次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■朧月の契り 第2章 02
2010/11/03 Wed朧月の契り
 夢だ。
 これは夢だ。だが私のではない。これは記憶。これは世界に残された、彼女が彼女たる由縁。縁によって繋がれた私に流れ込んできた彼女の記憶。
 彼女はこの時、まだ少女と言うべき年頃だった。くすんだ白髪は未だ色を保ち、色を失った肌はまだ黄色の肌を残していた。だが変わらないのは瞳の輝き。何かに憧れ、何かを求め続ける追求者。
 彼女は鉄を打つ。それは本来少女には持ち得ない、けれど少女が何よりも望んだもの。鉄を打ち、鍛え、剣を鍛えて行く。
 錬鉄の音が鳴る。一度、二度、三度、そして数える事も億劫になる程、少女は剣を鍛え続けた。 
 それは現実には鳴らぬ幻想の音。それを打ち続けた。その時間は一瞬にして永遠、そしてそれは終わりが来ない。それに定められた終わりは死か、あるいは…。


 ――…あぁ、この身は、やはりこの地獄を忘れられない…。


 そして、彼女は絶望の地に、自らの原初の地へと降り立ち、ただ、空を仰いだ。その頬に零れたのは空より振る滴か、それとも―――。





 * * *





 目を覚ませば、そこはいつもの天井。暖炉によって暖められた部屋は快適な温度。それはいつもの目覚め。イリヤは目を擦りながらいつもの始まりを受け入れる。薄く開いた瞳をゆっくりと開き、瞬きを何度か。


「…夢…」


 夢を見ていた。それはまだ霞んで、曖昧なイメージしか浮かんでこない。ただ明確に覚えているのは鉄を打つ音。そういえば、彼女の宝具は無限の剣を生み出すものだと言っていたか。それと何か関係しているのかな、と思いながらイリヤは身を起こす。
 身を起こして辺りを見渡してみればバーサーカーの姿は無い。どこに行ったのだろう、と思う。思い出せば昨日の軽い調子のバーサーカーの姿が過ぎり、そして最後に透明な笑みが浮かぶ。


「…変な奴、召還しちゃったなぁ」


 それが正直な感想。バーサーカーであるのに、理性を保ち、魔術師であるのに、根源を求めず、在るべき筈の形に収まらない異端者。とにかく変な奴、という印象に落ち着いてしまう。
 さて、とイリヤは思う。自らの祖父に託された、この身、この血に受け継がれた悲願。聖杯を手にするという願い。…ある意味、それは果たされてしまっている。冬木市、という日本の島国に降霊されるものとは違うものではあるが。
 聖杯の入手。そしてそれによって根源へと至る事が彼女の、いいや、アインツベルンの目的だ。ならば―――それを祖父に話してしまえば…?


「――駄目。そんなの、駄目」


 駄目だ、と心が叫ぶ。そうだ。駄目だ。彼女が聖杯と接続している事を知ってしまえば祖父は聖杯戦争などに興味を示さなくなる。そうすれば冬木に行けない。そうすれば望みは叶えられない。そう、私には望みがある。■■を殺すという望みが。
 絶対に許さない、絶対に許すことなど出来ない。それ以外ならどうなったって構わない。聖杯? 望むならくれてやろう。この身にはその為に。だけど、それも私の望みが叶ってからだ。だから―――バレてはいけない。
 すると、扉がノックされる音が響いた。それにイリヤは扉の方へと顔を向け、入って良いわよ、と声をかけた。そうすればそこには白い衣装を纏った見慣れた顔が見えた。


「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、セラ」


 セラ、そう呼んだのはイリヤの付き人。有り体に言えばメイドだ。彼女は扉の前で一礼をし、朝の挨拶を済ませる。イリヤもそれに何事もなく返す。いつもの事だ、ならばいつものように返せば良い。


「お召し物を取り替えますので、お布団から出ていただいてもよろしいですか?」


 イリヤは頷き、ベッドから降りた。そうすればセラが失礼します、と一声をかけてからイリヤの着替えをさせていく。セラの為すがままに任せていたイリヤはセラに、ねぇ、と声をかけて。


「ねぇ、セラ。私の召還したサーヴァントはどこ? ここにはいないみたいだけど」
「私は見ておりません。探してきましょうか?」
「――その必要は無いわよ。今、戻ってきたから」


 不意に、突然現れたのは赤い外套を纏った女。バーサーカーだ。その姿にイリヤは驚く事はない。こちらに近づいてくる気配は感じていたからだ。バーサーカーの登場にセラは一瞬、動きを止めたものの、すぐにイリヤの着替えを済ませていく。
 そしてイリヤの着替えが終わる。そうすればイリヤはセラへと視線を向けて。


「セラ、ちょっと部屋を出て。私、こいつと話があるから」
「…畏まりました。それとお嬢様。朝食が済めばアハト翁が自室に来るように、と」
「…そう、わかったわ。朝食はこいつと話が終わったら行くから用意しておいて」
「あ、イリヤ。私も食べたいんだけど、良いかしら?」


 不意に会話に混じってきたバーサーカーにイリヤは心底呆れたように声を上げた。サーヴァントは幽体で、その体は魔力で構成された人の形をしただけの別種だ。故に食事など必要がない。そもそも食欲というものが存在しないのだから。
 故に食事という行為に意味が無い訳なのだが、何故それを要求してくるのか? とイリヤは疑問を覚える。


「…貴方、サーヴァントでしょ? なら食事なんて…」
「食事は食欲を満たす為だけじゃないでしょ? 良いじゃない。趣向品くらい。駄目?」
「……好きにしなさい。セラ、こいつの分もよろしく」


 本当に読めない、と思いながらもイリヤはセラへと指示を下す。それにセラは特に何を言う訳でもなく、畏まりました、と一言を告げて部屋を退室する。残るのはイリヤとバーサーカーの二人。


「…バーサーカー、ちょっと話があるわ」
「何かな?」
「貴方が根源へと至れる、という事を誰にも話さないで」


 イリヤから告げられた事にバーサーカーは何度か瞬きをする。それにふっ、と力を抜いた笑みを浮かべて。


「…良いよ? 誰にも話すつもりもないし、話しても意味がないしね? それに今の私じゃ情報の送受信ぐらいしか出来ないんだから、ムーンセルから情報を下ろすって事も出来ないし」
「…そ、そうなの?」
「だって私の聖杯は私しかアクセス出来ないもの」
「……なぁんだ、心配して損した……」


 イリヤは思いっきり脱力して項垂れた。自分の懸念はしなくても良い無駄骨だと知るとやはり力が抜けるものだ。それを見ていたバーサーカーはくすくす、と笑い声を零して。


「まぁ、魔術師としては欲して止まないものだったっけ? 知られるとやっぱり不味いの?」
「…知られたくないのよ。私は、どうしても聖杯戦争に参加しなきゃいけないんだから。…あ、なら、貴方がバーサーカーだって言うのもばらしちゃ駄目よね? だっておかしいもの。どうしよう…」
「…そんなに隠したいの?」
「私はどうしても聖杯戦争に参加しなきゃいけないの。――どうしても、やりたい事があるの」


 そうだ。殺してやるんだ。自分を裏切った切嗣を。その為にこのバーサーカーの力は必要だ。そう、彼女の固有結界ならば切嗣でさえも―――そこで不意に、イリヤは動きを止めた。
 宝具といえば、先日宝具と共に聞いたと彼女の真名は……その時、彼女はなんと名乗った? そうだ、宝具を持っていない、という事に驚いて、その名の重要性を私は聞き逃していた。
 そして私が触媒にした筈の触媒は意味を成さず、そして召還したのは彼女で、ならば、その触媒の他に触媒たるものがあったなら? そう、可能性は無くはない。何故ならば彼女の真名は…あの男と同じではないか――!!


「…バーサーカー、貴方に、問うわ?」
「何?」
「――貴方、衛宮 切嗣の縁者なの?」


 問う声には冷たさしか無かった。こいつはそうなのか? あの人の、あの男の、あの、憎たらしい、私を、見捨てた―――。


「――いいや、知らないけど? 誰、それ?」


 ――力が抜けた。…偶然の一致、という奴なのだろうか。一気に脱力した体は全力で項垂れる。全力で項垂れる、というのも変だが、実際にはそんな感じだ。このまま倒れ込んでしまいたい。何もしたくない。このまま眠ってしまいたい。


「おーい、イリヤ。食事が冷めちゃうからそろそろ行かない?」
「…っ…あ、アンタって奴は―――ッ!!」
「うわぁ!? な、何? いきなり何!? 私なんかした!?」
「もう、アンタという存在自体が気にくわない!! 何であんたみたいなのが私のサーヴァンとなのよーっ!! 詐欺だわ、詐欺!!」
「えー、そんなのだから私に言われたって…」
「むきーっ!! あーもう、苛々するーっ!!」


 そのままイリヤは脱力していた体に力をこめてバーサーカーへと襲いかかった。その髪を引っ掴んで力の限り引っ張ってやる。そうするとバーサーカーらしかぬ悲鳴が上がるが、イリヤは力を緩める事はしない。
 あぁ、こいつを召還してから散々だ、とイリヤは鬱憤を晴らすかの如く、バーサーカーの髪を引っ張り続けるのであった。





 * * *





「う、うぅ…髪の毛は女の命なのに…イリヤ、酷い」
「うっさい馬鹿! 全部アナタが悪いんでしょうが!」


 食事の最中、恨みがましくイリヤを見つめるバーサーカーにイリヤは苛々とした様子で返す。先ほどのやり取りの最中、セラが呼びに来てイリヤが渋々と中断。そして食事となっている訳だが、こうも苛々していては食事の味もわからない。
 早々に食事を終わらせてイリヤは食後の紅茶で気を静めようとする。その間、おいしそうに食事を頬張るバーサーカーの姿に、やはり苛っ、とさせられる。何とか引きつりそうな頬を抑えながら紅茶を飲む。
 …しかし、と思う。バーサーカーの話を聞く限り、バーサーカーは恐らく未来の英雄だ。ある意味、それを召還した事は限りなく低い可能性だろう、とイリヤは推察する。事実、その通りだ。
 確かに英霊というのは英雄の座と呼ばれるこことは違う次元に区切られた場所に存在している本体から呼び出される複写体(コピー)だ。そこには過去も、現在も、そして未来さえもある。つまり呼び出す事そのものは可能なのだ。
 しかしそれは難しい。それは召還の呼び水となる「触媒」がわからないからだ。英雄には様々な逸話があり、それは由緒正しきものとして保管される事が常だ。故に狙った英雄を呼び出す事は可能だ。しかし未来の英霊はそれが出来ない。
 その英雄と縁のあるもので英霊を召還するというのが召還の基本だ。事実、イリヤはかの大英雄、ヘラクレスを呼び出す為に触媒としてギリシャの神殿の支柱となっていた斧剣を使ったのだ。
 なのに、呼び出されたのはヘラクレスではなく、得体の知れない未来の英霊だと思われる存在。彼女が呼び出された、という事は結論は一つ。彼女は恐らく自分と何かしらの縁があるという事だろう。


「…ねぇ」
「何? イリヤ」
「…貴方の事、話してよ。貴方、未来の英霊なんでしょ? なら伝承も何も無いから、貴方の事なんて全然わからないんだから」
「…んー、それもそうだね。…といっても、語れるような人生を歩いてきた訳じゃないよ」


 食事の手を止め、バーサーカーはイリヤへと苦笑を向けた。それにイリヤはむー、と眉を寄せた。


「いーから話しなさい。これはマスターとしての命令よ」
「…ふぅ、じゃあ、話すけど…そうだね、何から話そうか」


 バーサーカーは、渋々、と言ったようにため息を吐き出した。―――そして、彼女の待とう空気が色を変えた。軽い感じが消え失せると、それは、そう、言い表すならば薄かった。透明、という表現が近い。
 ぞくり、とイリヤは背筋を振るわせた。軽い空気を消した彼女に残るのは透明。表情も儚い程までに感情の色が薄く見える。そこには何もない。それは何を意味するのか、彼女は理解が出来ない。


「…実を言うと、私、昔の記憶って無いんだよね」
「…記憶が、無い?」
「そう。病気でね。記憶が維持出来なかったらしいんだよね」


 とんとん、と頭をつつくようにしながらバーサーカーは告げる。


「…んで、冷凍睡眠、コールドスリープって言葉を知ってる?」
「…知らない。冷凍睡眠って…」
「まぁ、仮死状態に保存されてたんだ。その病気を治す為に、今は無理だから、未来にその治療法が出来たら起こされる、その手筈だった。…だから、覚えてないんだ。何も、ね。…でもね、私はある時、起こされて、ある人と生活を始めたんだ」
「ある人?」
「恩人だよ。唯一の親友であり、姉のような人だった。……その人は、私を護るために死んだ」


 死んだ、と。感情を感じさせない声でバーサーカーは告げた。冷え切っている訳でもない。ましてや感情を込めている訳でもない。ただ、淡々と、事実だけを彼女は告げている。


「…ちょっとややこしいんだけどね、その人はね、「私」じゃない私に、私の事を託されてたんだよね。で、「私」は私に記憶を写したんだ。それが私が狂化を抑えられる特性を身につけた経緯なんだけどね」
「…? 本当にややこしいわね? …ちょっと待って。じゃあ、貴方はいつ、聖杯を手にしたのよ?」
「私は手にしてないよ? 「私」が手にしたの。それで「私」と私が繋がったの」
「…いや、だからわからないわよ? どういう事なの?」
「簡単に言えば、私は二人いたの。で、その片方の「私」が聖杯を手に入れたんだけど、その「私」はどう足掻いても消えてしまうから、私と繋がって自分の願いを私に託したの」
「……だいたい、わかった。じゃあ、貴方を護って死んだ人って…」
「「私」と一緒に聖杯戦争を勝ち抜いた、って話だよ。…で、彼女が死んだ時に私はようやく「私」と同じになれた。そこでようやく記憶が完全に繋がったんだ。…そこからは、ただ、がむしゃらに自分の為に戦っただけ。んで、気づいたら英雄扱い、って訳」


 あぁ、正確には反英霊かな、なんて呟く彼女にはようやく感情が見え始めた。彼女を透明、と称したのを嫌という程、実感してしまった。この人は自分というものが本当に無かったのだろう、と。
 何もないから、だから透明になる。そこに色が無いから透明。経験がないから、真っ白というよりも、透明。それが――酷く、怖い。酷く、空しい。酷く、悲しい。そして…在る意味、羨ましい。でも決して憧れはしない。そんな矛盾じみた感想をイリヤは受けた。
 そして気になった。透明と感じた彼女が唯一、色を見せるのが彼女のために戦った、という最後の部分。そこには彼女の思いが込められているような気がして。


「…貴方は、何のために戦ったの?」


 その問いかけに、彼女は―――。


「…好きな人がいたんだ。その人に、胸を張れるように。その為に、戦ったよ」


 清々しいまでの笑みを浮かべた。その笑みに後悔は無い。透明な笑み。だけどそれは悲しいものじゃない。むしろ憧れるぐらいに透き通った綺麗な、真っ直ぐな思い。思わず、目を釘付けにされてしまうのであった。





 * * *





 食事の後、イリヤはバーサーカーの事を祖父であるアハト翁に紹介した。アハト翁は狙った筈のヘラクレスが召還されなかった事に眉を歪めていたが、バーサーカーは何も黙して語らず、狂戦士の振りをしていた。
 ただイリヤに忠実な僕。イリヤは内心、いつ見破られるのか溜まったものではない、と怯えながらも祖父との会談を終え、自室へと戻ってきた。そして疲れ果ててしまったイリヤはその身をベッドへと投げ出した。


「あー、もう。本当に疲れたわ…」
「お疲れ様、マスター」
「…貴方が狂ってくれるならこんなに難しい話はいらなかったんだけどね」
「そりゃ残念。マスターも私なんか召還しないでヘラクレスを召還出来たら苦労しなかったのにね」
「うるさいわねっ!! このバカー!!」


 イリヤの投げはなった枕はバーサーカーの顔面へとクリーンヒットする。それを片手で掴んだバーサーカーはにや、と笑みを浮かべて、今度はその枕をイリヤの顔面へと投げ返した。咄嗟の事にイリヤは反応出来ずに顔面に枕をぶつける。
 それにイリヤが震える事、数秒。引きつった笑みを浮かべながら枕をバーサーカーに投げては、投げ返すバーサーカーという公式が完成する。イリヤはムキになってくってかかるが、それをバーサーカーは笑みを浮かべて受け止めている。


「こ、の…! いい加減にしないと令呪使うわよっ!?」
「おっと、それは勘弁してよ」


 イリヤが苛立ちと共に投げはなった言葉にバーサーカーはここが引き際、と言わんばかりにあっさりと掌を返した。その態度もやはり癪に触る、とイリヤは思わずうなり声をあげる。
 イリヤがうなり声をあげていると、そのイリヤの姿にバーサーカーは軽く笑みを浮かべて、くすくすと笑う。そうしてイリヤの傍へと近寄り、その頭に手を伸ばした。


「ごめん。私が悪かったよ。悪ふざけしてごめんね、イリヤ」
「…今更許してなんか上げないんだから」
「困ったな。イリヤが許してくれないと困る」
「だったら困れば良いじゃない。いい気味だわ」
「そうか。じゃあ、許してくれそうになったら戻ってくるよ。それじゃ、ね。城の中、探索してるから」
「え? あ、ちょっ、こらっ!?」


 イリヤの制止も虚しく、霊体となって消えてしまったバーサーカーの姿にイリヤの苛々は限界へと到達した。先ほどの疲れもあってか、もう何もしたくない、とイリヤは布団の上で横になって。


「…何なのよ、本当にあの馬鹿サーヴァントは」


 本当に、苛々とした様子で小さく呟くのであった。





 
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