次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 08
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 なのはが帰ってきた。夕食がまだだったという事が幸いしたのだろう。高町家の妻、桃子は腕によりをかけて料理を始めた。嬉しさの余り、自分も手伝うと言った美由希は恭也によって鎮められた。その様子を見ていたなのははただなんだか申し訳なさそうに笑っていた。


「フェイトちゃん達にも連絡しようか?」


 その光景を眺めていたなのはは士郎に問いかけられた。それになのはは士郎の方へと顔を向ける。少し、迷ったように眉を寄せてから、瞳を閉じる。首を動かし、顔を横へと振った。それは拒絶の意志を表していた。


「今日は、家族だけで。…まだ、顔合わせられないよ」


 なのはは少し弱気になりながらも言った。家族には顔を合わせられた。不安もあったが、それでも優しくて、お帰り、と言ってくれた。だけど、まだ勇気が足りない。フェイト達と顔を合わせる程の、踏み込めるだけの勇気がまだなのはには無かった。
 その様子に士郎は頷き、相槌を返して電話を戻した。それになのはは御礼の言葉を漏らす。士郎が無言のまま、なのはの頭に手をおいてその髪をかき混ぜるように撫でてやる。
なのははしばらくそれににゃーと、猫のような声を出しながら甘受する。


「ご飯出来たわよー」


 桃子の声が聞こえる。それに料理がテーブルの上へと運ばれてくる。なのはが運ぶのを手伝いに行こうとしたのだが、美由希が座ってろ、と言わんばかりになのはの肩を押さえ、代わりに手伝いに行ってしまった。


「まぁ、良いじゃないか、なのは」


 士郎の言葉になのはは「むぅ」と唸るが、今まで心配をかけて来たのだから今日は大人しくした方が良いか、と思い黙って座っている事にした。だが、目の前に並べられていく料理の数々にどんどんと顔が引きつってくる。
 豪勢すぎる。となのはは思った。そしてどれだけ心配をかけたか。そしてどれだけ安堵させ、歓喜させたのかを理解した。あぁ、過去の自分はなんて愚かなんだろう、と心底思った。こんなにも愛して貰っていたというのに。


「ねぇ」
「ん? 何だい、なのは?」
「食事が終わってからでも良いから、聞いて欲しい事があるんだ…皆に」
「…そうか。わかったよ」


 士郎の言葉になのはは、うん、と呟きを返した。既に席に座っている恭也がこちらに視線を向けていたが、すぐに料理の方へと視線を移した。そうこうしている内に美由希と桃子が席についた。


「それじゃ、食べるか」
『いただきます』


 家族全員の声が重なり、食事が始まる。何気無いいつもの光景。それになのはは思わず感動した。あぁ、ここはやっぱり私が帰ってきたい場所なんだ、と。そう思ったら胸がじんわりと温かくなって涙が零れそうになった。
 その時はなんとか堪えられたなのはだったが、料理を食べて、その味に感動をしてしまい、結局泣いて家族を慌てさせたのは仕様がない事だったのかもしれない。いや、そう思う事にしよう、となのはは思った。





    ●





 食事は穏やかに過ぎていった。今では桃子は食器を全て下げ、食器を洗い終わった後の事。なのはと士郎と桃子、恭也と美由希とそれぞれ二人ずつ、二つのソファーに座っている。なのはは家族の顔を見渡してから一息を吐き、頭を下げた。


「まず、ごめんなさい」
「な、なのは? 家出したのは…もうほら皆怒ってないから、そんな謝らなくても…」


 美由希がなのはの謝罪の言葉に少し眉を寄せながら言う。もう怒ってない、とアピールするかのように少し必死だ。それになのはは顔を上げて首を横に振った。違うんだ、と小さく呟いて、再び皆と顔を合わせる。


「私が謝ったのは…私が…皆を信じてこなかった事」
「…なのは?」


 なのはの言葉に恭也が少し目を見開かせる。呆然とした様子でなのはの名前を呼んだのはなのはの真意を測りきれないが為に、自然と漏れた呟きのようであった。美由希に至っては何度も「え?」と漏らしながら、家族全員の顔を見渡している。そして士郎はなのはの方へと視線を向け、口を開いた。


「それはどういう意味なんだ?」
「言葉通りだよ。…私はね、お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんを信用してなかったって事。後…多分フェイトちゃん達も、ほとんどの人の事を」


 ふぅ、と息を吐いてなのはは一度瞳を閉じる。何かを堪えるように怯えかけた弱い心を震い立たせる。向き合わなければならない。自分の心と。そして家族達と。ここを本当に居場所としたいから。ここが帰ってこれる場所だと思えるようになりたいから。
 だから包み隠さず全てを話そう。怖いという心を叩き伏せ、嫌われたくないという思いを押しのけ、なのはは瞳を開き、言葉を続ける。


「私…皆を怨んでた。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも」


 まだ幼い頃。士郎が入院する程の大怪我を負い、家で一人でいた時。構って貰えず、寂しくて、心が痛くて、裏切られたと思い、皆を怨んだ。でも、だけど怨みきれなかった。それは皆がやっぱり大好きだったから。大好きだったからこそ憎くて、それでも大好きでどうしようもなくて。
 そしていつしか自分を責め立てていた。怨んだお前が何を言うのだと。憎んだお前が何を言うのだと。大好きでも、一時とはいえ憎んでしまった。それが、なのはを責め立てた。
 幼いなのはには持て余すことしか出来なかった大きすぎる感情。それを押し込めた。そして良い子になろうと心がけた。迷惑をかけない子供になろうとそう思った。
 そうすれば誰も傷付けない。誰も悲しまない。そう思ってずっと偽ってきた。無意識的に仮面を被っていた。良い子であろうとする自分。迷惑をかけないようにしようとした自分。ただ怖くて、逃げて、そして見ない振りをしていた。
 いつも恐れていた。また裏切られるのではないかと。いつも怯えていた。また一人になってしまうのではないかと。もしかしたら、そんな事ばかり考える自分が嫌いだったのかもしれない。弱くて、臆病で、我が儘で、結局何もどうしようも出来ないまま逃げようとする自分が嫌いだったのかもしれない。
 傷付く事に怯え、自分を傷付ける物全てを排除しようとしていた。自分が迷惑をかけた事によって悲しむ家族。ならば、迷惑をかけないようにしよう。虐められていたすずか、虐めていたアリサ。それを見て、誰かが傷付けられるのが嫌で、そこに自分を見いだし、怯えた。
 そこにいるのが自分だったらどうしよう…。そこで、他人を傷付ける事に怯える。だから遠ざけようとした。見るのが嫌なら終わらせてしまえば良かった。目を背けなかったのは…背ける自分が嫌いだったからなのかもしれない。
 そしてフェイトとはやてに出会った。自分と同じように苦しみ、その苦しみが理解出来るからこそ遠ざけようとした。だから終わらせようとした。目の前から遠ざける為に。同じ街でも、何人もの人が同じ痛みを持っていた。それを恐れた。だけど、世界はたくさんにあり、同じ苦しみを持つ人がもっといるかもしれないと知った。
 そしてそれを救えるかもしれない力があると言われ、なのははそれに飛びついた。知ってしまったらもう逃れられない。ただがむしゃらになった。
 それが自分の生きる意味だと思った。それが自分のやりたい事なんだと盲信して、自分を誤魔化し、偽って、それを理解する事無く、ただ現実に抗うべく走り続け、飛び続け……壊れた。
 なのはは一度、口を止める。自分の思いを必死に伝えられるように言葉を選んで説明したつもりだ。…果たして、家族には伝わってくれているだろうか、となのはは家族の様子を伺った。
 美由希は泣いていた。恭也は唇を噛み締めていた。桃子は何も言わず、俯いている。士郎は手を見ると真っ赤に染まっていた。力を入れているのだろう。悔いてくれてるんだ、となのはは思った。
 それを申し訳なく思うのと同時に、泣き叫びたくなる程、嬉しかった。こんな歪んでて、醜くて、自分を愛せない私を愛してくれる。それがどれだけこの身に余る物だろうか。


「だからね。言いたいの。ごめんなさい…。でも…」


 笑顔を浮かべる。壊れて、見失って、そして、それを見つめ直して気づいた事がある。誰も私にはなれないという事を。そして私も誰にもなれないという事を。
 誰かの哀しみは誰かの哀しみで、私の哀しみにはならない。自分を救えるのは、結局自分だけで、救われた、と思っても、それは自分の心の中だけで。
 救いたいという思いは否定しない。だけど、理解はされないかもしれない。された振りをするかもしれない。全ての思いが全部そのまま伝わるわけがないと知った。
 だから、我慢する事など無いのだと。もう少し、我が儘になっても良いのだと。


「…愛してくれてありがとう。私の為に泣いてくれて、悔いてくれてありがとう。こんな私でも…愛してくれて、ありがとう」


 だから、となのはは前置きを置く。声が震えそうになるのを必死に堪えながらなのはは必死に言葉を紡ぐ。


「私…好きでいいよね? 皆の事、好きで良いよね? 怨んじゃうし、信用は出来ないし、自分勝手で、どこか勝手に居なくなっちゃうかもしれない私でも、皆の事、好きで良いよね?」


 震える声で。怯えながらも気丈になのはは言葉を続ける。


「家族だって、言っても、良い、よね?」
「――当たり前だろう」


 なのはの問いかけは間を置かずに返された。顔を上げれば、そこには呆れたような顔をした士郎がいた。


「なのは。よーくわかった。お前、馬鹿だろ?」
「にゃぅ!?」
「俺にソックリで馬鹿だ馬鹿だ、と思っていたが…お前、俺以上の馬鹿だろ? なぁ、馬鹿だろ? この馬鹿」
「ちょ、ちょっとお父さん…?」
「だってそうだろう。俺が悪かったんだ。俺が入院なんてしなきゃ良かった。それは確かに俺が悪かった。心配をかけた。だがな…それで苦労や迷惑かけられたってな、それは俺が受けるべき当然の事だ」


 なのはに真剣な顔つきのまま告げる士郎。なのはは思わず、ビク、と身を震わせた。その様子に士郎はなのはの頭に手を伸ばし、その頭を撫でる。優しく、だけど力強く。


「憎んで当たり前だ。お前に寂しい思いをさせた。辛かっただろう? だからな、なのは。そんな当たり前な事で謝って欲しくもないし、御礼も言って欲しくない」
「お父さん…」
「お前が歪んだのは俺が悪い。俺が、お前の事をしっかりと導けなかった。親としての責務を果たせなかった。お前が悪い、なんて事は無い。親の責任だ。子を正しく導くの親の役目だったんだ。なのに果たせず、お前を惑わせ、苦しめ、壊しかけたのは、俺の責任なんだ」
「で、でも私だってっ!」
「当たり前だ。…お前も悪い。どうして俺に何も言ってくれなかった。どうして止めてしまったんだ。俺を憎むのを…。お前が怪我をするぐらいなら…俺は、憎まれたって良かった」


 だからと士郎は呟く。なのはを真っ直ぐに視線を合わせる。真っ直ぐになのはと向かい合って。


「ありがとうな、なのは。ようやく、なのはの本心が聞けた気がするよ…本当に、頼りない父さんで…ごめんな」


 士郎は泣いていた。不甲斐ない自分を責める。父として何も果たせなかった自分。それでも自分を父と慕ってくれる娘。娘は自分を不甲斐ないと責める。だが、それでも愛しい娘には代わりがない。ただすれ違っていただけ。
 あぁ、本当に駄目な父親だ。こんな、こんな当たり前の事をどうして今までこの子に与えてやれなかったのだろう? と士郎は悔やむ。


「なのは…お前は俺の大事な娘だ。怨まれたって、憎まれたって、それでもお前は俺の大事な家族なんだよ」


 なのはを抱き寄せ、士郎はしっかりとなのはを抱く。包み込むように優しく。もう離したくないと言わんばかりに抱きしめた。悲哀や歓喜、様々な感情が入り乱れる。
 なのはも同じような表情で、涙を零しながら、士郎に泣き縋った。すれ違い続けた親子は、今、ようやく、ようやく重なり合えた…。





    ●





 なのはが高町家に帰宅してから翌日。あの後、結局なのはは泣き付かれ眠り、皆も連日のなのはの捜索で張り詰めていた疲れが一気に来たのか、すぐに寝てしまった。
 そして朝。高町美由希は熟睡をしていた。もう、これでもかと言うぐらいに気持ちの良い眠りの中に浸っていた。だが、その至福の時間は唐突かつ乱暴に終わった。入り口のドアを勢いよく、響くように叩く音。それに美由希は思わず飛び起きた。


「な、何!?」


 手探りで眼鏡を探して手を伸ばす。ベッドの傍に置いてあった眼鏡をつける。まだ頭は寝ぼけているが、とりあえず目は覚めた。そして入り口の音の原因は中の住人が起きたのを確認したようで入り口の扉を叩くのを止めた。


「朝の鍛錬の時間だ。さっさと起きて来い」
「きょ、恭ちゃん!? ってあーっ!? もうこんな時間!?」


 思わず時計を見てびっくり。まずい、完璧に遅刻だ。恭ちゃんに訓練メニュー追加させられる、と美由希は焦り始める。最近まではなのはの捜索に時間をかけていたが、なのはが帰ってきたからにはいつもの鍛錬を行う、そういえば昨日恭ちゃん言ってたな、なんて思い出しながら慌ただしく用意する。


「ねぇ、お兄ちゃん? お姉ちゃんまだ?」
「なのは。もう準備は出来たのか?」


 だがふと美由希は動きを止めた。今、扉の前に立っているだろう兄が誰かと話している。しかも、なのはと呼んだ。それは昨日帰ってきたばかりの妹の名前。思わず美由希は扉を開いた。


「なんでなのはがいるのっ!?」


 バンッ! と良い音を立てて開かれた扉。目の前に立つのはいつものように運動着を着た兄、恭也の姿がある。そしてその隣に立つのは妹、なのはの姿。恭也と同じく運動着を着ている。そのなのはの姿に思わず美由希は混乱してしまう。
 だが、そんな美由希に対して二人の兄妹は美由希に対して冷ややかな眼を向ける。


「…美由希」
「…お姉ちゃん、服」


 恭也が視線を逸らして呆れたように溜息を吐き、なのはが顔を赤くして恥ずかしそうに言う。なのはに言われて改めて美由希は自分の格好を見た。まだ着替え途中。いろいろとマズイ格好だった。
 そして美由希の絶叫が高町家を震わせるのであった。




     ●





 早朝の海鳴市を走る影が三つ。先頭を走るのは高町家の長男、恭也。息を乱した様子は無く、そのまま無言で走っていく。その後ろを追走するように走るのはなのはだ。若干呼吸は荒いが、このまま走るにはなんら問題は無さそうだ。
 その先頭を走る二人を見て、先ほど恭也から頂いた拳骨で痛む頭をさすりながら美由希は溜息を吐いた。先頭を走る恭也はまだ良い。それについて行っている自分もまだ良い。だが、今まで運動音痴と言われ続けてきたなのはがどうして恭也に付いて行けているのだろうか? と疑問に思う。
 確かに呼吸は自分たちに比べれば荒い。だが走れないわけではない。恭也はなのはに気を使っての事か、最初は速度は遅かったが現在では通常のペースとなっている。
 おかしい。約2週間、行方不明になっていたなのは。帰ってきたら怪我は治っているし、体力も向上しているし、明らかに不可解だ。一体なのはに何があったのだろうか? 美由希はただ思考しながら走り続ける。
 結局なのはは最後まで走りきった。さすがに帰ってきたら疲れが出たのか、今は座って休んでいるが。その間に恭也と美由希は木刀を使った訓練に移る。型の確認や、模擬試合。それを通して剣士として鍛錬を積む。それは自らの生家、御神家に継承され続けた剣術を極める為に。それが御神家に生まれた者として、御神家の生き残りとして。
 しばらく鍛錬を続けていると、座っていたなのはがこちらを凝視しているのに気づいた。恭也もそれに気づいたようで、一度小休憩を取る事にした。休憩を取り、予め用意しておいた水で喉を潤す。先ほど、なのはが持ってきた物だ。冷えた液体が喉を通り、身体に水分を補給していく。口を拭い、ふぅ、と1つ息を吐く。


「ねぇ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「ん? 何、なのは」
「私も混じって良い?」
「はぁっ!?」


 思わず美由希は声を挙げてしまった。それだけなのはの言葉に驚愕したという事だ。隣では恭也も似たような顔をしていたが、すぐにいつもの表情へと戻る。なのはの顔をしばらく見る。なのはもまた恭也の視線に気づいたのか、恭也の顔を真っ直ぐに見て。


「…なのは」
「何?」
「この2週間の間に、何をしてきたんだ?」


 恭也の質問は美由希もしたかった質問だ。美由希は恭也の顔を見てからなのはの顔へと視線を移して。なのはの顔は特に何らかの変化は無い。普段見るようないつもの顔だ。
 しばらく、なのはは恭也に視線を向けていたが、ふと、表情を変えた。それは微笑の表情。だがいつも彼女が浮かべているような微笑ではない。それは、ちらかというと悪戯を見つけて実行しようとしている子供の顔。
 そういった顔を見るのは、恭也も、美由希もあまり記憶に無かった。だから少し驚いた様な顔をした。なのははもこういった顔が出来るのか、と。


「教えて欲しい?」
「うん、聞きたいな」


 なのはの楽しさを含んだような声に美由希は頷く。恭也もまた無言で頷いてなのはの反応を待つ。


「じゃ、私と模擬試合してくれたら教えてあげる」


 クスクスと笑い、なのははそう言うのであった。




    ●



 そ美由希は道場の隅に寄り、なのはが押し切って始めた模擬試合を見守っていた。口をぽかん、と開けて。


「―――ッ!!!」


 木刀と木刀がぶつかり合う際に空気が爆ぜるような錯覚すら抱く。踏み込み、切り込み、木刀を噛み合わせ、弾き、避けて、再び踏み込む。流動し続ける戦場。互いの力をぶつけ合い、互いが互いを倒そうと木刀を振るう。


「…なのは…?」


 最初は恭也は手加減をしていた。だが、次第に恭也の顔からは余裕の色が消えていくのを美由希は見ていた。確かに剣術では恭也の方が巧みである。事実、なのはの木刀は捌かれて恭也に当たる事はない。
 だが、実戦という経験においてはなのはは恭也以上の物がある。砲戦魔導師といえ、生死をかけた戦いをこなしてきた経験と、そして竜轍と一週間、昼夜を問わず続けてきた稽古の経験が本能的な勘を発揮させ、恭也の一撃を回避している。
 続けられる剣舞、予想だにしなかったその戦いに美由希はただ呆然と見守る事しか出来ない。


「ハァッ!!」
「チッ!!」


 浅く呼吸を吐き出し、なのはが踏み込み、速度を上げる。地を這うように態勢を低くし恭也へと迫る。恭也はそれを切り上げるように木刀を振るう。
 なのはの判断は、防御でも、攻撃でも無かった。なのはが洗濯した行動は加速。恭也の横をすり抜けるように転がり木刀をかわす。
 驚愕の表情を浮かべる恭也の背後を取り、態勢を立て直すのと同時に全身のバネを最大限に生かした突きを放つ。地を踏みしめ、身体を捻り、木刀を放つ――!!
 衝突音。それは木刀と木刀がぶつかり合う音。木刀同士が互いに悲鳴を上げ、使用者達がそれぞれ後ろへと飛び、距離を取り合う。互いに無言。互いに表情はない。ただ、あるのは相手を見据える刃の如く研ぎ澄まされた、槍のように鋭い視線のみ。
 互いに呼吸を整えるように、相手の出方を伺う。その様子に美由希は悟る。次の衝突が、決着を付けると。
 沈黙が、道場を支配する。誰も音を発する物はいない。ただ、静寂。


「「―――ッ!!!!」」


 そして、同時に吐き出された吐息が静寂を打ち破る。浅く、鋭く吐き出された呼吸と同時に踏み込み、互いに身体を前に倒し、眼前に相対せし相手とぶつかり合う為に。
 なのはが更に態勢を低くし、加速。恭也は木刀を握り直し、なのはを見据える。一歩、二歩、三歩。互いに距離が近づいて行き、そして――。


「―――!!」


 なのはの木刀が振り抜かれた。狙うは腹から肩へと打ち上げるような軌道を描くだろう。対して、恭也もまた木刀を振るった。なのはの木刀と噛み合うように切り結んだその木刀は防がれる。だが、なのはがもう一刀の木刀を振るい、連続した一撃を放つ。
 それを防ぐ恭也。だが再びなのはは止まる事なく連撃を放つ。だがその全てを捌き切る恭也。息切れを起こしたのか、なのはは一度距離を取るために下がる。
 それを見逃す恭也ではない。踏み込み、なのはを追い詰めんと木刀を振るう。本能的な勘から、なのははその恭也の一撃を防ごうとする。ぶつかり合う木刀と木刀。打撃音が響き――…なのはが木刀を落とす。


「なっ…っ!?」


 なのはが驚愕の顔を浮かべる。良く見れば手が痺れたように痙攣し、力を失っている。ただぶつかり合っただけではない、と本能的になのはは理解。受けてはならない。生き残っていたもう片方の木刀を強く握り、振り抜こうとする。
 が、恭也の動きはなのはの抵抗を許す事無く、なのはの持つもう一刀の木刀を叩き落とし、そしてもう一刀でなのはの首筋に当てるように木刀を持って行く。


「終わりだ」


 恭也の宣言で美由希はようやくこの戦いが終わったのだと言う事に気づき、息を吐き出す事が出来たのであった。
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