次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=  第2章 11
2010/10/13 Wedリリカル・クロニクル
「まったく。君の無茶は大概だな」
「いたっ、ちょっと、もうちょっと優しくしてくださいよっ!!」


 白の空間。雪花が消え去った空間でなのははジェイルによって治療を受けていた。「こんなこともあろうかと」と取り出したのは格納型概念空間から取り出した医療セット。セットの中から包帯などを取りだしてなのはを手際よく治療するジェイル。
 最初は痛いだの抗議をしていたなのはは逆にその手際の良さに目を向けるようになる。不意にそのなのはの視線に気付いたのかジェイルは顔を上げてなのはを見る。それに合わせてなのはの頭の上に移っていた獏もまた首を傾げて。


「いや、手際良いなぁ、って」
「それが私の存在理由だからね。これぐらい出来なくて生命操作なんてやってられないさ」


 終わったよ、とジェイルが概念空間に医療セットを戻しながらなのはに告げる。なのはは小さく礼の言葉を言って体の感触を確かめるように軽く動かす。そのまま小さく声を出すと共に体を起こす。まだ痛みが残るがそれでも動けない訳ではない。
 さて、となのはは改めて辺りを見渡した。白一色の空間は先ほどまで展開していた概念を消失させ、ただの白い部屋として残っている。雪花との戦いの後は跡形もなく消え去ったこの場所に真実がある、という話だったが。


「…何もありません、よね?」
「どうかな? ただ目に見えないだけかもしれない。とりあえず探して…」


 なのはの疑問にジェイルが答える。だがジェイルが答えている最中でその言葉は途切れる事となった。なのはとジェイルの目の前。白の空間しか無いその部屋が歪み出す。自然と身構える2人。
 だがなのははもう腰に無い感触に僅かな寂しさを感じる。代わりにと手を伸ばすのは自らの半身とも言える相棒、レイジングハート。レイジングハートを握りしめながらなのはとジェイルが見つめる中、歪む空間から何かが現れた。
 それは切っ先だった。それは次第にその姿を露わにしていく。そして重力に任せたようにその身を床へと突き立てた。それは二刀の小太刀だった。機殻に覆われ、鍔の部分にはリボルバーのような弾倉に六つのシリンダーが備え付けられている。つまり二刀合わせて計12個のシリンダーが花開くように付いている。
 リボルバーの上部には宝石のような結晶体がはめ込まれている。なのはとジェイルは突如現れたこの刀に視線を集中させる。そしてそれは不意に光を帯び、なのはとジェイルの前に空中ディスプレイを表示した。その技術は現在のUCATには存在しないミッドチルダの技術。それになのはは目を驚きに開かせて。


「…これ、まさか…」
「…あぁ。まさかだろうね」


 なのはが震えを帯びる声で呟き、ジェイルは感嘆とした息を吐き出して。


「どうやら、デバイスのようだね。更には機殻を施されている」


 ジェイルは視線を空中に浮かぶディスプレイへと浮かぶ。其処に表示されている字を視線でなぞるように見てジェイルは読み上げる。


「概念技術とデバイスの融合機、カウリングデバイス。その試作型…。名は……『Me-Ssiah』」
「…メサイア」
「つまりメシア、救世主という意味だね」


 ジェイルがディスプレイへと手を伸ばす。ジェイルの操作によってディスプレイの表示が変わる。表示されたのはMe-Ssiahの内部にあるファイル。ファイルにはMes-Siahの概要と構造図と注釈、そして…。


「…不破恭也のメッセージだ」
「…お爺ちゃんの」
「君が開きたまえ。なのは君」
「…え?」
「君に託されたものだろう。きっと。ならば、受け取るのは君しかいない」


 ジェイルに促されるようにしてなのはは空中へと浮かぶディスプレイへと手を伸ばす。ディスプレイに触れた手がファイルを開き、中に入っていたのは映像ファイルだった。なのはは再度、それをクリックして映像を再生する。
 表示されたのは不破恭也だった。それはなのはがここに来る道中、獏によって見せられた過去の映像の恭也だった。老人のように白く色が抜けきってしまった髪。


『…これを見ているのはもう一人の俺で、不破・雪花を受け取り、概念戦争に関わった。そして…雪花に打ち勝ったからこそ、この映像を見ているのだと思う。
 ここまで来てくれた経緯は知らない。だが推測するならば恐らくは俺の事を知る為にここへ来てくれたのだろう。まずは礼を言おう。ここまで来てくれてありがとう、と。
 ここまで来てくれた。それならば俺の知る事は全て、このデバイス、「Me-Ssiah」に残しておこう。必要な情報に区分けして閲覧が出来るようにはしているが、俺の一生を詰め込んだ分、やや見にくい所もあるかもしれないが我慢して欲しい。
 …俺の過去については、今、この映像で語り尽くすにはあまりにも長い。だから要点だけを説明しておこう。説明するのはこの概念兵器、「Me-Ssiah」についてだ。
 魔法、という概念は知っているだろうか? もしも知らない場合でもこの兵器は稼働するので、もし説明が必要ならば閲覧用のファイルも用意しているのでそちらを見てくれ。
 まず、この機殻のコンセプトは「魔法と概念の融合」であり、概念と魔法を融合させて使用する為のデバイスだと思ってくれて良い。魔法が何の事だかわからない場合は後で閲覧してきて欲しい。
 話を続けるが、このコンセプトを達成する為には「リンカーコア」と呼ばれる魔法を扱う為に必要な器官が必要な訳だが、このデバイスには「俺のリンカーコア」を搭載している』
「…え?」


 なのはは思わず説明の途中で間の抜けた声を出した。不意に視線は目の前に付き立つMe-Ssiahへと視線を向ける。だが、説明はまだ続いていく。


『どのようにしてこのデバイスを作り上げたか、その製造過程は残さない。これは残してはいけない。故に残さない。これは「ゲオルギウス」と同様の技術を用いて作られたものだ』


 ゲオルギウス、という言葉になのはは思わずジェイルへと視線を向けた。ジェイルはディスプレイに集中していて、なのはの視線には気付いていないようだ。なのはは視線をディスプレイの恭也へと戻し、耳を傾ける。


『だからこの世界に存在するカウリングデバイスはこの一機のみだ。運用方法はMe-Ssiahの内部の俺のリンカーコアの魔力とシリンダーに概念を封じ込めたものを装着して必要な魔法を構築、発動する。これがMe-Ssiahだ。
 魔法の原動力となる魔力素というのは人の意識、つまり意志であり、世界の意志であると俺は研究の末、その結論に至った。生命、広い意味で言えば自ら動く者は少なからず意志を持っている。それが世界にある限り、魔力素、つまり残留意志は残り続ける。それをリンカーコアで吸収するのがリンカーコアの仕組みだ。
 つまり、意志を吸収するというのは世界の個性である概念の吸収も可能である。だがそれは魔力として運用される魔力素とは異なる。取り込む事は出来るが、それは結局はリンカーコアへの負担となる。その負担を軽減させ、更に発展を持たせて使う事を目的とした兵器こそがMe-Ssiahだ。
 この力をもう一人の俺へと託す。願うならば、どうか新庄さん達の願った世界、佐山が守ろうとした世界、そして全ての世界に。…そして、御神と不破の両家、俺の息子、士郎、俺を支えてくれた人たちに幸せがあらん事を願う。君の道に幸いがある事を祈っている』


 そこで映像は途切れた。不意に、なのはの頭上に居た獏が何かの反応を示すように前足を広げた。
 過去が、来る―――。





    ●





 それは、幼い少年の記憶だった。まだ戦う意味も、戦う理由も見いだせない、ただの子供だった時代。
 だが、ある才能があったが故に巻き込まれてしまった事件。自分が知らない異なる「異世界」から来た犯罪者集団に囚われた。


「――君はよくやってくれたわ」


 命と引き替えに自らを助け出した人。惜しまれる中で死んだ彼への贖罪の為に選んだ魔導師という道。





 それは、惑う青年の記憶だった。贖罪の為に戦って、たくさんの命を守ってきた。褒め称えられ、だがそれでも燻る心を抑えられずにいた。
 自分の住まう世界で着実と迫る崩壊時刻。そのために動き出す人たち。惑う青年は道を定められずにいた。


「――貴方は、もう自分を許して良い」
「――許しなさい。許して良いと言われてるなら、貴方は貴方を許すべきだと私は思うわ」


 かつて、自分が守れなかった人の伴侶が告げた救済の言葉。
 信じられず、逃げ出した場所で叱りつけながらもその罪を雪いでくれた恩人が居て。
 その恩人が願う世界。それを知った青年は刃を向けるべき道を定めた。償うべきだった人は笑って送り出してくれた。





 それは、突き進む男の記憶だった。タイムスリップという異常な体験をしながらも、何とか未来へと繋げようと突き進んだ。
 時には崩れ落ちそうになった時、支えてくれた最愛の人となった女性。流れ落ちた場所で自分を拾ってくれた、自分の事情を知っても変わらず愛してくれた人がいてくれた。
 後の恩人へと繋がるだろう者達との絆。続く戦争の最中、必死に命を守ろうと足掻き続けた。


「――恭也は、私が愛した人だもん。だから最後までやれるよ」


 たくさんの人に道を導かれながら男が歩いた軌跡。その後には多くの命があった。だが、それでも男はまだ足りないと戦場を駆け巡る。少しでも過去の遺恨が未来へと残らぬように刈り取る。
 それが己の刃のあるべき姿だと定めて男は突き進む。





 そして…―――。





「――グッ…ガハッ…! ゴホッ、ゴホッ!!」


 咳き込む音と共にびちゃり、と鈍い水音が響き渡る。血を吐き出したのは恭也だった。口元を抑えるその姿はなのはも見たことがある白髪の恭也の姿だった。苦しげに吐息を繰り返しながら恭也は睨み付けるように虚空を見る。
 しばらく荒く呼吸を繰り返していた恭也は安定した息を取り戻していた。だが、その姿に力は無く、まるで燃え尽きる寸前の蝋燭の火にも似ていた。ボンヤリとした様子で天井を見上げながら恭也は呟く。


「…俺は…結局…守りたいと思ったものを、守れなかったのかもな…。雪花を、俺の最後に付き合わせて、ワガママに付き合わせた…。士郎も、捨てたようなものだなぁ…俺が捨てさせたのか…」


 それを聞いているなのはは思わず思う。きっとそれは違う、と。彼女はきっとそれを望んで死んだんだ、と。雪花と戦ったなのはだからこそわかる。だから恭也は謝るべきじゃない、と叫びたかった。だが過去の映像にその声は届くはない。


「……駄目だな…雪花。俺は…お前がいないと、後ろしか見えないよ…」


 求めるような声は切なくて、恭也は何かを掴むように拳を胸に当てる。もう彼女は居ないのだろう。彼女は恭也の作り上げた者、恭也の思いを護り上げる為に番人のような存在となり、今まで残っていた。
 本来、守らなきゃいけないだろう人を置いてまで。本当に守りたい人を頑なにまで思って。だからこそその言葉は吐いてはいけない。だけども吐露してしまう本人だってそれはわかっているのだろう。


「……わかってるさ。俺がどれだけ足掻こうとあの未来は変わらない。きっと俺だって俺なりに精一杯やった先にTop-Gの崩壊があったんだ、とわかってても…それでも…」


 はぁ、と吐き出す息は弱々しい。鼓動も弱々しくなっていく。命の灯火が消えそうになっていく。


「…新庄さん…俺は、運切の為に、生き残ったTop-Gを含めた全Gの者に、これから罪を背負うだろうLow-Gの者に、何かを残せたのか…?」


 かつての恩人の名を呼びながら恭也は問う。だが、答えを返すものはいない。最後の力を振り絞るように恭也は胸元の宝石を握った。それはデバイスだった。それは淡い点滅を繰り返して。


「……構成術式…起動…」
『All light』


 淡い光が恭也を包んでいく。その光はゆっくりと恭也の体を分解していく。光の粒子となって消えていく恭也の胸元には淡い青色を放つ球体が浮かぶ。彼のリンカーコアだ。それは恭也の体が消えてゆくのに反比例して輝きを増していく。


「…マイナス概念に犯されて朽ちた身だ…。ならば、骨の髄まで持っていけ…。……手にするのは、もう一人の俺しかいない…。どうか、良い奴だと良いな。俺と違って…強くて…守りたいものを守れる…そんな奴が…」


 ごほ、と息が漏れる。だが、その感覚はもはや億劫で、それが逆に楽にすら感じられる。


「…俺は…そんな奴の力になれるなら……」


 良いなぁ、と。
 ただその一言だけ残して、彼は消え去った。いいや、確かに彼という存在は確かに残っている。その傍らに置いてあった「Me-Ssiah」の中に取り込まれるようにして。恭也のリンカーコアを得て完成したMe-Ssiahはそのプログラムを構築し、完成させていく。
 そして、全てのプログラムが完了したその瞬間、Me-Ssiahは静かに構築完了を告げ、静かにその光を落とした…。
 そこで、過去が潰えた。意識が現実へと引っ張り戻される――。





     ●





 過去から戻ったなのはは、そのまま勢いよくMe-Ssiahへと手を伸ばした。Me-Ssiahを握った瞬間、Me-Ssiahが息を吹き込まれたように起動する。まるで叫ぶような音を立てながらMe-Ssiahは震える。


「…無駄に、するもんか」


 震えるMe-Ssiahを握りしめながら、なのはは呟く。その声もまた震えていて、俯いた顔には涙が伝う。こんなにも切なくて、こんなにも頑張って、こんなにも報われなかった。彼が悪い訳じゃないのに、抱え込んで、そのまま持ち去ってしまった。
 雪花があそこまで強かったのはわかる。強くなければ恭也を救う事が出来なかったからだ。だから雪花は強かった。新庄さんの両親も強かった。実力だとか、そう言うものじゃなくて、心の問題で。
 きっと彼に足りなかったのは心。きっと、軋む心を彼は結局持て余してしまったのかもしれない。痛みから逃げて、でもその痛みから逃げた事を恥じて、でも、逃げる事で得られるものに幸福を感じて、それを得て、また苦しんで。
 喜んで良い筈なのに。幸せになっても良い筈なのに。ゴールしたって良いのに。彼はそれを決して決めようとはしなかった。決してそうはしなかった。あぁ、その姿は…まさに自分だったじゃないか。
 かつて家族に愛されてないと思いこんで、愛されようと理想を定めて、でも定めれば定める程に高くなる理想にいつしか満足する事が出来なくて、ゴールも決められず、ただ上へ、上へと空を目指すように飛んでいた。
 そして、墜落した。絶望して、心が死にかけて、バラバラになって、でも生きたくて、幸せになりたくて。そうして足掻いた先に…彼がたどり着けなかった答えを自分は得る事は出来た。
 それが彼にとって幸福になるものなのかなんてなのははわからない。でも、それでも証明する事は出来る。


「貴方の残したものが…守るから…! 手にするのが遅くて、失っちゃったものもあるけど…! 絶対、絶対私、幸せになるからっ!!」


 じゃないと、報われないじゃないか、と。なのはは叫ぶ。自らの力となって少しでも彼が救われるならば…自分は、この力を惜しみなく振るおう。そして守る。守りたいと願われた者を、守りたいと願った者を。
 彼が、そして自分が願った幸福を。誰かと共にあり、願った誰かがそこにいる未来を得る為に。その為に戦い、散って、そして今、その為に戦おうとしている。だからこそ…そう、だからこそ。


「だから、一緒に行こう! 迎えに、来たよ!! 貴方を!!」


 Me-Ssiahは震える。なのはの声に歓喜を示すかのように。なのはは感じる。手に馴染む、と。これは自分の為にある為のものなのだと。そこから伝わってくる彼の思いが、嫌でもなのはの涙を流れさせた。





    ●





 御神恭也。後に不破雪花と婚約後、不破恭也と至る。
 幼少時、まだ幼かった彼は異世界「次元世界」から逃げ込んできた犯罪組織の残党に人質として取られた。その際に事件の解決に当たっていた時空管理局員が殉職。
 その時の経験から属託魔導師としての道を選び、御神恭也は時空管理局に入局する。だが本人の私生活の面からも考慮され、本格的な局入りは本人の今後に委ねられる。
 青年時、迫る世界の崩壊時刻に動き出す世界に迷いを抱くも、殉職した局員の妻と当時Low-Gから亡命してきた新庄由起緒に諭され、属託魔導師を辞退。以後、UCATに所属しその力を惜しみなく振るうも、Top-Gの崩壊後、過去へと遡る事となる。
 以後、自らが飛ばされた先であった不破家の協力を得ながら未来への布石を打つために護国課に入り込み、概念戦争の渦中を駆け巡る。だが、その後、マイナス概念に体を犯される。最後にその身を「Me-Ssiah」の材料として彼の人生は幕を閉じている。


「…改めて纏めると、彼も数奇な人生を歩いているね」


 ウーノが運転する車内。そこでジェイルはウーノ達への報告も兼ねて纏めた彼の過去を語る。ジェイルの隣に座っているなのはは俯いたまま反応を返す事はない。その胸元にはレイジングハートと「Me-Ssiah」が揺れている。
 Me-Ssiahもまたデバイスである。故にその状態を待機モードへと戻す事が出来る。色の無い結晶体は車の振動に合わせてレイジングハートともにゆらゆらと揺れている。


「…トーレは興味があるんじゃないかい? 君の制作には恭也のデータを元にしている所があるからね?」
「…どういう事ですか?」


 不意に、なのはがついに反応を示す。後ろの席にいたトーレへと一瞬視線を向けた後、ジェイルへと視線を向けて問いかける。


「何、トーレは私が生みだした「戦闘機人」と呼ばれる生体兵器、と言うべきかね。まぁ、私の研究の一環で、そこで属託魔導師であった恭也に私は幾度無く接触していたのだよ。彼の身体能力は興味深いデータだったのでね」
「…兵器って」
「無論、弁明上はそうだが、彼女達は人間だよ。人間は人間だからこそ強い。機械のように安定した強さもまた必要だが、同時に不確定要素を取り込める人としての強み。それを併せ持ったのが彼女達だ」
「…ウーノさん達もそうなんですか」


 なのはは全員へと視線を向けて、そして溜息を吐き出す。その仕草を見ていたジェイルは口元を吊り上げてなのはへと問いかける。


「…軽蔑するかい?」
「…ジェイルさんが彼女達をどうでも良いように扱うなら。でも少なくとも、ジェイルさんはそんな風には見えない」
「どうだろうね? 私としてはよくわからないのだがね」
「私達にとってお父さんのようなものよ、なのは。だから、そんな風に怒らなくても良いのよ?」


 後ろの席からぽんぽん、となのはの頭を撫でながらクアットロが告げる。それに同意するようにチンクとトーレが頷いて。


「そうだな。まぁ、人に迷惑ばかりかけるような人だが…それでも、私達に優しいしな」
「私は別に普通の人に生まれたい、と思った事はない。戦闘機人である私が私だ。それを不幸だと思ったこともないし、幸福になれるだろうという道はいつだってドクターが示してくれる。勿論、それが与えられるだけのものじゃない。自分で考えろ、とドクターは言ってくれるからな」
「だから、私はここにいるのよ。自分の意志で、自分が幸せだと思う場所に」


 チンクとトーレの言葉に同意するようにドゥーエが助手席から振り返って告げる。ウーノは運転している為、返答こそ返さないものの、その表情に淡い微笑を浮かべているのがミラー越しになのはには見えた。
 それに、なのははふぅ、と溜息を吐き出す。そして一度瞳を閉じて、再びゆっくりと開いて。


「…幸せだと思う場所、か。…私は、お爺ちゃんをそこに連れて行けるかな…? 私は…私の幸せだと思う場所にたどり着けるかな…?」
「たどり着けるさ。そこは、君と私の幸福の境界線上だからね」
「えぇ。そして、私達の、ね」


 なのはの弱音にジェイルとドゥーエが楽しげに笑って返す。その表情を見たなのはは、今度は力を抜くように息を吐き出して、先ほどからぼんやりとしていた表情を笑みの表情へと変えて。


「……帰りましょう。ジェイルさん。私達が、望める場所に」
「あぁ、行こう。私達が望む場所に。…だから、今は休もう。泣くのは力がいる。ならば力一杯に泣いて、疲れて、眠って、全て洗い流してしまえば良い。――君には、それが出来るのだから」


 くしゃり、となのはの頭を撫でてジェイルが告げる。それになのはは軽くくすぐったそうな顔を浮かべたものの、すぐに瞳を閉じてジェイルへともたれ掛かる。
 その光景を見ていたクアットロは目を輝かせ、チンクとトーレに両側から脇腹に肘鉄を入れられて声もなく崩れ落ちた。その様子をミラー越しに見ていたドゥーエは小さく含み笑いを零すのであった。
 ウーノが運転する車は揺られていく。向かうのは帰るべき場所へ。帰りたい場所へ。望める場所へ。望む場所へ。…つまり、彼等の居場所へと…。
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