次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=  第2章 19
2010/10/13 Wedリリカル・クロニクル
 人よ。過去を知りたまえ。
 人よ。過ちを知りたまえ。
 人よ。原罪を知りたまえ。
 人よ、そして君は絶望するかもしれない。
 だが、人よ。おぉ、人よ。
 人よ。未来を望みたまえ。
 人よ。正義を望みたまえ。
 人よ。贖罪を望みたまえ。
 人よ、そして君は希望を抱くだろう。
 いざ、人よ。あぁ、人よ。
 さぁ、遡る力に抗う力はあるか?
 さぁ、自らを望み行く心はあるか?
 さぁ、世の流れに逆らう意志はあるか?
 人よ、あぁ、おぉ、人よ。人よ。君は今、何を望み、ここに居て、その先を目指すのか。
 終わりか? それとも、始まりか?
 それは同じにして異なり、正しくて否定されるだろう。だが、それは起源である。
 行くのか人よ。その道を。それは誰もが1つずつ持つものであり、そして、同じ物であることを。
 人はそれをこう呼ぶのだろう。――明日、と。





     ●





 その日、空には無数の影が行く。
 その日、地には無数の影が這う。
 その日、世界は静かに震えていた。
 水面の底、水底で世界は水面を食い破ろうと荒れ狂う者共。権益か、欲望か、展望か。彼等は望むは先へと進む意志と夢。


『各隊に告げる。我々の目標はTop-Gの代表の使いである「高町なのは」という少女だ』


 概念を用いた通信を行う者共。彼等はターゲットである少女を確認した。まだ幼いその少女の容姿に誰もが息を呑み、手を震わせた。その反応を見越してか、彼は言葉を更に続けた。


『惑う者もいるかもしれない。だが、これは我等の為、そして世界の為だ。全てを救うなど望む事は愚か極まりない。それは神の領域だ。我等は人だ。だが、人故に神は越えられず、だが越えてゆく為の道を行かなければならない。その道はこの少女の死で彩るのだ!!』


 おぉ、と。あぁ、と答える声がする。世界を憂う者、権益に瞳を輝かす者、それぞれがそれぞれの夢を抱き、空を、地を行く。
 迫るのはUCAT本部から外れた山中。リークされた情報によると高町なのははそこにいるらしい。何故、とは問われても、命令の一言で押さえ込まれる。世界の為だという言葉に罪悪感を打ち消す免罪符とする。
 その者共を見つめる指令は冷たい微笑を浮かべた。くるり、と背に預けていた椅子を回転させる。その指令が振り返った先、そこには一人の男がいた。そして男の両手両足は縛り上げられている。
 男は歯軋りした。その瞳には隠しきれない屈辱の念が見え隠れし、半ば憎悪に近いものになっている事だろう。故に吐き出される言葉は低く、ドスの入ったものとなっている。


「…貴様…」
「怒らないでいただきたいな。中国UCAT代表」
「…その姿で言葉を口にしないでいただきたい。偽物」


 偽物、という言葉に唇を笑みに歪ませて指令を下していた男の姿が変わる。姿が変わった男は一人の女性となる。緑色の髪を揺らし、自らの手を口元に当てるようにしてクスクスと笑って。


「失礼。これでよろしかったかしら?」
「…何が目的だ? これは罠か? 日本UCATは随分と姑息な真似をする」
「いいえ。UCATは関与していませんわ。これはあくまで私達の願い。そのために貴方たちが邪魔であり、そして必要なのですよ」
「必要? 何を必要だと言う」
「提示するのですよ。未来への道を。世界を変えるのは、冷たい方程式などではない、いいえ、そもそも、ロジックでさえないという事ですよ」


 では、と女性は画面へと視線を戻した。


「もっとシンプルで、単純に。そうでありたいと願う事なのですから」





    ●





 そこは奥多摩の山中。山から川が流れる地。森を別つように流れる川の中心。そこに一人の少女が川の岩場の上に座っていた。その少女とは高町なのはだ。身に纏うのは普通のコートの出で立ちだ。
 ただ雪の降り積もったその地にてなのはは座っていた。瞳を閉じ、寒さを堪えるように息を吐き出す。その耳には携帯電話が当てられていて、その向こうの声の主はヒオのものだった。
 鼻を啜る音が携帯から聞こえる。どうやらヒオは泣いているようだ。それに応対するなのはは眉を動かさない。ただ静かにヒオの話を聞き入っていた。突如、前触れもなくかかってきた通話になのはは驚く事はない。


「…なるほど。大体の事情はわかりました」
『…なのはちゃん。私、どうしたら良いのかもうわからなくて…』


 電話の向こうから聞こえてくる声はとても情けなく、弱々しい声だった。だがなのははそれを責める事ではないと思う。そして思う。それはきっと昔の自分なのだから、と。
 ヒオの話を纏めると、原川が出て行った。それはヒオにこれ以上、全竜交渉に関わらないように忠告しての事であった。そして原川は出て行った。ヒオを一人残して。
 ヒオは不安なのだろう。原川が出て行った。原川が離れていった。原川は自分を押し留めようとしている。危険だから、と。だがそうされては自分はどうすれば良いのだとヒオは嘆くのだ。
 自らは望む場所がある。だがそこはとても危険な場所で、原川も行くなと言い、そして彼は出て行った。だからこそ何をして良いのかわからなくなる。原川に傍に居て欲しい、だが、それでも一緒にいられなくなってしまう。現に今、原川はヒオの隣にはいなくて。


「…ヒオさんは、原川さんが好きなんですね」
『え? あ、その、……ぇと』
「ねぇ、ヒオさん。ヒオさんはさ、誰かに何かを望みたいですか?」
『…え?』
「原川さんと一緒にいて欲しい? じゃあ、原川さんがうんと言えばヒオさんは満足?」
『……一緒に、居て欲しいですわ』
「じゃあ、そう望む原川さんが望むヒオさんは、今のヒオさんでいて欲しいんですか?」
『…そう望む原川さんが、今の私で…?』
「ヒオさんはさ、原川さんにどんな自分を望むの? 原川さんにどんな人物を望んで欲しいの? それはきっと原川さんがヒオさんを突き放した理由に繋がると思う」
『…私が、望むもの…望んで欲しい物…』


 電話の向こうでなのはの声を反芻するようにヒオは呟く。その呟きを聞いていたなのはだったが、不意に、眉を寄せた。目を細め、全身に力を入れる。


「ヒオさん、ごめんなさい。ちょっと用事入りました」
『え? なのはちゃん?』
「大丈夫ですよ、ヒオさん。きっとヒオさんなら見つけられますよ。ヒオさんも全竜交渉部隊の一員ですよね? なら、大丈夫です」
『――――』
「だから、探してください。きっと答えは見つかります。見つかれば踏み出せます。だから、諦めないでくださいね」
『あ、なのはちゃ―――』


 ぶつり、と携帯の通話が切れる音が響くと同時に響く甲高い金属音。なのはへと放たれたのは一発の銃弾。それを防いだのは―――淡い桜色の魔力光の障壁。川にぽちゃん、と音を立てて落ちたのは1つの弾丸。そこから導き出される解答はただ1つ。
 なのはがふぅ、と息を吐き出す。奇襲には備えていた。下手な攻撃なら自動防御で用意に防げる。Me-Ssiahをそっと撫でてなのはは思う。さて、と。
 その瞬間、森を掻き分け、迫る装甲服の集団。そして空より飛来するのは武神と機竜の群れ。世界各国から集った戦力。全竜交渉を疎う者達。なのははゆっくりと頬を持ち上げた。笑みの形に、だ。


「…既に世界は解答の出し方を選び出しました。だからこそ、不要な式は要らないのですよ。だから…―――もう止めませんか? 世界は皆、全ての遺恨を消し去ってハッピーエンド。その終わりの何に不満があるんですか?」


 なのはの問う声に答えは返ってこない。なのはに奇襲は通じないとわかったのだろう。だからこそ、全兵力を持ってしてなのはを殲滅するつもりなのだろう。無言で構えられる武神や機竜の火器がなのはへと照準を向ける。
 なのはは動かない。ただ静かにその場にあるだけだ。その表情には余裕が見て取れる。それに薄ら寒いものを感じた者もいたが、それでも攻撃は放たれた。一斉に放たれた火器はなのはへと火を噴く。
 そして世界は爆音に包まれた。なのはは動かなかった。そして彼女は全ての火器をその身に受けた。周囲を囲んだ兵は緊張に息を呑む。まさか、と思うものが大半だったろう。目の前の爆発を受けても尚、生きていられる人間が居るわけがないと。
 舞い上がる粉塵。そして―――声がした。


「――選びましたね? 貴方たちは最後に選んでしまった。でもそれは私の所為だから」


 それは少女の声。それは謝罪の台詞を紡ぎ、装甲服に酷似した衣装を纏ったなのはが粉塵を吹き飛ばすように姿を現す。その手にはMe-Ssiahが起動し、握られている。
 身構える兵を前にして、なのはは憂いを帯びた顔のまま、静かに頭を下げて。


「好きなだけ怨むと良いですよ。全ては、私の意のままに。世界の答えは全竜交渉部隊の手に。だから、私は謝らない」
「何…!?」


 疑問の声は一瞬。誰かが気付いた。世界が明るさを得ていたのだ。その明るさはまるで太陽が近づいてきたのではないか、と錯覚する程の明るさだ。何が、と誰もが空を見上げて、見たのだ。そこには小型の太陽があるという事に。
 光の発生源、そこには一人の女性が居た。レイジングハートだ。なのはと似たような装甲服を象った衣装を纏い、黄金の赤き宝玉を付けた槍、かつての自分自身であったエクセリオンモードと酷似したものを構え、狙いをつけるように定める。
 レイジングハートの持つ槍から光が溢れて荒れ狂う。おい、と誰かが呟いた。そんな彼等に対してなのはは憂うような表情のまま、口元だけを笑みに変えて。


「――ここで、朽ちてください」


 その台詞と共に―――上空の女性、レイジングハートは槍に装填された弾倉からカードリッジを排出していく。それはただのカードリッジではなく、概念を封じた賢石を封入したカードリッジだ。


・――光は力を持つ。
・――文字は力を持つ。
・――名は力を与える。


 展開される概念。魔法陣に刻まれた文字が力そのものを持つ。それによって増大した出力が更に太陽を輝かせる。その輝きが力となりて循環される。駄目押しのように付け加えられた2ndの概念がその名の意味通りに力を与える。


「スターライト…ブレイカァァアアアーーーーーーッッッッ!!!!」


 そして、世界を砕く星光が大地へと向けて放たれた。





    ●





 誰もが直感した。その光に呑まれれば己の命など容易く砕けてしまうだろう、と。だから誰もがその光に魅入られた。太陽が降りてくる。正にそんな錯覚を抱くような光量だった。それは世界を確かに呑み込んだ。
 そう、光は確かに世界を呑み込んだ。そして、ふと気がつけばいつもの空を見上げていた。何故? と誰かが思った。それは誰かの思いであるのと同時に、大多数の者達の思いであった。
 武神や機竜は墜落し、一機残らず地に付しているが、それでも死した者は一人もいないようである。体は痺れたように動かない。痛みはある。体を動かすだけで走るような痛みだ。
 だが、誰一人として命を奪われた者はいない。何故? と誰かが思う。その誰かの思いに答えるように彼女は答えたのだ。


「…謝りません。だから好きなだけ怨んでくれて良いです。でも――それでも私は望む世界がある。結果がある。だから、ここで倒れてください。私の望む世界の為に倒れてください。ただ、それだけです」
「…は、傲慢だな、君は」


 なのはの言葉に応えた男は隊長格の男だった。彼はスターライトブレイカーを直撃した痛みを堪えながらなのはを見上げて。口から出るのはどこか辿々しい日本語だが、なのははそれを確かに聞く。


「認めよう。俺たちは俺たちの利権や利益、そんなものしか見えないのかもしれない。だがな? やっぱりよ、我が身が可愛いし、全世界の遺恨を受けても尚、それでも世界を救えるって思ってられるのかよ…!?」
「……」
「答えてくれよ、少女よ。お前達、日本UCATが作ろうとしてる世界ってのは本当に成功して、そこには本当に芳醇な世界が待っていてくれるのか…!?」


 男の問いになのはは瞳を伏せた。確かに、この世界は数々の遺恨を受けてきた。世界を滅ぼし、芳醇であった世界を隠し、更にその世界すらも滅ぼし、その世界の残した遺産を今、自らの世界を救う為に使おうとしている。
 それが本当に許される事なのか? それは本当に成功する事なのか? 知らないが故に彼等は不安になる。そこに情報としてしか知らない彼等だからこそ疑心暗鬼を呼び、その選択肢を疑問視してしまう。


「…確かに。この世界の遺恨は並のものじゃない。普通だったら、消してしまえば楽なものかもしれない。――でも、だからなんだ」
「…何?」
「私は知っている。世界の為に命を賭けてでも良くしようとした人達を。そしてそれを託された人達がいて、私もまたその一人だって。願ったんだ。悔しくて、苦しくて、辛くて、それでも歯を食いしばって世界を救おうとした。そんな人達の思いが、私が受け継いだものが…私の心に命じるんだ」


 胸元を掴むようにしてなのはは告げる。伏せた瞳をゆっくりと開き、男を真っ直ぐに見据えて。


「叶えるよ、って。越えてゆくよ、って。願われたものを叶えて、為しえなかった事を成していきたい。そこに未来があるって信じて散っていった人達の思いを、願いを、私は裏切りたくないと思って、それを自分の思いにしたいと思ったから」
「その先が本当に世界があるというのか…!?」
「無い訳が無いよ。――だって、皆、そう望んだんだから。その結果を得るために、皆が皆、悪役になって引き受けて、数々の痛みを残して、今、こうしてそれを引き継ぐ為の私達がいる。越えていく為の私達がいる。今よりももっと新しい、芳醇な世界の為に」


 だから。


「生きてください。その世界を私はなんとか作ってみます。その先はきっと世界は大変になって賑わうと思います。そうしたら…今よりももっと新しい何かが見えてくると思います。過去を消すんじゃなくて、過去すらも抱いて新しい場所にいける、って」
「――――」
「私は、所詮子供ですから。政治もわからない。大人の都合も事情もわからない。ただ望む力があって、欲しい世界がある。その欲しい世界を得た後は、きっと私は何も出来ないから。その先には大人が必要です」
「……君は」
「ワガママを言うのは、子供の特権ですよね? 夢を大きく見るのも子供の特権ですよね? だから、私はどこまでも大きな夢を見て、その世界を叶えて見せます。その為に生まれて来た、その為にここまで望まれて、引き継いできたんだと私は思うから。その大きくなった世界を纏めていくのはきっと―――楽しい事だと思いませんか?」


 なのはは笑みを浮かべて告げる。そして沈黙が流れた。
 それは何をキッカケにしてだったか。一人の笑い声だった。忍ぶように笑った声。誰もがその声に集中した。笑ったのはなのはと会話を交わしていた隊長格の男で。


「…おい、皆。覚えてる限りで良い。昔の夢を言って見ろ」


 隊長格の男の問いが響く。暫く沈黙していたが、小さく答える声が来た。


「…俺、昔、宇宙飛行士になりたかったぜ」
「俺、正義のヒーローになりたかった」
「マンガの主人公みたいになりたかった」
「俺、こう見えてもパティシェ希望だったんだぜ?」


 少しずつ声は増えていく。その声を耳にしながら男は言う。


「…その夢は、でかかったか?」
「……」
「その夢は叶わなかったものが多かったな?」
「……」
「でも、本気で叶えようとしている奴がいるんだとよ。俺たちが願った願いよりも明らかに大きくて傲慢な願いを持ってる癖によ。俺ぁ、言ってやるよ。んなもん無茶だ、ってな。――でもよ、もしも叶ったらどうよ?」


 なぁ、と。


「俺たちも、まだ、なんか夢見て良いみたいだぜ?」





    ●





 レイジングハートのスターライトブレイカーを受けて打ち倒された軍勢を映すモニター。そこから笑い声が小さく、だが次第に大きくなっていく様をドゥーエは見ていた。その瞳はただなのはへと向けられていて。
 ふと、不意にドゥーエの隣で動く気配があった。中国UCAT代表の男だ。彼は呆れたように溜息を吐き出しながら画面を見つめている。


「…夢、ですか。そんなもので生きていけるならば人は苦労はしない」
「そうですね。世界は決してそんな優しいものじゃない。――だけど、見てて思いませんか? この世界はもっと優しくなれると」
「……」
「今以上に世界は芳醇になれるかもしれない。そうすれば夢見る場所は増えていきますよ。そうすればもっと世界は動くでしょう。荒れて、過去以上の遺恨が生まれるかもしれない。だけど、その分だけの希望も見えてきませんか?」


 クスッ、と小さく笑い声を浮かべてドゥーエは隣に座る男へと視線を向けた。その視線を受けて男は小さく息を吐いて。


「…子供のような人だな。貴方は」
「見た目通りの年齢ではありませんから」
「…あの人と同じ…いや、それでも逆か…」


 何気ない呟きが零れ、沈黙が流れた。不意に男が動きを見せた。既にその身の束縛は解かれ、ポケットに手を伸ばした。そこには煙草が入っていた。それを一本口に咥えて。


「…一本、よろしいかな?」
「えぇ、どうぞ」
「谢谢」


 煙草に火が付けられ、煙が上がっていく。口からふぅ、とゆっくりと煙が吐き出され、また口に煙草を咥える。その間、ドゥーエと男の間には会話は無くて。


「私は、昔、英雄になりたかったのですよ」
「…そうなんですか?」
「私の国は大家族主義です。私の姓も多くあるもの。――それ故、あの人は輝いて見えた。あの人のようになりたかったと私は思ったのですよ」


 不意に男が胸元からロケットペンダントを取り出した。そこには幼い、男だと思われる少年と、その少年を抱き上げる少女の姿だ。その少女の姿をドゥーエは横目で確認して、男からモニターへと視線を向けるようにして。


「…いつから、私はあの人から目を背けるようになっていたのでしょうかね」
「…夢の終わりを知ってしまったからではないからですか?」
「…そのようなものでしょうか?」
「…でも」


 でも、とドゥーエはもう一度繰り返すように呟いて。


「その人の見ていた先はきっと――あの子と同じだと思いますよ」


 モニターには笑い声が響いていた。大きな声だ。いつの間にか小さな笑い声は大きなうねりとなって皆を笑わせていた。その映像を見ていた男は小さく、ふぅ、と息を吐き出して。


「…まだ、私も若いという事ですかね?」
「まだお年には見えませんけど?」
「…目を背けたつもりでも、彼女の後を追っていたのでしょうね。だから私はこの地位にいる。諦めを抱いても、諦めきれずに夢を追って…」
「…後悔されますか?」
「していたかもしれません。けど、今は…」


 モニターを見て、彼は小さく口元に笑みを浮かべて。


「後悔せぬ結果が、望めるかもしれませんね」





    ●





 なのはは見ていた。笑い合うその人達を。希望を抱くその様を。それはきっと良かったと思って良いのだろうか、となのはは思う。この光景は喜んで良いものなのかと思う。結局、力を見せ付けて、抑え付けたようなもの。
 心は軋む。過去から形成された心は軋みを上げるも、なのははそれを僅かに身を折って抑えるように胸元を握る事で堪える。そんななのはの肩に手を置いたのはレイジングハートだった。
 彼女は淡く微笑む。まるで心配ない、大丈夫、そう告げるかのようで。なのはもそれに応えるように笑みを浮かべた。


『なのは君』


 そこに、不意に声がした。ジェイルの声だ。通信機から聞こえてきた声になのはは顔を上げて。


『お出ましだよ』


 そして空。風を切り裂いた。飛行するのは無数の武神の影。その姿は醜悪にして同一。音に気付いたのか、誰もが空を仰ぐ中、奴は来た。肩には「蚩尤」の文字が見えたのをなのはは見逃さなかった。
 武神は滞空を続けながらその数を集めていた。誰もがその武神の姿に目を奪われていた。その数は既に100に達しようとしている程の大規模なものだったからだ。なのははそれを細めた目で見据えて。


「…来ると思ってた。これだけの人が集まり、そしてなおかつ私がいる場所。ジェイルさんの計算通りだ」
「マスター…」
「…うん。行こう。レイジングハート」


 なのははMe-Ssiahを握る。そんななのはを心配げに見つめた後、レイジングハートは瞳を伏せて深呼吸する。そして息を吐き出し、杖を勢いよく振り抜くと同時に。


「Tes.! My Master!!」
「うん、行くよッ!!」


 Me-Ssiahとレイジングハートの持つ槍が輝きを帯びる。瞬間、世界は隔離された。概念空間とは異なる魔法による封時結界。それはなのはとレイジングハートを中心に広がっていき、残されるのはなのはとレイジングハートと、蚩尤の群れ。


「――終わりにしよう。ここで、全部!」


 因縁を巡る戦いに、終止符を穿つ為に。なのははMe-Ssiahを振り抜いて叫んだ。


『タカマチ、ナノハァァアアアアアアッッ!!』


 応えるように蚩尤から声が響く。幾多ものの武神に名を呼ばれるのは怖気の走る光景ではあったが、なのははそれでも臆さない。Me-Ssiahを羽根を広げるようにして構える。 その背後でレイジングハートが立つ。彼女は槍を回して、瞬間、槍は光となって消え去る。残されたのは赤の宝玉。それはレイジングハートの胸元に呑み込まれるようにして消えて。


「マスター…我が力は貴方と共に!! 我が身、新たに得た力と共に!!」
「うん…。うん…っ! 行こう! いいよ、レイジングハート!!」


 なのはの声に答えるようにレイジングハートが頷く。


「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放たん。風は空に、星は天に、そして不屈の心は主と共に…」


 レイジングハートが謡うように告げる。さすればレイジングハートの体は光を帯びていく。レイジングハートの全身に光の線が走り、なのはとレイジングハートの足下に魔法陣が描かれる。


「我、主と共に在りし不屈の心にして、潰えぬ明星なり!!」


 レイジングハートの放つ光がその光量を増し、レイジングハートの纏っていた衣服が光となって消える。その光は次第になのはの方へと集束していき、なのはが両腕を広げた状態で叫んだ。


「レイジングハート・ルシファーッ!!」


 それは、新たな身を得た彼女の名。そして―――。


「「ユニゾン・インッ!!」」


 光が爆発するように辺りを照らした。桜色の光。爆発した光を突き抜けるようにして空へと昇るのはなのはだ。
 瞳は赤紫へと、茶髪の髪は薄い金色へと変わっている。更に風貌も変化が見られる。バリアジャケットの上に鎧を纏っているようにだ。赤い宝玉が埋め込まれた胸部装甲、スカートのようにアーマーが左右に展開される。腕部には手甲。脚部には鉄靴。
 そして背にはバックパックがついている。長い砲筒と翼がつけられたものだ。翼がゆっくりと広げられる。それはまるで武神の翼にも似ている。翼が開くのと同時に翼から桜色の光が溢れ出し、なのはを空へと押し上げる。


『カウリングデバイス・タイプユニゾン『レイジングハート・ルシファー』とのリンクを接続。システム良好』


 Me-Ssiahからの機械音声になのはは、ん、と小さく応える。


「――さぁ、行こうか、レイジングハート!!」
『Tes.!!』


 鋼の翼が羽ばたく。それに合わせて蚩尤の群れも動き出した。桜色の残光を残しながらなのはもまた蚩尤へと突撃した。




 

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