次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 05
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 一瞬、何が起こったのかわからなかった。先ほどまで溶岩のように熱していた頭が一気に冷めた。理解が出来ない。今の状況を。だが、それでも風見千里は現在の状況を確認しようと視線を這わせた。
 目の前には佐山がいる。私の手が彼の襟首を掴んでいる。そうだ。今しがた、この顔を殴りつけようと思ったのだから。殴り、いつも浮かべていた無表情を崩す為に。彼は今、表情を変えている。それは彼にしては珍しい驚きの顔だ。呆然、という表現が似合うだろうか。
 では、何故呆然としている? 私も、彼も、そして周りも。そこで空いた片方の手。それが拳を握っているのがわかった。そして、その拳に痛みがあるのがわかった。
 あぁ、この痛みは何だっただろうか。そうだ。何かを殴った時に感じる痛みだ。当然だ。私はいま、この目の前の馬鹿を殴ろうとしたのだから。では、何故、今目の前の彼は殴られていないのだろうか?


「高町君っ!!!」
「いやぁっ!?なのはちゃんっ!?」
「なのはっ!!!」


 佐山の荒らげた声を切り口に、新庄が悲鳴を上げ、美影が心配げな声を漏らした。飛場が驚いたまま固まり、ヒオは顔を真っ青にして震え、原川の腕にしがみついていた。原川もまた目を見開いた表情だ。そうしていると覚が後ろからやって来て私を羽交い締めにする。覚によって宙に持ち上げられながら、私は見た。そこにいたのは一人の少女だ。
 高町なのは。そう呼ばれた少女は、現在本棚にもたれ掛かり座っている。明らかにその態勢には力がない。当然だ。何故ならば、私が彼女を殴ったからだ。


「…あ」


 思う。何故、彼女を殴った? 今、どうしてこんな状況になっている? 私はここでようやく…数十分前まで記憶を遡らせる事が出来た。
 まず、今日は夜に「全竜交渉部隊」はUCATの技術部の主任である「鹿島昭緒」による「Gの発生」についての講義があったのだ。そこで、私達が書庫へと着いた時に待っていたのはいつもの馴染みのメンバーと…。


「なのはちゃん?」


 そう。2週間ほど前、佐山と新庄が偶然助けた子がそこにいた。名前を呼ぶと、ぺこり、と一礼をして挨拶をする。


「あ、どうも風見さん。ご無沙汰してます」
「おいおい。どうしてこの嬢ちゃんまで居るんだ?」
「私が呼んだからだ」


 一緒に来ていた覚の質問には佐山が答えた。佐山はいつもの無表情のままだ。どうしてなのはちゃんも呼ぶのかしら? と一瞬疑問に思ったが、彼女もまた、Gについてはほぼ何も知らない、と言った所だ。つまりは、佐山が気を利かしたのだろう。珍しい、と思った。まぁ、そこまでは別に良かった。
 例えなのはちゃんがいようとも会議の様子はさして変わらなかった。鹿島主任が自分の愛娘の動画を見せようとしたのを皆で止めようとして、その止め方になのはちゃんが驚いたり、鹿島主任がしつこいので苦笑を浮かべてたりと、そんな些細な変化はあったが、特としてなかった。なのはちゃんが居ようとも私達はいつも通りで、なのはちゃんは少し驚いた様子を見せて、苦笑している。苦笑しただけでも成長かな?とも思う。
 さて、講義の内容の「Gの発生」は簡単に説明すればこうだ。まず全てのGの元となる「母因子」が存在していた。だが、それは「混沌」であり、1つの世界を構築していたわけでは無いという。
 そして、それが飽和爆発した結果、1stから10thのGが発生し、逆にその爆発した際の反発力からLow-Gが発生した。これが現在言われている「Gの発生」だそうだ。そして円を描くように10のGはLow-Gの周りを走り、時おりLow-Gに引かれるかのように飛び込み、そしてまた円軌道を走っていく、とそれを繰り返していた。
 これによってマイナス概念しかないLow-Gに人間が産まれたのもまたそれが原因だと言う。理由はわからないがLow-Gは本来相反する筈のプラスの概念の存在を許すことが出来たのである。故に10世界のお話が「神話」や「伝説」という形で残されたのである。
 そしてその全世界のGの周期が重なる事になった為に「概念戦争」が行われた、というわけだ。そして鹿島主任の説明も終わった時だ。UCATの出雲支部が襲撃を受けたと連絡が入ったのは。幸い怪我人などはいなかったが、出雲支部に封印されていた「概念装備」の幾つかが盗難に遭ったという話だ。
 なのはちゃんが一体何の事だかわからない、と言ったような表情をしていたが、今は説明している暇が無い。これは全竜交渉部隊の今後に関わる事だ。悪いが後回しには出来ない。
 元より、私は今回の会議で全竜交渉部隊が集まった際に佐山と新庄に対して言おうと思っていた事があったのだ。佐山と新庄は互いの両親の足跡を追う為に単独行動をする予定だったのだが、現在の全竜交渉部隊を取り巻く状況が不安定だった為、それは避けてもらおうと思っていたのだ。
 「軍」というUCATの敵対組織に、まだ未交渉であった7th-G。懸念事項が多すぎる、と。丁度良いタイミング、と言えばそうだった。だから、私はその旨を佐山に伝えた時だ。そこから、全てがおかしくなったのだ。


「確かに襲撃には良いタイミングだ。もはや残りの概念核は7th-Gのみ。ここで私と新庄君が離れればどうなるかという、そんな警告かもしれないね。今夜の襲撃は」


 最初は同意を得たのだと、安堵の息を漏らしかけたその時だ。


「だから私はここにこう宣言する。今夜、この時間から我々全竜交渉部隊は……」


 佐山がその宣言を告げた。


「解散する」


 そこからよく覚えてない。とりあえず納得がいかなくて佐山に突っかかったのはわかる。何を考えているのか、と。今、全竜交渉部隊は絶頂期とも言える状態だ。なのに、何故その状況で解散しなければならないと。
 ふざけるな、そう言った思いが頭を駆け巡った。わからなかった。何故佐山が解散という事を言い出したのかを。だから、その真意を問おうとした。敵が来ている。彼を必要としている場所がある。仲間がいる。それなのに、一人で何勝手に解散しようとしているのか、と。
 だが…彼は、こう言った。


「その理由の半分は、既に明確だと。君ももう既にわかっているのではないか? 風見」


 わからなかった。彼が何を言ったのかがわからなかった。だから、言わないと駄目だ、と叫んだ。言葉にしなければ伝わらない。だから伝えろと。何度も死にそうになった時もあった。
 それでも頑張ってきた。目の前の彼の命を救った事もあった。その事について悩んだ事もあった。その時あった苦痛も、思いも、涙も、死も…護った事すらも、無意味なのか、と。そんなの…救いが無いと。私達は一体何の為に戦ってきたのか、と。だが…望んだ問いが帰ってくる事は無かった。


「こればかりは言って解るものではないよ、風見」


 裏切られた気がした。あぁ、なんで、いつも一人でわかったような顔をして…。私達は仲間じゃなかったのか? 違うのか? 私にとってこの全竜交渉部隊で過ごした日々は何にも代え難い日々だった。なのにそこで為した事、思った事を否定するのか、と。
 だから最後の問いかけを放った。どうして今、解散しようとするのか、と。それを、答えろ、と。だが…佐山は答えなかった。更には、こう言葉を続けた。


「話してわかった。風見、今の君はその理由に浸っている」


 佐山の言葉に自らの心の中に火が灯った気がした。それは怒りの火種だ。そして更に佐山は言葉を続けた。


「だから言ったところで君には解らない。そして、解ったつもりになるだけだ、風見」


 話す意味が無い。そう言われた。それは火に油だ。怒りは身体を動かす。襟首を掴んだ手を握り直し、右の拳を振りかぶる。目の前の佐山を殴る為に。


「か、陥没しちゃうよっ!!」


 新庄が叫ぶ。それに、してしまえ、と思った。怒りが理性を凌駕し、本能が身体を動かす。コイツを許すな、と。その時だ。佐山に当たる前に、何かが右の拳に当たった。殴ったのは肉の感触。つまり、誰かが割って入ったのだ。
 誰か、と理解する前に、殴られたその誰かは吹き飛び、本棚へと叩き付けられた。本が崩れ落ちなかったのが幸いだ。だが、その誰かは動かない。ぐったりと、動かない。


「…あ」


 その動かない誰かは……高町なのは。
 そして、状況は冒頭へと戻る……。





    ●





 頭がグラグラしてる、となのはは重たい意識の中で思った。頬が痛い。そして頭も痛い。背中も痛い。当たり前だ。全力で殴られて、更には本棚へと叩き付けられたのだから。まだ意識がはっきりとしない。竜轍さんの拳みたいだ、となのはは思った。多分、あの修行が無かったら自分は今頃、意識を失っているだろう。


「なのはちゃん!! しっかり!! 大丈夫っ!? ねぇっ!?」


 頭が重い中、グラグラと揺らされた。心配そうな声は新庄さん、かな? となのはは誰かを推測しようとする。肩を揺さぶって来るのが少し気持ち悪い、と思う。故に肩を揺さぶる手に、そっと自分の手を重ねて。


「だい、じょうぶ、です」
「だ、大丈夫なわけないよっ!? 風見さんのパンチ、本気でくらって…」


 新庄がぽろぽろと涙を零しながら言う。それに申し訳ない気持ちが浮かぶが、今はそれどころじゃない。今、向かい合わなきゃいけない人がいる。顔を上げる。そこには、出雲に羽交い締めにされている風見の姿があった。
 その隣には佐山がいる。少し驚いたような顔がそこにあった。珍しい、と思う。更に視線を這わせる。飛場と美影が見えた。どちらもこちらを心配するような視線を向けている。大丈夫だ、とでも言うように、ゆっくりと立ち上がる。
 途中で新庄が支えてくれた。その際にヒオと原川の姿が見えた。ヒオの怯えた姿に、軽率だっただろうか、と思った。だが、それでも割って入った。それはいけないと思ったから。
 誰もが沈黙していた。先ほどまであった背筋が冷えるような空気は無くなったとはいえ、今度は胃に来るような思い空気が漂っていた。その原因は新庄に支えられたなのはの沈黙の為だ。
 なのはは一回り、皆を見渡した後に風見へと視線を合わせた。それに風見が罰悪そうな顔を浮かべる。だがなのははそれに何ら表情の変化も見せない。殴られた頬が痛い。それについて怒るつもりはない。
 これは己が受けに行った物だ。それについては、己の自己責任だ。だが…問わなければならない事がある、と、なのはは思った。故に、なのはは口を開いた。


「風見さん」


 なのはが風見を呼ぶ。それに、風見がビクッ、と身を震わせるが、なのはは気にしない。そのまま問うべき事を伝えるべく言葉を紡ぎ続ける。


「どうして、そんなに解散が嫌なんですか?」
「え…?」


 なのはの問いに風見は唖然としたような顔を浮かべた。周りの皆もだ。ただ、その中で佐山だけが表情を動かさない。いつもの無表情だ。それを確認し、なのはは更に言葉を続けていく。


「私は、この部隊が何の為に作られたのかなんて、貴方たちに比べれば何もわかってないも同じかもしれない。でも、人が集まるには理由があります。…佐山さん」
「何かね?」
「佐山さんは、現状ではその理由を果たせないと思った。だから解散するんですよね?」
「そうだ」


 なのはの問いに佐山は淀みなく答える。それに風見がキッ、と鋭い視線を向けるが、佐山は動じない。その佐山の返答を聞いて、なのはは確信したように頷き、再度、風見に向き直る。


「私はこう思います。果たす目的が果たせないならば、止めてしまった方が良いと」
「何でよっ! 私達は為さなければならない事があるのっ!!」
「それは本当に貴方たちじゃなきゃ、いえ…「全竜交渉部隊」という形でなければ駄目なんですか?」


 そのなのはの問いに風見が息を呑んだ。周りの者も何人かは息を飲んだ。そして数秒の間をおいた風見が戸惑う様子を見せながらなのはに問いかけた。


「どういう意味? それは…」
「風見さん。貴方は力がありますか?」
「……あるわ」
「なら良いじゃないですか。別にそれで。貴方には為す力がある。ならばそれを為せば良いじゃないですか」


 なのはの冷淡とも取れる言葉に風見は目を見開かせた。それに、飛場が一歩身を乗り出してなのはと向かい合った。飛場は真っ直ぐになのはを見つめる。なのはもまた飛場を見つめる。


「…なのはちゃん。君はこう言いたいの? 力があるなら集まる必要なんて無い、って」
「違いますか? 飛場さん。目的があるとします。それを叶える為の力があります。そこにたまたま同じ目的を持った人がいて、その人の助けを借りるのはともかく、別の道を行こうとしている人をわざわざ自分の行きたい場所へと引き摺って行くんですか?」


 逆に問い返されて飛場は沈黙した。なのはの言う通りなのだ。自分達は個々にそれぞれ力を持っている。だが、それをどうするかは本人の意志だ。人によって目的地は違う。そこにたまたま助けとなる物があったり、助けてくれる人がいてくれるだけなのだ。
 それが彼らにとっては全竜交渉部隊という形だっただけに過ぎない。だが、今その形が不適切だ、と佐山に断じられたが故に、全竜交渉部隊は解散へという事が決まったのだろう。


「それも別に良いでしょう。ですが望まぬ場所に連れて行く人に対してはそれに代わる何かが無ければ付いては来てくれないでしょう?」


 なのはの言葉に、誰もが何も言葉を返す事が出来ない。なのはの言う事は、ある意味、全竜交渉そのものと言っても良い。Low-Gに滅ぼされ、遺恨を抱えながらもそれを解消し、世界の終末に立ち向かおうとする全竜交渉と。


「佐山さんは、自分の興味だけを持って行く、と言いましたね?」
「そうだ。私は衣笠教授の足跡を追う。私の興味を持ってね」


 なのはの問いに佐山が頷き返す。それを確認してからなのはは更に問いかけを重ねる。


「それは、風見さん達には必要ですか?」
「必要ではない。これは私の望みだ」
「では風見さん。貴方が全竜交渉部隊を解散したくないというのは誰の望みですか?」
「それは…私の願いよ。でも私達が解散して困る人達だっているのよっ!?」


 風見は叫んだ。そう。全竜交渉部隊はただの部隊ではない。重要な位置にいる部隊なのだ。今まで交渉の先頭に立ち、戦ってきた。責任がある。それを放り出すのは無責任だと。だが、それを聞いてもなのはは揺るがない。目を細め、無表情に告げる。


「別に良いじゃないですか」
「…なんですって?」
「良いですか? 風見さん。佐山さんが勝手な事をして困るのは貴方ですよね? その理由は誰か困るかもしれないという曖昧な理由。…敢えて良いましょうか? 他人なんかどうでも良い人はどうでも良いんです。佐山さんはそういう人だって言う事でしょう?」


 なのはの言葉に風見が目を見開いた。その時、風見は自分が何を思ったのかよくわからなかった。ただいろいろな感情がごちゃ混ぜになり、言葉が消えた。それは佐山を弁護する言葉だったのか、それとも困る人がどうでも良いと思う事に対してなのか。
 だが、それは言葉として纏まらない。ただ目を見開いてなのはを見つめるだけだ。そこに佐山の問いかけの声が入る。


「今、ナチュラルに私の人格が否定された気がするのは気のせいかね?」
「じゃあ聞きますけど、他人の迷惑になる、と考えましたか?」
「いや。私には必要の無い事だ」


 その佐山の言葉に風見が怒りを露わにして叫んだ。出雲の拘束から逃れようと藻掻くが出雲がそれを許さない。藻掻きながらも風見は叫ぶ。


「何ですってっ!? アンタ…私達は仲間じゃなかったのっ!? どうでも良いって、そう言うのっ!?」
「佐山さんにとって価値が無くなったんでしょう。ただそれだけです。それだけの事ですよ風見さん。わからないんですか?」
「納得がいかないわよっ!!」


 風見の叫びを聞いて、なのははふぅ、と溜息を吐いて。


「じゃあどうしますか? 佐山さんを力づくで従わせますか?」
「…え?」
「貴方はそうしようとした。力でねじ伏せようとした。それが貴方のした選択。貴方にはそれを為す力がある。それが貴方の望みでしょう? 風見さん。だったら従わせれば良い。貴方の力を使って、貴方の思い通りに為せば良い…」


 そのなのはの言葉に風見は掠れたような声を漏らして沈黙した。なのはの表情が変わる。ただ氷のごとく冷たい表情に。細められた眼が冷ややかに風見を見据える。


「仲間ですか。こんなに簡単に崩れてしまうのが…仲間ですか? それとも、崩した人が悪い? 佐山さんの興味は既にここにはありません。責任も知らない。ただ自分の興味だけを持っていく。そう言いました。だったら……どうしようも無いでしょう?」
「それ、は…」
「風見さん。仲間になろうともしない人は…仲間になれないんですよ。佐山さんは仲間である事を否定しました。なら後は力でねじ伏せるしか残っていませんよ? どうしますか? ねじ伏せますか? 従わない人は力づくで従わせますか?」


 その問いに風見は返さない。いや、返せない。だが納得は出来ない。ここで全竜交渉部隊が解散するのは嫌だ。だが、佐山を従わせる方法が力づくでしか無い事もまた事実。相反する2つの事柄に挟まれ、風見はその問いには何も答えられない。


「…貴方が残したいと思うように、佐山さんだって解散しなければならない理由だって持っているんでしょう。そして、それの半分は既に風見さんもわかっていると、そう言いましたね? 私は、これなんじゃないかな?と思いますよ」
「…あ…」
「風見さん。貴方は…力があれば何でも出来ると思ってるんですか? だったら敢えて失礼を承知で言わせて貰います。―自惚れないでください、と」


 なのはが冷ややかな瞳に静かな怒りを込めて呟いた。風見は息を呑んだ。気圧されたのだ。明らかに自分より年下の少女に気圧されたのだ。そのままなのはは告げる。風見だけでなく、そこに居る者達全てに言うかのように。


「…力は、誰かを傷付けるんです。それが護る為であろうとも。覚えておいてください。力の使いどころを誤れば…傷付くのは自分であり、他人なんですから。本当に、今の皆さん方は自分の力を正しく使えるんですか? 私は、少なくとも後悔はしないつもりでここにいます。胸を張ってそれだけは言えます。…皆さんは、どうですか?」


 そう言ってなのはは全竜交渉部隊の面々へと視線を向ける。だが、誰もがなのはの言葉に答える事は出来ない。反応が無い事に、なのはは小さく溜息を吐き出して出口へと歩き出す。まるで、ここには居たくは無い、と言わんばかりに。それを、誰もが引き留められなかった。
 なのはの言っていた事は、自分達は既に知っていた事だったのではないか、と。扉の閉まる音が書庫内に響いたような気がした。
 扉を閉めた後、無言でなのはは歩き出した。早くここから出て行こう、と思いながら早足に歩いていく。俯き気味の表情からは何も伺えない。ただ、なのはの両手は握り拳を作り、ただ震えていた。


「……やだな、もう」


 なのはは、グイッ、と服の袖で目元を拭った。そこには涙の後があった。なのはは泣いていた。何故、泣くのか? それは、過去を思い出してだ。全竜交渉部隊を見て思ってしまったのだ。
 風見に向けた言葉は己へと向けた物でもあった。力があれば何でも出来ると思った。その力で誰かを救える、と言われた。それは素晴らしい事だと思った。だから自分は魔導師になった。誰かを救えれば良いと、悲しむ誰かを救えれば良いと。
 でも、それは本当だったのだろうか。事実、今自分はこうして魔力を失っている。それで、誰かを救えたのだろうか? 救えた人もいただろう。だが…少なくとも、護りたかった人たちを泣かせてしまった。
 あぁ、自分が、本当に護りたかった物は何だったんだろうか? それは、共にいてくれる仲間じゃなかっただろうか? 家族ではなかったか? 友達ではなかったか?
 仲間なんて、あのように一人が抜ければ崩れてしまうのだ。では、自分はどうだろうか? 思い出すのは、幼い頃からの友人。アリサ・バニングスと月村すずかだ。
 自分が魔法使いとなり、あの輪から最初、抜けてしまった。その後、フェイトが来て、はやても来て…だが、どっちかというと魔法関係で付き合うフェイトとはやての方が多かった。
 アリサとすずかは何を思ったのだろうか? もし、自分がされたらどうだったのだろうか? あぁ、なんて、なんて苦痛なんだろう、と。フェイトやはやてはどうだ? 私はもう魔導師にはなれない。もう、三人で任務についたりも、護ったりも、護られたりも出来ない。
 あぁ、結局、仲間であると信じているだけでは駄目なのだ。人の世は常に移り変わり、流れて変わっていく。流されたまま生きた自分はこの有様だ。
 友人の輪からも外れ、仲間との輪から外れ、家族の輪からも外れてしまった。あぁ、私は、一体どこにいたかったんだろう?
 見せつけられてしまった。仲間など、絆など、脆く儚い物なのだと。一瞬の疑いで今まで築き上げてきた全てを失った。あぁ、なんて、なんて儚いんだ、と。そうであろうと思い続けなければ、それは失ってしまう物だったんだ、と。


「私が…本当に護りたかったのは…」


 居場所、だったんだ。ぽたりと、涙が一滴落ちた。上げそうになる泣き声を無理矢理噛み殺す。噛み切った唇の端から、血が零れだして肌を沿って落ちていく。叩くかのように地を踏みしめる。もう二度と誤らない。絶対にもう間違えない。間違えたとしても、それを絶対に後悔しない。反省はしても、後悔はしない。そして追い抜いていこう。地を踏みしめて走って行こう。
 今度こそ、見失わないように。間違わないように。絶対にもう負けない、と流されないように。もう二度と間違わない為に。
 涙を拭い、なのはは歩いていく。力強く、前へと進む為に。その歩みに迷いは無くなのははただ進んでいく。





    ●





 なのはが出て行った衣笠書庫の中では、重い沈黙に包まれていた。なのはの言葉の全てが皆の胸に突き刺さった。それはいつか自分たちが体験した筈の事であった。なのに自分たちは忘れていた。それをまだ小学生の少女に気づかされた。
 その事実がただ重くのしかかるその中で、新庄がゆっくりと口を開いた。


「…ねぇ、あの、さ。僕思うんだ。佐山君が言う理由は、きっといつか僕たちが解る事なんだ。でも、それにはまだ何かが足りないんだ。それを考える時間がいるんだと思う。だから…まだ解散はしない。それで僕と佐山君はやっぱり出る。その時にその理由を考えてみよう。そして…わからなかった時、本当に解散しよう」


 新庄の言葉に、風見は力を抜くように溜息を吐いた。新庄の言いたい事はわかる。だが、それでもやっぱり戦力的に二人が抜けるのだ。その間はどうすれば良いのか? と。
 そんな事を考えていると、佐山が、ふぅ、と溜息を吐いて。


「ならば風見。私がいない間、君を暫定相談役に任命する」
「…はぁっ!?」
「君が指揮を執れ。そして誰かが困っていた時は相談に乗れば良い」
「ちょっ――」
「そ、それが良いと思うですのっ!!」


 佐山の言葉に同意するかのようにヒオが叫ぶ。風見は文句を言おうとしたが、ヒオが叫んだ為、文句を言うタイミングが無くなった。代わりにヒオへと視線を向ける。ふと気づけばそこにいる全員がヒオを見ていた。それにヒオは一瞬皆を見渡した後、急にワタワタとし出して原川の後ろへと隠れる。


「えぇ、と、なお、若輩者が諫言とはばかりながらも…」
「…何でそんな日本語知っているんだヒオ・サンダーソン」


 思わずヒオの台詞にツッコミを入れる原川。それにヒオが勢い良く顔を上げて。


「だ、だって…皆さん、空気悪いですし、その、私達仲間なのに…佐山さんの考えを一番わかってるのが、なのはちゃんなんじゃないかって…」


 それに風見が息を飲んだ。そうだ。なのはの言う事は最もだった。正論であった。だからこそ言い返せなかった。そして何も言い返せないまま彼女を見送ってしまった。認めてしまったと言えるだろう。私達の方が付き合いは長い筈なのに、たった2週間前に保護されただけの子が理解している。それは酷く、情けなくはないだろうか? と。


「きっと、きっとですの。ヒオ達はまだ本当の意味で「仲間」じゃないと思うんですの。その答えは、何故全竜交渉部隊が解散しなければならないのか? というのを考えればわかると思うんですの。そ、それに小学生に負けたのってなんか悔しいですのっ!!」


 小学生に負けた。そのフレーズが更に空気を重くした。風見なんか、目がヤバい。出雲もどこか遠くを見るような目になり、飛場が壁に額を押しつけて影を背負った。美影もどこかションボリしている様子。新庄もどこか辛そうに視線を伏せた。言ったヒオもヒオでダメージを受け、周囲の空気が更に悪くなる。唯一変わらないのは佐山だけだ。


(…はっ!? 逆効果になってるですのっ!?)


 皆を励まそうとしたのだが自分で自分にダメージを与えてしまっていた。当然ながらも皆もダメージが言っている。とりあえず、これでは駄目だ、と思いヒオが更に言葉を続ける。


「だ、だからこのままじゃいけないと思うんですにょっ!!」


 そしてヒオは末尾を噛んだ。のが、にょに変わり、場が沈黙した。ヒオは思わず口元を抑えた。今、この場でこの間違いは今後の己の立場がとんでもない位置に定められてしまう可能性もあるのだ。思わず、汗がたらり、と流れる。ヒオの気持ちを察したのか察してないのか、佐山が腕を組み、頷きながら言う。


「そうだね。ヒオ君の言う通りだ。私達は余裕が無かった…故に高町君にあぁも言い負かされたり、人格否定されたりしたのだろう」


 絶対に根に持ってますの、と佐山の言葉にヒオは思った。しかも佐山自身が肯定したような気もする、と思っていると佐山は出雲の方へと振り返り。


「貴様もそう思わないかにょ? 出雲」
「そうだよなぁ…だから俺たちあぁも小学生に言い負かされたんだろう。違うかにょ?」
「いえ! 全然違わないと思うんですにょっ!!」


 先ほどのヒオの語尾が故意につけられた。佐山から始まり、出雲へ、そして出雲に同意する飛場へと。それを聞いてヒオは顔を引きつらせた。心境的には「やっちまった」だ。


「私もそう思うにょ」
「あぁ、やっぱり美影さんもそう思うんですにょ?」
「うむ。満場一致のようだにょ?」
「はははは、そうだな。俺たちやっぱり余裕が無かったにょ?」


 美影も混じった。そうして広がるにょの語尾の輪。ヒオは思わず泣きそうになった。このままでは不味い、と思うが打開策が見つからない。そう思っていると新庄が一歩前に身を乗り出して皆に注意する。


「止めなよ! そんなに語尾チェンジしてたらヒオが可哀想だよっ!! まだこっちの文化に慣れてないヤンキー少女なんだからっ!!」


 あぁ、そのフォローは有り難いが追い打ちをかけられてるとしか思えない、とヒオは涙目になる。救いを求めるように原川に視線を求めるが、原川はばっちりと視線45度を固定し、ヒオとは目を合わそうとしない。


「ちょっ!? 原川さん!? 何で目を合わそうとしてくれないんですのっ!?」
「俺を巻き込むな、ヒオ・サンダーソン」
「ヒドーーーッ!?」
「あぁもうはいはいはいわかりましたっ!! もうグダグダじゃないっ!!」



 あまりにもグダグダな空気に風見が投げやり気味にそう叫んだ。そして出雲に羽交い締めにされながらも腕を組んで佐山へと視線を向ける。


「とりあえず、新庄とアンタの案を採用する。…で? アンタ達がいない間に7th-Gから全竜交渉の要請があったらどうすんの?」
「私が帰るまで待って貰いたまえ。もし待たないようであるならば、その時は臨機応変だ。全竜交渉部隊がない状況、つまりは6thと10thの時と同じと考えたまえ」


 佐山の言葉に風見は沈黙した。その様子に不思議に思ったのか、佐山が風見の方へと向く。風見は顔を俯かせていた。何を言うわけでもなく、ただ俯いていた。しばらく沈黙していたが、風見が口を開いた。


「全竜交渉部隊って…無かったのよね。元々…」
「…そうだ。元々、無かった部隊だ」
「…ねぇ。佐山。何で、解散するかは聞かないわ。ただ…教えて。どうして、私達は集わなければならなかったの…?」


 風見の問いかけに佐山は何も言わない。ただ組んでいた腕を放し、その場に力を抜いた状態で立つ。そこに居る誰もが佐山の返答を待っていた。佐山はしばらくして首を振った。


「私にも、まだ半信半疑なのだよ、風見」
「…え?」
「何故、私達は全竜交渉部隊なのか…そうでなければならなかったのか、それともそうでないのか。そうでないのならば私達は解散するべきだ。その答えを求める為のヒントなら1つある」


 一泊の呼吸を置いて、佐山はそれを告げた。


「過去だ」
「過去…?」
「私達の過去にその答えがある。ならば、過去を求めたまえ」


 佐山は告げながら入り口へと歩いていく。そして背を向けたまま扉を開き、顔だけ面々へと向けて。


「また会おう。全竜交渉部隊。……再び集う日まで」


 そう言い残し、佐山は衣笠書庫を後にしていく。それを見てから新庄も一歩踏み出した。そして皆の方を振り返って。


「…ごめんね、ってもう言わない。ただ…ちょっと行ってくる。僕も、答え探すから。帰ってきたら…答え合わせしよう」


 そう言って新庄も佐山の後を追うように走っていく。その光景を見送ってから美影が小さくぽつり、と呟いた。


「まだ…終わってないんだよ」
「…美影さん?」
「私達はどうして全竜交渉部隊でいなければならなかったのか。それは、本当にそうだったのか、って。求めなきゃいけないんだ。きっと必要な物があるから。だから、佐山も、新庄もそれを求めに行くんだ」
「…それってどういう事?」


 美影の呟きに風見が顔を上げた。美影は風見と視線を合わせて。風見は美影に視線で問う。それではまるで佐山が全竜交渉部隊を残そうとしているようだ、と。だが、佐山は解散を命じた。他ならぬ彼自身によって。一体それは、どういう事なんだ、と。


「佐山も、全竜交渉部隊の一員だから。佐山も、求めなきゃいけないんだ。私達と同じなんだ。だけど、彼は「悪役」だから」
「…ぁ…!」


 風見は気づく。悪役だからこそ、彼はそれを言わなければならかなったのだろう、と。もし、なのはがいなければ恐らく佐山が一人悪役にされていただろう。だがなのはがいた。なのはがいたからこそ、と美影は思う。もしなのはがいなかったら自分も、風見も完璧に佐山を疑っていただろう、と。


「佐山は…それに気づきかけて、だからこそ言わなきゃいけなかったんだ」


 悪役だから。佐山の姓は悪役を任ずるのだから。それに風見は再び俯いて沈黙した。
 思わず再び重たい空気が残った面々の間に流れる。そこにふと、飛場が「あ」と呟きの声を漏らし、風見の方を指さした。それにヒオが首を傾げて。


「…どうしたんですの? 飛場さん」
「いや…あの、出雲先輩? もしかして…風見さんの胸揉んでません?」


 その飛場の声に皆の視線が出雲へと集中する。しばし出雲が沈黙。それから風見の身体を羽交い締めにしたまま持ち上げるようにして。


「新開発、X揉み!! ……エーーーックスッ!!!」


 瞬間。風見の両肘が出雲のこめかみを挟み、強烈な一撃を食らわせたのであった。


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