次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
■■■スポンサーサイト
--/--/-- --スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■■■創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.11
2010/02/10 Wed創魔の疾風
 さてはて、数奇なる運命を持った少女はこうして異世界へと渡る事となった。
 そんな彼女が異世界で何を為し、何を学び、何を思うのか…。
 まだ旅は始まったばかり…。
 だが1つ。言いたい事があるとすれば、だ。


「逃げろーーーーっっ!!!」


 自重しろ。その一言を彼女に告げたい。


「主ィィィィイイッッッ!!!!」
「いやっ! ホンマッ!ゴメンッ!!!」
「謝って済むならドラゴンはいらねぇんだよぉぉおおっっ!!!」
「誰が上手い事言えって言ったのヴィータちゃぁぁんっっ!!!」
「無駄口を叩くなっ!! 走れぇぇっ!!!」



 ここは深い森の中。はやてのドラゴン騒動から1日経った現在。はやてとヴォルケンリッターは全速力で森の中を駆けて行く。その背を追うのは、先日、はやてを襲ったドラゴンと同種のドラゴン。しかも、5匹はいるだろうか。


「いやせやかて鱗とか超気になるやん!!触り心地とか? 強度とか? 寝てるなら一枚ぐらいえぇかなー? って思ったんやーっ!」
「馬鹿ですか!? 馬鹿ですね!? 馬鹿なんですね!?」
「シグナム、丁重な口調が今は痛いわっ!」


 はやてが泣き真似をするように目を覆う。つまり、現在、どうしてこのような事態に陥っているかと言うと、全部はやてが悪い。はやてが悪いという言い方以外存在しない。はやて以外が悪いと言えるなら言って見ろ、と言いたい。きっと、ヴォルケンリッターの面々はそう思っている事だろう。
 異世界に来た初めから無謀な真似をしたはやてはその後、ヴォルケンリッター総出の説教を受けた。それで、一時は反省したのだが、子供というのは頭ごなしに押さえつけられれば反抗心も覚えるし、はやての好奇心はそれで抑えられる物では無かった。


 そして、現在に至る。ふと、偶然な事にはやては寝ているドラゴンの集団を発見。シグナム達が一瞬、目を離した隙に、鱗を頂戴しようと近づき、そして、剥ごうとした結果がこれであったのだ。


「今回みてーな頭がパーな主は初めてだよちくしょーっ!!」
「パー言うなパーッ!!」
「パー以外の何て言えば言いのか考えちゃいますね? 馬鹿じゃ収まりませんよこれ!!」


 ヴィータがやけくそ気味に叫ぶ。それにはやてが心外と言うように抗議の声上げるが、隣でヴィータと同じようにやけくそ気味になって、ハイになっているシャマルが叫ぶ。その一言にまったくだ、と言わんばかりにヴィータが頷き、はやてがショックを受けたように頭を垂れさせる。


「無駄口を叩く暇があるかっ!! えぇいっ、レヴァンテインッ!!」
『Ya!』


 そのやり取りを見ていたシグナムは思わず怒鳴る。胃の辺りが引き絞られるような痛みが走ったような気がしたが、気にしている余裕など無い。今、必要なのはこのドラゴンの達をどうするか、この点に尽きる。
 愛剣「レヴァンテイン」を待機状態から起動状態へ移行。鞘と共に召喚されたレヴァンテインを握りしめる。


「カードリッジロード!!」
『Explosion!!』


 柄部分のスライドパーツから吐き出されるのは2つの弾丸。それは魔力を込めた弾丸「カードリッジ」だ。カードリッジによって高めた魔力によって、レヴァンテインがその身に魔力を秘め、その機能を発現させる。
 同時に、シグナムが振り向き、ドラゴンと向かい合う。同時に、神速の勢いの如く、抜き放たれたレヴァンテイン。


「シュランゲフォルム!!」


 それは、ワイヤーによって繋がれた連結刃。剣の形状を取っていたレヴァンテインは幾つもの刃を分裂させ、その名の如く、蛇のようにドラゴンへと抜き放たれた。
 虚を突いた攻撃であったのだろうか。振り向きざま、唐突に攻撃された事により真っ向からその連結刃の直撃を受ける一匹のドラゴン。それは運良く、顔に当たり、脆い目でも傷付けたのか、悲鳴のような雄叫びを上げ、先頭を走っていたドラゴンがその場に躓く。
 同時に、後ろから駆けてきたドラゴンも巻き込み、そこでドラゴンたちが一斉に躓いた。
 追撃をかける為に剣を構え直そうとしたシグナムの横を、1つの影が駆け抜けていく。それは、背に竜の翼を広げ、低空飛行でドラゴンへと向かっていく主の姿であった。思わず、その光景に目の前が真っ暗になり、そのまま前のめりに倒れてしまいそうになるのをシグナムは必死に堪えた。


「あ、あ、ある、主ぃぃぃいっ!?」


 シグナムの驚愕の声。一体はやては何をしているのか、全く理解が追い付かない。シグナムが叫ぶ中、はやてはそのままドラゴンの背に着地し、抱きつくようにドラゴンの背中にへばりつき、ぺたぺたとドラゴンの背中を触っている。
 余りの光景にシグナムは思わず、膝を落としかけたが、それは騎士の誇り、主を護らねばならない、という使命感の元、なんとか踏みとどまる。


「ドラゴンの鱗ってこんなんやなー。やっぱ変温動物なんかなー。一枚ぐらい大丈夫かなー」
「ちょっ!? コラッ!! 主、待ってくださ…!!」


 思いっきり、鱗の一枚を引っ掴んで剥がそうとしている光景にシグナムは目元が熱くなったのを感じていた。あれ、僅かに景色がぼやける? 一体どうしたのだろうか。というか、あの人はなにをやっているのだろうか?
 シグナムの思考は追い付かない。追い付かないシグナムを前に、はやては「ベリッ」と効果音が似合いそうな程、勢いよく鱗の一枚を剥がしてしまった。
 同時に、悲鳴を上げ、のたうち回るドラゴン。はやてはあまりの振動と動きように背から振り飛ばされてしまう。


「あぶなっ!?」
「当たり前でしょうがぁぁあっっ!! 貴方一体なにしてくれてんですかぁぁ!?」
「あれ? シグナム、泣いてへん?」
「泣いてませんっ!! …って後ろぉぉおっっ!!」


 はやてのあまりのの様子にシグナムは頭痛と胃痛が同時に襲ってきていた。この人は緊張感とか、危機感とか、死への恐怖心とかをどこに置いて来たのだろうか?思わず、そう考えられずにはいられない、と、シグナムの心境としてはこんな感じなのだろう。
 さて、そんなシグナムの目の前、はやての後ろでははやてに向けて口を開き、そのまま噛みつかんとするドラゴンの姿。この距離では明らかに迎撃が間に合わない。目の前で主がドラゴンに食いつかれる、という最悪のヴィジョンが浮かぶ。
 だが、その光景はすぐに想像の物へと変ずる。はやての背の翼が羽ばたき、間一髪と言った距離で回避。そのまま宙を回るようにはやてがシグナムの元へと戻ってきた。


「あぶなっ、助かったぁ…!」
「何が助かったですか!? 死ぬつもりですか!?」
「あーっ! 耳痛いわっ! シグナム声デカイっ! って無駄口叩いてる暇無いでっ!!」


 シグナムの怒声もなんのその、と言った様子ではやてが光の矢を放ち、ドラゴンを牽制している。それに色々と言いたい気持ちを無理矢理抑え込みながら、シグナムがレヴァンテインを振るう。鬱憤をぶちまけるかのように振り抜かれたシュランゲフォルムのレヴァンテインが竜の一匹の翼を引きちぎるかのように切り裂く。
 それに悲鳴を上げ、崩れ落ちるドラゴン、その場にのたうち回るその姿に、周囲にいたドラゴン達はシグナムを警戒するように睨む。本能が察知する。奴は、危険な存在だと。
 その殺気にも似た視線を受けながら、シグナムはレヴァンテインを剣の状態へと戻し、両手で強く握りしめる。そして、ドラゴンが自らに向ける以上の殺気を放ちながら。


「…来るが良い。今日の私はひと味違うぞ…」


 そして、惨劇が始まった…。





+++++





 惨劇が後に残ったのは、力任せに引き裂いた竜の死骸と、正座をさせられ、死んだような表情を浮かべているはやてと、見下すかのようにはやてを見て、薄ら笑いを浮かべているヴォルケンリッターの面々。


「…昨日、あれだけ言ったのにまだわかりませんか?」


 シグナムが冷ややかな声ではやてに問う。それに、はやては一瞬、竦んだように身を震わせるが、すぐ、そのままシグナムに土下座をした。もう、地に頭を擦りつける勢いだ。これが土下座の模範例だ、と言うまでに、その土下座は素晴らしかった。
 そのまま、はやてはシグナムへと反省の意を示した言葉を並べていく。


「反省してます。えぇ、この通り。誠意を持って謝っております」
「はい。私もそれを信じたいのですが…僅か、1日です。次の日には裏切られました。えぇ、見事と言って良い程に」
「はい。それは全て、私の好奇心が抑えられなかった故の未熟であると思うでございます」
「主? 良いですか…?」


 僅かに、鞘に収めていたレヴァンテインの刀身を見せ、初めて見るような満面の笑顔を浮かべてシグナムは言う。


「次は、ありませんよ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしませんごめんなさい」
「次やったら潰すかんな?」
「いくら主でもね……限度って物がありますからね?」


 シグナムだけでなく、ヴィータとシャマルの目も据わっていて、声も冷ややかだ。はやては、ただ、蛇に睨まれた蛙のように震えるだけだ。なんとも情けない姿である。その様子に、ザフィーラは深く、深く溜息を吐いた。
 その胸の内には、大きな不安が巣くっていた。そして、やはりもう一度、大きな溜息をザフィーラは吐くのであった。





 + + + + + +






 月明かりが照らす時刻。獣は寝静まり、小さな虫達が晩餐会を開いているのか、響くのは様々な虫達の鳴き声。日本でも見られた光景。世界が異なり、生態系が異なろうとも似たような部分はあるのか、と、感慨深げに、木の枝に座りながらはやては思う。
 はやてが座っている木の枝の下には、三人の人物と一匹の狼が寝そべっていた。その様子に、ふぅ、と溜息を吐いてから。


「…ごめんな」


 それは、何に対しての謝罪だったのか。ただ、はやてはぼんやりと天を見上げながら、異世界の夜空を見上げるのであった。
 そして時は流れ、朝となる。
 日の光が辺りを照らすのは太陽が存在する世界では当たり前の光景だ。その朝の迎えと共に、寝入っていたシグナムは目を開いた。開いたばかりの瞳は、朝日に刺激され、反射的に目を細目へと変える。
 しばらくすれば慣れたのか、瞳は何度かの瞬きをし、そして眠気の余韻のように小さな欠伸が漏れた。


「…朝か」


 小さく呟き、思わず首を振る。身体に僅かな脱力感が残っている。眠気もあるのだろうが、先日のはやてのドラゴン騒動により、大きく体力を精神的に削られたのが原因なのだと思う。
 さて、その騒動の主は今何をしているのか、とシグナムが視線を辺りに向けると、そこには同胞の騎士達しかいない。思わず、背筋に悪寒が走る。
 シグナムの思考が走る。また、何かしでかしたのではないだろうか?いや、まさかそんな事は無い筈だ。そう願いながら、シグナムは慌てた動作で立ち上がった。


「なんや、シグナム起きたんか?」
「…主?」


 声は上の方から聞こえた。なんと、はやては木の枝に座って、こちらを見下ろしていた。その光景を見て、シグナムは思わず安堵の息を零さずにはいられなかった。自分の嫌な予感が当たらなかった事に心底、安心した故である。
 その様子を見てから、はやては木に手を掛けて、ぶら下がるようにしてから、木から手を離した。重力の法則に従ってはやては地面へと落ちて行き、着地する。
 思わず、シグナムは思う。身軽な物だ、と。これは元来、森で生活を続けてきたはやてだからこそ出来る事。はやては、着地の衝撃を逃がす為に折り曲げていた足を立たせ、軽く片手を上げて、シグナムに笑みを見せた。


「おはようさん」
「はい、おはようございます」


 人付き合いは挨拶から始まる。まず、互いに朝の挨拶を済ませてから、今日の1日は始まっていく。シグナムはふと、はやてはいつから起きていたのかが気になった。自分より早く起きていたようだが、一体いつから起きていたのだろうか?


「主はいつから起きていらっしゃったのですか?」
「んー? 1時間ぐらい前からやない。後は木の上でボーッ、としてたけど」


 1時間。日本で言うなら、まだ6時になるか、ならないかぐらいの時間だろう。早いと言えば、早いのかもしれない。遅いと言えば、遅いのかもしれない。つまり、どちらでもなく普通の時間に彼女は起きていたのだろう。
 何かしでかしたわけでもなかったので、本当に安心した、とシグナムは思う。この主は目を離すと何をしでかすかわからないからだ。


「さて、と。朝食の方も調達せんとな。保存食は一応あるとはいえ、出来るなら消費は避けたい所やし」
「それならば、シャマル達を起こしてからにしましょう」
「せやな。一応、木の上からザッ、と見たけど、あっちの方角に水場が見えたからそこに行かんか? 水も調達出来るかもしれへんし、魚もおるかもしれんしな」


 はやての提案に、シグナムは頷いた。ぼーっ、としていた、という割りには今後の事について良く考えている。普段はやはり、しっかりとしている人なのだな、とシグナムは感想を覚える。出来れば、ずっとそのままで居て欲しいと思うのだが、どうなのかはまだわからない。


(本当に、不思議な方だ)


 一見、しっかりとしているかと思えば、目を離せば子供のような真似をし出す。
 つかみ所が無い。そう言えば良いのか、シグナムははやての事をそう評価していた。
 その評価も当然と言えば当然なのかもしれない。何故ならば、まだ、彼女等は出会って1日しか経っていないのだから…。





+++++





 さて、時間はやや、先へと進む。経過を説明するならば、あの後、眠っていたシャマル達を起こし、はやて達一向は、はやてが発見したという水場に来ていた。
 水場。広さでいえば中規模ぐらいの湖であろうか。水事態はそうそう汚れておらず、十分、飲み水として使える物であった。はやてが持っていたペットボトルにそれ等を補充し終わった頃だ。
 ふと、シグナムは辺りを見渡した。水を入れたペットボトルを、シャマルが纏めている。ヴィータはシャマルに注意されながらも、渋々と手伝っている。ザフィーラはそれを傍で寝そべりながら見つめている。
 はて? 誰かいない、ような……。


「主はどこへ?」
「…え?」
「…あん?」
「…む?」


 シグナムの問いかけに、ヴォルケンリッター全員が疑問の声を挙げる。そして、僅かな間を置いて。


「はやてちゃぁああああああああんっっ!!」
「あんにゃろまたかぁああああああっっ!!」
「探せぇぇえええええええっっ!!」
「そんな騒がなくてもここにおるわっ!!!」


 ヴォルケンリッターの慌てた声に、森の方から歩いてきたはやてが怒鳴り声を上げる。それに、一斉に振り向き、ジト目を向けるヴォルケンリッター。また何かしでかしたのではないか、と猜疑の目を向ける。
 それを気にした様子は無く、はやては首を回して骨の音を鳴らしながら。


「寝てたんや。朝やっぱり早く起きすぎたな」
「……そうですか。何かしでかしたわけではないのですね?」
「うん」


 それに、脱力しながらヴォルケンリッター全員が深い、ただ深い溜息を零すのであった。そのまま膝と両手が地に着きそうな程だ。ザフィーラは頭を垂れるのみだが。
 その様子を横目で眺めながら、はやては、遠い空の方角へと視線を向けるのであった。



+++++



 その夜。はやて達は湖の近くで休んでいた。はやてが「今日、動くの面倒臭い」という理由で、ここに残る事になったのだ。当初は、興味心からまたどこかへ行こう、というかと思っていたシグナム達は怪しげに思った物だ。
 だが、結局はやては何も行動を起こさず、そのままグーダラと横になっているだけであった。


「…何か企んでいるのではないか?」


 ふと、はやてから少々離れた所で、火を炊いていたシグナムは小さく呟いた。それにヴィータも、同意するように細目を浮かべて頷いた。それにシャマルが困ったような顔を浮かべて。


「…あんまり疑いたくないけど」
「信用がねぇんだよ。アイツには」
「…そうなんだけどね」


 困ったように、シグナムとヴィータ、シャマルは溜息を吐くのであった。その様子を眺めてから、ザフィーラははやての方へと視線を向けていた。はやては仰向けに寝転がり、ただ、星空を見上げているだけであった。



 それから、すぐに、ヴォルケンリッター達は寝入った。火の番を任されたザフィーラははやてを眺めていた。はやてはこちらにやってこようとはせず、ただ、そのまま眠っているように見える。
 その距離感に、ザフィーラは目を細めた。明らかに、避けられている。


「主。そちらは寒くありませんか?」
「……別に」


 まだ起きていたようだ。やや、無感情な声がザフィーラの耳に届く。普段の快活な彼女の様子からは、見て取れないような態度にザフィーラは主に対しての興味心を持った。
 ゆったりとした動作で、シグナム達が起きないようにしながら、はやての方へと歩み寄り、はやての傍に腰を下ろした。


「…迷惑ですか?」
「…別に」
「私が隣に居る事ではなく、我等が共に居る事が、です」
「……」


 はやての返答は、沈黙。答えたくないという意思表示なのだろうか。寝返りを打ってザフィーラに背を向ける。明らかな拒絶に、ザフィーラは溜息を吐き出した。
 どれだけの間を置いたか、はやてが、呟くような声を漏らした。


「…せやかて、仕様がないやろ。嫌やって言うても、アンタ等困るやろ…」
「……主」
「……どないせーちゅうんや。私、何も無いで?嬉しかったで。ドラゴン見たり出来て。心配されて。怒られて。そんなん…1年振りや。そんな体験させて貰って…私ばっかり、幸せで…なんか、そんな良いのかな、って。別にアンタ等にとって私はただの「主」でしかないやん。しかも、止めたい止めたい言うてるし…」


 この短い時間の間に、はやては多くの物を取り戻した。いや、取り戻しすぎた、というべきか。だからこそはやては怖くなってしまった。その居心地の良さに、はやては逆に居心地の悪さを感じていた。
 許されるのだろうか?そんな思いがぐるぐる巡る。


「最初は、振り回してやろ、と思った。自分勝手な主だったら勝手に愛想尽くしてくれるやろうな、って。でもな、心配してくれて…嬉しかったんや…。でも、それは「私」やなくて「主」だからやし……私、そんなんなりたくない。「主」になったから心配されるのって、違うんや。心配してくれるなら…「私」にして欲しかった」


 ソレは、子供の我が儘だ。はやてが望んだのは無償の愛だ。親が子を思うように、ごく当然なその愛。自分が主だから、愛して貰うのとは違う。主にはその者達を纏め、導く存在でなければならない。自分にはそれは重すぎる。そんな責任、重たすぎる。
 でも、愛してくれたのが嬉しかった。でも、それは自分の望んだ愛じゃなかった。だから、どうすれば良いか、もう自分でもわからなくなった。


「…我が儘や。私」


 そんな自分が、今は、嫌いになりそうだった。全てをありのままに受け入れられれば良かったのに、と自分を責め立てる。ザフィーラに背を向けながら、はやては一滴、涙を零すのであった。
 沈黙がはやてとザフィーラの間に生まれていた。
 その沈黙はただ重く…。その重さが更なる沈黙を産み、互いに無言のまま時間だけが過ぎていく…。
 その沈黙を破ったのは意外にもザフィーラの方からだった。


「…主…いえ…」


 はやてを呼ぶザフィーラの声はどこか戸惑い気に、そして、どこか躊躇するようで。
 だが、躊躇しながらも、ザフィーラは再度口を開いて声を挙げた。


「はやて」
「…ふぇ…?」


 ザフィーラに自分の名を呼ばれ、はやては思わず呆気取られたような顔を浮かべる。
 ほんのさっきまで主と呼んでいた彼が唐突に自分の名前を呼んだ事に驚きを隠せない。
 だが、気を使わせてしまったのだろう、とはやては感じた。こんな思い話をしていれば誰だって気を使わなければ、と思ってしまうに違いない。
 そうはやては結論づけて明るい調子でザフィーラに笑いかけた。


「なんや。気使わんでえぇんで?」
「いや。それはこちらの台詞だろう」


 だがそんなはやての様子に、ザフィーラは敬語から崩した喋り方ではやてに語りかけるのであった…。


「改めて…済まなかった。そこまで我等の存在が重たいと思っていたとは…正直思わなかった」
「いや、せやかてそれは…」
「だが、敢えて言わせて貰おう。…ありがとう、と」
「…は?」



 唐突に言われた礼の言葉にはやては動きを止めざるを得なかった。
 一体どういう事なのか、はやてはさっぱりわからず狼狽えるだけだ。
 そんな狼狽えるはやてを見てザフィーラは僅かに口元を歪め、軽く息を吐きながら笑みを浮かべる。


「正直そこまで思われているとは考えていなかったのだ。我等が「個人」として認められたのは記憶に無い事だからな。だから、どうすれば良いかわからなかったのは…正直こちらもだった」
「…ザフィーラ」
「つまりはそれは…俺たちがそれだけ身近に感じてくれているという事の表れであろう?」


 ザフィーラの声は優しい。その声にはやては思わず何も言えなくなってしまう。
 恥ずかしかったのか、それとも嬉しかったのか。とにかくはやては言葉を失い、沈黙してしまった。
 確かに、今まで寂しかったのは事実だ。1人の食事、1人の生活。それにはやては耐えられる事が出来たのは今までそうであったからだけだ。
 だが、はやてはこうしてシグナム達の存在を通して知ってしまった。人と接する事の温もりを。忘れていた暖かみを。
 だからこそ我が儘になってしまった。私は「主」じゃなくて、「八神はやて」なんだ、と。
 義務じゃなくて、私を見て、と。もっと私の事を知って欲しいと、もっと私の事を思って欲しいと。構って、欲しいと。


「…なぁ、ザフィーラ?」
「…何だ?」
「私はな、今までずっと1人やった。1年くらいまでは石田先生って言うて、私の主治医の先生もおったんや」
「…そうなのか」
「うん。その先生はな、凄く、優しくてな。私は大好きやった。大好きやったから、遠ざけた」


 遠ざけた、と告げたはやての言葉にザフィーラははやての方へと向いた。
 はやては背を向ける体勢から空を見上げるように仰向けとなり、瞳を閉じながら言葉を続けた。
 それはまるで遠い過去の映像に思いを馳せているようにも見える。


「どうしてだ?」
「…んー。良くも悪くも、頭良かったからかな」
「…ふっ、自分で頭が良いとか言うな」
「実際えぇで? 舐めたらあかんわ」


 ケラケラとはやては笑い声を零す。ザフィーラははやてから視線を空へと移し、はやての声に耳を傾ける。


「…石田先生の抱えてる患者さんは私一人やなかった。だから甘えたり、我が儘言ったりは出来へん。そんな事したら迷惑になるだけやから。小さい頃から、ずっとわかってたんや。私には…甘えられる人なんていないって」


 はやてが甘えられる人間など本当にいなかった。出会う人は家庭を持った近所の人や、病院で出会う病人などの入院患者ぐらいだ。
 そんな出会う人たちが何かしらの事情を抱えている中で、はやては誰かに甘えるという事が出来ないという事を理解してしまっていたのだ。
 だからこそ、はやては気丈に振る舞った。話せるだけでも、名前を呼んでくれるだけでも十分だと思うようになった。ほんの少しの心配だけでも十分だった。
 だが、はやての足が治り、こうして「はやての為だけに存在する」と言っても過言ではないヴォルケンリッター達と出会ってはやては望んでしまった。
 甘えたい、と。その今まで封じてきた思いを。だがそれはまたはやての立場によって遮られる事となる。
 主という、彼等を束ねば、導かなければならぬ存在。それがはやての立ち位置だった。甘えるなど出来なかった…。


「だから、勝手に振る舞った訳か。我等が我等で動いてくれる事を望むために」
「……そうや」
「なら、俺は俺の意志でお前に言うぞ、はやて」


 ザフィーラは身体を起こして、はやてを真っ直ぐに視線を向けながら言う。


「俺は闇の書の守護獣。盾の守護獣、ザフィーラ。闇の書の主として…そして、八神はやてとして俺はお前を護る盾になる。だから、望めば良い。俺は可能な限り応えよう」


 真っ直ぐな意志を以てザフィーラははやてに告げた。はやての瞳が開かれ、ザフィーラを見つめた。
 次第にはやての瞳が潤んできたのをザフィーラは見た。はやては手でそれを拭う。何度も、何度も、止まれと命じながら。


「…っ…嘘…」
「嘘じゃない」
「…私…何も返してやれんよ…っ…」
「もう十分だ」
「…納得、いかへん…っ…」


 護られる存在なんかじゃない、とはやては告げる。傍に居て価値のある人じゃない、とはやては告げる。
 それははやての防御壁。それが崩れれば孤独な心は折れてしまうから。誰かに尽くさねば、と思う事で封じてきた甘えへの戒め。
 それをはやてが出したのは意図的なものだったのか、それとも無意識のものだったのか。
 どちらでも良い、とザフィーラは断じて言葉を続ける。


「俺は、幸せだろうよ」
「…っ…」
「こんなに素晴らしい主が、素晴らしい仲間がいる。それを誇れる事が幸せだ」
「…ザ、フィ…ラ…」


 それ以上は言葉はなかった。ザフィーラはただはやてを見つめる。
 はやては暫く涙を拭う手で瞳を押さえ、涙を抑えていたが、ゆっくりと身体を起こすのと同時に、目を開けて。


「…犬の癖に生意気や」
「い、犬っ!? 俺は狼だっ!!」
「あははっ、変わらん変わらんっ!!」


 はやては涙の後が残る顔を満面の笑顔に変えて笑った。犬呼ばわりされたザフィーラは憤慨していたが、はやての顔を見れば小さく笑みを零した。
 暫く2人は笑い合っていた。それが楽しくて仕様がないと言わんばかりに、ただ彼等は笑い続けた…。





++++++





 翌日、シグナム達は眠りから目を覚ますと、はやてとザフィーラの姿が無い事に気づく。
 一体どこに行ったのか、とシグナムが首を傾げていると湖の出島のようになっている部分で1人の見慣れた男が何やら竿を立て、糸を垂らしている姿が見えた。
 思わず目を擦り、その姿が幻影でない事を確認すると、それと同時に糸が引っ張られるように反応を見せる。
 まるで動きを見せなかったその男は竿を掴むと、一気に力を込め、糸の先にかかった獲物を水の中から宙へと引っ張り出した。


「ヒットォォォッッ!!」


 …いやいや、ちょっと待て、とシグナムは額を抑えた。
 今、あそこにいるのは恐らくザフィーラだ。いや、多分ザフィーラだ。およそザフィーラだ。きっとザフィーラだ。うん、ザフィーラだ。
 そのザフィーラが、「ヒットォォォッ!!」と叫んでいる? あり得ない。あり得るわけがない。一体何がどうなってこうなって、今に至る?
 あぁ、そうか。私はまだ夢の続きにいるのだな、とシグナムは横になろうとした。


「ちょ、おいっ、シグナムッ!! 現実逃避するなっ!! 目を向けろ!! あれが現実だっ!!」
「はははは、何を言っている? ヴィータ。下らん冗談は私は好きでは無いな」
「冗談だったらどれだけ良いのかしらねぇ…」


 必死にシグナムを揺らし、現実を見据えさせるように叫ぶヴィータ。だがシグナムは連日のストレスからか、現実逃避へと走る気満々である。
 そんな2人のやり取りを見ながらシャマルは溜息を吐いた。竿で吊り上げた獲物を両手で持ってはしゃいでいるはやてと、再び竿の準備をしながら楽しげに談笑しているザフィーラが見える。


「…一体何がどうなってるの?」


 頭痛を抑えながら、シャマルは呻くように呟いた。私もシグナムのように現実逃避しようかしら、と本気で考えるシャマル。
 今度ははやてが竿を握り、糸を垂らしている。その間もザフィーラと談笑している姿が見え、シャマルは目眩がしそうだった。


(ザフィーラ…昨晩、一体何があったのっ!?)


 シャマルが悩む中、再び竿に当たりが来たのかはやてが竿を握っている。
 暫くすると、はやてがぽーん、という音が似合うように竿ごと湖の中に飛び込んでいく姿を見て、シャマルはようやく再起動する事が出来たと言う。




+++++





「こら、動くな」
「うーやー、くすぐったいーっ」


 湖の中に落ちてしまったはやては当然の如くずぶ濡れ。そのはやての髪をタオルで拭いているのはザフィーラだ。
 はやては楽しげにザフィーラの邪魔をして遊んでいる。ザフィーラは時折それに注意をしながらはやての髪をタオルで丁重に拭いている。
 その光景を、シグナム、ヴィータ、シャマルは一歩引いた所からあり得ないものを見るような見ていた。


「ど、どうなっているんだ…?」
「わ、私が知るかよ…っ」
「さ、昨夜何があったんだと思うけど…」


 不気味だ…と三人は思わず声を揃えずにはいられなかった。あの仏頂面の代名詞と行っても良いザフィーラがはやての髪をタオルで拭いているという光景があり得なさすぎて逆に笑ってしまう。
 だが、現実を直視すれば笑えない現状が目の前にある。はやては自分たちが護るべき主である。だがはやては歴代の主とは異なり、正直どのように付き合えば良いのかわからない。
 わからないからこそ、親しげに触れあいを楽しんでいるように見えるザフィーラをあり得ないものを見る様な目で見てしまう。
 一体どうすれば良いのか、と3人ははやてとザフィーラを半ば呆然と見つめるしか出来なかった…。
スポンサーサイト
トラックバック(0)+ +コメント(0)
創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.12 ≪ BACK ≪ HOME ≫ NEXT ≫ 創魔の疾風 =A girl creates the world= 10

管理者にだけ表示を許可する
HOME
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログ内検索
リンク
カテゴリー
最近のコメント

 
 
 
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。