次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■幻月の乙女 序章「End and beginning」
2010/11/29 Mon朧月の契り
 これは名の無い喜劇。さしたる意味のない、ある一人の少女の生涯の記録である…。




 
 戦争があった。
 現実上においては何の意味も為さなくなってしまった戦争だ。まるで無意味な戦争だった。
 だが、その戦争に参加した者達にとっては決して無駄ではなく、得るモノもあった。
 それが例え意味を持たないものだとしても。…いや、言い換えよう。それが無意味でも意味を見いだすだろう。
 霊子電脳世界。霊子と呼ばれる無機物・有機物問わずあらゆる存在が持つ“存在の雛形”という形而上の概念を、データとしてカタチにしたエネルギー情報体。この霊子を以て形成された世界、通称「SE.RA.PH」。
 この世界において行われた戦争。ありとあらゆる願いを叶えるという願望機「聖杯」の所有権を争った戦争、その名、聖杯を巡って争ったことから「聖杯戦争」と呼ばれている。 聖杯戦争とは、過去に活躍した偉人、つまり英雄の霊、英霊をサーヴァントとして仕えさせ、決闘方式で生き残りをかけて殺し合う戦争だ。
 その聖杯戦争には多くの人間が参加した。しかし、最終的に生き残るのは勝者である一人とされた。予選、本戦と続く戦いの中、次々と失われていく命。
 その中で勝者となったのは、何の変哲もない少女だった。
 何の変哲もない。それは、この戦争においてあり得ざる一般人に近しい少女だった。限りなく平凡で、日常にいれば埋没してしまいそうな少女。
 そんな少女には記憶、自己という存在がなかった。記憶が戻らぬままでの命をかけたやり取り。ただ死にたくないと抗い、それ故に命を奪う事に苦悩した。
 生き延びた彼女が知ったのは自らの残酷な真実。彼女は命ですらない。聖杯戦争を運営する聖杯と呼称される「ムーンセル」によって生み出されたNPCだったのだ。
 実在している、もしくはしていた、していたかもしれない人物の情報をコピーし、再現させた存在こそが彼女の正体であった。本来は再現するだけしかない人形だが、何かしらの影響で自我を得た彼女は聖杯戦争に参加するマスターとして選ばれた。
 多くの命を奪い、自らの存在に苦悩しながらも彼女が選んだ道はこの聖杯戦争を終わらせるという選択。この世界でしか自分が生きられないのならば、この戦争を終わらせ、あり方を変えよう、と。
 戦争の最中、どうしても救いたいと足掻いた結果に助けた友達である少女が笑っていた。
 共に戦争を駆け抜けた頼れる相棒である赤き弓兵は皮肉気だが穏やかな笑みを浮かべていた。
 そんな中で勝ち抜いた聖杯戦争。最後には自らと同じ境遇でありながらも、決定的に相容れぬ男との戦いに臨み、見事、彼女は勝利した。
 それが聖杯戦争の結末。そして勝者である彼女が聖杯に願ったのは―――。





 * * *





 まどろむ夢を見ていた。
 それは走馬燈と呼ぶべき夢。
 死にたくないと抗い、「彼」と出会い。
 最初の戦いで死にたくないと足掻く少年の命を奪い。
 騎士の誇りを貫きながら戦った老兵から助言を受け。
 同輩であった孤独な亡霊である少女の夢を終わらせ。
 死んでほしくないという少女を傲慢にも助けようとし。
 自らが信ずるモノを絶対とする狂信者を押しのけて。
 冷酷な、しかしその内に秘めたものを後に知った暗殺者を払いのけ。
 何度も助けられ、そのあり方に羨望を抱いた恩人の命を奪い。
 王に相応しき絶対者である少年を否定し、勝利者と至った。
 玉座で待つのは一人の男。自らと同じく紛い者にして紛争の被害者。
 悪である、と自らを称し、世界を発展させようと戦争を望んだ彼を。
 否定する。戦いが人を成長させる。否定はしない。されど、その痛みと悲しみだけは否定しなければならないと。
 多くの人と、多くの英霊と戦い、触れ合い、感じた事。何もない空っぽな自分に注ぎ込まれていく経験。
 それが許さない。この身は確かに戦争の発展の証明。されど、だからこそ彼女はそれを否定する、と……。





 * * *





 軋む。
 軋むのは何だ? それは心。それは体。それは世界。それは未来。それは…全てだ。
 軋む世界。軋ませるのは人。胸に強き意志を宿し未来へと進む者達。どのような姿であれ、それは未来を望む者達だ。前へ進むために。望みを叶えるべく力と力を交わし合う。
 方や、戦争を憎みながらも、戦争によって得られる成果を前にして永遠なる闘争と発展を望み、救世主を従えた男。
 その男と救世主に挑むのは――少女と男だ。
 男が一歩前に出る。赤い外套を靡かせ、逆立てた白髪を乱し、その体に幾多の傷を負おうとも揺るがない。何故ならば彼の身に敗走はないのだから。故に彼は前へと出る。生前そうしていたように、一度は見失い、憎み、呪い、だが、出会った事によって得た新たな答えを胸に。


 ――体は剣で出来ている。血潮は鉄で、心は硝子。

 ――幾たびの戦場を越えて不敗。

 ――ただの一度も敗走はなく、ただ一度の勝利もなし。

 ――担い手はここに独り。剣の丘で鉄を打つ。

 ――ならば、その生涯には意味はいらず。

 ――その体は、無限の剣で出来ていた。


 詠唱。それは彼の最大にして最後の奥義。だが、それは若干異なった詠唱となった。それは彼の心境の変化が産みだしたささやかな歪み。だが、それは彼という頑固な人物にとって、確かな変化のキッカケであり、同時に救いであった。
 焔が走る。世界が作り替えられていく。産み出されるのは赤き荒野に突き刺さる無限の剣群。聖剣、魔剣、宝剣、神剣。様々な、ありとあらゆる剣が突き刺さる。これは固有結界と呼ばれる心象を具現化し、現実を侵食するリアリティ・マーブル。
 その名、『"無限の剣製"(アンリミデット・ブレイドワークス)』。
 赤き世界を、赤き弓兵が駆ける。その身は英霊、そしてサーヴァント。弓騎士の位を頂くアーチャー。仕えるべき主に勝利をもたらす為に。彼と、そして彼女が願う終わりを。この戦いに勝利という形を得て終わるこの悪夢を。
 無限の剣が彼の意志を持ってその力を振るう。唯一、規格外としてセイヴァーのクラスを頂いたサーヴァントを削ってゆく。だが、それでも止まらない。それは敵の強さの証明でもある。


「問う。何故私を否定する? 君とて争いの果ての申し子だろう? 錬鉄の英雄よ。君はあの大災害を経験し、その空虚な心に宿した理念は君を英雄に押し上げた。君がそれをどう思おうともそれは前へと進む為の力となった筈だ。それが正しい在り方で、そして前に進む力になればそれこそ世界の為とは言わないか?」


 白衣を纏った男、救世主を従えた科学者である彼、トワイス・H・ピースマンはアーチャーに語りかける。その言葉をアーチャーは文字通り、握った黒と白の双剣、干将・莫耶をトワイスのサーヴァントであるセイヴァーを切り払う事によって斬り捨てる。


「それは否定はせん。だが貴様には個人が勘定に入っていない! お前が言う事も最もだとしても、だからといって肯定する事は出来ん! 私も…そして、彼女も、だッ!!」


 アーチャーの叫びと共に振るわれた干将・莫耶の一撃はセイヴァーを退かせた。後退するセイヴァーはその動きを止める。その間にトワイスに向けて駆け抜ける者がいた。トワイスはそれを見た。
 走るのは少女だ。深紅の、アーチャーのものと良く似た外套を身に纏い、その体に少なからず傷を負っている。血が滲み、痛みも決して軽いものではない筈。だがそれでも駆け抜ける少女がいた。戦場を、赤き荒野を、剣の墓場を駆け抜ける。


「衛宮 奏…!」
「トワイス・H・ピースマン…ッ!!」


 トワイスが、そして奏と呼ばれた少女が互いの名を呼ぶ。互いに紛い物として生まれ、だが本物と同じように意志を持ち、そして聖杯戦争と呼ばれるありとあらゆる願望が叶えられる聖杯を巡っての戦争を勝ち抜いた。
 そして奇しくも彼等がその存在を途切ったのは同じ場所。紛争に巻き込まれて死亡したトワイスと、その中で行方知らずとなった奏。互いに戦争への強い思いを持つ者。共通点を挙げればキリがない。
 だがそれでも、それだけの共有点を持ちながらも奏とトワイスは啀み合う。それは何故?


「何故だ? 衛宮 奏。君とて私と同じだろう。戦争は憎むべきものだ。だがここに居る君こそがその戦争から得られる成果だ。この聖杯戦争を勝ち抜き、私の前に立つ君が何よりの証拠だ。ならばそれを世界に示す事が世界の為だ」
「――だから?」


 奏は両手に握ったその剣を持ち直す。それは黄金の剣。かつてアーチャーがその記憶に強く残した「騎士王」が手にしていた剣。かつては折れ、失われ、投影品として剣を錬成するアーチャーが残した幻の聖剣。
 無限の剣が連なるこの世界において、それを彼女が握ったのは、果たして偶然か、必然か。聖剣から溢れる力を必死に抑えながらも奏はトワイスへと駆けていく。


「だからこの悲しみも、この痛みも許せ、って? わかるよ、わかるけど…けど巫山戯ないで! 最小限な犠牲? 誰もが生き残れば争いは起きて良い? そんなの肯定できるもんか!! 確かに人は愚かかもしれない。戦わずにはいられないのかもしれない。ならせめてその戦いが正しくあるようにって実は正しいのかも知れない。だからトワイス、貴方のやっている事は正しいのかも知れない」
「ならば―――」
「それでも、涙を止めようとして何が悪い! 痛い事を無くそうとして何が悪い! あぁ、貴方の言う事は正しいとしても、私は私の受けた痛みは誰かが受けるべきだとは思わない!! 世界を変えるなんて、私にはどうでも良い!! 誰が泣こうが、傷付こうが…―――大事な人達が傷付く位なら!! 誰も彼も泣いてしまえば良い!!」


 それは、あまりの身勝手。そんな彼女の脳裏に蘇るものがある。
 それは憧れた恩人である少女の記憶。戦いを否定せず、その中で解り合っていく事、戦いは無意味ではないと教えてくれた人。だがその戦いの中で出てしまう犠牲者の為、きっと誰よりも誇り高く戦った優しき少女を思い出す。
 それは絶対であった少年の記憶。王として生まれ、王として育ち、何一つ欠陥など存在しない王であった。世界の平和の為に、と戦っていた彼。しかし、彼には中身というべきものがなかった。最後には悔しかったという感情を吐き、涙を流しながら逝ってしまった。
 二人だけじゃない。多くの記憶が蘇る。この一ヶ月という短い時間の間に得た経験は彼女を走らせる。抗え、と。認めてなるものか、と。


「私は、何も無かった。空っぽだった。記憶が無くて、理念も信念も何もない! だから人を気遣う事なんてきっと出来てなかった。ただ自分で精一杯だから。でも、きっとそんなものだ!! 私は、ただの人だから!! 貴方の言うような救世主になんてなれやしない!! そして争いこそが救いだって言うなら私は…誰も救われなくて良い!! 私は…私の大事な人が、愛しい人達が笑っていられれば、それで良い!!」


 救いは要らない。そこに笑顔と平穏があれば良い。だから、と。一歩、二歩、また進む。トワイスとの距離は近づいていく。それをセイヴァーが食い止めようととトワイスに意識を向けた瞬間、アーチャーがセイヴァーの懐に飛び込む為に踏み込んだ。


「それは停滞を呼ぶのではないか? 目を背けては世界は変えられない」
「世界なんてどうでも良い!! ただ、私は、それだけしか見えない!! それに、それは違う!!」


 セイヴァーがまるで鬱陶しい、と言うようにアーチャーへと波動を叩き付ける。それに揉まれ、逆立てた髪が僅かに垂れる。そして吹き飛び、アーチャーの体は宙を舞う。
 だがそれでもアーチャーは怯む事はない。その鷹のごとき瞳をただ一点に見据えて踏み抜く。その両手に握った双剣を投げ捨てる。そして唇が小さな言霊を刻み。


「違う?」
「変われるよ。人は、誰かと触れあえば変わっていける! 切っ掛けはいつだって自分の中にあるんだ! それを気づかせる人と出会えれば戦争なんか無くたって変わっていける!! それに世界は、自分が見る全てこそ世界だ! 一歩歩くだけで世界は変わる! 振り向けば世界は変わる! そんな、簡単な事だ!! 些細でも自らの位置を変える事なんて誰だってできる!!」


 そして、届く。


「――"偽・螺旋剣"(カラドボルグ)


 トワイスを護ろうとして迫ったセイヴァーはアーチャーの放った落雷にも等しき矢の一撃を受けて吹き飛ぶ。そのロスが、確かな道となる。
 トワイスは眼前、その顔には何も浮かんではいない。ただジッ、と奏を見つめている。奏はその視線を真っ向に受けながら握った剣を振りかぶる。


「トワイス、私は貴方を否定できない。けれど否定する! 私はそこまで人に絶望していない!!」
「―――」
「私は人の可能性を諦めない!! 諦めてやるもんか!! いつか、絶対変わる時が来る!! 誰が何というと、私は信じる!! そして足掻く!! …だから、今、ここで、貴方は倒れろッ!!」


 奏の咆吼と共に聖剣が光を放っていく。


「勝利すべき(カリ)―――」


 魔術回路に魔力を込める。ありったけの魔力。この為に取っていた魔力を全て注ぎ込む。黄金の剣が煌めくを放つ。黄金の光を。そしてそれはその名の如く――――。


「黄金の剣(バーン)―――ッ!!」


 ―――もたらすべき勝利を彼女にもたらした。





 * * *





 まどろみの夢に終わりが近づく。
 消えていこうとしているこの身の崩壊は止める事は出来ない。
 消滅間近の身は何を思う。
 思い浮かべるのはこの戦争中、自らが傲慢にも救いだし、友達となった少女の事。
 彼女は無事に地上に帰れただろうか? そして現実世界にいる「本物」に何を思うのだろう? 泣いていないだろうか? 笑ってくれているだろうか?
 そして…―――。


「…アーチャー」
「…なんだ?」
「…私、消えちゃうね」


 地に足が付かない無重力。その中で漂うように私はいて、その傍らには彼がいる。
 ずっとこの戦争中、命を守ってくれて、成長を促してくれて、傍にいてくれた。
 彼の境遇を知って、彼と傍に居て、彼と歩み…私は、きっと私でいられた。
 この感情は何だろう? 焦がれる。離れたくない。傍に居たい。もっと、もっと、と。


「…アーチャー」
「…なんだ?」
「…私、消えちゃったらどうなるのかな?」
「……」
「もう、何も思い出せなくなるのかな? 何も感じられなくなるのかな? もうこうして考える事も出来ないのかな?」
「…恐らく、な」
「…そっか」


 彼の返答は、些か苦しげなものだった。あぁ、ごめんなさい。貴方を悲しませるつもりじゃなかったの。


「…じゃあ、苦しくなくていいや」
「…そうか」
「…ねぇ、アーチャー。ごめん。我が儘、言っていい?」
「…なんだ? マスター」
「名前で呼んで欲しいの」
「…奏」
「うん。それと、アーチャーの名前、呼びたいの」


 アーチャーの顔が少し驚きの色に染まるのを私は見た。彼の逡巡は一瞬。あぁ、私には時間がないから。あぁ、なんて狡い。彼は言うしかなくなってしまうというのに。


「…エミヤシロウ、だ」
「…驚いた。私と同じ名字?」
「…あぁ、そうだな」
「…ふふ、嬉しいなぁ」
「…嬉しい?」


 うん。だって、さ。同じ名字なら…想像しちゃうからさ。


「…エミヤ、シロウ」
「……」
「…シロウ、私ね…、シロウの事……――」


 ―――大好きだよ。
 届いたかな? 私の最後の言葉。もう、意識が曖昧で、朦朧としてきて…。


「―――――」


 何かの、声、が、聞こえ、た、よう、な……――――。





 * * *





 ――これにて、終幕。聖杯戦争に幕は下ろされた。


 世界は歪みを嫌う。
 世界は矛盾を厭う。
 世界は許さない。世界は正しくあるべきだと。故に綻びを見逃すことはない。
 故に世界は正す。世界は正しき形にあるべき。歪みは要らず。

 だが。

 世界が歪みを許さない。それならば…。
 果てして、彼女の存在はどうなるのか?
 彼女は勝者だ。聖杯が定めた戦争の勝利者だ。
 だがしかして。
 彼女は存在を許されない。その存在そのものこそ不正だから。
 だがしかして。
 彼女はやはり勝者なのだ。勝者は既に選ばれた。彼女こそ、正に。
 だからこそ。
 彼女は認められるべき存在だ。その存在を。
 故に。
 生きなさい。虚像から生まれ、零より歩き出し、勝利へと至った弱き子よ。
 私は認めよう。君という存在を。君は我が申し子。我の目となり、我の手となり、我ではない我として。
 我は観測者。しかして観測者は観測するだけに過ぎず、自我など要らず。
 されど、観測者であるが故に我は理解が出来ない。客観的にしか見れない私に。
 君の価値を、証明して欲しい。君が、なぜ生まれたのかを。
 君は無意味に流されるだけの存在ではない。だからこそ、君は生き残った。故に価値がある。
 それは私が記録してきた、数多の英霊達と同じなのではないか、と。
 ならば君こそが…この世界を革新させる者なのか?
 私は見届けよう。だからこそ、君は行きたまえ。さぁ、見せてくれ…。





 * * *





 光を感じた。それが意識の覚醒を促す。まどろみから抜け出すように、浮上にも似た意識の目覚め。
 重たい瞼を開く。差し込む光の眩しさに目を一瞬閉ざす。それを光を慣らすかのように何度も瞬きを続けた。
 おかしい、と思った。私は消えたはずなのに。もう何も感じることもなく、何も思う事もなく、何も願うこともなく。もう、消えたはずだったのに。
 思考は留まらないまま、瞬きを繰り返す。その中で光を遮るようにして何か影が立っているのが見えた。何? と、瞬きを繰り返し、その影は次第に鮮明に浮かび上がってきて。


「…ラ…ニ…?」


 不意に、影であった少女が震えた。それは自分の唯一とも言うべき友達の姿で。


「…かな…で…? 奏? 奏?」
「…ラニ…どうし、て…?」
「―――ッ、奏ェッ!!」


 首に手を回される。抱きつかれた、と自覚するのにはどこか頭の動きが鈍い。肩口に顔を埋めるようにしてラニが抱きついている。そしてラニが泣いている。大声を張り上げながら強く私を抱きしめている。
 何が起きているのかよくわからない。消えたはずなのに、またラニとこうして触れあっているというこの事実が何を意味するのか。考えなければならない。ならないのだが…。
 今は、この熱を、この感触を、生きているという実感と、また会えたという感動に浸ろう。頬には一筋の涙の跡がついた。




 
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