次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
■■■スポンサーサイト
--/--/-- --スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=  第2章 06
2010/10/13 Wedリリカル・クロニクル
 ただ、空を見上げていた。
 空を見上げているのは一人の少女だ。名を――戸田命刻と言った。「軍」の構成員にして、Low-Gの佐山御言の鏡面存在。つまりTop-Gの遺児。
 UCATとの戦いから時が過ぎ、「軍」の各所にセイフハウスや非常時の荷物置き場を設置している。そこへと訪れながら、命刻は考えていた。あの日の夜の戦いの事を。


 ――私は…負けたのか。


 負けた。命刻の心に残るのは深い敗北の傷痕。自身を負かしたのは自らの鏡面存在ではなく――憧れた人の鏡面存在と名乗る少女。
 高町なのは。まだ幼いながらも、信念を固め、自ら前に進む力を持っている少女。対峙した命刻はそれを惜しく思い、愕然とし、そして敗北した。
 彼女は強者だ。真っ直ぐに自分の思いを貫ける人物。確かに命刻の心をなのはは穿ったのだろう、その強さを以てして。
 それに対して命刻は、あの日、詩乃を害されたという激情から冷め、冷静になって考えるようになってからはなのはに対する憎しみは湧いてこなかった。
 代わりに沸き上がるのは敗北感だ。詩乃があれからどうなったのかはわからない。わからないからこそ、不安になる。
 彼女は辛い思いをしていないだろうか、と。だが、命刻には1つだけ詩乃の現状を僅かながらでも得る事が出来た。


「…わぅ」
「…何だ、シロ」


 シロ、と命刻が名を呼んだのは透けた姿を持つ大型犬だった。それは犬霊。詩乃の持つ「意思疎通」の概念の力によって具現化された存在だ。
 故にシロは詩乃と共に在ろうとする。それは詩乃が呼応し、具現化させた存在だからだ。だがしかし、そのシロは詩乃の下へと行こうとはせず、ただ命刻の傍にいる。
 それはまるで命刻を一人にしないかのように。彼女の身を案ずるかのようにシロは命刻から視線を逸らす事はない。
 恐らく詩乃は自分の心配をしているのだろう。あぁ、だからこそ命刻は瞑目した。広がるのは苦味を伴った後悔の味。


「…守る為には…どうすれば良いんだろうな…? なぁ、シロ」


 問うように命刻は呟いた。そんな命刻をシロはただ見つめている。返答を返す事はない。はぁ、と命刻は吐息を零す。
 自分は、弱い。守りたい者を結局は守りきれなかった。自分の弱さが、甘さが、詩乃を案ずるが故に突き放す事が必要だったのに、突き放せなかった自分。
 そして現状、自分たちは敗北した。少なくとも命刻はそう思っている。だが、だからこそ命刻は燻っている。


「…このままで、良いのか…?」


 大事な存在。それは命刻にとって詩乃だ。詩乃を守るためにこの世界に自分たちを認めさせ、そしてその上で過去の賠償を行い、居場所を作る為に。
 きっと、そこで自分たちは世界を大きく揺るがす事になるだろう、と思っていた。だからこそ詩乃には離れて欲しかった。そうなれば嫌でも動乱の中に呑まれていくから。
 そうすれば命刻は心預けられる人を失う。自分はそういう性分だ、と。それで良い、と思う自分がいるのは確か。だが、それはあまりにも暗く冷たい未来。
 だがそうしなければ守れない。グルグルと命刻の思考は回る。はぁ、と溜息を零し、ふと視線をずらす。そこは道路。ここは山中だ。
 とりあえず山を下りるか、と道路の方へと視線を向けて、命刻はソレを見た。
 強烈にタイヤを擦る音を響かせながら超特急で山を駆け下りていく一台の自動車だ。そして命刻は見た。見てしまったのだ。


「…何故…」


 ぎりっ、と。歯を噛み締めて。


「お前は…!」


 握りしめた拳は色を失っていき。


「揺らがないとでも、言いたいのか!!」


 「軍」との戦闘があって、世界は揺らいでいる筈だ。今まで隠してきた真実はそれほどまでに重大なものなのだから。
 だからこそ、彼等とて動きはまだ取れないと思っていた。考えていた。その矢先に――彼女は動き出した。
 それは命刻の心に深く楔を穿った人物。命刻は歯を噛み締めながら胸中でその名を呼んだ。


 ―――高町なのはっ!!


 命刻は刀を握りしめ、駆け出した。超特急で駆け抜けていく車を追いかけるかのように。その背を犬霊が付き添うように追走を始めるのであった。





    ●





 ――夢を、見ている。
 向き合っている男と女がいる。なのははその男を知っていた。鮮明になる度になのはは確信する。その姿は間違いなく自分の知る男のものだと。
 だからこそ、なのはの違和感は募るばかりだ。その男の年代はまだ恐らく30を越えたぐらいの頃だろう。だが…その髪はまるで初老のように老けきった白髪へとなり、車椅子に乗っている。
 その男の前で向き合っている女は、泣きそうな顔で笑っている。泣きそうなのに笑っている、というのはどういう事なのだろうか。


「…泣かないで」


 不意に女が呟いた。声は震えていた。
 一体、これはどういう場面なのか、となのはは疑問に思う。


「これからは、ずっと一緒」
「…俺だけで良い」
「私が嫌だもの」
「…士郎をどうする?」
「私は良い母親じゃなかったわ」
「…すまない」
「だから、泣かないで」


 そっと、女は男を掻き抱くように抱いた。男はその瞳から涙を零していた。震える手を、そっと彼女の背に回して、縋り付くようにその鎖骨に顔を埋めて。


「…幸せだったよ、恭也。そして、これからは続く子達の為の幸せの手助けになるから」
「……」
「恭也は頑張った。そして…これからも頑張るんでしょう? だから、一人にさせないよ。一人だと恭也は迷っちゃうから。鈍っちゃうから」


 だからね? と。


「これからも、ずっと一緒。死すら私達を別つ事はない。この魂も、この身も、私という全てを貴方の為に。貴方と共に」
「…すまな…」


 言葉は続かない。重ねた唇。涙を触れ合わせるように頬を擦り合わせて。
 それはまるで聞きたくない、と言うように。だが、それは答えを待つように。

「………ありがとう」


 消え入る様な声で告げて、彼はそっと瞳を伏せた。彼女もまた、微笑みを浮かべて瞳を閉じた。


「…愛してる」


 そして、彼の胸元にぶら下がった何かが煌めきを放つ。その煌めきから光の奔流が放たれたその瞬間―――なのはの意識は覚醒へと促された。





    ●





 なのはは目を開いた。ぼんやりとした頭はまだなかなか働いてはくれない。自分はどうしていたのだろうか、と思っていると、自分の頭の上で獏が動くのを感じた。
 まるで前足で軽く叩くかのように獏はなのはの頭の上で手を動かす。そしてなのはの意識は鮮明になる。
 そうだ、気絶してたんだ…と思わず溜息。トーレの運転の前には不屈のエースも形無しであった。気持ち悪い、と思いながら辺りを見渡すと誰もいない。
 おかしいなぁ、と思いながら外に出る。ドアが開いて外から新鮮な空気が入り込んでくる。そしてその中で見たのは――。


「ははは、くらいたまえ!! 雪玉十六連弾!!」
「ふふ、甘いですわドクター! 秘技、Matrix避け!!」


 仲良く雪の平原で戯れるジェイルとクアットロの姿だった。
 なのははふぅ、と息を吐き出す。手元にある雪玉に手を伸ばす。素手な為に少々冷たいが、固く、固く、固く、ひたすら固く雪玉を作っていく。


「何やってんですかぁっ!?」
「ガフッ!?」
「あべしッ!?」


 限界にまで固めた雪玉をなのはは遠慮無くジェイルとクアットロに投げる。ジェイルは脇腹に直撃し、クアットロは眼鏡に直撃していた。
 そのまま雪の平原に倒れ込む2人、なのはは肩を震わせながら2人を睨み付ける。ジェイルは飄々としていたが、クアットロは目を押さえて雪に顔を押しつけていた。どうやら眼鏡が目に直撃したらしい。


「私が気絶してる間に何してるんですか!? というかここは何処ですか!?」
「何、ちょっとした休憩さ。――主に私の」


 再びなのはが雪玉を投げつけるが、ジェイルは全力で逃げ出す。それをなのはは雪玉をかき集めながら追いかける。HAHAHAHAHA! と外人風に笑いながらジェイルは逃げ、なのはの雪玉を華麗に避ける。


「くっ! 当たれっ!!」
「見える! 見えるぞっ!」
「何がですかっ!!」
「遊びでやってんじゃないんだよーっ!!」


 とりあえず雪玉という間接的なものでは当たらないのでソバットを叩き込んでおくなのはだった。
 良い感じにソバットが決まったのか、ジェイルが雪の平原に倒れ込む。なのははせっせとジェイルに雪を被せた後、ふぅ、とやりきった笑みを浮かべて。


「……鬼だな、お前」
「あ、チンク」


 そんななのはに対してチンクは苦笑を浮かべて歩み寄ってくる。ほら、とチンクがなのはに差し出したのは手袋だ。なのはの手はすっかり冷え切っていて、なのはは御礼と共にチンクから手袋を受け取る。


「ドクターが割と限界で、お前も気絶していたのでな。悪いが勝手に休憩を取らせてもらった。後の運転はウーノが変わってくれるようだから安心しろ」
「…トーレさん達は?」
「ん? あそこだ」


 くいっ、とチンクの親指が指した方向を見るなのは。そこにはかまくらを作って中でモチをやいているウーノ、ドゥーエ、トーレの姿がある。


「…何でモチ焼いてるの?」
「…いや、ドクターが用意してたらしい」
「こんなこともあろうかとガファッ!?」


 起き上がろうとしたジェイルの頭を踏みつけてなのははふーん、とどうでも良さげに呟いた。
 チンクがなのはの応対に苦笑をしながら、ふぅ、と場の空気を紛らわすように息を吐いて。


「…ところで何か魘されていたようだったが」
「…え?」
「…獏が夢でも見せていたのか?」


 チンクがなのはの頭上でへたれている獏へと視線を向けた。そしてなのはは先ほど見た夢の内容を思い出す。なのははそっと獏へと手を伸ばして。


「…夢を、見てたよ」
「…過去の夢か?」
「うん」
「どんな夢だ?」
「…不破恭也と不破雪花の、お爺ちゃんとお婆ちゃんの…よくわからないけど」


 くしゃ、と前髪を掴むようにして持ち上げて。


「…きっと、死ぬ間際、かな。私が見たのは」


 それはよくわからない。胸が痛くて、落ち着かない。心が震えている。一体何故? どうして? わからない。わからないからこそ震える。
 それを堪えるように瞳を閉じて息を吐き出す。そんななのはに対してチンクはただ静かに見据えている。そうか、と小さく呟いて。


「…とりあえず、何だ。モチでも食うか」
「うん。そうだね。少しお腹空いちゃった」


 にゃはは、と誤魔化すようになのはは笑ってトーレ達がいるかまくらの方向へと向かっていく。なのはの隣を歩くチンクはなのはを心配げに見つめるのであった。





    ●





「――はッ!!」
「――シッ!!」


 響き渡るのは金属音。雪の平原にて舞い踊るのは2つの影。不破・雪花を両手に握るなのは。それに挑みかかるのはトーレだ。
 互いに防護服を纏ってはいない。食後の軽い運動、という事でトーレに誘われた稽古だが、その稽古は今や互いの実力を鬩ぎ合わせる決闘へと変貌していた。
 トーレの武器は手足から伸びるエネルギー翼「インパルスブレード」だ。全身を撓らせ、格闘技と混ぜ合わせた動きになのはは冷静に対処していく。
 トーレのブレードとなのはの小太刀が鬩ぎ合う。だが、トーレがすぐさま手を変え、足を変えなのはへと迫る。なのはは小太刀を用いて逸らし、ステップで回避し、トーレの攻撃を巧みに捌いていく。


「っ、見事です!」
「貴女も!」


 互いの顔に浮かぶのは愉悦。白の平原が続くその地にて2つの影は踊り回る。だがなのはは魔法を使っていなければ、トーレもまだ完全の本気ではない。2人にとってこれはあくまで「稽古」なのだ。


「…あれって稽古って言うのだから、本当、バトルマニアですよねぇ」
「…まったくだな」


 呆れたようなクアットロの呟きに同意を示すかのように頷くチンク。いつの間にか復活したジェイルはモチを醤油につけながら2人の稽古を観戦している。
 ウーノはせっせとモチを焼いて、ドゥーエがそれを皿に盛りつけてクアットロとチンクへと渡しながら言う。


「良いじゃない。楽しそうなのだから。トーレも生き生きしてるみたいだし」
「そうだね。個性を持つという事は良い事だと私は思うよ。そしてそれに向かって直向きな努力を出来るのは素晴らしい事さ」


 モチを呑み込みながらジェイルがドゥーエの言葉に同意するかのように笑みを浮かべながら告げる。
 2人を見つめるジェイルの視線は、まるで眩しいものを見るようにも見える。楽しそうに、焦がれるように、惹かれるように彼は2人を見つめる。


「…良いなぁ」


 不意に零した言葉は、誰にも聞き取れなかった。ジェイルはただ見つめる。その在り方の好ましさを胸に焼き付けるかのように。





    ●





「――ひどいな」


 ぽつりと、小さく呟く声が聞こえた。
 周囲に香るのは濃い血の香りと肉の腐った腐臭。思わず鼻を押さえてしまう程の匂いだ。
 一般人ならば悲鳴を上げて逃げ出してしまいかねない程の悲惨な光景を見つめて小さく吐息する。
 ふと、視線を巡らして、見たのだ。そこに原型を留めていない肉片に比べて「腕」だという形を残したものが。
 かつかつ、と音を立てながら腕へと近づいていく。そして、その腕へとつけられた刻印を見て、目を細める。


「…龍…」


 ぽつりと呟いた名。そこには複雑な抑えきれない感情の震えがある。ふぅ、と溜息を吐き出して前髪を掻き上げるようにして持ち上げて。


「…兄さんから連絡があった後に、これ、か」


 呟く声には不安げな色が零れていた。話された内容は正直、滑稽を通り越して呆れていた。だがしかし兄の説得からとりあえずは、と思っているだけだったが、いざこうなると事実なのではないか、という疑いが濃くなってくる。
 やれやれ、と言いたげに首を振った。揺れるのは黒髪。そして手に握られているのは――二刀の小太刀。


「……何があったんだ。一体」


 忌々しげに呟く。目の前の悲惨な光景は―――事実上、ある組織の壊滅を告げていた。
 表の者達では辿り着く事の出来ない闇の底。そこで静かに、何かが動き始めていた。静かに、だが、確かに…。





 

スポンサーサイト
トラックバック(0)+ +コメント(0)
リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=  第2章 07 ≪ BACK ≪ HOME ≫ NEXT ≫ リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる=  第2章 05

管理者にだけ表示を許可する
HOME
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログ内検索
リンク
カテゴリー
最近のコメント

 
 
 
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。