次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■朧月の契り 第2章 12
2010/12/01 Wed朧月の契り
「聖杯戦争を、破壊するですって!? 一体貴方は何を考えているんですか!?」


 勢い良くテーブルに手を叩き付けて叫んだのはセラだった。その顔には怒りの色が浮かんでいる。日常から、あまりカナデとは相性が良くないのは士郎とて察していたが、確かに今はセラに同意したい思いだった。
 イリヤはカナデを見定めるように眼を細めてカナデを見つめている。リズは特に何も思う事が無いのか、平然と茶を啜っている。各々の様子を見て、カナデは一度瞳を伏せた後、もう一度皆を見渡して。


「あって何か得するものでもないでしょ。得するのは得られる一握りの人間…で? その得られた筈の一握りの人間すら出てきてないような不完全な儀式、破壊した方が世のため人のため、でしょ?」
「…ぅっ…そ、それはそうですが! しかし! あれは確かに万能の願望機としての機能を有しています!! ユスティーツァ様が作り上げられた聖杯は確かに…」
「物が正しく機能しようが、何だろうが、使う人間が魔術師という前提にある以上、そんなもの、まともじゃない。まともである魔術師なんて普通じゃない。そんなの魔術師じゃない。そもそもの前提が違うんだよ、セラ」


 セラはカナデの反論に口を閉ざした。確かに、過去の聖杯戦争の例を見ても聖杯を得られた勝者は居らず、その為に起きた被害は決して小さきものではない。いくら聖杯が正しく機能する万能の願望機であろうとも、得る手順、得た人間、叶える願いによってはそんなものは神にでも悪魔にでも早変わりする。
 そしてそれを得られるのは魔術師、という前提だ。魔術師は自らの魔術の追求にはどんな犠牲を払おうとも厭わない。神秘の秘匿の義務があるとはいえ、自らの欲の為には犠牲を惜しまない人種など数多くいる。その時点でこの万能の願望機の叶える願いなど、想定するだけで碌なものがないと。


「私はサーヴァントシステムについては特に何も言うことはないさ。…それが生贄を前提としている考えは気にくわないけどね。守護者として意志も奪われて召喚される「現象」じゃなくて「本人」として降霊するのは良い。令呪だって使い様さ。ただその末路だけは認められないな。私達は既に死者だ。だけど、人間で、生きていたんだ。いくら死んでるからってこの体と意志を好き勝手にされるのは正直、堪ったもんじゃない」
「…だから、破壊するというの? 聖杯を」
「必要なら、ね。願望機としての聖杯なら正直捨てるのには惜しいけど、まぁ、害にしかならないなら完膚無きにまで破壊し尽くすけどね」


 それは、カナデの偽らざる考えなのだろう。聖杯を破壊する、という。それを聞いていた士郎はふと、以前、カナデとした会話を思い出した。あれはまだイリヤと出会った当初の時、土蔵において告げられた言葉。
 相手の願いを踏みにじるという事。それによって誰かの命を奪うという可能性があるかもしれない。その可能性を前にしても、多くの犠牲が出るから、と否定が出来るのか、と。その問いに当時の士郎は言葉が出なかった。
 背負うと、覚悟が出来ていなかった。誰かの命を守りたいのに、誰かの命を犠牲にしなければいけないというこの矛盾。故に、選ばなければならない。何を護り、何を犠牲にするのか。
 今、同じ問いをされてもどう答えれば良いのか士郎にはまだ見えない。ただ、それでも、わかりかけてきた。だからこそ、問わずにはいられなかった。問わなければいけない、と。


「…カナデさん、前に言ったな。それが誰かの願いを踏みにじるかもしれない、って。…なら、カナデさんは何を犠牲にするんだ?」
「全部」


 それは、まるで明日の天気は何だろう、と言うような気軽さでカナデはあっさりと言い切った。それ故に、士郎は頭が付いていけなかった。あっさりと告げたその言葉の意味を理解が出来なかった。


「必要なら、イリヤも士郎も殺すよ? 誰だって殺す。殺して、殺して、殺す。私の願いの為に、邪魔するなら誰だって殺す。その覚悟はある。元より、その為に生きてきた。その為にそう生き続けてきた。これを変えるつもりはない」


 きっぱりと、彼女は断言しきった。それはカナデの覚悟をまた示すものでもある。例え何を犠牲にしてでも、彼女は聖杯を破壊する。それを士郎は肌で感じ取った。カナデから発せられる気が何よりも嘘ではない、と語っている。
 だが普段の彼女を知るが故に士郎は困惑する。あの笑みは、大事な人達に向けてくれる笑みだと思っていた。それは、所詮は嘘だったのか? と。本当は心の底では何とも思っていないのか。
 …そんな筈がない。そうだ、と。あぁ、と士郎は納得した。見せつけられた。これが「正義の味方」になるという事なのだ、と。正義であるには大衆にとって正しきものでなければならない。そこに個人の意志など介在してはならない。
 だからこそ、自らを殺す。殺して、何も思わず、ただそれを成し遂げる為の機械と成り果てる。それが正義の味方の末路。最後まで自らを持つという事を許されない滅私の英雄。


「…そこまでして何故聖杯を破壊しようとするの? カナデ」
「あって良い物? イリヤ」
「…どうかしらね。魔術師としては、壊されるのは勿体ない。でも…普通の人から見ればそんなのはた迷惑ね。その開催地として開かれるこの地の住民が哀れかしら?」
「そういう事。私はそんなの許せないし認めない。だから潰す。…それを邪魔をするって言うなら誰だって殺すよ」


 イリヤとカナデの視線が交わされる。イリヤはカナデを探るように見据え、そんなイリヤの視線をカナデは真っ向から受け止める。どれだけ二人は見つめ合っていただろうか、緊張を解いたのはイリヤの溜息で。


「…そうまでして、貴方は何が得たいの?」
「…別に。ただ、そうしたいだけさ」


 緊張を解いた為か、そこには普段のカナデがいた。どこか困ったように笑って言う。ただそうしたいから。ただ犠牲者が出るのが嫌だから。だから、災厄の芽は何を犠牲にしようとも摘み取る、と。
 それが彼女の生き方。衛宮士郎の理想を受け継いだ彼女の行動理念。それは言い換えれば、ほんの少し前の衛宮士郎が望んでいた在り方そのもの。それを見て、士郎は何を思ったのかを己に問うた。
 …落胆。何故落胆なのか。こんなものが自分の理想であるのか、と。違う、やはり、こんなものは違う、と。こんな風に、困った笑顔を浮かべる為に誰かを助けるんじゃない。目指したのは、本当に幸せそうに笑う切嗣の笑顔…。
 あぁ、だからこそ、衛宮士郎はあの聖夜の日に誓ったのだ。もう一度、形にしてみせると。それは確かにエミヤシロウが形にしたものだろう。それを受け継いだのもまた彼女なのだろう。そしてそれを、こうして伝えられた自分が何をすべきなのか。
 その答えは、まだ靄がかかっているかのように明確には言えないけれど、その為に何をすべきかなのは朧気ながら見えている。ならばそれを追い求めれば自分の望む理想(カタチ)を得られるだろう、と。


「…まぁ、そんな訳で私は本格的に動きたいから、許可が欲しいのと、色々と誤魔化して欲しい。…イリヤに望むのはそんな所だけど」
「邪魔したって令呪でも止まらないんでしょ? 貴方の事だから契約切ってでも行きそうだしね。それに反論する理由もないわ」
「はは、耳が痛い。…んじゃ、後はリズとセラにはイリヤの事を頼むとして…」


 後は君だね、と言うようにカナデは士郎へと視線を向けた。


「――どうする?」


 どうする、と。彼女は問うた。彼女は誘いもしない。咎めもしない。恐らくは、望むままに答えればそのままにしてくれるだろう、と。そんな確信が士郎にはあった。だから望めば連れていってくれるだろう。ただ、彼女の邪魔をしないのならば。
 それも含めて示された選択肢。衛宮士郎は何を選ぶのか。今此処に、士郎は答えを迫られたのだ。正義の味方になる、というのならば彼女に付いていくべきだろう。彼女こそ、正義の味方の体現なのだから。
 それを、もしも過去の衛宮士郎なら二の句も無く頷いていたかも知れない。付いていく、と。俺も犠牲者になる人を護りたいから、救いたいから、と。…それを困ったような顔で受け入れるだろう彼女も見えた。
 そう、いつだって困ったように彼女は笑っている。それは仮面だ。そうすることによって本当は吐き出したい本音を押し隠してしまっている。ならば、その本音とは一体なんなのか、と考えれば。


「…俺は、俺はまだ、決められない」


 …安易に答えは選べない。戦うとしても、今の自分には力を振るう理由がない。誰かが泣くのは嫌だ。だが、だからといって彼女と共に聖杯を破壊する為に動くのも正しいとは思えない。
 逃避だと思われても仕方がない。けれど、それでもまだこの答えが靄がかかっているうちに衛宮士郎は戦ってはいけない、と。この戦いを無視する訳ではない。無かった事になどはしない。けれども、今は、まだ答えは選べない。


「…そう。ならイリヤ、士郎を護ってあげてね」
「そんな当然な事言われなくてもわかってるわよ。士郎は私たちの家族なんだから」


 私たち、とイリヤは告げた。この1ヶ月余り。時にしては短くとも、そこで結んだ絆は確かに嘘じゃない。確かに切嗣という縁はあれど、それはあくまで切欠。これは短いながらも確かに彼らが築き上げたもの。
 …そう。衛宮士郎の命は一人のものではない。元より、この身は生き残ってしまった身。ならば、その為に見捨ててきた命の為にもこの生は無価値ではいけない。安楽の死など誰もが許さない。何より、それは自分自身が。
 かといって無謀に走る事もまた許されない。もう自分の身は一人の体ではないと嫌という程、教え付けられた。理想を追う事そのものは諦めずとも、その理想の為に投げ捨てて良いものなどないのだ、と。


「…まぁ、じゃ、方針も決まった所だし、私は行くよ。たまにぐらいは帰ってくるけど、基本帰ってこなくなるから、気をつけてね」


 後に、衛宮士郎は思う。これが、平穏の終わりを告げる閉幕の合図にして、聖杯戦争の開幕を告げる合図であったのだろう、と。
 カナデが席を立ち、縁側へと立つ。そうして夜風が彼女の身に吹き付ける。一瞬の瞬きと共に、ばさり、という音が耳に届いた。彼女が身に纏っていたのは魔力で編まれた彼女の防具である赤き外套。
 月の光の下、夜風にその髪と外套を翻して衛宮邸を後にしていくその姿が見えなくなるまで、士郎は彼女の後ろ姿を見続けていたのだった。





 * * *





 雨の音がする。冬の雨は冷たく、冷ややかに大地を濡らしていく。何にも平等に、その冷たさは与えられる。故に、この雨の中、ただ彷徨う彼女もまたその冷たさに震えなければならない宿命だった。
 彼女の名は、あえて伏せよう。それは伏せられるべき名だ。敢えての呼び名を呼ぶならば、彼女はキャスター。そう、この地にて起きる聖杯戦争の駒の一つ。魔術師の位として呼び出された彼女はただ冷たい雨の中を彷徨っていた。
 何故? その理由は単純にして明快。その身には血に染まっていた。けれどしかし、彼女の纏っているものには傷一つなく、逆にその手に握られているのは歪な短剣。…そう、彼女は自らの主を斬殺し、ここまで彷徨ってきた。
 その経緯は、見限り。互いの関係は険悪、そんな言葉を通り越していた。キャスターは過去、名を馳せた魔術師が召喚される。魔術師とは孤高の生き物だ。その事に誇りを持っている。その誇りが、霞むような魔術師がキャスターという存在だ。
 しかし、されどそうであってもサーヴァントという僕という矛盾。彼女のマスターは彼女のマスターたる資格など無かった。故にキャスターの姦計の前にあっさりとその命を終えた。そこまではキャスターの計算通りだったと言えよう。
 …だが、誤算があったのだ。マスターとの繋がりは魔力提供の意味だけならず、この地に本来、ある筈のない、ましてや死んだはずの英霊を呼び出す為の繋がりだ。それは在るべきではないものをある為にする必要な処置。つまり世界の結び目だ。
 それを自らの手で断ち切ってしまったキャスターは世界より否定される。何とか生き抗おうとしても世界は刻一刻と彼女に終わりの時を与えようとする。
 更には呪いとも言うべきマスターの負債。キャスターの魔力量は常に、マスターの嫉妬からによってその量を制限されていた為にこの世に留まるだけの魔力が明らかに足りない。
 終わった、とキャスターは悟った。それが…どうしようもなく悔しかった。いつもこんな不当な扱いで、報われる事も無かった。誰かに信じられることもなく、ただ利用され続け、最後には捨てられる。
 結局、彼女は望みもないまま消え去る筈だった。ただ、この冷たい死の淵に墜ちる。…だが、奇跡か、彼女は出会ったのだ。それが、彼女を救う事となった。


「…ふぅ」


 吐く吐息は白く、柳洞寺と呼ばれる寺の一室、そこでキャスターは物憂げに溜息を吐き続けていた。
 状況は自分に好ましいように動いている。かつての縛りはなく、このまま時を待てば自らの利は得られる。そうすれば勝利することもなく、聖杯を得られる事が出来る、と。
 彼女は神代の魔術師。その力量はかの魔法にも劣らないと言えよう。それだけの実力が彼女にはある。故に、悩むのはこれからの事ではなく、今、真っ先の事。
 昨夜、彼女のマスターとなった男。それは言うならば自己のない男。だがそれ故に誠実で、求められた事には誠意を持って応える。叩けば響く、そんな男だ。
 キャスターは報われぬ人生にいた。いつだって、誰かに望まれ、操られ、そして終わるだけの人生。それが初めて得た、自らが選ぶという選択肢。それを与えられた彼女は思い悩む。その思いを、よく理解出来ぬままに。


「…宗一郎様…」


 ぽつりと、その名を呼ぶ。その名を呼ぶだけで良いようの無い気持ちが胸に溢れる。これは何なのだろうか、と。昔、どこかで似たような、だけれどそれとはまったく別の思い。とくん、とくん、と心臓の音が聞こえてきそうな程に跳ねて。


「…はぁ」


 もう一度溜息。こんな調子では駄目だ。まだ魔力は十分ではない。体調不良という事で横になっている言い訳を思い出し、ならばいっそ寝てしまおうか、とその身を横に倒そうとしたときだった。
 その察知は一瞬。気づいたときには既に遅し、とん、と風と共に一瞬にして寺へと入り込んだ影は一直線にキャスターへと向かい、キャスターが何の対応も出来ぬまま―――赤き外套が舞い降りた。


「……ぁ」


 終わり、と。どこかで頭が諦めを告げた。魔力が足らない。相手の俊敏さを見れば逃げる事もまた叶わず、魔力が無ければ扱える魔術も些細なもの。元よりその身はキャスター。白兵戦など出来る訳もなく。
 ただ、舞い降りた赤き外套を纏う者を見据えた。靡く髪は白。肌もまた白く、故にその外套の色が栄えて見える。その手には何も握られてはいない。なのにまるで剣を喉元に突きつけられているような錯覚。
 何も出来ぬまま、また希望を摘み取られる。夢は一瞬。あぁ、それもそうか。所詮は夢なのだから、と。ただ、呆然と終わりを受け入れようとして――。


「――やぁ、こんばんわ」
「…は?」


 呆気取られた。すれ違った知り合いに声をかける気軽さでサーヴァント、つまり敵である彼女は、片手を上げて挨拶なんぞしてきたのだから。
 思わず、ただ呆けた声を出す事しか出来なかった。これが隙を作るための策略だというのならば、成る程、彼女は一級品の策略家だ。…だが、しかし、次に出た言葉はとんでもない言葉だった。


「同盟の申し出、なんて受け付けてないかな? キャスターさん?」
「…同盟、ですって?」


 何を馬鹿な、とキャスターはようやく動き始めた頭でそう思った。目の前の女が何のサーヴァントかは知らないが、現状、キャスターと組むメリットが皆無だ。ならばこれが姦計だと言わずして何だというのか、と。
 だが、だとしたら何かがおかしい。どうにも行動がちぐはぐだ。…それもそうだろう。それは裏がある事を前提とした考えだ。…それにキャスターが至ったとき、キャスターは信じられない、と首を振った。


「…何故、同盟を? 私たちはサーヴァント、そして聖杯は一つ。得られる者もまた一人。ならば同盟など組む意味など無いのではなくて?」
「仮に私に無くても、貴方にあったとしたら?」
「……どういう意味?」
「どう? 魔力が足りないし、マスターは魔術師でもない。不安要素だらけ。しかもその身は魔術師たるキャスター。前面で戦える護衛なんていらない?」


 それは、確かにキャスターに足りないものだ。陣地を整えるにしても、時間が必要だ。その時間を稼ぐ事が自分には必要だ。この目の前の女を味方として取り込むにしても、敵にするのにしても現状は何とかこの命を繋ぎ止めなければ次はない、と。


「…仮にそうだとしましょう。けれど、先程も言ったとおり聖杯を得られるのは…」
「あぁ、なら安心しなよ。私は聖杯欲しさに同盟を持ち込んでる訳じゃないから。むしろ聖杯いらないし」
「………………は?」


 今度は、完全に思考が凍り付いた。この女、サーヴァントにあるまじき言葉を言わなかったか? と。


「聞こえなかった? 聖杯なんていらない、って言ったの。むしろ、ぶち壊す気満々? 利用出来るなら利用するけど、他人様の迷惑になるなら壊す気なんだけど」
「…ちょ、ちょっと待ちなさい…! あ、貴方正気!? むしろ、貴方本当にサーヴァントなの!?」
「もち、バーサーカーのサーヴァント。よろしくー」
「あ、よろしく…。……じゃ、ないわッ!!」


 思わず握手した手を振り払ってキャスターはぜーぜー、と息を荒くしながら目の前の女を睨み付けた。バーサーカーのクラスの概要を知っていれば彼女が嘘を言っているとしか思えないのだが、どうにも方向性こそずれているが、あぁ、確かに狂っている。


「まぁまぁ、私じゃ何もしてやれなかったからね。キャスターが消えそうな時に、さ。あのマスターも殺されてしかるべき男だったしね。いっそ打ち抜いてやろうか、と思ったぐらいさ」
「……! そう…貴方、私を監視していたのね…!? 目的は何なの!?」
「だから、さっきから言ってるじゃん。同盟だって」
「だから、もぅ、この…っ!! ………っ!!」


 最早言葉がない。怒りは明らかに沸点をオーバーしている。この目の前の訳のわからない奴が、何を目的にこんな事をしているのか、何を考えているのかなどさっぱりわからない。


「何なのよ貴方は!! 同盟って、だから何でそんな話になるのよ!?」
「――あぁ、私が貴方を殺したくないから、とか、そんな理由じゃ駄目だよねぇ…。理由ねぇ、いや、理由としてはそんなんだけどさ…」


 そうだね、と何か悩むようにバーサーカーを名乗る女は腕を組んで。


「……うん、やっぱり、そうしたいから」
「……巫山戯てるの?」
「んにゃ、至って真面目だけど?」
「~~~~~っっっっっっ!!!!!!!!!」


 殺したい。むしろ殺したい。いっそ殺したい。いや、むしろ殺させろ、と言いたいぐらいに殺してやりたい。本調子であれば一切の迷いもなく魔術でなぎ払っているだろうキャスターはだんだん、と床を叩く事でしか自らを押さえつけられない。


「――だって、貴方が幸せそうなんだもの」
「……ぇ?」
「駄目かな? 誰かが笑ってるから、そのままで居て欲しい、って思うのは」
「…なによ、それ。私は貴方の敵なのよ?」
「どうして?」
「…どうして、って……」


 そこで、キャスターは言葉に詰まった。この馬鹿みたいな対応。それはまるで…そう、悩むのを馬鹿にするぐらいのこの対応は…。


「…本気、なの? 同盟も、その願いも。全部、本気?」
「本気さ」


 …信じられない、と。キャスターは今度こそ思考を止めた。目の前には馬鹿みたいに正直で、馬鹿みたいにお人好しで、馬鹿みたいに真っ直ぐな奴がいる。何の打算もなく、ただそうしたいからという刹那的な感情。
 聖杯という願望機を前にしても尚、その在り方に正直、戸惑いを覚えるな、という方が難しい。ようやく本気なんだろう、という事を理解し始めたキャスター。ごくり、と唾を飲み込み、まるで化け物を見るような目でカナデを見て…。


「…正直、理解に苦しむわ…」
「結構。理解されようとも思ってないしね。必要なのは、お互いに必要なものお互いに提供しあえるギブアンドテイクさ」


 そうしてからからと笑った後、さて、とカナデは呟きを零して。


「本格的に話を進めようか、キャスター」


 話を切り出す為の言葉を彼女に告げるのであった。





 
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初っ端から驚きました。
いや、カナデなら選んでもおかしくない選択肢ですけど。
最後もやっぱり驚きました。
キャスターと同盟ですか……相変わらず人をぶん回すのが得意なカナデさんですね。

ここまで来ると気になるのが、セイバー召喚までの流れですね。かなりこの後の展開が楽しみです。
連載頑張ってください。
2010/12/02 Thu URLmise#- [ 編集 ]

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