次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 09
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 模擬試合を終えた後、なのはは道場に座りながら、同じく自分の向かいに座っている恭也と美由希に自分がこの2週間程行っていた稽古の事を話した。


「飛場竜轍っていう、飛場道場、っていう道場さんの人と2週間くらいかな? 昼夜問わずずっと戦ってたの。で、食事とか以外はずっと戦ってるか、気絶してるか? あ、信じてないでしょ? でも本当だよ?」


 そう軽い調子で告げるなのはに正直、頬が引きつるのを抑えきれなかった。美由希は素直にそう思った。何なのだそのスパルタ教育は、と。山籠もりに加え、昼夜問わずの虐待としか思えない稽古。更に寝てる時は常に気絶した後。隣では恭也もまた引きつった顔をしている。そしてそれから怒りを滲ませた表情を浮かべてなのはを見据えて。


「なのは。無理な訓練は身体を壊すぞ」


 と、咎めるようになのはに言った。それには訳がある。高町恭也は過去、父である士郎が負傷した時に、強くなろうと過剰な訓練を重ね、その足を壊しかけた。下手をすれば剣士である事が出来なくなっていたかもしれない、とも言われていた。
 今でもその後遺症が残っており、万全の体調ではない。ただ無茶を控えるならば稽古も許されている。病院には通わなければならないが。だから恭也はなのはを咎める。一度無茶をした者として、その失敗を繰り返させない為にも。
 それを聞いたなのははキョトン、としてから、あぁ、と小さく呟いて。


「ごめん。えっとね…」


 なのはは「概念戦争」の件について語ろうかどうかを迷っていた。それを話したら全部話さなきゃならなくなるだろうな、となのはは考えていた。そしてその時、目の前の二人が本当に冷静のままでいられるのか、と考える。
 既になのはは二人が自分とは完全に血が繋がっているわけではない事を知っている。それに関しては既にもう納得した上で、この二人を兄として、姉として見ているから問題はない。ただ二人には、今の家族以外の家族がいた。特に、美由希の方に関しては。
 脳裏に過ぎるのは復讐、という単語だ。話せば、止まらなくなってしまうんじゃないかと思ってしまう。それは、親友とも言える八神はやての件があったからだ。
 闇の書。管理局が危険視していた「古代遺失物〈ロストロギア〉」。破壊と転生を繰り返し、災厄をまき散らした呪われた書。その主であったはやてには、理不尽とも言える憎しみの声や視線があったのをなのはは知っている。
 そしてなのははそこから学んだのだ。復讐の種火は消える事は無い。消えたと思っていても、それはただ燻り続けているだけなのだと。二人は、どうなのだろうか。家族は信じたい。大丈夫だと、信じたい。…だけど――。


「ちょっと、私も焦っちゃったみたい」


 隠す。嘘を吐く。この二人には、家族には言えない。言っては、彼等は復讐に走ってしまうかもしれない。もしそうなったら自分は悔やんでも悔やみ切れない。復讐に走る彼等の顔なんて見たく無い。見たくないのだから。
 なのはは心の中でそう呟き、自分を納得させる。だが、それは自分が共感し得ない物を持つ二人に対しての嫉妬故だったのかもしれないという事に彼女は気付けなかった。





    ●





 道場から家へと戻り、交代でシャワーを浴び終えた頃には朝食の準備が出来ていた。なのはは一番にシャワーを浴び終えていたので部屋で休んでいた。さすがに疲労していたからか、ふぅ、と溜息を吐き出す。
 竜轍の時とは違い、今は「草の獣」がいない。疲労は自然に回復を待つしか無いのだ。ベッドの上でぐったりとしていると美由希が、ご飯だよ、と呼ぶ声が聞こえる。そのままベッドから身体を起こして下へと降りていく。なのはが来て席に座るのを確認し、皆で頂きます、と挨拶をして食べ始める。


「なのは」
「ん? 何? お父さん」
「後で話がある」


 ふと、食事の最中に士郎がなのはを真っ直ぐに見つめて言う。なのはもそれに少し戸惑いながらも頷く。それを見て、美由希は少し怪訝そうな顔を浮かべて士郎の顔を見る。


「ねぇ、お父さん、なのはだけに?」
「あぁ」
「…何かあったの?」


 美由希が心配そうに、そして探るように問いかける。それになのはは少々居心地の悪さを感じた。心配してくれるのは嬉しいのだが、なんだか逆に気を使われているような気もする。それはそれで嬉しいのだが、と思いつつ、こほん、と小さく咳払いして。


「お姉ちゃん。大丈夫だよ」
「なのは…?」
「私は大丈夫だから。心配しないでよ」


 なのはが微笑みかけて言うと、美由希は渋々と言った様子で士郎への追求を止めた。士郎はそれを見てから、なのはに視線を向けて柔らかく微笑んだ。それになのはもクスッ、と笑って返す。
 しかし再開された食事に手をつけながら、なのははぼんやりと考えていた。士郎が自分を呼び出したのは何の用なのだろう? と。考えても答えは出ない。何度か視線を士郎に向けるが、いつものように桃子と談笑している。何度も見た光景だ。だからこそ余計にわからない。なのはは戸惑いを感じながらも、朝食を食べる。


「ご馳走様」


 その合図を境に、皆自分の使った食器を下げていく。それを桃子が受け取り、汚れを落としていく。なのはは自分の使っていた食器を全部片付けると士郎の方を向いた。士郎もなのはを待っていたように腕を組んで立っている。
 なのはが士郎に寄っていくと、士郎が歩き出す。なのはもそれに付いて歩いていく。会話は無い。無言のまま廊下を歩いていく。無言の為、床を踏みしめた時に床が軋む音だけが耳に届く。そのまま士郎は部屋へと着き、なのはを先に入れてから部屋の扉を閉じる。


「座りなさい」
「うん」


 なのはは士郎の部屋の適当な位置に正座をする。それに向かい合うように士郎は座る。互いに互いの顔を見つめ、視線を交わし合う。沈黙の時間が流れた。長いとも、短いとも言えないその沈黙を終わらせたのは士郎だった。


「なのは」
「うん」
「御神家、そして不破家について知ったね?」
「…うん」


 そうか、と士郎はなのはの返答に呟き、頷く。なのはは何も言わない。何を言われるのだろうかと考えている。自分にずっと黙っていた事を謝る気なのだろうか。それとも…御神家・不破家を襲ったテロ犯についての情報を聞きたいのだろうか?
 色々な考えが頭を過ぎるが、考えても仕様がない、と思い、黙って士郎の顔を見続ける。それに、士郎があー、と小さく呻きながら頭を掻いて。


「その、な。吃驚したか?」
「うん。まさかそんな事があったなんて思わなかった。でも怒ってないよ。私に話せるような内容じゃないもん」
「そっか…」


 なのはの言葉に士郎はまた沈黙する。なのはは小さく溜息を吐く。きっと士郎は遠慮しているのだろう。士郎だけは仇の正体を追っている事を知っている。佐山からなのはが聞いた事があるからだ。そういった交換条件の下、私を預かっていたのだから。
 だけど、私に聞くような話じゃないよね、となのはは苦笑した。聞きにくいのも仕様がないのかもしれない。だが話も進まないので小さく咳払いをしてなのはは士郎に告げた。


「「龍」については、ほとんどわからなかったって」
「! …そうか」


 少し驚いたような顔をした後、士郎は思い詰めるように表情を歪ませた。
 その士郎の表情を見ながら、お父さんになら、話しても良いかな。となのはは思う。士郎はずっと、恐らく影ながら「龍」について追っていたのだろう。佐山からもそういった話を聞いている。
 だが、それでも私の父親でいてくれた士郎ならきっと自分を律してくれる。自分の大好きなお父さんのままで居てくれる、と信じられる。だからこそ、なのはは口を開いた。


「お父さん」
「ん? 何だ」
「えっとね。お父さん。話すよ。…多分だけど、御神家が襲撃されたその理由を」


 驚く士郎に対し、なのはは語った。概念戦争の事を。60年前に起きた戦争を。11世界を巡る戦いを。そして、今この世界に起きている災いについてを。そしてその戦争と関わりを御神家が持っていた事を。
 なのはによる概念戦争の説明が終わり、士郎はそれを聞いて深く溜息を吐いた。それをなのははジッ、と見つめている。それから士郎がゆっくりと息を重く吐き出しながら言葉を紡ぐ。


「…俺は、佐山君のお爺さんの護衛を務めた事がある。親父の代からの親交があってな。護衛を務めてたんだよ」
「えっ!?」


 なのはは士郎に告げられた言葉の意味がわかり、思わず驚きの声を上げた。時期的には合うのだ。概念戦争時代、またはそのすぐ後か。御神家、それも自分のお爺さんに当たる人が佐山のお爺さんの護衛を務めていたのはすぐに想像が付く。


「それで御神家は襲撃されたのか…」


 士郎は重たい溜息を吐いた。たったそれだけの事で滅ぼされてしまった、となのはは思う。士郎も似たような思いなのだろうか。だが、自らの故郷を滅ぼした相手を護っている人間を見て、冷静で居られるのだろうか。もし、海鳴が滅ぼされて、その滅ぼした相手を憎まないと言えるのだろうか?
 無理だろうな、となのはは考える。絶対に許せないと思う。どうしてそんな事をしたのかを問い詰めたいと思うだろう。それを邪魔するならば、誰であろうと容赦しない気がする。それだけの事をこの世界はしてしまったんだ。それはなんて悲しい事だろう、と。


「なのは」


 思いふけっていたなのはに士郎が声をかける。なのはは士郎の方へと振り向いて士郎の顔を見る。ちょっと待ってろ、と士郎は呟いて立ち上がる。待ってろと言われたので素直になのはは待っているが一体どうしたのだろう? と首を傾げる。
 しばらくなのはがおとなしく待っていると、士郎は奧の方から何かを持ってくる。それは一つの箱であった。


「それ、何?」
「俺が親父から預かった物だ」


 紐で縛られた木箱。それを士郎は丁重に扱うように、紐を解き、木箱を開いた。そこにあったのは、二振りの小太刀であった。柄があるべきところに宝石のような物が埋め込まれた小太刀だ。なのははそれに身を乗り出してその小太刀を見つめる。


「これ、小太刀だよね?」
「あぁ。親父がな。「これの銘を知る者だけが、これを持つ事が許される。そして、それを知る者が現れるまで、これは厳重に保管しておく事」って俺に遺言を遺して置いて行った物だ」


 ふぅん、となのはは呟いて小太刀を見据える。あれ? となのははその小太刀の根本に埋まっている宝石に眼が向いた。


(これって…確か…)



 そっとなのははその小太刀に手を伸ばした。そしてなのはが小太刀に触れた瞬間―――。



『―――――』



 何かが発動したのをなのはは感じた。それと同時に、なのはの意識は呑まれてゆき、視界が暗転した。





    ●





「…え?」


 なのはは、ハッ、として意識を取り戻した。1秒か、それとも何分も意識を失っていたのか。だがそれはわからない。だが意識を失っていたのは事実だ。ふと、目の前の光景が見たことも無い光景に変わっているのに驚く。そして自分は、何故か宙に浮いている。


「一体、何で…」


 自分は宙に浮いている、と思った時だ。目の前が揺らぎ、そこに一人の男が立っていた。黒髪に、黒衣を纏った男性。なのはは思わずその男性を見て目を見開かせた。何故ならばその男の姿には見覚えがあったからだ。
 なのははその衝撃からか、震えた声で男へと問いかける。


「お兄ちゃん…?」


 問いかけに男は何も返さない。ただ、そこに佇むだけ。なのはは混乱している。何故、小太刀を握ったと思えば、何かが発動したように思い、そして、いつの間にかこんな場所に居る。更に目を覚ましたかと思えば兄が現れる。これで混乱するな、と言う方が無理かもしれない。
 しばし目の前に佇む「恭也」は何も言わずなのはを見ていた。だがその沈黙は他ならぬ彼自身によって終わる。


「俺の姿が見え、声が聞こえる者へ。もう一人の「俺」へ」
「…え?」
「「偽りの俺」へ。君に「俺」の小太刀を託す。だからどうか御神の因縁を終わらせて欲しい」
「…ちょっと待って。ちょっと待って!!」


 いきなり何を言うのか、となのはは叫ぶ。もう一人の「俺」。「偽りの俺」。それは、一体どういう意味なのか、と。そして、御神の因縁を終わらせて欲しいという彼は一体? と訳もわからずなのはの言葉に「恭也」は何も返さない。
 いや、返さないのではない。そもそも、こちらの声は届いていない。それがわかったのは次の彼の言葉によって。


「これは、俺の遺言」
「遺、言…? まさか…」


 おじいちゃん? となのはは呟く。しかし、やはり声は届かない。「恭也」は言葉を続ける。願うように、祈るように、ただ切実な顔で懇願する。


「概念戦争を追ってくれ。そして「佐山」の姓の下に…」
「佐山の姓って…」


 やっぱり、繋がってるの? となのはは呟いた。恐らく目の前にいるのは私のおじいちゃんである「不破恭也」である事がわかる。一体どのような方法を用いてこの遺言を伝えているかはわからない。だが、彼は私の祖父である「不破恭也」なのだと、なのはは確信していた。
 その確信の理由も、わからないのに。


「小太刀の姪は…「不破」、そして「雪花」。対になりて「不破雪花」」
「それって…お婆ちゃんの名前…?」
「「不破」の小太刀は一切の破を認めない守護の為の剣。「雪花」は…アイツの、雪花の好きな花、アイツの名前から、スノードロップの意を示す。花に秘められし意味は「希望」。その刃は使用者の希望を写し取り、力と成す」


 なのははもう何も言わない。いや、言う事が出来ない。この遺言はこれできっと聞くのが最後になってしまう。だから、一言一句漏らさずに忘れずに聞き取ろう、と意識を集中させる。


「護ってくれ。俺が護りたかった御神を。雪花が愛した御神を。もう一人の俺。どうか、どうか君に願う」


 それは切実に。兄と同じ顔の祖父は、苦しそうに表情を歪め、絞り出す様な声で懇願する。


「護ってくれ」


 俺にはもう護れない。そう言っているようにもなのはは聞こえた。きっと彼は死ぬ前にこれを残したのだろう。どう足掻いたとてもう敵わぬ願いを継ぐ者へと願う為に。
 なのはは、ただ、それを受け止めた。もう一人の俺、という意味はまったくわからないが、彼が何かを私に託したのは事実。そして、その託された願いは…私が護りたかった者と同じなのだから。


「わかった。護るから。私が、護るから」


 だからもう良いよ、と。小さく、消え入りそうな声で呟いた。そして意識が消えゆくのを感じた。この空間が終わるのだろう。なのはは思った。きっと、彼は笑ってくれる。いや、笑わせて見せるから、と。


「私が、護るから」


 ふと、その声に反応したように「恭也」が顔を上げた。そこでようやく、なのはは「恭也」と眼を合わせる事が出来たように感じた。彼は僅かに笑みを浮かべていたようになのはには見えた。聞こえる筈の無い言葉が届いたのか。


 ――後を、頼む。


 変わる筈の無い表情が変わったように見えたのは、ただの幻か。聞こえた声は、ただの幻聴か。だが、それでも良いとなのはは思った。なのはの意識は落ちた。託された意志をその胸に抱きながら。
 ふと、落ち行く意識の果て。なのはには何かの光景が見えたような気がした。それは、なのはの涙を誘う。見たけれど覚えられない。ただ、それでも脳裏に焼き付けられるような何かの記憶。
 それが何なのか把握出来ぬまま、ただ、なのはの意識は闇に沈んで行った。





    ●





「…あ、れ?」


 目を開くと、そこには天井があった。見慣れた天井、自室の天井だ。どうして私は眠っているのだろう? と思考が鈍く、回らない。とりあえず身体を起こした時だ。傍に誰かの気配を感じてなのはは振り返る。


「なのはちゃん!」
「…忍さん?」


 そこにいたのは兄の恋人でもあり、自分の親友の姉である月村忍がいた。彼女は安堵したように溜息を吐いて、なのはの顔を見つめている。一体何がどうしたのか? なのはは状況がわからず困惑する。
 ベッドから上半身を起こす。身体に特に異常は見あたらない。それを確認するように掌を握ったり開いたりしている。忍が大丈夫? という意味を込めて視線を向けてくるが、それに大丈夫だと言うように笑みを浮かべる。
 とりあえず、今どうして自分がベッドに寝ているのかを知るべきだ、と思ったなのはは忍に問いかける。


「あの、私どうしてベッドで寝て…」
「私もわからないわ。士郎さんが言うには小太刀を渡したらいきなり気絶しちゃった、って」
「…小太刀。その小太刀は?」
「ここにあるけど…」


 忍が指さす先には確かに、二対の小太刀が置かれている。なのははその二対一組の小太刀の名を知っている。
 「不破雪花」。そこにある現実。あれは、ただの夢では無いのだと理解する。これはお父さんに言っておかなきゃ、と思い至り、忍の方へと顔を向けて。


「忍さん、お父さんは?」


 そこで忍は沈黙した。一瞬動きを止めて、すぐに取り繕った笑みを浮かべる。
 何かあった。直感的になのはは悟った。何か嫌な予感がする。私はどれだけ寝ていた? その間に何が起きても不思議じゃない。何が起きるか、って? 2週間前、自分の身に何が起きた。今自分がこうしているのは何故だ?
 脳裏に蘇るのは人形じみた表情を浮かべる自動人形の姿――。


「答えてください。忍さん」


 自分でも驚く程声が低く出た。忍も若干驚いた顔をしている。だが忍はそれでも言い難いように口を閉ざす。瞳も逸らされる。その様子が何かを耐えているようにも見えて、なのはは思わず声を荒らげて忍に詰め寄った。


「忍さんっ!!」


 その声に忍は視線を下ろしたまま、震える声で呟いた。それになのはは嫌な予感が的中したと思った。油断した、とも思った。ただ言いようの無い悔しさと焦りがなのはの胸を支配した。そして忍が震えながら告げた事は…――。


「桃子さんが…拉致されて…士郎さんと恭也と美由希ちゃんが…私に、なのはちゃんを見てて、って…。止めたんだけど…でも、止められなくて…」


 ――最悪の事態だった。





    ●





 事の起こりは…数時間前へと遡る。
 なのはが小太刀を握ったと思ったら急に気絶した。それに慌てた士郎はなのはを病院へと運ぼうとしたのだが、何でもないように寝息を立てているので思わず唖然とした。一体何が何なのかわからぬまま、なのはを部屋に運び、ベッドに寝かせてやった。
 それから小太刀を調べようと思ったのだが、やっぱり何ら仕掛けもない。当たり前なのだが、なのはが急に気絶した理由がわからない。原因がわからぬまま、考え込んでいる時だった。
 下から食器の破砕する音が聞こえた。何事かと思い、士郎は思わず小太刀を置いて飛び出した。だがその後すぐ、士郎は小太刀を置いて来た事を後悔する事となった。
 下に降りて、リビングへの扉を開いた時だ。何かが叩き付けられるような音が響いたのは。その音の方向を見てみるとそこには美由希が壁に叩き付けられていた。その傍には恭也が倒れている。
 一体何が? と士郎が思い、視線を巡らすと、そこには一人の女性がいた。冷徹な人の笑みとは思えぬような機械的な笑みを浮かべた侍従。その侍従は桃子を抱えていた。桃子は気を失っているのか、ぐったりとしている。


「―――桃子っ!!」


 思わず士郎は叫んだ。思わず侍従の女に飛びかかろうとするも、侍従がふわり、と桃子を抱きかかえたまま跳躍する。その距離は明らかに人間の飛べる距離ではなく、士郎は驚愕した。


「――お伝えいたします。御神の眷属」


 芝居がかった、あくまで事務的の報告のような声。その表情も、その仕草も、何もかもが機械的過ぎる、と士郎は感想を持つ。思わず、額に汗が零れる。剣士としての勘が告げる。コイツは、ヤバイ、と。


「断罪の時は参りました。御神の眷属に血の粛清を。指定のお時間に。指定のお場所で。そこで貴方達を裁かせていただきます。なお指定したお時間に現れぬ場合は…」
「待てッ!! 桃子に手を出すなっ!!」
「えぇ。指定のお時間に、指定の場所に来て頂ければ。それでは、失礼します。御神の眷属」


 ふわり、と侍従がスカートを揺らし、桃子を抱えたまま外へと飛び出した。士郎もすぐにそれを追うように外へと飛び出したが、まるで幻だったように侍従と桃子の姿は消えていた。そして侍従が消えた場所に、一枚のカードが突き刺さっていた。そこには時間と場所が指定されていた。
 時間は……夕刻の5時。場所は海鳴市からやや外れにある人里離れた廃ビル地帯。そのカードを握りしめて、士郎は思わず悪態を零した。
 そして、時は今に戻る。なのはが目覚めた時の時刻は4時50分。粛正の時まで、後10分……。

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