次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 03
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 飛場道場。そこにあるなのはに宛がわれた部屋。風呂から上がり、食事が終わったなのはは佐山と新庄を自分の部屋へと通していた。自分の部屋と言っても、寝るぐらいにしか使っていない為、生活感が感じられない部屋だが。
 そこでなのははいつか、佐山と新庄にお願いをした時のように向かい合わせになるように座る形となる。なのはは佐山へと視線を向ける。その顔には疑問が浮かんでいる。


「今日は本当に様子見だけですか?」
「あぁ。君がどうしてるか、と思ってね」


 佐山がそう言う。するとなのはは一瞬キョトン、としてから、怪訝そうな顔を浮かべた。その表情の変化を怪しんだように新庄が首を傾げてなのはを見つめる。


「どうかしたの? なのはちゃん」
「えと…佐山さん?」
「何だね? 高町君」
「…あの本当に何ですか?」


 その問いかけ方に、佐山も新庄も怪訝そうな顔になった。一体どうしてそこまで疑うのだろう? と二人は思う。なのははその顔を見て、なんだか居心地が悪そうに頬を指で掻いて。


「いや。理由が無いかなぁー、と思いまして」
「理由?」
「だって、佐山さんって私を諦めさせる為にここに送ったんじゃないですか?」


 そのなのはの言葉に佐山が眉を顰める。新庄も不思議そうになのはの顔を見て、佐山の顔を見て、交互に二人の顔を見返す。それになのはは少し困ったように顔を浮かべる。このままでは互いの理解が得られないな、と佐山はなのはに問いかけを投げかける。


「どうしてそう思ったのかね?」
「だって今更考えて私にメリットなんてありませんから。佐山さん、UCATってそこまで戦力に困ってますか?」


 なのはの問いかけに佐山はふと、全竜交渉部隊のメンバーを思い出す。全竜交渉部隊のメンバーだけでもかなりの力を持つ者達が大勢いる。その下には通常課という部隊も存在しているため、戦力不足で悩んでるという事は無い。
 佐山の表情から察したのか、なのはは更に畳みかけるように問いかけた。


「小学生を部隊に組み込むメリットって、あります?」


 それは無い、と佐山は即座に思う。いくら力があろうと小学生を戦場に出す事を誰が許容しようか? UCATでの最年少と言えばヒオ・サンダーソン。彼女はまだ中学生である。別に好まれて戦場にいるわけではない。
 あれは彼女が選んだ結果であり、それに伴う力があったからだ。ふとそこで佐山は考える。そのヒオに対して高町なのははどうだろうか? 彼女は小学生。ヒオよりも幼い子だ。更には特別な力も無い。そんな少女を鍛えて全竜交渉部隊のメンバーに加えるメリットがあるのだろうか? …否だ。そんな物は無い。
 佐山が思案している事に気づいているのかいないのか、なのはは更に言葉を続けていく。


「だから追いかけるのは自由でも、心配とかはされるとは思わなかったなぁって思ってまして…佐山さんは私に構ってる程暇なんですか?」


 なのはにとって不思議で仕様がない。佐山は世界の滅びを防ぐ為に戦う部隊だというのを知っている。それを、メリットも無い自分へと会いに来るというその行動がわからなかった。だからこそなのはは問いかける。その疑問を解消する為に。
 それに答えるべき佐山は、沈黙していた。


(…高町君の言うとおりだ。私は、何故、ここに来た?)


 御神家のわかった事でも伝えに来た? そんな多くの情報はわからない。話すに値する内容でも無い。ならば…私は何をしに来たのだ、と。
 様子を見る? そこに何のメリットがある。彼女を戦力として使うつもりか? …たかが小学生を? そこまでUCATは戦力に困っていただろうか? ヒオの場合とは例外なのだ。彼女には成す為の力があった。だが…対して高町なのはは違う。彼女はまったくの無力なのだから。期待出来る要素など1つも無いのだ。


(そうだ。彼女にメリットなどはありはしないのだ。…それでも、私は、何故様子を見に来るなどと…思った?)


 期待していた? 馬鹿な、小学生だぞ、と佐山は思考する。力も無い小学生だ。そんな者に期待をかけていた? だがそう考えるのが自然だ。しかし、そう思ったのは何故だ? 私は頼りたかったのか?
 それは高町君の望む事か? 私は頼れば良いのか? 彼女に頼ればそれで良いのか? いや待て。それ以前に自分は彼女に何を見いだしたのか、と。


「佐山君?」


 沈黙したままの佐山を心配気に見つめる新庄。それに佐山がハッ、としたような顔を浮かべる。それから自らを落ち着けるようにゆっくりと息を吐いて表情を引き締めてなのはを見据える。


「高町君」
「はい?」
「君は何故ここにいる?」
「えと…私はここにいたいと思ったからですよ」
「ここにいたい。それは何故?」
「見つけたい物があるから、私はここにいるんですよ。必要とされなくても良い。だけど得たいものがここにあるから得る為にここにいるんです」


無邪気になのはは笑って言う。それは、己の心からの本心だと言わんばかりに。ここにいたいから。答えを探しているから。例え、必要とされなくても。ここにいたいと。そう望むから。そこに自分の求めるものがあるからこそ。
 なのはの言葉にまるで天啓を受けたかのように佐山は納得し、頷いた。
 ――あぁ、そうか、と。


「帰ろう。新庄君」
「え? さ、佐山君?」
「私達がここにいる理由はもう無い、という事だよ。様子見は終わったし、それに、少しばかしやらなきゃいけなくなった事があってね」


 なのはを見て佐山が言う。それになのはが少し首を傾げてる。首を傾げるなのはを見て佐山はフッ、と笑みを浮かべる。


「助かったよ」
「え? 何がですか?」
「何、気にしないでくれたまえ。私の独り言だ。さ、帰ろう。新庄君」


 そう言って立ち上がり、玄関へと向かっていく佐山。それを呆然と見て、見失ってから慌てて動き出す新庄と、結局何が何だかわからないなのはが残された。
 佐山は二人に気にせずに部屋を後にした佐山。そこで佐山を待っていたのは竜徹だった。


「よう。御言」
「…飛場先生。貴方は高町君をどう思う?」
「あぁ。テメェと似たような糞ガキだ」
「やはりかね」
「あぁ」


 竜徹の言葉を聞いて佐山はククッ、と喉を鳴らした。愉快愉快、そう言わんばかりに口元を吊り上げて佐山は笑う。


「幸いである事を忘れていたよ」
「そうかい」
「私の原点を探してみよう。そう思う」
「好きにしやがれ」


 ぶっきらぼうに竜徹は返す。だがその顔には若干の笑みが浮かんでいた。それに佐山がふぅ、と息を吐き出してから。


「…飛場先生。その時は彼女も私達と歩けるかね?」
「知らねぇな。アイツにその根性と意志があるなら付いて行けるさ」
「そうかね。それはとても楽しみだね」
「おいおい。無力なガキだぜ?」
「私も何も知らぬ子供であったよ。ならばスタートラインは同じだ。彼女がここにいたいと望むなら、その先にある答えを望むならば…彼女は私と同じ場所に来るだろう。それはとても愉快な事だね」


 佐山御言は思う。高町なのはと自分は似通っている部分が確かに存在すると。
 例え自分の行いが過ちであると知りつつも貫く者。彼女は、どうするのだろう? その過ちを貫くのか? それとも正すのだろうか? 佐山は、それが見てみたいとそう思った。


「彼女が答えを望み、私もその答えが知りたいと望む。なら、私は待つだけだ。彼女の答えをね」


 後ろから新庄が慌てた様子で佐山の名を呼びながら歩いてくる。それを見てから竜徹がふぅ、と息を吐いて。


「仕上げはしといてやるよ。潰れてもしらねぇからな?」
「賭けでもするかね? 私は高町君が這い上がってくるのに全額賭けるが?」
「馬鹿野郎」


 軽く笑う様子を見せて竜徹が佐山の肩を軽く叩いて歩いていく。そのすれ違う間際。


「賭けになんねぇだろ?」


 竜徹はそう、呟いて去っていく。去っていく飛場を見送った後、佐山が瞳を閉じる。脳裏にまるで誰かの姿を描くかのように。
 そこでようやく新庄が佐山に追いついてきた。彼女は先ほどから状況について行けてないのか困惑した顔を浮かべて。

「ちょっと佐山君っ!? 急にどうしたのさ!?」
「ふふふ。なに、簡単な事さ、新庄君。これから楽しくなるって事だよ」


 ククッ、と喉を鳴らせながら佐山は歩き出した。それに新庄が訳のわからない、と言った顔をしながら慌てて佐山を追いかけてその言葉の真意を聞きだそうとしている。
 はい上がってくるが良い。「悪」でもなく「正義」でもない君よ。私は、待っているよ。私は、君の出す答えが見てみたいと思ったよ。


「君は見せてくれる事を、望んでくれるかね? 高町なのは」




    ●





「…佐山さん、結局何しに来たんだろうね?」
『さぁ?』


 一方、佐山と新庄が去った部屋では置いてけぼりにされたなのはが草の獣と戯れながら、ぽつり、と呟いた。
 その瞬間、背後から殺気が背中に向けられた。思わず後ろを振り向く。同時に振り下ろされる何か。それを手で受け止めるなのは。


「ちょっ、竜徹さんっ!? 何するんですか!?」
「準備しろ」
「は…? 何を…」


 聞こうと思った時に、手に握ったその物を見てなのはは驚きに顔を満たした。その手にあったのは二本の小太刀。黒塗りの鞘に収められた鋼の重み。思わず、なのは手が震えた。


「あの、これは?」
「これから仕上げてやるよ。お前をな。良いか? これから山に潜る。一週間、俺はお前を殺すつもりで攻撃する。生き延びろ」
「な…っ」


 なのはは思わず息を呑んだ。それが冗談ではないと、冗談を言う人では無いという事は知っている。そしてそれの証明がこの鞘に収められた小太刀だ。思わず一本の小太刀を鞘から解き放つ。鈍い光を放つ研ぎ澄まされた刃。曇り無きその刃は、吸い込まれてしまいそうだ。


 …私は、これを、振るえるのだろうか?


 冷えていく心と引き替えに、小太刀を握った手を中心に、身体は熱を帯び始めていた。心音が、自らの中で、強く、激しく響き始めていた。
 気持ち悪い。なのはは素直にそう思った。自分の身体が自分の身体じゃなくなっていくようなそんな感覚。ふと、竜徹と眼があった。そこには静かにこちらを見据えてくる竜徹が居た。


 そして、なのはは…――逃げ出した。


 声が出なかった。ただ、小太刀を握りしめて走った。逃げる。ただ、逃げる。訳もわからず竜徹から逃れるようになのはは走り続ける。玄関を抜け、乱暴に靴を手に取って走り出す。
 走って、走って、ただ走って。そこで足がもつれて、なのはは茂みに倒れ込みそうになった。思わず気配を探り、息を荒く吐き出す。だがすぐに呼吸を整えて、森の中で息を潜める。その身を隠すように小さく縮まり、木を背に預けて息を吐き出す。
 思わず手が足に伸びる。山道を靴下で走ってきた為、痛みが走る。すぐさま手に持っていた靴を履くが、それでも痛みは消えない。足の裏が熱を持ち、なのはは顔を顰める。
 そして手が嫌になるほど熱い。原因は手の中にある小太刀だろう。手を中心に熱が浸食するように全体に回っていく。喉まで浸食され、焼けるかのような熱に噎せ返る。それが脳に届かぬように、ゆっくりと、息を吐き続けていく。そうしなければ、この熱が自らを飲み込むと錯覚しながら。
 草の獣…あの子がいればこの熱を奪ってくれただろうか? 逃げ出した為に、置いてきてしまった。今更ながら後悔する。


「な、んで」


 止まらない。震えが止まらない。息を潜めていたなのはは震えるか細い声で呟く。
 竜徹に渡された小太刀。それを握った時、刃を解き放ったその時からおかしくなった。熱を帯びていく身体に比例するかのように心が冷たくなっていく。
 一体、どうしたのだろう? 何もわからない。何、も。


「――っ!?」


 周囲に満ちた殺気。なのはは地を蹴り、目の前へと転がるように飛ぶ。その瞬間、なのはのいた木々が切り裂かれる。そこにいたのは日本刀を構えた竜徹の姿。なのはの瞳が恐怖の色を帯びる。


「何、ビビッってんだテメェッ!!」


 咆哮。竜徹は地を蹴り、なのはに向かって飛ぶ。振り下ろされる日本刀がなのはを狙い、その肩口から切り裂かんとする。それをなのはは態勢を立て直し、バックステップを踏む事で回避する。
 そのまま後ろに向かって蹈鞴を踏むと、背が木にぶつかる。一瞬、後ろを向きそうになって、止めた、目の前には竜徹がいるのだ、そんな隙を与えれば待つのは死だ。そう教え込まれて来たのだ。熱が更に熱くなる。やはり比例して心が冷えていく。


「おい」
「…っ」
「何、ビビってんだ? ずっと教えてきた事だろうが? 今更何最初に戻ってやがる」
「だ、だってっ」


 真剣ですよっ!? となのはは叫びたかった。これは木刀とは違うのだ。下手をすれば、自分は竜徹を殺すかもしれない。それが、怖い。わからないのか、となのはは叫びたかった。だが、それは竜徹の眼光の前に叩き伏せられる。


「だってじゃねぇっ!! テメェが振るうのは力だ!! 木刀だって当たり所が悪けりゃ死ぬ! 真剣だって当たり所が良ければ死なねぇ! 力はなぁ、テメェの一部だ!! テメェがテメェを恐れてどうする!?」


 竜徹が言葉と共に地を蹴る。横薙ぎに振るわれる日本刀。速い。かわせないと判断したなのはは咄嗟に腰に巻いた帯に挟めていた小太刀を抜き放つ。金属と金属がぶつかる音。その音に、なのははクラッ、と頭が揺れた気がした。
 わからない。自分がどうなっているのか。怖い? 怖いのか? 自分は、恐れている―――?


「テメェ…」
「…え?」
「何、笑ってんだ?」


 竜徹の言葉に息を呑む。自分が今どんな表情をしているのかがわからない。だが竜徹が、そう言った。つまり、自分は…笑って、いる?
 そしてなのはもようやく気づく。自分の口元が緩んでいるというその事実に。驚きに見開いた眼、恐怖するかのように震える身体、笑う口元、まるでそれはツギハギのよう。


 ―そして、何かが、罅入った。


 それが自分の声とはわからない。ただ、何かが音が聞こえた。それは自分の喉から出ているような気がした。同時に風を感じた。熱が身体を動かしている。そんな錯覚だ。自分の意志では無いのに身体が動いていく。冷たい心だけが、やけにそれを知覚していた。


「おっ」
「――ッ!!」


 手首を返し、弧を描きながら刃を振るう。それが竜徹の持つ日本刀で防がれれば空いたもう片方の手でもう一刀の小太刀を抜き、突きを放つ。心臓に目掛けて――。


(…心臓? …何で!? 駄目だよ、死んじゃう!!)


 手がぴたりと止まった。身体の震えが強くなっていく。なのに小太刀の感触だけは手に吸い付くようにあり、落とす事は無い。ただ息づかいの音が荒くなり、何も聞こえなくなりそうだ。


「テメェ…」
「…ぁ…っ…あ…っ」
「死ぬかよ」
「…え?」


 竜徹が空いた手でなのはの心臓の手前で止まった小太刀を握る。血が噴き出した。ヒッ、となのはが息を呑んで、小太刀を離し、後ろへと蹈鞴を踏み、その場に尻をつく。竜徹が血に染まる小太刀を見つめながら。


「テメェ如きに俺が殺せると思ってるのか?」
「ひ…っ…あっ…は…ぁっ……っ!」
「何、ビビってんだっ!? この小太刀と! テメェが今まで振るってきた力は何が違うってんだっ!? あぁっ!?」


 小太刀と魔法の何が違う? 魔法には非殺傷設定と呼ばれる設定がある。それがあれば人は殺さない。殺さないから安心して使えた。でも小太刀は違う。あれは、殺してしまう。振るえば死んでしまう。死。死、死死死死死死!!
 なのはの思考がグルグルと巡り、そしてスパークする。なのはは頭を抱えて蹲り、悲鳴を上げた。


「イヤァッッ!! ヤダよぉッ!! 死んじゃヤダ!! 死にたくない!! 殺したくない!!」


 死は怖い物。死は冷たい物。死は…イヤな物。だから、イヤだ。イヤだ。嫌い。嫌い。大嫌い!!!
 心が悲鳴を挙げた。拒絶するように、なのはは頭を抱えて泣き叫んだ。それを見た竜徹がなのはの目の前に小太刀を突き刺す。ビクッ、となのはの身体が震えて、竜徹を見上げる形となる。


「良いか。絶対、なんてこの世にはねぇ。人はいつか死ぬ」
「死ぬ、のは、イヤ…」
「死ぬんだ。人は死ぬんだ。お前はイヤなんだろ? それを止める為には、戦うしかねぇ。戦って、戦って護るしかねぇ」
「殺し、たくない」
「いつまで我が儘言ってんだっ!! 戦いはスポーツじゃねぇんだっ!! 自分の命をかけて!! 相手の命を削って!! そして勝った者だけが生死を選べるんだよっ!! 戦争ってのは、そういう物だっ!!」


 なのはの襟首を掴み挙げて竜徹が叫ぶ。


「守りたい物には命を賭けろっ!! 命を賭けて戦えっ!! 血反吐吐いても、這い蹲っても護れっ!! 甘ったれるなっ!! テメェが見て来た戦場がどんな物かは知らねぇ!! でもな、ここじゃそれが当たり前なんだっ!! 理解しやがれっ!!」


 それは戦争を経験して来た者の台詞だ。彼とて何も失わずにここへ至ったわけではない。
 レア。竜徹の色違いの赤の瞳の本来の持ち主。そして美影の母親。彼女を竜徹は守れなかったのだから。
 だからこそ叫ぶ。守るという事を甘く見ている愚か者に教える為に。竜徹の言葉になのはは震えていた。拒絶したいのに、拒絶出来ない。それが正しいと、理解してしまっている。それは、正しいも過ちも関係無い事実なのだから。
 自分は守れない? そしたら、死ぬ誰かを、困る誰かを見なければいけない。でも、それを助ける為には力を振るわなきゃいけない。でも、力は誰かを傷付ける。傷付いたら自分が殺す事になる。それは、イヤだ。


「殺し、たく、ない」
「…テメェが誰かを殺せるかよ」


 竜徹がなのはの襟首を掴んだまま立ち上がり、そのままなのはを投げ捨てる。木に背を打ち付け、噎せながらなのはが地へと落ちる。


「俺も随分舐められた物だな? あぁ? テメェが俺より強いとでも思ってるのか?」
「ち、が」
「だったら何故振るわねぇ!? その力は殺さない為にある力なんだろうっ!? 殺させない為にある力だろっ!? それを振るわねぇで、何が守れるっ!? お前を殺そうとしている俺に情けなんぞかけるな!! ……テメェがこの世の全ての命を守れると思ってるのかよっ!?」


 なのはは思う。そんなの無理だ。…そう、無理なんだよね。私の手の届かない所は守れない。
 だったら、せめて身近な人だけでも――。


「…ぁ…」


 そうだ。私には守りたい人がいた。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん。

 ―温かく、私を迎えてくれる人たちだから。

 そして…地球へやってきたユーノ君。ユーノ君が教えてくれたジュエルシードを知って、危ないとわかったから戦った。ユーノ君一人に任せたくなかったし、困っていたから

―自分が困った時に助けてくれたら嬉しいから。

 フェイトちゃんと出会った。悲しい瞳をしていたと思った。泣きたいのに、泣けない、そんな瞳をしていると思った。

―かつて自分がそうであったから。

 可哀想だと思った。だから助けたいと、そう思った。きっと自分がその瞳をしないように出来たようにきっとフェイトちゃんにも出来ると思ったからだ。
 そしてフェイトちゃんは生き延びて、わかりあえて、暖かい瞳を得た。

―安堵した。悲しい瞳を見る事が無くなった。

 半年経って、また似たような瞳を持つ人にあった。ヴィータちゃん。シグナムさん。シャマルさん。ザフィーラさん。泣きたいのに泣けない。そうしなければいけないのだと自分を律し、望まぬ事をするしか無かった人たち。
 本当にそうするしか無かったのか、聞きたかった。それが自分にどうにか出来るならどうにかしてあげたかったから。

―かつて自分がそうったからだ。

 戦い続けてはやてちゃんと出会って、闇の書の主だと知った。また戦って、そして覚醒した闇の書を止める為に戦って、止めて。でも、リインフォースさんは消えてしまって。悲しんだはやてちゃんを見るのが、イヤだった。

―そうしているのは自分だったかもしれないから。

 …思えばいつも自分を重ねていた。いつだって、そこに自分がいた。そこで泣いている自分を見ていた。だからこそ助けようと思った。そこにいた時、自分だったらイヤだから。そう、自分がイヤだから。
 他人が泣くのがイヤなのは、自分が泣くのがイヤだから。
 他人が困っているのがイヤなのは、自分が困るのがイヤだから。
 他人が苦しんでいるのがイヤなのは、自分が苦しむのがイヤだから。
 他人の痛みは、私の痛み。他人の哀しみは、私の哀しみ。


 …本当に?


 それはただ、私が私を誰かに重ねて、私が悲しまないようにしているだけだ。
 なら。なら、何も恐れるな。他者の悲しいのは私が悲しいからじゃない。他者が困っているのは私が困っているからじゃない。他者が苦しいのは私が苦しいからじゃない。
 救う? そうだ。そんな事、私には出来ない。護る? もっと出来ない。何を護れというのだ。私にはわからない。わかっててもこんな臆病な自分に何が守れる?
 あぁ、でも、そうだ。それでも、私は――。


 ――そうして罅入った何かが、完全に砕ける音が響いた気がした。


 竜徹の目の前で風が爆ぜる。それは高速で動く何かが動き出した風の動きだ。その風を感じながら竜徹は口元を笑みに変えた。手に握った日本刀を振る。
 鳴り響くのは金属音。振るわれたのは鋼の刃。振るうのはなのはだ。なのはは防がれたのを見れば、すぐさま後ろへと飛び、地面へと突き刺されていたもう一刀の小太刀を握る。それを抜き構える。


「おい」


 竜徹の声に、なのはは何も答えない。先ほどまで震えていたとは思えぬ程、落ち着いた呼吸に落ち着いた動作。先ほどまで持て余し、拡散していた力が集中していくような錯覚。


「もう、怖くねぇのか?」


 竜徹の問いかけに、なのはは呼吸を一瞬だけ深くする。それが、落ち着いてくる頃に、ゆっくりとなのはが口を開いた。


「私は…誰かに移る私が怖かった。悲しんでいるのが、苦しんでいるのが私だと思うとものすごく怖かった」


 誰かに移る自分の影が怖かった。悲しんでいる自分。苦しんでいる自分。困っている自分。それが見えるのが怖いから、今まで頑張って来た。ただ、自分を護る為に。
 私は、私しかいないのに。例え、似ていようとも、そんな事は無い筈なのに。だけども高町なのはは怯え続けてきた。
 他人の痛みを自分の痛みとして考えられる。それは美徳だ。だがなのはの美徳は行きすぎていた。それが汚点となった。それがなのはを苦しめ続けてきた。
 だが、ようやくなのははわかったのだ。他人は私ではない。私の一部を持っているわけでもない。ただ鏡なだけだ。それは自分を見る為だけの鏡にしか過ぎないのだ。それを今までずっと恐れてきた。
 だが、何を恐れる必要がある? 何故恐れる? 何故忌避する必要がある。確かにそれは辛い。確かにそれは悲しい。確かにそれは苦しい。だけど、本当に辛いのは自分じゃない。それを感じている当人だ。


「必要なんかなかった」


 でもそうしないと相手に裏切られると思ってしまった。だからやるべき事をやらなきゃと思った。そう、良い子になろう。なのはそう思って生きてきた。今までずっと。
 実際は信じる事が怖かった。いつ裏切られるかわからなかった。だからいつだって全力全開。後悔なんてしないように、必要以上に抱え込んで、溜め込んでいた。
 どうしてそうなってしまったんだろう? なのはは思考を巡らせる。
 そうだ、あれは幼い頃の事…。誰も傍にいてくれなかった時があった。寂しかった。構って欲しかった。だけど、誰もいない。寂しい、辛かった。裏切られたそう思った。今ではそんな事は思わない。
 …そうだ、ずっと封じてきた思い出がある。一度だけ、父を怨んだ事があった。動けぬ父が恨めしかった。何を寝ているのだと。そこで寝ているだけならば自分を構ってくれと。我が儘を喚き散らし、母を、兄を、姉を困らせた事があった。何故? と思った。何故、誰も助けてくれないのかと、そう思った。
 幼い私にとっては、それは裏切りだった。裏切り以外の、何者でもなかった。
 だけど、今ならわかる。いや、もっと前からわかっていたのだろう。ただそこから眼を背けていたのだろう。人は本当の意味で自分を救えるのは、自分だけなのだと。親とて人。人にはそれぞれの世界があって、その世界を必死に支えながら生きている。
 だけどそれでも私は…本当は助けて欲しかったんだ、と。父が死にかけた。それは、どれだけ世界を揺るがしただろう? 他者とは鏡。自らを見る為に必要な物。幸せだと感じる自分を見る為の鏡。それが失うと感じた時、どれだけの恐怖に見舞われる事か。
 だから助けて欲しかった。でも、助けはなくて、結局怯えて、蓋をして、勘違いして、そして突き進んできた。そして間違えた。壊してしまった。
 そして…今、全てを見直して私はここにいる。全てがわかる。納得が出来る。小太刀を握った時の熱は、歓喜だった。笑みが浮かんだのも、それが喜びの物だったからだ。父が、兄が、姉が、小太刀を振るう姿は好きだった。成長してからも時たま何度か見ている程に好きだった。
 いつだったたろう? もう、霞む程の遠い記憶だ。私もそうなりたいと思った事があった筈だ。詳しくは覚えてはいない、もしかしたら都合良くそう思っているのかもしれない。それでも、良い。私は憧れていたのだ。ずっと、ずっと…。
 それに比例して心が冷えていったのは、父を憎んだお前にその資格があるのかと責め立てたのだ。だから逃げた。小太刀を振るう姿。憧れた姿。その姿を憎んだ私に資格など無いと。だから、憧れても握れなかった。握るつもりも無かった。
 運動が苦手というのも理由にして、逃げた。そうやって自分を納得させた。だからわかろうとしなかった。自分が嬉しいと思っているのを。理解してはいけないと思ってしまったからだ。



 ――だけど、それはきっと全部が錯覚。



「竜徹さん」
「何だ?」
「もっと、我が儘で良いですか?」


 私はもっと望んでも良いですか? 私はもう少しだけ自分に素直であって良いですか? もっと欲しいと思う物をこの手に取って良いですか? もっと私は私らしく、我慢なんてしないで、遠慮なんかしないで、自分らしく生きてて良いですか?


「んな物、知るかよ」
「そうですよね……。…だったら……だったら! 我が儘になります!!」


 遠慮はしない。護る為の力が欲しい。強くなりたい。今、心の底から強く思う。弱かった自分を変えていきたい。臆病者で眼を反らし続けて、全てに怯えてきた自分を変えていきたい。変えるんだ。そう、だから――。


「行きます」


 もっと強くなる為に。私の望む場所へ行く為に。私の欲しい物を得る為に。もっと自分らしく、もっと我が儘に私は求めていこうと――。


「行きますっ!!!」


 なのはは叫ぶ。そして踏み出す。強く、そう、力強く一歩を踏み出した。竜徹も応えるように前へと踏み出す。2つの風が駆ける。振るわれる刃、ぶつかり合い、甲高い音を立てる。
 竜徹が小太刀を押しのけようとすれば、もう一刀の小太刀で防ぎ、ステップを踏み、受け流すように態勢を崩す。受け流し切らせないように竜徹が足を踏み込み、身体を捻る。逆になのはの力が逸れ、今度はなのはがそれを直すために小太刀を振るう。それを防ぐ為に竜徹が刀を返す。
 甲高い金属音。押し合う互いの刃。互いの顔に浮かぶのは、愉悦。互いに互いの刃を弾き、竜徹は地に、なのははそのまま木を駆け上がるように駆け、重力も加えた落下による斬撃。打ち上げるように竜徹が刀を振るう。


「ぅらぁあっ!!」
「チッ!!」


 ぶつかり合う刃。なのはが舌打ちと共に空へと打ち上げられる。それに向けて突きを繰りだそうとしている竜徹。それになのはが身体を捻って、小太刀の一刀を投げた。それは真っ直ぐ竜徹へと向かっていく。


「ちっ!」


 今度は竜徹が舌打ち、刀で小太刀を弾く。その瞬間、なのはが落ちてきた。なのはが態勢を変えて膝蹴りが額に決まる。そのダメージからふらつく竜徹の腹に、着地したなのはが肘鉄を食らわせる。蹈鞴を踏む竜徹を尻目になのはが弾き飛ばされた小太刀を手に取って。


「テメェっ!! 物と老人は大切に扱えって教わらなかったのかっ!?」
「所詮は竜徹さんから貰った物と竜徹さんですし、気にしないです」
「気にしやがれっ!! 糞ガキっ!!」
「絶対にイヤですっ!!」


 互いに浴びせるのは罵倒。だが口元に浮かぶのは笑み。互いに地を踏み込み、ぶつかり合う。ただ、楽しそうに、子供のように彼らは舞踏を繰り返し続ける。



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