次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■幻月の乙女 第3章「It is true of the world」
2010/11/29 Mon朧月の契り
 誰とも知れない夢を見ていた。
 誰かの成れの果てを見ていた。
 その夢は終わりの夢。世界を大きく変えた差異。
 この世界が停滞を続ける理由。
 欠けた世界を見ていた。
 大きなピースを失った世界は緩やかに欠けていく。
 夢を見ている。何の夢だろう。これは誰の夢の果て?
 これは? 問う。何故? 問うて。どうして? 問い詰めて。
 深く…そう、もっと深く。疑問に答えを。得るべく手を伸ばすかのように。


 ――連結、接続(サインイン)


 イメージは回線に電流を流すヴィジョンが浮かぶ。
 不意に、情報が一気に鮮明にリアルに転じた。
 意識が情報の濁流に呑まれる。痛い、などという生易しい痛みではなく。


 ――この、馬鹿…。だから、アンタはいつまで経ってもへっぽこだってのよ…!


 幾多にも、どこにでも、どこからでも、その声は重なった。その声に宿るのは後悔、憐憫、悲哀…。
 そして世界が欠けていく様を…私は、ただ見ていた…。





 * * *





「―――ッ、は…?」


 押し殺したように息を吐き出し、奏は目を見開いた。そこには天井が広がっていて、先ほどまで見ていた光景はまるで幻のごとく消えてしまった。奏はそのまま目を見開いたまま、ただ天井を見上げる。
 奏は一度瞳を閉じてゆっくりと息を吸って強ばっていた体から力を抜く。隣にはラニが眠っている。ラニの頬には涙の後がある。奏はそれに申し訳なさを感じてしまう。自分の所為で彼女を泣かせてしまった、と。
 大丈夫。…そんな筈はない。蘇らなかっただろう聖杯戦争の参加者達。本来ならば自分が関係のない死者は、再度、自らの手で殺したのだ。自分の安易な願いが。その願いの為に自分は殺したのだ。
 救いたかったのだ。ただ、それだけだった。だから願った。そんな事になる、とはその時は想像もしなくて、今となってその選択が奏の体を震わせる。恐怖、という震えだ。体は自らの体を抱きしめるように手を回して。
 そして脳裏には先ほど映し出された映像が過ぎる。頭に手を伸ばして、少し乱暴気味に掻く。先程見た夢を思い出すと、そう、何故だか。


「………むぅ、なんか面白くないな…」


 小さく声を漏らし、唇を噛みしめる。漏れそうになる欠伸を不機嫌のままに噛みしめ、奏は眠気を覚ます為に洗面所へと向かうのであった。





 * * *





 顔を洗いに行って戻ってくる頃にはラニも目を覚ましていた。ラニが気まずげに奏の顔を見ていたが、奏は特に気にした様子も見せる事なくラニへと挨拶を交わす。


「おはよう、ラニ」
「…おはようございます」


 ただそれだけ。ラニのぎこちなさは消えないが、それでも奏は明るく振る舞う。何事もないのだ、とそう言うように。そしてそろって二人で居間へと降りるとそこには既に凜がいた。足を組んで座っていて、その足の上にはパソコンが乗っかっていた。
 凜はパソコンから視線を移して奏とラニへと向ける。


「あら、おはよう二人とも」
「おはよう、凜」
「おはようございます」
「良く眠れた? まぁ、人が住める程度には掃除したつもりだったけど」
「うん。大丈夫だったよ」
「そう、なら良いわ」


 凜は一度パソコンの電源を落としたのか、画面が消える。電源を落としたパソコンを近くにあったテーブルの上へと置いて、さて、と凜は呟いた。


「…さて、と。それじゃあ聞こうかしら? 奏。アンタ、どうしてこの家に来たの?」


 凜は足を組み、腕を組んだ状態で奏へと視線を向けた。それは当然の疑問だろう。奏と凜の接点はセラフの量子電脳世界でしか関わり合いがない。ならばその奏が例え現実世界に実体を持とうとも凜の実家の事など知る筈もないのだ。
 ならば何故、奏はここに来たのか? その問いに奏はまっすぐに凜を見つめながら小さく頷き。


「…確認したい事と、聞きたい事があったんだ」
「…それで私の実家に?」
「うん。…そういえば凜はどうしてここに居たの? てっきり居ないと思ってたから正直びっくりしたけど…」
「…ぁー、ちょっと用事があったのよ。それは別にどうでも良いでしょ。で? アンタが聞きたくて、確認したい事って何よ」
「じゃあ、単刀直入に聞くね? ――この地で起きた聖杯戦争は全部で四度で合ってるかな?」


 奏の問いかけに凜の表情が大きく見開かれるのが見て取れた。同時に、隣に居たラニも奏へと視線を向けた。その表情はこう語っているようだ。何故それを知っているのだ? と。


「…奏…あんた」
「ムーンセルの聖杯戦争の起源。魔術の御三家、アインツベルン、遠坂、間桐…いや、マキリか。その御三家によって作り出された偽りの聖杯。魔術師達が根源へと至る為の願望機。それを巡って行われたのが七人のマスターと七騎のサーヴァントによる聖杯戦争。そして凜、貴方は本来はこの地の管理を勤めるセカンドオーナーの家系だった。これであってる、かな?」


 奏が淡々と自らの知る情報を述べていく。そして最後に少し歯切れ悪く凜に問う。それに凜はただ目を細めて奏を睨み付けている。しかし、それも長い間は続く事無く、凜はため息を吐き出した。


「…何で貴方がそれを知っているのか、は置いておいて…聖杯戦争は確かに貴方の言う通り、第四次までしか起きてないわよ」
「じゃあ、第五次は起きてないんだね?」
「? え、えぇ。…貴方だって知っているでしょう?」
「知ってるから、だよ…じゃあ…そうなんだ」


 奏は納得したように頷いた。それに凜とラニは一瞬視線を合わせる。奏が何を納得しているのかはわからない。そして何より得体の知れない。彼女は何を知り、何がしたいのか、それが掴めない。


「…ありがと、凜。知りたい事はわかったよ。これで大丈夫」
「…なんか釈然としないわね。結局、貴方の中で完結してるかもしれないけど、私たちには何の事かさっぱりなんだけど?」
「うん? あぁ、それはね」


 ――運命、って奴だよ。
 と。奏は言った。その奏の言葉を受けてラニと凜は呆気取られる。そんな呆気取られる二人に奏は向けて笑みを浮かべるのであった。





 * * *





「…それじゃ、行くね。凜」
「えぇ。…あいにく、私の立場上、何度も連絡を取り合えるような中じゃない。こう見えても犯罪者だからね。…だからもしかしたらこれが今生の別れになるかもね」


 遠坂邸の入り口、そこで奏とラニは凜との別れを惜しんでいた。凜としてもここに居る目的は叶った、という訳らしく、もうこの家を出るらしい。
 そして凜の立場は国際的に追われているテロリストだ。凜の言う通り、これが今生の別れになるかもしれない可能性は多いにある。
 もう会うことはないかも知れない。そう思えば奏の胸にはどうしようもない寂しさが募る。確定的な別れではない。だが何度も繰り返した別れが奏の心を苦しめる。だからこそ、奏は気丈にも立っていられるという皮肉もあるが…。


「…凜。ありがとう」
「…何よ、急に」
「凜がかけてくれた言葉が私をここまで連れてきた。ラニも、レオもだけど、私が生きてここにいるのは凜のお陰。だから、ちゃんとお礼が言いたかったんだ」
「…ふん。別にお礼なんて言われる筋合いはないわよ。こっちはこっちで好き勝手しただけなんだから」


 髪を手で払いながら凜は奏から視線を逸らして言う。その仕草は明らかに照れているのだとわかる。奏でさえわかるのだから余程の事なのだろう。それに自然と笑みが浮かぶ。
 それに気づいたのか、凜は気まずげに髪を掻いている。そんな凜を眺めていた奏だったが、不意に凜の方へと手を伸ばした。


「…良ければ、また会える事を願って」
「…えぇ。それまで元気に生きなさい」


 握りあった手。そして凜の最高の微笑み。これが、奏と凜の別れの記憶となった。





 * * *





 凜と別れた後、奏とラニは冬木の街に繰り出していた。買い物をするわけでもなく、まるで散歩に行くような足取りだ。その中で奏はただぼんやりと街を見ていて、ラニはそんな奏に何度も視線を向けては逸らしたりを繰り返している。
 ラニは問いかけたかった。奏があの時、聖杯戦争の確認を経て何を得たのか。彼女は納得した、と言っていた。では何に納得したのだろうか、と。本当は問いかけたい。だが、何故かそれを問うのに躊躇いを覚えてしまう。
 どれだけ無言のまま歩き続けただろうか。奏は不意に足を止めた。それに併せてラニも足を止める。そこは公園だった。時間帯も時間帯なので人こそはいないが、ごく当たり前の何でもないただの公園。
 だが、そこに向ける奏の視線には様々な思いが揺れていた。悲哀、と言う言葉が似合うのだろうか。確かに奏はこの公園に向けてその感情を向けているのだ。


「…奏」
「…ん?」
「貴方は、何を知ったんですか? 何を、思ってるんですか?」


 視線を合わせずにラニは問いかけた。今の奏は何故か直視出来ない、と。奏はラニの問いかけに黙っていたが、公園のベンチを指し示す。立ち話も何だし、と言いながらラニの手を取ってベンチへと向かう。
 急に手を取られてラニは驚いたが、その手から感じられる暖かさに不確か足場が固まっていくような感覚に陥る。故に、ラニは奏の手を握り直す。離さないように。
 そして二人はベンチへと座った。繋いでいた手は離れ、奏は背もたれによりかかるようにして空を見上げた。ラニは逆に軽く俯くようにしながらも奏を見ている。


「…夢を、見たんだ」
「…夢?」
「昨日、夢を見た。誰かの夢だった。誰かわからない人の夢を見てた。…それが誰だか私はわからなきゃいけなかった。だから、もっと見たい、知りたいと思った。だから私は知った。この冬木市に何があって、そして世界が停滞してしまったのか、その全ての理由を」
「…ぇ?」
「…苔の一念は岩をも通す、って言葉があってね。…信じて、叶っちゃったんだよね。だから…あの人もそれを追いかけちゃった。正義の味方に憧れて、その本質に触れて、絶望して、でもそこまで犠牲にしてきた命に報いるために、自分を殺して、多くの人を、より多くの人を手を伸ばし続け、汚し続けた。…そんな彼を更正しようとして、でも、出来なかった方が、いや、可能性が多かった、って言うべきか」
「あの…よくわからないんですが?」
「…んーとね、簡単に言うと、ある人がいたの。正義の味方を志して、その理想の果てに100人を救う為に10人を犠牲にする正義の体現者。…だけど、その人もまた切り捨てられた側の人間で、唯一生き残ってしまった人。本当に救いたい者が誰なのかわからないまま戦って、戦って、失って、間違って、その果てに摩耗した人がいた。そんな人を救おうと、色んな形で、色んな可能性で彼を助けようとした一人の女の子がいたの。実はその子、ほら、第二魔法だっけ? あれの体現に近い存在だったらしくてね。至りこそはしないけど、魔法を使えたみたいだったよ?」
「…は…?」


 ラニは声も出ない。いや、出せなかった。奏が言っていることはラニの持つ情報からは規格外に近いものだ。魔法、とは魔術も失われつつあるこの世界では更に御伽噺。正体不明のものが多い中、その中で唯一情報が広まっているのが第二魔法。
 平行世界、という隣り合う可能性の世界。可能性が分岐する世界を運営するのが第二魔法と呼ばれ、その体現者は平行世界を自由自在に渡る事が出来るという。そんな奇跡じみたものが実在していた事への驚愕。


「…で、その人は平行世界からばんばんと魔力を吸い上げていったんだよ。…たかが一人、けれど使う量が、使う可能性があるなら、それはそれに比例して多くなる。――それが、ある一つの世界に集束した。理由はわからない。ただ、世界の気まぐれだったのかもしれない。だけど事実として「吸い上げた」可能性に対して「吸い上げられた」世界が生まれた。…この世界はね、どっかの少女がその救われない正義の味方を救おうとした可能性の分だけ魔力を吸い上げた結果の一つ、って事」


 奏の説明にラニは完全に動きを止めてしまった。理解が出来ない。いや、むしろしたくない。だが、それでも要点は掴める。この世界がこんな世界になってしまったのは、ただ一人の「彼」の為に為されたのだ、と。だからこそ馬鹿げている、と。
 そんなラニを無視して奏は思う。この世界はただの帳消しだ。負債を全て飲み込む事によって為る世界。だがそんな世界だからこそ、また新たな可能性が生まれた。その可能性の一つ。それによって世界は動き出した。緩やかな滅びに対する一手を。それこそが―――。


「…奏?」
「…ぇ?」
「…大丈夫ですか?」


 不意に、手を握られる感覚と名を呼ぶ声に奏は飛びかけた意識を現実へと呼び戻す。そこには不安げに自分を見つめているラニの姿がある事に奏は気づく。そして、一呼吸の間を置いてラニを見て。


「大丈夫だよ。ラニ。さ、行こう。そんなのがわかったって私たちにはどうしようもないんだし! 実際、ただの私の夢なのかもしれないし」
「………そうですね。夢というのには、なんだか不穏な用語も飛び出しましたが。…まぁ、奏ですから」
「えっ!? ちょっと何その認識!? 撤回、撤回を求める!!」
「……」
「凄い冷めた目で見られたっ!?」
「…はぁ、まったく貴方って人は。お気楽なんですから。…それで? これからどうするんですか?」
「…そうだねー、とりあえず、街とか回ってみようか。面白いものがあるかもしれないし」


 じゃあ、行こう、とラニの手を引く奏と、その手を離さないように強く握るラニと。二人はそのまま公園を後にし、冬木の街へと繰り出すのであった。





 * * *





 ――連結、接続(サインイン)


 本来であれば、この地では「彼」が生まれる要因があった。しかし「彼女」の「魔法」の可能性の因子が増える中、その因子による影響もまたあって然り。それがこの世界。第二魔法の運営によって「消費されるだけの世界」。
 世界は無限に広がっていく。可能性の枝分かれ。それによって得られた世界がこの世界だと言うのならばこの世界はただ消費のままに消えていく。…だが、そんな消費されるだけの世界だからこそ、また、利に出来るものがある。
 この世界は滅び行く世界。最も誰かの命を救おうと足掻いた彼の負債にして、彼女の祈りの対価。呪いとも言える、けれど純粋な願いによって閉ざされた世界。遠坂凜の言葉を借りるならば緩やかに坂を下っていくように滅び行く世界。
 だが滅び行く事を世界は許容しない。世界が世界であるが故に。故に世界は修正を施す。施すために世界は変えられていく。その末路。その旅路の行く果てに……月光に照らされた赤き背中を幻視した。
 それが何を意味するのかはわからない。ただ、その姿は酷く納得した。ただ、その姿は酷く悲しかった。ただ、その姿は酷く共感した。あぁ、理解する。その姿こそ、それは――。


 ――連結、解除(サインアウト)


 ただ、どうしようもない夢を見ていた。
 ただ、理解した。
 ただ、それが何となく嬉しかった。
 あぁ、この身は彼と同じだ。
 恐らく、きっと……この生涯に意味など、ない。




 





 
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