次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=  第2章 20
2010/10/13 Wedリリカル・クロニクル
『一度地に塗れたからといって、その追放によって天界を空にしたほどの強大な軍団が、死力を尽くし再び空に昇り、故郷を再びこの手に取り戻せないなどと、誰が信じられるだろうか?』――ミルトンの「失楽園」より。





 誰が信じられるだろうか? 人の身で神を打倒する者など。
 誰が信じられるだろうか? その者はかつて全てを失う程の絶望を得た者だと。
 誰が信じられるだろうか? その者は未だ年若く、まだ約10年程しか数えていないと。
 誰が信じられるだろうか? 否、誰も信じられぬ。それはあり得ぬ事だ。
 だが、しかし。
 現実は乗り越える為にあるように。
 理想は叶える為に存在しているように。
 夢は現へと。幻は実へと。彼の者は塗り替えていく。誰の意志も正否も問わず、誰の真偽を意図せず、ただ己の意志と力によって道を切り開いていく…。
 空に閃光が走った。桜色の光尾だ。光の尾を引いて飛んでゆくのは翼を広げた天使。否、堕天使と呼ぶべきなのだろう。その名、その経歴、彼女の意志、夢、願望、全てを含めてそれは堕天使と称されるべきものだろう。
 天使とは本来、神の使いとされている。神の意志に従い、神の代行者として従う。ならば堕天使の意とは反逆する事にある。それは神に対してであり、更に自分という存在に対してでもあり、世界に対してでもあり。それは自らの意志で世界を作っていく神の所行に相反する大罪。
 その堕天使の中でもかの有名な魔王である「サタン」と同一視され、更に明けの明星という偉大な名を冠する偉大なる堕天使の名を象る相棒を引き連れた彼女は正に堕天使と言うべき在り方をしている。
 世界の全てに反逆してでも、彼女には守りたい者があり、譲れない物があり、叶えたい願いがある。だからこそ臆せず、彼女は空を舞う。その背に一度は折れ、されどかつての輝きを越える翼を背に。


「Me-Ssiahッ!!」
『Divine Saber』


 なのはの呼びかけに対してMe-Ssiahはタイムラグをほぼゼロにして応える。桜色の光剣。その名に込められた意味は神断つ剣。Me-Ssiahの弾倉にシリンダーが装填される。瞬間、世界に概念条文が追加される。

・―――名は力を持つ。


 名は力を与える。神を断つ剣と意を定義された剣は迫る蚩尤をあっさりと切り裂いていく。だが以前のように光は力を持つ概念を追加していない為にただ切り裂く事しか出来ない。
 だがそれで十分。なのはは空を舞い、迫る蚩尤に真っ向から向かっていく。拳が来ればその拳を避け、その腕を走るように踏みけり、間接部を狙って刃を突き刺す。突き刺せばそのまま翼を羽ばたかせて突き破る。
 鈍い音を立ててまた蚩尤の腕が一本落ちた。その度に無数の蚩尤から叫び声が聞こえる。なのははそれに意を介せずに次の蚩尤へと飛びかかるようにして翼を羽ばたかせる。
 だが相手もただ黙っている訳ではない。なのはに対して降り注ぐのは銃弾。そしてミサイルだ。


『Valkyrie Cape』


 それに対してなのはが展開するのはなのはが纏っている鎧から展開される障壁だ。戦女神の羽衣の名を冠するその鎧は魔力こそ食うものの、その防御力は高い。だがそれでも攻撃を受け止めれば衝撃は来る。
 銃弾を受け止める衝撃になのはは眉を顰める。完全に防御が出来ている。出力に関しては問題ない。むしろ絶好調な程だ。リンカーコアは問題無い。だがそれでも耳を劈くような音を衝撃はやはり不愉快だ。
 銃弾は受けるなのはだったが、流石にミサイルほどとなると真っ直ぐに突っ込むのは迂闊。――だからこそなのはは翼を羽ばたかせる。森に突っ込むように地上へと落下していく。Me-Ssiahの弾倉からシリンダーが抜け、別のシリンダーが装填される。


・―――重力は下に落ちるものである。


 なのはの落下速度が跳ね上がる。それはまるで空から落ち行く流星のように。だがなのははそのまま着地し、地を踏み砕いた。踏み砕くインパクトの瞬間に頭上を下とマルチタスクを総動員して認識。大地が爆ぜるようにして小規模のクレーターが発生するもなのはは無傷。
 なのはは翼の光を消し、地を勢いよく蹴った。レイジングハートが魔法による補助を行い、なのはは地を踏み砕きながら森の中を勢いよく駆け抜けていく。地を蹴り、枝を蹴り、木の幹を蹴る。その度になのはの鉄靴の後が残されてゆく。
 森に身を隠すようにして移動するなのはに対して蚩尤が放ったのは―――周囲を蹂躙し尽くす全武装による殲滅放火だ。


『シネェェエエエエエエエエエエエエッッ!!!!』


 一瞬にして森が抉られていく。鼓膜を破っても尚まだ足りないと言わんばかりの轟音が連続として響く。その結果、得られていくのは穿たれた大地だけだ。そこには草木の根すらも掘り起こし、命無き死の大地へと変えていく。
 地を抉った事により噴煙が舞う。だがそれでも気にせずに蚩尤達は攻撃を続けていく。大地が更に穿たれても尚気にしない。ただ破壊と蹂躙の為に蚩尤達は狂ったように攻撃を繰り返す。
 その攻撃のリズムが崩れたのは―――噴煙を切り裂いて現れた桜色の光球による反撃。


『Accel Shooter!!』


 それはなのはではなくレイジングハートの独立させて発動させた魔法だった。それは蚩尤の重火器の一部を穿ち、爆発させる。だがそれで終わらない。重火器を穿った光球は更に空へと舞い上がり。


『Turn! Gear Change!!  From low to second!!』


 光球の形状がやや鋭角なものへと変わる。すると先ほどよりも光球が速度を増して蚩尤へと迫った。先ほどよりも鋭角的な軌道を描きながら突き進んでくる光球は蚩尤の頭部を撃ち貫いた。


『Gear Change! From second to a third! From third to top! From top to high top!! control out! Fire!!』


 更に光弾は加速し、制御を失い直進するだけの弾丸へと変わる。アクセルを車のギアに見立てて意味を与えたアクセルシューターは最早直射弾と変わらぬ効果を発揮し、蚩尤の武装やボディを穿ってゆく。
 だが、それでも蚩尤達はまだ動いている。なのはの唇から舌打ちが零れる。地を勢いよく蹴り、空を下だと認識してなのはは空へと吸い込まれて行くように落ちて行く。翼が再び開く。桜色の閃光を噴出させてなのはは自由自在に空を舞う。
 なのはの瞳は探す。迫る銃弾を翼を羽ばたかせ、障壁で防ぎ、レイジングハートに迎撃させながらなのはは探していた。無数に迫る蚩尤達の中からある一機の機体を。


『推測だが』


 脳裏に蘇るのはジェイルの声だ。


『例の武神の連携は、おそらく自動人形のネットワークに近いものがあると推測する。だがそれは1つの意志によって動かされている事は間違いなしだ。ならば命令を下す指揮官機、つまり、王・偉本体を倒せばネットワークは断たれ、その瞬間、蚩尤は沈黙するだろう』


 それはジェイルが数少ない蚩尤の情報を得て推測した蚩尤の攻略方法であった。蚩尤は確かにその物量も恐ろしいが、動きに迷いが無いのもまた厄介である。だが、だからこそそこに付け入る隙がある。
 奴の狙いはなのはにある、という事が、だ。だからこそなのははこの戦場で一人で戦う事を選んだ。元々そのつもりでもあったなのはにとっては好都合だ。自然とMe-Ssiahを握るなのはの力が強くなる。


「レイジングハート!! もっと魔力を持っていって良いからもっと撃って!!」
『Tes.狙い撃たせていただきます!!』


 誘導弾の処理をレイジングハートに任せながらなのはは空を舞った。まだ、機会は来ない。迫る武神の腕を斜めに交差させるようにして切断し、その切断した武神の腕をなのはは思い切り蹴り飛ばす。
 レイジングハートの補助も加わったなのはの身体能力に加え、重力は下に落ちるという概念を得ているなのはの蹴り飛ばした蚩尤の腕は勢いよく落下していき、別の蚩尤へとぶち当たる。衝突音が聞こえ、蚩尤の一機が落下していく。


「次ッ!!」


 まだ、戦いは終わりの気配を見せない。





    ●





 ウーノはレイジングハートを通して送られるなのはのバイタルデータを閲覧していた。そこから表示されている情報は戦闘続行には問題なしと告げられている。だが明らかにゲージが減っている事からそれが消耗を表しているのだろう。
 それとは別にウーノは別のウィンドゥを展開して様々に展開されるバイタルデータに対して適切な処置を施し、それを指示として送る。それを実際に治療として行うのはジェイルだ。チンクやトーレも手伝いはしているが、彼女達が出来るのは軽傷の者達だけだ。
 故に手の空いたチンクがウーノの下へと向かっていき、彼女の見ているウィンドゥを覗き込むように視線を向けて。


「ウーノ。なのははどうだ?」
「Tes.善戦しております。ただ魔力が予想の2%以上削られています」
「…そうか」


 チンクの感嘆の息はどういう意味を孕むのか、それはチンク自身にもわからなかなった。チンクが思い出すのはレイジングハートが新たにレイジングハート・ルシファーとして生まれ変わった後のテストの記憶。
 一度、なのはとレイジングハートがユニゾンした状態でチンクはトーレと組んで戦ったが――手も足も出なかった。トーレは善戦こそしたが、自分は誘導弾を捌くので十分であった。
 それは本人の特質というのもある。チンクは奇襲及び大量破壊を目的とした能力だ。対人戦でも効果を発揮しないという訳ではないが、それでもなのはには勝てなかった。
 あれは相性などという問題ではない。全てを超越した存在だ、とチンクはなのはとレイジングハートがユニゾンした状態を称している。
 概念の変更によって様々な戦闘スタイルを構築が出来、更にはその身1つで武神や機竜と張り合おうと思えば可能。ジェイルは、「あれは正にチートだね」と軽く笑っていたのをチンクは思い出す。


「だが、その反動は決して楽なものじゃない」
「その為のレイジングハートです」
「だが、彼女とて無限にフォローが出来る訳では…」
「アイツはアイツのやる事をして、私達は私達のやる事をするだけだ。それだけだろう、チンク」
「トーレ」


 トーレも手が空いたのか、トーレも2人へと歩み寄りながら言う。


「…しかし、ドクターには苦労をかけるな。ドゥーエとクアットロがいれば良いんだが…」
「2人は中国だから無理だ。色々と工作もあったからな」
「…ドクターは気にならないのかな?」


 チンクの何気ない呟きは彼女の疑問だった。チンクは何かとなのはとジェイルの距離感を最近得た知識からなんとなくそういうものなんだろうな、と感じていた。言うならば互いに好き合っている状態だろう。
 だからこそ、チンクが見聞きしてきた情報との齟齬が彼女に疑問を持たせる。ジェイルはなのはが好きなのだろう、ならば好きな人が無理をして戦場に行くのを心配しないのだろうか? 失う事に対しての恐怖は無いのだろうか?


「…チンクはまだまだですね」
「…何?」
「信じてる。信じるというのは一番難しく、一番身勝手で、一番有り難い在り方なのでしょう。でも、互いに互いの道を選んで、その境界線上を選ぶ2人なら。それが、きっと一番幸いな在り方なのでしょう」


 ウーノの言葉に、不意にチンクは視線をジェイルへと向けた。そこにはいつもと同じ何食わぬ顔で治療を施しているジェイルの姿が見える。信じているから、何も変わらない? また彼女と会えていると信じているから、変わらなくて良い? わざわざ特別にする事でもないと彼はそう言っているようで。


「十人十色、千差万別。世界は無限の可能性に溢れてるのですよ、チンク」
「…それは、わかってるよ」


 ただ、とチンクは呟いて。


「…強いなぁ、あの2人は」
「いいえ。ただの我が儘で身勝手なだけですよ。――だから、安心して背中を預けられるのでしょうね」


 互いに身勝手だから。だけど目指す場所は同じで、埋め合うように傍に居られるから。
 ウーノの言葉を受けてチンクは今度は苦笑すら浮かべた。やっぱりわからない、と。理解は出来ないと、自分にはそう考えられない、と。
 だから、それはきっと2人にしか無い絆なんだろうな、とチンクは考えて思う。いいな、と。それは自分には理解出来ぬ事ではあるが、確かな幸せなのだろうな、と。


「…勝つよな」
「勝ってくるでしょう。いいえ、勝ちます」
「それとも、信じられぬかチンク? 私達を敗北させ、ドクターと姉妹が全力を注ぎ作り上げ、それを使いこなす高町の事を」
「生憎、私は臆病ものなんでな」
「いいさ。それも個性だ」


 ぽん、とトーレはチンクの頭に手を置いて撫でる。おい、とチンクは嫌そうな顔をしてトーレの手を払いのけようとして。


「あ…」


 そんなウーノの言葉を共に、なのはのバイタルデータに一気に変動が見られた。魔力値が一気に減少したのだ。ゲージが見るからに減っていき、体に与えられたダメージがレッドアラートへと変わった。


「―――なのはッ!?」


 届かぬと知りながらも、チンクは焦燥に駆られた声で彼女の名を呼んだ。





    ●





 一体、どれだけの腕を切り落としたか。
 一体、どれだけの足を切り落としたか。
 一体、どれだけの胴体を両断したのか。
 一体、どれだけの重火器を撃ち抜いたか。
 荒れ地と変化した森の地、無数に切り落とされた武神の一部。そこに膝を突いたなのは。吐き出す息は荒く、体の所々からは血が滲み出ている。吐き出す吐息には時折血痰が混じる。大地を少量のなのはの血が汚す。
 空にはまだ無数の蚩尤が構えている。なのはは睨み付けるように空を見上げる。数はやはり減ったが、それでも多い。恐らくは半分以上は撃破した。だがそこから敵の動きが変わったのだ。


「…自爆…攻撃…ね…」


 かは、と口の中に溜まった血を吐き出しながらなのはは呟く。なのはの纏っていた鎧は損傷が見られ、バリアジャケットも吹き飛んだ箇所がある。そこから血が滲み、ぽたぽたと音を立てて落ちていく。
 そう、敵は武神そのものを爆弾に変えて突撃させてきたのだ。武神ほどの質量を持つものが一気に爆発をし、なのははその防御にかなりの魔力を回してしまった。衝撃によって聴覚が上手く機能しきれていない。なんとかレイジングハートの補助で立ってはいられるが、それでも危うい。
 万事休す、まさになのはの状態はそう称するに値する状況だった。――だが、それでもなのはは立った。震える子鹿のような立ち方だが、それでも立ち上がり、空に上がる蚩尤達を睨み付ける。


『マスター…申し訳ありません…』
「…いい、大丈夫だよ、レイジングハート…」


 はぁ、はぁ、となのはは息を吐き出す。一歩、二歩と揺らめくように前へと歩き空を見上げる。そして、なのはへと突撃してくる蚩尤の群れ。構えられるのはありったけの武装だ。


『シネヨヤァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!』


 迫る。少しずつ迫る蚩尤。四方から銃弾が放たれ、天空から押しつぶすように拳を構えた蚩尤が迫り、その距離がゼロになり…。





 ―――これで…終わりにするから。





 桜色の閃光が奔った。それは大地に描かれた巨大な魔法陣だった。それはなのはを中心として蚩尤全てを魔法陣の上に乗せるように広範囲に広がっていた。なのはに放たれた銃弾はレイジングハートがヴァルキリーケープに魔力を注いで防御に回す。
 そして形成された魔法陣から伸びたのは桜色の戒めの鎖だ。それは魔法陣の至る所か伸び、蚩尤を一機たりとも残さずに捕らえていく。一機、また一機と蚩尤はその戒めに囚われ、動きを束縛される。


『ナニィィィイイイッッッ!?!?』


 まさか、という事態に蚩尤から怨嗟の声が挙げられる。それになのはは、血をペッ、と吐き出して、唇の端を吊り上げるようにして。


「予測はしてたんだよ。ちょっと弱った振りをすればそこに付け入る、って。まぁ、その弱った振りを出来る攻撃をさせるのにちょっと苦労したけど」
『自爆とは予想外でしたしね』


 はは、となのはは笑う。だが、その目は明らかに笑っていなかった。


「……問うよ、王・偉。私が数えた武神の数は全部で80体。伝承通りに合わせた? それとも伝承通りの数しか用意出来なかった? うん、そんな些細な事はどうでも良いや。王・偉…私の為に、80人も越える犠牲を出したんだね?」


 もう一度、はは、となのはは笑った。つぅ、となのはの頬に伝うものがあった。それは、涙だ。


「…それを、捨て駒のように使って、更に自爆させた…。悪いって、言えないよね。憎いんだもんね。私が。御神が、不破が、お爺ちゃんが、お婆ちゃんが。憎くて、憎くてしようがなくて、狂っちゃったんだよね」


 はは、はは、となのはは笑う。嗤って。嗤って。


「…もう、…たくさんだよ―――ッ!!!!」


 吠えた。叩き付けるようにしてなのはは叫んだ。瞳から涙を止め止めなく流しながら未だ戒めを解こうとしている蚩尤を睨み付けてなのはは叫んだ。


「憎んで、憎まれて、傷付けて、傷付けられてッ!! 怨んで、妬んで、悲しんで!! それが力と変わって、また新たな憎しみが生まれて、また、増えていって!! もう、そんなのたくさんだっ!! もう、たくさんだっ!!」


 たくさんだよ、となのはは叫びすぎて途切れそうになった声で呟いた。


「…だから、終わりにしよう。終わりにしたいんだ。終わりにさせて欲しいんだ。いいや、終わりにさせるんだ…っ!! だから…」


 すぅ、となのはは息を吸う。一度瞳を閉じる。涙は止まらない。体の震えも止まらない。心は軋んで、胸が痛みを帯びる。


「――宣言する。私は、貴方を殺す。殺すよ!! 殺して、全部終わらせる。終わらせて…そして……ずっと、忘れないよ。忘れないよっ! 貴方という存在が居たという事をっ!! 私の存在に組み込むから!! だからっ!!!!」


 胸部装甲に埋め込まれた赤の宝玉が光を帯びた。そして膨れあがる桜色の光が大地を砕く。なのはの体が宙へと浮き、魔力の奔流が鎧へと取り込まれていく。それは鎧を修復し、更にその姿を変貌させていく。
 それは更に鋭利なものへと変わっていく。なのはの頭に角を模したような髪飾りが付けられ、手甲は爪のように尖りなのはの手を覆う。鉄靴はまるで爪のように。翼もまた大きく開き、桜色の翼を広げた。
 更には装甲の背部からチェーンのような物が伸びる。それはまるで尻尾のようだ。それがうねるように宙へと振るわれる。


『Limit Release. Over Drive!! Mode「Satan」!!』


 空気が震えていた。
 世界が嘆くかのようだった。あぁ、いや、世界は嘆いていたのかも知れない。
 平伏すべき魔王が降臨してしまった事を。その魔王が涙を流していたから。だから世界もまた泣いていたのかもしれない。
 だから、となのはは先ほど強く叫んだ言葉を繰り返した。強く握るのはMe-Ssiahだ。Me-Ssiahもまたその身を震わせていた。そしてコアが力強く輝き出した。


「願うよッ!! どうか、それで―――貴方は救われてくれませんかっ!?」


 どうか。


「私は貴方を忘れないからッ!!」


 どうか。


「貴方の痛みを知って私は泣くからッ!!」


 どうか。


「貴方を思い出して後悔するからッ!!」


 どうか。


「貴方を繰り返さないように頑張ってみるから!!」


 どうか。


「私はっ、…私はっ!! 貴方の事をきっと良くは思えないけれど、それでも貴方の為に花を添えられると思うからッ!! 私も憎いけど、でも…―――同じだからッ!!」


 だから。


「Me-Ssiah…ッ!! 私、あの人の涙を止めたいよッ!! あの人の憎しみを止めたいよッ!! それが私の救いだとするなら、その為の偽らぬ、違わぬ力になって!!!!」
『――――』


 瞬間、歌が響いた。
 Me-Ssiahから流れる声。それは2つの声だった。女と、男と。
 清しこの夜に。響き渡るのは聖なる歌。励ますように、慰めるように、優しく、優しくその歌は響き渡る。
 それは祈りの為の歌。聖なる歌を奏でる救世主はそのコアを点滅させた。歌を終えた2つの声はなのはに対してこう告げた。


『――Go Ahead!!』


 行け、と。なのはは幻視した。自分の両肩をそっと押してくれる恭也と雪花の姿を。
 握りしめる。うん、と。涙混じりの声でなのはは呟いて。


「私は、きっとこれからもこの涙を止めないよ。だから―――泣いたままで、いっか」


 ねぇ、と。無意識になのはは呟いて。


「ずっと、飽きずに、私の涙を拭ってくれる人は、この先にいるかな?」





    ●





「――――」


 それは、不意に。
 聞こえた訳じゃない。別に幻聴や、奇跡や夢みたいな、本当にマンガみたいな事が起こった訳じゃない。だが、それでも、きっと彼女は今、何かを問うたんじゃないかと。
 ジェイルは腰を上げた。治療の為に動かしていた手を一度止め、ふっ、と口元を緩めるようにして笑みを浮かべて。


「ここに、いるよ。なのは君」


 何故、こうも焦がれて。
 何故、こうも求めて。
 何故、こうも愛して。
 何故、と繰り返される疑問に答えが欲しい。
 だが、それすらも何故、で良い。
 きっと君は私に対していつも何故? と思わせてくれるだろう。
 君はいつだって規格外で、いつだって王道外れた道行く者。
 神すら殴り飛ばして、だけど殴った掌が痛くて泣いて、殴られた訳でもないのに相手の痛みを想像して泣いて、謝ったりする愚かな存在で。
 でも、だからこそ愛おしくて。理解できない愚かさを、何故、と彼女に問うて求めて、意味無き人生だと思う道に意味を見いだす彼女に触れたくて。


「私はここにいる。だから…」


 意味を求める道しか歩めぬ私に、無意味な道にも意味があると信じた君の道との交差点があるとしたら。
 そこは――――紛れもない自分の幸福だ。


「――おいで。私の傍でずっと泣いて良いよ。私は君を許すから、なのは君」





    ●





・――文字は力を持つ。
・――名は力を与える。
・――金属は命を持つ。
・――光とは力である。


 Me-Ssiahの弾倉にシリンダーに一気に装填され、概念が注入される。桜色の光はなのはの周囲を荒れ狂うように沸き立つ。世界が震え、大気が唸りを上げ、大地がひび割れていく。なのはは身を捩るように大きく髪を振り抜き、四肢に力を入れて吠えた。


「アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」


 吠える。その咆哮は世界をまた震わせていく。なのはの声に応えるように。


『魔法式は全て文字で作り上げたものだ! ならば、私を構成するものも全て力として持っていけ!!』


 レイジングハートが熱暴走してぼやける意識の中で必死に演算を続けていく。自らに与えられたコアが軋みをあげる。ユニゾンを解除すれば、明らかに自分も吐血して重傷の判定を受けるのは確定だ。
 だがそれでも砕けぬ訳がある。退けぬ訳がある。


『我が名、レイジングハート…! 主と共にありし、不屈の力だッ!!!!』


 文字が力を持ち、名は力を与え、金属は命を持ち、その全てを以てなのはの力へと変わって行く。三重の概念の重ね掛けによる強化によってMe-Ssiahに浮かび上がる光は異常なものとなっていく。
 結界が、砕ける。なのはの力に耐えきれず、レイジングハートの処理が追い付かずに結界が解けて行く。色が正常に戻っていく世界、だがなのははその世界をモノクロに見ていた。
 神速。なのははその状態へと入っていた。思考だけがただ早く、早く進んで行く。


 ―――いたいね。


 なのははMe-Ssiahを構える。Me-Ssiahから桜色の光が膨れあがり、なのはは紫電を発するMe-Ssiahを羽ばたくようにして振り抜き、空へと舞い上がる。


 ―――かなしいね。


 空へと舞い上がったなのはの姿を誰もが見ていた。その姿に、ただ、視線を送っていた。
 見惚れているのか、畏怖しているのか、それは誰にもわからなかった。だだ、目がそらせなかった。


 ―――くるしいね。


 なのははMe-Ssiahを振る。するとなのはの前方に魔法陣が形成される。集束していく光。なのはの涙も、なのはの全身から発露していく光も、何もかも吸い込んでいく。


「泣け! なのは君!」


 ふと、なのははその声を聞いた。地上からの声だった。


「誰が許さなくても良い! 君が泣きたいなら泣け!! もしも許しが欲しいなら――私が許そう! その全てを!!」


 誰もが声を発せぬ中、彼だけはその顔に笑みを浮かべて叫んだ。その顔を見て、姿を見て、なのはは力を抜いたような笑みを浮かべた。唇が小さく動き、何かの音を発しかけて、結局は唇の動きだけに終わる。
なのはは見据える。なのはの眼下にいる蚩尤の群を。そして見えた。――――それに、なのはは笑みを浮かべた。泣き笑いのような笑みだ。


「―――ありがとう」


 なのはは一度瞳を伏せ、そして、再び開くのと同時に勢いよく叫んだ。


「穿て、星光!! 願いを乗せて奔れッ!! この祈りを、届けてッ!!」


 魔法陣に集った光が紫電を帯びる。明らかな過剰出力だ。だが、それでも。


「スターライト…ブレイカァ――――ッッッッ!!!!!!!」
『Starlight Breaker Luciferion』


 なのはは、迷いもなくその光を解き放った。
 その光は呑み込んで行く。―――抵抗をやめたように動きを止めた蚩尤達を呑み込んで。世界が白の光に染まる中、爆音と爆風が一気に世界を揺るがした。





    ●





 静寂に染まって行く世界。
 なのはが放ったスターライトブレイカールシフェリオンが穿った巨大なクレーターの下に空から落ちて行く影がある。世界を穿った本人であるなのはとレイジングハートだ。気を失っているのか、彼等は力無く落ちて行く。
 そこに伸びる糸があった。それは2人を優しく包み込むように糸を編み、その落下の速度を緩めた。レイジングハートを抱き留めたのはトーレだ。すぐさまウーノが駆け寄り、レイジングハートの治療を行う。
 一方、なのはは糸を操った本人であるジェイルの下へと抱き寄せられた。横抱きにされた体勢でぐったりとなのははジェイルに体を預ける。そのなのはを抱きながら、ふぅ、とジェイルは溜息を吐き出す。


「…おつかれ様。なのは君。…良い答えは、得られたかい?」


 ジェイルの問いに、なのはからの返答は無い。無理もないか、とジェイルは思ってなのはの体を抱き直すようにして力を入れ直す。
 すると、なのはが身動ぎと共に瞳を開いた。薄くぼんやりと開かれた瞳はジェイルを映して、唇だけ動かしてジェイルの名を呼ぶ。そして、掠れるような声で彼女は言った。


「………最後、の…」
「…ん?」
「……蚩尤の、動き…止まってた…。…諦めて、くれたのかな…? …許して…くれたかな…? …認めて…貰ったかな…?」


 なのはは震える手でジェイルの頬に手を伸ばして問う。ジェイルはなのはの好きにさせながら、そっと耳元で囁くようにして。


「…もう、彼は答えてくれないよ。だから―――救われろよ、なのは君。それで良い。それで後悔しても良い。良かったって笑っても良い。何でも良いさ。だから、泣きたい時に泣けば良いさ。さぁ…―――泣いていいよ、なのは君」
「……ぅ…ん…っ……ぅんっ…!! うんっ!! うんっ!!」


 ぎゅっ、と瞳を固く瞑ってなのははジェイルの白衣の顔を押しつける。片手で白衣を引っ張って、声を押し殺して泣く。そんななのはをジェイルは優しく抱きしめるのであった。あぁ、と。やはりその涙は理解が出来ないなぁ、と笑みを浮かべてジェイルはただなのはの体を抱きしめるのであった。
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