない。自分達が偽物だと言う事も、因縁も、罪も、何もかも知らなかった!! だから知る為に抗ってきた!! そして…これからも抗っていくよ!! 私は世界を救ってくれるならUCATだろうが軍だろうが、どっちだって良い!! だけど…軍…貴方は、私を怒らせたっ!!!!」


 響く、その声は高らかに響く。戦場に、そして遠く彼方の、そう、UCAT本部にまで。
仕掛け人は…ジェイルだ。彼は賢石を発動させる。この為に事前に用意していた賢石。込められた概念は、声は通ずる、と。届け、とジェイルは笑う。彼女の声を届けろよ、と。


「生まれた事を後悔しろと言うのなら、巫山戯るなと私は叩き返すよ。そうじゃなきゃ私たちは罪の重さに潰されてしまう。それが自然で、正しくて、そうするべきなのだとしても認めて良い物じゃない!! 滅ぶべき!? なら滅ぼして良いよ、それでも私は抗って見せるよ!! それでも私には――守りたい世界があるんだ!!」


 叫ぶ、なのはは叫ぶ。脳裏に多くの人達を移しながら。


「私には私の帰りを待ってくれている家族がいる!! 私が愛してるのは、この世界なんだ!! その世界を否定するのなら、私だって否定してするよ!! 偽物? 本物? だからどうだって言うのさっ!! 生きたいという意志に偽物も本物も無いよっ!!」
『…吼えてくれるね。君は…何者かね?』


 通信からハジの声が聞こえる。なのははハッ、と鼻で笑ってハジに返答を返す。


「高町なのはだよ、ハジさん。第一印象で私に大嫌いって言われる人は初めてだよ?」
『それは結構。…しかし、君がそう言うなら私もこう返そう。その全てを奪ったのは君たちLow-Gなのだよっ!! 私たちだけじゃない、他の全Gの者たちだってそうだ。君たちに! 世界を奪われたのだ! 君のように愛おしく思う世界を!! なら私たちにも復讐を行う正当な権利があるだろう? そしてそのように略奪を繰り返し、真実に蓋をしたLow-Gに世界を任せる事など出来るものかっ!!』
「なら、壊せば良いよ」
『…何?』
「まだるっこしいなぁ、全部壊せば良いじゃない! 憎いんでしょう!? …聞こえる!? 聞こえてるよね!! なら私は言うよっ!! 私は…Low-Gの罪を肯定する!! Low-Gがあって良かったって!! 今、私は生きてて良かったって言うよっ!! 滅ぼしてごめんなさい、だけどそれでも私は生きたかった!! 謝るけど、私はそれ以上の事は出来ない!! だから……私は、高町なのはは言うよっ!! Low-Gに住まう者として…私はLow-Gの存在を肯定し、その世界の復讐の権利を正当に認めるよ!!」


 一瞬にして戦場がざわめいた。黒も白も、誰もが困惑の色を見せた。ハジでさえ、驚きに眼を見開かせている。


「その上で告げるよ!! それでも、私はこの世界を守る!! この世界を滅ぼさせやしないっ!! その復讐はやらせない、と!!」
『何を、何を君は言っているのかね? 子供の戯れ言はそこまでにしていただこうか?』
「わからない? なら言うよ。憎しみも、悲しみも、全部私が受け止めるよ!! そして、その上でその憎しみも、悲しみも撃ち抜いてやるっ!! 私はLow-Gの為に戦うよ。他のGの人達の思いを踏みにじってでもこの世界を守る!! だから復讐すれば良い…!! その上で全てを私は叩き潰すよっ!!!!」


 なのはの叫びに真っ先に動いた者がいた。――命刻だ。明らかな怒りを顕わにして彼女は刀を振るう。なのはの小太刀が命刻の刀t噛み合う。


「――巫山戯るな」


 なのはは命刻との剣舞を続ける。そして、命刻は吼える。


「巫山戯るなぁぁあっっ!! 何だ、何だその理不尽は!! 結局、お前は無かった事にするというのか!! そうしてまで、そうしてまでこの世界が大事かっ!! 私たちが失ったものだっ!! あぁ、大事だろうさ!! だから踏みにじるというのか!! 私の、私たちの思いをっっ!!」
「そうだよ。憎い? だったら、殺してみなよっ!! 私はLow-Gの命も、未来も全部背負ってやるっ!! そして守るんだ!! ごめんね、世界を滅ぼして!! それでも私は生きるからっ!! 全部踏み台にして、それでも生き抜いて行くからっ!! だから、だから来なよっ!! 復讐する相手がいるよ? 貴方達の涙を私は笑って踏みにじるよ。私たちの為に滅びてくれて、ありがとうってねぇっ!!!!」
「――貴様ァァァアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」


 命刻の刀に激情が乗る。なのはに向けて熾烈な剣撃が放たれる。なのははそれを危なげに切り払っていく。命刻の叫びに同調するように黒の軍勢が声を上げた。誰もが怒りを顕わにしていた。誰もが涙を流していた。誰もが憎しみに染まっていた。


「子供だからって許されないぞ…!」
「踏みにじるだって? 俺たちの思いをなんだと思ってやがる…!!」


 黒の軍勢から声が上がる。だが、それに答えるなのはは嗤う。見下すような冷笑だ。鼻で笑うかのようになのはは黒の軍勢を見回す。


「滅ぼされる方が悪いんだよ? 負けたら全部失っちゃう。当たり前の事でしょう?」


 誰もが沈黙した。誰もが絶句した。そして…黒が爆発するかのように声を挙げた。巫山戯るな、あぁ、巫山戯るなと。その開き直りの理論に誰もが激昂した。
 黒が走り出す。黒が駆け出す。ただ一人、ただ一人の少女にその全ての怨みと憎しみ、憤りを与えようとする。なのははそれをただ静かに見つめる。レイジングハート、と呼びかける。それに答えるようにレイジングハートも光を放つ。


「行こう。―――私を徹しに。ここが、私の戦場だよ」





    ●





 なのはの叫びに動いたのは黒の軍勢。そして、白は動けない。疑問と困惑が彼等の力を奪う。本当に自分たちが為している事は正しいのか? どうしてあの少女はそこまでこの罪だらけの世界を愛していけるのか? どうしてあのように全てを受け止めるだなんて言えるのだろうか?
 そんな中で、深い地下の中に小さな声が生まれた。それは本当に小さな声。だがそれでいて願うような声で。請うかのような声で。


「止めて…! 誰か止めて…!! 違うっ、違うんだよっ!! なのはちゃんは本当はそんな事を言う子じゃないんだよっ!!」


 新庄だ。彼女は体を震わせながら、涙と共に声を上げる。


「本当は凄く優しい子なんだよっ! 誰かの為に泣いて、誰かの為に本気で怒れる子なんだ!! だから本当はそんな酷い事は言わない!!」


 新庄は叫ぶ。高町なのはと触れ合った時間は短い。されど、その中で彼女がどんな人間なのか知っている。彼女は誰かの為に自分を押し殺せる人間だ。そして、今もまた自分を押し殺している。本当はきっと泣きたいと思っているに違いない。
 だけど、泣いて謝ったって許されるものじゃない。差し出せるのは、本当に大事な世界だけ。だから彼女は押し殺す。全てを押し殺して、悪ぶって、全てを受け止めようとしている。そんなの、絶対に無理なのに。
 世界の罪を一人で背負おうとしている。だから新庄は叫ぶ。こんなのは間違っていると、こんなのは正しい在り方じゃないと。本当は優しい筈のあの子が、悪役になろうとしている。あぁ、それは奇しくも彼女の傍らにいる人と同じ在り方だ。
 でも、その悪の在り方は違う。同じベクトルに向いているけれど、違う。あれは正しい悪じゃない。悪を叩き潰す悪じゃない。純粋な悪だ。滅ぼされるべき悪だ。人を蔑み、踏みにじる悪魔そのものだ。


「どうしてっ!? どうして彼女がそんな悲しみを背負わなきゃいけないの!? どうして彼女がそんな憎しみを背負わなきゃいけないのっ!? そんなの、間違ってる、間違ってるよっ!! どうして…っ!! どうしてだよっ!!」


 悪が悪であらなきゃいけない。悪にならなくて良い筈の少女がただ悪となる。人の思いを踏みにじる。きっとそれは本心じゃない筈なのに、そう振る舞って、世界に抗おうとしている。だけどそんなの叶えられる筈が無い―――。


『…ディバイン』


 だが、その新庄の言葉は…。


『バスタァーーーーーッッッ!!!!』


 桜色の砲撃と共に打ち消された。黒の軍勢を吹き飛ばす桜色の砲撃。それによって倒れ付す黒の軍勢。起き上がる気配が無い。一瞬にして何十人、いや何百人の人間が吹き飛ばされた。
 なのはの手にはいつの間にか、あの黄金の杖が握られている。ダクトから排熱を行うように煙りを吐き出し、その煙を踏み越えながらなのはは踏みにじる。軍の思いを、滅ぼされた者達の思いを。圧倒的な暴力という力で。
 おぉ、と声があがる。悪魔を打倒せんと黒の軍勢が勇猛に立ち向かっていく。それを迎え撃つのは無慈悲を装う慈悲深き悪魔。その心を押し隠し、全てを呑み込み、喰らわんとする悪魔。自らの涙も、誰かの涙も全て呑み込み、受け入れようとし、そして全てを破壊していく悪魔。


「…止めて…」


 祈るように。


「誰か…」


 新庄の声が。


「あの子を止めてぇっ!!」


 高く響いた。





『――UCATの諸君に告げる』





 ――そしてその祈りは叶えられる。


『――今こそ言おう。……佐山の姓は悪役を任ずると!!』


 彼が、来た。新庄は顔を上げる。涙が浮かんだ瞳、その瞳のままくしゃり、と顔を歪めて。


「佐山君…っ!!」





    ●





「佐山っ!!」


 ゆっくりと立ち上がり、通信機に声を向けている佐山に風見は声をかける。
 先ほどまでの状況は最悪だった。ハジに明かされた過去の中の1つに、佐山の母親に関する情報があったのだ。
 佐山は母親に心中を図られた記憶がある。それ故に母親に対してずっと憤りの無い感情を抱いていたのだ。――しかし、それは真実では無かった。彼の母親は「軍」の過激派によって殺され、彼女は佐山を護って死んだのだ、と。
 佐山は自分の両親、祖父に関する事を聞くとストレス性の狭心症に襲われる病を患っている。故に、それは強烈だった。立っていられぬ程の激痛が佐山を襲い、佐山の足を止めた。ただ音だけが佐山に知覚出来る全てだった。
 そして佐山は聞いた。高町なのはの叫びを。新庄運切の祈りを。


(――私は…何をしている?)


 新庄君が泣いている。それだけでも起き上がらなくてはいけない理由だ。そして、新庄君は何故泣いている? 高町なのはの所為だ。高町なのはは何と言った? 全てを受け止める? 全ての感情を受け止める? 自らで全ての罪を背負う?


(――偽善のつもりかね? あぁ、あぁ、自らを犠牲にして全てを救おうとでも言うのかね高町君!! それを悪だと任じ、突き進むつもりかね!! 君は優しく、それは正しいだろう!! だが、その方法は頂けないっ!!)


 過つ正義には、正しき悪を以てして応え、そして消えてゆく。もしくは後に託す。それは未来へと繋ぐ為の犠牲。必要悪。消え去るべき悪。消される為に存在する悪。
 まだ心臓の痛みは消えない。佐山の体を絞るような痛みが胸から広がっていく。そう、それは佐山の体を軋ませ、佐山の足を止めさせる。だが、ここで止まる訳にはいかない。その悪役は…自らが潰すべき悪だ。そう、この戦場で何よりも佐山の理念、悪役となり、悪をそれを上回る悪で潰すというのは佐山の在り方。
 ならば、と佐山は床に手を突く、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、通信機を手に取った。そして、彼は告げる。自らは悪役を任ずると。


「――六十年と十年の時間を経て、本当の交渉をここで行おう」


 その声を、誰もが聞いていた。


「いいか! 諸君! 攻勢に転じよ! 弾倉と刃に抗いの声を、防具に憤りの声を詰めろ。それら意思表示として交渉を行うのが今宵一晩のやり方だ。――そしてよく聞け諸君!」


 今まで、全てを導いてきた悪役の宣誓を。


「――Ahead! Ahead! Go Aheadだっ!! 過去をもって死ねという連中の襟首を掴み、今生きていることを知らせてやる打撃を入れてやれ!」


 彼は叫ぶ。自らの役が任ずるがままに。


「全竜交渉部隊代表、佐山御言はその権利をもって宣言する。ここに全竜交渉のことごとくを改めて開始すると。我々は如何なる力にも屈しないと。我々は間違い、しかし正しくなっていくと。そして我々は――、生き恥を曝そうとも最後まで全てを果たすと!!」


 そして、と彼は息を吸う。軋む胸を押さえ、声を引き絞るかのように声を挙げる。


「一人で全ての罪を背負い、一人で全ての感情を背負い、一人満足しようとしている馬鹿者の肩を掴み、こちらに引き込めっ!! その小さな体に全てを背負い傷付こうとしている少女と肩を並べ、その道を塞ぎ、叱りつけてやれっ!! あまり――我等を舐めるな、と!! そして死なせるな!! 本来の任を外れた馬鹿者に本来の任を与えてやれっ!! 彼女を世界の礎にするのには対価が安すぎると教えてやれっ!!」


 なのはが小太刀を振るい、黒の軍勢を切り倒しながらもその声を聞いた。


「――では命令だ。総員、私が交渉を終えるまで生き延びろ。そして高町なのはを死なせるな。少なくとも私よりも生き延び、死なせるな。何故なら私は死なないからだ。その上で私は命令する。
 ――かつて神はこう言った。相手に施されたならばそれを相手にもしなさい、と。だから――死ねと望んでいる奴らにはそれを返してやれ!! その代わり殺すな。死なすつもりで生かしてやれ。何故ならばその慈悲も保存法則に従い敵が返してくれるからだ!! いいな? 徹底的に生かし尽くせ!!
 ――そして、自らの分を弁えないガキに自らの役目を思い出させろっ!! 良く出来た子供には褒美を、悪い子供には躾けだ!! 死んでも良いと、罪を全て背負ってやるだと言う虚け者の頭を叩き、教えてやれ! そして理解を示したなら褒美をくれてやれっ!! 彼女への報酬は――我等の護りたい世界と同義だっ!!」


 そして、一息。


「…返事はどうした?」





『――Tes.』





 それは、まるで水滴が波紋を広げるように…。


『――Tes.!!』


 大きなうねりを呼び覚まし、大波となって高らかに響き渡る。唱和する。白の軍勢が震えていた体に喝を入れて立ち上がる。応、Tes.と応答の声を叫び、自らの手に武器を取る。
 答えは返る。聖なる誓いが幾多にも響き渡る。我は誓う。我は契約しよう、と。悪役は我等に任じた。悪役に連なる我等は――完遂する事がまた、望みに繋がると知っているからこそ。


「そうだ…!」
「死なせるな…!」
「大人がへばってちゃ格好悪いよなっ!!」


 彼等の痛みは、酷く重く、痛い。背負うのも辛い。全てを投げ出したくなってしまう程に辛い。
 だが、それでもそれを背負おうとする少女の姿を見た。その心を押し隠し、その小さな体で全てを受け止めようとしていた。
 痛みを受けたものも、その痛みを受け止めようとする少女も――死ぬべきではない。報いなければならない。全てに報いる事が出来ずとも、それでも我等は報いなければいけないと。
 白の軍勢が奮起する。そして――神は彼等を見捨てなかった。
 援軍。援軍が来たのだ。かつて5th-Gの交渉ではヒオ・サンダーソンの駆るサンダーフェロウの利権をかけて争った、悪臭の異名を取る米国UCATのオドー。その補佐に付いているロジャー。そしてそれに並ぶように立つのは、かつて佐山達と1st-Gの概念核を巡って争った1st-Gの魔女、ブレンヒルト。更に10年前の関東大震災、その際に活躍した独逸UCATの魔女、ディアナが並ぶ。
 その後ろには米国UCATの所属を表す装甲服を纏った兵達が向かってきている。おぉ、と白の軍勢は歓喜の声を挙げる。まだ戦える、と。まだ諦める訳にはいかない、と。


『――何が契約<テスタメント>だっ!!』


 だが、それに応える声も勿論存在する。ハジだ。彼もまた叫ぶ。佐山の宣誓に抗うように。
 いくら言葉を重ねた所で罪は無くならない。滅ぼしたものは還らない。だからこそ、ハジは悪役に対して叫んだ。――過去の弾劾の正義を吠えると。


『我等を死なせない? 生かす? 生かすだと!? 生かすとは馬鹿げた話だ! ――その自惚れが六十年前も十年前も滅びを読んだのだろうが!! 貴様等は正義の照れ隠しに悪を謳うだけだ。だがその正義は偽善でもなく、――単なる誤魔化しと自惚れだぞ偽物の世界よっ!!』


 黒の軍勢がその勢いを盛り返す。白と拮抗する。互いに譲れぬものをかけて。


『――よく考えろ。偽物、偽物、偽物、世界を歩く全て、世界を動かす全て、そして世界そのものまでも偽物ならば聖なる言葉も誠意も偽物だ! 全天と全地、大空と大地、深淵と海原も風も光も何もかもが否定を求めている世界だぞここは!!
 ――しかし聞け。もはや思いの宿る場所はここしかない。そしてここの住人は幾つもの罪を犯している。――その七つの罪状分を聞かせてやろう!!
 ――Low-Gの罪を聞くがいい。それは第1に崩壊時刻の発端となったこと! 第二に十のGの破壊という隣人殺し! そして第三にTop-Gの破壊という親殺し! 第四にはもう一人の自分達の殺害を行い、第五には己の世界に災害を起こした自傷だ! 第六にはそれらを隠蔽した誤魔化しに――、最後の第七には罪を隠して世界を麾下に収めようとした罪がある!
 ――叫べ皆よ創世を開くため、七つの罪に対して判決の喇叭を鳴らせ!!』


 ハジの応えるように、黒の軍勢が声を挙げる。


「……Judgment!!」


 聖罰、聖罰、と彼等は叫ぶ。七つの罪に対して七つの応答を響かせて彼等は吠える。





『――必要の無きものは世界に生まれる必要もありませんわ』





 ふと、その声は響いた。ハジは振り向く。声は近い、と。そして居た。新庄を護るかのようにいつの間にかそこに立っていた装甲服を身に纏った女性。緑色の髪を流し、笑みを浮かべながら。


「必要の無いものならば、生まれる筈はありません。されど生まれた事が罪だと言うのならばここで消えるのも道理。――されど預言いたしましょう。UCATは負けません。偽物が必ずしも、本物に負けるとは確定されては居ないのですから」
「――何者だ!!」
「ドゥーエ、と申します。でも、その名にさして意味はありませんわ。強いて言うならば私は―――嘘つきですから」


・――嘘から出た真実。


 概念の条文が追加される。自らの顔をさするように女性は手を振るう。その間にも女性は変化する。その骨格が、その顔が、その髪が、全てが一瞬にして変わっていく。新庄が目を見開く。ハジもまた目を見開く。そして…そこに立っていたのは――佐山御言。


「――さて、本物が来るまで暫し付き合って貰おう。大将軍殿? あぁ、しかし。「佐山御言」? 別に倒してしまっても構わないだろう? 早く来なければ、新庄君は私が護らせていただくよ?」


 そうしてドゥーエは、いや、「佐山御言」はハジへと向かって駆け出した。





    ●





 なのはは聞いていた。彼等の叫びを。彼等の思いを。胸が熱く滾る。あぁ、ここはこんなにも思いに満ちている戦場だ。そこに私は立っている。


「おい、なのはよ」


 V-Swを肩に担いだ出雲がなのはの横に並ぶ。2人の周りには黒の軍勢が集まっている。それを見回すように見ながら、出雲はくしゃり、となのはの頭に手を置いて、なのはの頭をなで回す。


「子供は格好良い大人の活躍見て、それに見惚れてろ」


 ニッ、と笑みを浮かべて出雲が前に出る。V-Swが光を放ち、黒の軍勢へと光を叩き付けていく。ふと、なのはは上空に気配を感じた。テュポーン、そしてアレックスだ。2つの巨体はなのはを押しつぶそうと直進してくる。
 だが、それを押しとどめるのは――荒帝とサンダーフェロウだ。テュポーンと組み合うように荒帝が森へと落下し、軌道を逸らす。サンダーフェロウがアレックスに対して突進をしかけ、またも軌道を逸らす。


『やらせませんよっ!!』
『彼女には指一本触れさせませんの!!』


 飛場とヒオの声が届く。はは、となのはは声を漏らす。ふと、なのはは背後に気配を感じて振り向く。そこにはジェイルがいる。その傍らに付きそうようにチンクとトーレが並ぶ。なのははジェイルが自分が気になっていた「ドクター」なのだろう、と推測し、怪しげな視線を向ける。それにジェイルが返すのは不敵な笑みだ。


「快い戦場だと思わないかね、高町なのは」
「……そうですね」
「君は、自らの答えを持っているかい?」


 えぇ、とジェイルの問いかけになのはは頷く。その両手には不破・雪花が握られ、なのはは不敵な笑みを浮かべる。


「…思ってくれるのは嬉しい。ですけど…私はそれでも、全ての罪を、思いを喰らいに行きますっ!!」


 そして、悪魔も再び戦場へと向かい、その力を振るう。小太刀を振るい、舞うかのように彼女は戯れる。なのはを見送ったジェイルとトーレ、チンクも再び戦場へと向かう。
 悪魔は竜と戯れる。UCATと軍、偽物と本物、その争いは――最終局面へと向かっていた。
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リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 16 ≪ BACK ≪ HOME ≫ NEXT ≫ 携帯変えたよー。
No title
罪罪罪罪言ってるけど、罪なんて何も無いと思うけど。
ていうか、偽者でもないし。
TOP-Gの思い込み。
2010/03/17 Wed URLあき#h0D/NfaY [ 編集 ]
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2010/03/18 Thu # [ 編集 ]

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