次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=  第2章 17
2010/10/13 Wedリリカル・クロニクル
 室内のライトの光が照らすUCATの訓練室。そこで小太刀を振るう影がある。それはなのはだ。運動着に着替えた彼女はMe-Ssiahを起動して型の稽古を続けている。額には汗が浮かび、全身にも僅かに汗ばみが見られる。
 ふっ、ふっ、と規則正しく息を吐き出しながらなのはは動く。まるで息の動きに合わせるように。構え、凪ぎ、振り抜き、振り下ろし、構え、凪ぎ、振り抜き、振り下ろし。連続として繰り返される動作。
 体に染みこませ、それを無意識に覚え込ませる。なのはの額に浮かんだ汗が彼女の動きによって跳ね、訓練室の床へと落ちていく。風を切る音が連続として響き、それは一際大きい動作と振り抜きによって止まる。


「…ふぅ…」


 天を仰ぐようにしてなのはは両目を閉じて息を吐き出した。手にあったMe-Ssiahを強く握りしめたかと思えば、Me-Ssiahは光を生じて結晶体となってなのはの手の内に収まる。なのはは入り口へと足を向けた。そこには自分が持ってきたタオルがあった筈だから。
 だがそのタオルは自らの手で取る前に何者かによって投げつけられた。ふわり、と宙を舞うタオルをなのはは片手で受け取る。そこには白衣を纏ったジェイルがいる。なのはは自然にありがとうございます、と告げて汗をタオルで拭う。


「なのは君」
「なんですか?」
「お客さんだよ」


 お客さん? と首を傾げたなのは。ジェイルの後ろ、そこには一組の男女がいた。その2人になのはは思わず驚く。その2人はなのはがあまり関わる事の無かった男と女だったから。


「…大城至さんに、Sfさん?」


 なのはが確かめるように名を呼ぶ。そこに居たのは全竜交渉部隊監督勤める男、大城至と、その侍従である自動人形のSfだ。なのはの声に2人からの返答は無い。サングラスによって隠された瞳は何を見て、何を考えているのかをなのはに伝える事はない。隠された意志を見据えるようになのはは至と視線を合わせる。


「…私に何か用ですか?」
「少し、な」


 なのはの問いに返ってきたのは、無愛想な男の声だ。至はなのはに視線を合わせたまま肩を竦めて。


「ついでに見てみたかっただけだ。――あの御神恭也の偽物とやらをな」
「…お爺ちゃんを知っているんですか?」
「知りたいか? なら知るな。お前には必要のないものだ」


 むっ、となのはは思わず至を睨み付けた。その顔には明らかな不快の色がある。だがその不快の色はすぐに怪訝の色へと変わる。それは些細な動作だった。至は何故か、右足を庇うような動作を見せたのだ。
 彼の手には杖がある。それは不自由な足を補う為のものなのだろう。そして彼は右足を患っている。だから右足を庇ったのだろう。だが直立している状態で何故庇うような動作が出る? いや、あれは庇っているのではなく、反応した?


「至さん…貴方は…」
「知らん。知らんと言ったら知らんし、知るなと言ったら知るな。知る必要がないと俺が言ったらお前は知る必要がないと頷けば良い。子供はそういうものだ」
「…大人って勝手ですね」
「子供が要らん事をしていることに気付かせてやるだけだ」
「それは至さんの優しさ? 不器用ですね。でも腹が立ちます」


 なのはは、ふぅ、と溜息を吐いて至から視線を逸らす。彼は語らないだろう。だが彼はきっと自分の祖父である恭也と出会っている。そしてきっと戦ったのだろう。その果てに――今の彼の姿があるのだろう、と。
 知るな、と言ったのは、きっと自分がそれに対して何かを思う事をさせないため。自分は祖父には様々な思いがある。だからそこから至るへと何か気をかけてしまうだろう。恐らくそれを、同情と呼ぶのだろう。少なくとも至にとっては。
 ならば、となのはは思う。なら聞かない事にしよう。思って、納得して、それで良い。


「答えは私の心の中に、で良いですか?」
「お前の答えはお前のものだ。俺の答えじゃない。俺の答えでないものをどのような答えにしようとも俺の知った事か」


 なのはは思う。きっと彼は苦しいんだろう。きっと悲しいんだろう。だからその全てを自分に溜め込んで、抱えて消えていくのだろう。そうしなければ立っていられなくなるから。
 じゃないと、泣いてしまうから。泣いてしまえば誰かがまた泣いてしまうから。だから彼は泣かない。あぁ、となのはは思わず声を出す。今、初めて言葉を交わしてなのはは思った。この人はきっと私と同じだったんだな、と。
 だからこそ、理解が早かった。この人がどんな人なのか。そして傍らにいるのがSfなのかを理解した。だからこそなのははどうしようもなく、この人の傍に居たくなかった。そしてそれは相手も望んでいる筈だろう。
 自分には差し伸べられる手がなかった。だから一人、強くなれた。鎧を纏う事が出来た。だが、彼には居たのだろう。差し伸べられる手があって、誰かが励ましてくれて、誰かが一緒に泣いてくれて。それが心を突き刺す刃になろうとも知っていなくて。
 同情するぐらいなら、こんな理不尽すらも消して欲しい。なのははきっとそう思っただろうし、至もきっとそう思ったのだろう、と。


「…私、貴方が嫌いです」
「奇遇だ。俺もだ。俺はクソガキが嫌いだ」
「私も、貴方みたいな大人は好きになれません」


 この出会いは果たして何の意味があるのか? なのはは思う。だが意味を求めるという事になのははこの出会いに自分は意味を持たせようとしているのだと思う。この出会いは決して無駄ではない、と。
 だから意味を付けた。それは反発と拒絶。この人のようにはならない、と。それはかつての自分で、自分が異なった場合の道を行った場合の人で、だからこそ、その人に同情してはいけない。だから、嫌おう。精一杯。


「…ふん。やはりクソガキだな。聞き分けが良い所は評価してやるがな」
「…それで、私に何の用でしょうか?」
「俺は頼まれただけだ。無理矢理な。だから、報せに来ただけだ」


 至の言葉と共にSfが動きを見せた。Sfがなのはへと差し出したのは5羽の折り鶴だ。なのははそれを受け取って折り鶴へと視線を降ろす。その内の一羽はその身を折っている。だが4羽の折り鶴は開いたまま…。


「先ほど、出雲様がボルドマン様に勝利された瞬間にその1 羽は羽を閉ざしました」
「…そういう意味、ですか。しかし、何故それを私に?」
「優等生だからな。だからお前はハブられる。お前が優等生だから誰もお前に話はしたくないものさ。悪事の話などな。だが俺は報告してやる。お前が知って、だが何も出来ずに歯を噛む姿をな」
「…知ってるんですね。私の為そうとしている事を」
「――結局、あの男と同じだからな。お前は。だから俺はお前が大嫌いだ。高町なのは」


 至の言葉と共に、なのはに手渡された折り鶴が反応を見せた。先ほどの話からすればこの反応が示すものは1つ――。


「…世界は、楽しそうですね。至さん」
「あぁ。だが俺はつまらん方が好きだ。――物好きな奴だな」
「それは私? それとも貴方?」
「誰が答えるか。自惚れておけ馬鹿が」


 至の言葉になのはは忌々しそうに顔を歪めて舌打ちをする。しかし、すぐに力を抜いて息を吐き出す。そっと握るのは両手。押さえ込めるように握った両手はまるで祈るかのように似ている。
 至はその姿に何も言わず、またSfも何も言わない。その3人の姿をやや遠目で見ていたジェイルは小さくその口元を綻ばせるのであった。





    ●





 夜空を駆け、行く影がある。それは空を飛翔する。月夜を背後に背負うようにしながら2つ、駆ける。駆けるのは白の装甲服に槍を手に持つ少女。風見だ。風見は行く。相対する影に食らい付くように。また、その影も自分へと食らい付かんと速度を増す。
 出で立ちはまるで魔女。箒に乗る姿と相まってそれは完全なる魔女だ。だが魔女の手の内にあるのは杖ではなく一本の長剣だった。知る者ならばその剣の名をこう呼ぶだろう。――グラム、と。それは1st-Gの概念核を収めた概念核武装。
 風見が相対している相手にして、グラムを有する事を持つ事を許される者。それは実はあまり多くはない。そして風見は相手を知っている。彼女は自分と同じ学校の生徒で、かつては争った事のある相対者であって、そして交渉の果ての味方であり、そして今の敵である。
 風見は名を呼んだ。ブレンヒルト、と。名を呼ばれた1st-Gの魔女は風見へと視線を向ける。その手にあるグラムを風見へと向けて。


「礼を言っておきましょうか? グラムを持ってきてくれて、と」
「別に。必要だと思っただけよ」
「私が動くことを予知していたのかしら?」
「ボルドマンが動いたし、何となく、ね。だから、きっと必要になると思った。これから向き合っていくなら――もう一度過去を見直す必要があるでしょう、そして検証しなきゃいけない」
「そう。Top-Gという存在が判明した以上、私達は決めなければならない。だから、決めるためにここに来たわ。佐山に問うつもりだったけど、そこに貴方が来た。ならば私は貴方に言うわ。――再戦を。私達の戦いが間違いだったのか、正しかったのか。確かめさせて貰うわ!!」


 力と力が激突する。激突の瞬間、風見は眉を顰め、ブレンヒルトは唇を噛む。そして衝撃の勢いを利用して再度、2人は距離を取る。その間際、ブレンヒルトは手にマジックを取る。もう片方の手にはグラム。そのグラムの刀身に彼女は文字を記す。
 今、風見とブレンヒルトがいる空間には概念が満ちている。それは1st-Gの概念だ。文字は力を持つ空間において、ブレンヒルトがグラムに記した文字はその意味を現実とし、力と変える。
 機関銃、と。それを目にした風見は抗議の声をあげるも、ブレンヒルトは止まらない。光の弾丸が風見へと解き放たれる。風見はG-Sp2を握りしめ、加速する。風見の飛翔の速度は速い。故にブレンヒルトの放つ機関銃は当たる事はない。
 弾が追う。風見は飛翔し、前へ行く。風見が通った後には銃弾によって穿たれたアスファルトが無惨に残る。撃ち抜かれた車が引火し、爆音と共に大きな炎を上げた。それに気にする事なくブレンヒルトは更にグラムに一文字を加え、「重機関銃」とする。


「倒れなさい! 風見ッ!!」
「だ、れ、がっ!!」


 ブレンヒルトの叫びに対して風見が吐き出すのは力を込めて一文字ずつ抗いを込めた叫び。背中のX-Wiが光を吸い込み、力と変わり風見に更なる速度を与える。その速度にブレンヒルトは追い付かない、と判断したのだろう。
 グラムを下げ、代わりに傍にいた黒猫へと手招きする。それはブレンヒルトの使い魔だ。


「なに? ブレンヒルト」
「手伝いなさい」


 黒猫の背にブレンヒルトは「加速」と記した。へ? と黒猫が疑問の声をあげたのは一瞬。彼はブレンヒルトによって箒の先端へと投げ飛ばされた。黒猫は悲鳴と共に箒の先端にしがみつく。全身の毛を逆立てるようにしながら彼は叫んだ。


「これはまさしく現在進行形のペット虐待…!」
「何言ってるの。貴方はペットじゃなくて私の家族よ。――今だけだけど」
「だ、だったらDVだよっ!! ドメスティックバイオレンスァァアアアアアアアア!?!?」


 加速する。風を切り裂く音がして、風が身を打つのが身を軋ませる。だがそれでもブレンヒルトは行く。手にした重み、握っている以上、彼女には譲れない思いがある。譲ってはいけない意地がある。
 先行く風見が不意にこちらを見た。頷き1つ、ブレンヒルトもまた頷いた。かつて敵として戦い、味方として戦い、そして再び敵として相対している。そこには単純な敵意や恨みが在るわけではない、もっと複雑なものがある。それを互いに理解しているからこそ、彼女達は告げた。


「「――勝負ッ!!」」


 2人は行く。速度の先、辿り着く果て、決着の向こうを目指して。まるで空に打ち上げられるように2人は空を行く。ビリビリと空気が震え、風の圧迫感、重力の枷が重く体にのしかかる。
 加速のまま空へと上がる。そして両者は互いに空の一定の位置で止まる。上へと向いていた視線は下へと。そこには広がる景色がある。街の灯りだ。人の生活の営みの光景だ。は、と息を呑んだは果たして風見か、ブレンヒルトか、それとも両者か。
 そして夜景に気を取られるのは一瞬、ブレンヒルトと風見が同時に動く。ブレンヒルトはグラムに再び文字を記す。記された文字は「重連追尾円陣弾」。右肩に背負うようにしてブレンヒルトは構える。
 瞬間、グラムの刃先を抑えていた機殻が展開される。それは光を放ち、ブレンヒルトの背後に円陣が開かれる。そこには無数の「・」が穿たれている。風見の疑問は一瞬。ブレンヒルトの円陣から100をも越える数の弾丸が放たれる。


「グラムは1st-Gの全て! 機構など書かずとも、そのものを書けば具現化出来る!!」


 墜ちなさい、とブレンヒルトは無言の圧力を風見へとかけた。風見はG-Sp2で加速するも、追尾弾は振り切れない。風見は空へと上がった体を地上へと向ける。追尾する光の波を引き連れて風見は地上スレスレを飛んでゆく。
 空と違い、地上には様々な障害物がある。風見はその中をすり抜けるようにして飛んでゆく。するとどうだ。風見を追う誘導弾は風見の動きについて行けず、障害物に当たって消え去る。
 だが轟音が連続として響く。風見はG-Sp2を離さない、と言わんばかりに強く握る。身を前に倒すようにして風見は弾を振り切っていく。そして最後の弾が消えた。風見は盾を地につけて滑るようにして着地。


 ――ブレンヒルトは!?


 風見の思考は一瞬。風見は見た。自身の背後。そこにいるブレンヒルトがグラムに「カタパルト」と記すのを。それとほぼ同時に彼女の箒を加速させていた猫の背に「実体弾」と記したのを。


「え、嘘だよね、ブレンヒルト、嫌だよ、僕そんな、散りたくないぃぃいいいっっ!!」


 ブレンヒルトは無言で猫の首を鷲掴みにしてグラムの刀身に添えた。――猫が行った。
その身を弾丸と変え、風見へと迫る。風見は思わず迎撃の態勢を取ろうとして逡巡する。


(…私、猫結構好きなんだよなぁ)


 その迷いは砲撃を止め、代わりの動作を生んでいた。思い出すのは自分の恋人の事。G-Sp2に風見の指から出る血が文字を記す。そう、「対実体弾用金属バット」と。風見は勢いよくそれを振り抜いた。
 振り抜かれたG-Spは寸分の狂いもなく猫をジャストミート。猫は強烈なライナーとなってブレンヒルトへと叩き返される。ブレンヒルトは舌打ちと共に構えを取る。迫る猫の背にマジックが添うようにして。
 マジックが猫の背に記された「実体弾」という字に斜線を消す。無効化された意味によって猫は本来の姿を取り戻す。彼はくるり、と回転してブレンヒルトの背に乗って。


「ね、ねぇねぇっ! 僕、色々と言いたい事があるんだけどいいかな!? いいかな!?」
「えぇ、わかってるわ。実体弾を打ち返すなんて非常識な人間よね」
「血も涙もないのかぁあああああっっ!!」


 猫の叫びは夜空に消えてスルーされる。2人は動く。風見が砲撃し、ブレンヒルトがそれを回避し、今度は砲撃を返す。それを風見は盾で防ぎ、ブレンヒルトへと肉薄する。打撃音。ブレンヒルトのグラムと風見のG-Spがぶつかり合い、響き合う。
 響き合う音は連続する。しかし、段々とブレンヒルトが押されていく。やはり本分ではない事では勝てないか、とブレンヒルトは唇を噛み締める。だから風見が攻めてきているというのはわかる。


「これで、終わりなさいっ!!」


 グラムが弾かれ、大きく振るわれる。それは戻せない、とブレンヒルトは理解した。風見が槍を構え直す、間に合わないだろう、と風見は思った。だからこれで決着と出来る。彼女は半ば確信していた。
 だが、その確信はブレンヒルトが戻したグラムが防いだ事によって覆される。何故? と風見が疑問に思った瞬間、風見は見たのだ。グラムの刀身に書かれているその二文字を。
「短剣」、と。


「最初から、こうしていれば良かったわね」


 淡い笑みを浮かべているブレンヒルト。それは勝利を確信した笑みだ。つぅ、とグラムの先端が風見の腹へと向けられる。ブレンヒルトが記した文字は「八八ミリ砲」、と。
 ぞっ、と風見は自らの血の気が引く音を聞いた。そしてブレンヒルトは笑みを浮かべたまま。


「流石に、この距離じゃ打ち返せないでしょう?」


 そして、砲撃が放たれた。
 響き渡る衝撃音。風見が砲口と自らの間に差し込んだ盾は風見を守るが、だがそれでもまだ足らない。風見はG-Sp2の加速を後方へと向ける。それは衝撃を逃がす為の動作。
 だが、衝撃からは逃れられない。風見は煽られるようにして吹き飛ぶ。不味いな、と思う。今ので体が大分軋んだ。ダメージこそ軽減出来たものの、どこか骨がいかれたかもしれない。
 風見の体は反射で動く。迫る建物の壁を砲撃で破砕してその中へと飛び込む。だが、心は別の事を考えていた。
 負けるのかな、と風見は思った。負けてしまうのだろうか、と風見は思った。ここまで頑張ってきた。真実を知って、自分を強く鍛えて、過ちも越えてココまで来た。だけど、それは今、途方もない大きな過ちによって潰されようとしている。
 負けるのかな、ともう一度風見は呟く。負けたらどうなるのだろう? と考える。そうすればブレンヒルトは佐山の下へと行くだろう。今、佐山は非武装だ。何故ならば彼は田宮家にいるから。
 そんな状態だったら、頷いてはいけないものにも頷かなければならない。アイツなら頷かないかもしれないけれど。だがそれは。


(アイツに、迷惑かけるのよね)


 自分が買って出た戦場だ。なのに敗北し、そのツケを佐山へと回す。あぁ、それは、なんて…。


(情けない事ね)


 力を入れる。、今、自分は握っているのだ。自らの力を。G-Sp2を。ならばまだ。まだ戦える筈だ。いいや、戦える。戦わなければならないのだ。


「――まだ、やれるわよ。G-Sp2。だから…行きましょう」


 風見は見た。G-Sp2のコンソールには「イコウ」と自分を誘う文字が表示されていたのを。風見は望んでくれているのだと感じていた。ありがとう、と。だから、風見は空気を振るわせるような衝撃に咄嗟に行動を取っていた。
 空気を裂いて来るのは砲撃だ。それも無数で、とてもじゃないが避けきれるとは思えない。やってくれるじゃない、と風見は舌打ちと同時に記した。まず、G-Sp2の盾に「床」と記し、手が伸ばせる範囲でペナント風のポスターを拾い上げ、「大当たり」と記す。
 それを宙に放り、身を盾の下に隠すのと同時に衝撃が来た。それは爆砕の音だ。ただそれしか感じられない時間はどれだけ流れただろうか。あの野郎、と風見は思わず悪態を吐く。
 そして、衝撃が止む。辺りには噴煙が待っている。ゆっくりと、風見は息を吐き出した。


「…覚は、勝ったかしら?」


 自分がここに来る前、ボルドマンの呼び出しによって行ってしまった自分の恋人。恐らく、彼も戦ったのだろう。自分と同じように。だから思う。彼は勝ったのだろうか? と。そして、その口元を風見は緩めた。


「そんなの、決まってるわよね」


 だから、さ。


「勝つわよ。G-Sp」


 決着を。風見は晴れる噴煙の先、ブレンヒルトの姿を見た。トドメを刺す気なのだろう。箒とグラムを連結させた砲をこちらに向けている。そこまでやるか、と風見が呆れを思う。だがそれで良い、と風見は思う。
 驚きにこちらを見るブレンヒルト。まるで何故、と問うているようだ。だがブレンヒルトの驚きは更に変わる。自分のした事に気付き、歯噛みしたのだ。


「なかなか格好良いわ、風見。だけど――これで終わりにしましょうっ!!」


 竜砲。グラムに記された文字はその意味を誤る事無く、正しく解放した。風見が飛翔する。砲撃は同時に放たれ、世界は光に包まれた。爆風が街を抉り、吹き飛ばしていく。世界が破砕されていく。
 ブレンヒルトは閃光に瞳を閉じた。やったか? と思う。だが光の爆音の中にかすかな音を聞いた。音を聞いた瞬間に爆発光とは別の光を見た。それは翼。折れず、屈せず、羽ばたいた翼。


「――風見ッ!!」


 風見が来た。そして、そのまま行った。自分の体にG-Sp2を押しつけるようにして空へ、空へと昇り始めた。なんとか間に入れた盾と記したグラムによって圧迫感のみで済んでいるが、それでも気持ち悪い。
 空へ、空へ。高く、高く。昇り行く。眼下の街の景色が段々と遠ざかっていく。肌は寒さを感じ、震えている。雲を突き抜け、なおもまだ高く彼女達は昇っていく。


「風見…っ!!」


 ここが、彼女の翼が届くところなのか、とブレンヒルトは思った。そしてそこから導き出される次の攻撃の解答をブレンヒルトは得ていた。だが、彼女の翼の推力に抗う術を今、ブレンヒルトには得られない。
 そしてブレンヒルトは見たのだ。今、風見は瞳を閉じているのだ。自分の声には反応も見せない。それはつまり、目も見えないし、耳も聞こえないのだろう。それはそうだ。あの衝撃を真っ正面から突っ切って来たのだから。


「…見えるかしら?」


 風見が問う。うっすらと焦点の合わない目でブレンヒルトを見て。


「あそこが、きっと私達の住む街」


 風見が指しているのは、自らの真下。そこには確かに自分たちの生活している場所があるのだろう。ふと、ブレンヒルトは世界を見る。こんな戦いが起きていても、世界は変わらずに光を持っている。
 なんと、小さい。自分も、風見も、世界に比べればなんと些細な存在か。だがそれでも彼等は世界を揺るがし続けてきた。そして、これからも揺るがし続けるのだろう。


「…この、馬鹿女」


 ブレンヒルトの呟きが聞こえたのか、否か。だが、風見は宣言した。


「――行くわよ」


 そして、落下が始まった。既に風見の上昇した地点は成層圏を越えている。ここから落下し、地面へと叩き付けられる。あぁ、とブレンヒルトは内心で呟きを零す。グラムでG-Sp2を受け止め、落ちて行く感覚を身に覚えながら。


(まったく、非常識ね)


 そして、流星のように彼女達は地へと落ちていった。





    ●





 なのはは、ふと、自分が預かった折り鶴を見た。先ほど反応があった折り鶴がその身を畳んでいた。恐らくは決着を付けたのだろう、と。
 その折り鶴から視線を外し、なのはは視線を上げた。外にいるなのはが見たのは、空に1つの流星が落ちていく。白の流星は地へとその身を叩き付けるように落ちていった。


「……」


 その流星に、なのはは何も言わずに背を向けて歩き出した。その手に握ったMe-Ssiahは力強く握られていた…。

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