次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.05
2010/02/01 Mon創魔の疾風
 変わらぬ日常をどこかで信じていたのかもしれない。
 どこかでこの研究の日々がずっと続くと思っていた。誰にも言わなければこの真実は一人の物であったのだから。
 でもどこかで感づいていたのかもしれない。この日常がいつか終わる日が来ると。
 だからこそこの力を得た時、自らの身を守れるようにしたのかもしれない。
 もしかしたらそうじゃないのかもしれない。真実はわからない。
 全ての解答が全ての答え。それが私である。どれも間違いなく、どれも正しくも無く。
 あるがまま。それが人間である。そして…私、八神はやてである。





+++++





 月が森を照らしていた。ぼんやりと空を見上げている。森の中ではやてが寝転がりながら口を開けて。
 風が吹き、ふわりと茶色の髪を撫でて去っていく。青の瞳が瞬きを幾つかしてはやては身を起こした。


「綺麗やなぁ」


 街の方より空気が良いからやろうか? そんな事を思いながらも空を見上げ続ける。
 そのはやての手元には一本の棒のような物、木刀が置いてあった。
 街を駆け回りようやく見つけた物で今日の訓練に使用していたのだが、結果は上々。
 はやてが木刀を握り、立ち上がる。風を切る音をと何度か立てるように振ってから。


「ふぅ」


 息を吸う。それから目をゆっくりと閉じ、己の中へ沈む感覚に身を任せる。己の中に埋没する感覚。闇の中に沈んでいき、己という形を形作る。
 その闇の中に出来た己という存在に「気」を通し、ゆっくりと息を吐いていく。体中に「気」が走る感覚を感じれば、ゆっくりと目を開く。
 手に握る木刀を確認。一部として認識。気を通し「強化」。手より木刀に気が伝わるイメージ。細部にまで通し、木刀という物体を構成している物を「強化」する。
 強化が終われば再び一呼吸吐き、振り上げる。再びゆっくりと下ろして振り下ろす。
それを繰り返してから息を吸う。木刀を握る力を強めていく。
 気伝達、イメージは「刃」「飛翔」「斬撃」…etc。
 頭の中に構築されていくイメージを制御。それを木刀に定着させる。一つの公式の解答のように結果が己の頭の中で構築される。
 後はそれを成すためだけの動作を行う。それがトリガーとなる。


「ふっ!!!」


 気合い。それを込めた一呼吸を僅かな声と共に吐き出し、木刀を振るう。轟、と風が吹き荒れた。一瞬、風が震える。後に残るのは静寂。
 が、次の瞬間、はやての目の前にあった木の枝が切り落とされて行った。一本や二本ではない。何本も切り落とされ、そして落ちていく。
 それを見つめてから、はやてはゆっくりと溜息を吐いた。そして、ニッと笑みを浮かべて。


「よしっ」


 ぐっ、と拳を握って己の成した事への成功に喜びを表す。木刀だけじゃなくて他の物でも出来そうだ。次は何で試そうか、と思っていると。
 いきなり、世界が変わるような、そんな感覚に襲われた。


「なっ!?」


 何だ、と思っていれば空の色が変わっていった。気付けば周囲の気配が変わっている。
 一体これは? と疑問に思っていると、いきなり音が聞こえた。
 その音は、ぱちぱち、ぱちぱち、ぱちぱち、と。
 聞こえない筈、本来この森ではあり得えない音が聞こえた。反射的にはやては振り返った。


(拍手の、音?)


 それは、「人」にしか出せぬ筈の音だ。なのに人がいないはずの場所で何故?
 まさか見られた? 様々な事が頭に過ぎり、若干の混乱。その中ではやてが振り返った先には2人の女がいた。
 2人とも似たような容姿を、いや、ほぼ同じ容姿をしていた。唯一違うと言えば髪の長さだろうか?
 見たことも無いような服を纏い、黒灰色と言えば良いのだろうか。そんな色合いの髪。そして更に異質なものがあった。


(耳? なんで、猫耳?)


 そう。耳が猫なのだ。一体、何だあれは。頭の中に一瞬コスプレ? と浮かぶが、女達が動き出した事により、思考は停止しはやては警戒するように木刀を構え一歩下がった。


「やぁ、八神はやてちゃんだよね?」


 突然の問いかけ。それにはやては思わず驚いて、それを表情に出す。すぐに表情を引っ込めようとするが上手くいかない。
 問いかけを投げかけようとするが、焦りと混乱で舌が上手く回らない。


「あ、貴方たちは?」


 ようやく出せた問いかけに、女達はにこっ、と笑みを浮かべた。
 思わず、ゾッと背筋に悪寒が走った。普通の笑みじゃない。狩猟者のようなそんな獰猛な笑み。


「貴方は知らない事を知ってしまった。だから忘れて貰うよ」
「なっ!?」


 何を忘れて貰う? すぐさま思考、想定。知らない事、予測出来る物を検索、検討。
 該当例、己の「異能」だと推測。相手の目的はこちらのこの能力の事に関しての記憶が目的。何故? 目的を推測、情報不足、確定不能。
 ジリッ、と下がりながらも警戒していると、女の片割れが消える。


「っ!?」


 消えた? 否、己と同じ高速移動と判断。攻撃を仕掛けるならば? 想定、該当件数多数。
 防御に移行。気を全身に張り巡らせ、全体防御。感覚を強化、襲撃に備える。
 背後に、風の揺れを確認。急接近物体確認。恐らく女の片割れと判断。背中に気を集中させ、防御。


「はぁぁっ!」


 瞬間、衝撃が走る。内蔵に響く痛み、防御が無ければ恐らく意識を失っていたと思われる程の一撃。
 一瞬白に染まりかけた意識を無理矢理引き戻し、地面を転がり、そのまま倒れたフリをする。


(くっ、一体何者なんや!?)


 背中の痛みに顔を顰めつつ、気を失った振りをしながら女達の様子を探る。蹴りを入れた方の長髪の女がふぅ、と息を吐いてから。


「意識しっかりしてるだろ?気を失ったフリは良いよ」


 ばれている。状況の理解が不可能と判断。優先事項確認。逃走すべきと判断。
 気を身体に通す。重点的に足に気を通し、強化。素早く身体を起こして駆け出す。


「逃がさないよ」


 駆け出そうとした所、足下に小規模の爆発が発生する。思わず足を止めて目を見開く。
 一体、何が? 視線を向ければ、もう片方の短髪の女が手に光の陣を形成していた。
 何だ、あれは、とはやては思考する。本の挿絵などで良く見る魔法陣のようだ、と。
 あれから何か放った? そんな、阿呆な。魔法? そんなのこの現代社会からは消え失せている。思考、推察、検討。
 恐らく自分と類似した能力であると推測。ならば己の力を狙ったのは何故?


「何が目的やっ!?」
「言ったでしょう?」
「貴方は知らない事を知ってしまった。だから忘れて貰うよ」
「何で忘れなあかんのやっ!?」
「言う必要は、無いねぇっ!!」


 長髪の女が駆け出す。ちぃっ、と舌打ちと同時に木刀を強化。相手の動きに追いつかせる為に全身強化。目に気を多めに回す。相手の動きに追いつかせるために動体視力と反応速度を強化。
 右足からの蹴り。それを木刀で防ぐように構える。衝突する蹴りと木刀。衝突音が響く。衝撃が手に伝わる。
 手の痺れに顔を顰め、相手を睨む。同時に、相手から驚愕の表情。


「はぁっ!!」
「ちぃっ!!」


 振り払う。同時に相手も足を木刀から離し後退。再び前進しようとしてくる相手に回転し、木刀を振るう。
 相手が再び跳躍、回避。距離を置かれ、きっ、と睨み付けられる。


「ちっ、反応速度が上がってる?」
「リーゼッ!! 下がってっ!!」


 短髪の女が手に魔法陣を形成したまま、こちらに向ける。リーゼ、と呼ばれた女がその場から更に後退。短髪の女がきっ、とこちらを睨み付けて。


「スティンガースナイプッ!!」
「なっ!?」


 放たれたのは藍色の「何か」。謎の光、あれは何だ? 想定、情報不足、判断不可。未知と断定。
 咄嗟に回避。それは地を抉り、なおもこちらを狙い続ける。ホーミング? なら叩き落とすしかない。
 出来るのか? 想定、判断不可。


(やるしか無いやろっ!)


 強化した木刀を光に向けて振るう。衝突。同時に破裂音。衝撃が手に宿り、顰めた顔が更に顰められる。その瞬間に、リーゼと呼ばれた女性が懐に入ってきた。


(あかんっ!?)


 瞬間、防御。全体防御の為、先ほどより制御は見込めないと判断。衝撃、腹部への攻撃。
一瞬、意識が飛ぶ。
 そのまま受け身も取れずに地をバウンド。肺の空気が吐き出され、咳き込んで。痛みが力を奪っていく中、ゆっくりと起き上がって、乱れた呼吸を正そうとする。
 その間にも思考は動く。どうすれば逃げられるのか? 相手は何故己の記憶を奪おうとするのか? ダメージはどれくらいだ? 纏まらず働く思考が鬱陶しく感じて。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 呼吸が荒く、収まらない。その間にも女達がこちらに歩み寄ってくる。片方は拳を握り、片方は手に魔法陣の光を形成している。


「お父様の為に……」
「アンタの「魔法」封印させて貰うよ」


 2人の女性の言葉を聞いて、はやては何かが引っ掛かった。お父様、というのも気になったが、それ以上に気になった物がある。
 「魔法」というワード。検索、該当。 魔法とは、現実には不可能な手法や結果を実現する力の事。
 パズルのピースが嵌るように、はやては己の中で何かがピッタリと嵌る感覚に陥った。
 危機的状況だというのに、口元には、笑みが浮かぶ。ゆらり、と身体を震わせて笑う。


「魔法…? そうか。言い得て、妙やね。お姉さん方」


 認識変更。己の使っている特殊能力を「魔法」と。己の使っている「気」を「魔力」に認識変更。想像、変更。イメージが拡大する。すぅ、と息を吸い込む。
 相手の魔法陣は恐らく魔法を発生させる為の物と判断。では魔法陣は何故に必要であるか? 想定、検討。己の例で検討。己は身体強化。もしくは物質強化である。
 どうやって強化しているのか? 細部までの構成を把握し、それを強化させる事によって発動する。
 では相手の「光」は一体何か? 恐らく魔力の固まりである。だがホーミングしてきたという事は目的を追尾、または操作が可能であると判断。
 そこから導き出される答えは?判断不可。ならば、模索せよ。思考、想定。
 そしてはやてに一つのイメージが浮かぶ。魔法陣だ。自分と女達の違い、それは魔法陣の有無だ。魔法陣は必ずしも必要か? 否。
 では何故? 陣は図形、文字、それを描く必要がある。何故必要であるか?


(式? まさか、計算式か?)


 己の魔法もまた、式にして構築する事が出来る。ぴたりと、ピースが嵌る。それは本当に真実なのか? 高揚感が胸に湧く。調べるそのために。


「文句あらへんよな? 仕掛けたのはそっちやで?」


 怪訝そうな顔を浮かべる女達2人にはやては笑みを浮かべる。謎への探求心が心を満たしていく。
 もし、己の予想がそうであると確定されたならば、更なる研究が進む。そのためにも、今は目の前の脅威の排除を行わなければならない。


(思考、構築)


 はやては思考する。深く自らの中に沈む感覚。埋没した闇の中に自らの存在の知覚を確認。現在状況整理は終了済み。ならば、これから成すべき事を成す。
 現在状況。自らに敵意を持つ人物2名。目的はこちらの所有する特殊能力。与えられた情報より「魔法」と判断。
 これから名称を魔法と変更。2人組の目的は自らの魔法行使能力の封印または排除。抵抗しなければ命は奪われないかもしれない。
 却下。それは判断は出来ない。忘却すれば今までの知識が無駄になる。ならば拒否。ならば生き残る。
 戦闘能力の比較。こちらが劣勢。1対2という数の差と同時にこちらの「魔法」の練熟不足と判断。ならば、どうするか?
 思考。検索。想定。導き出された解答はただ一つ。無いなら、補えば良い。
 何で補う? こちらの戦力の増強には何が必要だ? 先ほど思考した情報を呼び出し展開する。
 自らと相手の「魔法」の相違は魔法陣の有無が大きい所である。彼女等が放つ光弾には追尾機能があると判断。先ほどの戦闘で確認済み。
 ならば魔法陣がその機能を果たしていると判断。では魔法陣の存在理由は?
 導き出された解答が正しいのなら。これで上手く行く。イメージする。更に、深く潜り込む感覚。己の内側へ、内側へ、内側へ。最奥の闇へとその意識を沈めていく。
 ……イメージ。想定、完了。構築開始。


(目的確認。内容「脅威の鎮圧」)


 目的を確認。これを何のために使用するのかを確認。完了。
 次に必要な素材を検索。該当件数確認、全情報記憶。完了。


(構築開始)


 闇の中に沈む己が腕を振るう。描かれたのは円形。次に描かれたのは線。それが形成したのは六芒星。
 次に、円形で更に二重円で囲む。それに沿うように腕をなぞらせる。腕から溢れるのは検索した素材達だ。


(想定式、構築完了。)


 構築が完了した式を試行。闇の中の己が描いていた物より手を離した。
 眼前には、六芒星を描く魔法陣が刻まれていた。そして、それが白色の輝きを放ち――。


「……ふぅ…」


 息を吐き出しながらゆっくりと目を開く。眼前にはこちらを警戒するように見つめている2人の女性の姿が見える。動きは無い。好都合だ。


(自らが沈む空間。これを「自己領域」と仮称)


 「自己領域」で生成された魔法陣をイメージ。寸分狂う事無くイメージを確認。
 「魔力」を自走。己の中を走り、腕へと集中。腕を突き出すように構え。
 同時に外へと魔力を放出する技能を応用。外界へと発せられた魔力が光を放ち空中を走る。


「え?」
「…まさか、嘘、でしょ?」


 驚きの声が聞こえた気がする。カット。余計な思考を省き集中する。寸分狂う事なくはやての突き出した手から放たれる光が空中を走り、空中に一つの「陣」を浮かび上がらせた。
 白色の光。それが描き出したのは、六芒星を象った「魔法陣」。


「嘘…。そんな、誰にも教えられてないのに!? 何でっ!?」
「魔法式を、自分で、独自に、構築した? 何よ、それ。何なのよそれぇっ!?」
(うるさい、黙れ)


 外界の音を遮断のイメージ。己のイメージの中へと埋没する。
 六芒星の魔法陣に細かく描かれた文字達が震え出す。それは、「あり得ざる」結果をこの世に産み出す為の声。
 それは、産声と呼ぶべきだったのだろうか? 発生した魔法陣が音を奏で出す。
 込められた魔力が限界値を達成する。「六芒星」と「円陣」に刻まれた細かな字が魔力を受けて鼓動するかのように声を高めていく。


(魔力装填完了。想定術式正常機能を確認)


 咆哮の声が上がる。それははやての口から発せられた叫び。
 イメージは撃鉄を降ろし、引き金を引く。脳内で放たれたイメージを魔法陣へと送信。受信。「式」、起動。


「吹っ飛べッッ!!!」


 そして放たれた。光が輝き、隔てられた世界の中を照らし出した。



+++++



 そんな馬鹿な。
 そんな思考が2人の女性の脳内を埋め尽くしていた。眼前の少女、八神はやてが放った物は確かに「魔法」であった。
 脅威の鎮圧。そのために敵を吹き飛ばす。薙ぎ払う。そのために作られた「魔法」。
 魔力を固めて、それに指向性を持たせて放つ。基本は外界へと「魔力」を放つ行程と同じだ。だが、魔法陣という「式」を持たせた事により、凝縮、指向性が明確になされたそれは2人組の女性を吹き飛ばさんと突き進む。
 だが、女性2人が跳躍。左右に飛び、その放たれた魔力の奔流の固まりを回避。地を抉り、木々達を無慈悲になぎ払い、その魔力の奔流は突き進んでいった。
 背筋が、ゾッとするのを2人の女性は止められなかった。
 誰にも教えも受けず、誰から継承したわけでもなく、知識も何も無く、独力で「魔法」を構築し、そしてこの破壊力。
 己等が扱う魔法に比べればまだ粗末であり、ただの魔力の奔流。だがこの破壊力はこの少女の魔力の高さを表している。


「…化け物めッ…!!」


 思わず呟きの声が漏れる。だが次の瞬間吐いた息がすぐに呑まれる事になるとは思っていなかった。


「言うたやろ?」



 背後にはやての声が響いた。月明かりが遮られ影が差す。
 その正体は月灯りの光を背負いながら降下してくるはやて。既に呼吸も同然となった「身体強化」を扱い、上空へと跳躍。そして上空から女性に向かって落下しているのだ。
 その手には木刀が握られ、木刀が淡く光を放っている。


(木刀を肉体の延長線上として使用。目的「敵を昏倒させるだけの強烈な打撃」と想定。
術式、構築確認。魔力送信開始、充填、完了)


 はやての頭の中で高速にくみ上げられる結果とそれを出すための式が構築されていく。
 はやてが木刀を振り上げる。目的は眼前にいる女性。驚愕に目を見開き、こちらを見ている。


「上っ!?」
「アリアッ!! 逃げてッ!!」


 もう1人の片割れの女性が叫ぶ。だが時すで遅し。


「ぶっ飛べって、なぁっ!!!」


 はやての咆哮と共に、木刀が振り下ろされた。
 女性の肩口へと振り下ろされた木刀が女の肩に触れた瞬間に、式を解放。
 瞬間、閃光が弾けた。1秒にも満たない程の一瞬だった。だが確実に光ったその一撃は…。


「か、はっ」


 アリアと呼ばれた女性の意識を刈り取っていた。急速に落下してゆく感覚。失われてゆく意識の中で眼前にいる少女を睨む。
 「魔法」の余波で耐えきれず崩壊した木刀を捨て、落ちて行く少女を睨み、ゆっくりと唇を動かした。


――化け物め――


 誰かに抱き留められる感覚に身を任せ、アリアと呼ばれた女性は意識を投げ出した。
 アリアが気絶したのを確認しながら、はやては崩壊した木刀を捨てて地に降りる。反動はあったが、行動に支障は無い。


「アリア! アリアァッ!!」


 目の前で抱きかかえた女性の名を呼んでいる女性を見て、若干顔を顰める。
 手に残る肉を殴った感触。木刀越しとはいえ確実にその感触ははやての手の中に残っていた。


(感じ、悪)


 思わず心の中で呟く。女性の注意はこちらに向いてはいない。ならば、逃げるなら今の内だ。
 そう思い、はやては女性に注意を向けながら駆け出した。最後に名前を呼び続ける女性を一度見てから。唇を噛み締めて。
 そのまま走り出した。振り返らず、肺が苦しくなるぐらい全力で森の中を駆け抜けていく。
 手に残る感触が、嫌になるぐらいに疎ましかった。あの人は、死んだのか? 瞳を閉じ、動かない。
 死んだ? そう想像した時、思わず、背筋がぞっとした。


「…私が、殺した?」


 胃の奥側から吐き気がこみ上げてきた。体温が一気に冷めていくようなそんな感覚。
 先ほどまで戦闘による緊張で熱いぐらいまでの身体は氷のように冷たくなろうとしていた。


「冗談や、ない」


 襲ってきたのはあっちだ。こっちは何されるかわからなかった。だから戦った。
 だけどそれは本当に正しかったのか? これだけの力があれば一般人の人なんて軽く簡単に殺してしまえるかもしれない。
 だけど、だけども。この力だけは失いたくなかった。
 この力があるから、今の自分を保って来れた。この力は私の物。誰にも誰にも自由には扱わせない。


「絶対、忘れたくないんや」


 これしか、己には無いんだ。だから、だからっ…。
 力による恐怖と、自らの願いの摩擦が少女の気を重くさせていく。だが、今はそんなのを考えている暇は無い。逃げなくてはならない。
 この力を奪われるわけにはいかないのだから。絶対に。それだけは絶対に御免だ。


「魔法」


 ぽつりと、呟く。己の「異能」の正体。


「魔法、か。あのお姉さん方はそう呼んでたんや。私はそうであると知らなかった。つまり、「まだ」あるんやろ?」


 己の知らない事がまだある。心に宿ったのは、未知と力への恐怖と、好奇心。
 正と負の感情が入り交じる中ではやては笑った。好奇心故の楽しさ故か、それとも、恐怖が限界に達し、笑みを作ったのか、それとも、両方か。
 ただ確実にはやては笑っていた。知らなければならない。魔法の事を。そして判断しなければならない。これからの己の行く末を。
 はやては強い決心を固め、そのまま森の奥へと駆け抜けていった。
 それから、数日後。海鳴市で一つのニュースが流れた。
 それは一人の少女の失踪事件であった。行方がわからず、彼女がいた家の中の物が幾つか紛失していた為、誘拐だと思われたが目撃者がおらず、警察も調査を断念。
 巷では神隠し、などの様々な噂が流れ、そしていつしか消えていく。
 海鳴市から、姿を消した少女の名は「八神はやて」。
 後に、この世界に「ジュエルシード」と呼ばれる異世界の「古代遺失物」が訪れる約1年前のお話となる。
 そして新たな物語はここより始まる。序曲は奏でられた。さぁ、物語を踊る者達よ。次なる歌はどんな歌になるのだろうか? それはまだ、誰も知らない……。
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