次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■朧月の契り 第2章 07
2010/11/18 Thu朧月の契り
 救った。救った。どれだけ救った。救った数も見えない程の人に恨まれた。
 何故だ。何故だ。問いつめる声がする。助かった者達からの助けられなかった者達への嘆き。
 どうして。どうして。どうして自分で、あの子は救われなかったのかと流れた涙。
 でも。でも。頭を下げる事しか出来ない。石を投げられて、罪をなすりつけられても止まらない。
 否。否。止まる事など出来ない。足を止める事など出来ない。だから前へ、前へ、ただひたすら前に。
 軋む。軋む。体が、心が、きしきし、と音を立てている。一歩、歩む度に前が見えなくなっていく。世界に何の意味も失せていく。
 ただ。ただ。繰り返す。繰り返し、なぞって、進んで、進んで。その背中に付いていきたくて。ただ、それだけの為に。
 それが、彼女の在り方他ならない。そして結局、彼女は意味もなく息絶えた。それは誰の目から見ても明らか―――。





 * * *





 思考が凍り付く。よく、わからない。イリヤの言葉が意味がわからない、と士郎はただ口を開けて呆然するしかできない。父、とイリヤは呼んだ。呼ばれたのは誰だ? それは切嗣だ。それは俺の父親の筈で。
 ならば、何故、彼女が切嗣の事を父と呼ぶのかそれは本当にさっぱりで、わからない。だから喘ぐようにして息をする。ただ、今は頭を回す酸素が欲しいと。だがそれでもさっぱりとわからないままで。


「どういう、事なんだ?」
「どうもこうも、私は衛宮 切嗣の実の娘なの」
「――な」


 それは、どういう事なのか、と。ようやく、あぁ、ようやく頭が理解が出来た。切嗣の娘。それは家族だ。ならば家族は共にいるべきものだ。そうだ、それが家族というものだからだ。
 だから恨む、恨まないだの、そんな話になるのはおかしい。殺す、殺したい、などという言葉も間違っている。では、何故そんな間違いが起きているかと言えば、それが自分の知る家族の理想像と懸け離れているからで。
 少女には親がいて、けれどその親は傍に居る事はなかった。その親は何をしていたかといえば、異国の地にて一人の少年を育てていた。あぁ、そんな、奇妙な話だ。だから、がつんとハンマーで頭を殴られたようにくらくらとする。


「……、っ、…、…」


 言葉が、出かけて、結局何も出ない。何を言えば良いかなんてわからない。…いいや、あぁ、そうだ。そもそも、ならば衛宮 士郎には彼女にかける言葉なんて何もないじゃないか、と士郎は歯を噛んだ。
 どうしてそうなったのか、士郎は知らない。士郎の始まりはあの地獄。そしてそこから拾い上げられ、彼が引き取ってくれたからこその衛宮 士郎だ。そこにイリヤという少女は欠片もなく、たった今、突きつけられたばかりなのだから。
 けれど想像には難くない。実の親を、どこの子供とも知らぬ孤児に取られた実の子は…一体どんな気持ちで―――。


「――今は、そんな事はどうでも良いわ」


 どうでも良い、と。彼女はそう言った。父親であった人の本当の娘は切って捨てるように言葉を吐いた。実の父親など、どうでも良いと。切嗣などもうどうでも良い、と彼女は切り捨てる。
 その言葉を、黙ってきけなかった。それが何から出た言葉だったのかわからない。けれど、それは絶対に言葉にしなきゃいけないものだと思った。今、言わなきゃいけないと思った。だからこそ――。


「――どうでも良い訳あるか」
「…え?」
「どうでも良いわけない! 切嗣は君の父親だったんだろ!? だったら、俺に言うべきことがあるんじゃないのか!! 俺は…俺は、きっと、君に謝らなきゃいけない」
「…は…?」


 目を見開いてイリヤは士郎を見つめた。士郎はそんなイリヤを直視する。その表情はとても苦しそうだ。ただ罪悪感で胸がいっぱいになる。理由が何にせよ、そこに自分が関わっているのは間違いの無い事実だろうから。


「俺は…君から切嗣を奪ったと、言ってもおかしくない」
「―――」
「…だから、俺は、君に謝らなきゃいけない」
「…何、それ。謝る? 貴方、何も知らないんでしょ? なら、謝るも何もないじゃない? 全部悪いのは切嗣。貴方は何も関係ない。――それとも、何? 貴方が切嗣に変わって私に何かしてくれるとでも言うの?」


 どこまでも冷め切った声だった。その外見にはある種、お似合いで、けれどそんな顔が似合ってはいけないと、人形じみた感情の色を伺わせないイリヤの表情に士郎は唇を噛んだ。僅かに切ったのか、痛みが走る。だがそれはとても些細な事だ。


「…あぁ、俺は、衛宮 切嗣の息子だから」
「…そう。そうね。本当だったら、そこにいたのは私であるべきだものね。なのにそこに私がいないで、貴方がいる。うん。そうだね。いるべき場所を取った、っていうのは間違いじゃない」


 それにイリヤは瞳を閉じて。


「――巫山戯ないで」


 再び開いた時、素人である士郎でもわかる程の殺気を士郎に叩き付けた。それは純粋なる憎しみからの殺意。それに士郎は体を震わせた。魔力の猛りでわかる。普段は魔力などを感じられない士郎でも、風となるまでに具現化した魔力の流れはわかる。
 あれを放たれれば―――間違いなく殺される、と。


「何、それ。だったら何? 何かの間違いだって言うの? じゃあ何で間違えたの? それとも、私よりも貴方の方が良かったの? 良かった理由があったの? そんなの、もうわからない。わからないっ!! 聞きたかった人は――もういないんだ!!」


 叩き付けるような言葉は士郎の愚かさを思い知らさせる。その答えを知っていた切嗣はもういない。なら、どうしてこんな歪な形になってしまったのかなんてわかる訳がない。そうだと思えばそうなのかもしれないし、また違うかもしれない。
 結局は雲を掴むかの如く、そもそも雲は掴めず、掴めたとしてもそれは実体のないもの。ならばそれはわからない。だからこそ、ならば何が正しいのかなんてわからない。だから、互いに言葉を失った。
 イリヤは感情を叩き付ける為に声をあげた為か、やや肩で息をしている。それに対して士郎は唇を噛みしめながら沈黙していた。


「――なら、考えれば良いんじゃない?」


 そこに、投げ込まれる波紋。いつの間にか土蔵に積まれた荷物の上に陣取るように座ってい二人を見下ろしているカナデは顎に手をあてるような態勢のまま、顎に当てていないもう片方の手の指を立てて言う。


「…カナデ?」
「私は衛宮 切嗣がどんな人間なのか知らないしさ、イリヤがどんな思いで切嗣を思ってるのか、士郎君がどんな衛宮 切嗣を見てきたのかも知らない。それはイリヤにだってそうだし、士郎君だってそうだ。なら、二人で考えて、そうして出てきた答えがそれで良いんじゃない? 死人に口はなし。誰も真実を知らないというのなら――そうだと信じた真実が全てで良い、んじゃないかな?」


 どうかな? と少し気まずげにカナデは言った。つまり、それは。


「……カナデ、あんた、もしかして」
「…さぁてね。私は、ただ自分の思った事を口にしただけだよ?」
「…ふん。まるで詐欺師ね」


 イリヤは不快そうにそっぽを向いた。だが、その行動とは裏腹にイリヤは自分が適当に座る所を陣取り、士郎へと視線を送った。


「…でも、だからって私が出来るのは八つ当たりくらいだもの。良いわ、話してみなさい。衛宮 士郎。だから私も話してあげる。貴方を育てた人間がどれだけ薄情な人間なのかをね」
「じゃあ、俺も話すよ。俺の親父は良いところばかりじゃなかったけど、少なくとも、悪いだけの人間じゃなかった事を」
「…えぇ、話して頂戴」


 それは、どこか突き放すようにも似て、だけど、だから受け入れているように。イリヤと士郎の語り合いは始まった。互いに話すのは胸の内にあるものを形にしていく事。その時、何を思い、何を願ったのか。
 イリヤは思い出を語る。冬の森、その森の中で一緒にクルミの冬芽探しをした事。帰ってきたら一緒に暮らす。待たすなんてしない。傍にいようと約束した事を。
 士郎は思い出を語る。ただ一人生き残った地獄から拾い上げてくれた事。無精な彼の為に家事をこなすようになった事。そして彼の理想を追い続けると誓った事。
 それは、楽しそうに過去を話す事もあれば、どこか呆れたように話す事もある。そこに笑みはない。けれど、互いに敵意はない。イリヤの話を聞く士郎は、それを受け止める。士郎の話を聞くイリヤは視線を下へと向けるものの、拒絶はしない。
 どれだけ語っただろうか。だが、終わりは来る。語りが終えれば、二人の間には何が残るのだろうか。
 どちらも言葉を発しない。士郎はただ、唇を引き結んで沈黙していた。イリヤは俯くように視線を下に向けていた。ただ、遠くの音で僅かに吹く風の音だけがして。


「――なんで、だろうね」
「…ぇ?」
「…だって、どこにいたって、キリツグはキリツグなんだな、って、思うのに…だったら、どうして、…こんな事に、なっちゃうのかなぁ…?」


 ぽた、と。涙が落ちた。知れば知る程に、わかってしまう。変わったのは切嗣ではない、と。裏切ったのは切嗣。けれど、その切嗣は何の変わってはいない。なら、何でこうなってしまったのか。ただ、それだけがわからない。
 彼は何も変わっていないのに、どうしてこんなちぐはぐで、おかしな事になっているのだろう。実の娘であるのに傍にいれなかった娘と、実の子でもないのに彼に育てられた息子と。
 まるで噛み合わないこの状況はどのようにして生み出されたのか? 最初から切嗣は裏切るつもりだったのか、それとも裏切る他ならなかったのか。だけどきっと裏切る気なんてない。だって彼は変わっていなかったし、切嗣の残したパスポートからもそれは見て取れて。
 語るべき人はいない。ただ残るのは、彼は何も変わっていなかった、という事。どこか頼りなくて、無精で、でも、それでも大好きだった。だから憎んだ。だから、こうして、涙を落とすまでに思っていられる。だってあの人は…何があっても父である子とは変わりないのだから、と。


「…イリヤスフィール」


 そんなイリヤを士郎は黙って見る事が出来なかった。イリヤの頬に手を伸ばして、優しく目元を拭うように。それをイリヤは驚いて、けれど、動かず士郎の手に自らの涙を拭わせる。
 見上げるように士郎を見る。離れていた距離は今となってはゼロに等しい。彼の手が自らの頬に触れている、という事実が認識はすれど、それがどこか遠い出来事のようで。


「…親父が良く言ってた。女の子は泣かせちゃ駄目だ、って。だから切嗣は本当に駄目親父だ。…俺が、謝る事じゃない。そうだった。ごめん。だけど…それでも俺は君に泣いて欲しくない。…親父だって、きっと、今ここにいれば―――」


 きっと、と。その言葉をもう一度繰り返して、けれど明確に言うことは出来なかった。そんなの自分が語れる言葉じゃない。きっと、だなんて推測でしかなくて、彼女にとって違うなら受け入れられる筈もない。
 わかった気になるな。結局、俺は何も知らなかったのだと、士郎は自らを責め立てる。知る要因もなかった彼に責める余地はないのかもしれない。けれど、それでも士郎は自らを責め立てる。
 それも、推測。士郎がいたから、切嗣はイリヤの傍にいられなかったのかもしれない。それも、また誰もがわかり得ない真実。だが推測だけがあるのならば、その推測こそが己の中の真実だ。けれど、だからこそ、士郎はイリヤに頭を下げてはいけない。
 だからこそ、何を為せばこの少女の涙が止まるのかなんてわからない。だけど、拭わずにはいられない。それが父の教えで、自分もそれを正しいと思い、そうして生きてきた。だからこそ泣いている彼女を前にして何も出来ずにいるなんて出来ずに。


「――…あったかい」
「ぇ?」


 ふと、自分の手に新たな感触が重ねられていた。それはイリヤの手。自らの頬に添えられた手に、イリヤは自分の手を重ねる。その掌から感じる温もりと感触にイリヤはそっと瞳を伏せる。
 憎しみは消えない。募る思いがある。愛しさも消えない。だからこそ苦しい。それはきっとこれから先、消えないと思う。それでも…この手の温もりを感じると、それが少しだけ和らぐような気がした。
 自分と同じ、けれど正反対の少年。何も知らずに生きて、こうして知って戸惑い、そして、その戸惑いながらも手を差し伸べてくれるその優しさ。その手の温もりはかつて失った温もりとは違うけれど…。


「…あったかい」


 決して、悪いものじゃないと。己の流した涙が彼の手に触れて、その触れる手に自らの手が重なっている。今はただ、少しだけこうしていて欲しいと。この温もりを失うには、少し惜しいから。
 そして、どれだけそうしていただろうか。


「…もう、話は良いのかしら?」


 すっかり忘れ去られていた第三者の声がした。視線を向ければそこにはカナデがいる。彼女は士郎とイリヤに視線を向けて。


「そう。ともかく結論は出たかしら? 二人とも」
「…えぇ。キリツグは何も変わってはいなかった。なら、そうなってしまった要因がある、って事」
「それが何なのか、もうわかってるんでしょ?」


 それは、一転して追い詰めるように発した鋭い言葉。認めろ、と言うようにカナデはイリヤに突きつける。それに、イリヤは静かに受けて返す。まるでそれはわかっている、と言うようにも似ていて。
 事情のわからぬ士郎はただ狼狽するかのように二人を見つめる。二人が話しているのは切嗣に関わる何か。けれど、それが何なのか。――漠然と、嫌な予感がする、と士郎は息を呑む。


「10年前、この地で何かが起きたんでしょ? そしてそこで起きた大火災。それによって拾われたのが―――君でしょ? 士郎君」
「あ、あぁ、そうだ。…だけど、ちょっと待ってくれ。カナデさんの言い分じゃ、それがまるで――」
「…キリツグも大火災に関わってるって事だよ。…もしかしたら、キリツグがあの大火災を起こした張本人かもね」


 ――何故、そんな。今まで抱いてきたものを、打ち砕くような言葉が出るのか。


「士郎君。イリヤ。正直に言うとね。私―――この時代に召喚される前からね、少なくとも、士郎君とは面識があるんだよ?」
「…ぇ?」


 この時代に召還された? それは一体どういう意味なのか? それじゃ、まるで彼女はこの時代の人間ではないような言い方。だから士郎はただ、彼女を見つめるしかない。出会う前から、知っていると彼女は言った。
 不意に、理由もわからず、だが感覚で納得した。だから自分は彼女が心地よいと感じた。彼女の存在を好ましいと感じた。直感のように彼女が自分を変えると納得した。だってそれは―――。


「私はね、士郎君。この時代よりももっと後…でも、この世界とは違う世界で君に救われた、君の後継だ」





 * * *





 語られるは長きに渡る渇望の歴史。その為の幾度無く繰り返す執念の軌跡。
 呼び出されるは偉業を打ち立てた英雄の御霊、英霊。彼らを使役した7人の魔術師達による魔術戦争、その名を、奪い合う栄光の逸品より聖杯戦争と名付けられた。
 呼び出された英霊達は、セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、ライダー、アサシン、バーサーカー、その七つのクラスに当て嵌められこの現世へと降り立つ。
 選ばれる勝者はただ一組。その為の殺し合いにして奪い合い、その生存競争こそ、聖杯戦争。ありとあらゆる願いが叶う万能の器を求めて殺し合う。


「…10年前、冬木の聖杯戦争は四回目の戦争を開催した。衛宮 切嗣は聖杯戦争のシステムを作り出した家系、アインツベルンのマスターとして参戦し、そしてその後、聖杯を破壊して行方を眩ませた」


 淡々と語られる事実に、士郎は何を思っていただろう。怒り? 悲しみ? 憎しみ? そんなのわからない。ただ、自分がわからない。何を思い、考えているのか自分自身でさえわからない。
 ただ呼吸が苦しい。あの映像を思い出すだけで吐き気が来る。もう乗り越えた筈の苦痛が今となって襲いかかってくる。


「…だ、大丈夫…?」
「…あ、あぁ…大丈夫、だ」


 顔が真っ青になっている自覚はある。心配げにこちらを見上げてくるイリヤの表情からも自分が酷い顔をしている、というのがわかる。


「…で、それと同じ事が今回も起きる、って事か? カナデさんも英霊なんだろ? それが召喚された、って事は」
「前例と比べて随分と早い周期だけどね。ま? 前回で不完全な決着だった訳だから、魔力が溜まってるんじゃない? 元より必要なのは英霊を呼び出す為の魔力。そして聖杯戦争の本当の意味は、消滅した英霊の魂を同時に解き放つ事によって開かれる座、つまり英霊の魂が保管されている「外の世界」、まぁ、根源って言うのがふさわしいのかな? そこへの道を繋ぐ為のもの、であってるかな? イリヤ」
「…そう、表向きの、何でも願いが叶う願望機というのも間違ってはいない。けれど、本当の仕組みはそれだけの為のものなのよ。事実、聖杯戦争というルールが作られたのは第二次聖杯戦争以降の話だもの」
「…な、なら! それが本当なら、それを分け合うことだって出来るんじゃないのか!?」
「何で?」
「な、何でって…必要なのは、外界への道を開くために英霊を呼び出して、その英霊が死んだ後にその道を固定すれば…」
「英霊ってのは過去の偉業を為し得た人間の霊だよ? そんな人達に「死ね」ってお願いするの? まぁ、対価として願いを叶えるのも良い。だけど、本来はこの時代に存在しないものを維持する魔力はどこにあるの? 聖杯の魔力? だけど、それが失われては本末転倒。根源への道は開けても固定は出来ない。だからこの聖杯戦争という仕組みが出来たんじゃない? 奪い合いによる儀式の短期化。そうして得られるのは一人だけ。そもそも、そんな旨味のあるものを誰かに譲るなんて、魔術師が考える事じゃないよ」


 神秘は独占してこそ、神秘たりえ、それは強力なものになるのだから。だからこそ魔術師同士は手を組む事はほとんど無いといっても等しい。やむを得ない状況ならばそれもやぶかさではないが、基本的に侵犯してはならない領域を定め、そこで好き勝手にやっているようなものだ。
 それ故に生まれた仕組みが聖杯戦争。その仕組みを、衛宮 士郎は許して良いのか―――?


「士郎君がどう考えるにせよ、他の魔術師は根源に辿り着けるなら、それこそどれだけの犠牲を払おうとも構いやしないだろうけどね。だって、根源へと至ってしまえばそこには全てがある。失われるばかりのこの世界がどうなろうとも知ったこっちゃない」
「…巫山戯るな。そんなの認められない。自分さえ良ければ良いなんてそんな考え、俺は認められない―――!!」
「なら、どうする?」
「――戦う。正義の味方として、そんな誰かを犠牲にしてでも良いなんて言う戦争なんて許せるものか」


 告げた。隣でイリヤが信じられないものを見た顔で士郎を見る。その士郎の視線を真っ向から受けるカナデは、つまらなさそうな表情を浮かべて。


「人も殺した事もない君が戦いを止める、なんて言えるの?」
「な、人を殺した事ないって、そんなの関係ないだろ…!」
「いいや。人の願いを踏みにじるなら覚悟を決めなさい、士郎君。君がやる事はどれだけ命を救おうとも、その願いを殺す事だ。その願いがその人の命を繋ぐものなら、君はその人を殺すんだよ?」
「―――っ!? そ、れは…」
「例えば、だ。イリヤが聖杯に「切嗣に生き返って欲しい」と願ったら、君はそれを否定出来るのか?」


 言葉が、詰まった。


「…カナデ、私はそんな事―――」
「誰だって、平穏を望む。誰だって、夢を見る。それは否定出来ない。それを受け入れないのは、受け入れては崩れてしまう大事な今があるから。もし、それが無かったら、そんな仮定には意味はないかもだけど、もしも、そんな人がこの聖杯戦争に願いをかけて挑むなら? 士郎君、君は、どうするの?」


 その問いに、何という言葉を返せば良い。
 全てが叶う、と言われて、自分には望みがないと知った。そんなもの要らない、と。
 だけど、自分はそうでも、もしかしたら誰かが、そんな手段を求めて、何かを犠牲にするのかもしれない。その犠牲を、俺は無駄だと言えるのか、と。出してはいけないものなんだ、と。
 俺は―――。


「――意地悪が過ぎたね。ごめん、士郎君。でも、わかったでしょ? 君は何も関わらなくて良い。知らせておいたのは、どう足掻いてもこの地で戦争は起きる。それは確定的だ。だから、せめて自分の身ぐらいは守れるように、ね」


 ――何も、答えなど持っていなかった。





 
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