次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■朧月の契り 第2章 05
2010/11/15 Mon朧月の契り
 果ての先には、恨み憎しみが募り、その恨みを一身に背負った彼女の死は余りにも不遇だ。
 彼女はただ救いたかっただけ。だけどその手に残ったのは僅かばかりの感謝のみ。それでも彼女は笑って見せた。
 悔いはあるけれど、この道は間違ってはいないと。僅かだけど、そこに笑みがあるならそれで良いと彼女は笑う。
 何故ならば、彼女にはその恨みや憎しみよりも、僅かばかりの感謝があればそれで十分だった。どうだ、と胸を張っていける。
 どうだ、と胸を張ってみせる。同じ道を行って、それで誰かを助けて、そして感謝された、と。だから間違いじゃないぞ、と。
 …もしかしたら、彼女にとって救った命も、救えなかった命も些末事だったのかもしれない。
 その果ての先の、この生涯の先だけをただ見据えてきた彼女にとって、過程はどんなに苦しくても苦しむものではなかったのかもしれない。
 ただ、得たかったものは一つ。辿り着きたかった地もまた一つ。故に、それ以外の道など要らず、ただその道を走り続けた。
 そこしかないのならば、その道を忌避する感情など、持っていても邪魔なだけなのだから、と。その道を精一杯生きて、幸せだったと思いたかったから。





 * * *





 冬木市。それは周囲を山と海で囲んだ自然豊かな地方都市だ。中央を流れる未遠川という川を挟んで、二つの町並みに別れる。片方は新都と呼ばれ、大規模な開発によって発展した正に都市というべき街。
 そしてもう片方は昔ながらの風景を多く残した深山町。イリヤ達は当初、新都の方から深山町へと移っていた。バスで移動し、住宅街の方へと向かう。その道中、イリヤは先頭を行くカナデに問いかけた。


「…ねぇ、カナデ。どうしてこっちに来たの?」
「え? 勘」
「…………」
「いや、ほら、冗談。っていうか、ほらあれだよ。住むならやっぱり郊外とか、もしくは曰く付きの洋館とか、魔術師ってやっぱりそこに住むじゃん? だから住宅街があるこっちで探した方が見つかりやすいかなぁ、と」
「…ふぅ、まぁ別に見つかるならそれで良いけどね…」


 最早呆れて言葉も出ない、と言わんばかりにイリヤは首を振った。それにセラが腹に手を添えて苦悶の顔を浮かべている。近くに電柱に手を突いて震えるそのセラの肩をぽんぽん、と叩くリズ。
 さて、どうしたものか、と言わんばかりに腕を組むカナデ。暫し呆れた表情のイリヤと、胃痛を堪えるセラと、そんなセラをなだめているリズ、考え込むカナデの四人がたむろする形となり…。


「…まぁ、ここを通りかかった人に聞くのが一番だと思うんだけどねぇ」
「…あのね、魔術師がそうそうに自分の家を認識させる訳ないでしょ…」
「そんなの聞いてみないとわからないじゃん。表の顔ってのも在るんだし…あ、ちょっとすいませーん!」


 イリヤが呆れた顔のまま、ジト目でカナデを見て言う。そんなイリヤに対してむっ、と子供がするように唇を尖らせてカナデは言う。そして近くに通りかかった通行人を見つけてカナデはその通行人に駆け寄っていく。
 まったく、と言わんばかりにイリヤは額に手を当ててため息を吐いている。あの自由奔放なサーヴァントは本当にどうにかならないものなのか、と。己の使った令呪は確かにその効能を発揮しているが、曖昧な命令の為にその効力も拡散化して効き目が悪い。
 その為、カナデは結果、なんだかんだで自由奔放に振る舞っている。それでも控えるようには見えた、とイリヤは思う。思うといったら思う。そうでなければ報われない、と。また深くため息を吐く。


「イリヤー! イリヤー!!」
「…っ、この、馬鹿っ!? 今度は何よっ!?」
「見つけたよ、衛宮さん」
「嘘ぉっ!?」





 * * *





 住宅街が並ぶ坂道を登っていくのは五人。だが積極的に会話をしているのはカナデと、そのカナデの隣で学生鞄を手に持った少年だった。髪は赤銅色で日本人としては珍しい。背は低い方で、童顔の為か幼く見える。
 


「へぇ、じゃあ、親父を訪ねて来たんですか」
「えぇ、そうなの。君のお父さん、外国にしょっちゅう出回ったりとかしてたでしょ?」
「そうですね、家を空ける事が多くて…。カナデさんはその時に?」
「えぇ。それでイリヤの家に預けて貰って、今回はそのお礼を衛宮さんに、と思ってね」


 衛宮。それはイリヤが探し求めていた切嗣の姓だ。その姓と同じ姓を持ち、更に切嗣を自らの父と呼ぶ少年。衛宮 士郎。これが彼の名前だ。偶然カナデが声をかけたのが、その探し人の家族だと言うのはどんな皮肉か。
 カナデと士郎が談笑している一歩離れた所をイリヤは歩く。その瞳は一心に士郎を見ている。イリヤの胸中には荒れ狂いそうな思いだけが募っていた。衛宮 士郎。それは、あの男の家族だと言う少年。
 私は置いていったのに、何故、血の繋がりもないというこの少年を家族として迎え、共に暮らしていたのか。心に過ぎるのは、やはり許せない、という感情だけで。口を開けば何を言ってしまうかわからず、ただイリヤは沈黙している。
 そんなイリヤを察したのか、セラとリズも先ほどから沈黙している。それを士郎がやや気にした様子ではあったが、カナデがすぐに話を振ってくるのでそちらに対応してイリヤ達にまで気が回らない状態だ。


「お礼ですか。親父も喜ぶと思います」
「ところで、切嗣さんはご息災で?」
「……」


 不意に、カナデの振った話題に士郎が初めて口を閉じた。まるで言い難い、と言うように唇を動かしはするものの、肝心の言葉が出ない。そうして―――。


「…親父は…数年前に亡くなりました」
「―――え?」


 ―――何か、聞いてはいけない事実を、耳にしてしまったと。
 ただ、ただその言葉の意味を探っていた。けれど答えは出ない。理解が出来ない。…いいや、違う。ただ、自分は理解したくないだけなのだ。


『……じゃあ、父さんも約束する。イリヤのことを待たせたりしない。父さんは必ず、すぐに帰ってくる』


 そんな、愛しくて、憎らしい、彼の言葉が脳裏に過ぎる。その彼が、愛して、焦がれて、憎んで、求めていた彼が―――もう、とっくの昔に死んでいるだなんて。





 * * *





 鼻を突く香りは嗅いだことのない香り。線香、と言うらしい。それにカナデが火をつける。それをさした先には故人の遺影が飾られている。黒い箱に飾られ、その中央に飾られている写真をイリヤは凝視し続ける。
 ちーん、と甲高い音が鳴った。何事かと思えばカナデが何かを握って、何かを鳴らしている。何故だか、この空気にその音はとても似合っているようにも聞こえて、でも、だからどうだというのだ、というように心は動かない。


「…お嬢様」


 セラはイリヤの名を呼ぶ。ここにいるのはカナデとイリヤ、そしてセラとリズの四人。カナデの提案によって士郎はここにはいない。切嗣の遺影のある部屋まで案内はしてもらったが、そこからは故人を偲ばせて欲しい、と頼み、士郎もまたそれに頷き、今はこの場にはいない。
 ただ、沈黙だけが場を過ぎる。イリヤはただ切嗣の遺影を見るだけだし、そんなイリヤを痛ましそうに見守るセラ。どこか遠くを見つめるように黙るリズ。そしてそんな三人に目もくれず、切継の遺品をあさっているカナデ。
 ただ、ただ沈黙の時間だけが過ぎていく中、カナデが何かを見つけたかのように、ぁ、と小さく声を漏らした。それに意識を向けたのはセラとリズだ。イリヤは身動きすらしない。


「…これ、パスポート。偽造パスポートって奴、か。…にしても、行き先がドイツぐらいってのは、勘ぐっても良いのかな?」


 ぽい、と放るようにイリヤの前にパスポートを投げるカナデ。それに吊られてイリヤはパスポートに手を伸ばす。そこには確かに、ほぼ一箇所にしか向かっていない事を示す記録が残っていた。
 その箇所とは―――ドイツ。そこしか無い。それが意味する事は…。


「…なによ、それ…」


 ぽつりと。


「…なん、なのよ…!」


 震えた声で。


「今更、こんなの知ったって!」


 血を吐くようにイリヤは叫んだ。胸を掻き抱くように身を縮めてイリヤは声を押し殺す。そうじゃないと、全てを吐き出してしまうような気がする。そうしてしまえば自分は空っぽになってしまうと。
 今更、今更真実を知ってどうなるというのだ。この身は既にアインツベルンと袂を別った。恐らく、自分がこの真実を知らないように細工をしただろう当主ももういない。復讐など果たせない。
 そもそも、復讐の為に生きてきた。それが死んでいて、尚かつ、それがただの誤解だった? ただ何も知らなかっただけ? だから間違いだ。だったら―――じゃあ、結局どうすれば良いのか。


「何も、残ってないじゃない…! 恨みを捨てたら…私に、何が残ってるって言うのよっ!!」


 ただ、恨んで生きてきた。それしか知らず、それしか与えられず、与えられたものには既に価値はなく、ならば、この身には一体何が残るというのか。何も残されぬ身にはもう道など見えない。
 だから、どうしようもなく虚しく、どうしようもなく悔しく、どうしようもなく、ただ、もうどうしようもない感情だけが巡って行く。もう何も考えたくない、ただこのまま、もう眠ってしまいたい――。


「イリヤが残るよ」
「……ぇ?」
「…詳しい事情はもうわからない。けれど断片的に得られるものから判断するなら、切嗣って人は、イリヤが復讐すべき人じゃなかった、って事なんじゃないかな? なら、それを素直に浮け止めれば良いんじゃないかな」
「…素直に、って、何を…」
「…イリヤ。泣きたいなら、泣けば良いと思うよ?」


 それが、本当に何を言っているのかさっぱりで。


「どんなに恨んでも、いや、恨むからこそ、それはイリヤにとって大きな存在でしょ? でも、本当の真実は切嗣って人はイリヤを思ってたと思う。きっと。そんな人を恨むのは辛いけれど、でも、辛いと思うぐらい、裏切られて辛かった」


 本当に、的外れな事を言っている。恨みは恨みで、それ以上でもない。それ以下もないだろう。


「…だから、裏切られてない、って思って喜ぶのも良いだろうし、それでも果たせなかったんだから恨むのも、それを労うのも、それはイリヤしか得られないものでしょ? なら――きっと、それは素直に感じて良い事だと思う。イリヤなら尚更、それを素直に受け止めて欲しいと私は思う」


 そう、思っている筈なのに。あぁ、どうして、どうしてこんなにも。


「…ひ…、っ…ぁ…」


 止まらない。止まらない。ぽたり、ぽたり落ちていく涙の滴は床を塗らしていく。憎いと思っていた。裏切られたと思っていた。だから苦しませて殺してやろうと思っていた。私を裏切った報いなのだから当然だろうと思っていた。
 だけど、それはただ知らなかったからの話で、切嗣は既に死んでいて、でも、それでも私を迎えに来ようとしていたのかもしれなくて、でも、結局切嗣は裏切った。…きっと、裏切るつもりは無かったんだと思う。…だとしたら…。


「キリツグ…」


 何があったのだろう、10年前、この地で、この地で起きた戦いで、確かに交わしていった約束を裏切る程の事が起きたのはもう明白で。きっと何かあった。だから、聖杯はアインツベルンの下には渡らず、切嗣の手によって聖杯は破壊された。
 そして自分との約束は果たす事は敵わず、ただ自分は切嗣を恨み続けて生きてきた。何度もあの冬の城を訪れていたかも知れない、なんて事も知らずに。ただ捨てた。ただ裏切られた、と教えられて。


「…キリ、ツグ…」


 ――あのね、こわいユメを見たの。イリヤがサカヅキになったうユメを。

 不意に脳裏を駆けめぐるのは、幼い、幼い記憶。

 ――イリヤの中にね、ものすごく大きなカタマリが七つも入ってくるの。イリヤは破裂しそうになって、とっても怖いんだけど、逃げられなくて、そのうちユスティーツァさまの声が聞こえてね、頭の上に真っ黒い大きな穴が開いて…。

 アインツベルンの女、聖杯として生まれたイリヤ。イリヤはその同型のホムンクルスである母親と、その元たるユスティーツァの記録、そしてそれに連なる系譜の者たちの記憶を己の中に継承している。
 帰りのない両親、冷たいベッド、だけど母親の声は聞こえている。だから寂しくないと、その矛盾を知らずにただただ指折り数えて待っていた。その時に見た夢を思い出す。

 ―――それで、世界が燃えちゃうの。切嗣がそれを眺めて…!


「…泣いて、たんだ…」


 ひとりぼっちで、燃える世界を見つめて、ただ呆然と立ち尽くして涙を流す切嗣。きっとこの世界を燃やしてしまったのは彼で、だからこそ彼はそれを悔いていたんじゃないか、って。
 どうして忘れていたんだろう。どうして思い出さなかったんだろう。どうして信じてやる事が出来なかったんだろう。父親なのに、たった一人のお父さんだったのに。ただ寂しくて、悲しくなるぐらい、寂しくて。あの冷たい雪の城は本当に冷たくて…。


「…わかんないよ、キリツグ…! わかんないよぉっ!! どうして置いてったの!? どうして、どうして死んじゃってるのよぉ、馬鹿ぁっ!! 一人にしないって、嘘つき!! 嘘つきぃっ!!」


 きっとそれだけ辛い事があったんだろうと、何となくわかってしまった。だからこそ、ならば自分の苦しみはどこに行くのか、とイリヤは嘆く。切嗣も辛かったのならば、ならばどうして彼も、自分も苦しまなければならなかったのか。
 違う、こんな結末を望んだ訳じゃない。ただ夢見たのは、あの穏やかな時間だけで。あの冬の森、父と共に競い合ったクルミの芽探し。もう寂しい思いはしないようにと交わされた約束。…果たされなかった約束。


「キリツグ…キリツグ…!」


 ただ、言葉にならなくて。イリヤは遺影にしかもうその姿を残さない父の名を呼び続ける。
 憎くて、でも愛しくて、だから許せなくて、でも知ってしまったから、わかってしまったから、思ってしまったからもうあの頃には戻れない。知れば知る程、世界は広がって足は竦む。何を選べば良い、何を願えば良い。
 自分は一体何が欲しかったのか、と問えば、返ってくるのはただ一つの答え…。


「…キリツグの…馬鹿ぁ…」


 穏やかな日はもう二度と帰らない。そんな事実。わかりきっていて、でも、自分で手放した訳ではなく、他者によって既にもう奪われていた事実。彼はもういない。もうその声も、その姿も見る事は叶わない。
 だから泣いた。それが悔しくて、虚しくて、悲しくて。だからいっぱい泣こう。この涙が枯れ尽くしても構わない。ここで全てを置いていこう。彼に対する憎しみも、愛しさも、何もかも。
 もう、それは届く事はないけれど、それでも、この心の置き場はもう、自分にはないのだから。ただ蹲るようにして泣き続けるイリヤにセラは傍にいて、その体を支える。その逆側に回ったリズも、また。


「……泣けば良い。きっと、泣いた分だけの思いは絶対になくならない。形は変わるけど、明日の力になるから。そうしたら、何かが変わっていける。泣くだけでも、恨むだけでもない、そんな明日が」


 そんな声が耳を震わせた。正面に立ったカナデの瞳はただ静かだ。ただ労るようにイリヤを見つめている。
 抱えきれない思いが爆発する。ただ喚くように泣いて、喉を潰すばかりの勢いで叫んだ。欲しかった時間も、望みもそれは遠い過去の彼方。残されたのは何の意義の無い自分。
 そんな冷たい現実に、もう膝を屈する事しか出来ない。未来が見えないならば、明日へと歩む気力もない。…しかし、ここで流した涙が明日を見せるというのならば。
 今は、ただ泣こう。あの懐かしくも暖かい、忌々しくも愛おしい彼との日々の記憶を探って。思いを募らせて、ただ、今だけは……――。




 
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