次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 06
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 なのははUCATの中に宛がわれた自室の中にいた。佐山達から別れた後、そのまままっすぐこちらに戻ってきた。ベッドの上で寝転がりながらなのははふと思う。自分はここに求める居場所なんてない。
 居場所は今まであった。管理局の任務が終われば帰ってきた家があった。だが、今はそこから出ている。恐れていたからだ。誰かに触れられる事が。誰かの辛い顔を見るのが嫌で逃げてきた。何も出来ない自分が嫌だった。だから逃げ出した。そしてここにいる。当てもなく、ただフラフラと。


「…私は」


 これから全竜交渉部隊は解散され、そして個々にそれぞれ動き出すのだろう。なら私はどうしたら良いのだろう? なのはは今まで佐山に道を示され、歩いてきた。付いてきたければ付いて良い、と。付いてくるも、付いてこないも君次第だと。
 佐山はそれぞれの道を歩み出すという道を示した。全竜交渉部隊という道ではなく、己が道を。なら、私はどうしたいんだろう? ただ今までは、確かめたくて、がむしゃらにやって来た。
 だけど、少しずつ自分が見えてくるようになってきて、なのはは迷いだした。このまま付いて行けば良いのか。そこまで思い、なのはは首を振った。それはきっと正しくない。それは結局他人任せにしているだけだ。
 それではもう駄目だ。自分は自分の道を歩いて行かなければ。佐山が自らの道を歩み始めたように。他人と同じ道を歩むのも悪くはない。悪いとも言わない。だが、それで後悔したら、きっと悔やんでも悔やみきれない。私が私で居られないから。
 思う。自分はやっぱりまだ見えない。佐山達を通して見えた自分はまだ足りない。だから歩み出せない。結局最初の位置に戻ってきただけだ。思わず悔しさが胸に滲む。
 だがそこでなのはは折れない。今の自分は知らない事を少しでも知った。そして、もう二度と折れるわけにはいかないのだから。ふとなのはが手を伸ばした先。そこには竜轍から譲り受けた小太刀があった。
 それを一刀、手に取り、鞘から刃を解き放つ。その刃を見つめ、なのははしばらくぼんやりとした。それから少ししてその刃を鞘へと収める。納めるのと同時に立ち上がった。軽く首を振る。このままでは駄目だ、と。
 なのはがそう思った時だ。なのはのドアがノックされる。なのはは扉の方へと視線を向ける。一体誰が来たのだろう、と思っていると、扉の向こうから声が聞こえてきた。


「高町なのは君? いるかね? 少し話があるのだが」


 聞いた事のない声だ。声からして老人のようだが。そう思いながらも呼ばれたなら顔を見せなければならないだろう、と思い、扉の方へと近づいていき、扉へと手を伸ばす。
 開いた扉の先。そこには二人の人物が立っていた。一人は丸眼鏡をした白衣の老人。もう一人は侍従服を纏った赤髪の自動人形であった。


「初めまして、じゃな。高町なのは君。儂は大城一夫という」
「私は8号です」
「大城さんに、8号さんですか? あの、私に何か…」
「うむ。全竜交渉部隊解散に当たって、今後の君の扱いについてなんじゃが…立ち話もなんだから中に入っても良いかね?」


 今後の扱い。その言葉を聞いて一瞬、なのはの眉が動く。だが、すぐにいつもの顔に戻って頷く。それから部屋への道を空けて大城と8号を招き入れる。それから扉を閉める。
 三人は座る。大城となのはが向かい合うように座り、大城の隣に8号が座ると行った形だ。


「さて…まずは改めて自己紹介しよう。儂は大城一夫、。IAIの局長で、UCATの全部長を務めておる。まぁ、佐山君達の上司じゃな」


 つまりはトップのような物なのか、となのはは思わず感嘆の息を漏らした。そんな偉い人が直々に会いに来てくれるとは、と。顔を引き締めてなのはは大城を顔を見て本題に入ろうと問いかける。


「…それで、今後の扱いというのは?」
「うむ。高町君。今まで君が好きに行動出来ていたのはある意味全竜交渉部隊の権限でそうなっていた、と言っても良い。じゃが、その全竜交渉部隊は今は半ば解散という形になり、君の扱いも今までとは異なる。ここまではわかるかな?」
「…はい。それで、私はどうなるんですか?」
「ここにいてもらう。外には出ずにじゃ。君を狙う何者かの正体が掴めない以上、君を不用意に行動させるわけにはいかん。そして護衛も付けさせてもらう。こういった形になる」


 大城の言葉になのはは思わず気持ちが沈みそうになった。今までと違い、自由が利かなくなるのだ。それは当然だ。己は小学生。力もない子供だ。故に好き勝手などさせられないのだろう。護衛も付けられれば、禄に訓練も出来ないかもしれない。
 答えが欲しいのにその答えがどんどんと遠くなるイメージが頭に浮かび、思わず、拳を作ってしまった。


「もしくは、ここを出て行くか、じゃな」
「…え?」


 だがその拳はすぐに解かれた。大城の続けた言葉に一瞬呆気に取られた。一体、どういう事なのか、と。


「君が保護を望むならば儂等は全力で君を護る。だが、無理に保護しようとも考えてないんだな、これが」
「…それって…」
「ここを出て行くかは君次第という事じゃ」


 つまり自分で決めろ、と。それはどう取れば良いのだろう。邪魔だから出て行けと、もし残るなら邪魔になるな、と。それとも…。
 なのはは考える。だが、答えは半ば決まっていたような物だ。護られるつもりは、無いと。護られる為にここにいるんじゃない。ただ答えが知りたかっただけだ。だがここではもうその答えを得られないならばここにいる必要は無い。
 だが、だとしたらどうすれば良いのだろうか。自分は…どこへ行けば良い、と。


「君を襲撃した者の情報はまだ全然掴めなくてな。のう、8号君」
「Tes.資料を洗ってみましたが、めぼしい情報はわかりませんでした」


 自分を襲撃した者も詳しくはわからない。全竜交渉部隊が解散した以上、そのような面倒事は避けたいのだろう。そう思えば納得だ。ならば、どうする。
 御神家を狙う何者。今回はたまたま…自分だった。だが、このまま私が護られ続ければどうなろうのだろうか? …狙われるのは、次は、自分の家族? なのはの脳裏に家族の顔が浮かんだ。父、母、兄、姉。家族だけでは済まないかもしれない。アリサ、すずか、フェイト、はやての顔が浮かんだ。他にも様々な顔が浮かんで消えていく。
 …そうか。そうだったんだ、となのははゆっくり瞳を閉じながら思う。もう、最初からそれしか残ってなかった。そしてそれを選ぶべきだったんだ、と。


「…わかりました」
「ほ? もう決めたのかね? で、どうするのかね?」


 大城の問いかけになのはは両手を床へつけ、深々と頭を下げた。そしてそのままの態勢のまま自らの意志を告げる。


「今までお世話になりました」


 出て行く。そして…帰ろう。まだ恐怖がある。悲しい顔を見るかもしれない。自らの傷が抉られるかもしれない。もう二度と同じ関係にはなれないかもしれない。
 だけど、今、向き合わなければならない。失ってからでは遅いのだから。だから決めた。


「私は、故郷に帰ります」


 海鳴に帰ろう、と。ここで得た事を胸に刻んで旅立とう、と。そのなのはの様子を見ながら、大城は微笑みながら8号へと視線を合わせた。それに8号は頷いて。


「では、なのは様。私が見送りとして駅までご同行させていただきます。準備が出来たら声をかけてください」
「…わかりました」
「では、儂は失礼するとするかの」


 そう言って大城は立ち上がり、部屋を後にしようと歩き出す。その背をなのはは呼び止めた。


「待ってください!」
「何かね?」
「大城さんは、私の祖父について何か知っていませんか?」


 なのはの問いかけに背を向けていた大城は振り返る。それからなのはを見ながら、フッ、と微笑んでから。


「その質問は、儂にすべきじゃ無いな」
「…知ってるんですね?」
「あぁ。だが、答える事は出来んの。ただ、問うべき者を君は知っているじゃろ?」


 それになのはは何も答えずに俯いた。それに大城が再度背を向けて部屋を後にしていく。8号もそれを見てから大城の後を追うように部屋を後にし、部屋にはなのはだけが残される。なのはは強く、固く拳を握りしめながらゆっくりと立ち上がる。


「…行くよ。知りに行くよ」


 もう何も知らないまま、何も出来ないままは嫌だから。だから知りに行こう。私が何をすべきなのかを見定める為に。


(…帰ろう。海鳴へ…)





    ●





 どこかにある建造物。見るからに豪奢なその部屋の中で一人の男がワイングラスを揺らし、その中に注がれたワインを楽しんでいた。その傍らには侍従服を纏った女性が立っていた。


「…御神の小娘はUCATの中から出て来ないな」
「飛場竜轍の道場にいた、と思ったら再びUCAT内に戻りました」
「ふむ。つまらん。少しずつ絶望に浸して行こうと思ったが…逆でも構わないか。あの小娘の家族を殺してしまおうか?」


 男は愉快そうに喉を慣らした。凶悪なその笑みを見ても、女性の表情は揺るがない。ただ笑みを浮かべているだけだ。それを見て男は更に喉を震わせる。


「装備を調えておけ。近日中には決行しよう。…あの御神の生き残り、不破士郎、不破恭也、御神美由希を血祭りに上げる為にな。あぁ、まずは奴の妻から殺してしまおうか。それは愉快だ。絶望に歪む御神の血筋の顔はさぞ心地良い物なのだろうな? そう思うだろう?」
「えぇ。主がそう思われるならばそうなのでしょう。とても愉快で、心地よいのでしょう」


 男の凶悪な言葉に女性は明るく笑って肯定した。だがそれはまるで表情に変化がないようにも見える。ただ貼り付けた仮面のような笑顔。それに男は、あぁ、あぁ、と何度も頷き両手を広げて笑い出した。
 想像した映像の愉快さに恍惚とした笑みを浮かべ、高笑いを上げる。脳裏に浮かぶは絶望に満ちた御神の血筋の者達の顔だ。そしてその身体が血まみれになり、血の海へと沈んでいくその想像。男が耐え難い、と言わんばかりに身体を震わせた。


「愉快!! 愉快だぞ!! あぁ、殺す。殺してやろうぞ御神!! 私から全てを奪った御神の血筋!! 一度ではなく、二度、いや、三度、いや、何度でも殺してやろう!! あぁ、そうさ、殺してやる。それこそ我等が受けた痛みに報いる唯一の手段だと奴等に刻み込んでやろう。御神が死ねば次はLow-Gの人間狩りでも行おうか? さぞ楽しい狩りになるだろうな? そして怨むのだろうな!! 自らの預かり知らぬ所で自らが受けた罪を憎みながら!! そう思うだろう!?」
「はい。皆、憎悪するでしょう。皆、悲哀するでしょう。皆、憤怒するでしょう。そして皆、絶望し、皆死んでいくのでしょう」
「そうだ!! 奴等が我等が故郷を奪ったように、我等も奪ってやろう!! 我等は対等にならなければならない! 対等になってこそ、この地は我等が住むべき地となるのだ!! Low-Gの者達で洗われたその地こそが我等の住むべき地なのだ!! そう、「軍」などとは違うのだ!! 痛みには痛みを与えねばならん!! そこに甘さなどあっては付け上がらせるだけなのだ。そう、故に正しさは私の下にあるのだ!!」


 狂言が室内に響き渡り、しばし男の高笑いは続いていく。その傍らには不変の微笑みを浮かべる侍従はただ男を見つめるだけであった。そこにはただ、狂気だけが満つる。





    ●





 夕食が食卓の上に並ぶ。ここは風見家の食卓。その食卓につけられた椅子に座った風見千里は憂鬱な溜息を吐いていた。憂鬱な原因は先ほどの衣笠書庫での件だ。思い出せば、ふぅ、と溜息が零れる。
 風見の隣には出雲が座り、その前には風見の両親が座っている。出雲が恋人、という事で既に紹介しているし、彼と両親は非常に仲が良い。よってこうしてよく共に夕食の席に座る事はよくあるのだ。
 さて、そんないつもの光景を前に風見はただぼんやりとしていた。楽しそうに話す出雲と父親の声がどこか遠く聞こえる。思わず溜息を吐く。


 ――予想以上に参ってるわね。


 自己分析した自分の状況に思わず溜息を吐く。衣笠書庫での自分の行動。そして今の現状と、そこに居合わせた少女。それを思い出せばどんどんと気が滅入ってくる。


「どうしたんだい千里? 暗い顔をして」


 そこに自分の父親の声が耳に入った。思わずハッ、とした顔になって顔を上げる。そこには心配そうにこちらを見つめてくる父、母、そして出雲の姿がある。それに風見は思わず溜息を吐いて後頭部を掻く。


「ごめん…ちょっと、ね」


 ここでもしあの少女がいなければ風見はただ怒り狂っていただけであろう。だが、それをさせないのはあの少女の影響だ。
 高町なのは。彼女の言葉の1つ1つが頭の中に残り、今なお響き続ける。それは自らの心を穿つ。自身の心に爪を立て、引き裂き、その奧の物を引きずり出そうとするかのような、そんなイメージを抱き、思わず不快感を得る。
 だが、それは自らの内にある物であると理解しているため、心が沈み込む。これが佐山だけならば、裏切られた、と思っていただろう。だがそれは違うのかもしれない。佐山は裏切ったのかもしれない。だけど裏切ってないのかもしれない。裏切ったとしても何か理由があったのかもしれない。だけどそれを自分は理解出来ない。知る事が出来ない。
 わけがわからない。ただわからぬ己の無様さが、ただ情けなかった。考えれば考える程、自然と表情が暗くなっていたのか、風見の父親が腕を組んで風見に声をかける。


「悩みがあるなら、お父さんで良ければ相談に乗るよ?」
「父さん…」
「勿論、千里が話したくないなら無理に聞かない。だけど話したいなら話を聞くよ」


 それに風見ははぁ、と息を吐いた。手で顔を覆うようにして隠す。その手のひらの下に僅かな微笑を隠して息を吐き出す。それから手を離し、椅子に座り直して父親へと向き直る。


「うん。…ちょっと聞いてくれるかな」


 風見は話した。話せない部分は誤魔化しつつ衣笠書庫であった事を親へと説明していく。説明している間にも心は痛んだが、あまり重みは感じなかった。父親はそれを黙って聞いてる。隣では母親も黙っている。出雲はコロッケを食べている。こんな時でも食うのか、とも思ったが、自分は関わらないから家族で話せ、という出雲なりの気遣いなのだろうか、と思う。
 それに出雲も聞きたいのかもしれない。…まぁ、本当の所はどうだかはわからないが。そして話しが終わる。ふぅ、と息を吐いて風見は父親の返答を待つ。しばし黙っていた父親は小さな唸り声を上げる。


「なるほど、ね。要は納得が行ってないんだろう? 千里。仕事が出来る仲間が出来て、これから、って時に解散だ、って言われたから。まるで、今まで頑張ってきた自分が仲間に思われていなかった。そう思ってしまったんだね?」


 こく、と無言で頷く風見。その反応を見てから風見の父親は言葉を続ける。


「それで自分より小さくて、しかも付き合いの短い子がその解散しようと言った人の考えを理解しているみたいで、しかも自分のは自分勝手な行動だったんじゃないか、と思ったんだね?」


 先ほどと同じように無言で頷く風見。それを見て、風見の父親は顎を手でさすってから。


「それは、千里にしかわからないんじゃないかなぁ。千里の問題だし、僕は事情を詳しく知らない。その解散すると言った彼が正しいのか、それともその女の子が正しいのか、それはわからない。それを決められるのは千里だよ」
「…私?」
「うん。千里はまだ自分の意見を固められてない。解散を決めた彼も、それを肯定した女の子は決めてるんだろうね。でも、千里は決められてない。だから自分が間違ってるんじゃないか、と思う。だから悩みなさい、と言った所かな? きっとそれは千里の経験した過去に何かヒントがあると思うよ」


 少し軽めな様子でそういう父親に、思わず風見は溜息を吐いた。そして、その父親の言葉は佐山と同じ言葉。それに思わず苦笑を浮かべる。だったら考えるしか無いよなぁ、と風見はそう思った。答えはまだ見えない。
 だけど考えなければならない。私が「全竜交渉部隊」である為に、「全竜交渉部隊」であった事が無駄じゃ無い為に。




    ●


 

 日本UCAT本部地下五階。そこは各種装備類などの倉庫兼格納庫だ。そこにある二組の男女がいた。その二組の男女というのは、飛場と美影、そして原川とヒオの四人だ。
 だがここに四人はいるのだが、その姿は見えない。何故ならば飛場と美影は8mはあるだろう黒の巨人、「武神」に乗り込み、また、原川とヒオも青の機械の竜、「機竜」に乗り込んでいるからだ。
 「武神」。それは3rd-Gを象徴する兵器である。大型の人型機動兵器であり、搭乗者が機体と合一化する事によって使用可能となる兵器だ。
 「機竜」。それは5th-Gを象徴する兵器である。竜を模した機械であり、これもまた、搭乗者が機竜に合一化によって操縦していたが、一度合一化した者は武神と違い、二度と分離する事は出来なくなる。例外が存在しているが、基本的な操縦は搭乗式となっている。
 飛場と美影が乗り込む武神の名は「荒帝」。普段は美影の所有する概念空間に収納されているが、美影の意志によって出現する事が出来る。なお荒帝には3rd-Gの概念核が納められた概念核武装「神破雷(ケラヴノス)」を装備している。形状は腕に装着される杭打機で、装填された槍に雷をまとわせて射出、相手を撃ち抜く武装だ。
 原川とヒオが乗り込む機竜の名は「サンダーフェロウ」。ヒオを守護している5ht-Gの概念核を納めた概念核武装「宵星砲(ウェスパーカノン)」を所有している。ヒオの危機や意志によって召喚される。原川は操縦を担当し、ヒオはサンダーフェロウと合一化し、原川の補助や、各リミッターの制御を行っている。
 尚、ヒオがサンダーフェロウと合一化しても取り込まれない理由はサンダーフェロウがフォローしている為であり、唯一、合一を可能としながらも合一を解除出来るのがヒオなのである。
 さて、そんな四人はそれぞれの機体に乗り込み、何をしているのだろうか?


『合わせるか? 原川』
「あぁ、このあたりのものを残してくれ、サンダーフェロウ」


 まずは原川。彼は現在、操縦席のシートに座りながらサンダーフェロウの通信機をLow-Gの物と合わせる為の調整を行っている。コンソールの表示板には幾本もの波が走る。原川はその内の一本を選び、その選んだ一本以外の線が消えていく。
 そのコンソールを、原川の後ろにある操縦席の副座に座るヒオがのぞき込んで。


「ラジオみたいですのね」
「通信機をLow-G合わせにしたくてな。サンダーフェロウ、まずは概念反応のあるものだけ取ってくれ」
『了解』


 サンダーフェロウの応答と共に、表示板に浮かんでいた波が重なり、そして声が聞こえてきた。その声は傍にある武神、荒帝に乗り込む飛場の声だった。通信が通じ、彼が記念すべき第一声が放たれた。


『原川先輩聞こえますか!? 透明な密室で女の子と二人だなんていやらしいっ! ぼ、僕はそんないやらしい先輩を持って幸せですよ!?』


 その飛場の第一声に原川は殺意を覚えた。その殺意をもみ消すかのように親指と中指でこめかみを何度かほぐす。そうしてからふぅ、と息を吐く。ゆっくりと心を落ち着けてから瞳を閉じる。深く息を吸い込み吐き出す。OK。クールだ。


「馬鹿か飛場。いや、馬鹿だ飛場」


 とりあえず疑問ではなく確定しておいた。この馬鹿めが、と思っていると、後ろに座っているヒオの気配がおかしい。ふと振り返ってみれば顔を真っ赤にしているヒオがいる。
 …まったく面倒な、と原川は溜息を吐く。溜息吐けば幸せが逃げていくというが、この原川という男はどれだけの幸せを逃しているのだろうか?


「ヒオ・サンダーソン、君も顔を赤くするな」
「はははははははい!!」


 かなりどもりながらもヒオが返答を返す。その様子にやっぱり原川は溜息を吐く。ヒオはその空気から逃げるように副座の掃除を始める。手には掃除の為のハンディタイプの掃除機が握られている。掃除機の音が響き渡るのと同時に、原川は外を見るために風防へと目を向けた。
 原川はそこで今までの事の経緯を考えていた。サンダーフェロウの動作の確認をしているのは出雲UCATに襲撃があったからだ。それに警戒しての事だ。その為に原川達はUCATの本部へ来ているのだ。
 これは風見の発案である。ただでさえ、佐山と新庄が外れているのだから、と。一見すれば当てつけにも聞こえるが、恐らく風見にはそんなつもりはないし、別にそんなのは些細でどうでも良い事だ、と原川は思う。
 原川はまだ、UCATに入ってから日が経ってない。それこそあの少女、高町なのはとそう変わりがない程だ。故に、佐山が解散を命じた理由も、風見がそれに反発したのも理解に苦しむ。どちらかというと、自分は風見に反発したなのはと似たような意見と言っても良いのかもしれない。自分はそこまで全竜交渉部隊という枠組みに傲っているわけではないのだから。
 しかし、原川には気になる事がある。それは、自らの父の事だ。彼の父は10年前に死亡している。その原因は「関東大震災」である。関東大震災。関東で起きた大地震。だが、その真実は「概念戦争絡み」だという話がある。
 そしてその当時のUCATが災害に遭った関東へ救助に向かった、と。どうやら父はUCATに関わっていたらしい。そして父は関東大震災の際に現場へと向かい、そして死亡した。それを彼の母親は知っていて、そして今までずっと隠していた。


(…聞けば答えてくれるだろうか)
 

 それはどうだかわからない。ただ、だからこそ迷う。聞くか、聞かざるべきかを。それを考えながら、原川はコンソールを弄る。まるで出せぬ答えを先送りするかのように。
 原川は一通りの動作の確認を終わらせ、操縦席のシートに身を預けた。そこでふぅ、と一息を吐いた時だ。通信機の向こうから飛場の声が聞こえてきた。ふと、外を見ればいつの間にか飛場は荒帝から降りて、携帯電話を使っている。


『あ、こっちからも繋がりますね。美影さんも聞こえますか?』
『うん、聞こえるよ』
「しっかりと繋がったようだな」
「そうですね」


 飛場の呼びかけに美影が返答を返して。それを聞いた原川が満足げに頷き、ヒオが嬉しそうに相槌を返す。原川がいざ、サンダーフェロウから降りようとしたその時だった。


『ところで原川先輩』
「何だ?」
『…さっきのなのはちゃんの話、どう思います?』


 原川はふと、唐突に振られた話題に軽く眉を動かした。それから腕を組み、ふむ、と呟く。脳裏に浮かぶ彼女の姿。そして先ほどの衣笠書庫での彼女の言葉。それを思い出してから原川は口を開いた。


「正論だと俺は思う。俺もどちらかというと彼女側の意見だ。不要な力は無駄な事しか生み出さない。更に言えば俺は俺が全竜交渉部隊でなければならない理由がわからない」
『僕もです。僕は…どうして全竜交渉部隊なんでしょうね? ただ元々3rd-Gの穢れを払う為に、美影さんの進化を促す為に概念核を手に入れる為に戦っていただけですし…』
「ヒオもサンダーフェロウがいたから5th-Gの戦いに巻き込まれたみたいな物ですし…」


 今更考えてみれば自分たちはほぼ偶然、そこに集ったような物なのだ。集まろうとしたわけではなく、ただ自然とそこに集っていた。
 飛場と美影は元々3rd-Gとはある理由の為、敵対し、その過程で佐山達と共に戦うようになってから全竜交渉部隊へと所属していた。
 ヒオは自らにサンダーフェロウがいて、その力を必要とされたから戦った。原川は済し崩し的にヒオとたまたま戦い、そのまま全竜交渉部隊へと入った。
 そうだ、そんなたまたま偶然集った自分たちが何故共に行動しなければならないのだろうか、という疑問も湧いてくる。


「集ったのには理由がある。だが、集ったままでいる理由は無い」
『かといって離れるという理由もわからないんですよね』
『過去。やっぱり佐山が言っていたようにそこにヒントがあると思う』


 原川と飛場の呟きに美影が言う。それにヒオも同意するように頷く。その様子を見ながら、原川は思う。高町なのははこう言った。仲間である必要があるのか、と。あの時、佐山が求める仲間がいなかった為、解散となった。
 求められなければ解散する。そうだ、元々1つの目的があって仲間は集う物だ。故に、求められないのならば別れる。風見はそれに抗った。それは、何故だ? わからない。全竜交渉部隊に愛着が無い自分にはそこまで抗うつもりは無い。
 飛場は…どうだかわからないが、風見のように不満を漏らしているわけではない。むしろ解散は今の自分たちに必要な事なのか? いやそれ以前に全竜交渉部隊の存在そのものが必要なのか? というその理由が気になっている様子だ。


「それが解れば苦労はしない」


 一体何故なのか。何故そうでなければならないのか。それを求める為には、過去。
 佐山は過去を求めろと言った。そこに、全竜交渉部隊が集まった理由があり、そして、解散が必要になった理由がわかるだろう。それでもわからない物はわからないな、と思い、原川は溜息を吐いた。


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