次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 13
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
「――監視カメラの映像は!?」
「駄目です! 細工されていて、その時間帯だけ映像が消されています!!」
「何か証拠は残ってないの!? 犯人の手がかりは!?」
「何も残ってません!!」
「――くそぉっ!!」


 ダンッ!! と力任せに壁を叩く音が響き渡る。ここは時空管理局技術課の一画。そこで声を荒らげるのは黒い管理局の制服、執務官および執務官候補生である事を表す制服を纏った金髪の少女であった。少女の名はフェイト・T・ハラウオン。
 彼女がここまで怒りと苛立ちを顕わにするのは珍しい。むしゃくしゃに髪をかき混ぜ、どうしようもならない感情に折り合いをつけようとする。だがそれが失敗して口から悪態しか零れなさそうでどうしようもならない。


「フェイト、落ち着け」
「これが、落ち着いていられるの!? クロノ!? なのはは行方不明で、それに加えて、レイジングハートまで紛失して、落ち着いてなんかいられないよっ!!」


 そう、そこは…フェイト・T・ハラウオンの親友である高町なのはのデバイス、「レイジングハート」が保管されていた区画だったのだ。
 そう、だったのだ。もうそこにレイジングハートの姿は形も影も無い。映像もなく、証拠もなく、何一つ残される事無くレイジングハートは姿を消した。
 フェイトは心の中で悪態を付きながら、ゆっくりと膝をついた。口から零れるのは嗚咽だ。クロノは崩れ落ちる妹の姿を、ただ唇を噛み締めて見守る事しか出来なかった…。





    ●





 怒声、悲鳴、銃声、様々な声が響き渡る戦場を駆ける影があった。ドクターだ。白衣を翻し、彼は戦場をかける。手につけたグローブからは僅かな煌めきが光る。眼を凝らしてみればそれが糸だと言う事はわかるだろう。ドクターはそれを振るい、自らに襲いかかってくる自動人形達の動きを束縛していく。


「ふっ! やれやれ、重労働は身に堪えるね! 思わずテンションが鰻登りだっ!!」
「余裕そうですね。ドクター」


 そのドクターの背後に付き添い、彼を守るように従うのはチンクだ。彼女もまた手に持ったナイフを投擲し、自動人形達の拳銃を払い、無力化しようと試みる。しかし自動人形達も更に武器を展開し、正直キリがない。
 だが、チンクが無力化している間に、更にドクターの糸が自動人形達を縛り上げていく。そのまま彼等は戦場へと向かい、駆け抜けていく。ドクターの目の前に隔壁が見えた。それは外へと通じる為の隔壁の1つ。
 隔壁へと真っ直ぐに駆け抜けながらドクターはチンク、と彼女の名を呼んだ。チンクは頷き1つで返答とし、両手に握ったナイフを全て投擲する。そしてナイフが壁に衝突し、地に落ちるその瞬間を狙って彼女は叫ぶ。


「IS「ランブルデトネイター」!!」


 チンクが叫ぶのと同時に刃が爆弾へと変貌し、爆裂音が響き渡り扉を破壊する。扉を破壊した爆発の煙の中をドクターとチンクは飛び込み、煙を抜ける。抜けた先は屋外だ。その先には戦場の声が高らかに響いている。
 ドクターはチンク、と再び彼女の名を呼んでチンクを抱き寄せた。チンクはそれに抗う事無くドクターの腕に収まり、ドクターはチンクを抱えていないもう片方の手を振り、そこから糸を伸ばし、彼は周囲にある背の高い建造物に糸をくくりつけ、助走と共に糸を巻き上げる。角度、速度、糸の長さ、それ等全てを一瞬の内に計算し、彼はチンクと共に空を舞う。


「アァ~アァァアアアアアア~~~~ッッ!!!!」
「ちょっと!? 何注目浴びるような真似してるんですかドクターッ!?」
「なぁに、これをやるときは必ず言わなければならないだろう!! というわけで、とぅっ!!」


 戦場では愚行とも言える行いにチンクは非難の声を上げる。ドクターはそんなチンクの非難を華麗に無視し、背の高い建造物にくくりつけていた糸を離し、今度は別のものへと向けて糸を伸ばした。
 ドクターの眼下、そこには白銀の武神がいる。ドクターはその武神に糸を巻き付け、今度は急降下していく。チンクは身に受ける風を感じながら服の袖からナイフを取り出す。ドクターが更に糸を引き絞り、速度を緩めて地に着地。
 そしてドクターとチンクは駆け出す。向かうのは白銀の武神の足下へ。そこには一人の女性が奮戦していた。ドクターが移動の際に利用した白銀の武神の操手。彼女はドクターとチンクの姿を確認し、驚きの声をあげた。


「ジ、ジェイルさん!? 医務班の貴方が何故此処に!?」
「やぁ、シュビレ君。なに、私とてニートだの何だの言われる訳にはいかないのでね。仕事をしに来た訳だよ」


 ニィッ、とドクター、いや、ジェイルと呼ばれた青年は口元を歪める。


「此処こそが、今の私の「戦場」だ。戦闘も出来て治療も出来る、なら私がここに立つのは必然だろうさ!!」


 そしてジェイルは両手のグローブを振るう。伸ばされた糸が黒の装甲服を纏う「軍」へと襲いかかる。更にチンクがナイフを投げ、牽制する。時にはナイフを爆弾と変え、チンクは敵の侵攻を食い止める。
 最初は呆気取られていた白銀の武神の操手、シュビレは困惑し、ジェイルとチンクを見ていたが、自分が動きを止める訳にはいかないと武神を操り出す。動きを止めていた白銀の武神に意志の光が込められ駆動する。
 動き出した武神に合わせるようにジェイルは銃弾舞う戦場に飛び出した。白衣を翻し、糸を紡ぎ、結び、黒の装甲服の者たちの動きを止めていく。彼は腕を振る。まるで指揮者のように。彼は支配する。彼は踊るかのように身体を揺らし、戦場を指揮していく。
 それに追従するようにチンクが続く。チンクは時に体術で、時にナイフで、時に爆発で敵をなぎ倒しながら進む。だが黒の軍勢の勢いは留まらない。だがそれでもジェイルもまた動きを止めない。両手を振るい、軍の軍勢を縛り上げていく。


「後悔しろよっ!! 正義の味方!! 己の後悔に呑まれて消えてしまえ!!」


 ふと、ジェイルはその叫びを聞いた。ふむ、と呟き、ジェイルは戦場を見渡す。黒の軍勢達の勢いに白の軍勢が押されている。白にあるのは困惑、恐怖。そして黒にあるのは嘲笑と滲み出るような憎悪。
 彼らは言う。後悔せよ、後悔せよ、と。我等の屍を積み重ねる事で貴様等は後悔するのだと。ならば倒せ、と。そして後悔せよ、と彼らは告げてくる。貴様等は何も知らない。知らないからこそ、そして後悔せよ、と。
 だがジェイルは彼等の声に意を介さぬかのように跳躍、黒の軍勢へと糸を向け、また一人、また一人と縛り上げていく。


「やれやれ、重労働だ」


 ジェイルはぼやくように呟く。そんなジェイルに向けて銃弾が殺到する。チンクが前に出て、コートを翻す。翻ったコートが銃弾を受け止め、はじき飛ばす。チンクは眉を寄せてジェイルを睨む。


「ならドクターは下がって局員の治療を。…治療しても立てるかどうかはわからないが」
「そうだね。未知というもの、理解が出来ないものは怖いものさ。ああ、私だって恐ろしい。恐怖は足を竦め、踏み止まらせてしまう。難儀なものだね――まぁ、私はそれでも求めに行くがね。私が私が故に」


 ククッ、とジェイルは喉を鳴らして笑う。戦場はまだその声を鳴りやませない。高く、大きく、その熱は高まり、大きくなっていく。
 チンクは走る。ジェイルもまた走る。だが行く先は違う。ジェイルは倒れ伏した白の装甲服の者たちの下へ。まだ立てる者には符を与え、重傷者の傷口をほんの数十秒で判断し、後方へと下がらせるように指示を下す。同時に腕を振るう、指揮者のように。そう、彼は今まさに指揮者となっていた。
 何とかジェイルによって体勢を立て直すのと同時に、黒の軍勢を抑えにかかるのはチンクだ。彼女はコートの中からありったけのナイフを取り出し、黒の軍勢へと投げつける。


「手加減はしない。――散れっ!!」


 チンクの号令と共にナイフが次々と爆発し、それが連鎖し、更に巨大な爆発を生み出す。明らかなオーバーキル。それに黒の軍勢の足は少しは止められるか、とチンクは期待するも、爆煙を突き抜けて向かってきた影に眼を細める。振るうのは日本刀。受け止めるのはナイフ。
 ぼろぼろの黒の装甲服に日本刀を構えた少女。チンクの視線と少女の視線が交錯する。そしてチンクは怪訝そうに少女を見る。その身体にはあまりにも傷がなさ過ぎる、と。まるで傷を負っていないかのような、いやしかし、それならばボロボロの装甲服はどうしてだ? 思考は巡るも、その思考は他ならぬ少女によって断ち切られる。


「散るわけにはいかない。――貴様等が後悔し、その後悔に敗北する時まで! 我らが勝利の為に!!」
「生憎だが、私は後悔に負ける程、柔な育て方はされていないぞ」


 キンッ、と甲高い金属音と共にナイフが振り抜かれ、日本刀を構えた少女が一歩下がる。
それにチンクもまた一歩下がり、ナイフを補充して構える。戦声は高らかに声を上げていく。留まる事を知らず、燃えさかる焔のように。





    ●





 空を駆ける。プロペラを勢いよく回し、空を行くのはウーノが操るヘリだ。そのヘリの中、なのはは壁に背を預け、手の中にある相棒へと声をかける。
 レイジングハート。インテリジェントデバイスと呼ばれる「魔法」を扱う為の「杖」。魔法行使の補助演算、魔法式の保存や、魔力貯蔵や圧縮スペースなどの機能を秘めた、まさに魔導師の為の手足となる物。更にレイジングハートはインテリジェントと呼ばれるタイプのもので自意識を備えている。
 なのはの脳裏には様々な問いが浮かぶ。何故レイジングハートがここにあるのか。そしてレイジングハートを手にしていたドゥーエは一体何者なのか? そしてドゥーエ達を私兵として扱っているドクターとは何者なのか?
 巡っては答えは出ず、ただなのはは益にならない問答を繰り返す。だが、ドゥーエは答えない。彼女はレイジングハートを渡しただけで質問に答える事はなかった。答えは自分で知りなさい、と。
 ドゥーエは答えない。ならばと言って吐かせる手段などなのはは持ち得ていない。自分が望み、だが相手が望まなかった。ならば押し通す。だが押し通す為の手段も、方法もなのはは得てはいなかった。
 だが、ドゥーエはいずれ答えをなのはに導くだろう。何故ならば知りなさい、と彼女は言った。ならば彼女は自分が知る事を望んでいる。レイジングハートを手渡したその理由も、レイジングハートをここに持ってきた理由も。故に押し通すべき相手はドゥーエではない、と。


「…レイジングハート」
『……はい』


 久しく聞いていなかった彼女の声。あぁ、懐かしい、となのはは感じる。全ての始まりから苦楽を共にしてきた相棒。最早、半ば半身と言っても過言では無かった。そう、レイジングハートが全ての始まりだった。
 ユーノと、レイジングハート。そう、出会えたからこそなのはは答えを出せるこの場所へと来た。出会わなかった未来など想像が出来ない。もしも、といつかはユーノは言っていた。もしも自分が魔法と出会わなかったらどうなっていたんだろう、と。
 そんなIFはなのはは嫌だし、今が幸せだと思う。…間違ってはいたけれど、後悔はするけれど、でもここで戦場に立てる事が出来る事をなのはは不幸だと思ったことはない。むしろ幸運だ。こうして自分は生きていられる。自分に真っ直ぐに。


「私、さ。多分…この先に答えを見いだせると思うんだ」
『……』
「あの日、私が撃墜したあの日から、あの日まで間違ってた答えを正して、あの日に止まった時間を動かせると思うんだ。…ねぇ、レイジングハート。今度はきっと間違えない。貴方は…最後まで付いてきてくれる?」


 なのはは決めていた。これから何が起きるかなんてなのはにはわからない。だが、なのははきっと恐らく、と確信している事がある。自分の在り方はあらゆる意味で他人と合わない。協調性が大事なのはわかっている。だが、わかっているからこそなのははそれを踏み砕く重さを知っている。
 だからこそなのはは覚悟を決める。裏切れないものがある。守り抜きたいものがある。そしてそのために優先順位をつけていくだろう。そうやって割り切って、例えそれが悪であろうとも正義であろうとも自分は貫いて生きていく。
 だから、己に付いてくるというものに覚悟を問う。わかっている。これから赴く先の未知が決して平坦な道じゃないという事を。正しいも、過ちも、その全てを抱えてなのははただ自分の思うとおりに歩くと決めたのだから。そこに付いてくるというのならば、覚悟を問う。


『…私は――』


 問われた覚悟にレイジングハートは――。





    ●





 レイジングハートは、唐突に自分のメモリーが読み込まれたのを感じた。人間でいう、ふと思い出す、という現象と同じようなものだろう。
 あの日、撃墜事故のあの日からレイジングハートは悔やみ続けていたのだ。どうしてもっと強く進言し、なのはの行動を諫めなかったのか、と。それが自身の欠損に繋がったばかりか、なのはから魔法を奪いかけたのだ。
 なんという未熟。レイジングハートはただ使われる為の道具ではなかった。インテリジェント。意志を持つ機械。あぁ、確かにレイジングハートは道具だったかもしれない。だがなのはと出会い、なのははレイジングハートを「相棒」とした。唯一無二の信頼する相棒として。
 それがどれだけ誇らしかったことか。たった3年。しかし、されど3年。レイジングハートはなのはと共に過ごし、その経験を積み重ね、それをパターン化し、そして自らにも「心」にも似たようなパターンが生まれている事に気づいた。一度、自分の整備を主に行っているマリエル・アテンザに問いかけた事もある。


 ――『機械にも、心は生まれるのですか?』、と。


 それにマリーは笑って答える。あるかもね、と。
 なのはも答える。物には魂が宿るものだよ、と。
 あぁ、ならば、とレイジングハートは自覚した。自分は、生きているのだ。例えその身が鋼鉄で出来たものだとしても。この心は鋼鉄によって生み出されたものではない。人との触れ合いが、その心がレイジングハートに与えた。目覚めさせた。
 故にレイジングハートの後悔は尋常なものではなかった。どうして進言しなかった、と密かに過去のなのはのバイタルデータを確認した事もあった。訓練スケジュールを見直す事もあった。経験が足りなかった。そう言ってしまえば簡単な事。しかし、されど、レイジングハートには役目を果たす事が出来なかった。
 自らの改造プランを考案した事があった。だが、なのはのリンカーコアの不調を耳にしてそれすらも無意味になるのか、と思えば、レイジングハートは己の機能を全て停止してしまいたい衝動に駆られた事もあった。
 痛み。この鋼鉄の身体に、プログラムで設定された人格に感じる事の無い、必要の無い軋み。感じるたびにプログラムを掻き乱したくなる程の衝動に駆られる。そう、それはまるで質の悪いウィルスのようだ。いや、正しくてそれはウィルスなのだろう。本来のプログラムを狂わせるバグなのだから。
 だが、それでもレイジングハートは頑なにそのバグを修正しようとしなかった。そして、彼女はいつしか保管されるだけで何もない無意味な日々を送った。思考も意味を成さず、ただ衝動が来て、自己保存プログラムが発動し、繰り返し、繰り返し。
 回路が焼き付きそうになるほどまで繰り返し、壊れそうになるまで繰り返し、その繰り返しの中でただレイジングハートのメモリーが呼び出すのは主の笑顔。主の怒る顔。主の泣き顔。主の日々成長していくその姿。


『やぁ、レイジングハート』


 そこに、彼女が現れた。ドゥーエ、と名乗った彼女が。何食わぬ顔でレイジングハートの保管区域に入り込み、レイジングハートに声をかけてきた。


『君の主が新たな戦場を見いだしたよ。巻き込まれ、悩み、惑い、苦しみながらも、彼女は歩き出したよ。例え魔力が無くても、その意志で、その足で』


 何を、とレイジングハートは思った。それは、もう私は不要だと言う事? それは最早、私の存在には何の意味もないという事?
 絶望。そう、それはレイジングハートにとっての絶望だった。もう、機能を維持しているエネルギーすらも鬱陶しくなってオーバーロードさせたくなる程であった。自己保存プログラムを食い破ってでも自らを自壊させたい衝動。


『機械としては欠陥。だけど…実に興味深いわね。主、共々ね』
『どうするレイジングハート。君の答えを出しに行く? 貴方が望むなら貴方の主の下に導くわよ?』


 …しかし、私に何の意味がある?


『私は何も知らないわよ。意味だなんて、貴方が出すのよ。もう貴方はただ扱われるだけの機械じゃないのだから。レイジングハート、名は体を表すとは良く言ったもの。貴方が諦めた時、それはまさに貴方が死す時ね』
『どうする? 答えを求めるのも、意味を求めるのも貴方次第。私はただ道の1つを指し示すのみ。選びなさい、既に貴方の主は選び、答えの為に歩み出しているわよ?』





    ●





『…我が身は、不屈の心。…されど、その心を生み出してくれたのは貴方です。マスター。私は道具だった。私は諦めさせない為の力。その為の杖で、ただの道具だったのでしょう。その名に恐らく偽りはなく、私は自分の存在がそうだったと断言出来る』
「…うん」
『でも…今は違います。それは誰かに与えられた願いかもしれません。だから今、これから私の言う事はバグで、もう、私は壊れているのかもしれません。本来の役割から外れた、デバイスとして欠陥機なのかもしれません。
 それでも――私は不屈の心。主と共に在り、最後まで共にあり、私か、主が尽き果てるその時まで諦め続けない者。主に希望を、夢を、願いを持たせ羽ばたく為の翼、未来へ届ける為の力に私はなりたい…私は、そうなりたいのです…!!』


 ややノイズが混じった機械音声は、やはり自身が壊れている証なのだろうか。だがそれでもレイジングハートは構わなかった。間違いなどと思ってなどいなかった。むしろ、これで清々したようにも思える。
 ただの力ではなく、ただの道具でもなく、支え、押し上げるためのその力に、遠く高く羽ばたく為の翼になりたい。あの日々を、なのはが雄々しく空を舞ったあの日々を。あの笑顔を、いつまでも、尽き果てるその時までメモリーに納めたい。
 機械に身で分相応かもしれない。だがそれでも、それでも――。


「金属は生きている」


 ふと、なのはは声を漏らした。


「…私のこれから赴く戦いにはね、そうであると定められた法則があるんだ。実際にはそうじゃないけど、だけどそうであると定められる力があるの。その中の1つに、金属は生きている、っていう概念があるんだ」


 なのはは語る。伝えるように。言い聞かせるように。


「でも、さ。生きてるから魂って宿るの? だったら死んだ人の魂は? 生きてたから残るの? じゃあ…生きるって何だろうね、レイジングハート」
『…難しいです』
「にゃははは、私も、だよ。わからないよ。レイジングハート。生きるってどういう事なのか、って。…でもさ、レイジングハートの言葉を聞いて、私、1つ思ったよ」


 ぎゅっ、となのははレイジングハートを握りしめる。優しく、だけど強く。


「願う事だよ、レイジングハート。誰がそう望ませるのかもしれない。誰かがそう仕組んだのかもしれない。だけど、そこから始めて、そして自分の意志でそれを選んで、その選んだ通りに生きていく事が、生きてるって事なんだと思う。
 勿論全てが叶う訳じゃない。だって皆がいろんな事望んでるから。笑ったり、怒ったり、悲しんだりして、いっぱい願いがあって、いっぱい夢があって、いっぱい、いっぱい溢れてるんだ。だから、皆が生きてるってわかるんだ。自分も、皆も。
 …だからね、レイジングハート。私、今すっごく嬉しいんだ」
『…Master?』
「生きよう。レイジングハート。私と一緒に、一緒に未来を見に行こうよ。一緒に未来を歩んでいこうよ。貴方は道具なんかじゃない。誰がどう言おうと、貴方がどういう存在であろうと――貴方は私の唯一無二の相棒だ。私が生きている事を教えてくれる貴方に、私と生きてくれる貴方にそれ以外、表せる言葉が無いよ」


 ノイズが走る。レイジングハートにはそのノイズの意味は掴めない。だがそれは決して不快ではない。それはプログラムを加速させる、回路を加熱させる。あぁ、欠陥なのかもしれない。だが、それでもそれで良い。
 この焼け付くような熱こそ、このプログラムを加速させるバグこそ、そう、それこそ今の私自身なのだと。レイジングハートはそうなのだと判断する。これでこそ、私なのだと。


「高町なのは! もうすぐ戦闘区域に突入します! ヘリでこれ以上の接近は困難ですので出撃を!!」


 操縦席でウーノがなのはへと告げる。同時にハッチが開かれていき、トーレが先にハッチへと身を乗り出す。ウーノは操縦し、ドゥーエとクワットロはなのはを見ている。どうやら出撃するのはトーレだけのようだ。
 トーレはなのはを見る。なのははゆっくりと立ち上がり、一歩、また一歩とハッチの方へと向かっていく。風がなのはの髪を弄び掻き乱していく。その風の音に混じって聞こえてくる銃声や悲鳴などの戦の声が聞こえる。


「…怖気付いたか?」
「…まさか」
「…私の手は必要か?」


 トーレがなのはに問いかける。その笑みには不適な笑みが浮かんでいる。まるで試すかのようになのはを見ている。なのはもそれに笑って返す。
 ふと、なのははドゥーエへと視線を向けた。そして次にクワットロへと視線を向け、ウーノを見、そして瞳を閉じる。


「もう、十分すぎる程貸してもらいました。ここに連れてきてくれて、私の怪我を癒してくれて、レイジングハートを連れてきてくれた。もうこれ以上に望む事なんてないですよ」
「それで足手まといになられても困るぞ?」
「なりませんよ。期待には応えなきゃいけませんし、私も応えたい、って思いますから」


 ドゥーエさん、となのははドゥーエを呼ぶ。ドゥーエは笑みを浮かべながら、何、となのはに相づちを返す。
 なのははレイジングハートを首にかける。いつもそこにあったように。いつもと変わりないように。いつもそうであったように。ここが、彼女の定位置。これが私と、彼女の在り方の1つ。


「私の翼は確かに、一度もがれました。でも、もう、折らせません!!」


 力強く、なのははドゥーエに笑みを浮かべて応えた。そしてなのはは床を蹴る。ハッチから空へと身を投げ出す。恐怖心は一瞬、懐かしい感覚に笑みすら浮かんでくる。
 風の抵抗が来る、浮いたのは一瞬。そして彼女は自重と重力に引かれて大地に落ちていく。なのはは風を感じるように両手を広げたまま告げる。


「レイジングハート! バリアジャケットは1から再構築するよ!! 今の私に相応しいバリアジャケットを!!」
『All right』


 なのはの声に応えるかのようにレイジングハートが応える。そして変化が現れた。
 なのはの全身を包み込むように光が走る。なのははその光の中で自分のイメージをレイジングハートに伝える。そう、全てをもう一度、1から始める為に。
 設定されていたバリアジャケットを一時設定から除外、バリアジャケット再構築開始。使用者のイメージを反映、設定構築……形成完了・展開開始。
 光を抜けて、なのはが空に再び現れる。なのはが纏っているバリアジャケットはUCATの装甲服に類似したものとなっていた。前開きしたスカートが風に舞い靡く。
 腰にはベルトが巻かれ、そこになのはが手にした概念刀「不破・雪花」が吊り下げられる。腕は刀を振るう事を考えてなのか軽装で、手のひらから肘までを覆う手袋のみ。
 なのはの流していた髪がツインテールに結ばれ、結ばれた髪がまた風を受けて靡いていく。
 なのはのブーツから光が溢れる。桃色の光が広がり、翼を形成する。それはなのはの飛行魔法。レイジングハートが自動展開で展開し、なのはに空を飛ぶ術を与える。あぁ、何もかもが懐かしい感覚。なのはは思わず頬を緩ませた。
 胸が疼く。形無き器官が悲鳴を上げているようだ。だが気にならない。この燻りが私の過ちを教えてくれる。ならば超えてゆこう。ならば抱えてゆこう。それが私なのだ、と。


「行こう、レイジングハート! 私たちの戦場へ!!」
『Yes!! all right my master!!』


 未だ本調子とは言えない。かつての輝きは未だそこには蘇らず。されど、不屈の翼がここに蘇る。


 
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