次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 12
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 男はただ恐怖していた。男はだから逃げ出した。這い蹲るように、ただ恐怖から逃れる為に男は駆け出した。なのははそれを見つめていた。追って捕まえなければ、と思う。だがその思考がどこか鈍い。
 そしてゆっくりとなのはの身体から力が抜けていく。それを支えたのは侍女だ。


「ぅ…っ…ぁ…れ?」
「血の流しすぎです。今、応急処置をします」


 そう言って侍従はなのはを座らせた。撃ち抜かれた腕に負担にならないように支えながらゆっくりと。座ったなのはの肩の傷口を手当てしていく侍従。その様子に安全を確認したのか士郎達がなのはの下へと寄ってくる。


「なのはっ!!」
「お静かに。傷口に触ります」
「うっ…な、なんだか貴方に言われるのは微妙な感じが…」


 思わず美由希がなのはの名前を呼ぶと、侍従がぴしゃり、と美由希を窘める。それに美由希が思わずジト目になって侍従を睨むという形になる。その視線に侍従は気にした様子もなく、スカートの中から医療道具を出してくる。それに思わず恭也が呟く。


「…なんでも出てくるんだな」
「なんでも、というわけではありませんが、最低限装備は常備しておりますので」
「まぁ、良いじゃないか恭也。何はともあれ、なのはは生きてるんだし、治療も出来るんだ」


 ポンッ、と恭也の肩を叩いて士郎が言う。それに恭也は少し納得がいかないような表情を浮かべるのだが、一応納得したように後は何も言わなかった。なのはの傍らに桃子がそっと座る。そしてなのはの顔を覗き込む。


「なのは…大丈夫?」
「お母さんこそ…怪我無い?」
「…馬鹿。自分の心配しなさい」


 触れられるならばなのはを抱きしめたかった。だが今、なのはは怪我をしている。無理に抱きしめるのは良くないだろう。代わりにと言うようになのはの頬をその手で撫でてあげる。なのはがくすぐったそうに顔を歪める。だが、嫌がった様子はなく、和らいだ様子だ。
 なのはの治療もおおかた終わった頃、美由希がふと呟いた。


「あの人、逃げちゃったね…」


 その言葉に誰もが顔を伏せた。だが、なのはと侍従だけは顔を上げていた。そして、なのはは美由希を真っ直ぐに見つめて。


「ねぇ。そんなに復讐したいの、お姉ちゃん」
「…なのは…」
「私は、して欲しくないよ。誰にも。そんなの悲しいだけだから」
「わかってる、けど…あの人は御神家を」
「でも、駄目だからね」


 なのはが強い口調で言い切る。それに、美由希は複雑な感情を得る。なのはの言う事もわかる。だが、家族を、親戚を殺された怨みは静かに根付いている。それを、掘り起こしてしまったのだ。そう簡単に、鎮められる物ではない。
 それに、なのはは美由希を真っ直ぐ見つめたまま告げる。明確な意志を以てして。


「するんだったら、全力で止めるから」
「なのは…」
「お姉ちゃんがどう思おうとも、絶対止めるから」


 なのはの言葉、美由希は複雑な感情を抱いたままではあったが頷いた。わかっている。わかっているのだ。だが、胸に抱いた複雑な感情を押さえ込むのは難しい。そんな美由希の肩を叩いたのは士郎だった。


「美由希」
「…お父さん」
「俺からも言うぞ。止めとけ。こうなったらなのははテコでも動かん。お前が復讐するなら本気で向かってくるぞ。恭也も、わかったな」
「……わかってる」


 美由希と一緒にするな、というように恭也は返すが、顔を背けているので本心はどうだか知らない。それに桃子がクスクスと笑みを浮かべている。士郎も、ふぅ、と溜息を吐いて。


「まったく、本当、我が儘な子になりやがって」
「…嫌いになった?」
「…いいや。まったく。憎たらしいけど、可愛い奴だよ」


 ぽんっ、となのはの頭を撫でて士郎は言う。それになのはが目を閉じて穏やかそうに士郎に身体を預ける。それを士郎は受け止める。するとなのははそのまま士郎に身体を預けて力を抜いた。そんななのはを支えて、士郎は瞳を閉じる。


「いつの間にか…こんな大きくなってたんだな…」


 そう呟いた士郎に、桃子が微笑みながら、同意するように頷いた。それに恭也と美由希は少し顔を見合わせた後に、微笑を浮かべて妹の姿を見守った。なのはは何も言わなかったが少し頬を赤らめる。
 その家族の光景を侍従の女がただ微笑ましそうに見つめていた。その家族という光景にただ無言で見つめていた。




    ●





 男は逃げていた。怯えていた。だから逃げていた。
 男は逃げていた。恐れていた。だから逃げていた。
 男は逃げていた。逃れる為に。だから逃げていた。
 男は逃げていた。生き延びる為に。だから逃げていた。


 だが、男は惨めだった。道具には裏切られ、模造の人間に反抗され、怯え、砕かれた。
 そして、こうして生き延びている。惨めに。愚かに。
 追ってこれた筈だ。あの悪魔が俺を見逃す筈がない。だが、俺は生きている。
 何故だ。何故だ、何故だ。何故だ何故だ何故だ何故何故何故ッ!!!


 逃げてもどうでも良いという存在だと言うのか。
 追う価値すらも無い卑小な存在だと言うのか。
 巫山戯るな。巫山戯るな。模造品ごときが、劣化物ごときが。
 見下すな、見下すな。見下すな、見下すなッ!!


「殺してやる…」


 それは、呪詛のように。


「殺して、殺し、殺して、殺し殺し殺してやる、ここ、殺してやる」


 それは、壊れたように。


「殺して、殺シて、殺シテ、殺シテやル。殺シテヤル。殺シテヤル…」


 だから、男は逃げる。
 殺してやる為に。俺を脅かす存在を排除する為に。俺が生き延びる為に。俺が恐れぬように。
 俺の存在という物を刻み込んでやる。俺という存在の価値をわからせてやる。
 後悔させて、絶望させて、何度も、何度も殺してやる。その存在そのもが死ぬまで何度でも殺してやる。何度も、何度も。


「殺シテヤルッ!! 御神、殺ス…ッ!! 殺スッ!! あのガキ…殺シテヤルッ!!」


 血走った目で、何度も転びながら、這い蹲りながら、ふらつきながらただ男は進んでいく。ただ、目的の為に、愚かなまでに。ただ、ただ1つの目的を追って…。
 そして、闇の向こうにその男は消えてゆく。呪詛をまき散らしながら、いつか安息の日を求めて。
 ただ深い闇の向こうへと消えてゆく…。




    ●





 とある室内の中に音が産まれた。その音の発生源は携帯電話である。流れるメロディに気づいたのは携帯の持ち主である青年。紫色の髪に金色の瞳。身に纏うのはUCAT局員の制服、そして白衣。彼は傍にあった携帯を手に取り、慣れた手つきでそれを開く。
 着信先の相手を相手を確認し、彼は、おや、と小さく呟く、口元に笑みを浮かべながら通話ボタンを押して電話を繋ぐ。それを確認した後、携帯を耳に当てる。


「もしもし。私だが?」
『はぁーい。ドクター。今、終わりましたよー』


 青年の携帯から聞こえたのは少女の声だ。それに青年はぴくっ、と眉を上げた。それから自らが座っていた椅子を回転させ、壁に背を預けるようにして携帯を持ち替えて耳に当て直す。青年の顔に浮かんだ表情の名は、愉悦。


「ふむ…。そうかね。「彼女」は生きているかね?」
『今美しい家族愛を熱演中ですよー。羨ましいですー。私も帰りたいですー』


 電話の相手のブリッ子ぶったような口調にドクターと呼ばれた青年は苦笑を浮かべた。ヤレヤレ、と言わんばかりに肩を竦めてから、ふぅ、と溜息を吐き出す。


「悪いが、代わってくれるかね?」
『えー、ドクター冷たいー。まぁ、いいけど。はい、姉様』


 ドクターと電話をしていた少女が若干つまらなさそうに呟く。だが駄々を捏ねる事無く、電話を近くにいたのだろう「姉」と呼ぶ人物へと渡したようだ。
 そして携帯電話からは先ほどの少女とは別の声が聞こえて来る。先ほどの少女から比べればもう少し年齢を重ねたぐらいの少女の声。


『ドクター。私です。高町なのはは健在です。多少の負傷を追いましたが生存しています』
「そうか。で、どうだい? 彼女は「強い」かね?」
『「強い」です。あれがドクターの言う「意志」の強さですか? あれが私達に欠けている物ですか?』
「感じてくれたかね? 意志の強さを。そう。君たちに欠けているのはまさにその「意志」さ。高町なのはは貫いてくれたようだね。ふふふふ、さすがに「悪役」が期待しただけの事はある。さすがだね」


 電話の先の少女の問いにドクターはただおかしそうな様子で笑う。心底、楽しげに。脳裏に思い浮かべる姿、さり気なく見てきたその姿は自分の目を引く。そして飽きさせてくれない。故に彼女は素晴らしいのだ、と。
 だがふとドクターは表情を変える。眼を細め、耳を澄ませるかのように沈黙する。その沈黙に電話の向こうの少女が「ドクター?」と怪訝そうな声でドクターを呼ぶ。対してドクターは口元をつり上げるように笑みを浮かべ、電話の向こうの女性へと告げる。


「悪いが、高町なのはの治療と運搬を頼めるかい?」
『何かありましたか?』
「何。楽しい楽しい宴だよ。是非に彼女をご招待したい。…あぁ、それから「彼女達」にも連絡を頼む。特に高町なのはには「アレ」が必要だろうしね」
『…なるほど。予想よりも少し早かったですね。了解しました』


 ドクターの言葉に少女は納得したように返答を返す。ドクターが頼むよ、と最後に少女に言葉を投げかけて通話を切った。ドクターが携帯電話を仕舞うと僅かに感じる振動音。それにドクターは小さく口元に笑みを浮かべて立ち上がる。


「さぁて、始まるね。最低か、最高か。悪か、正義か。この世界の命運はどちらの手に委ねられるのかね? まさにクライマックスだ。終わる為の、そして新たな始まりの為の宴が始まるよ」


 小さく再び振動音が響き渡る。それは、戦の音。それを耳にしながらドクターはただ口元に笑みを浮かべて笑うのみであった。
 そのドクターに歩み寄る1つの影があった。小柄な影だ。白色の装甲服の上にコートを纏い、白に近い銀髪を揺らしながら小柄な影はドクターへと近づいていく。


「ドクター。上で戦闘が起きた。万が一の為に地下へ避難を」
「いや、私は上に上がるとしよう。それが「ここ」での私の仕事だろう? では行こうかね、チンク。我らが戦場へ」
「…Tes.ここではこの返答でよろしいかな?」
「実に結構」


 ククッ、と喉を鳴らすかのようにドクターはチンクと呼んだ少女と共に部屋を後にする。振動音は確かに響いている。ふむ、と小さく呟き、手にグローブを填め、握りしめる。
 チンクはコートの袖から何本かのナイフを取り出し、指に挟むようにして構える。そしてドクターとチンクは同時に駆けだした。彼らの戦場へと赴く為に。





    ●





「さ、帰ろうか」


 既に夕日も沈みきり、夜になろうとしている。なのはの治療も済み、休憩も終わった所だ。これから家に帰ろう、と士郎が提案した。それに誰もが反対する事無く頷いた。
 ふと、その時だ。士郎は僅かな気配を感じて振り向いた。その手を小太刀にかけ、警戒するように気配の方向を睨み付けながら声を荒らげる。


「誰だっ!!」
「――敵ではありません」


 士郎の声に反応し、すぅ、と音もなく現れたのは一人の少女だ。紫色の短髪に切れ目の鋭い瞳。身に纏うのは白の装甲服。なのははその装甲服に見覚えがあった。あれはUCATの局員が装着する装甲服だ、と。
 見学の際に一度見たことがある程度のものだが、よく覚えている。それはつまり、この少女がUCATの関係者だと言う事がわかる。では、この少女は何者なのか? と思考を巡らせてなのはは少女を見つめる。年齢は自分よりも上、だいたいクロノと同じか、それより少し上ぐらいの年齢だろう。
 少女の背後からまた別の少女が現れる。なのはと同い年ぐらいか、少し下ぐらいの眼鏡をかけた少女だ。先に出てきた少女と同じ装甲服の上に白衣を纏い、茶色の髪を結んでいる。その少女はどこか小悪魔じみた表情で笑いながら前に出て。


「私たちはUCATの協力者でーす。敵じゃないですよー?」
「UCATの…?」
「はい。クワットロ、と言いますわ。以後、よろしく」
「私はトーレです」


 UCATと言われてこの者達の正体を把握出来るのは事情を知るなのはと、なのはから事情の説明をされた士郎のみだ。それ以外の面々はどうにも事態について行けていないのか、困惑の視線をトーレとクワットロと名乗った少女達に向ける。
 その視線にトーレは気づくような素振りを見せたが、すぐにその視線はなのはへと向けられる。ジッ、と真っ直ぐにトーレはなのはを見つめながら言葉を紡ぐ。


「時間がないので手短に話しますわ、高町なのは」
「は、はい?」
「現在、UCAT本部は「軍」による襲撃を受けている」
「えっ!?」


 クワットロと名乗る少女と、トーレと名乗る少女から告げられた事実になのはは眼を見開かせた。「軍」。それはUCATに敵対する謎の組織としかなのはは聞いた事は無い。だが、今はそんな事はどうでも良い、となのはは思考を巡らせる。
 重要なのはUCAT本部が襲撃されているという事実はわかった。全竜交渉部隊はどうした? もしかしてまだ解散したままなのか? だとしたら? ここから向かう? だが、あまりにも時間がかかりすぎないか? 間に合うのか? もし間に合わなかったら? なのははグルグルと思考を回す。そのなのはの思考を遮るように轟音が響き渡った。何の音か、と空を見上げてみれば一台のヘリが空に浮かんでいた。


「…高町なのは、どうしますか?」
「…どうしますか、って」
「疲れているならばお休みいただいても結構です。もう戦いたくないというのならばどうぞお戻りください。――貴方に、戦う意志はありますか?」


 トーレの問いかけになのはは一瞬の逡巡。だが、なのはの中で既に答えは決まっているようなものだった。
 12月24日。聖なる日、クリスマスに迫る世界の終末の日。それを防ぐ為に戦うUCATの存在。そしてそのUCATに敵対する存在がいて、今、戦闘になっている。そう。それだけで十分だ。自分が行くべき理由は。なのはは決める。この世界を守る為に。この世界を守り、そして…。


「…お父さん。お母さん。お兄ちゃん。お姉ちゃん」


 なのはは家族を見渡す。誰もが不安げな表情でなのはを見ている。明らかに心配をかけている。それもそうだ。先ほど負傷したばかりで、本来なら休むべきだろう。自分だって好きこのんで、望んで戦っている訳じゃない。
 だけど、今、自分が望む戦場がそこにある。自分が叶えたい場所の為の戦場がある。自分が選びたい未来の為の戦場がそこにある。ならなのはに行かない理由は無い。ここでUCATに倒れてもらう訳にはいかない。
 私の為にも。そして私が大好きなこの家族の為にも。そして…私の大事な友人達が住まうこの世界を壊させる訳にはいかない、と。


「…ごめん。私、行ってくるよ」


 決意は揺るがない。なのはの言葉に、美由希と桃子が何かを言いかける。だがその二人を制するように恭也と士郎が二人を抑える。美由希と桃子が自分達を押しとどめた二人へと視線を向けたが、口惜しそうに瞳を閉じて力を抜いた。
 士郎がなのはへと視線を向ける。なのはも士郎と真っ向に視線を合わせる。互いに交錯する視線。ふと士郎が口元を笑みに変える。だが眉は寄せられたままで、困った、という顔をしている。まるで仕様がない、と言うかのように。


「早めに帰ってこい」


 ただそれだけ。士郎はその一言に万感の思いを乗せてなのはに告げた。なのはもまた頷いて返す。当たり前、と言って笑うかのように笑みを浮かべて、なのはは大きく返事を返した。
 なのはは視線を移す。なのはが視線を移した先にはなのはが先ほど下した侍女がいる。彼女はどことなく不安そうな顔を浮かべてなのはを見ている。なのははその侍女に笑いかける。


「私の家族をよろしくね。私が居ない間、貴方に任せるから。また、襲撃がないとは癒えないし、ね?」
「…! はい! わかりました!」
「違うよ、そこはTes.だよ。契約の言葉、貴方は私に誓ってくれる?」
「…Tes.! 勿論でございます」
「なら、安心だ」


 侍従の返答になのはは笑みを浮かべて頷く。もう一度だけ、なのはは士郎へと視線を向ける。士郎はなのはの意図がわかったのだろう。侍女を頼む、と。士郎はなのはの頼みに頷く。
 士郎の返答を見てなのははありがとう、と言うように頭を下げて、前を向く。そこにはトーレとクワットロがなのはを待っている。なのはは二人に対して頷く。


「行きましょう。UCATへ!!」
「はい」
「それじゃ、ご案内いたしますわ」


 トーレがなのはの身体を掴み、ふわ、と空に浮かぶ。同時にクワットロも空へと浮かび上がり、空へと浮くヘリへと向かっていく。なのははふと、視線を下ろす。そこにはなのはを見送る家族の姿がある。
 ――守りに行こう。
 そう、守りに行くのだ、となのはは呟く。そして決意する。ここには守りたいものがたくさんある。だから壊させる訳にはいかない。そして壊そうとする者達にそれを伝え、阻み、守っていこう。
 ヘリのハッチが開く。操縦桿を握るのはUCAT局員の制服を纏った、トーレと少し似た雰囲気を持つ少女。その彼女の後ろにはUCATの装甲服を身に纏った緑髪の長髪の少女が手招きしている。


「トーレ! クワットロ! 早く早く! もう始まっちゃってるわよ!?」
「ドゥーエ姉様!!」


 軽い調子で告げる緑髪の女性、ドゥーエの姿を確認するとクワットロは勢いよくドゥーエへと抱きついた。ドゥーエも満更じゃない、という様子でクワットロを抱き返す。
 その間になのはを抱えていたトーレもヘリへと乗り込み、ハッチが閉じていく。それを確認すればヘリは空を駆けだす。
 なのはは空を飛翔するその様を窓から見つめていたが、ふと周囲に目を向けて問うた。なのはが問うのは現在のUCAT本部の状況だ。


「UCAT本部はどうなってますか?」
「私が答えましょう。……と、その前に初めまして高町なのは。私はウーノ。ウーノさんと親しく呼んでくださって結構です。はい」


 なのはの問いに答えたのはヘリを操縦する少女からだ。彼女は無表情のまま告げる。なのはもそれに頷く。なのはが頷いたのを確認するとウーノは状況を説明し出す。


「現在、UCATは「軍」と交戦中。しかし、どうやら自動人形達のネットワークが乗っ取られ、一部が「軍」に荷担し、状況は不利に追い込まれています。はい」
「じゃあ、ウーノさん、後どれくらいで着きますか?」
「可能な限り早く、とお答えしておきます。はい」


 言うことは終わった、と言わんばかりにウーノは口を閉ざし、ヘリの操縦に専念し出す。なのはもウーノの邪魔をするのは憚られたので、それ以上、ウーノに声をかける事は無かった。
 かわりに声をかけてきたのはクワットロだ。彼女は救急箱と似た箱を取り出しなのはの方へと歩み寄り、なのはの腕を取って明るく声をかける。


「はいはーい、なのはちゃん、って気軽に呼ばせて貰うわよ? 治療する傷見せて? 一応、応急処置はしているようだけれど、念には念をね?」
「あ…すいません」
「あら、敬語なんていりませんわ? 気軽にクワットロ、クワちゃん、クワッチとでも好きに呼んでくださいな」


 クワットロはそう言いながらも、手慣れた手つきでなのはの応急処置した包帯を取り、傷を見た後、趙が使っていたのと同じ符を用意し出した。恐らくは治癒用の概念が込められているのだろう。
 しかし手際の良い。なのははここでようやく疑問を覚えた。何故UCATの関係者がこうもすぐに自分の前に現れたのだろうか? と眉を寄せる。眉を寄せたなのはに気づいたのか、なのはに歩み寄ってきたのはドゥーエだ。


「何故、私たちが貴方にこうも早く接触出来たか? 疑問に思いました?」
「え…? あの…」
「ふふふ。これでも人の表情を見て何を考えているのかはわかるのですよ。職業柄でもありますが。まぁ、お答えすると、私たちは正規のUCAT局員じゃなくて、とある方の私兵なんですよ」
「とある方?」
「UCATに所属している、我らがドクターですわ」


 ドゥーエの説明に出てきたとある方、という謎の人物になのはは首を傾げる。ドクター、という事は恐らく医療班の人なのだろうが、医療班で会った事があると言えばなのはは趙しか知らない。


「ちなみに趙医療室長とは関係がありませんからね? 貴方がまだお会いになっていないお方ですわ」
「…じゃあ、何であなたたちは私を?」
「興味を」


 ドゥーエがなのはの問いにまず、一言を返す。その顔には笑みがある。まるでこれから楽しいものが見られるような、そんな顔をする。彼女はポケットに手を伸ばし、そこから何かを握り取り出す。


「そして期待を。貴方にドクターは期待しておられますわ。――翼をもがれた鳥はどこまで飛ぶ事が出来るのか」
「…っ…!?」
「貴方はもがれた翼でどこまで行きますか? 羽ばたかない翼は重荷なだけ。なら切り落としますか? それとも抱えますか? それとも――」


 ドゥーエは手の中にある「ソレ」をなのはに見せるように開いた。ドゥーエの開いた手の中に収まっていた「ソレ」になのはは眼を奪われた。「ソレ」の事をなのはは良く知っている。そう、何故ならばそれは――。


「再び、空を舞いますか? エース」
『…Master』
「レイジング…ハート…」


 ――唯一無二の、自分の相棒であったのだから。


 
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