次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■鏡月の調べ 第1章 01
2010/11/03 Wed朧月の契り
 ――それは、何事もなく平穏な日常。




 
 
 * * *





 燃えさかる焔は何もかも飲み込んで行く。砕けた建物も、朽ちた屍も。何も残さず、残したとしても灰だけだ。
 風に散れば消えていく灰が何の意味がある。あぁ、この地は無価値へと変わっていく。この光景に何の意味も与えられない。
 そんな中で、ただ一人でいる。その地獄というべき場所で。誰も助けられる事もなく、誰を助ける事も出来ず、ただ、そこにいて。
 何も出来ない、何も為せない。ならば、せめてこの身に刻もう。この魂に刻もう。この無価値を、決して無価値にしないために―――。





 * * *





 朝6時。マンションのある部屋の一つ。そこには「月宮」と表札がかけられている。この家に暮らす兄妹の朝は早い。この時点では二人とも、もう目を覚ましていて、今は朝食の準備をしている所だ。


「兄さん、こっちの材料は良いよ」
「わかった。あぁ、奏。なら味噌汁の味を確かめてくれ」
「はーい」


 兄妹、と言っても似つかない上に年の離れている二人だ。その光景は親子、と言い換えても可笑しくはない。
 長身の部類に入るだろう背丈に、色黒の肌に白髪。日本人と言っても信じられるか微妙な容姿をしているのが月宮 士郎。
 茶色の僅かに波がかった髪を腰まで伸ばし、今はそれを一本にして結んでいる少女が月宮 奏。
 二人とも、エプロンをし、キッチンに立って調理をしている。奏の手つきは小学生ながら、手慣れている。だがそれよりもやはり目を引くとすれば士郎だろう。
 その手つき、正に熟練の技。手早く次の料理を仕上げていく様は感嘆の一息だ。実際、味噌汁の味を確かめながら兄の姿を見ている奏はただ関心する事しか出来ない。
 あれこそ目指す高みだ、と奏は認識を新たにしつつも味噌汁の味を確認する。いつもの兄の作る味噌汁の味。思わずほぅ、と安らいだ一息。この味が好きだ、と。インスタントでは出せない味だ、と。


「うん、いつも通りだよ。兄さん。おいしい」
「そうか。あぁ、弁当につめてしまっても良いぞ。――肉ばかり取るなよ?」
「と、取らないよ。ちゃんと野菜も食べろ、でしょ? わかってますよーだ」
「ふっ…なら良いさ」


 そう言って士郎は奏の頭を撫でた。それに奏は軽く頬を膨らませるが、その頬は軽く赤くなっている。照れているのが目に見えてわかるものだから、士郎も忍び笑いが隠せない。
 これが月宮兄妹の一日の始まり。何でもない一日の始まりである。





 * * *





「行ってきまーす!」
「あぁ、車に気をつけてな」


 マンションの入り口で士郎に見送られながら奏は駆け出す。背にはランドセル、身に纏うのは学校の制服。時間は余裕、携帯電話で時刻を確認すればポケットに携帯をしまって歩き出す。
 時刻は7時を過ぎて少し経った所。これならば余裕で学校に間に合う。のんびりと学校までの道を歩いていく。そうしていればちらほらと同じく学校に通う生徒の姿が見えてくる。
 その姿を確認しながらも奏は学校への道をただ歩いていく。まだ慣れない登校路。ここに引っ越してきたばかり。だからこの街の事も、人の事も何一つ知らない。


「…為せばなる。なるようになれば良いけどなぁ…」


 そんな事をぼやきながらも、足を止めずに彼女は歩いていくのであった。





 * * *





「お、おはよー。転校生その2」


 教室に入れば、クラスメイトの一人が声をかけてきた。まだ昨日の話。流石に名前はまだ覚えて貰って無くてもまだ仕様がない、と思わず苦笑。だが、少し気になったことがあり、奏は何度か瞬きをして。


「その2、って私以外にも転校生が来たの?」
「うん? あれ、知らなかったの?」
「…うん」


 その言葉に奏は、結構、急な話だったからなぁ、と思い出す。それで兄とちょっとした喧嘩もあっったりした訳だが、奏は兄の事情は理解している。それが楽になってくれるなら嬉しいし、何より兄さんがそばに居てくれる時間が増える方が嬉しい、と。
 友達だって、会えない訳じゃない。携帯なんて便利なものもある。連絡は取れない訳じゃないから、寂しいし、辛いけれどそこまでじゃない。兄さんがいてくれるなら。…ブラコン、ってのは自他共に認めてるけど、ここまでとはなぁ、とため息。


「…えーと、月宮ちゃん?」
「え? あぁ、ごめん。あと、奏で良いよ。別に」


 いつの間にかまた別の子がいて、私に心配そうに声をかけてきた。それに軽く手を振って返す。後は名前の訂正。名字で呼ばれるのは何故かしらしっくり来ない。理由はわからないけれど。


「じゃあ、私もミミで良いよ」
「私も龍子でいいよー」
「なら私も雀花で」
「私も那奈亀で良いよー」


 いつの間にか囲まれている事に奏は気づいた。正面に二人、背後に二人。いつの間に、と冷や汗を掻くも、まぁ、さして気にする事もないか、と汗を拭いつつも。


「あー、えと、うん、よろしく」
「よろしく。で、転校生の話なんだけど。奏ちゃんが来るちょっと前に転校してきてね。…ほら、あそこの銀髪の子の後ろの黒髪の子」
「銀髪の子の…後ろの…黒髪の子?」


 示されるままに視線を向けた方向。そこには銀髪の子と黒髪の子が何やら話しているのが見えた。


「おーい、イリヤー、美遊」
「え? 何?」
「……」
「お前等も二人でキャッキャうふふしてないでこっちで転校生とお話しようぜー」
「なっ!? そんな事してないって!!」


 イリヤ、と呼ばれた銀髪の子が顔を真っ赤にして否定をする。その必死さ加減に思わず後ろに一歩引く勢いだ。あれ? それにどうして黒髪の子は少し項垂れているんだろう? …それにキャッキャッうふふって何だろ…?


「はい、これがウチのクラスの名物カップル、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと美優・エーデルフェルトの二人だよ」
「か、カップルとか違うから!! 何そんな出任せ言ってるのさーっ!! 転校生に変な事吹き込まないでよーっ!!」


 がおーっ! と効果音が似合うように叫ぶ銀髪の子、イリヤ。それに合わせて益々暗くなっていく黒髪の子、美優。なんだか、おもしろい二人だなー、と思いながらからかわれている様子を見て思うのだった。…え? 助けないのって? ………えと、ごめんね?





 * * *





 月宮奏の趣味と特技は家事全般だ。だが、それとは別にして日課としている事がある。
 それは体を鍛える事。鍛える、と行ってもランニングをして、筋トレをするぐらいだ。スポーツをやっている子なら誰でもやっているような事をやっているだけ。ただ部活も何も私はやってはいない。
 やるだけのお金もないし、誰かと競い合うのは基本的に苦手だ。負けるのは良い。だけど勝ってしまうのは嫌だ。負けてしまった相手の事を考えてしまう。負けて悔しいだろうな、と思うと、勝つ事に喜びを見出せない。
 甘い、と兄さんには良く言われる。そしてそれは決して優しさじゃない、と。自分でもわかっている。勝負なら、勝ち負けがあって当然のこと。そこに生まれる感情を否定するという事は、勝負をする資格もない。
 勝負そのものを侮辱している。私はだからスポーツはやらない。けれど何故体を鍛えるのか。理由は、あるようでない。理由としてあげるなら、少しでも護身術を鍛えておけば少し夜遅くまで出歩いても大丈夫かな、という話。
 兄が仕事で家にいない事が多かったから、自然と買い物とか自分でする事もある。だからそのときに何かが起こっても良いように、と始めたのが切欠。でも部活には入りたくないから独学だったりする。
 …中途半端だけど、理由がある。けれど…それだけじゃないような気がする。その理由は上手く説明出来ないけれど、止める事は私が嫌がっているような気がするのだ。本当に、上手く言えないのだけれど。


「はっ…はっ…はっ…」


 規則正しく呼吸を吐き出し、坂道を登る。初めて走る道だからペースは緩めて街の景観を見ながら走っていく。初めて走る道とはいえど、ずっと走り続けてきた経験からこれはさして苦な事ではない。
 そのまま走っていくと、不意に奏は足を止めた。そこには大きな屋敷があった。周りには何の変哲もない民家があるのに、それだけが異様に目立つ豪邸がそこにはあったのだ。それを奏は見上げる。


「…兄さん、こんな所で働いているんだ」


 そう。何故奏がここで足を止めたのか。それは奏の兄である月宮士郎がここで働く事になったからだ。仕事の内容は、使用人、簡単に言えば料理や掃除、洗濯をするだけ、というが、お金持ちの人のの食事を作ったり、これだけ大きな屋敷を掃除するだなんて正直考えられない。
 どれだけその屋敷を見つめていただろうか。その声は不意に奏の背後から聞こえて来た。


「…あの? …月宮さん?」
「…イリヤスフィールさん?」


 声をかけてきたのは、今日、学校で知り合ったクラスメイトだ。お互いにちょっと戸惑いながらも名前を呼んで顔を見合わせる。イリヤの格好は私服姿のものだ。対して奏の服装は運動用のジャージ。なんとなく二人の間に気まずい空気が流れて。


「えと…何、してるの?」
「…ランニング。イリヤスフィールさんは?」
「あ、イリヤで良いよ。私は、家がそこだから。ふと窓覗いたら月宮さんが居て…」
「…イリヤ、私も奏で良い。そっか、イリヤの家ってここなんだ」


 それは豪邸とは真向かいにあるごく普通の民家。ふぅん、と相づちを打ちながらイリヤの家を眺める奏。


「あの、奏はどうしてここで足を止めたの? …あの豪邸見てたみたいだけど」
「ん? 兄さんが今日からあそこで働くらしいから、ちょっとランニングがてら様子見してただけ」
「…えぇっ!? 奏のお兄さんが!?」
「? うん」
「…えー、じゃあ美遊と一緒に働いてるの?」
「美遊? 働く?」


 美遊、と言えば転校生その1こと、美遊・エーデルフェルトの事だろう、と奏は推測を付けるが、それと働くという言葉が繋がらない。どういう意味なのか、と首を傾げていると、イリヤが、あぁ、と相づちを打って。


「美遊の家、そこなんだよね。で、美遊はメイドをやってるの」
「………人の縁って、奇妙なものだね」


 まさか関わり合いの無い、そして関わる事も無さそうなあの美遊とそんな繋がりがあるとは思わず、奏はイリヤに説明にしばらく口を開けて呆然した上でそう反応を返した。その言葉にイリヤは確かに、なんて苦笑で返して。


「それにしても、ルヴィアさんの所で働くって…何してる人なの?」
「使用人、って言ってたけど…まぁ、兄さんの家事レベルはそれこそ「ブラウニー」って奴らしいから、転職って言えば転職なんじゃない?」
「え? そんなに凄いの?」
「んー、普通に料理屋とかやっててもおかしくないよ? 正直、家族贔屓な所もあるけどさ」
「うわぁ、そこまで言えちゃうって…そんなに凄いんだねぇ」


 しきりに関心したようにイリヤは奏の言葉に頷く。それに奏は、ふと、何かを思いついたように。


「…ねぇ、中には美遊さんいるんだよね?」
「え? うん。美遊の家でもあるし…」
「じゃあ、行ってみようか? 兄さんいるかもしれないし。…邪魔にならなければ、だけど」
「うーん、どうだろ?」
「…まぁ、いいや。当たって砕けよう」
「え? 決断早!? って、わ、本気で行っちゃうの!?」


 まぁ、元々興味はあったしね、と奏は屋敷のインターホンを押した。そうすると聞こえてきたのは老人の声であった。


『はい、どちら様でしょうか?』
「すいません。私は月宮 奏と言います。美遊さんはいますか?」
『…月宮? …あぁ、まさか士郎君の妹さんの?』
「はい。士郎は私の兄です」
『それはそれは…。ようこそ、エーデルフェルト邸へ。美遊さんもすぐにそちらに行かせましょう。どうぞ屋敷にあがってください』
「ありがとうございます。…兄さんはちゃんと仕事してますか?」
『えぇ。それはもう、非の打ち所がありませんよ』


 そんな会話をしている内に自然と門が開いていった。それをイリヤと共に奏は、おぉ、と声を上げながら見つめる。すると、屋敷の入り口の扉が開いて、そこから美遊が出てきた。――メイド服の。


「…本当にメイドだ…」
「…月宮さん。…そう、貴方が月宮さんの妹だったの」
「わかりにくいから、私は奏で良いよ。美遊さん。…ウチの兄は迷惑かけてませんか?」
「迷惑なんて…むしろ、こっちの仕事がなくなる勢いで…」
「え? 奏のお兄さんってそんなに凄いの?」


「――…やれやれ、縁とは本当に不思議なものだな。奏、立ち話をするのも何だ。さっさと屋敷に入らないか?」


 奏が美遊に話しかけ、美遊がそれに応え、イリヤがそれに混じる。その会話に割り込みをかけたのは男性の声。身に纏ったのは執事服。異様なまでに着こなしているその姿は確かに完全なるブラウニー。
 初見のイリヤは思わず吃驚。奏はその姿を見て、うんうん、と頷いて笑みを浮かべる。そして奏はその男性、自らの兄である月宮 士郎に微笑みかけて。


「似合ってるよ。兄さん。やっぱり天職なんじゃない?」
「ふむ。まぁ、悪くはないがね。…さて、いくら春とはいえ、外で長々と話をするのには適さんだろう。紅茶ぐらいは煎れてやるから入りなさい」
「はーい。行こう? イリヤ、美遊さん」
「…あ、ちょ、待って、奏ー!」
「……」


 からかうように言う奏に微笑を浮かべて返答を返した士郎は中へと入るように促す。それに真っ先に屋敷の中に入ったのは奏で、それに後を追うようにイリヤが入り、最後に美遊が後ろについて屋敷の中へと彼女たちは入っていくのであった。






 
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