次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 11
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 海鳴市郊外に形成された概念空間。3rd-G系列の概念「金属は生きている」という概念を持つ空間。その空間に響き渡るのは固い何かがぶつかり合う音。
 更に詳しく言うのならば、その音は金属音。その金属音を奏でるのは四人。


「くそっ!!」


 その内の一人、高町恭也は苛立ちを込めて舌打ちを1つ零した。息は荒く上がり、小太刀を持つ腕は力が入らなくなってきたのか小刻みに震えている。
 その視線の先には小太刀を持ちながら戦う妹、美由希の姿がある。美由希もまた息が荒く上がり、彼女に至っては二刀あった筈の小太刀の一刀となっている。空いた手は痺れているかのように痙攣している。
 その美由希と斬り合うのは侍従服を纏った女。笑みを浮かべながらも、美由希の身を切り裂かんとその奇妙な刀を振るう。その刀を美由希が受け止める度に苦痛に顔を歪める。


(人形というのは本当か…何なんだあの力は。斬り合う度に握力を奪っていく)


 そう。この戦いが始まってから数十分という時間が経過したが、美由希は小太刀を一刀喪失し、恭也も限界が近づいている。未だ健在だと言える士郎がいるが、彼もまたすぐに息が上がるのが目に見えてわかる。
 彼は一度身体を壊してる。その後遺症はじわりと士郎の身体を蝕んでいる筈だ。この中で一番まともに戦えると言えるのは恭也であろう。美由希は健康ではあるが、いささか経験が足りない。士郎は後遺症があり、長時間の戦闘は危うい。自らも怪我を抱えているとはいえ、それを差し引いてもこの中で戦えるのは自分だ。
 その結果がもはや刀を持ち上げる事すらも叶わぬ現状。受け止め続けてきた侍従の圧倒的な力の前に力を奪い尽くされた。


(ちくしょうっ…! このままじゃ…)


 マズイ。恭也の額から汗が零れ、地へと落ちていき吸い込まれていく。なんとか立ち上がるも腕は限界に近い。だがそれでも立ち向かわなければならない。そして一歩、踏みだそうとしたその時だ。士郎が前に出る。恭也よりも早く前に出て、先に斬り合っていた美由希を援護するかのように小太刀を振るう。
 美由希をはじき飛ばし、美由希が転がりながらも離脱する。そして士郎の刀を受け止めようとして…士郎が、刀を捨てた。


「なっ!?」


 恭也は思わず士郎がなにをしたのか理解が出来なかった。何故、刀を捨てる、と。
 武器を捨てるのは自殺行為だ。そう思い、思わず叫びそうになったとき、士郎が既に動いていた。相手の刀を掴む手を握り、ねじ切る勢いで捻る。
 それに侍従が刀を手放した。あら、と驚いた声を零し、驚いた顔で侍従がその刀を見つめている。そして士郎の拳が侍従の腹へと決まった。それに蹈鞴を踏んで後ろへと下がる侍従。幾度か蹈鞴を踏んだ後に後ろへと跳躍し、距離を取る。


「やはりこれが原因か」
「これは恐れみました。気づきましたか、その刀の効力に」
「刀の効力?」


 恭也がどういう事だ、と士郎が奪った刀を見ながら呟く。それに士郎が刀を握りながら侍従の女を睨んで。


「概念。それはそうであると言わざるを得ない物。それ自体が「そうである」という法則で動いてる物だったか。これにはおおかた「刀が感じた衝撃をそのまま接触した物に返す」とか、そんな感じか? 単純な力じゃないみたいだしな。お前が怪力であるならば素手で戦った方が速い。わざわざ刀で戦う事がおかしい」
「お見事。さすがは御神の剣士。予備知識はあるとはいえ、そこまで推測なさいますか。おおかた正解と言わせていただきましょう」
「お前は人形だからいくら壊れようとも気にはしない。だが人間はそうもいかない。…人形らしい武装だな」


 侍従の女が拍手をしそうな勢いで言葉を紡ぐ。それに士郎が吐き捨てるように嫌悪感を醸し出しながら侍従を睨む。それに侍従は微笑むだけだ。
 睨み合いの沈黙は一瞬。それを打ち破ったのは、戦場より少し離れた場所より、人質の桃子と共に鑑賞する男。


「負けたか!? 負けたな!?」
「はい。申し訳ありません」
「いや、構わない。さすが御神。強いな御神は!! 素直に拍手をして褒めてやろう!!」


 馬鹿に見える程、男は手を叩き愉快そうに笑う。それに士郎達の顔が忌々しそうに変化する。隣でこちらを心配するように見る桃子がいる所為で尚更感情を逆撫でされる。
 今すぐにでもその顔を殴り飛ばしたい衝動にかられながらも、それは出来ない。今はあちらが設定したステージで踊るしかない。その中でどうにかして桃子を救出しなければならない。
 そう考える士郎を嘲笑うかのように、男は拍手を止め、やれやれ、と言うように肩を竦めた。


「まぁ、良い。負けようが負けまいが、所詮「剣術ごっこ」はこれでオシマイだ」
「なにっ!?」
「もう遊びは終わりと言う事だよ」


 男がそう告げるのと同時に侍女の様子が変わる。侍従服のスカートの下から次々と機械の部品が飛び出す。その光景に恭也と美由希は一瞬呆然とした。一体何が起きている、と。
 その中で、唯一士郎だけが活動出来た。その機械の部品を見て、士郎は目を驚愕に見開かせて――。


「走れっ!! 恭也ッ!! 美由希ッ!!」
「掃討いたします」


 士郎が叫ぶのと同時に宙でパーツが組みあげられ完成するのはガトリングガンと呼ばれる兵器。士郎の叫びと同時に駆け出していた恭也と美由希はそれに驚愕の表情を浮かべる。そして三人が瓦礫を壁にして、そこに逃げ込むのと同時に、銃弾が発射された。
 ビルの壁が銃弾を遮る。その轟音に美由希は悲鳴を上げながら耳を押さえ、恭也と士郎も耳を押さえながら顔を不快気に歪める。暫くしてその音が鳴り終わる。弾を撃ち尽くしたのか、と思い、士郎が立ち上がろうとして。


「弾はまだあります。少なくとも、その瓦礫を破壊するだけは。どうぞご賞味あれ。そして、さようなら」


 二度目の銃撃の音が響き渡った。侍従の言う通り、何発も撃たれたビル壁はもう今にも壊れそうである。逃げられもしない、今から逃げよう物ならば狙い撃たれて蜂の巣だ。
 撃たれる前に仕掛けられるか? いや既に距離もある。それにあの空中でパーツであった筈のガトリングガンを形成したのだ。リロードも人の手で行うのより明らかに速いだろう。
 そして結局は蜂の巣だ。絶体絶命。それが三人の心の内に浮かんだ思い。美由希は涙が零れた。こんな所で死ぬのか、と。恭也も悔しげに地面に手をついた。歯軋りでもしているのだろうか、俯いたその表情はわからない。
 士郎もまた無念そうに瞳を閉じた。心の中で捕らわれた妻に、そして自宅に置いてきたなのはに謝罪の言葉を紡ぐ。二度目の銃撃音が止まった。絶望する士郎達の耳に届いたのは三度目の銃撃音…――では無かった。


 ――キィンッ!!


 高らかに鳴り響いたのは金属が切り捨てられる甲高い音。思わず士郎は顔を上げた。銃撃は来ない。その銃撃を撃つ筈のガトリングガンは真っ二つに切り捨てられている。
 一体何が、と思った瞬間だ。侍従の女がその場より飛び退いた。ガトリングガンの残骸が地に落ちる音が響く。


「な、何だっ!?」


 男が驚愕の叫びを上げるのと同時に「何か」が走る。ソレは男の身体を突き飛ばし、そして男の身体が突き飛ばされたと思えばそこにいた筈の桃子の姿が消えた。一体、何が、と思った時に、隣に気配が産まれるのを感じた。桃子を背負うように抱えた小さな姿。桃子とよく似た髪を風に流し、コートを纏った少女。


「…なのは?」


 それは、先ほど思い浮かべた末娘の姿であった。なのはは桃子を背から降ろし、鞘に収めた小太刀を握る。士郎が父親に託された形見の小太刀。その小太刀は、本来鍔がある部位に埋め込まれた宝石を淡く輝かせ、光を放っている。


「…高町なのは」


 ぽつりと侍従の女が呟く。その顔に浮かんでいた笑みは消え、そこにあるのは怪訝そうな顔。突き飛ばされた男が立ち上がり、なのはに向けて指を差して。


「き、貴様…っ!!UCATから概念兵器を手に入れていたのか!?」
「違う」


 男の叫び、なのはは応える。ゆっくりと立ち上がり、一歩、二歩、前に出てその場に立つ。凜とした視線が男の視線と真っ直ぐに向かい合う。そして小太刀を構えながらなのはは告げる。


「これは託された物。不破恭也と不破雪花によって残された御神の為の…私の為の刀。御神を守護する為に私に託された想いだ」


 なのはの言葉を聞きながら士郎はなのはに一体何があったのか、と考える。先ほどの動きは何だ。明らかに「神速」、つまりは「御神の剣士」の物に士郎は思った。
 だがしかし、なのはには御神流は教えていない。動きは恭也が見せたようだが、それを模倣したとでも言うのか? 
 なのはと対峙する男が眉を寄せて表情に困惑の色を表す。士郎も困惑していた。なのはの言葉の意味が掴めない。隣でなのはを見やる恭也と美由希は士郎より困惑した顔でなのはを見ている。無理もない。まったく彼等には事情がわからないのだから。


「私からも聞くよ。どうして御神家に復讐を?」
「貴様…概念戦争の事を知りながらも聞くかっ!?」
「一応ね」


 なのはの問いかけに男は怒りの色を表しながら問いかける。それに、なのはは何でもないように呟く。それに、男が目を見開かせ、そして次には憎悪の色を表情に浮かべた。


「…一応、だと。貴様…っ…貴様は自分の世界が他人の世界を滅ぼし、その復讐の理由を、一応だとっ!?」
「御神家が滅ぼしたわけじゃない」
「共犯者だっ!! 共に裁かれなければならないっ!!」
「それでも今の御神には関係ない。お父さんの代から佐山家との繋がりはあったけれど、概念戦争との繋がりは無いよ。だから一応だよ。私は理解するつもりは無いよ。私はやっぱり関係ないと思うし、過去の人の、しかも知らない罪で裁かれるのは御免だよ。そして私はただ家族を護るだけ。今を護るだけ」


 ただキッパリとなのはは拒絶の意志を継げる。理解するつもりは無い。だから一応と彼女は告げる。なのはの言葉に男の顔が醜く歪む。まるで悪鬼のようだ。その表情のまま男は命じる。ただ、殺意を持ってして命令を自らの人形に告げる。


「この小娘を殺せぇえええっ!!!」


 そして、侍従が手にしたのは二丁の拳銃だ。スカートの下よりパーツが飛び出て空中で形成され、侍従の手に収まる。響く銃撃音。それになのはが走り出す。


「なのはっ!!」


 士郎の叫び声が響く。それに、なのはは一瞬振り返り、士郎、恭也、美由希、桃子。そこにある姿を全員を見据えて、1つ、頷く。
 大丈夫だ、そう言わんばかりになのはは頷いて。


「そこにいてっ!!」


 ただ、それだけ。それだけ告げるとなのはは戦場の中を駆け抜けていく。
 廃ビル地帯に銃声が響き渡る。それに打ち消されてはいるが、確かに、その地を駆け抜ける音は聞こえる。態勢を低く、地を這うように走るのはなのは。
 なのはを狙って銃を放つのは一人の女、その身に纏った侍従服の裾を翻しながらなのはを狙う。放たれる銃弾。それを回避すべくなのはは動く。
 侍従はなのはの動きを予測し、先回りに撃っているが、なのはにはそれでも当たらない。


「何故だっ!?」


 その光景を見て、侍従の主である男は驚愕の叫びを上げる。たかが子供、例え御神の血筋を継ぐ子供であろうとも、所詮は子供である筈だった。呆気なく、その屍を晒すヴィジョンが男の脳裏には移っていた。
 しかし、今、なのはは男の予測を裏切るように動き続けている。何故だ、何故だ、と男は呟き続ける。そして状況は変化する。侍従の女が立ち止まる。同時に、なのはの動きも止まる。
 怪訝そうに、侍従の女はなのはを見つめる。その視線を真っ向から受けたなのはの顔には、何も表情が浮かんでいない。無表情だ。


「…何なのですか。貴方は」


 侍従の女が問いかける。以前とあまりにも動きが違い過ぎる。竜徹の訓練で鍛えたと言っても、この2週間でこれほどまでに強くなれるのか? と。それになのはは何も答えない。ただ手に握りしめた概念刀を構え、警戒するように視線を向けるだけだ。
 侍従の女が、それに合わせて拳銃を向ける。それに、再びなのはが動き出す。侍従も再びその動きを追うように銃を構えながら動く。
 今度は銃撃が響かない。ただ、地を蹴る音、地を滑る音、地を移動する音だけが響き、互いに手の内を探るように。
 その光景を、士郎は観察していた。やはりなのはの動きは「完成」された御神の剣士の動きに近い。しかし? 何故? 一体なのはに何があった? だが士郎にはわからない。わからないからこそ困惑する。だから士郎はなのはを見つめるしか無い。
 思わず、拳を握りしめる。今すぐにでもなのはを助けに行きたい。だが…士郎はいま、この場を離れられない。戦う事の出来ない桃子がいる為だ。今、まともに戦えるのは自分だけだ。恭也と美由希はまだ腕が完全に回復仕切っていない。
 なのはは、それに気づいていたのだろう。だからこそ桃子達を士郎に託し、今、なのはは侍従の女と対峙している。それを歯がゆい思いを抱きながら士郎は見つめる。どうか、彼女が無事であるように、と神に祈る。
 なのはは地を駆ける。やけに調子がよい。それに少々の疑問を覚えるも、足を止める訳にはいかない。そんな余裕は無いのだ。


(…不味いな。この人、強い)


 侍従の女と対峙するなのはは思わず心の中で呟く。最初はこちらの動きに戸惑っているようだったが、次第にこちらの動きに合わせてきた。最初はなのはも戸惑っていた。こちらの動きに何故か違和感を相手は覚えていたように攻撃はことごとく外れた。
 だが今は段々とこちらの動きに合わせてきている。だが、なのはは移動しながら考える。これも魔導師であったなのはが持ちうるマルチタスクの恩恵である。並立して思考する事により、回避と思考を両立させる。そしてなのはの頭の中では相手の戦力の分析をしていた。結果、相手の方が強いという事実だ。
 だが、勝機が無いわけではない。それになのはは思わず口元を緩めそうになる。いつだってギリギリの戦いを強いられてきた。最初にフェイトと戦った時。次にヴォルケンリッターと戦った時。リインフォースと戦った時。どんな状況もいつもギリギリだった。
 そのギリギリの緊迫感がなのはの闘争本能に火を付ける。戻ってきた。そう実感する。失った筈の戦場を今ここに取り戻した。


(いつだって、どんな時だって、ギリギリの敵が相手だった)


 なのはの動きに合わせた侍従の放った弾丸がなのはの頬をかすめる。それに小さく舌打ちをしながら回避に専念する。だが、次第に、衣服を掠め始める。だが、それでもなのはの心に恐怖は湧かない。
 いや恐怖が湧かないわけではない。恐ろしいと思う。だが、その恐怖から逃げるわけにはいかない。いつだって向き合ってきたのだから。


(もう慢心はしない。私は怖い。そうだから常に最善を選び取る)


 自分にとっての最善を選び、そして勝ち取る。どれだけ勝ち目が低くても、わずかな可能性にかじりついてでも勝ち残る。地を這い蹲る結果になろうとも、どれだけ惨めであろうとも。今出せる全力を以てして勝利する。敗北には何も残らない。故に。


(負けない…。負けるわけにはいかない!!)


 だからこそ、呼吸を合わせてくるなら来れば良い。


(それが、貴方の慢心)


 討ち取れると思うな。相対する者を測り損ねるな。自分に慢心するな。されど不遜たれ。相手は己に負ける。己は勝利を手にする。生きて、勝ち残って、そして私は笑って見せる。護る為に。ただ、それだけを賭けて。


「――詰みです」
「ッ!?」


 眼前に銃口が突きつけられる。なのはの目が見開かれる。狙いは心臓。回避した所で直撃は免れない。ついに完璧に呼吸を読み取られた。なのはの動作に合わされた銃口は、確実に彼女を捕らえる。


「おやすみなさいませ」


 そして侍従のトリガーが引かれた。鳴り響く銃撃音はどこまでも高らかに響く。


「フィン展開!!」
「――ッ!?」


 その瞬間、桃色の閃光が走った。しかとなのはを捕らえた筈の銃弾は地に突き刺さる。なのはは既にその場を離脱している。先ほどはなった桃色の閃光は消え失せている。


(これは、一体!?)


 驚愕。当たると思った筈の銃弾が外れた事により侍従はただ驚く。先ほどまでの行動パターン、相手の動きからして回避出来ない、確実に仕留められるコースに弾を放った筈だ。
 だがそれでもその弾丸は彼女を捕らえる事が出来ず、今、彼女の姿は消えている。一体どういう事だ、と。だが侍従の身は対御神として強化された身。高速機動による戦闘ならば、こちらが負ける筈が無い、と。
 すぐさま状況を確認。周囲の情報を取り込み、なのはの動きを捉える。先ほどの急加速は何なのかはわからないが、それでも修正は完了している。そして――侍従は見切った。


「そこですっ!!」


 放たれた銃弾。そこに驚愕の表情を浮かべるなのはの姿がある。


(取りました!!)


 確信する。確実に撃ち抜いたと、そうとすら思った。だが、次に彼女の予測が出来ない光景が発生する。桃色の光。再びその光が煌めいた。その輝きは、恐らく、この身朽ち果てるその時まで覚えているだろう。
 そうとさえ覚えた。その光は守護の光。ただ、護るという意志を込めて形成された意思の結晶。


「ラウンドシールドッ!!」


 描かれたのは円形の何か。もしも知識がある物ならばそれをこう呼ぶのだろう。「魔法陣」と。そして更に知る者ならばこう言うのだろう。「ミッドチルダ式」の魔法だと。
 なのはを狙った弾丸はその光の盾に弾かれる。だが弾くのと同時に盾が消失する。なのはのリンカーコアはまだ癒えきってない証拠。だが、それで十分だ、となのはは疾走する。


「ハァァアアアアアアアッッ!!!」


 咆哮を上げながらなのはが迫る。それに侍従はただ驚愕するだけだ。予測不能、理解不能。この者は一体なんなのだ、と。


「ッ!? 貴方は、一体っ!?」


 何なのですか!? と戸惑いの疑問の声は途切れる。問う前になのはの剣線が走ったからだ。地を踏みしめ、身体の捻りを最大限に利用し、下から上へと描く剣線。侍従の持つ拳銃を切り裂き、回転。斬鉄の音が響き渡る。
 本来なら刀では銃を斬るなど不可能である。だが、それを可能にするのが、なのはの持つ概念刀「不破・雪花」の片割れ「雪花」の効果。希望を写し取るその刀は、なのはの望む物を切り裂く。ただ、なのはの望みを完遂する為に、その刀は振るわれる。そう、脅威を断つ、と。ただそれだけを込めてなのはは小太刀を振るう。
 武装を奪われ、半ば呆然とする侍従。すぐに気を取り戻し、身を引こうとした侍従になのはは刀の切っ先を侍従の首に突き立てる。


「貴方の負けです」
「…馬鹿な…こんな事が…」
「私にはあって、貴方には無かった物がある。だから貴方は負けた」


 なのはの言葉に侍従の女はなのはへと視線を向ける。理解不能のそれを求めるように。


「力があれば勝てるんじゃない。私には確かに人に無い力がある。だけどそれを目的の為に為すのは…意志。ただ、それだけ。貴方は役割を果たすだけ。そこに意志はない。使命はあっても意志はない。だから貴方は負けたんです」


 諦めない。護る。その意志を以てしてなのはは彼女を下した。例えどれだけ不利な状況であろうとも退かぬという意志。それが限界以上の力を引き出す。それに侍従は思わず、衝撃を受けるのと同時に納得してしまった。
 今まで知る事の無かった事を知った。意志とはそんなにも強い物なのかと。与えられた力が、蓄えられた知識が、それが勝利の鍵だと思っていた。だがそんな物は所詮あるだけである。ある物を使うだけでは勝てない。明確な意志を以てして、それを使い、最善を導き出す。それが侍従には無く、なのはにあった力。


(…最初から、敗北していたというわけですか。意志など、私には存在しない)


 思わず眩しいとさえ思ってしまった。視角機能に異常は無い。それでも、眩しいと感じてしまった。目の前の彼女に。叶わぬ存在に。ただ、敗北の念を抱きながら。
 そして彼女は見てしまった。彼女の主が、その手に拳銃を構え、こちらに狙いをつけているのを。狙いはなのはだ。それに気づいた士郎が叫んだ。


「なのはッ!! 避けろッ!!」
「え?」



 なのはが振り向いたのと同時であった。男の手にした拳銃の引き金が引かれ、銃声が、響き渡った。なのはは避けようとしたのか、身体を僅かに動かし…――侍女を突き飛ばした。
 侍女がなのはによって突き飛ばされ、なのはの腕を銃弾が貫いた。


「……ぁっ…ぐ……!」


 ぼたぼた、と、血が落ちる音が響いた。なのはが腕を押さえてその場に膝を突く。その様子を呆然と見つめる侍女。その視線の先には拳銃を構えた主の姿がある。
 何ら不思議ではない。彼が復讐したいと申していたのだ。だからこれは当然の結果である。私に気を取られていた為に彼という最も警戒しなければならない者を疎かにした。
 だが、それに何故、呆然としている私がいるのだろうか。それがただ、理解出来ない。


「なのはッ!!」
「動くなっ!! その小娘が死ぬぞっ!!」


 士郎達が駆け寄ろうとしたが男の叫びに動きを止める。それに士郎達が思わず唇を噛み締める。そして男は忌々しそうに顔を歪めながらなのはへと近づいていく。
 そしてなのはに近づけば、膝を突いたなのはを踏みつける。それによって勢い良くなのはが地面に叩き付けられる。


「がっ…!?」


 叩き付けられた痛みになのはが痛みを堪えるような声を挙げた。なのはを踏みにじりながら、男はギリッ、と歯軋りを立てる。ふと、なのはは見上げるように睨みながら、声を漏らした。


「何で…」
「…ん?」
「何で、この人まで撃とうとした…?」


 なのはの問いに男は驚いたように目を丸くした。それから男は狂ったように笑い始めた。なのはの腕を踏みしめる足に力が込められる。それになのはが苦痛に表情を歪める。そしてそのまま男は狂ったように叫び始めた。


「道具をどう扱おうが俺の自由だ!! お前が、いなければっ!! こんな不愉快な思いはせずに済んだッ!! いつも、いつも御神はそうだ!! 関係ないとほざいておきながら常に近い所にいて、守護者を気取る!! いつだって!! いつだってっ!!」


 血走った目でなのはを何度も踏みつける男。なのはの顔が苦痛に歪み、歯を噛み締める。だが、気丈にもなのはは悲鳴を上げなかった。必死に歯を食いしばり、男を睨み付ける。


「貴方、は……ただ怨んでるだけじゃないの……?」
「…なに?」
「まるで…嫉妬、してる」


 なのはの言葉に、男が蹴り上げ、転がったなのはの撃ち抜かれた腕を更に踏み付ける。今度は耐えきれなかったのかなのはの悲鳴が上がる。苦痛に喘ぐ姿に、美由希は口元を思わず抑えた。
 恭也が憤怒の表情で今にも飛びだそうとしている。桃子に至っては顔が真っ青で今にも気を失いそうだ。感情を完全に押し殺した士郎が歯軋りに音を立て男を睨み付ける。


「嫉妬…そうだなぁ。そういえば、貴様はよく似ている。あの男の妹に」
「…あの、男…? 妹…?」
「御神恭也。俺の世界の御神家の小僧。そして、その妹の御神菜乃花。あぁ、憎らしい奴だ。いつだって俺の邪魔をする。俺は関わりない、という顔をしながらいつだって全てに近い位置にいた!! あの御神恭也は!! あぁ、あぁ忌々しいっ!!」
「…俺の、世界?」


 苦痛に顔を歪めながらもなのはが問いかける。それに男は、ふんっ、と鼻を鳴らして。


「そういえば貴様には何も知らなかったなぁ…。偽物」
「…にせ、もの?」
「そうだ! お前はな、俺の世界の偽物なんだっ!! この世界は俺たちの世界、Top-Gの偽物なんだよっ!! 最低のG、Low-Gは!! つまりお前は本物を殺した!! 滅ぼした!! 親殺しだ!! 他のGも全て滅ぼした兄弟殺しだ!! 悪魔のGだなッ!!」


 男は愉快そうに笑う。そして、なのはの腕を踏みにじりながら更に言う。


「偽物が本物に逆らうな模造品如きが。模造品は模造品らしく廃棄してやる」
「――な…に…?」
「何だ? 聞こえなかったか? 偽物が本物に逆らうなと言ったんだよっ!! この劣化物――」


 男の言葉は最後まで言えなかった。その周囲を支配したのは殺気。男の憎しみすらも飲み込む殺気だ。思わず男は殺気に呑まれて、蹈鞴を踏んだ。そして瓦礫に躓いたのかその場に尻餅をつく。
 殺気を放ったのは士郎でもない。恭也でもない。美由希でもない。ましてや桃子でも、侍従でもない。


「――偽物だから? 偽物だから…死ね? 逆らうな? 劣化物?」


 撃ち抜かれた腕を抑えながらなのはは立ち上がった。俯いる為か、前髪が隠れてその瞳が見えない。そして、なのはから放たれた濃厚すぎる殺気が、男を萎縮させる。子供が何故こうも殺気を放つ事が出来る。おかしい、こいつは一体なんだ、と男は狼狽する。
 なのはは完全にキレていた。怒るという行為すらあまり起こさないなのは。だが、今現在、本心に正直になりつつあるなのはは感情的になりやすい。そのなのはの前でこの男は侮辱した。「偽物」に対して。
 脳裏に浮かんだのは、親友の顔だ。その友の名を、フェイト・T・ハラウオン。


「偽物だから何ッ!! 生きる資格が無いって!! 逆らう資格も無いって!! ただの劣化物だって、そう言うのっ!! 違う!! 偽物だから、じゃないっ!!!!」


 穢した。彼女という存在を。否定した。あの子の存在を。彼はフェイトなど知らないだろう。だが、偽物に対しての言い分は認めるわけにはいかない。
 その差異で親友がどれだけ悩んでいるのか、なのはは知っている。それに対して、ただ、支える事すらも出来ない自分を悔やんだ事が何度もある。
 今となってはそれで十分。それだけで十分と思えるようになった。踏み込める物ではない、と。だが、だからこそ、なのはは許せなかった。目の前の男の言葉に。


「巫山戯ないで…ッ!! 偽物だから死ねと言うのならば本物だから生きるとか!! 違う!! そんなの違うッ!! 命はそんな物じゃないッ!! 偽物も本物も関係ない…ッ!! 生きようとする人に、偽物も本物も関係ないっ!! ただ生きようとする意志1つ1つが大事なんだっ!!」


 この撃ち抜かれた腕の痛みが何だ。こんな物、認められない痛みに比べればどれだけ軽い物か。私は怯えていた。家族になれるか、と不安になっていた自分が。そして、家族でいて良いと言われた自分がどれだけ心救われたか。居場所があるということが、どれだけ救われた事が。
 だったら、フェイトの感じた幸福はどれだけの事なのだろうか。
 偽物と否定され、一度は心を壊したと思った程傷付いた彼女が、今望まれて生きている場所で、どれだけ救われたのだろうか。想像なんて出来ない。家族という居場所が出来ただけでこれ以上の無い幸福に包まれたなのはにはわからない。わからないからこそ、それは尊いのだとわかる。


「皆生きたい!! そんなの同じだっ!! そのために色んな悪い事をするかもしれない!! 罪を犯すかもしれない!! 悪い事は悪い事だよっ!! でも、それを全て否定するなんて間違ってる!!
 もし世界の全てが、人の全てが悪に罰を与えると言うなら私はその間に立って見せる!! 悪を裁き、だけども悪だからと言って理不尽にも裁かせない!! 例え貴方の復讐が正当な物だったとしても、私はそれを行わせない!! 受け止めて!! 何が正しいのかを探す!! それでもぶつかり合うしか無いなら全力でぶつかり合うよっ!! この世界に、絶対正義も、絶対悪も無い!! ただ生きたい意志が、人を生かしてるんだっ!! そこに正しいも間違っているも無いよっ!! それで誰かを傷つけても私は怯まない!! 恐れない!! それが、生きるって事だと思うから!!」


 ただ正しいと認めずにただ間違っていると認めずに、ただ、全てを受け止めて判断する。
 それは傲慢までの正義感。貪欲な程までの身勝手。対極に位置する物なれど、その矛盾を内包しなのははここに立つ。全てを認め、また認めず、全てを許し、また許さず。
 ただ全てを判断するのはなのはの意志によって決められる。なのはの目の前で起こる事が正しいのか、正しくないのかはなのはによって判断され、なのはによって行われる。
 理不尽までの傲岸不遜。だが、それを認めぬ者すらも寛容する聖者。人は光と闇を抱える。だが、高町なのはの光はより光輝き、その闇もまた暗く深い。故に、良くも悪くも、彼女は中心点となる。讃えられ、疎まれ、その感情の中心となる。


「認めなくて良い!! 私は、認められたいわけじゃない!! 認めるなら勝手に認めて、認めないなら認めるないでいい!! 私に望むよ!! 認めさせる為に!! その為の力を!! 身勝手? 好きに言えば良い。私は全て受け止めるよ!! 刃向かうなら刃向かって来てよッ!!私はただ私の力を以て全力で向かい撃つから!!!」


 告げた信念はここに。だからこそ、彼女は声を高らかに叫ぶのであろう。


「悪魔でも良いよ。悪魔らしく!! 私は私らしく生きるから!!!」


 誰よりも優しくて、誰よりも傲慢で、誰よりも強くて、誰よりも孤独。
 悪魔はただ、一人の舞台劇で踊る。それに刃向かう物は地に伏せさせ、従う物は観客席でその寸劇で笑いを誘う。
 ただ一人、一人でありても悪魔は踊る。ただ、自らが正しいと、ただ間違っていると、全てを認めながらも踊り狂う。


「だから、貴方は認めない!! 偽物だからと否定するという貴方を認めない!!!」


 一歩、強く踏み出し、犬歯を剥き出しにして今にも男に飛びかかろうとする。それに男は怯えた悲鳴を上げた。目の前にいる子供はただの子供ではない。自身の理解の範疇にいない、外れた存在だ。
 彼女の言う通り、彼女は悪魔なのかもしれない。それが、彼に恐怖を与える。


「こ、殺せッ!! その化け物を殺せェッ!!!」


 なのはの後ろで呆然としていた侍女に命令を下す。それになのはが侍女に視線を向ける。


「…貴方は見捨てられても、従えるの? 私に負けたのに、まだ戦うの?」
「…それが命令ですので…」
「だったら私が命令してあげるよ。敗者が、勝者に逆らうの?」


 その言葉に侍女は動きを止めた。本来ならば、主に従うのが正しい在り方だ。だが、それは本当に正しいのだろうか? 私は、ただの人形だ。意志無き者だ。だから、他人に使役されなければならない。使役される事が我が幸せなのだから。
 だが、今の主は、本当に相応しいのだろうか。今、主の命に従えば、恐らく自分は勝てない。そして、目の前の少女に従えば――――。


「矛盾した命令。どちらに、私は従えばよろしいのでしょうか?」
「なっ!? 何を言っているのだっ!? お前の主は私だぞっ!!」
「……貴方はどうしたいの?」


 慌てふためく男を無視し、なのはは静かに問いかける。その様子に侍女は目を伏せる。


「私は感情が、経験がありません。私は主に従う事が使命であり、それが至上の喜びです。しかし、今私を「使役」出来る「資格」を持つ者は二人います。故に、私は動けません。ですから、私はどうすれば良いのでしょう? 私には選ぶ事が出来ません」
「な、何を、何を言っているのだっ!!」


 男の叫びはあまりにも滑稽で醜い。それになのはは一瞥をしただけで、再び視線を侍女の方へと移した。その瞳と真っ向から、侍女は向かい合う。先ほど述べたとおりに。


「だったら問うよ。どちらが上かな? 私か、彼か。優先すべきを選んで。判断基準は何でも良いよ。そして…私を選ぶならこの手を取って」


 なのはは手を差し伸べた。ただ、笑みを浮かべて。それは、見る者によっては天使、あるいは悪魔へと姿を変えるだろう笑み。たとえ、天使であろうとも、悪魔であろうとも構わない。
 侍女は思う。彼女ならきっと…従うべきに値する、と。何より、私という存在が彼女という存在に魅せられている。ならば、既に答えなど決まっている。


「はい。我が主、高町なのは」


 そして、侍女はなのはの手を取り、従属の意を示すかのように跪くのであった。

 


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