次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■朧月の契り 第1章 03
2010/10/24 Sun朧月の契り
 ――夢を、見ている。
 痛い、心が痛い。軋んでいる。目の前で消えゆくのは儚い少女。有り得ざる存在にして孤独な少女。ただ一人は嫌という彼女を■したのは間違いなく自分で。
 何故殺した? そうまでして生き延びたいか? そこにどんな価値がある? 理由がある? ただ生き延びたいから■すのか。ただ、それだけの理由で。
 だから、この戦いを認める訳にはいかない。勝者も敗者もない、二人の死者が作られるだけの意味の無い死など―――モウ、イイダロウ。
 私は―――オモイダスナ。
 彼女を―――フミコムナ。
 助けるために―――カカワルナ。


 ―――ソレハ、有リ得テハイケナイ在リ方ダ。


 …頭が、痛い。これ以上、思い出せない。ノイズが酷くなり、砂嵐によって視界は遮られる。
 誰かの声がする。諫めるような、懇願するような声で。何故、これ以上を思い出させないようにするのか。わからない。わからない、わからない―――。





 * * *





 暖かい日差しが降り注ぐ通りを歩く。歩くのは二人の少女だ。凜と奏だ。奏は目に映るものが真新しいものばかりで興味深げにきょろきょろとしている。そんな奏を凜は呆れたような目で見ていた。


「ちょっと、あんまり落ち着きがないと田舎者に見られるわよ?」
「田舎者、って言われても、こうして賑やかな場所に出るのは初めてのようなものなんだから仕様がないじゃん」


 まるで自分の非はない、と言わんばかりに奏は笑って凜に言う。忠告をした凜ははぁ、とため息を吐いて肩を竦める。が、すぐにその呆れ顔は笑顔になり、小さくクスリ、と笑った。
 そうすれば凜は歩幅を変えて奏へと追いつき、その手を握って早足に歩き始める。それに吊られるように奏も凜に引かれる形で歩き出す。わ、わ、と少し驚いたような声をあげながら奏は凜を見て。


「ちょ、ちょっと凜!?」
「ほらほら、何やってるのよ。時間は有限なのよ。さっさと遊ぶわよ」


 凜は口元をにやり、と釣り上げて奏に告げる。それに奏は引っ張られながらも、わかってるよ、と笑みを浮かべて返して凜と一緒に早足に歩き出す。
 今日は凜の提案で、奏にとっては初とも言える外出だ。そして街へと繰り出した訳なのだが、奏にとっては目に映るもの全てが目新しい。
 行き交う人々の多さ、遙か空を目指すように高くそびえ立つビル群、そうして賑やかな商店の数々。


「どう? 何か興味あるものとかある?」
「そんなの、全部だよ!」
「…まぁ、遊びに来てる訳だし、適当に入ってみましょうか」


 はぁ、なんて、呆れたようにため息を吐きながら凜は奏に微笑みかけ、その手を引いていく。うん、と奏は返事を返して奏はその後ろを付いていった。





 * * *





 ――そんな楽しい時間が脳裏に過ぎった。
 あぁ、あれは、とても楽しい時間だった。どう表現して良いかなんてわからない。ただ、楽しかった。
 服を見た。自分には似合わないと思うような服を着せて彼女は楽しんでいた。
 おいしいものをたくさん食べた。一つ一つ、紹介するような凜は中華が好みだという事を知った。
 ゲームセンターにも行った。凜と張り合うように夢中になって遊んでいたら、いつの間にかスコアを更新しすぎて観客が出来た時は恥ずかしかったものだ。
 映画を見た。映画館の画面はとても大きくて、でもうるさくはなかったし、内容も思わず泣いてしまったりして、そこそこ、なんて言う凜と軽く口喧嘩して。
 どれも、鮮明に思い出せる。忘れ得ぬ、大事な記憶だ。どれだけ繰り返しても、どれだけ思い出しても、絶対にどの思い出も色あせぬだろうと。
 楽しかった。あぁ、間違いなく自分は幸せだったと、胸を張って言える。


 ――だから。


 始まりがあれば終わりがある。それが物事の仕組み。始まった瞬間にそれは終わりを内包し、いつか予定されていた終わりを迎えて消える。万物、それは変わりは無い。それがどれだけ納得のいかない終わりであろうとも終わりは終わりだ。
 そう、終わるのだ。どんなに楽しくても、どんなに長く続いて欲しいと願っても――全ては、定められた終わりへと向かう。


 ――痛い。


 わかっていた筈だ。こうなる事は。破綻など目に見えてわかっていた。長く続く訳もないだろう、と。
 だけどもそれを望んだ。拒む事はなかった。いつか来るだろう現実を受け止めていたつもりだった。それでも楽しいと、愛しいと、大切にしたいと思った。
 だから、わかっていてもその道を選んだ。それが自分の幸せなのだ、と。自分の選びたい道だと。わかっていた。そしてその道を後悔する事など無いと――。


 ――何故、そう思っていた?


 嫌な胸騒ぎがした。当たり前に過ぎていく日常。代わり映えもなく、ただ過ぎていく日常が。
 買い物に行き、ゲームをして遊んで、二人で楽しく笑っていた。街へと繰り出し、ただ、その時間に浸っていたかった。
 それが、いつしか異常に思うようになっていた。あぁ、何事も無い。何も変わらない。それに何の不安があったというのか。何も無かった。だからこその異常だった。。
 だから、不意に目を覚ましてしまった。何か予感めいたものがあった。…後になって思えば、まるでそれが予め、仕組まれていたように。


「――凜…?」


 彼女は、どこにもいなかった。部屋にも居ない。居間にも居ない。風呂も、キッチンも、どこにも彼女の姿は無い。いない、という事実がどうしようもない虚無感を与えた。
 あぁ、愚かだ。まさに愚鈍と言うべきだろう。何故そこで思考を止めた。何故、何故何故何故何故―――ッ!!
 何で、そこに彼女が居ないのか。ただ訳もわからず部屋を飛び出した。ただ、一人になるのが嫌だった。だから彼女を捜して、探して。
 夜の街は昼の街とは姿を変える。彼女がどこにいるのかわからない。だから必死に探した。夢中になって、どんな道を辿ったのかも覚えていない。ただ、走って、走って。


 ――違和感に、何故気づけなかった。こんな平穏、この身には許されていないというのに。


 気がつけば、ビルの重なり合う路地裏に入り込んでいた。意識がぼやけている。何故自分はここに来てしまったのか。わからない。だが言いようの無い直感。/イクナ。
 歩く。歩く。何かに導かれるように。その度に心臓は痛い程に鳴り響く。思わず胸を押さえる。それは恐怖のようだ。夜闇が怖いだけではない。/引キ返セナイゾ。
 ようやく見つけて、名前を呼ぼうとしたら、振り向いて、驚いたような顔で、でも、怒鳴り声のような声で――。


 ――あぁ、そうだ。私は、馬鹿だ。


 目の前で、赤が散った。
 それは私へと降り注ぐ。甲高い、耳を劈くような銃声と共に体が浮く。浮遊感の中で私はただ、彼女の体から零れた赤色の滴を見た。
 あ、と声が漏れた。だけど、それ以上、声にならない。何がどうなっているのかわからない。ただ見るのは過ぎ去っていく風景。それが赤色の点々を残して。
 そして、走って、走って、走って――倒れ込むように、その身が投げ出された。そこは路地裏の更に奥の奥。人気がない。ただ、空に浮かぶ月光が僅かに差し込むだけ。
 倒れ込んだ身を起こす。傍には凜が倒れている。彼女の纏っているのは深紅のコート。その深紅のコートが更に深紅に染め上げられているのを見た。見てしまった。


「…り…ん…?」


 ぬるり、と。
 伸ばしたこの手に触れる暖かい生命の水が、赤い、朱い、紅いこの水が。生命の証であるものが流れている事を。
 これは。/幾度も死を見てきた。
 何だ。/だから見慣れたものだ。
 思考が二重に。私ならぬ「私」からの声がする。阻まれるように途切れていた声がする。
 散りゆく命。奪った命。あぁ、そうだった。「私」は生まれながらにしての殺人者。誰かを殺す事でしか生きる事が出来なかった。だからこそ、自分は好む好まざる関係なしに死には耐性がある。
 なのに何故こうも呆然としている。失われていく命。それは理不尽なまでに消えていく。何も無くなる。それは余りにも―――無意味だ。


 ――がちり、と。


 音が鳴る。無意味、という言葉を切欠に。何かが噛み合う。それは嵌ってはいけない、だが嵌めなくてはいけなかった。理解の出来ない感覚。ただ彼女がこんな形で死ぬのはあまりにも無意味だから間違っていると。
 誰だ、今までこの当たり前のような感覚を忘れさせていたのは。/止メロ。
 誰だ、止めてはいけないものを止めなくてはいけないとするのは。/止メテクレ。
 誰だ。誰だ。誰だ? 私の邪魔をするのは誰だ。ぎしぎしと、軋む音がする。体の奥から軋む音が聞こえる。感情が震える。体が震える。どうしようもない憤りが衛宮 奏という存在を揺るがす。


「…ははっ…無様、ね。…呆気ない…」
「…り、ん」


 不意に聞こえた声に現実が戻ってくる。どこかへ飛んだ思考は現実に戻り、現状を突きつける。どうして。何で、こんな、馬鹿げてる。信じたくない。でもこれが現実で。
 ――彼女には赤が似合う。けれど、血塗れの貴方は決して赤が似合っていない。紅い、朱い、赤い、アカイ、アカ…!!


「凜っ…!!」


 どうしても、認められない。―――こんなにも、真っ赤で、息絶えそうな彼女の姿を。親に縋る子供のようだったと思う。凜の体を揺さぶって、それで血が滲むのが早まって、その傷を押さえようとして、でも、傷に触れるのが怖くて。
 だけど、血が流れていく。それが流れてしまえば生命が失われる。そしたら死んでしまう。凜が、死んでしまう。凜が死ぬ――!!
 私があの場所に現れなければ、凜は撃たれる事なんて無かった。あぁ、何故気づかない。「当たり前の日常」を護ってきてくれたのは彼女だったんだ。考えればわかる事だ。何故疑問に思わなかった。
 この身に平穏な生活など許される筈がないのに。でも、それでも、ただ楽しかったから。これがずっと続けば良いと願っていたから。だからなのか? ――わかっていた筈の未来に目を背けたのは。


「…奏…」
「凜…」
「…聞いて…。これが、きっと、私がアンタに教えられる…最後、だから」


 聞きたくない、と首を振りたかった。なのに首は縦に頷いていた。嫌だ、と叫んでいる筈なのに、何も出来ない。あぁ、わかるからか。今の私はあまりにも無力だから、何も出来ない。そんな私が―――我を通す事など出来やしない。
 ならば、せめて、最後だと言う彼女の言葉をこの身に、この魂に焼き付けよう。それが衛宮 奏の背負わなければいけない業と罰なのだ、と。必死に言い聞かせて、何度も、何度も頷いた。





 * * *





 何度も力なく頷く奏を見ながら、私は淡く微笑を浮かべた。撃ち抜かれた箇所は明らかな致命傷。痛み、という感覚ではなく、ただ熱い。それだけしかわからない。それが、刻一刻と自分の死を実感させる。
 これは生命の最後の灯火。蝋燭が消えゆく間際、強く燃え上がり、消えゆく前兆である事と同義。この熱が失われた時、自分は永遠の眠りに誘われるだろう。それが恐ろしいとは、思わない。


 ――わかっていた。こんなの、必然だったという事を。


 望みは叶った。奏と生きる、と。叶った先にあったのは楽しい事ばかりだった。例え未来が無い世界だったとしても、今は満ちあふれた世界だ。その世界を損なう事無く満喫出来たか? と言われれば私は物足りない、と言ってやりたい。
 流石に、この身の業は深かった、という事だけ。今更ながらに実感する。いつの間にか、遠い空には雲がかかり、雨が降り始めていた。降り注ぐ滴は否応なしにこの体の体温を奪っていく。


「…凜…っ…」


 呼ぶ声がする。あぁ、そうだ。まだ意識は失えない。まだこいつにちゃんと残していかないといけないものがある。


「…まずは、隠し事してて…悪かったわね。こんなの、一度や二度じゃないから…慣れてた事だから…」
「…どうして…何も言ってくれなかったの?」
「…アンタに、教えてやりたかったからよ。この世界の事…。楽しい思いをして欲しかった。ただ、それだけ。私はやれる自信があったし…実際、上手くやれてたわ」
「……じゃあ…、……じゃあ、凜が撃たれたのは…」


 そうだ。否定は、出来ない。
 あの時、自分の名を呼ばれて、何故ここにいるのかと思って、油断した。その結果がこれだ。もはや傷は致命傷。助かる見込みは無さそうだ、と。完全に内蔵をやられてしまっている、と。
 彼女が来なければ、なんて、そんなの無理。彼女を一人にすれば、彼女は一体誰を頼りにすれば良い。自分以外に彼女が頼れる人などいないのに。だから、探しに来てしまう、なんて事は考えられない訳じゃなかった。
 それがこの様、何の因果が働いたか、彼女は自分を見つけ、そして、自分はそれに動揺した。そして、追い詰めた敵に討たれた。あぁ、ただそれだけの事。
 霊子ハッカーとしての能力をフルに使い、情報を改竄してまで誘き寄せたというのにこの様。あぁ、本当にどうしようもない、最後の最後でうっかりをしてしまった、と凜は苦笑する。このうっかりは遺伝的なものだと聞いた事があるからだ。まったく嫌になる。


「…遅い、早いはあれ…決められた事、だったのよ。私が、そう選んだの。だから…これは因果応報、自業自得って奴よ…」
「…っ…!! どうしてっ!? …どう、してっ…!!」
「…アンタの言葉が嬉しかった。一緒に生きよう、って。一緒に笑おう、って。だから…アンタがこんな世界を知ったら…アンタが穢れちゃう気がしてね。ごめん、やっぱり、私、我が侭だ…」
「…本当、だよ…最低だ、凜は、最低だ…」


 そう、だな。最低だ。きっと奏が望んでいたのは、全てを預けてくれる事なんだと思う。だけど、それは出来ない。そうじゃないと遠坂 凜は遠坂 凜でなくなってしまうから。衛宮 奏は、遠坂 凜にとって――。


「…アンタは、私の夢だったのよ」
「…ぇ?」
「私ね、子供の笑顔が見るのが好きなのよ。楽しそうに、笑ってる子供の笑顔が。…だから、ね。あぁ、私でも笑わす事が出来たんだ、って、貴方の、笑顔を見て思う事が出来た。今まで、どんなに頑張っても得られる事の無かったものは、こうも呆気なく手に入るものなんだ、って」
「―――」
「確かにそれは、ベストな形じゃない。皆が笑ってられるのがベストだもの。…でも、それでも、私のやってきた事は、間違いじゃなかった―――」


 そうして私は笑った。ただ呆然としていて、泣きそうな顔で奏が見ている。あぁ、そんな顔はさせたくないのに、本当に最後の最後でドジってしまった。まったく、許し難いな。


「アンタが笑ってくれたから…私、―――絶対に、幸せだった」
「…っ…ぁ…く…ぁぁ……っ!!」


 奏の声がする。でも、それが熱が引いていく感覚と共に遠くなる。全てにおいて重くなる。音が無くなり、とても静かになっていく。だけど、まだ駄目だ。駄目なんだ。伝えなきゃいけない事が、まだ…。


「奏…」


 手を伸ばす。力を込める。ありったけの力を込めたのにその手の動きは緩慢だ。何とか彼女の頬に手を伸ばす事が出来た。


「…私が死んだら、アンタには戸籍と財産を用意してある、から。アンタの事が西欧財閥には、ばれないように、手は打って、ある、から」
「…凜…」
「私は、駄目ね、業が深すぎたわ。間違いじゃない、って思うけど、やっぱり、自業自得…。だから、奏…」


 後、もう少しだけ、持って。


「幸せに、なりなさい。貴方には、その資格があって、何より、私の夢なんだ、から…最後まで、笑って…い…て…」


 あぁ、良かった。最後まで、言えた。
 それが、最後。手に触れていた感触も消え、熱は冷め切り、意識は黒く塗りつぶされていく。その最後となるだろう意識の中で、ただ、私は祈る。
 どうか、彼女の行く末が幸せなものでありますように、と―――。





 * * *





 滑り落ちた凜の手を反射的に握る。力の無い手は重い。伏せられた瞼も開く事はないだろう。どこまでも穏やかに、どこまでも安らかに彼女は眠ってしまった。余りにも静かに。余りにも、空虚になってしまった。
 それに、何を覚えたのだろう。何も感じられない。何も思えない。まるで空っぽになってしまった。自分というものが無くなってしまったかのように。
 そうだ、今の私は凜が居なければ駄目なんだ。何もないから、だから凜がいないと、凜を中心に作っていた私は壊れてしまう。
 このまま、私も死んでしまえば―――どれだけ楽なんだろうか、と思考に過ぎる。


「…だ」


 だけど、それは…


「…だめだ…」


 許されない。
 だから―――私には、必要なんだ。


「――そこを退いて、『アーチャー』」


 意識が、飛んだ。





 
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