次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
■■■スポンサーサイト
--/--/-- --スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■■■朧月の契り 第1章 01
2010/10/16 Sat朧月の契り
 ――誓いは此処に。眠りは覚めた。世界は動き出す。




 * * *






 ――夢を、見ている。
 それは戦いの記憶だ。銃撃の音が響いている。誰かの高笑いが聞こえる。狙われているのは誰だ。
 銃撃の音を聞く度に体が竦む。それは命を奪う為の咆吼だ。故に恐怖する。死にたくない、と体は震えている。同時に、殺したくないと心は叫ぶ。故に、動けない。
 だが、体が痛む事はない。そう、何故ならば――こちらを護るように立つ誰かの背中があるから―――。





 * * *





 目覚めは早い。まだ日が昇らぬ内に意識は覚醒する。目覚めの瞬間は脳がまだ半ば眠っている状態にある為にまた眠りへと落ちてしまってもおかしくない程に億劫だ。しかし、眠る訳にはいかない。眠ればそれは永遠の眠りへと繋がる可能性がある。
 億劫な感覚を振り払い、同時に布団を払いのける。布団によって暖められていた体は外気に触れて一瞬にして冷えてしまう。軽く腕をさする。それで逃げていった暖かさが戻る訳でもないのに、やってしまうのは体の反応か。


「…さて、と」


 目を擦り、背筋を伸ばす。軽く頭を振って意識を覚醒へと促す。この時点で頭はすっかり冴えて、眠気の残滓は悉く消え去る。そうすればいつもの日常だ、と寝間着に羽織っていた服をはぎ取った。
 身に纏うのは赤。…何故かわからない。何故か鮮明に覚えがあり、好ましく感じた色が赤だった。最初に出会った彼女が着ていた色だからだろうか。それとも何か別の―――。


「…毎度の事ながら、わからないって。本当」


 苦笑。漏れた息は呆れにも似て、悲嘆にも似て。もしも彼女が原因では無いなら、その切っ掛けを自分は思い出す事は出来ないのだろう、と。
 さて、と顔を上げる。それを悲観する事はない。それはどうしようもない事実だし、変えようの無い事だ。なら過去に目を向けるよりも、今はもっと大事な事がある。それは今を生きる、という事。


「さて、早くしないと遅れちゃうな」


 そして部屋を後にする。私物はほとんどない寝る為だけの部屋はただ扉の閉まる音を反響させるのであった。





 * * *





 フライパンの上に落とされるのは卵が二つ。油を引いて熱したフライパンの上に落とされた卵は一瞬にしてそのとろみの有る白身をその名の通りに白に染めていく。それにまぶすのは塩こしょう。適当な所で振るのを止めてフライ返しを片手に。
 焼き加減を見て、半熟程度に仕上げて皿に乗せる。更にそのフライパンの上でウィンナーを乗せて焼き上げる。その間に隣で暖めていた味噌汁の味見。程よい味なのを確認して軽く一混ぜ。
 ぴー、と炊飯器から音が鳴り、ご飯が炊けるのを確認。開けてみればそこにはほかほかと湯気を立てている白米がある。それを軽く混ぜて状態を確認。程よく炊けた事を確認して蓋を閉める。
 フライパンで焼いていたウィンナーに焦げ目がついてきた。中身まで火は通っただろうか、と一本を味見。まだもうちょっと焼く必要があるか、と。そして冷蔵庫を開けて中で冷やしていたポテトサラダを目玉焼きをのせていた皿に乗せる。
 そして良い感じに焼き上がったウィンナーを乗せれば完成、と言うように一息。それと同時にキッチンの向こう側から物音が聞こえた。それに冷蔵庫を開ける。表情はやや苦笑気味。


「おはよ。相変わらずだね」
「…うっさいわね…朝は弱いって言ってるでしょ…? 牛乳ー…」
「はい、どうぞ」


 ふらふらと幽鬼のような足取りで歩いてきたのは一人の少女。目を惹くような金髪には寝癖が付いていて、目は半開きで今にも閉じそう。正直に言えば怖い、がいつもの事なのでもう慣れた、と言うように牛乳を差し出す。
 その受け取った牛乳を彼女は一気呑み。ごく、と音を鳴らせて牛乳を飲み干していく。ぷは、と空気を抜くように息を吐き出し、口元を拭う。そうすれば先ほどまでの幽鬼の姿はそこには無く、不遜な少女の姿がそこにあった。


「…ふぅ、ようやく目、覚めたわ。改めておはよう、奏」
「おはよ、凜」





 * * *





 かちゃかちゃ、と音が鳴る。それは箸が食器に触れる際に立つ小さな音。だがそれは食事の風景。自ら作った食事を口に運びながら奏は目の前に座る凜を見る。顔を洗い、寝癖を直してきた彼女は優雅に食事をしている。


「…何? なんか顔についてる?」
「ん。別に。今日の朝食はどうかな、って」
「普通よ。良すぎることもなく、悪い事なんてないベスト」


 良すぎる、なんてものがあるのだろうか、と思いつつ奏はそっか、と頷く。そうよ、と凜は切り返して食事を続ける。再び部屋には食事をするだけの音が響く。
 その姿を奏は見る。目覚めた時、自分が始まった時、そばに居て、自分の手を引いて外の世界へと連れ出してくれた彼女、遠坂 凜の姿を。


 ――衛宮 奏には過去が無い。


 衛宮 奏の記憶の始まりは白の部屋だ。覚えているのは自分の名前程度。後は一般的な社会常識ぐらい。だが自分というパーソナルが一切欠けていた。自分がどんな人間で、どんな人達に囲まれ、どんな日常を送ってきたのか。
 まるでわからない。名前以外に思い出せる事などそれこそ数少ない。そんな自分はどうやらある病気にかかっていたらしく、当時は確立されていなかった治療法が確立するまでの何十年も眠り続けた人間らしい。それを奏を見つけた彼女、凜によって起こされ、治療を施されてここにいる。
 だが、よくわからないのが、彼女は別段、医者という訳ではない。医療の知識こそ持っていても免許は持っていない、等とよくわからないのだ。彼女の素性はまるでわからない。医者でもないのに自分を目覚めさせ、傍に置く彼女が。
 彼女に連れ回され、「ここなら大丈夫、か」とよくわからない呟きと共にここで暮らしてはいる。彼女には感謝している。よくわからない現状、彼女がいなければ自分は今も眠ったままだっただろうし、もしも目覚めたとしてもどうなっていたかわからない。
 特に悪いように扱われていない以上、追求するのは無粋なのかもしれない。だが、いい加減、そろそろ聞いても良い頃だろうか。


「…凜」
「…何? 奏」
「いい加減、答えてくれても良いよね? ―――何で私を起こしたの? どうして私を連れて一緒に住むの? 何で、貴方は…」


 ――私と一緒にいようとしてくれるの? と。


 衛宮 奏に過去はない。つまりそれは衛宮 奏には何もない、という事だ。しかも己は何十年も前の人間だ。縁などもない。繋がりなどない。自分は世界に置き去りにされてしまった者だ。
 だからわからない。何故そんな者と彼女は一緒にいる事を選んだのか。何故、私を引き取ったのか。ただ、わからない。だから聞きたかった。聞くのは怖かったけれど、聞かなければ進めない。
 騙されている、等と思いたくない。だが不安にはなる。そうじゃない、とわかっていても、信じたくても、彼女の口から答えが欲しかった。どうして、自分と共にいる事を選んだのか? と。
 
 
「……」


 奏の問いかけに凜は答えない。食事の手を止め、表情を殺した顔で奏と向き合った。それは対に来てしまったなぁ、という諦めの顔のように見えた。わかっていたのだろう、凜は。奏がいつかこの問いかけを凜へと投げかけるのを。
 ただ、無言の時間が流れていく。凜は奏を見つめたまま、何も語らず、奏はただ凜を見つめるだけだ。答えが欲しい。ただ、奏はその一心で凜を見つめた。凜の言葉が聞きたい。凜の言葉で凜の答えが聞きたい、と。


「――そうね」


 そして。彼女はようやく重たい口を開いた。


「…約束だから」
「…約束?」
「貴方は知らない約束よ。ただこっちで勝手にして、私が果たそうとしている約束」
「……それは、何?」


「――貴方を護る、って約束よ」


 にこ、と。笑みを凜を浮かべた。それに連想したのは、母、ないし、姉。そう思い浮かべた瞬間に心がすっ、と晴れた。何かに縛り付けられていた心は枷を解き放ち、自由となる。
 ぽろり、と。意図もせずに何かが零れ落ちたのを感じた。何か、と思って頬を撫でて見ればそこには涙。ぽろり、ぽろりと涙が流れ落ちていく。何故なのかわからない。涙が出てくるのはどうしてなのか?


「…ごめん。不安だったんでしょ? 何もわからないままなのは」
「…ぁ…」
「…ぁー、本当、ごめん…。もうちょっと気使ってやれば良かったわ。…アンタは、何も知らないのにね」


 いつの間にか席を立っていた凜が後ろから奏を抱きしめる。耳元で囁くように言葉を紡ぎ、奏の頭を撫でる。奏の頭を撫でながら凜は奏の涙を拭って、奏を優しく抱きしめる。
 凜のにおいがする、と。凜の指の感触が心地よい、と。嫌な筈がないのに、どうしてこんなにも触れる度に、彼女の存在を感じる度に涙がこみ上げてくるのだろうか、と。わからない、わからないから、怖くて、不安で。


「泣いて良いのよ。大丈夫、どんなに泣いても、私は貴方を護る。ずっと傍にいるわ」


 ――だから、泣いた。心がどうしようもなく泣きたがっていた。だから抗う事無く泣いた。声を上げて泣いた。ただ、ただ嬉しくて泣いた。
 離して欲しくない、と手を伸ばす。もっと傍に、もっと近くに、とすり寄せるように体を近づけた。拒まれなかった。逆に包まれるような温もりが奏を包んだ。だから、より一層泣きたくなった。
 子供のようだった。ただ泣きじゃくって凜に縋っていた。ここは泣いて良い場所なんだと、ただ、涙が枯れるまで泣き続けた…。





 * * *





 涙の後が残る寝顔を、そっと撫でた後、手を離す。泣き疲れた奏は凜によって彼女に宛がわれた部屋に寝かされ、規則正しい寝息を立てている。泣き疲れて眠るなんて子供のようだ、と思うが、実際そうなんだろう、と凜は思う。


「…ムーンセルの中で記憶を預けてた時とは、また違うんだろうなぁ…」


 がりがり、と髪を乱暴気味にかき混ぜる。まったく配慮が足りない、と自分の失態を責め立てる。記憶が無い、という彼女を引き取り、護ると決めたのにこの様。まったく笑えもしない、と。
 一度離した手を、再び頬に添える。触れた顔の造形、髪の質、あぁ、やはり同じだ、と凜は思う。彼女の眠るベッドに腰掛け、優しく撫でるように奏の頬に触れながら凜はため息を吐く。


「…こんなにも、同じなのにね。…当たり前なのに、アンタはアンタじゃないのよね」


 アンタなんだけどさ、と付け加えて凜は自嘲するように笑みを浮かべた。そして凜は奏の問いかけを思い出した。その理由を自らの中に問いただし、凜は脳裏に記憶を呼び起こした。





 * * *





 戦争があったのだ。だが、それは現実に起きた戦争ではなかった。
 霊子電脳世界。霊子と呼ばれる無機物・有機物問わずあらゆる存在が持つ“存在の雛形”という形而上の概念を、データとしてカタチにしたエネルギー情報体。この霊子を以て形成された世界、通称「SE.RA.PH(セラフ)」。
 この世界において行われた戦争。ありとあらゆる願いを叶えるという願望機「聖杯」の所有権を争った戦争、その名、聖杯を巡って争ったことから「聖杯戦争」と呼ばれている。
 聖杯戦争とは、過去に活躍した偉人、つまり英雄の霊、英霊をサーヴァントとして仕えさせ、決闘方式で生き残りをかけて殺し合う戦争だ。
 その聖杯戦争には多くの人間が参加した。しかし、最終的に生き残るのは勝者である一人とされた。予選、本戦と続く戦いの中、次々と失われていく命。


 ――その中で勝者となったのは、何の変哲もない少女だった。


 何の変哲もない。それは、この戦争においてあり得ざる一般人に近しい少女だった。限りなく平凡で、日常にいれば埋没してしまいそうな少女。
 そんな少女には記憶、自己という存在がなかった。記憶が戻らぬままでの命をかけたやり取り。ただ死にたくないと抗い、それ故に命を奪う事に苦悩した。
 生き延びた彼女が知ったのは自らの残酷な真実。彼女は命ですらない。聖杯戦争を運営する聖杯と呼称される「ムーンセル」によって生み出されたNPCだったのだ。
 実在している、もしくはしていた、していたかもしれない人物の情報をコピーし、再現させた存在こそが彼女の正体であった。本来は再現するだけしかない人形だが、何かしらの影響で自我を得た彼女は聖杯戦争に参加するマスターとして選ばれた。
 多くの命を奪い、自らの存在に苦悩しながらも彼女が選んだ道はこの聖杯戦争を終わらせるという選択。この世界でしか自分が生きられないのならば、この戦争を終わらせ、あり方を変えよう、と。
 戦争の最中、どうしても救いたいと足掻いた結果に助けた友達である少女が笑っていた。
 共に戦争を駆け抜けた頼れる相棒である赤き弓兵は皮肉気だが穏やかな笑みを浮かべていた。
 そんな中で勝ち抜いた聖杯戦争。最後には自らと同じ境遇でありながらも、決定的に相容れぬ男との戦いに臨み、見事、彼女は勝利した。
 それが聖杯戦争の結末。そして勝者である彼女が聖杯に願ったのは―――。





 * * *





 遠坂 凜は世界に名を馳せるハッカーであり、同時に聖杯戦争の参加者でもある。そして…その敗北者にして唯一、聖杯戦争からの帰還者である。敗者は例外なく殺されてしまった中で唯一、勝者としてではなくこの世界に帰ってきた生き残り。
 凜には恩がある。それは一生をかけても返しきれぬ程の恩だ。彼女には強い願いがあった。故に彼女は聖杯戦争に参加していた。
 凜が戦う事を決意した経緯、それは世界の情勢に問題があった。時は21世紀に変わり数年。しかし世界の歩みは紛争や天災などに見舞われ、混乱状態にあった。それを納めたのは「西欧財閥」という組織によるものだった。
 そして始まったのは「西欧財閥」による完璧な武力による管理体制による世界支配であった。西欧財閥に管理された地を「ファーム」と、凜が称するまでに徹底された管理の下、人は生きていた。
 同時に管理から炙れた地域は紛争が続き、争いが絶えず、常に餓死者などが死んでいく飛散な世界であった。そしてその状況から世界の発展は停滞したままであり、2000年代から文明の歩みは停まっていた。
 凜はそんな世界で生きていく内に気づいてしまったのだ。誰もが明日への希望を失ってしまった世界なのだと。確かに生きていく事には苦にならない世界だろう。だが、未来は無い。ただ緩やかな滅びが待つだけだった。
 そんなの、凜には認められなかった。未来を夢見て笑う子供達の姿が失われていくのが嫌だった。もっと未来へ希望を持って、誰もが頑張っていけるような世界。それが本来の世界のあるべき姿だと思った。
 故に凜は西欧財閥に対立するレジスタンスに身を寄せ、戦ってきた。しかし所詮は多勢に無勢。世界規模で支配権を獲得する西欧財閥に凜が太刀打ちする事が出来る訳がない。そしてレジスタンス自身も壊滅的なダメージを受けた。
 最早ここまで、という凜の下に舞い降りた希望。月にある「ムーンセル」と呼ばれる地球の歴史を余すことなく記録した観測機が存在するという話を。そしてそのムーンセルを手中に収める事が出来たらどのような願いでも叶うという事を。
 そしてムーンセルは人という存在を知る為に自らの世界に人を呼び込み、自らの所有権を巡って争わせている、という話を。これに凜は飛びつき、聖杯戦争と呼ばれる戦争に参加した。


「結果はごらんの通り、ってね」


 凜は勝者にはなれなかった。そして、凜と敵対していた西欧財閥の次期後継者も勝者にはなれなかった。勝者となったのは――衛宮 奏だ。
 何でもないただの一般人にも等しかった彼女は聖杯戦争の中で逞しく成長した。悩み、惑い、苦しみながらも自らの道を選び、突き進み続けた。
 そんな彼女に凜は手を貸していた。彼女に救われた恩があったから。だが、それは次第に恩だけではなく、絆で結ばれた関係だった。だから、凜は彼女を護りたかった。
 だから、凜は「衛宮 奏」と共に居る。それが、彼女が最後に自分に託した事だから。


 ――凜の知る「衛宮 奏」は、もうこの世には居ない。いいや、元より居ないのだ。


 凜の傍らにいる衛宮 奏は彼女のオリジナルだ。そして、共に聖杯戦争を戦い抜いた「彼女」は最早、データの海の藻屑と化しただろう。本来はあり得ない存在なのだから。いてはいけない、あってはならない存在。
 だから彼女は消えた。願いを叶えて消えた。聖杯戦争という悲劇を終わらせ、もう二度と誰もがそれに手を触れぬように封印し、そして…凜の帰還を願い、その無事を祈って彼女は消えてしまった。


「…アンタが、アイツなら、って思っちゃうのは…ごめんね。駄目だってわかってても、思わずにはいられない」


 眠る奏の頬を撫でながら凜は一人呟く。


「…絶対に護るわ。貴方のこと。いつか貴方に全部バレてしまっても、私は、それでも貴方のことを護りたい、って、本気で思ってるから」


 彼女を見つめる視線はどこまでも優しく、凜は口元に笑みを浮かべたまま、眠る奏を背に、部屋を後にするのであった。





 

スポンサーサイト
トラックバック(0)+ +コメント(0)
朧月の契り 第1章 02 ≪ BACK ≪ HOME ≫ NEXT ≫ 久しぶりの更新…。

管理者にだけ表示を許可する
HOME
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログ内検索
リンク
カテゴリー
最近のコメント

 
 
 
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。