次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
カテゴリー内記事一覧
スポンサーサイト
--/--/--
朧月の契り
2037/04/17
朧月の契り 第2章 14
2010/12/15
朧月の契り 第2章 13
2010/12/07
朧月の契り 第2章 12
2010/12/01
朧月の契り 第2章 11
2010/11/30
 ≫ NEXT ≫ 
■■■スポンサーサイト
--/--/-- --スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■■■朧月の契り
2037/04/17 Fri朧月の契り
朧月の契り =I reach the utopia at last.=


 目覚めは空白。出会いは始まり。垣間見るは誰の夢―――?
 勝者無き戦争は終わりを告げ、現実は動き出す。目覚めは誰がために?
 その身は忘れない。その魂は忘れない。そう、何故ならばその身は――。
 ――さぁ、意味の無い生涯を語ろう。


 序章 「空白の目覚め

 第1章 「夢と現と真実と」
  01 02 03 04

 間章 「かの身の生涯」
  前編 後編

 第2章「白銀の妖精の僕」
  01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
  11 12 13 14 New!!






 
 カナデのステータス





旧作:幻月の乙女

 これはまるで意味のない喜劇。誰が喜ぶ訳でもない。
 これはただの自作自演にしてそれに終わるだけ。観客もいるわけない。
 ただ、それでも確かに残るもの。それは意味の無いものだけれども。
 これは、確かに彼女の生きた証なのだ。
 ※朧月の原型。要望により多少の改訂を加えて掲載。

序章「End and beginning」   第1章「Thus, she swore it

第2章「It is a far phantom」   第3章「It is true of the world

第4章「She is a crime avenger」   最終章「unlimited blade works
  


外伝:鏡月の調べ =The wished utopia there.=


 それは異なる目覚め。それはただどこまでも穏やかに――。
 だが、その魂は許さない。この身はどこまでも、その丘にたどり着く為に。
 だから呼び合う。在らざるべき者はまた、在らざる者に招かれて――。
 ――選ぶべき未来は、果たして。


 序章 「願いは誰が為に

 第1章「切欠は突然に」
  01




  


  

トラックバック(0)+ +コメント(0)
■■■朧月の契り 第2章 14
2010/12/15 Wed朧月の契り
 色々と思う所がある。振り返ればそれは確かにキリがない。けれど、悪くはない。むしろ良かった。
 言いたいことがあって、望みがあって、願いがあって。だからこの道を選んだ。
 その最後が、どんな最後になったって構わない。それでも信じたこの道を行けるなら。


「…ねぇ? それを、貴方はどう思うかな?」


 カナデはそう呟き、倒れていた少女を抱き起こした。少女の呼吸が規則正しい寝息なのを確認し、ほぅ、と溜息を吐き出した。
 ここは闇の中。そこは地下室だった。異臭が漂うここは常識ならぬ場所。魔術の鍛錬所、工房と聞こえはいいものの、ここはただの飼育箱であった。現に、きぃきぃ、と響くのは虫の悲鳴だ。まるで呼吸が出来ないかのように虫達は悶え苦しんでいる。


『…ォォォォオオ、…ワシ…ハ…シ…ナヌ……!』


 その中に漏れる悲鳴。怨念に満ちたその声が聞こえる。カナデは視線を下ろせば、そこには虫が転がっている。チッ、とカナデは舌打ちをした。その手に抱えた少女を抱き直し、小さく息を吐き出して。


「転移が間に合った、か」
『キサ、マ…ナニヲ、ナニヲ…シタァ…!』
「ん? 貴方が桜の体から追い出された事かな? なぁに、簡単な事さ。この私が持っている刀は「大典太光世」って言う刀でね? 名前ぐらいは聞いた事があるかな? これは前田家のある女性が病気になった時にその病気を癒したっていう前田家の家宝だよ。まぁ、これには魔を祓うという迷信もあってね。まぁ、つまりはそういうことさ。これは女性を護る太刀であり、魔なる者を祓う力を持つのさ。理解が出来たかな?」


 少女を抱いた手とは逆の手に握っていた刀。それが魔力となって霧散していく。代わりにカナデの手に握られたのは漆黒の西洋剣。柄と柄頭に宝石が埋め込まれた剣。


『ソレハ…マサカ、トウエイ…!? バカナ、アリエヌ、アリエヌアリエヌアリエヌ…!!』
「有り得るからここにあるんだよ。さて、講義はおしまいだね。…じゃ、滅びろ。―――『"高貴なる不死滅の白焔"(ディルンウィン)』!!」


 カナデが投影した魔剣が白焔が吹き出し、爆発するように焔はその闇を食らい尽くすように広がり、そこに居た虫、虫がいた痕跡、その全てが焔の中へと飲み込まれていった。





 * * *





 眼下、見える町並みに視線を送る者がいた。それは赤い外套を纏った男だった。逆立てたように整えた白髪のオールバッグに黒の鎧。明らかに現代に纏うものではない。だがそれを気にした風もなく男は視線の先に移る町並みを見続けている。
 かの者の名はアーチャー。この地、冬木の聖杯戦争に呼び出される7騎の英霊が一人。その中で弓兵の位を戴く彼はその千里眼の瞳を以て戦場となる町並みを見続ける。その瞳にあるのは懐古。そして同時に戸惑い。


「…ふむ。記憶が戻らないというのはなかなかに歯がゆい限りだな」


 ぽつり、と。アーチャーである彼は小さく呟きを零した。思い出せば上空に召喚され、そして屋根を突き破りながらの召喚。かと思えばマスターとの言い合いにより、不毛な争いの先に消費された令呪が一つ。
 …あぁ、思い出すだけで頭が痛い出来事の筈なのにそれを楽しく、懐かしく思えるのは何故なのだろうか、とアーチャーは口元を緩ませた。しかしそれも僅かな時間のみ。すぐに意識は眼下へと向けられる。


「…ふむ。まぁ、思い出せない事は多いにせよ、またこの街に帰ってこられるとは、な」


 そう呟き、少しずつでも良いから昔の事を思い出すのも良いか、と思った矢先だった。
 それは強烈な魔力の発露だった。そう遠くはない。その千里眼の瞳は逃す事無くそれを写していた。それは焔。立ち上る火の光。それが、何故かアーチャーの心を揺さぶった。胸が締め付けられる。あそこには確か■■■の家が…。


「…なん、だ?」


 わからない。だが、このまま放置してはいけない。このままでは駄目だ。このまま見ているだけでは駄目だ、と。アーチャーは屋根を蹴って眼下に見える舘を目指した。火の勢いは留まらない。その中で―――。


「―――」


 誰かが、居た。
 焔の中、その腕に誰かを抱えるようにして立つ女の姿があった。焔の光によって紅の色を帯びる白髪。その身に纏うのは焔よりも紅き外套。色を抜いたような素肌。
 それが燃えさかる屋敷の中から出てきた。腕に抱いた少女は恐らく気を失っているのだろう。動く気配を見せない。それを見ていたアーチャーは言いようもなく、その姿に―――嫌悪と恐怖を感じた。自分でもどうにかなってしまうのではないか、という程の感覚にアーチャーは無意識にその手に弓を構えていた。
 それに気づいたのか、女が顔を上げた。その瞳がアーチャーと絡み合う。相手にも千里眼があるのかどうかは知らない。だが、それに、確かに、彼女は―――。


「…ぐ、ぅっ…!?」


 込み上げる嘔吐感。堪らず弓を魔力へと霧散させ、一歩引く。今、アーチャーの状態は万全。なのにこうも調子を崩されている。おかしい、と。召喚されたばかりにこんな事があって堪るか、と。ならば、その原因は―――。


「…何者だ…奴は…!?」


 そのまま、気がつけば焔に包まれる屋敷の中に女の姿は見られなかった。その腕に抱いていた少女の姿も無い。何がどうなってあの女があの屋敷を焼き、あの少女と共に外に出たのかは知らない。
 けれど、何故だろうか。その姿が、どうにも頭から消えそうにない―――。





 * * *





「…な、何だよ、これ。何なんだよぉ、これぇっ!?」


 時同じくして、燃えさかる屋敷を見て吼えている少年が居た。その少年の名は間桐慎二。今、目前で燃えている屋敷に住まう住人だ。彼はただ目の前の事が信じられない、というように屋敷を見つめている。
間桐慎二は一般人ではない。その身に流れる血は確かに魔術師の血統のものに相違ない。しかし間桐の魔術回路はこの地に根付くのと同時に衰退し、今代の後継者である慎二には魔術回路さえ失われていた。
 そんな慎二は魔術師である事に執着していた。自分は特別な人間なのだと、選ばれた人間なのだと。故に彼はこの聖杯戦争にマスターとして参加した。そしてその従えたサーヴァントに力を与える為に夜の街を徘徊し、屋敷に戻った途端にこれだ。


「燃えてる…おい、どうして僕の屋敷が燃えてるんだよ? 待てよ、燃えるな、そこには間桐の魔術書が残ってるんだぞっ!?」


 慎二は屋敷の中へと飛び込もうとする。が、それを押し度止める影があった。それは地に着くのではないか、という程までに髪を伸ばした女性。マスクによって隠された目元。そして感情を示さない口元。まるでそれは人形じみていて。


「シンジ、手遅れです。諦めてください」
「っ、何言ってるんだよ! ライダー! 燃えてるんだぞ! 間桐の歴史が、間桐の魔術書が、間桐の全てが! あれが無くなったら間桐が潰えるも同然じゃないか!! どう責任取ってくれるんだよ!? あぁっ!?」


 慎二は自身を押し留めた何者かに怒鳴りつけた。今にも食いつかんばかりの勢いでライダーと呼んだ女性に吼えた。慎二の怒りはあからさまに八つ当たりだ。ライダーの言は正しい。いつから放火されたかはわからないが、既に遅すぎる。
 更に、加えて言うならば―――。


「慎二、ここには宝具の使用形跡があります。恐らく敵の襲撃です。警戒を」
「何だって!? じゃあ、敵が潜んでるっていうのか!?」
「わかりません。もしかしたら、工房を狙っての襲撃だったのかもしれませんが…」
「…はぁ!? 何だよ、それ、空き巣を狙ったって事かよ!? ちくしょうっ! 卑怯な真似しやがって!!」


 慎二は怒り狂っている。彼には魔術師として継承される魔術刻印が無い。彼にとって魔術の知識とは屋敷に納められている蔵書他ならない。それが失われたという事実が慎二から平静を奪っていく。思い通りにならない現実に零れるのは都合の良い解釈による相手への罵倒。
 しかし、卑怯とは言うが、そもそもこれは戦争。戦争に卑怯も何もない。勝てば官軍。この戦争には勝てばそれで良いのだ。本当に戦争というものをわかっていないマスターである慎二にライダーは落胆を覚えている。だが、それを決して表情には出さない。
 どれだけ慎二が喚いてただろうか。慎二は悪態も言い疲れたのか、息を正すように肩で息をしている所に―――。


「――なんか、どこでも貴方は貴方なんだね。間抜けというか、いいや、間抜けなんて言葉じゃ片付かない、か」


 声がした。そこには嘲りの色があった。それに慎二はすぐに反応して顔を上げた。そこにはカナデの姿があった。


「お前…! アインツベルンの!!」
「あらご存じで? まぁ、そりゃそうか。桜ちゃんを間者にしてた訳だし?」
「お前が屋敷を燃やしたのか!?」
「あん?」
「お前かって聞いてんだよ!?」
「…そうですよー、って言ったら、どうすんの? 陣地を燃やされたお間抜けさん?」
「っ! ライダー! ぶっ殺せ!! この女をぶっ殺せぇっ!!」
「シンジ、いけません。人が集まってきます」
「それがどうした!! いいからアイツを殺せって言ってるんだよっ!!」


 嘲笑うかのように笑ったカナデに対してシンジが遂にキレた。再び喚きながらライダーをカナデに差し向けようとする。しかし、それにライダーが苦言を零す。神秘の漏洩、あまり過ぎれば自分たちが排除される側になってしまう。
 だが、シンジにはそれがわかっていない。今、彼の脳裏を占めているのはカナデへの殺意だけだ。


「いいから行けって、ライダー!! アイツを殺し―――」
「――ライダー、貴方、残念ね。でも安心しなさい。貴方は私が取りなしてあげますから」
「っ!? シンジ―――ッ!?」
「はぇ―――?」


 不意に、その声はシンジの背後からした。それにライダーが気づき、シンジが振り返るのが遅かった。
 そこに居たのはフードを被った魔女の姿。突如現れた彼女は、その歪なる短剣を振り下ろし、慎二の手に握られていた本に突き刺さった。


"破戒すべき全ての符"(ルールブレイカー)
「は?」


 瞬間、慎二の持っていた本は一瞬にして消え去ってしまった。その一連の流れを慎二はただ呆然と見る事しか出来ない。そして―――。


「坊や。良かったわね。相手がカナデで。私だったら―――死んでたわよ?」


 ――キャスターの笑みを最後に、慎二の意識は暗く深い闇の底へと飲み込まれていった。





 * * *





 慎二へと駆け寄ろうとしたライダーの前に剣が降り注ぐ。それがライダーの足止めとなり、ライダーは慎二に駆け寄る事が出来なかった。故にキャスターが慎二の持つ書に短剣を突き刺し、その書を消滅させる事を防ぐ事が出来なかった。
 キャスターに暗示でもかけられたのか、糸の切れた人形のように崩れ落ちる慎二をライダーはただ静かに見守っていた。それを見終われば、次に視線を向けたのはカナデ。カナデは掌をライダーに向けるようにして構えている。その姿に、ライダーは嘆息。


「…これは貴方のシナリオですか? バーサーカー」
「まぁ、その為に労力は割と使ったけどね。本当、イリヤに召喚されてたのが幸運だった。一番早くに召喚されているから工作し放題。お陰でキャスターも仲間に引き入れられたし――桜も、とりあえずは、ね」


 ふぅ、と。本当に安堵したようにカナデは溜息を吐いた。その視線の先には燃えさかる間桐邸がある。それを見つめるカナデの目には、苦いものがあった。


「…救える、なんて思ってる訳じゃない。ここであった事は消えやしない。…結局、私じゃあの子には何も出来ないんだろうし、ね」





 * * *





「―――……ら…」


 …遠くで、声がする。これは一体誰の声だろう。


「――…くら…」


 誰かが、必死に私を呼んでいるような。でも、あれ? おかしいな。私は死んじゃった筈なのに。そう、あの時、彼女に―――。


「――桜!!」
「ひゃぁっ!? せ、先輩…?」
「桜、大丈夫か? 怪我は無いか? どこか痛む所は無いか? 苦しいところがあったら言え!」
「え? え? あ、あの? え、と?」
「こらこら、シロウ。サクラが混乱してるじゃない。まずは貴方が落ち着きなさい」
「ちょばむっ!?」


 焦ったようにサクラの肩を掴んで問う士郎。それが目の前にいるものだから、桜は目を見開いて困惑を露わにする。何も言えずにただ混乱していると、士郎の脳天にハリセンが叩き落とされる。ハリセンを叩き落としたのは呆れたような表情のイリヤ。
 よく見ればそこは衛宮邸の寝室の一つである事に気づく。そこで桜はもう一度、ここが衛宮邸の寝室だという事を確認した後、思考にふけった。


(…どうして? どうして私、先輩の家に? だって、私は―――)


 何でもない日常だった。いつものように衛宮邸に通い、そして間桐邸に帰る。それが桜の日常だった。そしてまた何も無いまま一日が終わろうとしたその瞬間だった。
 呼び鈴が鳴る。それは珍しい事だった。だから桜も最初こそは呆気取られたものの、来客を迎える為に桜は玄関へと急いだ。慎二は帰ってきた時にはいなかった。恐らくは街にいるのだろう、と思った桜の心は暗く沈んだが、その心を押し隠しながら来客の元へと向かった。


『や、桜。こんばんわ』
『…え? 貴方…カナデ、さ』
『悪いけど、速攻ね? 今なら凜も動けないから、さ。いや、本当に急かした甲斐があったよ。んじゃ、ごめんね?』


 そして、彼女が鳩尾に拳を叩き込んだ。その衝撃に意識が点滅し、そのまま桜は意識を失った。あぁ、ここで死ぬんだ、と、諦めと、どこか救いにも似た気持ちを抱きながら。
 なのに、こうして自分は生きている。何で? どうして? と疑問はただ巡る。


「カナデが貴方をここまで運んできたのよ。…貴方、どうにも放火魔に気絶させられたらしくね。そこを通りかかったカナデが助けたそうよ」
「…放火? …じゃ、ウチは…」
「…桜、その、ショックかもしれないけど…」


 士郎が何かを言っているが、話しかけられている桜にとってはそんな事どうでも良い。家が無くなった。つまりそれは間桐の工房が無くなった、という事であり、同時に間桐の全てが潰えたと言っても過言ではない。
 だが、それを許すはず無い存在がいる筈なのに。なのに、そうだ、さっきから感じていたこの違和感の正体。そっと、胸を撫でて。


「…カナデさんは?」
「え?」
「カナデさんはどこにいるんですか!?」
「カナデなら今頃道場じゃないかしら? 用があるなら行ってきなさい」
「お、おい、イリヤ!?」


 士郎が戸惑った声も、イリヤの士郎をなだめる声も置き去りにして桜は走った。走って、走って、靴を履き替える暇すらも惜しくてただ道場へと走った。そして、ようやく辿り着いた道場の扉を息を整えぬまま開いて。


「…やぁ、調子はどうかな? 桜」


 そこに、彼女が居た。


「…どうして…?」
「ん?」
「どうして…!」


 どうして、と桜は息を荒らげながらもカナデに問う。カナデはそんな桜の姿を見て、ふぅ、と溜息を吐いて。


「…なんて言えばいいのか、いつになってもわからないなぁ、こういう時は」
「…ぇ?」
「…良いんだよ。自己満足だから。貴方がどんな苦しい思いをしてたなんか知らない。それを消したからって、貴方の中からその記憶がなくなる訳じゃない。むしろ、私のやったことはただのお節介だ。何もしなければ何もしないまま、ただこのままの生活が続いたのかも知れない。けど――ごめんね、私、そういうの嫌いだからさ。だから、お節介しちゃった」


 そうして、彼女は困ったように笑った。その笑顔に、何故か彼を幻視した。どうして? と問われても、そうしたいから、と。それ以外に理由は無い。助けたかった。だけど、それは押しつけであって、誰かに救いたり得ない。
 救いとは、その救われた誰かが救いだと感じなければ救いとは言えない。だから、彼女は救えない、という。それをお節介だと言う。それはただの自己満足だ、と。


「…何で…?」
「だから、嫌いだから。あの虫爺のやった事は私にとって許し難い―――」
「だからって!? 私は、貴方にとって――」
「こら。それ以上言ったら、駄目」


 ぴと、と。桜の唇にカナデは指を当てた。


「――今、君がそれを口にしたら君が築き上げてきたもの全てが崩れ落ちる」
「―――」
「あの心配性の事だからね。どうせ聞き耳立ててるでしょうしね?」


 ね? と同意を求めるように桜に言った後、カナデは道場の入り口へと視線を向けた。そこにはきっと、彼がいるのだろう。証拠に何かが慌てて扉の前から離れていく音がしたからだ。
 …今、もしも自分が言おうとしたことを彼女に言っていれば彼に聞かれた可能性もある。それを知って、彼女は止めてくれた。それがどういう意味を持つのか桜にはわかる。だが、だからこそ不可解だ。


「…どうして? って顔してるね?」
「……」
「まぁ、強いてあげるなら、君が衛宮士郎の家族で、それでね、恥ずかしい話なんだけど―――私は、自称、正義の味方だからさ」


 恥ずかしい、とは言いながらも恥ずかしがる事もなく彼女は澄み切った笑顔で言い切った。正しい事の味方。自分を救う事が正しいと、その正しい理由は、自分が衛宮士郎の家族だからで――。


「どんな経緯があったのか、どんな葛藤があったのか、どんなものがそこにあったのかは私にはわからない。でも少なくとも士郎は君の事を家族だと思ってる」
「―――」
「それを知ってるのは、桜でしょ? 私なんかよりも、さ。だからそれは私が壊しちゃいけないものでしょ?」


 ね? と。微笑みかけてくる彼女に、どうしようもなく涙が浮かんだ。ひぅ、としゃくりがあがった。それが涙と嗚咽に変わるのにはそう時間はかからなかった。
 どうしてこの人は、これで自分を救っていないなんて言うことを言うのだろうか。もう、もう十分過ぎる。この人は今まで自分を傷つけてきたものを壊した。けれど、それを壊したことによって壊れていたかもしれない関係を護ってくれた。
 それが、救いにならないなんてどうして言える? 救われたいとずっと願って、でも諦めて、このままでいられれば、と思っていた。だから救いなんて要らない、と思っていた。


「――カナデ、さん?」


 だから、ありがとう、って言わなきゃいけないのに。





「…、…っ! …ご、ふっ…!」





 どうして、その機会を、神様は悉く奪っていくのでしょうか。
 赤い、赤い、アカい、アカい、そのアカイ血が、彼女の口から吐き出されたのを。ただジッと、呆然と見つめる事しか出来なかった。
 それをどこか呆然と見つめていて、何が起きているのかわからないのに、ただ一つ明確に聞こえるのは、鉄の音。鉄の音がするのは何故なのだろう―――?






 
トラックバック(0)+ +コメント(3)
■■■朧月の契り 第2章 13
2010/12/07 Tue朧月の契り
 この身は彼の模倣。ならばこの行いは彼の理想に反するものだ。故に、その為にあれ、と自ら望み、自ら定め、自ら選んだこの身にはそれは戒めへと変わる。故に、鉄の音がする。鉄を打つ音がする。
 間違うな、過つな、お前の行くべき道はそうじゃない。望むな、望めばそれは完全たり得ない。元より完全たり得ないならば、不確定要素は排除せよ。そう、お前は剣だ。お前は剣なのだ。
 鉄を打つ音の反響音が永続的に聞こえてくる。その音しか聞こえなくなってくる。その音以外に要らぬ、と。その音に続く道こそがお前の耳にすべきものだ、と。そう、剣、剣、剣、剣。聖剣、魔剣、神剣、宝剣…そこは無数の剣が集う丘。気づけば、そこに立っていた。


「…忘れないよ。でも、それでも、私は―――」





 * * *





 時は深夜。月が夜空にぼんやりと浮かぶ。その下にある衛宮邸の土蔵には士郎がいた。士郎の傍にはイリヤ、セラ、リズが付きそうように居た。士郎は仁王立ちするように立っている。
 すぅ、と息を吸い込む。丹田に力を込めるように息を吸い、そしてゆっくりと吐き出していく。緊張に包んでいた身をゆっくりとほぐすように息を吐き出し終われば、うっすらと、士郎は閉じていた目を開く。


「――投影・開始(トレース・オン)


 それは、衛宮士郎に許された一つの呪文にして、衛宮士郎の撃鉄を上げる言霊。己の世界の変革を宣言し、ここに神秘を生み出す宣誓。
 彼女は言った。彼女がそうであるように、自分たちは戦う者ではない、と。彼女はそんな自分たちが唯一、戦う術があるとすればそれは想像する事だけだ、と。現実で勝てないならば想像で打ち勝て、と。
 想像する。想像するのは何だ。衛宮士郎が最も信頼する勝利のイメージは何だ?
 …剣だ。真っ先に浮かぶのは黄金の剣だ。その剣には勝利が約束されている。そう、それは余りにも衛宮士郎の求むる物だ。現実で打ち破れぬ相手に想像でさえ打ち勝つにはそれ相応のものが必要だ。
 だから、この黄金の剣は特別だ。まだ朧気で見えないけれど、だけどこの剣は恐らくどんな剣よりも最も美しいだろう、と思う。それが衛宮士郎が今、真っ先に求めるものなのだから。
 手に取れれば、と思った事は一度や二度ではない。けれど彼女は言った。それはするな、と。それはあまりにも士郎の身に余る。だから、余るならば―――出来うる限りでそれをしなさい、と。
 ならば、やるべき事とは何だ。この黄金の剣を手に取る事は禁じられている。してはいけない、と。本当にそれしないのならばそれを手に取れば良いとは言われてたが、彼女の言葉からそれは本当はして欲しくないという思いがあるのだろう。
 …これはあくまで最後の手段。わかっている。衛宮士郎がこれを投影すると言うことは過ぎたる事だ。何故ならばこれは自分が感じ取ったように、それだけの歴史を積み、祈りによって編み上げられた剣だ。
 そんなものを衛宮士郎は作れない。…けど、ならば、それを用いずに超えるというのならば…。


 ――創造の理念を鑑定。
 ――基本となる骨子を想定。
 ――構成された材質を把握。
 ――制作に及ぶ技術を修得。
 ――成長に至る経験に共感。
 ――蓄積された年月を記憶。

 ――是、以てして。

 ――創造の理念を提起。
 ――基本となる骨子を空想し。
 ――構成される材質を構成し。
 ――制作に及ぶ技術を錬磨し。
 ――成長に至る経験を仮定し。
 ――蓄積される年月を蹴破し。
 ――あらゆる工程を凌駕し尽くし、ここに幻想を結び剣と為す…!!


 そう、己の手で、それを作り上げるしかない―――!!


「……歪だね」
「……歪ですね」
「……歪」
「……あぁ、歪だ」


 …士郎の手に握られたのは、かろうじて剣だとわかる「何か」。形状からして剣だというのはわかるのだが、ただそれだけだ。剣、何だろう。ただ歪なのだ。歪んでいる訳でもない。それは正しく剣。だけど、剣として存在が感じられない。


「…うーん、形状は確かに剣なんだけど、こう、なんだろ…」
「…そうですね。与えられた理念と、それに与えられる材質の不釣り合いによる互いの相互干渉による統合化によっての理念が材質によって歪められているようですね。結果、曖昧なものが出来たのでは?」
「後、技術、経験、年月の部分が不明確。…これで剣を作るなら、もっと明確にイメージを持たなきゃ駄目」


 イリヤとセラ、リズが士郎の作り上げた剣を手に取ったり、眺めたりしながら推察を述べる。そしてそれを士郎は実感していた。いくら理念を提起し、骨子から材質、その経験に至るまでの年月すらも想像しようとしても、ゼロから物を作るのは難解だ。
 …士郎の剣は模倣ではない、けれど模倣が故の失敗。わかっている。だが、それでも無駄じゃない。あの剣の投影を許されないのならば、それに迫る為の剣を打つしかない。だが、そもそも衛宮士郎は鍛冶師でもなければ、錬金術師でもない。たかが高校生なのだ。専門の知識しかない。
 故に囓った程度の衛宮士郎の空想はとても頼りないもの。出来上がるものはなまくらも等しい駄剣の一言に尽きる。あの黄金の剣の歴史に匹敵する歴史なんてすぐに浮かぶ訳もなく、出来たのはそれに影響を受けただけの妄想に過ぎない。


「…やっぱり、もうちょっとスパルタ教育にした方が良いかしら? よし、明日の講義の時間は増やしましょうかしら??」
「待てイリヤ、それじゃあ講義ばかりじゃないか!? また講義なのか!?」
「あら、講義の結果がコレなのよ? あまりにも情けないじゃない…? 貴方の頭には何を詰めているのかしら? 士郎。貴方が足りてるのは理念だけなのよ? ならばその他の所を補填しなきゃいけないじゃない」
「そうですね。それでは次回の講義内容は楽しい楽しい物理の授業となります。いくら基本的な事とはいえ、やはり物質の知識は必要ですからね。連想に関わるとなれば、例え無駄でも詰め込んでみましょう」
「その後は錬金術の初歩の復習テストね。あと、実技もいれようか」
「……ァ、俺、ナンダカ風邪気味ダナァ、明日ハユックリト…」
「あら? それなら頭に直接刻み込むから心配しなくて良いわよ? シ・ロ・ウ?」
「えぇ、何せ世話になっている身。この程度、やらなくては」
「シロウの為、シロウの為」
「………………神は死んだ………っ!」


 そうして、真っ白になった士郎は地面に両手両膝を着いた。そんな士郎の様子を楽しげに見ているイリヤ、無表情を装うとするも、にやり、という笑みが浮かんでいるセラ。そしていつも通りに無表情なリズ。
 どちらかといえば、部活、そして個人の生活の為に学生生活を費やしてきた士郎。彼の苦難の道はまだ始まったばかりなのかもしれない……。





 * * *





「……なにやってるんだか」
「あら、そう言いつつも楽しそうね」
「はは、士郎が苦労してるなぁ、って思うと、つい、ね」
「あら、貴方サディストの気でもあるのかしら?」
「むしろそっちがあるんじゃないの? 人にこんな格好させておいてさ」


 柳洞寺の一室。そこには魔女達が集う。その部屋の中央の台座に置かれた水晶玉。そこに映し出されるのは衛宮家の日常の一部始終だ。それを見ていたのはカナデ。だが纏っている服がその彼女自身の色とまるで正反対な漆黒のゴスロリだ。
 そのカナデにやや恍惚とした笑みを浮かべて、ほぅ、と息を吐いているキャスター。ぞわり、とカナデの背筋に寒気が走る。…まぁ、本人としてもこのような服装が嫌な訳じゃないが、どうにもキャスターの視線が恐い。たまに見かけるわきわきと動く手が恐い。


「あら、可愛いものは着飾りたいじゃない」
「…否定したい所なんだけど、そこら辺はキャスターの趣向とかそういう所で納得しておいてあげるよ」
「そういう所は可愛くないわね、相変わらず」


 キャスターが呆れ混じりに言った言葉に、ふん、と鼻を鳴らす事で返答とする。


「…で?」
「…現在確認したのは、全部で4騎。私と貴方を含め、そして私が召喚したアサシン、そして…」


 不意に、水晶玉の景色が歪んだ。そこに映し出されるのは新都の町並みだ。夜の暗がりも深まったとはいえ、それでも未だに眠らぬ街であるこの街の灯りは途絶えない。その中で、カナデは自身の目にしたものに歯を噛みしめた。
 それは女性だった。その女性は倒れている。その首筋には何かの痕がついていて、そこからは少量の血が流れている。瞳は虚ろで意志の欠片も見えない。…それは奪われた者の末路だ。
 そしてその女性の前に、異形が立っていた。地に着く程までに伸びた髪。眼を隠すようにつけられた眼帯。その体型を強調するかのような衣装。更に極めつけは彼女から発せられる魔力と、気配。


「…ライダー」
「…貴方の情報の信憑性はともかくとして、サーヴァントな事には間違いないわ」
「…そう」
「…何、今更悔いているの? 私たちとて似たような事はやっている。気づかれない程度に些細な、だけどそれでも生命力の搾取を」
「…わかってる。自分が良くて、誰かが駄目なんて事を言うつもりは無い」


 そういってカナデは背を向けた。そのままどこかへと向かおうとしていると彼女の背に、彼女に視線を向ける事無くキャスターは声をかけた。


「…貴方、よくやるわね。正気を本気で疑うわよ。――本当に持つの? そんな体で」
「……はは、やっぱり気づかれるか。流石はキャスター。神代の魔術師だ」
「…貴方、バーサーカーとして呼ばれるのは必然だったんじゃないの? そんなの正気じゃないわよ」
「………キャスター。大丈夫だよ。私は私の目的と遂げるまではこの歩みを止めるつもりはないから」


 そういって、今度こそ歩を進めていくカナデの姿にキャスターは溜息を吐き出した。


「…本当に、理解し難い狂人ね。どうしてそこまで歪になれるのかしら…?」





 * * *





 月夜の下、柳洞寺の山門へと向けてカナデはそこに立つ男を見た。長い髪をポニーテイルのように纏めて、陣羽織を羽織っている青年だ。その顔は整っている為に、素直に美しい、と世に出れば女性が放っておかないだろう容姿をしている。
 その彼の背には長い長い刀が背負われている。その刀は鞘へと収まったまま、青年は壁に背を預けるようにして立っている。不意に、彼は閉じていた片目を開けてカナデの方へと視線を向けた。


「月夜の散歩か? なかなかに良い趣味をしている」
「散歩、ね。まぁ、あながち間違ってはいないけどね、小次郎」


 小次郎、と呼ぶと彼は嬉しそうに笑みを浮かべた。その名で呼ばれる事がまるで心地よい、と言わんばかりにだ。
 彼の名は佐々木小次郎。日本人ならば知らぬ者はいない、と言っても過言ではないほどに有名な侍だ。…だが、この佐々木小次郎という存在の伝承はあまりにも信憑性が無く、現実にはいないのではないか、と囁かれているのが定説だ。
 故に、ここにいるサーヴァントは「佐々木小次郎」の役割が最も相応しかった「誰か」に佐々木小次郎という名と殻を与えたが故に召喚されたのがこの佐々木小次郎である。先程言った通り、キャスターがルール違反をして召喚したのだが、その召喚経緯故に媒体とした山門から彼は離れる事が出来ない。


「良ければ、カメラでも買ってきて写真でも持ってこようか?」
「むぅ、かめらなるものや、しゃしんと言われてもパッ、とせん。まぁ、退屈紛れになるばらな是非も無いが」


 からから、とここから動けぬ、とわかっていても彼は笑う。それは正直カナデにとっては理解し難い感覚だ。自分から動かない、という事は変化を受け入れる、という事だ。それがどのような変化であっても、だ。
 故に、その立ち振る舞いはまるで柳のようだ。その性格もどこか柳に例えてしまうような気軽さや機転が利く事から。それはずっと駆け抜け続けてきたカナデにとっては「何もせずに落ち着け」というのは正直に言えば無理だ。


「それじゃ、キャスターの事、お願いね。小次郎」
「うむ。しかと留守番は任された。行ってくると良いぞ」


 最後に小次郎に一言をかけ、カナデは冬木の街を駆ける。向かう場所は既に定められている。それは水晶玉に映し出されていた場所へと。そこにはやはり、先程見せられた映像と何ら変わりのない光景があるだけだ。
 すっかり血の気を失い、生命力すら奪われた女性。その命の灯火は消えゆくのみだ。そんな彼女に手を翳し、小さく何事かを呟く。そうしてカナデの手に握られたのは何かの布。それを女性の手へと巻き付け、その手を握りながら瞳を閉じる。


「投影完了、”人魚の羽織”」


 呟きと共に、布から淡い光が零れる。それは女性へと流れ込むように吸い込まれていく。すると女性の首筋についていた牙の痕は消え、その顔色も徐々に生気を取り戻していく。
 それをどれだけ続けたか、カナデは女性を抱きかかえて歩き出す。そして近くの公衆電話に小銭を入れて救急車を呼ぶ。その間、カナデは女性の傍に立ちながら、ふぅ、と小さく溜息を吐いた。


「…っ…こほ…こほ」


 不意に、咳き込む。それは本当に些細な咳き込みだった。まるで風邪を引き始めたような軽い咳。だが、サーヴァントである彼女の身にはそれは異常だ。現に、その咳を押さえた手には――。


「…っと。救急車が来たか」


 手を握りしめて、ゴスロリ装束の上に羽織ったコートで掌を拭う。そのまま、救急車から降りてきた人に女性を引き渡し、その救急車が走り去っていくのを、ただ、カナデは見送った。


「…わかってるさ、所詮は偽善だ、って。自分のやってる事がどんな事なのか、わかってる」


 所詮、それは意味の無い事だと。もうとっくの昔にわかっている。それで軋む。だがその軋みには屈する事はない。屈するのならばとっくの昔に屈しているのだから。
 だから、この体はまだ折れない。まだ倒れない。まだ戦える。まだ前へと歩ける。ならば、歩かなければ。進める限り、ただ、前へと。


「…おや?」


 不意に、カナデは視線を向けた。その瞳に魔力を込めて遠くを見据えるように。そこに見えたのは鮮烈なる赤の色。その色を見つけて、カナデはその口元に小さく笑みを浮かべた。


「…釘刺した所で止まる訳ない、って思ってたけど、でも、時期じゃない。それでも黙ってられない、か」


 流石、と小さく呟いたカナデは楽しそうだ。そのにはと身が見据える先。そこには――赤のコートを纏った少女がビルの上に立っていた。見下ろすように街の状態を見ている彼女は、どこか厳しい眼差しだった。
 その少女の名は―――。


「――…どの世界でも、どんな時代でも、貴方は貴方なんだなぁ。……ねぇ、凜」





 * * *





 それはまだ士郎達、つまり学生が冬休みへと入る前の時期の話の事。士郎は気づいていないようだが、魔術回路を正しい手順で起動出来るようになった彼は魔力を纏う事が出来るようになっていた。
 故に、彼の魔力が残滓として僅かに残るという事を魔力の察知に疎い士郎は知らない。そして、それはこの冬木の街においては不貞不貞しい態度に他ならない。それは何故か? その理由は至って明確。
 神秘の秘匿を主眼としておいている教会が何よりも懸念するのがその神秘が漏洩されたその時だ。故に、魔術的に価値が高い地には「セカンドオーナー」と呼ばれる魔術師がその土地の魔術に関する事柄における責任を取るのだ。
 そのセカンドオーナーこと、遠坂凜は自分自身以外の魔力が僅かに学校内で残滓として残るようになっていたのに勘づいた。それを気のせいだと放置していると、錯覚は疑惑へ、疑惑は確信へと変わっていった。
 士郎はその父親、衛宮切嗣から魔術師としての心構え程度の事しか教えて貰っていない。そして切嗣自身、魔術師に忌み嫌われる存在であった。そんな存在がどうして協会側の人間、つまりセカンドオーナーである遠坂の者と友好関係を築けるとは思えない。
 更に言えば、衛宮切嗣が聖杯戦争に参加していた、という事は聖杯戦争の仕組みを作り上げた御三家の内の一つ、遠坂の家系の者ともまた生死のやり取りをした間柄だ。ならば、その真実を知るにせよ、知らないにせよ、衛宮と遠坂は相容れない筈だ。
 だが、今、事を荒らげる事だけは避けたかった。せめて時が来るまで。それが例え、彼の召喚の機会を失うのだとしても。それでも同時に彼を護る為には仕様がない、と。故に、カナデは極秘裏に遠坂凜と接触している。その時の事は、両者互いにとっても印象深いものとなっていた。





 * * *





 眼下、ビルの上より見下ろす。その街は夜の灯りによって宝石を散りばめたように瞬いている。その灯りの中、その中に一人の影を見据えて遠坂凜は眉を歪めた。その表情には憎悪の色が見えている。


「…バーサーカー…」


 ぎり、と。歯を噛みしめ、凜はその姿に背を向けるようにして歩き出す。凜はバーサーカーと接触している。聖杯戦争の知識を持っていた凜にとって、理性を持つバーサーカーの存在は正に未知の存在と言っても良かった。
 しかしながら、彼女が知るのは聖杯戦争の知識のみ。実際にそんなイレギュラーもいるかもしれない、と思考を切り替えるのは容易かった。
 彼女達の出会いはとある冬の日。学校の帰宅路を凜が歩いている所に前触れも無く彼女は現れたのだ。


「やぁ、こんばんわ?」
「…ぇ?」


 通行人だと思い、意識を留めなかったが故に凜は、そこでようやく彼女の姿を認識したのだ。まるで色を抜いたかのように白い髪と肌。纏う服が赤の外套だから、それもまた逆に目立っていて。
 その存在を認識した時、世界がまるで違うような感覚。威圧感、と言えばいいのか。凜はそれに圧倒された。いくら優秀な魔術師であろうと、凜は未だ実戦を経験はしていない。が、それでも凜は気丈にも敵を睨み付け。


「…貴方、何者?」
「バーサーカーのサーヴァント、と言えば良いかな? 遠坂の」
「!? バーサーカー…ッ! サーヴァント…貴方が? それにバーサーカーなら何で…」
「それにはノーコメント。まぁ、宣戦布告をしてやろう、と思ってね」
「…宣戦布告、ですって?」
「呼ばないのか、呼べないのか、どちらかは知らないけれど―――早くサーヴァント、召喚しないとこの街の人間がどうなっても知らないよ?」


 それは忠告じみた言葉。それをしなければ、この街の人間がどうなるか、それをまるで知っているような。その言葉の確信の意味を探ろうとしても、凜とカナデの人生経験、実戦経験の差は埋まらない為に、その確信を読み取る事は出来ない。


「あぁ、ちなみに。アインツベルンは前回同様、「衛宮」をこちらに引き入れさせて貰ったから。まぁ、彼の意志はどうかは別として、ね?」
「!? …そう、そういう事なの…貴方、衛宮君を…!!」
「流石は遠坂。話が早い」
「…目的は何なの? わざわざそれを告げに来た意味は?」
「ただの宣戦布告さ。サーヴァントがいない君と、サーヴァントを連れた士郎。さて、どっちに勝ち目があるだろうか? ね? まぁ、同じ手札があれば、互角以上かもね、なんて」


 そう言い残し、彼女はまるで最初からそこにいなかったかの如く、消え去ってしまった。その消え去った姿に、凜は何も言えず、ただ唇を噛みしめるのであった。
 そして年が明けた頃、続々と召喚されているサーヴァント。それは聖杯戦争の予兆に他ならない。他のマスターも積極的に戦闘に臨もうとしている。その気配を凜は肌で感じ取っていた。


「…このままじゃ、いられないのはわかってるわよ」


 密かに行われている生命力の搾取。それは街全体から少しずつ集めているものだ。その症状として疲れが抜けないなどの弊害を起こしている。それは凜の通う学校にもその影響が出ている。
 本来ならばこの生命力の搾取は街の人間から生命力を絞り尽くす事も可能だろう。だがそれをしないのは神秘の秘匿の義務がある故か、もしくはそれを行うだけの技量、条件がないのか、原因がなんなのかは定かではない。
 ただ一つ言えるのは、殺さなければいいというものでもない。疲労が溜まったままでは人の心は荒み、疲労によって出来た油断や判断ミスがその人の人生を思わぬ形で狂わせることもあるかもしれない。


「………」


 時間は、ない。いつ、何が切欠でこの街が戦場になるかはわからない。だからこそ、もう態勢は整える時期だろう。遅かったと言っても良い。


「…令呪の兆しは出てる…問題は触媒だけど…こうなった以上、出たとこ勝負か…」


 本来、英霊を召喚するならば、その英霊をシンボルとする遺物があれば良いのだが、あいにく凜はそのような触媒を持ってはいない。それで召喚が出来ない、という訳ではないが、英霊にとって知名度はそのまま己の力に変わるのだから出来れば名の高い英霊の触媒があれば良かったのだが、そんなものはなかなかに手に入る訳がない。
 ならば、残ったのは触媒無しでのランダム召喚。それが吉と出るのか、それとも凶と出るのか。ただ、どちらにせよ結果は変わらない。今、動かなければただ状況は悪化するだけなのだから。
 そして、サーヴァント達は着実と揃い出す。巡るは聖杯、異端なる狂戦士を招いてのこの戦争の行く着く先は何処になるか…。
トラックバック(0)+ +コメント(2)
■■■朧月の契り 第2章 12
2010/12/01 Wed朧月の契り
「聖杯戦争を、破壊するですって!? 一体貴方は何を考えているんですか!?」


 勢い良くテーブルに手を叩き付けて叫んだのはセラだった。その顔には怒りの色が浮かんでいる。日常から、あまりカナデとは相性が良くないのは士郎とて察していたが、確かに今はセラに同意したい思いだった。
 イリヤはカナデを見定めるように眼を細めてカナデを見つめている。リズは特に何も思う事が無いのか、平然と茶を啜っている。各々の様子を見て、カナデは一度瞳を伏せた後、もう一度皆を見渡して。


「あって何か得するものでもないでしょ。得するのは得られる一握りの人間…で? その得られた筈の一握りの人間すら出てきてないような不完全な儀式、破壊した方が世のため人のため、でしょ?」
「…ぅっ…そ、それはそうですが! しかし! あれは確かに万能の願望機としての機能を有しています!! ユスティーツァ様が作り上げられた聖杯は確かに…」
「物が正しく機能しようが、何だろうが、使う人間が魔術師という前提にある以上、そんなもの、まともじゃない。まともである魔術師なんて普通じゃない。そんなの魔術師じゃない。そもそもの前提が違うんだよ、セラ」


 セラはカナデの反論に口を閉ざした。確かに、過去の聖杯戦争の例を見ても聖杯を得られた勝者は居らず、その為に起きた被害は決して小さきものではない。いくら聖杯が正しく機能する万能の願望機であろうとも、得る手順、得た人間、叶える願いによってはそんなものは神にでも悪魔にでも早変わりする。
 そしてそれを得られるのは魔術師、という前提だ。魔術師は自らの魔術の追求にはどんな犠牲を払おうとも厭わない。神秘の秘匿の義務があるとはいえ、自らの欲の為には犠牲を惜しまない人種など数多くいる。その時点でこの万能の願望機の叶える願いなど、想定するだけで碌なものがないと。


「私はサーヴァントシステムについては特に何も言うことはないさ。…それが生贄を前提としている考えは気にくわないけどね。守護者として意志も奪われて召喚される「現象」じゃなくて「本人」として降霊するのは良い。令呪だって使い様さ。ただその末路だけは認められないな。私達は既に死者だ。だけど、人間で、生きていたんだ。いくら死んでるからってこの体と意志を好き勝手にされるのは正直、堪ったもんじゃない」
「…だから、破壊するというの? 聖杯を」
「必要なら、ね。願望機としての聖杯なら正直捨てるのには惜しいけど、まぁ、害にしかならないなら完膚無きにまで破壊し尽くすけどね」


 それは、カナデの偽らざる考えなのだろう。聖杯を破壊する、という。それを聞いていた士郎はふと、以前、カナデとした会話を思い出した。あれはまだイリヤと出会った当初の時、土蔵において告げられた言葉。
 相手の願いを踏みにじるという事。それによって誰かの命を奪うという可能性があるかもしれない。その可能性を前にしても、多くの犠牲が出るから、と否定が出来るのか、と。その問いに当時の士郎は言葉が出なかった。
 背負うと、覚悟が出来ていなかった。誰かの命を守りたいのに、誰かの命を犠牲にしなければいけないというこの矛盾。故に、選ばなければならない。何を護り、何を犠牲にするのか。
 今、同じ問いをされてもどう答えれば良いのか士郎にはまだ見えない。ただ、それでも、わかりかけてきた。だからこそ、問わずにはいられなかった。問わなければいけない、と。


「…カナデさん、前に言ったな。それが誰かの願いを踏みにじるかもしれない、って。…なら、カナデさんは何を犠牲にするんだ?」
「全部」


 それは、まるで明日の天気は何だろう、と言うような気軽さでカナデはあっさりと言い切った。それ故に、士郎は頭が付いていけなかった。あっさりと告げたその言葉の意味を理解が出来なかった。


「必要なら、イリヤも士郎も殺すよ? 誰だって殺す。殺して、殺して、殺す。私の願いの為に、邪魔するなら誰だって殺す。その覚悟はある。元より、その為に生きてきた。その為にそう生き続けてきた。これを変えるつもりはない」


 きっぱりと、彼女は断言しきった。それはカナデの覚悟をまた示すものでもある。例え何を犠牲にしてでも、彼女は聖杯を破壊する。それを士郎は肌で感じ取った。カナデから発せられる気が何よりも嘘ではない、と語っている。
 だが普段の彼女を知るが故に士郎は困惑する。あの笑みは、大事な人達に向けてくれる笑みだと思っていた。それは、所詮は嘘だったのか? と。本当は心の底では何とも思っていないのか。
 …そんな筈がない。そうだ、と。あぁ、と士郎は納得した。見せつけられた。これが「正義の味方」になるという事なのだ、と。正義であるには大衆にとって正しきものでなければならない。そこに個人の意志など介在してはならない。
 だからこそ、自らを殺す。殺して、何も思わず、ただそれを成し遂げる為の機械と成り果てる。それが正義の味方の末路。最後まで自らを持つという事を許されない滅私の英雄。


「…そこまでして何故聖杯を破壊しようとするの? カナデ」
「あって良い物? イリヤ」
「…どうかしらね。魔術師としては、壊されるのは勿体ない。でも…普通の人から見ればそんなのはた迷惑ね。その開催地として開かれるこの地の住民が哀れかしら?」
「そういう事。私はそんなの許せないし認めない。だから潰す。…それを邪魔をするって言うなら誰だって殺すよ」


 イリヤとカナデの視線が交わされる。イリヤはカナデを探るように見据え、そんなイリヤの視線をカナデは真っ向から受け止める。どれだけ二人は見つめ合っていただろうか、緊張を解いたのはイリヤの溜息で。


「…そうまでして、貴方は何が得たいの?」
「…別に。ただ、そうしたいだけさ」


 緊張を解いた為か、そこには普段のカナデがいた。どこか困ったように笑って言う。ただそうしたいから。ただ犠牲者が出るのが嫌だから。だから、災厄の芽は何を犠牲にしようとも摘み取る、と。
 それが彼女の生き方。衛宮士郎の理想を受け継いだ彼女の行動理念。それは言い換えれば、ほんの少し前の衛宮士郎が望んでいた在り方そのもの。それを見て、士郎は何を思ったのかを己に問うた。
 …落胆。何故落胆なのか。こんなものが自分の理想であるのか、と。違う、やはり、こんなものは違う、と。こんな風に、困った笑顔を浮かべる為に誰かを助けるんじゃない。目指したのは、本当に幸せそうに笑う切嗣の笑顔…。
 あぁ、だからこそ、衛宮士郎はあの聖夜の日に誓ったのだ。もう一度、形にしてみせると。それは確かにエミヤシロウが形にしたものだろう。それを受け継いだのもまた彼女なのだろう。そしてそれを、こうして伝えられた自分が何をすべきなのか。
 その答えは、まだ靄がかかっているかのように明確には言えないけれど、その為に何をすべきかなのは朧気ながら見えている。ならばそれを追い求めれば自分の望む理想(カタチ)を得られるだろう、と。


「…まぁ、そんな訳で私は本格的に動きたいから、許可が欲しいのと、色々と誤魔化して欲しい。…イリヤに望むのはそんな所だけど」
「邪魔したって令呪でも止まらないんでしょ? 貴方の事だから契約切ってでも行きそうだしね。それに反論する理由もないわ」
「はは、耳が痛い。…んじゃ、後はリズとセラにはイリヤの事を頼むとして…」


 後は君だね、と言うようにカナデは士郎へと視線を向けた。


「――どうする?」


 どうする、と。彼女は問うた。彼女は誘いもしない。咎めもしない。恐らくは、望むままに答えればそのままにしてくれるだろう、と。そんな確信が士郎にはあった。だから望めば連れていってくれるだろう。ただ、彼女の邪魔をしないのならば。
 それも含めて示された選択肢。衛宮士郎は何を選ぶのか。今此処に、士郎は答えを迫られたのだ。正義の味方になる、というのならば彼女に付いていくべきだろう。彼女こそ、正義の味方の体現なのだから。
 それを、もしも過去の衛宮士郎なら二の句も無く頷いていたかも知れない。付いていく、と。俺も犠牲者になる人を護りたいから、救いたいから、と。…それを困ったような顔で受け入れるだろう彼女も見えた。
 そう、いつだって困ったように彼女は笑っている。それは仮面だ。そうすることによって本当は吐き出したい本音を押し隠してしまっている。ならば、その本音とは一体なんなのか、と考えれば。


「…俺は、俺はまだ、決められない」


 …安易に答えは選べない。戦うとしても、今の自分には力を振るう理由がない。誰かが泣くのは嫌だ。だが、だからといって彼女と共に聖杯を破壊する為に動くのも正しいとは思えない。
 逃避だと思われても仕方がない。けれど、それでもまだこの答えが靄がかかっているうちに衛宮士郎は戦ってはいけない、と。この戦いを無視する訳ではない。無かった事になどはしない。けれども、今は、まだ答えは選べない。


「…そう。ならイリヤ、士郎を護ってあげてね」
「そんな当然な事言われなくてもわかってるわよ。士郎は私たちの家族なんだから」


 私たち、とイリヤは告げた。この1ヶ月余り。時にしては短くとも、そこで結んだ絆は確かに嘘じゃない。確かに切嗣という縁はあれど、それはあくまで切欠。これは短いながらも確かに彼らが築き上げたもの。
 …そう。衛宮士郎の命は一人のものではない。元より、この身は生き残ってしまった身。ならば、その為に見捨ててきた命の為にもこの生は無価値ではいけない。安楽の死など誰もが許さない。何より、それは自分自身が。
 かといって無謀に走る事もまた許されない。もう自分の身は一人の体ではないと嫌という程、教え付けられた。理想を追う事そのものは諦めずとも、その理想の為に投げ捨てて良いものなどないのだ、と。


「…まぁ、じゃ、方針も決まった所だし、私は行くよ。たまにぐらいは帰ってくるけど、基本帰ってこなくなるから、気をつけてね」


 後に、衛宮士郎は思う。これが、平穏の終わりを告げる閉幕の合図にして、聖杯戦争の開幕を告げる合図であったのだろう、と。
 カナデが席を立ち、縁側へと立つ。そうして夜風が彼女の身に吹き付ける。一瞬の瞬きと共に、ばさり、という音が耳に届いた。彼女が身に纏っていたのは魔力で編まれた彼女の防具である赤き外套。
 月の光の下、夜風にその髪と外套を翻して衛宮邸を後にしていくその姿が見えなくなるまで、士郎は彼女の後ろ姿を見続けていたのだった。





 * * *





 雨の音がする。冬の雨は冷たく、冷ややかに大地を濡らしていく。何にも平等に、その冷たさは与えられる。故に、この雨の中、ただ彷徨う彼女もまたその冷たさに震えなければならない宿命だった。
 彼女の名は、あえて伏せよう。それは伏せられるべき名だ。敢えての呼び名を呼ぶならば、彼女はキャスター。そう、この地にて起きる聖杯戦争の駒の一つ。魔術師の位として呼び出された彼女はただ冷たい雨の中を彷徨っていた。
 何故? その理由は単純にして明快。その身には血に染まっていた。けれどしかし、彼女の纏っているものには傷一つなく、逆にその手に握られているのは歪な短剣。…そう、彼女は自らの主を斬殺し、ここまで彷徨ってきた。
 その経緯は、見限り。互いの関係は険悪、そんな言葉を通り越していた。キャスターは過去、名を馳せた魔術師が召喚される。魔術師とは孤高の生き物だ。その事に誇りを持っている。その誇りが、霞むような魔術師がキャスターという存在だ。
 しかし、されどそうであってもサーヴァントという僕という矛盾。彼女のマスターは彼女のマスターたる資格など無かった。故にキャスターの姦計の前にあっさりとその命を終えた。そこまではキャスターの計算通りだったと言えよう。
 …だが、誤算があったのだ。マスターとの繋がりは魔力提供の意味だけならず、この地に本来、ある筈のない、ましてや死んだはずの英霊を呼び出す為の繋がりだ。それは在るべきではないものをある為にする必要な処置。つまり世界の結び目だ。
 それを自らの手で断ち切ってしまったキャスターは世界より否定される。何とか生き抗おうとしても世界は刻一刻と彼女に終わりの時を与えようとする。
 更には呪いとも言うべきマスターの負債。キャスターの魔力量は常に、マスターの嫉妬からによってその量を制限されていた為にこの世に留まるだけの魔力が明らかに足りない。
 終わった、とキャスターは悟った。それが…どうしようもなく悔しかった。いつもこんな不当な扱いで、報われる事も無かった。誰かに信じられることもなく、ただ利用され続け、最後には捨てられる。
 結局、彼女は望みもないまま消え去る筈だった。ただ、この冷たい死の淵に墜ちる。…だが、奇跡か、彼女は出会ったのだ。それが、彼女を救う事となった。


「…ふぅ」


 吐く吐息は白く、柳洞寺と呼ばれる寺の一室、そこでキャスターは物憂げに溜息を吐き続けていた。
 状況は自分に好ましいように動いている。かつての縛りはなく、このまま時を待てば自らの利は得られる。そうすれば勝利することもなく、聖杯を得られる事が出来る、と。
 彼女は神代の魔術師。その力量はかの魔法にも劣らないと言えよう。それだけの実力が彼女にはある。故に、悩むのはこれからの事ではなく、今、真っ先の事。
 昨夜、彼女のマスターとなった男。それは言うならば自己のない男。だがそれ故に誠実で、求められた事には誠意を持って応える。叩けば響く、そんな男だ。
 キャスターは報われぬ人生にいた。いつだって、誰かに望まれ、操られ、そして終わるだけの人生。それが初めて得た、自らが選ぶという選択肢。それを与えられた彼女は思い悩む。その思いを、よく理解出来ぬままに。


「…宗一郎様…」


 ぽつりと、その名を呼ぶ。その名を呼ぶだけで良いようの無い気持ちが胸に溢れる。これは何なのだろうか、と。昔、どこかで似たような、だけれどそれとはまったく別の思い。とくん、とくん、と心臓の音が聞こえてきそうな程に跳ねて。


「…はぁ」


 もう一度溜息。こんな調子では駄目だ。まだ魔力は十分ではない。体調不良という事で横になっている言い訳を思い出し、ならばいっそ寝てしまおうか、とその身を横に倒そうとしたときだった。
 その察知は一瞬。気づいたときには既に遅し、とん、と風と共に一瞬にして寺へと入り込んだ影は一直線にキャスターへと向かい、キャスターが何の対応も出来ぬまま―――赤き外套が舞い降りた。


「……ぁ」


 終わり、と。どこかで頭が諦めを告げた。魔力が足らない。相手の俊敏さを見れば逃げる事もまた叶わず、魔力が無ければ扱える魔術も些細なもの。元よりその身はキャスター。白兵戦など出来る訳もなく。
 ただ、舞い降りた赤き外套を纏う者を見据えた。靡く髪は白。肌もまた白く、故にその外套の色が栄えて見える。その手には何も握られてはいない。なのにまるで剣を喉元に突きつけられているような錯覚。
 何も出来ぬまま、また希望を摘み取られる。夢は一瞬。あぁ、それもそうか。所詮は夢なのだから、と。ただ、呆然と終わりを受け入れようとして――。


「――やぁ、こんばんわ」
「…は?」


 呆気取られた。すれ違った知り合いに声をかける気軽さでサーヴァント、つまり敵である彼女は、片手を上げて挨拶なんぞしてきたのだから。
 思わず、ただ呆けた声を出す事しか出来なかった。これが隙を作るための策略だというのならば、成る程、彼女は一級品の策略家だ。…だが、しかし、次に出た言葉はとんでもない言葉だった。


「同盟の申し出、なんて受け付けてないかな? キャスターさん?」
「…同盟、ですって?」


 何を馬鹿な、とキャスターはようやく動き始めた頭でそう思った。目の前の女が何のサーヴァントかは知らないが、現状、キャスターと組むメリットが皆無だ。ならばこれが姦計だと言わずして何だというのか、と。
 だが、だとしたら何かがおかしい。どうにも行動がちぐはぐだ。…それもそうだろう。それは裏がある事を前提とした考えだ。…それにキャスターが至ったとき、キャスターは信じられない、と首を振った。


「…何故、同盟を? 私たちはサーヴァント、そして聖杯は一つ。得られる者もまた一人。ならば同盟など組む意味など無いのではなくて?」
「仮に私に無くても、貴方にあったとしたら?」
「……どういう意味?」
「どう? 魔力が足りないし、マスターは魔術師でもない。不安要素だらけ。しかもその身は魔術師たるキャスター。前面で戦える護衛なんていらない?」


 それは、確かにキャスターに足りないものだ。陣地を整えるにしても、時間が必要だ。その時間を稼ぐ事が自分には必要だ。この目の前の女を味方として取り込むにしても、敵にするのにしても現状は何とかこの命を繋ぎ止めなければ次はない、と。


「…仮にそうだとしましょう。けれど、先程も言ったとおり聖杯を得られるのは…」
「あぁ、なら安心しなよ。私は聖杯欲しさに同盟を持ち込んでる訳じゃないから。むしろ聖杯いらないし」
「………………は?」


 今度は、完全に思考が凍り付いた。この女、サーヴァントにあるまじき言葉を言わなかったか? と。


「聞こえなかった? 聖杯なんていらない、って言ったの。むしろ、ぶち壊す気満々? 利用出来るなら利用するけど、他人様の迷惑になるなら壊す気なんだけど」
「…ちょ、ちょっと待ちなさい…! あ、貴方正気!? むしろ、貴方本当にサーヴァントなの!?」
「もち、バーサーカーのサーヴァント。よろしくー」
「あ、よろしく…。……じゃ、ないわッ!!」


 思わず握手した手を振り払ってキャスターはぜーぜー、と息を荒くしながら目の前の女を睨み付けた。バーサーカーのクラスの概要を知っていれば彼女が嘘を言っているとしか思えないのだが、どうにも方向性こそずれているが、あぁ、確かに狂っている。


「まぁまぁ、私じゃ何もしてやれなかったからね。キャスターが消えそうな時に、さ。あのマスターも殺されてしかるべき男だったしね。いっそ打ち抜いてやろうか、と思ったぐらいさ」
「……! そう…貴方、私を監視していたのね…!? 目的は何なの!?」
「だから、さっきから言ってるじゃん。同盟だって」
「だから、もぅ、この…っ!! ………っ!!」


 最早言葉がない。怒りは明らかに沸点をオーバーしている。この目の前の訳のわからない奴が、何を目的にこんな事をしているのか、何を考えているのかなどさっぱりわからない。


「何なのよ貴方は!! 同盟って、だから何でそんな話になるのよ!?」
「――あぁ、私が貴方を殺したくないから、とか、そんな理由じゃ駄目だよねぇ…。理由ねぇ、いや、理由としてはそんなんだけどさ…」


 そうだね、と何か悩むようにバーサーカーを名乗る女は腕を組んで。


「……うん、やっぱり、そうしたいから」
「……巫山戯てるの?」
「んにゃ、至って真面目だけど?」
「~~~~~っっっっっっ!!!!!!!!!」


 殺したい。むしろ殺したい。いっそ殺したい。いや、むしろ殺させろ、と言いたいぐらいに殺してやりたい。本調子であれば一切の迷いもなく魔術でなぎ払っているだろうキャスターはだんだん、と床を叩く事でしか自らを押さえつけられない。


「――だって、貴方が幸せそうなんだもの」
「……ぇ?」
「駄目かな? 誰かが笑ってるから、そのままで居て欲しい、って思うのは」
「…なによ、それ。私は貴方の敵なのよ?」
「どうして?」
「…どうして、って……」


 そこで、キャスターは言葉に詰まった。この馬鹿みたいな対応。それはまるで…そう、悩むのを馬鹿にするぐらいのこの対応は…。


「…本気、なの? 同盟も、その願いも。全部、本気?」
「本気さ」


 …信じられない、と。キャスターは今度こそ思考を止めた。目の前には馬鹿みたいに正直で、馬鹿みたいにお人好しで、馬鹿みたいに真っ直ぐな奴がいる。何の打算もなく、ただそうしたいからという刹那的な感情。
 聖杯という願望機を前にしても尚、その在り方に正直、戸惑いを覚えるな、という方が難しい。ようやく本気なんだろう、という事を理解し始めたキャスター。ごくり、と唾を飲み込み、まるで化け物を見るような目でカナデを見て…。


「…正直、理解に苦しむわ…」
「結構。理解されようとも思ってないしね。必要なのは、お互いに必要なものお互いに提供しあえるギブアンドテイクさ」


 そうしてからからと笑った後、さて、とカナデは呟きを零して。


「本格的に話を進めようか、キャスター」


 話を切り出す為の言葉を彼女に告げるのであった。





 
トラックバック(0)+ +コメント(1)
■■■朧月の契り 第2章 11
2010/11/30 Tue朧月の契り
 ――開幕の音が鳴る。多くの歪みと、多くの願い、思い、その全てを抱いて。
 さぁ、語るべくして語ろう。これは、意味のない、されど、ならばそこに意味を与える為の物語なのだから。





 * * *





「――告げる」


 夜。神秘の時間。夜とは人が踏み得ぬ領域の中。科学という光を得ようが、闇から完全に逃れぬ術はなく。その闇にこそ見えぬもの、そう、そこにこそ真理が宿る。我等、その真理の探究者にして体現者なり。
 今宵、ここに神秘を一つ、お見せしよう。これは儀式。聖杯という器を満たすべく、その証を競い、殺し合う。その果てに得られたものこそ究極の願望機、これこそつまり聖杯である。
 その戦争の勝者となるべく、召喚に臨むは過去、英雄として祭り上げられた英霊と呼ばれるこの世界から逸脱した存在。かの身を自らの従者として従え、目指すは無限への頂。


「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」


 床に刻まれた魔法陣が光を放つ。それがゆっくりと浮かび上がり、周囲に力を満たす。風が吹き荒れ、呼び出す召喚を招き寄せるように、風はその勢いを強めていく。まるで空気がこれから呼び出される者に畏怖するように。


「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」


 そして此処に、神秘の降臨へと至る―――。





 * * *





「…問おう。貴方が、私のマスターか?」


 凜とした声。月光に照らされて光を吸い、その美しさを際だたせる金紗の髪。纏う銀の甲冑に青のドレス。小柄な体躯ながらも、その身から感じられる威厳は確かに騎士として申し分ない姿だ。
 正直に言えば、その姿に見惚れていた。英霊という存在がどういう存在なのかは知っていたが、だが、彼女とは異なる美しさ。彼女の美しさが硝子細工なのだとすれば、こちらは金細工のような美しさというべきか。
 いや、比べるものではないとしても、比較として知る対象が彼女が真っ先に来る訳で、だけど、ちょっと、一寸待って欲しい。


「…あ、あぁ。俺が君のマスターだ」
「…そうですか。確かに私のラインは繋がれている。疑いようもなく、貴方は私のマスターだ。…改めて、サーヴァント、セイバー、召喚に応じ馳せ参上した。今宵より我が身は貴方の剣となる」
「そ、そうか…と、ところで一つ聞きたいんだが…」
「はい。何でしょうか? マスター」


 ごくり、と。唾を飲む音が響く。自分のものだからなのか、余計にそうだったのか、自分でもよくわからないぐらいに緊張、というより混乱していた。だって――。


「…君みたいな女の子が、本当にアーサー王なのか?」


 ――あのアーサー王が、こんな可愛い女の子な訳ないじゃないかーっ!!





 * * *





「――アッハッハハハハハハハッ!!!!」
「笑い事じゃないぞ! 知ってたらなら最初から教えてくれても良いじゃないか!! 凄い失礼な事言ったぞ、俺!!」
「ひぃ、ひぃ、いや、だって、士郎が「女所帯に男が増える」と思ってたみたいだから、その期待を裏切っちゃ悪いな、と、ひぃーっ、ひっひっひっひ!!」
「こ、このぉ、あくまめぇ…!!」


 ――これはどういう状況なのか、と私は、正直に言えば困惑していた。
 私はセイバー。聖杯の導きに従い、その聖杯を手に入れるべく、聖杯戦争と呼ばれる魔術師達の殺し合いにサーヴァントとして呼び出された。サーヴァントとは英霊と呼ばれる偉業を為した英雄の御霊が召喚される。
 そう、今、目の前でからからと笑っている女性に抗議するかのように叫んでいるマスターが呼んだように、我が身はアーサー。かのブリテンを納めた王だ。
 とにかく、私が召喚されたのは聖杯を得る為だ。その為には他の魔術師、そしてサーヴァントを全て蹴落として、その手に聖杯を手に掴まなければならない。…それなのに、そう、その筈なのに…。


「…マスター、説明していただきたい。何故、そこにサーヴァントがいる…?」


 そう、目の前でマスターである少年、彼はエミヤシロウ、と名乗ったか。その名に少々思うところが無い訳ではないが、それよりも今は気になる事がある。それが少年の前にいる存在。そう、彼女はまさしく私と同じくサーヴァントに他ならない…!


「…あぁ、そうだったな。セイバー、誤解する前にちゃんと説明する。彼女はカナデ、俺と同盟が組んでいる魔術師が召喚したサーヴァントだ」
「ちなみにクラスはバーサーカーね。あぁ、でもちょいと反則みたいなもの使ってるものだからクラス名では呼ばないでね? セイバー」
「…同盟? それに、バーサーカーだと?」


 正直言って、信じられない。同盟の下りも魔術師を知るならば、なかなかに想像しがたい上に、バーサーカーのクラスは理性と引き替えにその能力を向上させるクラスだが、彼女が狂戦士だという面影はまるでない。
 まさか、という予測。彼は既に敵のサーヴァントのマスターの手中に収められ、自分はまんまと敵の手の内に墜ちてしまったのではないか、と。その考えに至り、思わず聖剣に手に握ろうとして――。


「――そうだよ。騎士王、安心するといい。私の目が黒い内は、このエミヤカナデ、士郎に関わる厄災をはね除けると誓っても良い」
「…エミヤ? …まさか、そんな事があるのか…!?」


 エミヤ、この極東の地の名の仕組みは聖杯の召喚の際に与えられる知識によって得ている。それはつまり、彼女が私のマスターである少年と縁を持つ英霊だという事。…しかし、それでもまだ納得が出来ない。
 例えサーヴァントがそうであっても、魔術師たるマスターが外道であるならば、サーヴァントを律する令呪を以てすればその意志すらねじ曲げてしまう事が可能だ。…その為に、あの苦渋を舐めたのだから。


「その心配は要らないわ。セイバー。私とシロウはいわば兄妹みたいなものだもの。操り、操るの関係にはならないわ。それは誓うわ」


 だが、今、室内へと入ってきた少女の姿に思わず眼を見開く。…似ている、と。かつて仮のマスターとはいえ、共に戦場を駆け抜けた彼女と。そして同時に過ぎる面影がもう一つ。まさか、あり得ない、という思考が脳裏を塗りつぶしていく。


「…その様子だと、本当に覚えてるみたいね。――10年ぶりね。セイバー」


 だが、あり得ない現実が目の前にある。彼女とは面識がある。あの雪に閉ざされた城、そこで父親と戯れ笑みを浮かべていた幼子の姿を。その姿には共に戦場を駆け抜けた彼女の面影も見えて。
 …ならば、エミヤとは、彼は、と、その推測が一本の線へと繋がっていく。かつての記憶、その時の縁、10年という時を経て、再びこの地に召喚されたまるで誰かが描いたように都合の良い巡り会い。
 複雑な感情がセイバーにのしかかる。召喚早々、いきなり訳のわからない事態になったと思えば自身にまつわる因縁が纏めてやってくる。これに困惑を覚えずにして何を覚えろというのか。沸き上がる疑問も収まらぬまま、セイバーは頭を抱えた。


「…そう、10年振り。貴方が前回の聖杯戦争、我がアインツベルンが満を期して送り出した筈の最強の手駒。…まぁ、それでも裏切られたけどね」
「―――っ、あれは私では! あれは…」
「こらこら、いきなり喧嘩腰にならないの、二人とも。イリヤはセイバーを刺激しないの」
「あいたぁっ!?」


 ごつっ、と鈍い音と共にイリヤに拳骨が落とされる。それにイリヤが小さく悲鳴を上げて蹲った。余程痛かったのか、そのままぷるぷると震える。そんなイリヤを心配げに声をかける士郎の姿が見える。
 やれやれ、とカナデと名乗るバーサーカーがこちらへと視線を向けた。その顔にはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべて。


「ごめんね、ウチのマスターが無礼をして」
「…いえ…。…バーサーカー、彼女は本当に…」
「…カナデで良いって。…えぇ、貴方を召喚した衛宮切嗣と、その妻であるアイリスフィールの娘である事は間違いないわよ」
「…貴方が私を知っているのは、私のマスターが切嗣の縁者だからか…? では、彼は…」
「士郎は切嗣の正当な後継者じゃないわよ。だから、貴方が心配するような事は無いわ。騎士の誇りを踏みにじったりは、ね」


 …解せない。どこまでこの女はわかっているのか、と睨み付ける。そしてどのような意図を持っているのかも読めない。だからこそ警戒心を剥き出しにして睨むのだが、それを物ともせずに彼女は笑みを浮かべて。


「私が知っているのはあくまで概要程度。詳しい所までは知らないわ。貴方が第四次の聖杯戦争で聖杯を手に入れ損なった事。その時のマスターが切嗣で、アイリスフィールと共に戦ったって事。精々その程度。イリヤは…まぁ、今はアインツベルンとは袂を別ってるからアインツベルンとは何の繋がりもないし、士郎も切嗣には魔術師として育てられていないから彼の後継という訳でもない。…まぁ、こんな所。何か質問は?」
「……」


 どこまで信じれば良い。そもそも、こうして同盟を組むという事はどちらかが聖杯を諦めなければいけない。ならば、この同盟は一時的なもの。だが、どうにもマスターであるシロウとイリヤには互いに殺し合いを臨む雰囲気は無い。
 では聖杯はどうなるのか、と、私の疑念がそこまで辿り着いた時、不意に気配を感じた。それは徐々にこちらに近づいてくる。その気配に私は瞬時に聖剣をこの手に構え――。


「あーっ! こら待て、セイバー! 違う違う、敵じゃない!!」
「敵じゃない!? 何を寝言を言っているバーサーカー!! 今、この屋敷にサーヴァントの気配が二つも―――」





「夜分におじゃまするわよ、坊やにイリヤスフィール、カナデ」
「…邪魔をする」
「あ、先輩、ちゃんとセイバーの召喚に成功したんですね、おめでとうございます」
「…サクラ、労うのは良いですが、荷物を置きたいので先に部屋にいれてもよろしいですか?」
「こんばんわ、キャスター、葛木先生。あと、おかえり。桜、ライダー。よし、じゃあちょっと遅いが、今日は豪勢に仕上げるぞ。ちゃんとセイバーも召喚出来たしな」
「シロウ…貴方はセイバーを召喚したばかりだから無理はしちゃ駄目なんだからね?」





 ……………そろそろ、状況に、頭が、追いつかない。何故、サーヴァントたる私たちが! どうして! こんなにも! 和んで! いるのか!! しかもキャスターとライダーと! 私の召喚を前提として!! 話が進んでいるし!! 一体何がどうなっているのか!?


「…説明しなさい、バーサーカー、今すぐに、簡潔に、私にわかるように、即刻に、迅速に…!」
「貴方の混乱はわかるけど、その見えない剣の切っ先が額を割ろうとしてるってちょっと落ち着いて話し合いましょう…!?」
「望む所だ。さぁ、早く…!」
「だったらその剣仕舞えー!!」





 * * *





 暴走しかけたセイバーを諫め、なんとか話し合いの場まで持ってこられた衛宮家。その面々の様子は様々だ。
 ぐったりとしているのはカナデだ。その隣には彼女を射殺さんばかりの視線で睨んでいるセイバー。そんなセイバーにやたらと熱っぽい視線を向けているキャスター、それに我感せずとしているライダーと葛木、イリヤ、そしてそれに呆れるように苦笑を浮かべている士郎と桜。
 そして皆の分の茶を用意したセラとリズが席に着いた所で、セイバーは皆を見渡して、小さく咳払いをした後。


「…さて、それでは説明して貰いましょうか。何故こうもサーヴァントが一同に介しているのか、と」


 セイバーが疑問を切り出す。その瞳は真剣で、ふざけた事を言えば、先程のカナデの再現になる事は目に見えてわかっていた。そして皆の視線が集まるのはセイバーの隣でぐったりとしているカナデへと向く。
 視線を集めているカナデは、まぁ、そうなるよねぇ、とどこか諦めた顔で溜息を吐いている。


「…ほぅ、つまり貴様の姦計か、バーサーカー…」
「姦計って、そんなんじゃないよ。失礼だね」
「…では、どのような経緯で、こうして我等が一同に介しているのかを説明していただこうか」
「…あー、わかったよ。とりあえず、まずは私の自己紹介からいこうか。私はもう1ヶ月ほど前から、そこのイリヤスフィールに召喚されたバーサーカー、真名はエミヤカナデ。名の通り、そこの衛宮士郎の縁者。だから、この聖杯戦争に関しての知識を持っている。で、この状況に持ち込んだのは、確かに私の提案だ」
「……しかし、どうやってキャスターとライダーを停戦に持ち込ませたのだ? 私たち、サーヴァントは聖杯を得る為には他のサーヴァントを皆、倒さなければ聖杯は得られない」
「それも含めて話をしようか。…セイバーにも無視出来る問題ではないだろうからね」


 そうして、ぐったりとしていた態勢からカナデは身を正し、一度深呼吸をし、呼吸を整えてからセイバーを真っ直ぐに見据えて。


「それじゃ、事の起こりから話そうか―――」





 * * *





 クリスマスが過ぎ、新年が明ける。そんな時だった。カナデが話を切り出したのは。


「イリヤ、士郎、セラ、リズ」
「ん?」
「何だ?」
「どうかしましたか?」
「なんかあった?」


 皆でのんびりと茶をすすっている時だ。学校が冬休みとなり、士郎が家にいる機会が多くなった為にこうして皆で茶を飲む機会が増えた訳で。そんな中で話を切り出したのはカナデは真剣な表情を浮かべて。


「…私は、そろそろ本格的に聖杯戦争の為に動こうと思ってる」


 その言葉に、士郎が息を呑む。聖杯戦争、それは間近に迫っている魔術師達が聖杯という万能の願望機を得る為の戦争。その戦争に対しての備えをすると、カナデはそう言ったのだが、イリヤ達は眉を潜めている。


「…動こう、と思ってるって、まだサーヴァントも揃っていないのに、気が早いんじゃないの?」
「イリヤ。私は真っ当にこの聖杯戦争に参加する気はないんだよ」
「…どういう意味ですか?」
「―――私には、この聖杯戦争に召喚されてから目的があったんだ。その目的を叶える為に」


 一度、瞳を伏せる。そうして再び開いた瞳には確かな意志の光を込めて。





「――私は、聖杯戦争そのものを破壊するつもりだ。私の目的の為に。その為に、ここまで来たんだ」





 

トラックバック(0)+ +コメント(1)
HOME NEXT
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログ内検索
リンク
カテゴリー
最近のコメント

 
 
 
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。