次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 01
2010/03/08 Monリリカル・クロニクル
 甘えるなよ。現実はいつだって苦々しい物だ。故に甘ったれるな。
 目の前を見ろ。誰もいない。お前の道にはお前だけだ。孤独に走っていけ。
 たまに、誰かとすれ違うかもしれない。だから、ただ、走れよ。
 そう。だから走り出す。自分で道を見つけて。自分で決めた道で…。
 きっとそこに答えがあると思うから。走り続ける為の、その答えが。




リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=


 第1章「過去、現在、そして未来」





 高町なのはは歩いていた。そこは山道。辺りには豊かな自然が広がっており、思わずなのはの眼を引く。だがなのははすぐに視線を前へと戻す。なのはの目の前を先導するのは衣笠書庫で出会った飛場竜司と美影の二人だ。
 その二人を追いながらなのはは歩いていく。時折、美影が振り返り、心配げに、大丈夫? と問いかけて来るが、なのはは大丈夫、と意志を告げて先へと進む。


『なのは だいじょうぶ?』
「あ、大丈夫です」


 なのはの背負う鞄。その鞄から何かが出てきた。それは草で出来たアリクイのような姿をした獣だ。彼は4th-Gの住人で、身体に溜まった熱量を吸い取り、酸素に変えてくれるというなんとも環境に優しく、有り難い生物である。純粋に凄いなぁ、となのはは思う。
 疲労も取って貰える為、一匹連れて行け、と言われたのだ。そう、佐山に。なのはは思い出す。飛場と美影と共にこの山道を登る事になったその経緯を…。




    ●



「え? なのはちゃんを爺さんの所に連れて行け?」
「あぁ、そうだよ飛場少年」


 それはなのはが部屋で休んでいた時の事だった。ふと、佐山が訪れて、そして更に訪れた飛場と美影が部屋に集まる。そこで佐山は唐突に飛場に向けて告げたのだ。なのはを飛場道場に連れて行って欲しい、と。


「でも、何で?」


 事情がわからない飛場は首を傾げるだけだ。美影もキョトン、と佐山の顔を見ている。当事者であるなのはもだ。その顔を一通り見回してから佐山は「いいかね?」という前置きをして喋り出した。


「高町君。先日言った通り君は足手まといだ」
「…はい」
「故に。君には足手まといからレベルアップして貰う」
「…え?」
「飛場先生という私を鍛えてくれたヒヒ爺がいるのだがね。その人に頼んで君を鍛えて貰う」
「ちょっと待ったぁっ!!」


 佐山が言い切るのと同時に飛場が手を挙げて声を挙げた。どういう事か問おうとしたなのははそのいきなりの声にビックリしたような顔を飛場に向ける。対して、佐山は冷めた目線で飛場を見つめて、ヤレヤレ、と言わんばかりに首を振って。


「君はどうして空気を読めないのかね。飛場少年。今私が説明しているだろう? ここは黙っておくべき所だ。…空気を読み給えよ、The・KY」
「言い方微妙に格好良いけど貶してますよね!? いやそれはどうでも良い…いや良くないけど、爺さんになのはちゃんを鍛えて貰う!? 佐山さんなのはちゃんを殺すつもりですか!?」
「…あの、今さらっと不穏な言葉が出たんですけど…」


 殺す、って何だとなのはは思う。また変人奇人なのかな、と若干、疑心暗鬼になりながらなのはは思いきり眉を歪める。だが事情もわからないので、取り敢えずは二人の成り行きを見守る事にする。
 一方、佐山は飛場の問いかけに、ふぅ、と息を吐いて、頷き。


「あぁ。高町君には死んで来て貰おう」
「…え?」
「本当に死ね。と言っているわけではない。それだけ努力をしてこい、そういう訳だ。飛場先生のしごきはキツイからね。私は山の中を三日間逃げ回るといった事をさせられたよ。飛場先生が鉈を持って追いかけて来てね。いや、あれは焦った物だよ」


 …すいません。逃げきれなかったら殺されちゃいますよねっ!? となのはは驚いて叫びそうになるが、何とか内心で叫び声を上げるところで踏み止まった。本当にこの人私を殺す気なんじゃ…と思い、若干逃げたい気分になる。
 思わずなのはが何かを言おうとする前に佐山が部屋に来る時に持ってきたザックを開けた。するとのっそりと緑色の何かが出てきた。それは草だ。だが、草が一人で動いている?
 不思議に思いながら見ていると、ザックの中から出てきたのは、草で出来たアリクイのような獣だった。思わず、なのはは目を疑う。


「…なんですか。それ」
「説明を受けただろう? 彼が4th-Gの住人だ。そして佐山の眷属のマブダチでもある」
『さやま まぶだち』


 4th-Gというと、植物が支配者である世界だったか、となのはは思い出す。なるほど、納得だ、と頷く。でも何故ここに連れて来る必要があったのだろう? となのはは疑問を覚えて佐山に問う。すると佐山はこう答えた。


「今は10月。そして世界がマイナス概念で滅ぶかもしれないと言われているのが12月25日の事だ」
「っ!?」
「つまり、君が概念戦争に関わる為には、最低でも2ヶ月半以内に使い物になってもらわなければいけないわけだ。短い時間だ。だがその時間を有効に使うように彼を連れて行って貰おう。彼等には疲労を取る力がある」
「…つまり強制的にでも疲れを取って強くなれと?でも、私は良くてもその飛場先生って人は…」


 自分は草の獣によって疲労を取る事が出来るが、その人は違う、その人の方が持たなくなるのではないか? と心配するが、それに佐山と飛場が同時に首を振って。


「あのヒヒ爺がそう簡単に疲労などで倒れる筈が無い」
「無駄に元気ですからねー。夜遅くまで深夜番組見たりしてますし」
「それに君が山の中で迷子になっていたり、気絶している時間の方が長いから安心したまえ」
「安心出来ませんよそれっ!!!」


 不吉だ、となのはは背筋に寒気を感じながら思う。目の前がいきなり真っ暗だ。時間も無い上に自分を鍛えてくれるという人は変人奇人らしく、最悪死ぬかもしれないという可能性付き。


(…なかなかハードだね。皆、私ちょっと早まっちゃったかな? 死んだらごめんね。あ、死んだら謝れないか)


 なのはは目の前の現実に逃避しかけた。その時にこちらに草の獣が歩み寄ってきた。草の獣はなのはの手に、自らの前足を置く。それはまるで握手を求めるかのようでなのはは草の獣の前足を握った。


『よろしく』
「あ、こちらこそ。高町なのは、って言います。なのは、で良いです」
『なのは つかれとる やくそく てすためんと!』


 疲れを取ると約束した。そういう意味かな? …可愛いなぁ、和むなぁ、と現実に荒みかけたなのはは草の獣を見て心底そう思うのであった。





     ●





 これが数時間前の事。今は飛場と美影に案内されて飛場先生こと飛場竜徹がいる飛場道場へと向かっているのだ。もう人目がつかなくなって来たので草の獣はザックから顔を出している。
 確かに疲労を感じない。身体の調子が絶好調だ。趙先生の治療もあったんだろうなぁ、となのはは思う。少し前までは鉛のように重かった身体も軽い。だが若干運動不足なのがあるか、まだ鈍く感じる。なのはは自分の身体の調子を確かめ、頷く。
 強くなろうと。心の底からそう思う。思うのと同時に飛場が振り向き、なのはに向けて声をかけた。


「付きましたよ」


 飛場の言葉になのはは顔を上げた。目の前には建物がある。確かに道場だ。
 そして入り口には一人の老人が立っていた。片目が赤いのが特徴的な老人だ。その老人はこちらに歩み寄ってきて、そし、飛場と美影を無視して、なのはの前に立ち、なのはを覗き込むように見てくる。
 少し戸惑った様子を見せるが老人は何も言わない。しばらく見つめられてなのはは固まる。どうすれば良いかわからず、思わずなのはは飛場と美影に視線を向けようとする。だが、それよりも先に竜徹がなのはへと声をかけた。


「なるほどね。テメェが御神のガキか」
「え、あ、あの、高町なのはです…初めまして」
「おう。飛場竜轍だ。好きに呼べ。さて、時間が無いんだろ。さっさとやるぞ」
「ちょっ、爺さん間も置かずですか!?」
「それがコイツの望みだろ? 部外者が口出しすんな。テメェはさっさと用意した部屋に案内しろ。部屋に荷物が置いて用意が出来たら出てこい。良いな?」


 有無も言わさずに竜徹は孫に不遜な物言いをする。だが、竜徹の言葉に尤もだ、となのはは思い頷く。なのはには時間が無いのは事実なのだから。故に飛場の方へと視線を向けて、案内してください、となのはが告げる。
 なのはの言葉に飛場が少し納得いかないような顔をしながらも、なのはに家の方を指す。


「じゃ、部屋まで案内しますね」
「はい」


 なのはが応答し、飛場となのはが一緒に歩き出す。それに付いて行くように美影も歩き出し、三人は一度、家の中へと消えていった。それを見送ってから竜徹は溜息を吐いて。


「…やれやれ。まっ、適度にやってやるか…。テメェの眷属なら少しぐらいは持つだろ?」


 なぁ、と呟いて。竜徹は空を見上げる。まるでそこに誰かがいるかのように。目を細めて、それを見るかのように。その色の違う左右の瞳で。


「――恭也」


 呼ぶその名前。…呼ぶその声は、懐かしさに溢れていた。





     ●





 海鳴市、喫茶店翠屋。高町なのはの両親が経営するその喫茶店のカウンター席に一人の女性がいた。名をリンディ・ハラウオンと言う。水色の長髪を揺らした彼女は、ほぅ、と息を漏らして、目の前にいる男性、高町士郎を見つめた。


「じゃあ、なのはさんは」
「俺の古い知り合いの所で引き取って貰ってます。…フェイトちゃん達には言わないでくださいよ? なのはが何者かに狙われてる、って」
「そうね…下手に関わらせるわけにはいかないわ。ここは関わらないで任せておくのがベストなのでしょう?」
「信頼出来る人です。大丈夫ですよ、なのははここに帰ってくる。俺はそう信じてます」
「…強いんですね」
「そうでもないですよ。俺は…それしか出来ないからそれをするだけです」


 その言葉に、リンディはそっと目を伏せて、クスッ、と笑った。その様子に士郎が不思議な様子を察し、どうかしたのか? と言う意味合いを込めた視線を向ける。それにリンディが軽く手を横に振って。


「ごめんなさい。昔いた友人も似たような事を言っていたの」
「へぇ。それは良い男だったでしょう」
「えぇ。とても、ね。…実はね。その人、恭也君にソックリなのよ」
「…恭也に?」


 息子の名前が出て士郎は不思議そうな顔を浮かべる。懐かしむようにリンディが顔を天井へと向けて、過去の思い出を思い出し、それに浸るように。


「そう。名前も同じで…最初恭也君を見た時は驚いたわ。でも年齢が合わない物。彼じゃないっていうのはすぐにわかったわ」
「名前も同じって…凄い偶然ですね」
「えぇ。民間協力者として、そして嘱託魔導師になったわ。でも、管理局には入ろうとしなかった。一度問うて見た事があるわ。どうして管理局に入らなかったの? って。そしたら別に護りたい物があるから、って言って断られたわ」


 残念だったわ。と呟きながらリンディがカウンターに置いてあった緑茶を手に取る。ちなみに既に砂糖とミルクは投入済みだ。士郎はそれに敢えて目を逸らす。若干苦笑しているが、ツッコミはしない。もう慣れた。


「10年程前に死んでしまったようなのだけどね」
「え?」
「彼のいた世界ごと、彼は消えたそうよ。…私は彼が局で協力してくれてた時にしか会った事が無かったし、彼がどんな世界に住んでいたかはわからないわ。何故滅びたのかも。何もかもが唐突で…無くなっていったわ」
「…そうですか」
「生きていれば、20代後半ぐらいだったわね」


 彼がいれば、クライドさんも助けれたかしら、とふとその想像が脳裏を過ぎった。それを思い、リンディは苦笑を浮かべる。あぁ、無意味な仮定だ、と。彼には彼の護るべき物があったのだろう。そして私と、管理局とその護りたい物が重なる事は無かったのだろう。


「彼の剣は…一体何を護りたかったのかしら」
「剣? 剣士だったんですか?」
「えぇ。その世界の古流剣術を扱う剣士の一族らしくて、確か流派が……」


 そこまで口から出て、名前が出て来ない。眉を寄せてそれを思い出そうとする。思い出すかのように、首を傾げる。
 しばらくそうしていたリンディだが、ようやく思い出した、と両手を合わせてその流派の名を口にする。


「御神流、だったかしら?」


 リンディの出した名に、士郎の動きが止まり、布巾で拭く為に手に持っていたコップが水の張った桶の中へと落ちていった。





    ●





 奥多摩の山奥。その山奥を駆ける二つの影があった。1つは慣れ親しんだ様子で駆け抜けていく。対して、それに遅れて付いていく影は何度も転びそうになったりしているため、前方を行く影からドンドンと引き離されて行っている。
 ふと前方を行く影が後ろを振り返る。そして影の口から飛び出したのは叱責の声だった。


「早く付いて来ねぇと追いてくぞ!?」
「はっ…はいっ!」


 前方を行く影、竜徹は帰ってきた返答を聞けば再び山の中を駆け出す。それに後方の影、4th-Gの住人、草の獣を背負ったなのはが追いかけていく。
 何故なのはと竜徹が山登りをしているのか? 数十分前の事…。


「とりあえず、貧弱だな、お前」
「え?」


 飛場に案内されて、自分に宛がわれた部屋に荷物を置いて用意を終えて竜徹の所へと戻ると、竜徹からの第一声がそれであった。竜徹はなのはの腕を取り、目を細める。


「ほっせぇ。まともに運動してんのか?」
「あの、運動苦手で」
「はっ。まぁ、良い。なら筋力トレーニングからだな。走るぞ。あの頂上ぐらいまで」
「…はい?」


 呆れたように鼻を鳴らし、竜徹は軽い調子で親指で示めしたのは頂上。しかも向かい側の山だ。なのはは思わず耳を疑う。明らかに平気で2、3時間はかかりそうだ。なのはは信じられない、と言った視線を竜徹に向ける。
 本気そうだった。冗談を言っている雰囲気などは一切無かった。思わず愕然とする。いきなりハードだなぁ、といっそ現実逃避したくなる。


「時間がねぇんだろ? それに、テメェの背負ってるそれは飾りじゃねぇんだろ?」
「は、はい。そうですけど…」
『つかれとる やくそく てすためんと』
「あー、わかったわかった。ほら、四の五言わず付いてこい」


 こうして竜徹先導の元、なのはの山登りがスタートした訳だ。
 斜面を駆け上がりながらなのはは思う。身体の疲労は来ていない、と。これだけ走っているのにおかしな物だと思わず思うほどに。これが背に背負った草の獣の効力なのだろう。反則な気がして、これで本当に筋力トレーニングになっているかどうか不思議に思う。
 しかし、なのはは知らない事だが、草の獣はなのはの余剰熱、つまりは疲労を吸い取ってるだけなので、筋肉が動き、負荷がかかっているのは事実だ。ここで溜まる筈の筋肉の疲労は草の獣によって吸い取られ、筋肉に負荷がかかったという事実のみが残される。そしてそれを回復するのはなのは自身の身体だ。 つまり草の獣さえいればエネルギーさえ切れなければ無制限に筋トレが出来る、という事だ。
 だが、それでもなのはは竜徹にドンドンと離されて行っている。竜徹が山慣れしている、という事もあるのだろう。だが、それ以上に地力の差が大きい。いくら疲労があろうがなかろうが、なのはの筋力は竜徹に及ばない。
 結果、なのはがいくら疲労を感じず、全力で走っても竜徹には追いつけないのだ。邪魔な木の枝などは踏みつぶせ、と竜徹に言われた通りに、力強く大地を叩きながら山を登っていく。だがそれでもすでに竜徹は米粒ぐらいの大きさしか見えない。


『なのは おいてかれてる』


 わかってる、と心の中で呟き、焦りが精神的な疲労をもたらす。幾分か草の獣の効果によって回復しているとはいえ、疲労を感じつつあった。身体は動くのに、心がもう諦めたいと思い始めている。追いつけない。その事実がなのはの胸に重くのしかかる。


 そう、追いつけない。お前はここまでだと。弱いと。何も為しえない。誰も救えないと。


 弱音が滲み出たのを感じなのはは歯を強く噛み締める。負けない、と歯を食いしばる。ここで負けたくない。自分に。故に蹴る。地を。そして前へと進む。今出来る事を全力で尽くす。弱くたって、惨めだって、ここで負けたくは無いと。
 少しだけ、なのはの走るスピードが上がる。それ以上の距離は、離されない。そして竜徹が足を止めた。そこに遅れてなのはが到達する。山の頂上だ。ようやく着いた…となのはは思い、腰を下ろそうとした時だ。


「よし。降りるぞ」
「…え? も、もうですか?」
「疲労は感じてねぇんだろ? だったらすぐに行くぞ」
「で、でも竜轍さんは?」
「俺は疲れてねぇよ」


 本当に疲れた様子も無くそう返されると、なのはは何も言えずただ頷くだけであった。疲労は確かに取っては貰えるが、気持ちがどんどんと疲れていく。駄目だな、こんなんじゃ、と思い、気を入れ直す。パンッ、と両頬を軽く叩いて。


「おい。なのは。今度はお前から先に降りろ」
「え?」
「俺が追いかける。俺が捕まえたら本気でぶん殴る。殴られたくなかったら逃げろ」
「なっ…!?」
「1分待ってやる。ほら、逃げろ」


 訳がわからず問いかけようと思ったが、竜徹は既に数を数え始めている。こちらの話を聞く気はまったくない。つまり全力で逃げろという事だ。今度は追いかける側が変わっただけだ。なのははすぐに山を下り始める。
 下りはスピードが出る。だが、なのはは勢いを殺す事はしなかった。大きく飛ぶように山を下っていく。恐らく冗談抜きで殴られる。殴られるのは嫌だ。だから逃げる。今、自分が走れる最高の速度で。


『なのは がんばれ』


 あぁ、本当に和む。背後の草の獣が応援してくれる。頑張ろうと思う。ふと、草の獣の顔を見ようと後ろを振り返った時だった。
 思わずなのはは目を疑った。こちらより圧倒的に早いスピードで向かってくる竜徹の姿があったからだ。なのはのように駆け下りている、という感じではない。むしろ重力に従って落ちていくような、そんな動作だ。
 このままじゃ確実に追いつかれる。捕まったら殴られる。理不尽だよっ!! と思わず心の中で悪態を吐く。だが時間が無いのは事実。やる気がないならそれ相応の制裁を。結果が追いつかなきゃ意味が無いと。
 走る。だが、転びそうになる。姿勢を戻すとどんどんと距離が縮まっていく。そして遂に半分も降りていないうちに竜徹はなのはを射程内に捉える。


「終わりだな」
「っ!?」


 そして竜徹の手がなのはの肩を掴んだ。なのはが振り向くと、そこには既に竜徹が後ろにいる。


「じゃ、一発貰っておけ」


 待って、とは言えなかった。その前に腹に鈍痛が響いた。肺にあった空気を全て吐き出して息がつまる。目の前が一気に真っ暗になり、一瞬にして意識が墜ちた。本気で殴るとわかっていても、いざ殴られるとショックだったのだろう。
 気絶し、身体の力を失って崩れ落ちたなのはを支え、肩に担ぐように竜徹が背負う。そしてそのまま山を下りていく。速度は先ほどとそう変わらない。その降りる途中で、なのはの背のザックに入った草の獣はなのはの何度か前足で叩く。


『なのは ぐろっきー』
「…相変わらずだな、オメェ」


 こいつ等と会ったのは佐山の野郎が連れてきた以来か、と竜徹は思う。佐山は佐山でも、飛場の言う佐山は佐山御言の祖父、佐山薫の事である。佐山薫が4th-Gの交渉を負え、連れてきた時が初対面だったな、と思う。こいつ等との交渉はちゃんと出来たんだな、と思わず思って。


「オメェ、俺の事覚えてるか」
『…ぼすざる?』
「よし。覚えてるな…後それで俺を呼ぶな。ったく。佐山の野郎。誰がボス猿だ、誰が」
『さやま いってた ひば ぼすざる』
「飛場で良いっ! あーったくこいつ等相変わらずだよちくしょう」


 なのはを肩に担ぎ直しながら飛場が悪態を吐く。だが、竜徹の様子はどこか楽しげであった。





    ●



 夢を、見ていた。
 それは、いつも見る、空から墜ちる夢だ。
 身体が鉛のように重く、ありし筈の力の通りが悪い。
 力強さが無く、ただ、力が抜けていく喪失感。
 必死にかき集めようとして、必死にその力を振るおうとして、足掻いて。
 …だが、それは唐突に、張り詰めた糸が切れるように無くなる。
 ぷつん、と、途切れた。
 落下。重力に抗えず、ただ、ただ墜ちていく。
 遠くなる空に手を伸ばす。でも、それは、届く事は無く。墜ちていく。
 待って、と声を挙げても、届く事は無い。ただ、空は遠く。迫るは地面。
 …当たり前なのに、当たり前だと認めたくなかった。
 人は飛べないんだよ。だから、地に落ちるのは当然でしょ?
 だから、当然。これは、当然の事。
 私は、ただの人なんだから。
 衝撃。そして、全ての感覚がシャットダウンする。

 …嫌だ。

 力を込める。自らに力が入っているかどうかはわからない。だが、それでも立ち上がろうとする。自分がどうなっているかもわからないのに。

 …だって、誰かが泣いてるかもしれないんだ。

 止めなきゃ。と思う。止めたい。と思う。抗えと、そう思う。




 …何で、そんなに抗おうとするんだろ。



 自分の声が聞こえてなのははゆっくりと意識が墜ちるのを確認する。
 夢で意識が墜ちるという事は、現実に目が覚める、という事だ。
 そして自らの声に答えを出せぬまま、なのはの夢は終わった。





     ●





「爺さん。本気で殴ったんですか?」


 飛場道場前の外。そこで腰掛けながら空を眺めていた竜徹に飛場が責めるような口調で問いかける。なのはを肩に担いで戻ってきたかと思えば、彼女を部屋に放り入れ、布団で寝かせて放置。
 それを見た飛場は言外に、流石にやり過ぎではないか、と竜徹に問いかける。それを聞いて竜徹は面倒臭そうに頭を掻いて。


「本気でやらきゃ甘えんだろ。俺に捕まれば時間が減る。なら全力で逃げろ、ってね」
「まだ小学生ぐらいの子供ですよ?」
「俺ぁ、御言がそれぐらいの時は今より厳しかったぜ。佐山もな」
「貴方たちが特殊なんでしょうが。なのはちゃんは一般人ですよ?」


 飛場の言葉に竜徹が空を見上げる視線を下げ、飛場に向ける。ふぅ、と息を吐いて。


「テメェはわかっちゃいねぇよ。いや、誰もわかってねぇだろうな」
「…は? 何がですか?」
「アイツはな。相当な歪みの持ち主だぞ」
「…彼女が?」


 おぅ。と竜徹は呟く。飛場はわからない、と言ったような表情を浮かべて。


「一般人が俺達の状況に食らい付いているのがその一端だろ」
「…佐山先輩から聞きましたけど、彼女は概念戦争絡みの自体に巻き込まれる前からも異世界との交流があったそうですよ? だからじゃないですか?」
「違ぇよ。竜司。だからお前はわかってねぇ、って言ってるんだよ。…いずれわかる。アイツの歪みはな」
「…爺さんは何でわかるんですか? 今日が初対面でしょう?」


 飛場の問いかけに竜徹は肩を回して鳴らし、ゆっくりと立ち上がる。腰に片手を当てて片方はうなじを掻く。


「昔。俺の友人にあのガキとそっくりな目をした奴がいた。アイツと同じだ。必死になって何かを成そうとしてる。だが…それが何のためにか、ってのが自分で本当に理解出来てねぇ。だから、間違うんだ。正しい事してる癖に、間違った理解をしてるから結局間違うんだ」
「爺さん…。もしかして、御神の一族に」
「それは、言えねぇな。自分で探しな」


 ヒラヒラと手を振って竜徹が家の中へと入っていく。飛場はそれをただ、見つめる事しか出来なかった。いつもより、小さく見えるその背を。その背に飛場はかける言葉を見つける事が出来なかった。


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