次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 10
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 海鳴市の郊外に存在する打ち捨てられた廃ビル地帯。そこに三人の影が並ぶ。
 高町士郎、高町恭也、高町美由希。御神家の血筋を受け継ぐ御神の剣士。今、彼等は家族である高町桃子を連れ去った女に指定された場所まで来ていた。
 そこで士郎は腕を組んで瞳を閉じている。瞳を閉じる中、先ほどまで恭也と美由希とかわしていた会話を思い出していた。


「気配が察知出来なかった?」


 廃ビル地帯へと向かう道中、士郎は桃子を連れ去った女の情報を恭也と美由希に求めた。すると恭也も美由希も口を揃えて言うのだ。気配を察知出来なかった、と。


「本当、急に突然現れたんだよね…気配を消してたとか、そんなレベルじゃなかった」
「完全に気配が無かった。攻撃されるまで気づかなかった。まるで、いなかったみたいに気配が無い」


 気配が無い相手。士郎はそんな相手と対峙すると知れば緊張を深めざるを得なかった。そして敵の手には桃子も渡っている。下手を打つ事は出来ない。だが、焦ってどうにも出来る問題でも無い。
 だからこそ心を静かに落ち着ける。いつでも、どのような対処も出来るように。ふと士郎が目を開き、腕につけた時計を確認する。時刻は、4時59分を差していた。
 秒針が静かに刻を刻む。1秒、2秒、3秒…。何度か針が振れ、そして時刻は5時を示した。


・――金属は生きている


 5時を示すのと同時に声が聞こえた。男とも、女とも取れるその不思議な声が聞こえた時、世界がざわついた。一瞬のざわめきの後、残るのはただ静寂のみ。


「な、なんなの…今の?」
「…わからない」


 美由希が不気味そうに周囲を見渡す。恭也も警戒するように辺りに視線を伺わせる。それに士郎は流れる冷や汗を抑えきれなかった。なのはの話を聞いていた士郎にはわかる。概念空間と呼ばれる物。恐らく今のが「概念」という奴なのだろう。
 士郎は息を呑む。奴らが来た。仇とも言える奴らが。そしてなのはを狙った奴らが。今もなお御神の血筋を憎み続ける奴らが。


「5時、ピッタリとなりました」


 その声は三人の背後から聞こえた。小太刀を抜き、後ろを振り返ればそこには桃子を連れ去った女がただ最初見た時と同じ笑みを浮かべながらそこに立っていた。
 いつの間にというレベルじゃない。まったく気付けなかった。いや、気付く事すら出来ないのだろう。なのはの話が、本当であるならば…。


「っ!? またっ…!?」
「!?」


 美由希と恭也が再び背後を取られた事により息を呑む。士郎はそんな二人を庇うように前に出て、目の前に立つ女を睨む。女はただ変わらぬ笑みを浮かべたまま、丁寧に一礼をした。


「ようこそ。自らの死地へ。心よりの感謝の言葉をここに」
「…お前が気配が無いのは「概念」とやらか?」


 相手の皮肉とも取れるその言葉に士郎は厳しい顔を浮かべながら問いかける。それに女は顔を上げて、ぱちぱち、と拍手をした。一度、二度、三度。何度か拍手をした後、こくりと頷いて。


「やはりお聞きになられたようで。ではご理解いただけたのですね」
「…何をだ」
「貴様達に万が一の勝ち目など無いという事だっ!!」


 女とは別の声が響き渡った。士郎が視線を向けた先、そこには一人の男が立っていた。
 白髪に厳つい顔をした男。年齢は50ほどだろうか。豪華な素材を使ったスーツを着たその男はただ愉快そうな顔を浮かべたまま、士郎達を見ている。その隣には後ろ手で縛られている桃子の姿も見えた。


「母さんッ!!」
「高町美由希。いや、御神美由希。宗家の娘か…」
「ッ…お前…何でっ…!?」
「惜しいなぁ。貴様は風邪やらで屋敷を留守にしていたのだったか? 一緒に吹き飛ばせなくて残念で仕様がないよ」


 男の言葉に美由希の目が見開き、今にも男へと飛びかかろうとしそうなのを恭也が無理矢理押しとどめる。美由希は視線だけで人を殺せる程の殺気を乗せて、男を睨み続ける。


「お前が…お前がやったのかっ!? 御神家にテロをし向けたのはっ!!」
「そうだ。御神美由希。なんとも残念な事に貴様は生き残った。そして、不破士郎、不破恭也。貴様等もな」


 男の言葉に恭也の視線にも殺気の色が宿る。士郎の目は薄く細められ、その男を睨み付ける。小太刀を握り直し、軽く息を吸ってから。


「桃子を離せ」
「離すと思うか? この女にはお前達が死に行く様を見せてから逝かせてやろうと思ってな? それともこの女から先に…」


 男の言葉は最後まで言う事は無かった。士郎の姿が掻き消え、男の目前へと現れる。御神流の剣士が扱える歩法「神速」。それにより一瞬の距離を積め、手に握った小太刀を上に切り上げるように振るおうとする。
 だが、その小太刀が接触したのは、肉の感触ではなく、固い別の何か。目の前には、いつの間にか女が立っていた。機械的な笑みを浮かべたまま士郎の小太刀を奇妙な刀で受け止めている。


「神速。御神家の十八番だったな。しかし残念。こいつに神速は通用せん」
「…何…!?」
「対人、または対御神用に作られた人形さ。コイツは」
「人形…? 嘘、その人、人形、なの?」


 男の台詞に美由希は思わず息を呑む。それに対して士郎はなのはに教えられていた情報を掘り出す。3の番号を関する異世界。3rd-Gと名付けられた世界にありし者達…。


「3rd-Gの自動人形か?」
「ほう。やはりあの小娘から聞いていたようだな。始末しておくべきだったか」
「貴様っ…!!」
「――失礼致します」


 士郎が男に気を取られた瞬間、女の刀が士郎の刀を弾き、士郎の腹に蹴りを入れる。後方に飛ぶ事によっていくらかは衝撃を無効化する事が出来た士郎だがそのまま地を滑っていく。
 それに桃子が悲鳴を上げる。士郎の名を叫び、その場より動こうとするも男によってそれは遮られる。士郎を蹴り飛ばした足を降ろし、軽く会釈をするのと同時に、女は顔を上げて。


「主に傷をつける事は私の存在理由に反しますので、それ以上はお控え願いますよう」


 女はただ笑みを崩さぬまま告げる。美由希はその笑みに薄ら寒い物を感じていた。そして彼女が人形だと言うのを理解する。彼女は、ただ与えられた使命だけを果たす。そこに感情は無い。ただ本当に与えられた事だけをこなす人形。恭也もそれを感じたのか、警戒したまま、女を睨み付ける。


「コイツはな。戦闘用の自動人形でな。我が組織「龍」が持ちうる限りの改造を行った最強の自動人形…貴様等は確かに強い。御神の剣士。だがな、所詮は人間だ。人間とは脆弱な物だな」


 まるで宝物を自慢するかのように男は語る。その目には狂喜の色が孕んでいる。士郎は痛む腹を押さえながら立ち上がり、その男を睨む。
 男はその視線すらも愉快そうに眺める。それに士郎は歯ぎしりの音を立てる。悔しいが、確かに事実、目の前の女は強い。蹴りを受け止めてわかる。明らかに常人の力ではない。


「御神を殺す為に、産み出したと言っても過言ではないなぁ」
「何故そこまで御神家を憎む!?」


 恭也がわからない、と言ったように叫ぶように問いかける。それに男の愉快そうな表情が消える。そこにあるのは、先ほどの美由希が見せた憎悪の表情など、子供騙しのように醜く、憎悪に染まった表情だ。


「何故、だと? 教えてやろうか不破恭也。貴様等の祖先はな、俺の故郷を破壊したのだ。塵を1つも残さずな」
「…な、に?」
「10年程前だ。俺は世界の全てを喪った。その世界を奪った者達がこの世界にいる。そして、御神家はそれを守護していたのだよ…私達の世界を破壊した者共をなっ!!」
「10年前だと…?」


 士郎が思わず呟く。なのはの話と少し違う。概念戦争が起きたのは60年程前、第二次世界大戦の最中の中で起きた戦争だと言う。しかし奴は10年前だと言う。一体、それはどういう意味だ、と。
 その士郎の呟きが聞こえたのか、男はフンッ、と鼻を鳴らして。


「教えてやろう。貴様等が住むこの世界は「Low-G」と呼ばれている。そして世界はこの世界を含め11世界存在し、この世界を除く世界には1から10の番号が与えられた。…だが、こうも思わないか? 最低があるならば、最高もまた存在するのだと」


 男の憎悪の色が更に増す。それに美由希は思わず「ヒッ」と息を呑んだ。桃子に至ってはいつ気を失ってもおかしくは無いような顔色をしていく。さすがに恭也の顔色も青に近い。士郎はただ、気丈に男を睨み続ける。


「あったのだよ。俺の故郷「TOP-G」。最高の世界。全てが揃った究極の世界!! そして…貴様達の「オリジナル」の世界だっ!! この「Low-G」は「TOP-G」の複製なのだよっ!!お前等は皆、偽物なんだよっ!! 偽物のお前等は他の世界を滅ぼすだけに飽きたらず、オリジナルの世界すらも破壊した大罪人だっ!!」
「俺達が…偽物? 複製…?」


 恭也が呆然とした様子で呟く。士郎もそれには息を呑むしか無かった。なのはすらも知り得ない世界の真実。この世界が…複製だという事実。だがそれは当然認められる事ではない。故に美由希は叫んだ。


「なに、それ。なにそれ! 妄想じゃないのっ!? そんな馬鹿な話があって…」
「あるのだよっ!! …どうやら不破恭也は何も子に伝えていかずに逝ったようだな」
「…お前。親父を知っているのか」
「知っているさ。奴はあの「悪役」の守り刀だったからな。忌々しい…忌々しい佐山の眷属を守護し続けていた」


 忌々しそうに告げる男に士郎は表情を歪める。それから確認するかのように士郎は男に問いかけた。


「だからお前は御神家を襲撃したのか?」
「十分な理由だよ。貴様等は世界を滅ぼした張本人を庇い続けてきた共犯者だっ!!」
「私達はそんな事知らない!!」
「知らなければ無関係というのか!! そう、知らなければ無関係という人間がこの世界には多すぎる!! 世界を滅ぼした罪を知らず、ただのうのうと生きている貴様等は我等と同じ痛みを味わうべきなのだ!! 血を!! 涙を!! 悲鳴を!! 貴様等の血によって清められたこの大地こそが私達の第2の故郷となる!! そう、それが正しい世界の在り方だっ!!」


 狂っている。士郎も、恭也も、美由希も、桃子も、誰もが男をそう評価した。男はそして笑みを浮かべる。狂気を孕んだその笑みのまま冷酷に男は告げる。


「手始めに、貴様等からだ。御神の血筋。貴様等の血でこの地を清めてやる。…殺せ」
「了解」


 そして侍女は男の言葉に応え地を蹴った。士郎達も小太刀を握りしめ、迎え撃たんとする。刃と刃を打ち付け合う、甲高い金属音は鳴り響く。





    ●





「助けに行く!?」


 忍は明らかに驚愕した表情で目の前に立つなのはを見て声を荒らげた。なのはは腰に差した小太刀を隠すように大きめのコートを羽織り、今にも家を飛び出しそうな雰囲気で忍を見ていた。
 忍は思わず鼻で笑った。この子は何を言っているのだ、と。この子は確かに、普通の子とは違う。魔力という力があり、魔導師という忍達の常識とは大きくかけ離れた日常を生きてきた子だ。
 だが、今はその魔力も失い、ただの子供である筈の彼女が一体何が出来ると言うのか。


「馬鹿な真似はよしなさい」
「行かなきゃいけない」
「貴方が行ってどうにかなるわけじゃない!」
「そんなのわからない」
「死ぬわよっ!! 貴方、まさかまだ自分が特別とか思ってるんじゃないんでしょうね!?」


 思わず、忍は言ってしまった。だがそれでも忍は止められなかった。ほんの数年前まで、ただ普通の女の子であったこの子は大きくその人生を塗り替えてしまった。ほんの些細な運命で本来産まれ得ぬ力を所持してしまったが為に。
 それがこの子をどれだけ歪ませたのか、そしてそれがどんな結果を生んだのか、忍は知っている。それが、彼女の大怪我へと繋がったのだから。そしてとても大きな悲しみを生み出させてしまった。
 だからこそ忍は繰り返させない為に叫ぶ。今ここで彼女を行かせても何もならない。何もならないのだから、と。


「だったらお兄ちゃん達は見捨てろって言うの?」
「恭也なら大丈夫よ」
「無理だよ。お兄ちゃん達を殺そうとしているのは常人じゃ勝てない。私はそれに抗う力がある」


 淡々となのはは告げる。それが逆に忍の感情を逆撫でする。あぁ、どうして、どうしてこの子はそんな事を言うのだろうか。どうしてこんなにも歪んでしまったのだろうか。
 その結果、貴方がどうなったのかは貴方が一番良く知っているのではないか、と。飲み込み切れない感情が溢れ出す。首を振って、そのまま喉が張り裂けん程まで声を張り上げて。


「また、またそんな事言うの!? 貴方じゃないと出来ないの!? またそうやって貴方は抱え込むつもり!? いい加減にしてなのはちゃん!! 貴方が怪我をして、恭也が、士郎さんが、美由希ちゃんが、桃子さんが、すずかや、アリサちゃん、フェイトちゃんやはやてちゃん、色んな人を悲しませたのをもう忘れたのっ!?」


 気づかないのか、と。貴方は多くの人を悲しませていると。誰も貴方にそんな事を望んでない。士郎に至っては、親は子を護る義務がある。恭也だって、美由希だって、妹を護りたいと思う筈だ。本来なら年長の物が負わなければいけない責任を、何故この子は背負わされ、そして背負わなければと思うようになってしまったのか、と。
 止めなければいけない、と忍は思う。ここで彼女を止めなければ、きっと彼女は止められない。だが、返ってきた返答は、忍の予想の斜めを行った。


「知らないよ。そんなの」


 それは拒絶の言葉だ。思わず忍は呆けた声を漏らした。


「…え…?」
「私は、誰が泣こうとも、もう止まらない。止まるつもりも無いんです。誰が邪魔をしようとも決めた道を行くって決めたんです。確かに、忍さんが言った皆は大事な人です。護りたいと思います。友達でいたい。傍にいて欲しい。そう思います。
 だけど、私は望むだけです。叶えて欲しいなんて言ってない。矛盾かもしれないけど、私はそうやって生きます。私は…私が、正しいと思った事を、私が誓った事を、私が護りたい物の為に私であります。誰かが私の望んでも、私は誰かの望む私になれない。私が誰かに望んで、そうあってくれないように。だから知らない。私の邪魔をするなら誰であっても許さない」
「なのは、ちゃん」


 駄目だ、と忍は思う。ここで止めなければこの子は本格的におかしくなってしまう。この子は自覚してしまっている。自分の歪みを、だからこそ、それを他人に押しつけない代わりに、自らが正常であろうとすることも拒む。
 いや。彼女にとって今が正常であるからこそ、歪みを押しつけられるのを拒むのだろうか? ぐるぐると、忍の思考は巡る。巡るが、答えは出ない。何度巡らせても、答えなんて出る筈が無い。彼女の答えは遠い彼方の手の届かない場所だ。どれだけ手を伸ばしても彼女には届かない。


「…私は、いてくれるなら嬉しいですけど、無理にいて欲しいとも思いません。守れるならそれで良い。誓った事が嘘にならないならそれで良い。私の所為で泣く人がいるかもしれないけど、それでも、私はその涙は止められない。もう、止められない」
「なの、はちゃん。駄目よ、そんなの、駄目…そんなの」


 なのはが一歩踏み出す。それに、忍が一歩後ずさる。目の前にいるのは、本当に少女だったのだろうか。年月は人を変えるというが、これは変えすぎだ。いや、変えすぎなのではない。
 それともこれが、高町なのはが本来心の内に抱えていた「歪み」なのだろうか。だとしたら、これはどうしようも出来ない。既に高町なのはの一部として「歪み」は組み込まれてしまっている。なのはがそれを押し通すというのなら、きっとテコでも彼女は揺るがない。
 だけど、それはあまりにも悲しすぎる選択。止めなければならないと思う。だけど、止める言葉が見つからない…。


「忍さん」
「だめよ!! そんなの悲しい…酷い。どうして、どうして…?」


 言葉が出ない。もはや、理解が出来ない。彼女が、理解から遠い存在だ。どうしてそう考えるのだろうか。もはや、どうしようも出来ないのだろうか。この少女の歪みは。
 嘆く忍に対してなのはは静かに、息を吐いて、言葉を纏めるように間を置いてから忍を見つめた。


「願うだけじゃ駄目なんです…」
「…なのはちゃん…?」
「友達になりに行くんです。求められたからじゃなくて、私から求めにいきます。そしてそれに対して求めてくれるなら私は友達になります。私は家族になりに行くんです。家族であって欲しいからと求めてられるから家族になるんじゃなくて、なりに行くんです。私から」


 全てはこの手で掴むのだ、と。求められたからではなく、求めに行き、それを知ってもなお、求めてくれるならばその手を取ろう。逆に求められ、自分もまたそれを望むなら手に取るのだと。


「自分から進まないと行けない。他人に怯えて進むのはもう嫌だから。だから私はも逃げない。皆と向き合う為にも、ここで私になりに行く事を止めたら私はもう皆と向き合えない」


 どれだけ他者が自分に願おうとも、それに自分が答える気が無ければ自分はそれを振り払ってでも望む場所へと行く。例えそれがどれだけ、非道であろうとも。それがどれだけ哀しみを産み出したとしても。それがどれだけ憎しみを生み出したとしても。


「終わらせに行くんです。弱い私を。もう逃げちゃ駄目なんです。私はもう私に嘘は吐きたくないんです。譲れないんです」
「……」
「助けに行きたいんです。ここで喪ったらこれ以上が無くなるんです。過去も、現在も、未来も…」


 そこでなのはは言葉を切る。それ以上は忍も、言う必要も感じなかった。わかってしまったからだ。彼女の解答を。もう彼女は止まらない。ただ、前を見て進んでいくと決意してしまったの。確かに、の子供は弱い。歪で、悲しい存在だ。
 それでもこの子はその弱さを、歪みを抱いて行こうとしている。その全てを受け止めて。


「…昔、ヴィータちゃんに言った事があります」


 なのはは真っ直ぐに忍ぶを見つめる。忍はその真っ直ぐな視線を受け止める。逸らす事は出来ない。例え逸らした所で、どうにもならない。だから受け止めよう。彼女がここで出す答えが…。


「悪魔でいいよ。悪魔らしく私は自分勝手に生きるから」


 自分の未練を裁ち切るから。そして自らの心の中で燻っていた願いがある。願わないようにしていた。弱くあってはいけなかった。護らなければならない子供がいるから。
 だがここにいるのは子供なんかではない。まさに彼女が言うように悪魔なのかもしれない。
 それでも、それでも願ってしまう。それがどれだけ自分を惨めにさせるか知っていても。それがどれだけ非道な願いだとしても願わずにはいられない。


「なのはちゃん…お願い。恭也と…皆と…帰ってきて」


 私の、もう1つの家族を連れて帰ってきて、と。平穏な日常を取り返して欲しいと。それになのはは小さく頷いた。そして忍の横をすり抜けて、扉に手をかける。


「必ず帰ってきます。皆で」


 それは自分が求めていた事でもあり、彼女の求める物。互いに望むならばその願いは聞き届けられる。だからこそ叶えに行こう。護りに行こう。約束しよう。ここに皆で帰ってくると平穏を取り返すと。
 そして忍の背後で扉が閉まる音が響いた。それと同時に忍はその場に崩れ落ちた。無力な自分が恨めしい。だけども、それでも願わずにはいられない。


「お願い…お願いだから…帰ってきて。皆、無事で…」


 お願い…、と忍は呟き続ける。託す事しか出来ない無力な自分を呪うように。ただ、それがどれだけ愚かな希望であったとしても願う。帰ってきて欲しい。ただそれだけを願って…。





    ●





 扉を閉め、すぐさまなのはは駆け出す。見慣れた海鳴の街を全力で駆けていく。場所は既に確認済み。後はそこへと向かうだけ。既に5時になっているかもしれない。いつまで家族達が持ってくれるかわからない。
 だからこそ全力で走る。ただ、そこに至る為に。


「もっと…」


 もう嘘はつかない。自分は自分の為に生きる。私は求めに行く。家族を。大事な家族を。家族であろうとする為に。望まれる、望まれない関わらずに、自分が望むからそこに行く。それがどれだけ間違いであろうとも、自分に嘘は吐かないように。


「早く…」


 胸に宿る灯火は消えない。その灯火の名を持つ「相棒」を思い出す。あぁ、いつか、胸を張って君の下へ行くよ。


 ――いつか、貴方を迎えに行く為に。


 だけど、その心は、その誓いは、その願いは決して途絶える事なく高町なのはの胸に存在する。
 その心で絆を結んだ彼女等ともう一度向き合う為に。もう一度、望み、望み合う為に。


 ――胸を張って貴方達に会える為に。
 

 それが例え、受け入れられなくても、求めに行こう。恐れずに、ただ前へ進む為に。
 この思いは、この「不屈の心」だけは、もう誰かの為じゃなく、ただ自分の為に、そう自分の為にあり続ける。他人の為にこの心はあるわけではない。私は私であるからこそ、今、戦わなきゃいけない。


「応えて…」


 もう間違わないから。間に合う為に。間に合わせる為に。喪った「力」を、今、ここに蘇れ。強く、熱く、鼓動が跳ねた。そして…人目が付かない廃ビル地帯へと続く道に、光が走った。


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