次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■朧月の契り 間章 前編
2010/10/28 Thu朧月の契り
 ――彼女は言った。これは何の意味もない事だと。




 
 * * *





 何の変哲もない日常だ。だが、そこに潜んでいるものを私は知ってしまった。いつからだろう? いつの頃からだろう。…いいや、気づいた、という事実の前にはその始まりを知る事など意味がない。
 気づいた時、世界は崩壊した。当たり前の日常を謳歌する人達に対する猛烈なまでの違和感。あぁ、当たり前の日常だ。笑って、話して、遊んで、そんな何でもない一日を繰り返していく。
 そう、繰り返している。だからこそ異常に気づいてしまった今となってはその繰り返しの日常すらも恐ろしいものに感じる。
 それを必死に気取られないように、押し隠して日常に隠れた。何でもない日常を取り繕い、その日常をただ受け入れている自分を装った。その胸に、次は自分だ、その次はいつだ、と怯えながらも、ただ繰り返しの日常の中にいた。
 繰り返しの日常、繰り返す役者は次々と増えていく。また一人、また一人と異常者は増えていく。気づいたものが異常なのだ。だが、彼らもその内、消えていく。そうしたらいつの間にか彼らは日常の一部に成り下がっている。
 気取られてはいけない。気取られたら最後、自分という存在は呆気なくこの当たり前の、そして異常な「日常」に取り込まれてしまうから―――。





 * * *





「はっ、はっ、はっ、はっ!」


 走る。走って。駆ける。駆けて。逃げる、逃げて。どこまでも、どこまでも?
 行く先など知らない逃亡者。それが私。だからどこまでも逃げるの。出口も知らない。終わりなど見えない。ただ走るだけしか出来ない。足を止めた時が終わりだと知っている。この走りが終わる瞬間、自分は終わってしまう。
 気づかれた。気づかれてしまった。気づいた。気づいてしまった。だから終わりだ。次は自分。いつかか始まり、いつか終わるだろうと予測し、来てしまった終わりの結末。次は自分、そう、自分の番だ。
 不快だった日常の輪を抜ければそこは異世界。誰もが笑っていた路地裏は恐怖の溜まり場。皆が集う学校は違和感の象徴。笑う人々はまるで演出家に踊らされる人形の如く。
 この街は既に生きてはいない。死した街だ。もはや新たな時を刻む事はない止まった世界。そう、皆止まった。もう皆は動かない。だってもう皆…―――死んでしまっているんだもの。


「はっ、はっ、はぁっ…、はぅっ、はっ、はぁっ!!」


 異常に気づいたその日。いつだったか忘れた異常の始まり。あれはたまたま夜の帰り道。本当に偶然だった。子供の私は夜に出歩くなんて御法度。だから早く家に帰らなければ、と走った。
 親はいなかった。だからこの遅くまでのお遊び。けれど家には帰らなきゃいけない。そんな夜道、普段は通らない裏路地の近道を通って帰る。未知への興奮と、親への背徳感に入り交じった楽しい時間は、垣間見てしまった世界によって崩れ落ちた。


 ――吸血鬼。


 怪物の代名詞。人の血を啜って生きる異形。ヴァンパイア、など呼ばれて、色んなお話に顔を出すポピュラーな怪物。だけど実在のしないただの作り話。そんなもの、いない、なんて信じていた。
 だけど、目の当たりにしてしまった。気づかれなかったのは本当に幸運なだけ。見てしまったのだ。吸血鬼の、そう、食事と言える行為。または同族を増やす儀式。その名の通り、血を首筋から吸い上げるその光景を。
 それが、全ての始まりだった。日常が音を立てて砕けていく。次の日、その食事にされてしまった人は何事もないように日常の中にいた。
 一人、見つけてしまえば、誰もが疑わしい。この人は本当に生きているのか。それとも死んでいるのか。だからその日常を観察しているうちに、疑惑は確信へと変わる。この街は死に行く街だと。
 だけど、だからどうした。この世界が私の世界だ。飛び出した先など知らない。私はここで生まれ、育ち、そしてそこからどこへも行く事の出来ない子供なのだから、ここで死んでいく事しか出来ない。
 それは、嫌だ。私は死にたくない。だってこの街は好きだけど、夢がある。まだ形にもなっていないけれど、未来への希望があった。将来はあぁなりたいな、って、そう思うだけの未来だけど、それでも諦めたくない。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。だから、走る。異常から逃れる為に。


「は、ぁ…はっ…は…っ…はぁ、はぁっ、はぁっ!! ――あっ…!?」


 けれど、それも終わり。 
 私の足はもつれて、倒れてもう動けない。動けたとしてもそれは致命的な停止。私は、捕らえられた。そのショックからか、もう、自分を捕まえたのが誰なのかもわからず、私は意識を投げ出した。





 * * *





 遠くから、罵り合う声がする。それに引かれて意識が戻ってくる。


「―――には手を出さないと約束だった筈だ!!」


 誰の声だろう。鈍い頭はまだ現実を認識出来ない。だが、どこかで聞き覚えのある声で。
 目を開く。ようやく開いた先には見慣れた部屋があった。それは自分の家のリビングだ。 自分の家は正直に言えば裕福だ。屋敷、と呼ばれるような自宅。欲しいものは何でも揃った。皆から「お嬢様」と言われる程に、まぁ、自他共にそういう家柄の子供だったのは知っている。
 豪奢な、ちょっとやりすぎなぐらいに飾られたリビング。そこで恐らくソファーだろう。そこに寝かされている私は、誰かと誰かが罵り合うのを見た。まだ目を覚ましたばかりでそこに移っているのが誰かわからない。


「手は出していまい? だが、知られてしまったからには、殺すか、もしく眷属にするか、そのどちらかしかない。何、適正があれば自我を取り戻すさ。何がいけない?」
「くっ…!」
「何、自らの命の為に街の人間全てを生贄に差し出したお前の事だ、今更、娘の命一つごときに迷う事もあるまい」


 目を、開く。
 そこにいたのは父親だ。少し小太りで、だけどとても優しくて、皆にも尊敬される自慢の父親。
 その目の前にいるのは長身で細身の、正直に言えば不気味な男。身に纏ったスーツとシルクハットが胡散臭さを加えさせて、やはりどうしようもなく不気味。
 会話の内容がようやく頭の中に浸透していく。そしたら、あぁ、どうしようもなく涙が出てきた。
 全ての元凶は―――最も愛した父親だった。あの異常に怯えた時間も、全ては父親の所為だった。
 生贄、と。その響きが何が起こったのかを理解させた。あの街は、そう、自分の父親の命惜しさに皆殺されたのだ。あぁ、自分で言うのもなんだがウチには金がある。それに物を言わせば何が出来るかなんて、知らない年頃でもなくなっていた。
 だけど父はそんな事しない、と。そう、思っていた。優しい父親の面影は、今、この瞬間を以て崩れ去った。


「…パパ…」
「ッ!? ぁ…」
「ほぅ、もう目を覚ましたか。…ほぅ? 良かったな、お前の娘の内には異形の資格たる回路があったぞ? 運命とは奇妙なものだな。これは案外、本当に眷属と化してくれるかもな」
「やめてくれっ!! 街の人間の血を吸い終われば出て行くという約束だっただろう!! 金もいくらでも貢いだだろう!?」
「あぁ、そういう約束だ。―――だが、吸い終わっていないなぁ。お前と、そこの娘の血はな」
「なっ―――!?」


 そして。ぐしゃり、と音が聞こえた。肉の潰れる音だ。骨が砕けた音だ。音が、消えた。
 後に残されるのは赤。そこには父親だったもの。もう、父親じゃないもの。頭がもう無い。それは壁に押しつけられてアカイ染みになってしまった。
 目を、逸らせない。気持ち悪い。見ていて不愉快だ。胃の底から何もかも吐き出してしまいたい。けれど、体は動かない。ただ、ただ迫り来る結末を見ていた。


「…壊れたか? まぁ、良い。君は確かに素晴らしい。直接ならば飲むのはやはり生娘の血だな。更に眠っていたとはいえ、魔術回路を持っている。これは良い拾い者をした。――にしても、人とはやはり愚かだな。約束が対等だとでも思っていたのかな? 私は人ではなく吸血鬼だと言うことを考慮出来ない愚者だった」


 手を真っ赤に汚した男が笑う。それも、何も感じない。あぁ、そうだ。確かに自分は壊れてしまったのかもしれない。――信じたくもない現実に、この心は砕かれたのだ。
 最早信じるものもない。希望を抱く資格もない。ならば、あぁ、この身も早く死して彼らと一緒になってしまった方が、よっぽど楽だ。だから抵抗もなく最後の瞬間を受け入れようとして―――。


「―――なにっ!? 結界が!?」


 その音は響いた。硝子の割れる甲高い音、それと共に窓を蹴破って入ってきたのは深紅の外套に身を包んだ誰か。その手に握られた拳銃はこちらに手を伸ばしかけた男に向けられ、引き金を引いた。響く銃声音。


「!? ぐぉおっ!?」


 銃弾に穿たれた男は呻くような声を上げた。じゅうじゅう、と肉の焼ける音がする。それが男の苦しみの声を上げさせる。その間に私の体はその銃弾を放った誰かによって抱きかかえられる。
 瞬間、世界はリビングより一転する。駆ける。屋根を蹴り、屋根から屋根へと飛び移って街を駆け抜けていく。頬に当たる風は痛い程までに強い。その眼下、いつもの日常を繰り返す街の人達が見えた。
 彼らはこちらに気づき、見上げている。生気の無い瞳。見上げる瞳はまるで私を責めているようにも見えた。私たちは死んだのに、どうしてお前だけが生きているのだ、と。


「――…はな、して」


 だから。嫌だ。


「――離してぇっ!!」


 わかった。私は助けられてしまった。助けられる価値もないのに生き延びてしまった。他ならぬ、今私を抱きかかえている深紅の人によって。その手から逃れようと暴れ出して、初めてその人と目が合った。
 それは彼女。なびく髪は色を失ったように燻った白髪。肌もまた、色という色を抜き去ってしまった病的な白さ。瞳は茶混じりの黒。なんと言えば良いのか、それは澄んだ黒だ。黒とは暗いイメージがあって、何が混じっているかわからないのに、何故この黒い瞳は澄んでいると思ったのか自分でさえわからない。
 年の頃はおよそ20代ぐらいだろう。深紅の外套を翻しながら彼女は私を抱いて駆け抜ける。このまま彼女は私をどこかへと連れて行ってくるのだろう。だが、そこがどんな場所かわからない。
 ならば、この死しか安寧が残らない地でも、ここが良い。ここで死にたい。そうしたらもう辛い事も何も無いのに。なのにその手は私を離してはくれない。


「…ごめん」


 呟くように、彼女は呟いた。そのまま、彼女は駆けていく。私は、もうどうしようも出来なかった。どうしようともしなかった。あぁ、この死ぬべき私に、何故死は与えられない。
 不意に、彼女は足を止めた。そこは街の中のホテルの一室だった。恐らく彼女が泊まっている部屋なのだろう。つまりこの人はこの街の外から来た人。そしてこの異常に足を踏み入れてしまった人。
 私は何も言わない。ただ彼女を見る。彼女はホテルの窓から外を見て、そしてカーテンを閉めた。更に扉の付近に立って、何かを呟いている。それが何を意味するのかは私にはわからない。ただ、ただ見る事しか私には出来ない。


「……貴方、誰…?」


 ようやく出た言葉は、それだった。彼女は何者なのか、という疑問。その答えを得る為の問いかけに彼女は―――。


「――正義の味方、っていうのは…格好付け、かな?」


 微笑を浮かべて、そんな答えを口にした。


「言ってみると、本当に何を言っているんだ、って話だよね。…名乗るだけ、たいした事も出来ないのにさ」


 …そうだね、と私は思った。彼女が正義の味方、というのなら遅すぎる。そしてやるべき事を間違っている。正義の味方は救われない人々を救うのが役目だ。どの物語でもそれは変わらない。
 なら彼女のやっている事は正義の味方なんかじゃない。助けられるべきではない私を助け、助けられるべき筈の街の人も助けていない。そう、誰一人、助けてはいない。なのに私を助けた。それで、正義の味方? あぁ、笑ってしまう。


「…それで、貴方は何をするの? 正義の味方さん」
「…うん、そうだね。――君はどうしたい?」
「…私?」
「私の目的はあるにはあるんだけどね、君の願いを聞く事がそれに繋がる訳なんだけど、どうかな? 願いはあるかな?」
「―――」


 そんなの、あるに決まっている。死にたい、こんな苦しみを生み出した原因の娘である私が生きている資格などない。だから死んで償いたい。そうすれば、全部が終わって楽になれるから。


「…そっか。じゃあ…――」


 すっ、と。彼女が懐から取り出し、私に差し出したのは拳銃だった。無骨な、鉄の塊。凶器の象徴。人殺しをするのに適したもの。それが自分に差し出されている。


「…それを君にあげよう。それで自殺するのも構わない。もしくは、私を殺しても良い。君の仇を討っても良い」


 ――仇?
 …そうだ。父さんがあぁなってしまったのはそもそもあの不気味な男の所為で。この街がおかしくなってしまったのも、そもそもはあの不気味な男の所為で。
 殺したい、と。あぁ、これが殺意なのだろう。許せない、を通り越したもの。それの延長線上なのは間違いない。けれど決定的に違う感情。手に渡された拳銃を見つめる。これがあれば、殺せる――?


「…仇を、取りたい?」


 頷く。


「…そっか。なら、一緒に行こうか?」


 うん。行きたい。連れていって欲しい。あの男を―――私は殺したい。


「なら、行こうか」
「…待って」
「ん?」
「…どうして?」


 どうして貴方は私の命を助けて、さらにはその願いを叶えようとしてくれるのか、と。思わず問いかけてしまった。この人は一体何がしたいのか、よく、わからない。
 そうすると彼女は笑った。笑って彼女は答えた。


「正義の味方、だからさ」





 * * *





「――くそっ、くそっ、くそっ!! 何者なんだアイツは!! 私の結界と警護を超えて来るだなんて…まさか教会の刺客か!!」


 街一つを死都に変えた吸血鬼は呻いていた。自身を穿った弾丸は退魔の施術が施されていた。それは自らの肉体を穿ち、その再生を拒む。吸血鬼は人間よりも強靱な肉体を持ち、銃に穿たれた程度でどうにかなる体ではない。
 この身は並の人間とは比べるまでもない。更には常人には為し得ぬ「神秘」を扱う事が出来るのだ。ならば、たかが人間の、たとえ教会の人間といえど、人間に傷をつけられるなど、弱点をつかれた程度で屈する訳がない、と。


「殺してやる! 殺してやるぞ!! 絶対にこの街からは逃しは――」


 だが、男の声は不意に止まる。気配を感じたのだ。それは一直線にこちらに向かってくる。すぐさま使い魔を飛ばす。使い魔から送られてきた視界、それは使い魔が見ている光景だ。
 彼は、魔術師だ。現代では失われた人々が魔法と呼ぶ産物。その内容は魔力を以てして神秘・奇跡を再現させる術である。そしてそれは秘匿されるもの。正体不明であり、人が触れ得ない、正に神の所行であるからこそ力を持つ術だ。
 だが、それは世界のマナ、世界の魔力が枯渇した事によって衰退の道を辿った。人知れず、魔術はこうして滅び去っていった。僅かな痕跡を残し、ただ朽ち行くだけだった魔術は、ある時を境に再びその力を取り戻しつつあった。
 マナの再燃。マナが再び世界に満ちるようになり、魔術師達は再び生まれた。しかしそれは最盛期のものほどの勢力も規模も無かった。ひとたび衰退した魔術は失われるか、死蔵されたか、だが、それがまた極めた者への栄光の道でもあったのは確かだ。
 魔術は秘匿されるもの。しかし、その魔術に対しての信仰心が無ければその力は発揮されない。世界は現在、情報社会だ。調べれば調べたい情報が出てくる。その中で有り得もしない魔術、つまりオカルトに興味を持つ者もたくさんいる。
 知れば知る程、信仰心は増し、その力は強まっていく。そして要は発動のプロセス、発動の仕組みを知られなければその神秘は己が物。ある種、流れが良い方向に働いた事もまた事実なのだ。
 そしてこの吸血鬼はその力を得た魔術師の果て。永遠と称するべき命と、人間を超えた身体能力、そして確かな力を持つ事を確信した魔術。男のプライドはそれに準ずる高いものとなっている。
 だからこそ許せない。自らを傷つけた、高が人間風情を。だから芽生えたのは殺意。そう、この目の前に移る自らの眷属となり、操り人形と化した人間どもを蹴散らしながら向かってくるこの女を。


「良いだろう、人間…!! 貴様はこの手でくびり殺してやる!!」


 吸血鬼が出陣する。既に時は夜。月が浮かぶこの日、失われた神秘の戦いが始まりを告げる。 
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