次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
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■■■リリカル・クロニクル =世界の終わりに悪魔と竜は戯れる= 第1章 17
2010/03/19 Friリリカル・クロニクル
 甲高い金属音が連続して響き渡る。刀と小太刀、振るわれるのはその長さが異なれど同一の刀という部類の武器。振るうのは二人の少女。なのはと命刻だ。
 方や、激情を乗せて。
 方や、抗議を乗せて。
 振るう。互いにぶつかり合う。薙ぎ、裂き、交わし、その意志を、その技を、その力を違いに打ち付け合う。


「おぉ――ッ!!」


 刀に激情を乗せるのは命刻。それを受けるのは小太刀に抗議を乗せるなのは。ここに来て構図は武器の特製と、使用者達の感情が大きく左右していた。
 小太刀はリーチが短いが、それ故に手数が多く、更に防御に適した刀だ。故になのはは受ける側へとなる。彼女の目的はこのくだらない戦の終結。
 対して、刀を振るう命刻は、目の前で詩乃を連れ去られ、奪われたその不甲斐なさと、それを目の前で成した敵がいるという事実。故に怒濤の攻めがなのはへと与えられる。
 火花が散る。互いの呼気が重なり、甲高い音がただ奏でられる。一際、甲高い音が鳴り響き、なのはと命刻が鍔迫り合いをする。


「く、そぉぉぉおっっ!!」


 命刻の刀は激情が乗るが故に精細を欠くが、荒々しいその刀は命刻の特性もあってか止めるのは至難の業である。だがそれでもなのはは為し得る。
 なのはの刀の本質は護る事にある。御神の信念は守る事に特化しているのだから。故に、護る為の戦いになのはは敗走はあってはならないのだ。
 攻の刃が牙を向き、守の刃がその牙をいなす。食らい付こうとするも、裁かれ、命刻の苛立ちは募るばかりだ。


「――何故だっ!!」
「なに、がっ!?」
「どうして、お前があの人と同じ太刀筋なんだっ!! 私たちを護ってくれたあの人と…恭也さんと同じ太刀筋なんだぁっ!!」


 命刻の声には震えがあった。命刻の叫んだ名に、なのはは眼を見開かせる。命刻の叫んだ名がなのはにとっては聞き覚えのある、忘れられない名だったからだ。
 「恭也」。その名はなのはにとっても特別だ。自分の兄の名でもあり…そして自分の祖父であり、そして…もう一人の「自分」。つまりTop-Gの自分。
 恐らく、命刻が呼んだ「恭也」は本物の自分の事なのだろう。つまり、「恭也」は美由希と共に居た時期があった?


「恭也って…御神恭也を貴方は知っているのっ!?」
「!? 貴様…知ってっ!?」
「答えてっ!! 何故貴方が私の本物を知っているのっ!?」
「…!? お前が…恭也さんの偽物…? ……それを、知っているのか、知っていて、貴様はぁぁああっっ!!」


 轟、と命刻の気合いと殺気が膨れ上がる。なのはは舌打ち1つと共に命刻の刃を受け止める。命刻はそのままなのはを切り裂こうと力を込め、押してくる。
 なのははそれを必死に歯を食いしばりながら押さえ込む。どうにかして命刻を戦闘不能に出来ないか、と考えるが、バインドで押さえ込むか、命刻の能力を超えるだけの一撃を叩き込むしか思いつかない。
 思い浮かぶ魔法はある。ディバインバスターがその筆頭だ。だが、後一発ぐらいが限界だろうし、確実に当てられるとも思えない。だが、このまま降着状態を続けている訳にはいかない。


「どうして…どうしてお前は踏みにじられるんだっ!!」
「ぐっ…!?」
「お前だって、踏みにじられたくないから私の前に立っているんだろう!? なら、解らない訳じゃないだろぉっ!!」
「――…だからってぇっ!!」


 喝、となのはの口から気合いの籠もった吐息と声が放たれる。それは一瞬、命刻の身体を竦ませ、その竦んだ瞬間、なのはは世界が完全に色を失い、モノクロになるのを感じる。
 身体の動きが鈍い。ならば、となのはは自らの四肢に翼を広げる。それはなのはの親友の使っている魔法とよく似ている。それは動きを加速させるための補助翼。
 モノクロの世界の中、なのはの魔力光が煌めき、世界が白く染まっていく。動きが通常と同じ感覚に戻る。だが、命刻の動きはスローのままだ。
 なのははまず、刀を弾く。命刻の手からスローで刀が飛んでいく。そのまま切り下げた刀を切り上げ、命刻の身体を裂く。肉を断つ感触に眉を顰めるも、止まれない。


『 Divine  saber 』


 レイジングハートの魔法がいつもよりも遅い感覚で展開される。だが、構わずなのはは小太刀を握る。そして、クロスさせるようになのはは振り下ろし――。


『 Saber  impact 』


 ――クロスし、交差するその瞬間に閃光を炸裂させる。そこで世界が一気に色を取り戻す。急激な酔いがなのはを遅い、酷い頭痛がするも何とか踏み止まる。
 炸裂した魔力刃の一撃に命刻は眼を見開いて吹き飛ぶ。吐息と共に血が吐き出され、その四肢が力なく大地へと倒される。


「…っ…は、ぁ……! く……私、は…それでも…踏みにじってでも護りたいものがあるんです…その為に、覚悟は、決めてるんですっ!!」


 命刻は動かない。これで仕留めたか、となのはは思う。だが、なのはの願いも叶わず、命刻はゆっくりとその身体を起こそうとしている。
 本当に厄介な相手、となのはは内心ごちる。だが、それでも止まれない理由がある。なのはは再び不破・雪花を構えようとして。


『命刻っ! 義父さんがっ!!』
「…なに…!?」


 命刻が通信機から響いた竜美の声に眼を見開かせた。その通信機の声はなのはの耳にも届いた。義父さん、というのが誰だかはわからないが、何かトラブルが起きたようだ。
 命刻はその通信に歯噛みし、なのはを睨み付けると、忌々しげに唇を噛み締めながら一歩引いて。


「…いずれ…詩乃は取り返す…。必ずだ…っ…!!」
「ぁ…っ!」


 言うだけ言えば、命刻は背を向けて駆け出す。急なその命刻の動きになのはは一瞬付いていけず、すぐに後を追おうとするも身体が上手く言うことを利かない。
 そのまま膝を尽き、不破・雪花が手から離れて、なのははそのまま倒れ込む。リンカーコアの焼け付くような痛みと、身体全体を襲う疲労感がなのはの身体を動かさせない。


「…勝った…の、かな…?」


 は、と息を吐き出しながらなのはは呟く。段々と意識が黒く塗りつぶされていく。あぁ、駄目だこれ、と何となく感覚的に理解した。
 レイジングハートの呼ぶ声が聞こえる。だが、その声に、声を返す気力も無くなっていく。まるで栓が抜けてしまったようだ。
 ごめん、と心の中で呟くのが精一杯で、なのははそのまま力なく瞳を閉じた。視界が黒く塗りつぶされ、なのはの意識は遠く彼方へと投げ出されていった。





    ●





 ――なのはの意識が落ちる時より、少し時間は遡る。


「では問おう、交渉役」


 地下にてハジと応対した佐山。自らと相対する佐山にハジは問いかけを投げかけた。それはハジが示した八つの大罪についての釈明。
 1つ、崩壊時刻の発端。
 2つ、十のGの破壊という隣人殺し。
 3つ、Top-Gの破壊という親殺し。
 4つ、もう一人の自分達の殺害。
 5つ、己の世界に災害を起こした自傷。
 6つ、これらを大罪の隠蔽。
 7つ、事実を隠蔽し、世界を麾下に収めようとした罪。
 そして8つ。人々が集まる首都や居住区に仕掛けられた爆弾。その起爆スイッチを握り、ハジは佐山に降伏を迫った。
 かつてと同じ間違いをするのか、それともかつての間違いを反省したという証明をここに行えるのか、と。
 それに佐山は応えた。――押したければ押したまえ、と。ただ無表情に佐山はそう告げたのだ。その態度はあまりにも傲慢に思える。
 その返答にハジが覚えたのは――失望。故に、彼はボタンを押そうとした。UCATの傲慢さを証明する為に。世界を変える為に。誰もが忘れぬように。
 汚名は自らが被ろう。そして、ハジはボタンを押そうとした。そう、確かに彼は押そうとしたのだ。


「しかし驚きだ。――ハジ君、君がそんなにLow-Gの人々を殺したいとはね」


 だが、そのボタンは佐山の一言によって制止させられる。ハジが制止するのを見て佐山はは問う。ボタンを押したいのだろう? と。
 だが私は押して欲しくはない。Low-Gの人々の命を奪っては欲しくはない、と。ハジは結局は理由をつけてLow-Gの人間を殺したいだけなのだろうと。
 無論、ハジとて反論する。自分はLow-Gの人間も大切に思っているのだと。本来ならばこのボタンを押したくないのだ、と。

 だが…誰が信用する事が出来ようか。ハジの言動を真実とし、信じて、頷く事が出来るだろうか?
 佐山は更に告げる。自分はLow-Gの人間の代表なのだと。故に彼らは殺して欲しくないと願う。だが、佐山は代表が故に、一般人達を交渉材料にする事には出来ない。
 これは最早交渉ではない、と。ただの脅迫なのだ、と。互いに理解を示せぬまま、互いに互いの主張を押しつけあうだけの意味のないものだ、と。

 そして示された7つの大罪。佐山は言う。――現状で答えられる問題ではない、と。
 確かにそうだろう。ハジの言葉には証拠がないのだから。Top-G、そのG の存在も、Low-Gの世界の本物だと言えるということも、何一つ証拠がないのだから、と。
 証拠も検分も為せない交渉には応じられない、と。佐山は他のGにも不利になる可能性を示唆し、ハジを糾弾した。
 そして――。


「成程な。――話をまともにする気はないということか。…ならば"軍" は貴様達を試していた、と言っておこう。それははぐらかされた、とも

 ――交渉は決裂した。
 ハジは概念核を奪取する為に佐山と新庄を突破しようと概念核のパレットが収められている鉄扉を目指す。そこに立ちふさがるのは――。


「アブラム様!?」
「サルバッ!!」


 ――UCATの実働部長、アブラムが立ち塞がる。ドゥーエは驚愕と疑問を。ハジはその声に憎しみを込めて彼のそれぞれの名を呼ぶ。
 アブラムとハジ。この二人には因縁がある。アブラムは――9th-Gの王、サルバその人なのだ。
 彼は本来のアブラム、八代竜王の一人の名を騙り、このLow-Gへ移り住んだ。本来のアブラムの婚約者を自分の妻として迎えて。
 故にハジは憎悪する。ハジは9th-G出身にして、アブラムとは本来義兄弟になる筈だった。ハジの妹がアブラムに嫁ぐ事によって。
 だがハジの妹であるサハルナズは死に、9th-Gも滅びた。そしてハジはTop-Gへと至り、今に至る。


「アブラム様! 何故此処にっ!? お下がりくださいっ!! その体では――」
「すまんな、ドゥーエ君。君の心意気は有り難い。――だが、譲れぬものがあるのだよ」


 ドゥーエの叫びにアブラムは口元に笑みを浮かべて告げる。ハジを止めようとするアブラム。だが既に重傷を負っていたアブラムはほぼ動けない。ただ立ち尽くすのみ。
 そんな彼を救ったのは……彼の妻であるアルナズであった。
 アルナズは民間人だ。故にハジはアルナズに手をかけようとはしなかった。そこで争いに一時の停滞が発生する。誰も動けぬ中、ハジは問うたのだ。


「この男は、……貴女を騙し続けたのだぞっ!」


 彼は貴方にとって本当のアブラムでは無いのだ、と。だから庇う必要は無いのだ、と。その男はアブラムの名を語る9th-Gの裏切り者なのだから、と。しかし…アルナズはハジの言葉に首を振った。


「私は目が見えぬゆえ、人を信じねば生きていけない女です。そして私が利いていたアブラム・メサムは医学の人間であり、ファリドゥーンと呼ばれた方でした。それなのに――私の許にやってきたのは体格の大きな、手指も太く硬い戦士でした」


 微笑みながら彼女はハジに告げる。ハジが言うようにアブラムは…サルバであり、本来のアブラムでは無い、と。だがそれでも…アブラムはアルナズに幸せを与えてくれたのだと。
 そこに、嘘は無いのだと。彼女は笑って告げたのだ。ハジはその言葉に、堪えきれないように二人を纏めて吹き飛ばそうと槍を振るう。そこに疾走する影が割ってはいる。


「お分かりですか、ハジ様…!」


 立ち塞がるのは、先ほどハジに吹き飛ばされたドゥーエだ。彼女は自分の身を挺してアブラムとアルナズを護る。両足に力を込め、槍を受け止めながら彼女は不敵に笑ってみせる。


「――意志は…偽物も本物も関係なく…誰かを幸せにする事が出来るのですよっ…!!」


 ドゥーエの言葉に、ハジは歯を剥いて、ドゥーエに目標を切り替える。彼女へと向けて槍を突き刺し、そのまま後ろの鉄扉を破壊し、概念核を奪取しようとする。
 だが、それを阻止する者が居た。佐山だ。彼はふぅ、と小さく息を吐き出し、ハジを睨み付けながら告げる。


「彼女には後で私が用あるので殺して貰う訳にはいかない。故に――痛い目を見せよう」


 佐山はそう告げ――ハジに右拳をまず叩き込み、顎をかち上げる。浮いたハジの身体に更に駄目押しの一撃が与えられる。
 吹き飛ぶハジ。そのダメージは軽いものではない。佐山の拳はハジの胸骨を砕き、折れた事によって発生する圧迫感がハジの呼吸を不完全のものとする。
 だが、ハジは諦めない。ハジの瞳、そこには9th-G系列の概念の「停止」の概念が収められた闇色の瞳がある。魅入られしものは動きを止め、そのまま崩壊していく必殺の瞳。


「ぁ…っ!」


 新庄は本能的に気付く。それは危険だ。それは彼を殺すものだ、と。そして、新庄は自らの武装、機殻杖「Ex-St」のトリガーに指をかける。
 ――ふと、思い出す。かつて新庄は似たような状況でトリガーを引く事が出来なかった。その時も佐山が戦っていたのだ。新庄の為に。
 その時、新庄はトリガーを引く事が出来なかったのだ。佐山に当たってしまうかもしれない。敵を殺してしまうかもしれない。その恐怖が身を竦ませ、新庄の行動を許さなかった。
 だけど…と新庄は指に力を込める。獏が、夢を見せる獣が問うかのように過去を見せる。それに対して新庄は――。


「力は、間違えないよっ!!」


 ――トリガーを引いた。Ex-Stから放たれた白の光によって吹き飛ぶハジの身体。しかし、執念なのか、まだハジは止まらない。槍を短く握り、佐山へと迫っていく。
 装甲服を着ていない佐山ではそれは一発でも急所に当たれば致命傷になるだろう。彼が死んでしまうかもしれない。新庄に死の恐怖が襲う。
 そして新庄は叫んだ。――死なないで、と。
 応、と佐山が新庄の叫びに応えるように構えを取る。思い出すのは、自らが積み上げ、研鑽し続けてきた技術。基本を忠実に、ただ一点へと佐山は意識を集中させていく。


 ――勝ちに行こう。


 応、と佐山は自らの中で浮かんだ問いかけに頷く。その佐山の脳裏で二人の少女の顔が浮かぶ。片方は新庄、片方は…なのはだった。それに続くように全竜交渉に関わる多くの人たちが脳裏に過ぎる。


 ――終わらせに行こう。


 身体の全てを打ち出す一撃。握るのは――かつて砕いた左拳。幼い頃、自らの力に耐えきれずに砕けた左拳。握れば未だに幻痛が襲う左手。それを、固く、強く握りしめて。
 それが一番、自分の信頼したもの。かつてはそれで砕いた。だが…それでもこれこそが自分の基本にして、信頼に値する一撃なのだと。


「逆らうか! ――母の死の意すらわからなかった小僧が!!」


 あぁ、そうだとも。佐山は応える。心臓には狭心症による圧迫が来る。身体が軋む、心もまた軋んでいく。身体を支配しようと痛覚が広がっていくが、それでも佐山は臆さない。
 負けないで、と言われた。愛しい彼女に。そして自分とよく似たあの少女に。ならば…彼女達に、佐山と共に戦ってきてくれた戦友達に捧げるものはただ1つ!!


「この歪みと軋みこそが――」


 身体は軋む。自分の在り方は酷く歪んでいるのだろう。だが――それが自分だ。それが当たり前で、それを抱えながら生きていくのが自分なのだと。


「――私だとも!!」


 そして、全てを終わらせる左の正拳突きがハジの身体に叩き込まれた。吹き飛ぶハジの身体は鉄扉に叩き付けられ、その意識を奪う。
この一撃が、「軍」との戦闘を終わらせる終演の一撃となった。




    ●





「――終わったわねぇ」
「そうだなぁ…」


 呟きを入れたのは風見だ。風見の傍らには出雲がいる。
 10th-Gとのヨルスとの戦闘を辛くも勝利を収めた風見が駆けつけた時には、ほぼ全てが終わっていた。疑ってはいなかったが、一安心と言った所だろう。
 戦闘が終わって、およそ1時間ぐらいだろうか。軍の残党は既に撤退し、UCATの部隊も各の時間にふけっていた。
 風見はふと視線を反らす。そこには佐山に膝枕をするように自らの膝に佐山を乗せ、優しく彼の髪を撫でている新庄がいる。


(…まぁ、今回はアンタも色々ときつかったみたいね)


 穏やかそうに寝息を立てている佐山の姿を見ながら風見はふぅ、と溜息を吐いて出雲に肩を預けた。新庄と佐山の姿を見ていると、ちょっと見せつけられた気分になる。
 だからという訳ではないが、なんとなく今は寄りかかりたい気分だった。風見が肩を預けてくるのに対し、出雲は何も言わずに風見の頭を撫でるのであった。
 その二組の二人組を見つめる影があった。それはヒオだ。ヒオはふんふん、と鼻を鳴らして視線を向けている。そして、ふと、隣に立っていた原川へと視線を向けて。


「…は、原川さんっ!」
「却下だ」
「な、何も言ってないですのーっ!?」


 ヒオが何か言う前に既に却下し、原川は不満の声を上げるヒオの額に手を添えて押しとどめながら視線を移す。そこには天井をぼんやりと見上げて座り込んでいる飛場がいる。
 飛場が視線を向けているのは概念核のパレットが収められている鉄扉だ。そこに寄り添うのは美影だが、あの二人もまた言葉がない。
 ショックを受けているのかもしれない。飛場は、最後の最後で長田竜美によって撃墜させられてしまったのだから。義姉さん、と飛場が彼女の事を呼ぶ事から、なにかしら因縁があるのだろう、と原川は察する。
 やれやれだ、と原川は肩を回した。こき、と骨が鳴り、自らも疲労しているというのを実感する。


「…まだこれから忙しくなる、か」


 軍によって暴かれた真実は今まで交渉を終えてきたG に大きな影響を与えるだろう。最悪、再び再交渉していく形になるかもしれない、と原川は予想する。
 世界はまだまだ動乱の中にある。今の一時はただ、本当に一時の終幕でしかないのだと原川は思い、重苦しい息を吐き出すのであった。





    ●





「アブラム様…ご無事で何よりです」


 各々の時間を過ごす全竜交渉部隊の面々の姿を横目の視界に収めながらドゥーエはアルナズと共に壁に寄りかかっているアブラムと声をかける。
 ドゥーエの声にアブラムはその口元に穏やかな微笑を浮かべて告げる。


「すまんな。結局、君の好意を無駄にしてしまった」


 アブラムの謝罪は、ドゥーエがハジを止めようとして立ちはだかろうと向かっていた時に合流した彼女が自分を気遣い、押し留めてくれた好意を無駄にした事への謝罪だった。
 アブラムの謝罪にドゥーエはいえ、と首を振って返す。ふふ、と小さく笑みを浮かべて。


「いえ。…生きていれば、それでまだ可能性は潰えませんから」
「…そうか。ならば、生きている事に、生かしてくれた君に礼を言うべきかな」
「いえいえ。むしろ私が礼を告げるべきでしょう。――生きていてくださってありがとうございます、と」


 謝罪も御礼も受け取らない、とドゥーエは淡く微笑んだ。そうか、とアブラムは返し、息を吐き出す。傍らのアナルズがそっと、アブラムを労るようにその手を握って。
 その光景にドゥーエは僅かに笑みを浮かべる。そうしていると、何やら遠くから誰かが駆けてくる音が聞こえた。視線を向ければそこに立っていたのは自分の妹だ。

「ドゥーエお姉様!!」
「あら、クワットロ」
「あぁっ! お姉様がこんな怪我を!?」
「…心配なら不要よ、私は大丈夫…。それよりもアブラム様をお願い。私、もう治癒用の符も何もなくなっちゃったから」


 あわあわと慌てる妹の姿を見ながらドゥーエはふぅ、と小さく息を吐き出す。地上にいる自分の姉妹達は大丈夫であろうか、と。





    ●





「あぁ、ウーノさんっ!! もう一発、もう一発!!」
「元気のご様子なので必要無いと判断します。ついでに邪魔です。はい」
「あふぅんっ!?」


 地上ではウーノがなのはにも使った「元気注入!!」弾を使って疲労困憊な者達の回復に当たっていた。彼女が治療した先では群がるように局員達が這っている。
 ウーノが回復した矢先、次の患者へと向かおうとするのを押し留めようとし、彼女によって踏みつぶされる者達も居たが、なんというか、幸せそうだ。


「……あれは、天然なんだよな?」
「……多分な」


 チンクはウーノが作り出している光景に苦笑を浮かべて見つめ、トーレは肩が凝ったのか、首を回し、肩をぐるりと回しながら呟いた。
 ウーノが引き金を引く度に増殖する職員達にチンクは引き攣った口元を隠す事が出来ず、とりあえず視線を逸らしておいた。そこでふと、チンクは顔を上げて。


「ところで、ドクターはどこに行った?」
「何。彼女を連れて既に医療室へと向かったよ」


 チンクの問いにトーレは肩を竦めるようにして答える。チンクはそれに、あぁ、と納得して頷く。そういえば彼女の姿は見なかったな、と。
 その時、ふと、トーレがクククッ、と喉を鳴らして笑い始めたのを見て、チンクは思わずギョッ、とする。一体、急にどうしたというのか? と言うように。


「いや、何。ここは挑み甲斐のある者達が多いなぁ、とな」
「……バトルジャンキーが」


 チンクは呆れたように溜息を吐きだす。個性が豊かな姉妹を持つと苦労するものだ、と思いながら。結局、どこに視線を向けてもアレなので、チンクは瞳を伏せるのであった。





    ●





「――んぅ…?」


 なのははゆっくりと瞳を開いた。目に映ったのは白い天井。先ほどまであった外の光景ではない。それを確認してなのははぼんやりとする。
 自分はどうなったのだろうか、と考えるも、思考が上手く回ってくれない。ただぼんやりとしていて、何も考えられない。


「――寝ていると良い」
「……? …ジェイル……さん?」


 声をかけられた。なのははその声の方へと視線を向ければ、そこには装甲服を脱ぎ、スーツに白衣姿となったジェイルがいる。彼はふっ、と笑みを浮かべて。


「ひとまず終幕さ。今は休むと良い。――君の戦いはまだ終わった訳じゃないのだからね」


 だからおやすみ、と告げられる声。なのはの意識は再びまどろみの中に落ちていく。彼女の疲労はまだ意識を取り戻せる程までには回復していないのだから。
 再びなのはは瞳を閉じた。少しすれば寝息を立てるなのはの姿にジェイルは口元を緩める。次第に押さえられないように肩を震わせて。


「…あぁ、最高だよ、君は。興味は尽きないね。まったく…仕掛けた甲斐があったというものだよ」


 楽しくて仕様がない、と言わんばかりにジェイルは笑う。そして笑いを噛み締めるようにしながらジェイルはなのはの眠るベッドから離れていった。
 彼の仕事はまだ終わった訳ではないのだから。ジェイルは白衣を翻しながら次の患者の下へと向かうのであった。
 戦は一時の終幕へ。未だ争いは終わってはいない。これは一時の休息。次の戦場が為の時間。しかし、今は彼等に安らぎの眠りを…。





 
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