次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
■■■スポンサーサイト
--/--/-- --スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 14
2010/03/11 Thuリリカル・クロニクル
 UCATと軍との戦いは激化の一路を辿っていた。一度解散した全竜交渉部隊の面々の幾人かが次々と戦線に復帰したが、それに相対するように軍もまた主戦力を展開し、戦火は広がるばかりだ。
 倒れ行く局員達にジェイルは軽傷のものには治癒用の符を与え、重症の者を戦線から下げる、と駆け回っていた。時に軍の部隊や自動人形の足止めにも駆け回り、その額に粒のような汗を浮かべながら奮戦していた。


「早く下がりたまえ!! 死にたくなければ、ねっ!!」


 ヒュンッ、と風切り音が鳴り糸がしなる。一体、つり上げた自動人形をそのまま引っ張り軍の部隊を横倒しにしようとする。一度はドミノのように倒れるが、倒すだけでは意味が無い。息を吐く間もなくジェイルは指揮者のように激しく腕を振り、次々と糸で拘束。
 ふぅ、と吐き出す息には疲労と熱の色が濃く、ジェイルは鬱陶しげに紫色の髪をかき上げる。僅かに滲む汗が自分の疲労状況を教えてくる。やれやれだ、とジェイルは肩をすくめる。今まで自分が守っていた局員達も何とか状況を整えたようだ。ならば次へ向かおうか、とジェイルは駆け出す。
 ふと空を見上げる。黒の影が墜落する。それを見てジェイルは忌々しげに舌打ち。墜落したのはUCAT側の武神が一機「荒帝」だ。3rd-Gの概念核武装を有した全竜交渉部隊の戦力の1つ。だが、それを翻弄する白亜の機体が悠然と空に浮かんでいるのをジェイルは確認する。


「テュポーンかね!」


 かつては3rd-Gの概念核を納めていた武神ではあるが、3rd-Gとの全竜交渉で荒帝に敗北し、概念核を失われたが「軍」によって徴収されてしまった機体。まさに因縁対決、と言う所なのだろう。機体を含め、更に搭乗者達も含めて。
 己の知る「真実」。脳裏に過ぎるのは一人の男の顔。そして知った世界の真実。故に彼は知る。荒帝とテュポーン、それらを操る担い手達の因縁を。そして故に彼は待つ。この戦場を一転させる可能性を持つ者たちを。


「でなければ――意味が無いじゃないかっ!!」


 振るう。糸が舞い、捉え、縛り上げ転がす。テュポーンが急降下し、衝撃波をまき散らしながら向かってくる。それを迎え撃とうとしているのは――風見千里。10th-Gの概念核を納めた概念武装、G-Sp2を構えて衝撃波をかち割ろうとしているのだろう。
 まったく無茶をする。そう思うのも一瞬。急にテュポーンがその進路を変える。いや、変えさせたのだ。光の奔流がテュポーンを吹き飛ばし、UCATを囲む森へと叩き飛ばしたのだ。その光の放出先を見て、ジェイルは思わず吹き出さざるを得なかった。まるで空を飛ぶかのように手を水平に広げた武神が、一人の人間に掲げられるようにしてこちらに向かってくるのだから。


「くは、くははははっ!! やってくれる、いやはや、やってくれるじゃないか佐山!! 単車に武神を運ばせた!? そういえば、あれは確かヴァイオレット君かね!? ならばつまり重力制御か!? いやはや、いやはや笑わせてくれる!! 私は後10年はこれで戦えるぞ!!」


 愉快愉快、あぁ愉快だとも。まさにそう言わんばかりにジェイルは笑う。笑って、そして振るう。彼の感情の昂ぶりに合わせて糸が踊る。糸が舞う。糸が捉え、地に叩き伏せる。ここで武神の援軍は頼もしい、と。
 そう思ったジェイルの前に悲鳴が届く。おや? 悲鳴? と首を傾げれば…こちらに向かってくるヴァイオレットの姿がある。拳を握り、こちらに向かって突撃してくる。アスファルトを勢いよく抉りながら、だ。それに白も黒も皆、関係なく逃げ出す。


「うぉぉおおおいっ!?!? これは、少しマズイ、とぉっ!!」


 ジェイルは糸を伸ばす。伸ばす先は――荒帝。荒帝の一部に糸を巻き付け、勢いよく巻き上げる。巻き上げる。ぎゃりぎゃりとグローブから不快音が鳴っているが気にしている暇は無い。そのままジェイルが糸を引くままに空を飛び、その背後をヴァイオレットが通過していく。
 糸を調節し、速度を緩めて荒帝の上に立ちながらジェイルはほっ、と息を吐き出す。ふと視線を戻せば、平謝りしているヴァイオレットが見えた。武神がぺこぺこと謝っている姿は何ともユニークだ。
 かと思えば、今度は風見千里の泣き声と出雲覚の悲鳴が聞こえてきた。見ればバイクのタイヤに削られている出雲がいる。削っているのはもちろん風見だ。その傍らには佐山がいる。これでようやく全竜交渉部隊集結か、とジェイルは息を吐き出す。


「やれやれ…緊張も何も無い連中だね、本当に」
『人の上に乗っかりながら何言ってるんですか貴方は!? っていうか誰!?』
「おや、ヘタレの飛場竜司君じゃないかい。怪我はないか? これでも医者だが…あぁ、すまない。流石に天才と称される私でも君の頭の治療は無理だがな」
『うわー! 何だろう、初対面だけどこの人は絶対佐山さんと同種の人だーっ!』


 飛場の叫びにやかましい、と言わんばかりにジェイルは耳を塞ぎながら荒帝から降りる。ようやくそこで荒帝が起き上がろうと動き始める。既に周りは黒の軍勢に囲まれつつある。まだ状況は悪いまま、か、とジェイルは溜息を吐く。


「ドクター」


 そこに声をかけてきたのはチンクだ。やや煤けた頬やコートは戦闘の後だ。よく見れば所々血が付いていて怪我をしているのがわかる。


「チンク、ずいぶんと手強いのと遭遇したみたいだね?」
「えぇ。戸田の者に捕まりました。あれは私と相性が悪いです。二度と相手にしたくありません」


 ジェイルの問いかけにチンクがげんなりとした様子で返す。それはされておき、とチンクが告げる。周囲では黒の軍勢が襲いかかろうと気を貯めているようだ。先に動いたのは大型人形の二機。手に持ったバールを回し、こちらに振り下ろそうとしている。
 だが、チンクは怯まない。ジェイルもまた何かを察したかのように…口元をつり上げた。





 ――瞬間、桃色の閃光が戦場に轟音を奏でさせた。桃色の閃光は大型自動人形の両腕をバールごと破壊し、その余波で自動人形が轟音と共に崩れ落ちる。





「彼女が、間に合いました」


 チンクが、ジェイルが空を見上げる。いや、誰もが空を見上げた。白の軍勢も、黒の軍勢も、そう、誰もが空を見上げたのだ。空より放たれた光を放った者へと。
 空に浮かぶのは――一人の少女。金色の音叉のような頭を持つ杖を構え、ダクトの部分から残滓魔力と熱の排除を行う。その煙に紛れながら舞い降りて来た。
 白のUCATの装甲服と同デザインの衣を纏い、金の杖を紅の宝玉へと戻し、首下に揺らす。その代わりに両手に握るのは小太刀。


 ――高町なのは。


 誰がその名を呼んだ。ジェイルか、チンクか、それとも佐山か、あるいは…。
 いいや、誰でも良い。彼女は自らの名を呼ぶものに応えるように小太刀を掲げ。


「高町なのは、UCATの皆さんにご助力いたします!!」


 高らかに自らの意志を宣言するのであった。





    ●





 間に合った。それがまずなのはの思った事だ。そして次に思ったのはリンカーコアの調子。先ほど放った「ディバインバスター」は本来の出力よりも低出力だった。更にはチャージにも時間がかかっていた。まだリンカーコアが安定していない為だ。
 「ディバインバスター」ならあと2発…いや、1発が限度か、とリンカーコアの調子を確かめながらなのはは小太刀を握りしめる。誰もがなのはに視線を向けている。白と黒、どちらとも驚愕の感情を向けてなのはを見つめている。
 だが、その中で唯一、その表情を歓喜に歪める者たちがいた。


「高町君!! 来てくれたか!!」
「佐山さん」
「へっ、ナイスタイミングで現れるじゃねぇか。ていうか今の何よ?」
「出雲さん」


 なのはに声をかけてきたのはまず佐山。彼は表情に喜悦を浮かべてなのはを歓迎する。それに続いたのは出雲だ。鼻を擦るように親指を鼻に当て、なのはに疑問を問う。なのははたった1、2日だけ顔を合わせていなかっただけだが、何となく胸に来るものがある。
 そして…最後の一人。


「…なのはちゃん」
「…風見さん」
「…ありがと。助かったわ」
「…はいっ!!」


 あぁ、となのはは思う。風見を見て、出雲を見て、佐山を見て、確信したのだ。
 もう、大丈夫なんだ、と。私を含めて、皆、ここにいる皆、あの時は惑っていた私達は大丈夫だ、と。戦える、と。そして戦うべき戦場がここにある、と。


「…佐山さん。これからの予定は?」
「うむ。私はこれから新庄君の下に行くつもりだ。なにせ2日間も会っていないのだ。――まったく、そう考えれば軍の輩は無粋で極まりない」
「にゃはは、相変わらずで何よりです。…なら、佐山さんは行かせた方が良いですよね?」


 不破・雪花を構えながらなのはは佐山に言う。佐山はなのはの言葉に、うむ、と頷く。


「そうだね、この争いを終える為に…私は行かなければならない」
「なら、私は道を作ります。作らせてください。良いですか?」
「求めるべき事かね? まぁ私はこう言うがね。――助かる、とね」
「いえいえ、こっちこそですよ」


 なのはは不適に笑みを浮かべる。そのなのはに並ぶように立つのは出雲だ。彼は彼の固有武装である6thの概念核武装「V-Sw」を肩に担ぎながら佐山と、そして風見に視線を向けて告げる。


「なら、千里。お前も行けや。俺も露払いしてやる」
「え? わ、私が!?」
「おぅ、行ってこい」


 くしゃり、とV-Swを持っていない片手で風見の頭を撫でながら出雲が言う。その出雲に風見は軽く頬を赤らめた後、ふぅ、と息を大きく吸い、よしっ、と勢いよく声を張り上げ、佐山へと視線を向ける。


「佐山、行くわよ」
「うむ。新庄君が私を待っているのでね。早急かつ迅速に向かおうではないか!」


 佐山の言葉に風見は苦笑する。だが、これが佐山だ、と風見は思う。これで良い、これでようやく全竜交渉部隊だ、と。そこに至れるのだと風見は確信する。
 風見は軍との戦闘が起きる前、7th-Gの概念核を納めた「四老人」の一人、長男・一光との戦闘を経験していた。二度にわたる戦闘。だが、一度目の戦闘で風見は自らの解消しきれぬ疑問を抱えた心で挑み、相棒であるG-Sp2を大破させたばかりか、出雲に生死を彷徨わせる重傷をも負わせてしまった。
 風見には過去がない。正確に言えば概念戦争に関わる為の過去を持っていない。佐山の祖父、飛場の祖父、覚の家族、新庄の両親、原川の父親、ヒオの家族、皆がそれぞれが概念戦争に関わっていた。だが、風見はごく普通の一般人だったのだ。
 それがある切欠を持って、出雲と出会い、そしてG-Sp2に選ばれ、全竜交渉部隊に選抜された。だが、それは間違いだったのではないかと自身に疑問を覚え、そして諦めかけた。自分は相応しくないのだ、と。
 …理由を並べ立てる程までに、自分は弱かった。そう、それが全竜交渉部隊という力を得て、強くなったと勘違いしていたのだ。だからこそ、佐山の解散という言葉に怯えた。一人では何も出来なくなる、というのを本能的に知っていたからだ。
 その怯えが風見を敗北させた。そして風見に改めて見直させたのだ。そして彼女は答えを得たのだ。戦うべき理由を。どう在るべきか。その答えを。得た答えは、ただひたすらに己を果たしに行く事。己を果たさぬものが何を評価されるのか、と。そう、だからこそ自らの意志で、選び、行くのだ、と。
 そして風見は得に来た。全竜交渉部隊という枠組みを。そこにいる仲間達と、再び仲間へと至る為に。ただ自分を尽くし、そして果たす為に。そして今、自分は託されたのだと風見は心を震わせる。この馬鹿を新庄の下へ。そう、それが己の成すべき役目。


「佐山さん! 風見さん!」


 声がする。風見の弱さに気づいていたのだろう、そして佐山がそれを見切った事もわかっていたのだろう。誰よりも佐山の考えを、全竜交渉部隊に必要な者を知っていた少女が叫ぶ。
 なのはが、呼んでいる。笑みを浮かべ、いつの間に手に入れたのか、見たこともない概念刀を構えながら。


「――負けないでっ!! 負けませんからっ!!」


 それは、今、自らが手に握る相棒が一光に告げた言葉と同じ。もう、負けない、と。志同じくする者達が、「仲間」がここにいる。後悔しろと叩き付けてくる者たちが居ても、ただ諦めずに未来を信じて向かう者たちがいる。だから、応える。


「――当たり前よっ!!」


 応えたのは自分の声。だが、佐山だって同じでしょ? と風見は思う。そう、私達は負けない、もう二度と、と風見は唇を笑みの形へと変え――黒の壁を突っ切った。





    ●





 風見が行った。佐山と共に。
 見送る。故になのはは動いた。佐山と風見の動きを留めようとする者たちを抑える為に。
 脳裏に焦がれるような痛みが走る。だが、気にしない程度の痛み。だがなのはは疑問に思いながらも意識を戦闘のものへと組み替えていく。
 一歩、踏み出す。行った。風見が、佐山が吹き飛ばす壁。それを自分も崩す為に走った。


「行くよ…レイジングハートッ!!」
『All right』


 足に翼が広がる。駆ける。走り抜ける。早く、駆け抜け、追い抜く。風を、そしてなのはは迷い無く不破・雪花を振るう。不破は一切の破を許さない守護の剣。それを人へ振るい。雪花は人の希望を力と成す、故に武装へ。
 振るう。振るい、加速し、次の獲物へ、切り捨て、次へ。切る、切って、走り、跳び、切り、蹴り、殴り、加速。
 あぁっ、と声が漏れる。叫ぶ。喉を引き絞り叫ぶ。振るう。潰し、切り捨て、なぎ倒し、押し倒し、蹴り付ける。
 視界が段々と色を失っていく。動きが鈍くなっていくのを感じる。だがそれでも動く。奇妙な感覚を奇妙だと捉えても、それでもなのはは止まらない。


「道を、開けてっ!!」


 そう。行かなきゃいけない人達がいるんだ。だから邪魔はさせないと。だから退け、と。
 なのはは駆ける。色が抜けてきた世界の中で。奇妙に思いながらも足を止める訳にはいかないと半ば思考を止めて。
 その中でなのはは見た。執拗に佐山と風見を追う影を見た。行かせない、となのはは行った。風にスカートが、髪が靡く。それを気にせずになのはは加速し、そしてこちらに気づいた少女が舌打ちをする。


「邪魔を、」
「行かせ、」


 互いに呼吸を吸い。


「するなっ!!」
「ないっ!!」


 交錯した。二刀の小太刀が、一刀の刀が噛み合う。なのはの意識は佐山と風見へ、同じく少女も意識を向け合う。だが、互いに覚える感情は相反。少女は苛立ちを。なのはは安堵を。しかして、互いに判断するのは同時。


「「邪魔ッ!!」」


 弾き合う金属音。一歩引き、相手も引く。そして行く。向かう。一歩、踏みだし小太刀を振るう。切り上げる剣先に対し、切り下ろす刀が噛み合い、なのはが押さえつけるようにもう片方で挟み込む。互いに押し比べになり、奥歯を噛み締めた事によって不快の音を立てる。
 ぎゃりっ、と決して心地よい音ではない音が響き、なのはと少女の剣が線を幾多も宙に刻む。少女が咆吼を上げ、怒濤の連閃を繰り出す。対してなのはもその全ての連閃を小太刀で受け止めていく。
 甲高く、断続して響く金属音。互いに一歩も引かず、譲らず、なのはは少女と切り結ぶ。
しかし、段々と少女の顔が歪んでくる。疑惑、困惑、そして、驚愕へと。


「――まさかっ!! 貴様、不破かっ!?」
「っ!? っ、とっ!!」


 不破。その名になのはは一瞬動きを緩め、頬を刃が掠る。そのまま一歩引き、なのはは改めて少女と向き合う事となる。
 その少女の名は…戸田命刻。幾度無く全竜交渉部隊の前に姿を現した事がある軍の一員が一人。その戦闘力は軍の中でも群を抜いている実力者だ。
 その彼女はその表情に驚愕を浮かべながらなのはを見ている。まるで確かめるかのようになのはは顔を凝視され、眼を細めた。


「…菜乃花…?」
「……?」


 呟かれた名になのはは動きを止める。それは自分の名前だった。いや、だが、何かが違和感がある。何か、違う、と。


「…そんな筈があるか…アイツは死んだ…死んだんだ…!!」


 ギリッ、と。命刻は歯を噛み締めて呟いた。まるで噛み締めて何かを堪えるように。なのはには命刻が何に堪えているのかはわからない。だが、変わらない事実は1つだけ。この少女が敵だと言う事。


「…貴方が、私に誰を重ねてるかは知らない。だけど、ここから先へは通さないよ」
「…なら1つだけ問おう。…貴様は…御神か? それとも不破か?」  
「…御神でもあり、不破でもあるよ。そしてその因縁を断ち切る事を託された者だよ」
「…そうか。貴様の言う因縁が何のことだか知らないが…貴様もUCATに荷担するならばここで後悔すると良い。そして、私たちに負けて行け…!!」


 命刻が刀を構え直しながらなのはに告げる。後悔? となのはは首を傾げそうになるも、今は戦闘中だ。思考は最低限になのはもまた小太刀を構える。
 そして再び剣が振るわれる。剣閃が煌めき、弾き、切り結び合う。剣舞に終わる気配は見えない。





    ●





 戦場の熱は留まらない。しかし、状況はUCATにも傾いてきた。ジェイルは戦闘をチンクに任せ、負傷者の治療に回っていた。符はどこに入っているのか、と言わんばかりにジェイルの懐から飛び出し、軽傷者を回復させ、軽傷者に重傷人を運搬させていく。
 珠のように浮かぶ汗を拭い、チンク、と彼は叫び走り出す。チンクもそれに答え、ナイフをばらまいて爆発し、次の負傷者達の下へと向かう。


「行かせるかっ!!」


 そこに黒の軍勢が迫る。チンクが応戦し、ジェイルもまた糸を振るおうとする。だがしかし、数が多い。


「ちぃっ、眼を付けられたか!!」
「ドクター! これ以上は私だけではっ!!」


 ここまでか、とジェイルは舌打ちを零そうとした瞬間、風が駆け抜ける。それは黒の軍勢を擦り抜けるように走る。風が吹き抜けた後には倒れ伏す軍勢の数々。何が、と思ったのは一瞬。その風の正体を悟ったチンクが歓声を上げる。


「トーレッ!!」
「弱音とは、まだまだだなチンク」


 フッ、と不適な笑みを浮かべてチンクの横に立つのは、なのはと共に戦場へと赴いたトーレだ。彼女の両手には光の刃が展開され、それで敵を切り倒してきたらしい。彼女が来てくれれば頼もしい、とチンクは安堵する。
 ふと、ぐるりとジェイル達を囲むように黒の軍勢が迫る。ジェイルがやれやれ、と溜息を吐き、肩をぐるり、と回し、首を鳴らせる。


「私はこの戦いが終わったら休暇届を申請したいが…通ると思うかね?」
「無理でしょうね」
「えぇ。ですから、今出来る事をしましょう。ドクター」


 そうだね、とドクターが笑って返答を返すのと同時に、それは来た。
 奇妙な歌詞。しかもラップ。歌うのは一人の男。三人は思わず顔を見合わせる。そして…溜息。


「…いろんな意味で終わりましたね。なんか」
「楽になるから私としては構わないが…敵さんも不幸だね」
「…しかし相変わらず訳のわからない歌詞ですね」


 メンチェゲダー! とよくわからないシャウトの声が聞こえた。思わず三人は脱力しそうになる。無論、その歌手は注目を集めている。勿論注目と行っても珍奇なものに向ける好奇の視線だが。それに気づいているのか、気づいていないのか男は投げキスをしている。うぇ、とチンクが呟き、トーレが眼を閉じて口元を抑えた。


「…ドクター並の変人奇人が多いんだよなぁ…胃に悪い職場だ、本当」
「…まったくだ。それであれで2nd-G最強なのだと言うのだから性質の悪い」
「変人奇人なのは否定しないが、あれと私は別だ。私はもっと崇高なものだよ」


 ジェイルの弁明をトーレとチンクは華麗にスルーする。惚れ惚れする程の空気扱いだ。
 黒の軍勢から、誰だ貴様は、と問う声が聞こえる。それに答える男の名乗りはいまいちよくわからない。簡単に前フリというか、その後に結論来ていないだろうか? とトーレとチンクは頭を唸らせる。
 余裕そうに見えるが、実際、名乗りを上げている青年が注目を集めているので余裕だが。そして彼が「全・米・土・下・座! しかも全裸で!!」と大きな、そう、とても大きな声で名乗りを上げ、そして肝心の名を言おうとしたところで。


「…っレイパー!!」


 驚愕の名が来た。黒の軍勢の誰もが殺気だった。逆に白の軍勢には困惑が浮かんでいた。ジェイルは大爆笑。これに笑う以外の何をしろ、と言わんばかりに大声で笑っている。  その横では、おい、とチンクがトーレに声をかけている。なんだ、とトーレはどこか気怠そうに言う。


「……まさか、というか、遂に、犯罪者が出たな」
「なに…今更だ。…さて、ドクター。笑ってないで戦闘準備お願いします――ハーフタイムは終了ですから」


 そして、トーレは風となった。一陣の風は戦場を切り裂きながら駆け抜ける。それを追従するようにチンクがナイフを投擲し、戦闘が再開される。


スポンサーサイト
トラックバック(0)+ +コメント(0)
携帯変えたよー。 ≪ BACK ≪ HOME ≫ NEXT ≫ ネット復活ーっ!!

管理者にだけ表示を許可する
HOME
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログ内検索
リンク
カテゴリー
最近のコメント

 
 
 
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。