次回キリ番リクエスト30000!! 更新報告:12月15日 朧月の契り 第2章14 日記 を更新。
カテゴリー内記事一覧
スポンサーサイト
--/--/--
創魔の疾風 
2037/04/22
創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.13
2010/02/10
創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.12
2010/02/10
創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.11
2010/02/10
創魔の疾風 =A girl creates the world= 10
2010/02/10
 ≫ NEXT ≫ 
■■■スポンサーサイト
--/--/-- --スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■■■創魔の疾風 
2037/04/22 Wed創魔の疾風
創魔の疾風 =A girl creates the world=



 少女はただ夢を見た。
 少女はただ普通が欲しかった。
 だが、彼女にはそれは得られなかった。
 そして得たのは、奇跡の力。
 はてさて、少女の見る夢の先は何が待つや…?



Act.01
Act.02
Act.03
Act.04
Act.05
Act.06
Act.07
Act.08
Act.09
Act.10
Act.11
Act.12
Act.13

コメント(0)
■■■創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.13
2010/02/10 Wed創魔の疾風
 最初の変化は些細な変化。だが、それは波紋は広がり、いずれ大きな波へと育つかのようにヴォルケンリッターとはやての関係は変わっていく。
 敬うべき主であると同時に、微笑ましく見守る保護者のような関係に。時を重ねるにつれその思いは強まっていく。
 だが、それに比例して彼等には悩みが生まれつつあった。それもまた時を重ねる毎に深く、重くなってゆく…。


「…今のはやてちゃんとの関係は良いことだと思うわ。だけど…私達は…」
「…もしも、はやてが望んだ時は、告げよう」
「…そうだな。そうするしかないもんな」
「あぁ。…出来れば…我等が想像する最悪の未来が訪れなければ良いのだが…」


 夜も深く沈み、傍に寝息を立てる愛し子を置きながら騎士達の密会は進む。
 星の光に照らされた彼等の表情は暗く、周囲の闇のようにそれは深かった。
 はやての傍に置かれた書に皆の視線が集まる。それは自らが守るべき本体であり…今では忌むべきかもしれない物。
 闇の書。本来の役目を果たせぬ書は今はただ、沈黙を続けるのみである…。




+++++





「うーむ…」


 はやては悩んでいた。はやての悩みはザフィーラから指導を受ける防御魔法についてだ。
 どうにも構成が上手く行かず、中途半端な性能しか産み出さない防御魔法。
 攻撃魔法は簡単に思いつく。それははやてにある魔法のイメージがゲームの魔法のイメージと重なったりする為だろう。
 今思えば、バリアなどはやての想像する魔女が使った事はない。結界などはイメージとしてあるが、魔力で盾を作るというのはいまいち想像しにくい。
 うーむ、うーむ、とはやては声を挙げながら悩む。防御の為に必要なもの。盾、結界、鎧…。


「魔力だけで構成する、っていうのがダメなんよなぁ…」


 はやての魔力のイメージは電気だ。粒子のようなものだと認識するザフィーラとはそもそも考え方の在り方が違う。
 粒子を固めるイメージのザフィーラに対して、はやては魔力は電気のイメージだ。電気を固めるというのはイメージしにくい。


「…む? 魔力だけで構成するのがダメなら…――――」





+++++





 もうじき夕食の時間になる。そろそろはやてを呼び戻そうとザフィーラは森の中を詮索していた。
 森の一角、木々達が互いに避けるように産み出された広場にはやてはいた。そのはやては何かを集中するように瞳を閉じていた。
 何かの魔法を行使しているのは魔力の流れからわかるのだが、いまいちはやてが何をしているのかわからずザフィーラは首を傾げる。
 一体何をしているのか、と思い、ザフィーラははやてへと声をかける事にした。


「はやて、何をしている?」
「お、ザフィーラ! 良い所に来た!!」
「む?」
「一発殴って!」


 ……この子はいきなり何を言い出すのだろうか、とザフィーラは思わずはやての顔を生暖かい視線で見てしまった。
 そのザフィーラの視線に気付いていないのか、はやては興奮したように「良いから殴れ」と連呼している。とにかく頭の心配をしてしまったザフィーラに非はないだろう。
 とにかく、何かの成果を試したい事はわかった。ふぅ、と小さく息を吐いてザフィーラははやてを軽く殴ろうとした。勿論寸止めをしてはやてに当てるつもりは無かった。
 だが、ザフィーラの拳ははやてに触れる直前でまるでクッションの様な柔らかい感触に触れ、そのままはやての肌に触れる事はなかった。無理に押そうとすれば流されるように拳が弾かれる。


(…今、何が?)


 ザフィーラが疑問に思っているとはやては両手を挙げて喜びに踊っている。
 一体何なんだ? とザフィーラがはやてを目を凝らして見る。するとはやての足下に目が行った。
 はやてに足下の草がふわりと浮いては地に落ちる、という不可解な動きを繰り返しているのだ。
 まるで風に舞い上がるかのように浮かび、風の浮力を失って落ちるかのように…。


「…風?」
「ふふん、そうやよ、ザフィーラ! これが私の防御魔法やっ!!」


 胸を張り、ふんぞり返りながらはやては笑みを浮かべた。
 試しにザフィーラがはやてに触れようとすると風のクッションがザフィーラの手を押しとどめ、はやての肌に触れようとはさせてはくれない。
 力を抜くと風の流れによってザフィーラの手は流され、弾かれていく。


「面白いな」
「せやろ?」
「思いっきり殴っても大丈夫なのか?」
「とりあえず、理論的には。当たり方とか色々と制限あるけどな」


 常に纏ってなきゃいけないし、とぼやくはやて。だがそれは騎士甲冑とて同じである。


「…しかし、一定の威力があれば抜かれるし、魔法には対応してるのか?」
「あ”」


 はやてが一瞬にして硬直した。思わずザフィーラは額に手を当てた。
 確かに発想・着眼点は面白い。だが実を伴っているかと言われれば少々首を傾げたくなるようなそんな魔法であった。
 だが、とザフィーラは思う。これはベルカの騎士にとっては厄介な魔法だ。近接戦の武器を在る程度の威力は防がれてしまうのだ。


(得た知識を生かす発想は正直言ってずば抜けている…。経験を重ねれば重ねる程、厄介になりそうだな)


 頭を抱えて吠えているはやてを見ながらザフィーラは思わず思う。きっとこの少女は大きくその才能を伸ばしていくだろう、と。


(…見てみたい、か。コイツの行き着く果てに何があるのか。それは自然と興味が湧く)


 何をしでかすのかわからない。未知という言葉が満ちあふれているのがはやてという存在だ。
 それを知りたいとザフィーラは思ってしまった。あぁ、とザフィーラは思う。ならば自分の願いはもう得た。
 この身、朽ち果てるその最後の時まで彼女と共に在ろうと。その成長を見守り、時には背中を押し、成長を妨げる物から守り抜こう、と。
 彼女が闇の書の主というだけではなく、自分自身がそう願うからこそ、はやてを護ろうとザフィーラは静かに決意を固めた。





+++++





「すぱすぱ切れるー、すぱすぱ切れるー」
「………」


 才能の無駄遣い、とシグナムははやての行っている行動に思わずこめかみを押さえていた。
 彼女がまるで楽団の指揮者のように手を振ると、集めた食材がキレイにスライスされていく。
 あぁ、見事な魔法だ。操作性能も発生速度も威力の調節も見事だと言えよう。
 だが…何故それを食材を斬るのに使うのか、とシグナムは疑問に思う。


「いやぁ、だってせっかく作った魔法やし。使わなければ損やろ」
「元々それが目的で編み出した訳では無いでしょう?」
「使えるものは何でも使うべきやと思うけど。あ、シグナム、火出して。ウチ、手離せんから」
「……」


 私はマッチでは無い…とぼやきながら魔法を行使して火を付けるシグナム。その背にはどことなく哀愁が漂っていた。
 その背を見たヴィータは思わずシグナムに同情するのと同時に「利用されやすい魔法覚えてなくて良かった…」と胸を撫で下ろしていた。
 今日の料理は魚の丸焼きと、はやてがスライスして焼き目をつけたステーキ。
 皆で火を囲みながら食事をしているとはやてが小さく呟いた。


「うーん。素材本来の味ってのも良いけど、そろそろ調味料とかが恋しいわ…」
「そうですか?」
「うん。やっぱり薄味やし」


 はやては海鳴を出る際に家にあった調味料を持ち出していたが、胡椒などは保存食を作る際に使い切ってしまい、後はほとんどは即座に狩って、即座に食べる、という生活に切り替えた。
 それは別に苦にはならなかったが、恋しいと言えば恋しい。昔は料理を研究の一環として色々と作っていた事もある。


「そうですねぇ…それじゃ人里の方にでも行きましょうか」
「おぉっ! 異世界の町! 異文化交流やねっ!!」


 外国観光な気分やわっ! とテンションが上がるはやて。それにシャマルは苦笑のような表情を浮かべる。
 あぁ、このテンションで何かトラブルを起こさないと良いけど…とシャマルは思う。
 ふとシャマルがシグナム達に視線を向けると、各々がそれぞれ溜息を吐き出した。
 どうやら皆、思う事は同じらしいと再び彼等は溜息を吐くのであった。


「あ、そうだ。はやてちゃん」
「ん?」
「…貴方に話しておかなきゃならない事があるの」


 シャマルが真剣な表情ではやてを見る。はやてはそのシャマルの表情に何かを感じ取ったのか、神妙な顔でシャマルと向き合う。


「人里に出るのは良いけど…はやてちゃんには守って貰わなきゃ行けない事がたくさんあるの」
「決まり事、って奴やな?」
「えぇ。はやてちゃん。はやてちゃんの住んでいた地球や、ここを含めて次元を隔てて存在する世界を総称して「次元世界」というの。でね? 次元世界にも色々あって、私達のように魔法文明が発達している世界もあれば、地球のように魔法文明が無い世界もある。人がいない世界もあるし、色んな世界があるの」
「うん」
「でね? 魔法文明は次元世界を渡る技術を得る事に成功した。だけど、だからといって世界を好き勝手に移動している訳じゃないの」
「…文明の保護とか…領地の利権争いとかになるかもしれんからか?」


 シャマルの言葉から、自分の中にある知識と照らし合わせてはやては自分なりの答えを口にする。
 シャマルは一瞬驚くものの、はやてならばと納得する。色んな意味で規格外なはやてだからこその納得だろう。
 はやてにそうよ、とシャマルは返してから更に説明を続ける。


「当然、そういった混乱を招かないように「時空管理局」というそれを取り締まる組織が存在しているの。…その時空管理局はね、世界を滅ぼすような危険な物や技術を管理して世界を保護するという活動もしているの」
「…えと、だから例えば魔法文明が無い世界で魔法は使っちゃいけないとか? そんな事してたら時空管理局に捕まる、とか」
「そういう事。そういった世界での魔法の使用は必要最低限以外は控えてね。…それから、これは私達の事情になっちゃうのだけど」
「…あっ、闇の書もそれに入るって事か!?」
「…そうよ。だから私達の正体は隠して欲しいの。…はやてちゃんが主になる前に私達は時空管理局とも敵対した事があるし…あまり事を荒立てたくないから」


 はやては闇の書の事を思い出して声を挙げる。それにシャマルが過去を憂うように表情を歪ませながら口にする。
 今と過去では自分たちの在り方は大きく異なった。血に濡れるような戦いの日々から穏やかな平穏な日々へ。
 だが、罪は消えない。為した事は残り続ける。自分たちが傷付けた者達、亡くさせてしまった命。出来れば、はやてをそれに巻き込みたくなかった。
 はやては闇の書の主である事を拒んでいる。だがそれでもはやては仮の主として、私達に自由という新しい未来をくれた。
 その未来を失いたくないし、はやてには闇の書の罪という枷を与えたくない。それはいずれ人里に行きたいと言い出すかもしれないはやてを予想したヴォルケンリッター達で予め決められていた事だ。


「…そっか。うん。わかった、気をつけるわ」
「…ごめんなさい」
「うぅん。皆に会えんかったらずっと森暮らしやし、全然構わんよっ!!」


 ニッコリとはやては笑ってシグナム達に告げた。
 シグナム達はその笑顔を見て思う。あぁ、失ってはいけない、失いたくはないと。
 積み重ねた罪。今ではそれを悔いる気持ちがある。だが、だがそれでも望みたい。
 この主と、この少女と共に、今暫くはこの時を過ごしていたいと…。


「ありがとう、はやてちゃん」


 シャマルは涙を滲ませてはやてに告げた。心の底から私達の存在を喜んでくれるこの子の事を愛そう。
 この子にだけは、私達の罪の枷を負わせないようにしよう。この子の自由を守ろう。
 そして願えるのならば、その姿を末永くまで見届けていたいと…。
トラックバック(0)+ +コメント(0)
■■■創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.12
2010/02/10 Wed創魔の疾風
 はやてがザフィーラが打ち解け合ってから、はやてはザフィーラの指導の下、シールド魔法を習っていた。
 自己領域へと潜り、構成式を考えていたのだがなかなか上手くいかない。
 形を作るだけなのは簡単だ。だが、はやてのシールドは確かに形成されるのだが…。


「強度がいまいちだな」
「あぁ…そうかぁ…」


 ザフィーラがはやての形成したシールドに軽く拳を打ち付けながら眉を寄せた。
 はやてはザフィーラの言葉を聞いて落胆したように溜息を零した。
 はやての形成するシールドははやてのイメージ不足なのか、強度が不十分なのである。
 それこそ、普通のミッドチルダ式と比べれば標準に限りなく近いが、それでも脆い。
 ベルカ式の盾のエキスパートであるザフィーラから見ればはやての盾は甘いと言わざるを得ない。


「…はやて。お前は魔力をどのように捉えている?」
「え? んーと…電気、みたいな感じかな?」
「なるほどな。それが原因か」


 ザフィーラははやての言葉を聞いて納得したように頷いた。
 はやては元々「自分の中に流れるもの」として魔力を認識している。それは間違ってはいない。はやての認識としては流れる物、つまりは電気のような物として認識してもおかしくは無いのだ。
 だが、実際に魔力というの粒子の塊と言っても良い。実際ザフィーラもそう認識している。ザフィーラはその部分を改めてはやてに説明する。
 はやてのふんふん、と頷きながらザフィーラの話を聞いていた。ザフィーラの話に納得したのか、再び瞳を閉じて自己領域の中へと意識を飛ばす。
 「魔力」は無数の粒である。それは電気のように流れるものではなく、血液の中を流れる粒のイメージに変換する。
 その粒をゆっくりと手から放出させ、想定する空間に認識させ、更にそこに粒子を密集させ……。


「はやて。それだと空間に固定してしまっているぞ?」
「え? あっ、しもうたっ!?」


 ぎゃおーっ!? とはやては目を見開いて、自分の形成したシールドを見る。
 はやての術式を示す六芒星の魔法陣が宙に浮かび、固定されている。動かそうとしてもその場で固定されており、動かす事が出来ない。
 ザフィーラは思わず溜息を吐いた。いろいろな意味で教え甲斐のある子供だと思う。
 それからはやてに教える事、数時間ほど。自主訓練に移ったはやての姿を眺めながらザフィーラは考えていた。
 はやては魔力をどうしても「流体」として認識してしまう。「粒」として認識しているザフィーラはそれを結集させるというイメージで済むのだが、はやての場合、それがなかなか上手く行かない。
 ヘタに固定してしまえば空間をも固定してしまい、空間遮断になってしまう。
 それはそれで使えるのだが、汎用性は失われるだろう。魔法は本来、汎用性を持たせ、様々な状況に対応する必要があるのだから。


「ふむ…どうした物かな?」


 これからどう教えて行けば良いのか? とザフィーラが考えていると、背後の方で自分を見つめる視線を感じてザフィーラは振り向いた。
 サッ、と一瞬見えた影は木の後ろに隠れた。その影が誰なのか思い至りザフィーラは溜息を吐いた。


「…話があるなら出てくれば良いだろ。シグナム、ヴィータ、シャマル」


 ザフィーラの声に木の影に隠れたシグナム、ヴィータ、シャマルが罰悪そうな顔をしながら顔を出した。
 ザフィーラは彼等の気持ちが分からないでも無いので、その行いを咎める事は無い。逆の立場であった事も考えられるのだから。


「…どうしたんだ? お前は」
「何がだ? シグナム」
「主への態度だ。…お前があのように接するなど、正直想像がつかなかった」


 シグナムの言葉はシャマルとヴィータも同じようで、小さく頷いていた。
 確かにな、とザフィーラはシグナムの言葉に頷きを返し同意する。それは自分も否定はしない、と。


「…なぁ、シグナム」
「…何だ?」
「俺達は最早、戦うだけの存在ではいられないのだ」
「……」
「俺達に望まれているのは個性だ。はやては俺達を道具としてではなく、個人として受け入れ、そうある事を望んでいる」
「…そうだな」


 闇の書は完成させない、ヴォルケンリッター達の皆にやりたい事がみつかるように、と願った彼女が普通の主と違う事はシグナムとてわかっている。
 だが、今まで築き上げてきた常識がいとも容易く覆されたとはいえ、それを受け入れる事とはまた別の問題だ。だからこそシグナムは惑う。比較的受け入れていたヴィータとシャマルでさえだ。


「釣りだったか。なかなかあれは面白いものだったぞ?」
「…お前があのような叫びを挙げるとは思わなかった」
「はやてに言われたのでな。それが釣り上げる魚への礼のようなものだとな」


 クックック、と喉を鳴らせながら楽しそうに告げるザフィーラ。やはりその光景にシグナム達は違和感を覚えざるを得ない。


「シグナム。お前ははやてと戦ったな」
「…あぁ」
「主だとか関係無く、はやてだから、鍛えてやろうと思わないか?」


 ザフィーラの言葉にシグナムは思わず考え込む。
 はやての見せた才能の一端。それは確かにシグナムも興味を抱いたものだ。
 闇の書が選んだ才に間違いは無い。だが、その才が何処まで行くのか見たい、と思うのは彼女が闇の書の主だからか?


「…わからん」
「闇の書は既に判断基準に過ぎん。俺達は俺達という目ではやてを見て、選んでいかなければいけないのだろうよ。闇の書の騎士だから、という理由は既に意味を為さないのだからな」


 それは既に主であるはやてによって放棄されている。それに傲るならば、それは怠慢とも取れる。
 自分では選べない。だからこそ与えられた役目をこなせば良いだけ。それははやての望むものではない。


「…私達が、どうするのか、か」
「俺ははやてと共にあると決めた。あの子が闇の書の主、というのもある。だが、はやてだからこそ護りたいと思った。俺が、俺達が、俺達らしくある事を認めてくれたあの子の為にな」


 ザフィーラの視線がはやての方へと向く。先ほどからシールドを形成しようとしているのか、うねうねと魔力の塊を動かしているはやてが見える。
 何をやっているのかと溜息を吐くザフィーラの視線はとても優しげなものだ。シグナム達はそのザフィーラの視線を見て、改めてはやてを見つめた。
 上手くシールドが形成されない為か、ふて腐れた子供のように眉を寄せて頭を掻きむしって声を荒らげている。


「なぁ、シグナム。こうして思えるだけで、恵まれた主だと思わないか?」
「…あぁ」
「平和だろう? 俺の口から、こんな言葉が出ること自体あり得ないだろう?」
「そうだな…あぁ。確かにそうだ」


 盾の守護獣の名は伊達では無い。それは主を護るために存在し、常に主の周囲に気を張っていなければいけなかった。
 故に彼は今のような寡黙な性格となったのかもしれない。だが、彼は本来、情に厚い事をシグナムは知っている。
 だからこそ、だからこそそのザフィーラがそのありのままであれる事が、ただそれだけで幸福なのだとも言える。


「難しい事はわかんねぇけどよ…ていうか、あれか? 難しく考えるな、って事か?」


 はやての姿を見つめていたヴィータは後頭部を手で掻きながら、眉を寄せて呟いた。
 ヴォルケンリッターの中で最も幼い姿をしたヴィータ。その内心もまた、心優しい少女である事をヴォルケンリッターの皆は知っている。
 だが、それが表に出ることは数少ない。戦う為の存在に優しさなど不要なだけだ。だからこそヴィータはこのように普段から尖ったような態度を取っているのだ。
 もしも、そのように尖る必要が無いのだとしたら? ヴィータは想像しようとして…その姿がどんな姿なのか想像が付かなかった。
 それだけあり得ないような事なのだ。そんな事を考える必要など今までは必要されなかったのだから。


「そうだな。お前は考えるな、ただ感じれば良い」
「んだよそりゃ、私が馬鹿みたいに聞こえるぞ…?」
「そうは言ってない。だが理屈で言うよりもお前は肌で感じた方が良いだろう? いや、もう感じているのだろう? 一風変わっただけの主でないという事は」


 ザフィーラの言葉にヴィータは眉を寄せる。それから不服そうに瞳を閉じてそっぽを向く。
 どうやら図星を当てられたようだ。その反応にザフィーラは軽く笑みを浮かべて、小さく喉を鳴らした。


「…平和なんて、私達には縁遠い言葉だったものね」
「…あぁ。そうだな。だから戸惑うのは当然だろう。俺達にはそんなもの、経験した記憶が無いのだから」
「だからこそ、それが幸福なのかしら」


 シャマルは段々とザフィーラの言いたい事を理解してきた。
 自分たちには今、余裕がある。それこそこうして感情を露わにして話す事が出来るように。
 ただのプログラムでしか無かった自分達。だが、今はただのプログラムとは言えない。それは1人として独立した個性だ。
 こうして考える事が出来る事そのものが、長き時を戦乱と血と罪に染めてきた自分達にとってかけがえの無い幸福なのだと。


「…好きなように、生きるか」


 はやては言った。したい事は無いのかと。自分達はそれに答えられなかった。
 だが、はやては答えても良いという。いつでも待ってると、自由にしていいのだと。
 それは苦痛でもある。慣れない事はシグナム達に戸惑いを与えたのは事実だ。だが、それでも…。


「やはり、それは幸福な事なんだろうな」


 ザフィーラが感慨深げに瞳を閉じて頷いた。それは彼等に今、許される平和。
 シグナムが、シャマルが、ヴィータがその言葉を自分なりに噛み締める。
 理屈でも良い。感情でも良い。そして、自分が幸運の下にいるという事をわかれば良い。それを許してくれる少女がいてくれるという事を理解すれば良い。


「はやては主にはなれん。主は指し示し導く者だ。だが、あの子はその全てを投げ出した」
「私達に丸投げしたわね。好きにしなさい、って」
「そうだな…」
「…本当変な奴なんだな」


 変な奴。そう、それが彼等にとってのはやてだ。目の前に強大な力があるというのに自分のプライドか何か知らないが、それを拒んだ変わり者。
 自分達は本来、付き従う筈の者なのに、付き従うな、と好きなように生きろと役割を放棄した変わり者。
 だが、その変化がシグナム達にとって、幸運と言わずとして何と言うのだろうか?


「あれ? 何話してんの? 皆」
「…何。お前は変わっているな、という話だ」
「そうね…。ちょっと普通じゃないわよねぇ」
「そうだな。変人だ変人」


 ザフィーラがいつものように、シャマルが控えめに、ヴィータがハッキリと、はやてを変人扱いする。
 目を丸くしたはやてだが、すぐにぞんざいな扱いに憤慨し、抗議の声を挙げるが誰も取り合わない。
 唯一、何も言わなかったシグナムにはやては縋るような視線を向けた。


「シグナム!! 皆が酷い事言うわ!! ここは将としてビシッ、と言ってやらんかっ!!」
「…残念ながら、私も同意見です」
「な、なんやとーっ!? 皆して変人扱いしおって!!」
「いや、事実でしょう?」


 敬語こそ抜けきらないが、はやてに対してシグナムは遠慮も無くはやてに告げた。
 それにはやてが全身で抗議を表しているが、その仕草をヴォルケンリッターの皆は楽しげに見つめるのであった。
トラックバック(0)+ +コメント(0)
■■■創魔の疾風 =A girl creates the world= Act.11
2010/02/10 Wed創魔の疾風
 さてはて、数奇なる運命を持った少女はこうして異世界へと渡る事となった。
 そんな彼女が異世界で何を為し、何を学び、何を思うのか…。
 まだ旅は始まったばかり…。
 だが1つ。言いたい事があるとすれば、だ。


「逃げろーーーーっっ!!!」


 自重しろ。その一言を彼女に告げたい。


「主ィィィィイイッッッ!!!!」
「いやっ! ホンマッ!ゴメンッ!!!」
「謝って済むならドラゴンはいらねぇんだよぉぉおおっっ!!!」
「誰が上手い事言えって言ったのヴィータちゃぁぁんっっ!!!」
「無駄口を叩くなっ!! 走れぇぇっ!!!」



 ここは深い森の中。はやてのドラゴン騒動から1日経った現在。はやてとヴォルケンリッターは全速力で森の中を駆けて行く。その背を追うのは、先日、はやてを襲ったドラゴンと同種のドラゴン。しかも、5匹はいるだろうか。


「いやせやかて鱗とか超気になるやん!!触り心地とか? 強度とか? 寝てるなら一枚ぐらいえぇかなー? って思ったんやーっ!」
「馬鹿ですか!? 馬鹿ですね!? 馬鹿なんですね!?」
「シグナム、丁重な口調が今は痛いわっ!」


 はやてが泣き真似をするように目を覆う。つまり、現在、どうしてこのような事態に陥っているかと言うと、全部はやてが悪い。はやてが悪いという言い方以外存在しない。はやて以外が悪いと言えるなら言って見ろ、と言いたい。きっと、ヴォルケンリッターの面々はそう思っている事だろう。
 異世界に来た初めから無謀な真似をしたはやてはその後、ヴォルケンリッター総出の説教を受けた。それで、一時は反省したのだが、子供というのは頭ごなしに押さえつけられれば反抗心も覚えるし、はやての好奇心はそれで抑えられる物では無かった。


 そして、現在に至る。ふと、偶然な事にはやては寝ているドラゴンの集団を発見。シグナム達が一瞬、目を離した隙に、鱗を頂戴しようと近づき、そして、剥ごうとした結果がこれであったのだ。


「今回みてーな頭がパーな主は初めてだよちくしょーっ!!」
「パー言うなパーッ!!」
「パー以外の何て言えば言いのか考えちゃいますね? 馬鹿じゃ収まりませんよこれ!!」


 ヴィータがやけくそ気味に叫ぶ。それにはやてが心外と言うように抗議の声上げるが、隣でヴィータと同じようにやけくそ気味になって、ハイになっているシャマルが叫ぶ。その一言にまったくだ、と言わんばかりにヴィータが頷き、はやてがショックを受けたように頭を垂れさせる。


「無駄口を叩く暇があるかっ!! えぇいっ、レヴァンテインッ!!」
『Ya!』


 そのやり取りを見ていたシグナムは思わず怒鳴る。胃の辺りが引き絞られるような痛みが走ったような気がしたが、気にしている余裕など無い。今、必要なのはこのドラゴンの達をどうするか、この点に尽きる。
 愛剣「レヴァンテイン」を待機状態から起動状態へ移行。鞘と共に召喚されたレヴァンテインを握りしめる。


「カードリッジロード!!」
『Explosion!!』


 柄部分のスライドパーツから吐き出されるのは2つの弾丸。それは魔力を込めた弾丸「カードリッジ」だ。カードリッジによって高めた魔力によって、レヴァンテインがその身に魔力を秘め、その機能を発現させる。
 同時に、シグナムが振り向き、ドラゴンと向かい合う。同時に、神速の勢いの如く、抜き放たれたレヴァンテイン。


「シュランゲフォルム!!」


 それは、ワイヤーによって繋がれた連結刃。剣の形状を取っていたレヴァンテインは幾つもの刃を分裂させ、その名の如く、蛇のようにドラゴンへと抜き放たれた。
 虚を突いた攻撃であったのだろうか。振り向きざま、唐突に攻撃された事により真っ向からその連結刃の直撃を受ける一匹のドラゴン。それは運良く、顔に当たり、脆い目でも傷付けたのか、悲鳴のような雄叫びを上げ、先頭を走っていたドラゴンがその場に躓く。
 同時に、後ろから駆けてきたドラゴンも巻き込み、そこでドラゴンたちが一斉に躓いた。
 追撃をかける為に剣を構え直そうとしたシグナムの横を、1つの影が駆け抜けていく。それは、背に竜の翼を広げ、低空飛行でドラゴンへと向かっていく主の姿であった。思わず、その光景に目の前が真っ暗になり、そのまま前のめりに倒れてしまいそうになるのをシグナムは必死に堪えた。


「あ、あ、ある、主ぃぃぃいっ!?」


 シグナムの驚愕の声。一体はやては何をしているのか、全く理解が追い付かない。シグナムが叫ぶ中、はやてはそのままドラゴンの背に着地し、抱きつくようにドラゴンの背中にへばりつき、ぺたぺたとドラゴンの背中を触っている。
 余りの光景にシグナムは思わず、膝を落としかけたが、それは騎士の誇り、主を護らねばならない、という使命感の元、なんとか踏みとどまる。


「ドラゴンの鱗ってこんなんやなー。やっぱ変温動物なんかなー。一枚ぐらい大丈夫かなー」
「ちょっ!? コラッ!! 主、待ってくださ…!!」


 思いっきり、鱗の一枚を引っ掴んで剥がそうとしている光景にシグナムは目元が熱くなったのを感じていた。あれ、僅かに景色がぼやける? 一体どうしたのだろうか。というか、あの人はなにをやっているのだろうか?
 シグナムの思考は追い付かない。追い付かないシグナムを前に、はやては「ベリッ」と効果音が似合いそうな程、勢いよく鱗の一枚を剥がしてしまった。
 同時に、悲鳴を上げ、のたうち回るドラゴン。はやてはあまりの振動と動きように背から振り飛ばされてしまう。


「あぶなっ!?」
「当たり前でしょうがぁぁあっっ!! 貴方一体なにしてくれてんですかぁぁ!?」
「あれ? シグナム、泣いてへん?」
「泣いてませんっ!! …って後ろぉぉおっっ!!」


 はやてのあまりのの様子にシグナムは頭痛と胃痛が同時に襲ってきていた。この人は緊張感とか、危機感とか、死への恐怖心とかをどこに置いて来たのだろうか?思わず、そう考えられずにはいられない、と、シグナムの心境としてはこんな感じなのだろう。
 さて、そんなシグナムの目の前、はやての後ろでははやてに向けて口を開き、そのまま噛みつかんとするドラゴンの姿。この距離では明らかに迎撃が間に合わない。目の前で主がドラゴンに食いつかれる、という最悪のヴィジョンが浮かぶ。
 だが、その光景はすぐに想像の物へと変ずる。はやての背の翼が羽ばたき、間一髪と言った距離で回避。そのまま宙を回るようにはやてがシグナムの元へと戻ってきた。


「あぶなっ、助かったぁ…!」
「何が助かったですか!? 死ぬつもりですか!?」
「あーっ! 耳痛いわっ! シグナム声デカイっ! って無駄口叩いてる暇無いでっ!!」


 シグナムの怒声もなんのその、と言った様子ではやてが光の矢を放ち、ドラゴンを牽制している。それに色々と言いたい気持ちを無理矢理抑え込みながら、シグナムがレヴァンテインを振るう。鬱憤をぶちまけるかのように振り抜かれたシュランゲフォルムのレヴァンテインが竜の一匹の翼を引きちぎるかのように切り裂く。
 それに悲鳴を上げ、崩れ落ちるドラゴン、その場にのたうち回るその姿に、周囲にいたドラゴン達はシグナムを警戒するように睨む。本能が察知する。奴は、危険な存在だと。
 その殺気にも似た視線を受けながら、シグナムはレヴァンテインを剣の状態へと戻し、両手で強く握りしめる。そして、ドラゴンが自らに向ける以上の殺気を放ちながら。


「…来るが良い。今日の私はひと味違うぞ…」


 そして、惨劇が始まった…。





+++++





 惨劇が後に残ったのは、力任せに引き裂いた竜の死骸と、正座をさせられ、死んだような表情を浮かべているはやてと、見下すかのようにはやてを見て、薄ら笑いを浮かべているヴォルケンリッターの面々。


「…昨日、あれだけ言ったのにまだわかりませんか?」


 シグナムが冷ややかな声ではやてに問う。それに、はやては一瞬、竦んだように身を震わせるが、すぐ、そのままシグナムに土下座をした。もう、地に頭を擦りつける勢いだ。これが土下座の模範例だ、と言うまでに、その土下座は素晴らしかった。
 そのまま、はやてはシグナムへと反省の意を示した言葉を並べていく。


「反省してます。えぇ、この通り。誠意を持って謝っております」
「はい。私もそれを信じたいのですが…僅か、1日です。次の日には裏切られました。えぇ、見事と言って良い程に」
「はい。それは全て、私の好奇心が抑えられなかった故の未熟であると思うでございます」
「主? 良いですか…?」


 僅かに、鞘に収めていたレヴァンテインの刀身を見せ、初めて見るような満面の笑顔を浮かべてシグナムは言う。


「次は、ありませんよ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしませんごめんなさい」
「次やったら潰すかんな?」
「いくら主でもね……限度って物がありますからね?」


 シグナムだけでなく、ヴィータとシャマルの目も据わっていて、声も冷ややかだ。はやては、ただ、蛇に睨まれた蛙のように震えるだけだ。なんとも情けない姿である。その様子に、ザフィーラは深く、深く溜息を吐いた。
 その胸の内には、大きな不安が巣くっていた。そして、やはりもう一度、大きな溜息をザフィーラは吐くのであった。





 + + + + + +






 月明かりが照らす時刻。獣は寝静まり、小さな虫達が晩餐会を開いているのか、響くのは様々な虫達の鳴き声。日本でも見られた光景。世界が異なり、生態系が異なろうとも似たような部分はあるのか、と、感慨深げに、木の枝に座りながらはやては思う。
 はやてが座っている木の枝の下には、三人の人物と一匹の狼が寝そべっていた。その様子に、ふぅ、と溜息を吐いてから。


「…ごめんな」


 それは、何に対しての謝罪だったのか。ただ、はやてはぼんやりと天を見上げながら、異世界の夜空を見上げるのであった。
 そして時は流れ、朝となる。
 日の光が辺りを照らすのは太陽が存在する世界では当たり前の光景だ。その朝の迎えと共に、寝入っていたシグナムは目を開いた。開いたばかりの瞳は、朝日に刺激され、反射的に目を細目へと変える。
 しばらくすれば慣れたのか、瞳は何度かの瞬きをし、そして眠気の余韻のように小さな欠伸が漏れた。


「…朝か」


 小さく呟き、思わず首を振る。身体に僅かな脱力感が残っている。眠気もあるのだろうが、先日のはやてのドラゴン騒動により、大きく体力を精神的に削られたのが原因なのだと思う。
 さて、その騒動の主は今何をしているのか、とシグナムが視線を辺りに向けると、そこには同胞の騎士達しかいない。思わず、背筋に悪寒が走る。
 シグナムの思考が走る。また、何かしでかしたのではないだろうか?いや、まさかそんな事は無い筈だ。そう願いながら、シグナムは慌てた動作で立ち上がった。


「なんや、シグナム起きたんか?」
「…主?」


 声は上の方から聞こえた。なんと、はやては木の枝に座って、こちらを見下ろしていた。その光景を見て、シグナムは思わず安堵の息を零さずにはいられなかった。自分の嫌な予感が当たらなかった事に心底、安心した故である。
 その様子を見てから、はやては木に手を掛けて、ぶら下がるようにしてから、木から手を離した。重力の法則に従ってはやては地面へと落ちて行き、着地する。
 思わず、シグナムは思う。身軽な物だ、と。これは元来、森で生活を続けてきたはやてだからこそ出来る事。はやては、着地の衝撃を逃がす為に折り曲げていた足を立たせ、軽く片手を上げて、シグナムに笑みを見せた。


「おはようさん」
「はい、おはようございます」


 人付き合いは挨拶から始まる。まず、互いに朝の挨拶を済ませてから、今日の1日は始まっていく。シグナムはふと、はやてはいつから起きていたのかが気になった。自分より早く起きていたようだが、一体いつから起きていたのだろうか?


「主はいつから起きていらっしゃったのですか?」
「んー? 1時間ぐらい前からやない。後は木の上でボーッ、としてたけど」


 1時間。日本で言うなら、まだ6時になるか、ならないかぐらいの時間だろう。早いと言えば、早いのかもしれない。遅いと言えば、遅いのかもしれない。つまり、どちらでもなく普通の時間に彼女は起きていたのだろう。
 何かしでかしたわけでもなかったので、本当に安心した、とシグナムは思う。この主は目を離すと何をしでかすかわからないからだ。


「さて、と。朝食の方も調達せんとな。保存食は一応あるとはいえ、出来るなら消費は避けたい所やし」
「それならば、シャマル達を起こしてからにしましょう」
「せやな。一応、木の上からザッ、と見たけど、あっちの方角に水場が見えたからそこに行かんか? 水も調達出来るかもしれへんし、魚もおるかもしれんしな」


 はやての提案に、シグナムは頷いた。ぼーっ、としていた、という割りには今後の事について良く考えている。普段はやはり、しっかりとしている人なのだな、とシグナムは感想を覚える。出来れば、ずっとそのままで居て欲しいと思うのだが、どうなのかはまだわからない。


(本当に、不思議な方だ)


 一見、しっかりとしているかと思えば、目を離せば子供のような真似をし出す。
 つかみ所が無い。そう言えば良いのか、シグナムははやての事をそう評価していた。
 その評価も当然と言えば当然なのかもしれない。何故ならば、まだ、彼女等は出会って1日しか経っていないのだから…。





+++++





 さて、時間はやや、先へと進む。経過を説明するならば、あの後、眠っていたシャマル達を起こし、はやて達一向は、はやてが発見したという水場に来ていた。
 水場。広さでいえば中規模ぐらいの湖であろうか。水事態はそうそう汚れておらず、十分、飲み水として使える物であった。はやてが持っていたペットボトルにそれ等を補充し終わった頃だ。
 ふと、シグナムは辺りを見渡した。水を入れたペットボトルを、シャマルが纏めている。ヴィータはシャマルに注意されながらも、渋々と手伝っている。ザフィーラはそれを傍で寝そべりながら見つめている。
 はて? 誰かいない、ような……。


「主はどこへ?」
「…え?」
「…あん?」
「…む?」


 シグナムの問いかけに、ヴォルケンリッター全員が疑問の声を挙げる。そして、僅かな間を置いて。


「はやてちゃぁああああああああんっっ!!」
「あんにゃろまたかぁああああああっっ!!」
「探せぇぇえええええええっっ!!」
「そんな騒がなくてもここにおるわっ!!!」


 ヴォルケンリッターの慌てた声に、森の方から歩いてきたはやてが怒鳴り声を上げる。それに、一斉に振り向き、ジト目を向けるヴォルケンリッター。また何かしでかしたのではないか、と猜疑の目を向ける。
 それを気にした様子は無く、はやては首を回して骨の音を鳴らしながら。


「寝てたんや。朝やっぱり早く起きすぎたな」
「……そうですか。何かしでかしたわけではないのですね?」
「うん」


 それに、脱力しながらヴォルケンリッター全員が深い、ただ深い溜息を零すのであった。そのまま膝と両手が地に着きそうな程だ。ザフィーラは頭を垂れるのみだが。
 その様子を横目で眺めながら、はやては、遠い空の方角へと視線を向けるのであった。



+++++



 その夜。はやて達は湖の近くで休んでいた。はやてが「今日、動くの面倒臭い」という理由で、ここに残る事になったのだ。当初は、興味心からまたどこかへ行こう、というかと思っていたシグナム達は怪しげに思った物だ。
 だが、結局はやては何も行動を起こさず、そのままグーダラと横になっているだけであった。


「…何か企んでいるのではないか?」


 ふと、はやてから少々離れた所で、火を炊いていたシグナムは小さく呟いた。それにヴィータも、同意するように細目を浮かべて頷いた。それにシャマルが困ったような顔を浮かべて。


「…あんまり疑いたくないけど」
「信用がねぇんだよ。アイツには」
「…そうなんだけどね」


 困ったように、シグナムとヴィータ、シャマルは溜息を吐くのであった。その様子を眺めてから、ザフィーラははやての方へと視線を向けていた。はやては仰向けに寝転がり、ただ、星空を見上げているだけであった。



 それから、すぐに、ヴォルケンリッター達は寝入った。火の番を任されたザフィーラははやてを眺めていた。はやてはこちらにやってこようとはせず、ただ、そのまま眠っているように見える。
 その距離感に、ザフィーラは目を細めた。明らかに、避けられている。


「主。そちらは寒くありませんか?」
「……別に」


 まだ起きていたようだ。やや、無感情な声がザフィーラの耳に届く。普段の快活な彼女の様子からは、見て取れないような態度にザフィーラは主に対しての興味心を持った。
 ゆったりとした動作で、シグナム達が起きないようにしながら、はやての方へと歩み寄り、はやての傍に腰を下ろした。


「…迷惑ですか?」
「…別に」
「私が隣に居る事ではなく、我等が共に居る事が、です」
「……」


 はやての返答は、沈黙。答えたくないという意思表示なのだろうか。寝返りを打ってザフィーラに背を向ける。明らかな拒絶に、ザフィーラは溜息を吐き出した。
 どれだけの間を置いたか、はやてが、呟くような声を漏らした。


「…せやかて、仕様がないやろ。嫌やって言うても、アンタ等困るやろ…」
「……主」
「……どないせーちゅうんや。私、何も無いで?嬉しかったで。ドラゴン見たり出来て。心配されて。怒られて。そんなん…1年振りや。そんな体験させて貰って…私ばっかり、幸せで…なんか、そんな良いのかな、って。別にアンタ等にとって私はただの「主」でしかないやん。しかも、止めたい止めたい言うてるし…」


 この短い時間の間に、はやては多くの物を取り戻した。いや、取り戻しすぎた、というべきか。だからこそはやては怖くなってしまった。その居心地の良さに、はやては逆に居心地の悪さを感じていた。
 許されるのだろうか?そんな思いがぐるぐる巡る。


「最初は、振り回してやろ、と思った。自分勝手な主だったら勝手に愛想尽くしてくれるやろうな、って。でもな、心配してくれて…嬉しかったんや…。でも、それは「私」やなくて「主」だからやし……私、そんなんなりたくない。「主」になったから心配されるのって、違うんや。心配してくれるなら…「私」にして欲しかった」


 ソレは、子供の我が儘だ。はやてが望んだのは無償の愛だ。親が子を思うように、ごく当然なその愛。自分が主だから、愛して貰うのとは違う。主にはその者達を纏め、導く存在でなければならない。自分にはそれは重すぎる。そんな責任、重たすぎる。
 でも、愛してくれたのが嬉しかった。でも、それは自分の望んだ愛じゃなかった。だから、どうすれば良いか、もう自分でもわからなくなった。


「…我が儘や。私」


 そんな自分が、今は、嫌いになりそうだった。全てをありのままに受け入れられれば良かったのに、と自分を責め立てる。ザフィーラに背を向けながら、はやては一滴、涙を零すのであった。
 沈黙がはやてとザフィーラの間に生まれていた。
 その沈黙はただ重く…。その重さが更なる沈黙を産み、互いに無言のまま時間だけが過ぎていく…。
 その沈黙を破ったのは意外にもザフィーラの方からだった。


「…主…いえ…」


 はやてを呼ぶザフィーラの声はどこか戸惑い気に、そして、どこか躊躇するようで。
 だが、躊躇しながらも、ザフィーラは再度口を開いて声を挙げた。


「はやて」
「…ふぇ…?」


 ザフィーラに自分の名を呼ばれ、はやては思わず呆気取られたような顔を浮かべる。
 ほんのさっきまで主と呼んでいた彼が唐突に自分の名前を呼んだ事に驚きを隠せない。
 だが、気を使わせてしまったのだろう、とはやては感じた。こんな思い話をしていれば誰だって気を使わなければ、と思ってしまうに違いない。
 そうはやては結論づけて明るい調子でザフィーラに笑いかけた。


「なんや。気使わんでえぇんで?」
「いや。それはこちらの台詞だろう」


 だがそんなはやての様子に、ザフィーラは敬語から崩した喋り方ではやてに語りかけるのであった…。


「改めて…済まなかった。そこまで我等の存在が重たいと思っていたとは…正直思わなかった」
「いや、せやかてそれは…」
「だが、敢えて言わせて貰おう。…ありがとう、と」
「…は?」



 唐突に言われた礼の言葉にはやては動きを止めざるを得なかった。
 一体どういう事なのか、はやてはさっぱりわからず狼狽えるだけだ。
 そんな狼狽えるはやてを見てザフィーラは僅かに口元を歪め、軽く息を吐きながら笑みを浮かべる。


「正直そこまで思われているとは考えていなかったのだ。我等が「個人」として認められたのは記憶に無い事だからな。だから、どうすれば良いかわからなかったのは…正直こちらもだった」
「…ザフィーラ」
「つまりはそれは…俺たちがそれだけ身近に感じてくれているという事の表れであろう?」


 ザフィーラの声は優しい。その声にはやては思わず何も言えなくなってしまう。
 恥ずかしかったのか、それとも嬉しかったのか。とにかくはやては言葉を失い、沈黙してしまった。
 確かに、今まで寂しかったのは事実だ。1人の食事、1人の生活。それにはやては耐えられる事が出来たのは今までそうであったからだけだ。
 だが、はやてはこうしてシグナム達の存在を通して知ってしまった。人と接する事の温もりを。忘れていた暖かみを。
 だからこそ我が儘になってしまった。私は「主」じゃなくて、「八神はやて」なんだ、と。
 義務じゃなくて、私を見て、と。もっと私の事を知って欲しいと、もっと私の事を思って欲しいと。構って、欲しいと。


「…なぁ、ザフィーラ?」
「…何だ?」
「私はな、今までずっと1人やった。1年くらいまでは石田先生って言うて、私の主治医の先生もおったんや」
「…そうなのか」
「うん。その先生はな、凄く、優しくてな。私は大好きやった。大好きやったから、遠ざけた」


 遠ざけた、と告げたはやての言葉にザフィーラははやての方へと向いた。
 はやては背を向ける体勢から空を見上げるように仰向けとなり、瞳を閉じながら言葉を続けた。
 それはまるで遠い過去の映像に思いを馳せているようにも見える。


「どうしてだ?」
「…んー。良くも悪くも、頭良かったからかな」
「…ふっ、自分で頭が良いとか言うな」
「実際えぇで? 舐めたらあかんわ」


 ケラケラとはやては笑い声を零す。ザフィーラははやてから視線を空へと移し、はやての声に耳を傾ける。


「…石田先生の抱えてる患者さんは私一人やなかった。だから甘えたり、我が儘言ったりは出来へん。そんな事したら迷惑になるだけやから。小さい頃から、ずっとわかってたんや。私には…甘えられる人なんていないって」


 はやてが甘えられる人間など本当にいなかった。出会う人は家庭を持った近所の人や、病院で出会う病人などの入院患者ぐらいだ。
 そんな出会う人たちが何かしらの事情を抱えている中で、はやては誰かに甘えるという事が出来ないという事を理解してしまっていたのだ。
 だからこそ、はやては気丈に振る舞った。話せるだけでも、名前を呼んでくれるだけでも十分だと思うようになった。ほんの少しの心配だけでも十分だった。
 だが、はやての足が治り、こうして「はやての為だけに存在する」と言っても過言ではないヴォルケンリッター達と出会ってはやては望んでしまった。
 甘えたい、と。その今まで封じてきた思いを。だがそれはまたはやての立場によって遮られる事となる。
 主という、彼等を束ねば、導かなければならぬ存在。それがはやての立ち位置だった。甘えるなど出来なかった…。


「だから、勝手に振る舞った訳か。我等が我等で動いてくれる事を望むために」
「……そうや」
「なら、俺は俺の意志でお前に言うぞ、はやて」


 ザフィーラは身体を起こして、はやてを真っ直ぐに視線を向けながら言う。


「俺は闇の書の守護獣。盾の守護獣、ザフィーラ。闇の書の主として…そして、八神はやてとして俺はお前を護る盾になる。だから、望めば良い。俺は可能な限り応えよう」


 真っ直ぐな意志を以てザフィーラははやてに告げた。はやての瞳が開かれ、ザフィーラを見つめた。
 次第にはやての瞳が潤んできたのをザフィーラは見た。はやては手でそれを拭う。何度も、何度も、止まれと命じながら。


「…っ…嘘…」
「嘘じゃない」
「…私…何も返してやれんよ…っ…」
「もう十分だ」
「…納得、いかへん…っ…」


 護られる存在なんかじゃない、とはやては告げる。傍に居て価値のある人じゃない、とはやては告げる。
 それははやての防御壁。それが崩れれば孤独な心は折れてしまうから。誰かに尽くさねば、と思う事で封じてきた甘えへの戒め。
 それをはやてが出したのは意図的なものだったのか、それとも無意識のものだったのか。
 どちらでも良い、とザフィーラは断じて言葉を続ける。


「俺は、幸せだろうよ」
「…っ…」
「こんなに素晴らしい主が、素晴らしい仲間がいる。それを誇れる事が幸せだ」
「…ザ、フィ…ラ…」


 それ以上は言葉はなかった。ザフィーラはただはやてを見つめる。
 はやては暫く涙を拭う手で瞳を押さえ、涙を抑えていたが、ゆっくりと身体を起こすのと同時に、目を開けて。


「…犬の癖に生意気や」
「い、犬っ!? 俺は狼だっ!!」
「あははっ、変わらん変わらんっ!!」


 はやては涙の後が残る顔を満面の笑顔に変えて笑った。犬呼ばわりされたザフィーラは憤慨していたが、はやての顔を見れば小さく笑みを零した。
 暫く2人は笑い合っていた。それが楽しくて仕様がないと言わんばかりに、ただ彼等は笑い続けた…。





++++++





 翌日、シグナム達は眠りから目を覚ますと、はやてとザフィーラの姿が無い事に気づく。
 一体どこに行ったのか、とシグナムが首を傾げていると湖の出島のようになっている部分で1人の見慣れた男が何やら竿を立て、糸を垂らしている姿が見えた。
 思わず目を擦り、その姿が幻影でない事を確認すると、それと同時に糸が引っ張られるように反応を見せる。
 まるで動きを見せなかったその男は竿を掴むと、一気に力を込め、糸の先にかかった獲物を水の中から宙へと引っ張り出した。


「ヒットォォォッッ!!」


 …いやいや、ちょっと待て、とシグナムは額を抑えた。
 今、あそこにいるのは恐らくザフィーラだ。いや、多分ザフィーラだ。およそザフィーラだ。きっとザフィーラだ。うん、ザフィーラだ。
 そのザフィーラが、「ヒットォォォッ!!」と叫んでいる? あり得ない。あり得るわけがない。一体何がどうなってこうなって、今に至る?
 あぁ、そうか。私はまだ夢の続きにいるのだな、とシグナムは横になろうとした。


「ちょ、おいっ、シグナムッ!! 現実逃避するなっ!! 目を向けろ!! あれが現実だっ!!」
「はははは、何を言っている? ヴィータ。下らん冗談は私は好きでは無いな」
「冗談だったらどれだけ良いのかしらねぇ…」


 必死にシグナムを揺らし、現実を見据えさせるように叫ぶヴィータ。だがシグナムは連日のストレスからか、現実逃避へと走る気満々である。
 そんな2人のやり取りを見ながらシャマルは溜息を吐いた。竿で吊り上げた獲物を両手で持ってはしゃいでいるはやてと、再び竿の準備をしながら楽しげに談笑しているザフィーラが見える。


「…一体何がどうなってるの?」


 頭痛を抑えながら、シャマルは呻くように呟いた。私もシグナムのように現実逃避しようかしら、と本気で考えるシャマル。
 今度ははやてが竿を握り、糸を垂らしている。その間もザフィーラと談笑している姿が見え、シャマルは目眩がしそうだった。


(ザフィーラ…昨晩、一体何があったのっ!?)


 シャマルが悩む中、再び竿に当たりが来たのかはやてが竿を握っている。
 暫くすると、はやてがぽーん、という音が似合うように竿ごと湖の中に飛び込んでいく姿を見て、シャマルはようやく再起動する事が出来たと言う。




+++++





「こら、動くな」
「うーやー、くすぐったいーっ」


 湖の中に落ちてしまったはやては当然の如くずぶ濡れ。そのはやての髪をタオルで拭いているのはザフィーラだ。
 はやては楽しげにザフィーラの邪魔をして遊んでいる。ザフィーラは時折それに注意をしながらはやての髪をタオルで丁重に拭いている。
 その光景を、シグナム、ヴィータ、シャマルは一歩引いた所からあり得ないものを見るような見ていた。


「ど、どうなっているんだ…?」
「わ、私が知るかよ…っ」
「さ、昨夜何があったんだと思うけど…」


 不気味だ…と三人は思わず声を揃えずにはいられなかった。あの仏頂面の代名詞と行っても良いザフィーラがはやての髪をタオルで拭いているという光景があり得なさすぎて逆に笑ってしまう。
 だが、現実を直視すれば笑えない現状が目の前にある。はやては自分たちが護るべき主である。だがはやては歴代の主とは異なり、正直どのように付き合えば良いのかわからない。
 わからないからこそ、親しげに触れあいを楽しんでいるように見えるザフィーラをあり得ないものを見る様な目で見てしまう。
 一体どうすれば良いのか、と3人ははやてとザフィーラを半ば呆然と見つめるしか出来なかった…。
トラックバック(0)+ +コメント(0)
■■■創魔の疾風 =A girl creates the world= 10
2010/02/10 Wed創魔の疾風
「よし、今後の方針も固めた所で…実際問題何から始めれば良いんやろうなー…」


 はやては顎に手を当てながら考える。ここにいる、という選択肢はまず無い。シグナム達のしたい事を見つける為には、この変わり映えない生活を続けていては駄目だ。
 やっぱり人里の方に降りなければいけないかなー、と思いながら悩むはやてに。


「だったら、他の次元世界に行けば良いんじゃないですか?」
「は?」


 他の次元世界?とはやてはシャマルを見て呆けた声を挙げる。他の次元世界。そのワードからはやての脳内に構築されていくのは…。


「…異世界?」





++++++





「ここともお別れかー」


 はやては森に作った自分の小屋を整理しながらそう呟いた。シャマルの提案から、はやては二の句も告げさせずに了承、OK、GOGO!! の返答で返した。その速さに皆の視線が軽く引いていたのは、あまりにも興奮し過ぎた所為であろう、とはやては思っていた。
 そんなこんなで、はやては小屋の整理を終えた。壊してしまおうかとも思ったが、なんとなく残しておく事にした。必要な物だけを残して、そのままにしておく。
 いつか誰かが迷い込んだら使って貰えるかもしれないし、1年程とはいえ、お世話になった場所だ。出来れば、思い出として取っておきたい。残るかどうかは未知数だが。


「はやてちゃーん」
「うん?シャマルー?今行くでー」


 少し離れた方向より、シャマルの呼ぶ声が聞こえる。それにはやては返事を返して小屋に背を向けて歩き出す。その歩き出した途中で、一度だけ振り返って、小さく頭を下げた。
 それからはやては駆け出す。その小さな胸に、大きすぎる程の期待と夢を孕んで。


「準備は良いですか?」
「勿論!!」


 ニカッ、とはやては満面の笑みを浮かべて返す。そして、はやてと、それに従いし騎士達は転送の光に照らされながら、「地球」より旅立って行った。
 その光景を見守るのは、ただ、木々達のみ。残されたのは…一人の少女が生活した後だけ…。





+++++





 とある次元世界の1つ。そこに、三角形の、その先端に円をつけたような魔法陣が展開される。それは、転送魔法と呼ばれる術式の物だ。
 転移が終わり、転移されてきたはやてが最初に目にしたのは、大きな木だった。だが、今まで慣れ親しんだ木ではない。それを確認してから、はやては辺りを見渡した。そこには木が立ち並び、森が続いていた。どこまで続いているのだろうか、とはやては好奇心に駆り立てられた。


「はやてちゃん?」
「おい?お前、何して」
「主?」
「ちょ、何をっ!?」


 ふと、はやてを見たヴォルケンリッターの面々は思わず驚愕の反応を見せた。はやては、思いっきりしゃがみ込んで、更に魔力を足に込めているではないか。何をしようとしているのかは、既に明確である。


(魔力装填完了。「自己領域」より検索、該当。解凍開始。術式の正常起動を確認。脚部に魔力集中。「強化」開始)


 既に、はやての術式は起動している。思わず、シグナムが手を伸ばすが既に時遅し。
 ドンッ、と地を蹴る。僅かに地を揺るがしながら、はやては上へ、上へと飛んで行った。
 身体強化による脚部の強化。それによってはやては木々を飛び越えて行った。
 はやての視界に広がったのは、一面の森。だが、森はどこまでも続いていく。確かにはやてがいた所は自然は多かった。だが、ここまで広いか、と言われたらYESとは言えない。思わず、はやてはその光景に見惚れた。


「…わぁ…」


 そんな声を空中で漏らした。既にその身体は重力に引かれ、墜ちそうになっている。それでも、はやてはその光景を見続けている。そして、ふと、気づいた。
 それは、自分の背後の方より飛んで来る何か。それは、はやての上をすり抜けて飛んで行く。その巨躯な身体には鱗がひしめき、力強く羽ばたく翼。獰猛な牙と鋭い爪。まさに、ファンタジーでしか拝めない生物が、そこに居た。


「ドラゴンやーーっ!!!」


 歓喜と驚愕の混じった声。まさか、生きている内にこんな地球では拝めないだろう生物をこんな間近で見る事が出来たのだ。もう、嬉しくて仕様がないはやてであった。
 だが、その嬉しい声は次の瞬間…。


「食われるーーーっっ!!?」


 悲鳴に変わった。ドラゴンが大きな口を開けてこちらに迫ってくる。あかん、迫力在りすぎや。はやては思わず焦る。なにせ、こっちは現在重力落下に身を任せている最中。明らかに空を自由に飛び回れるドラゴンから逃げられるとは思えない。
 心境的には、絶対絶命、の四文字がテカテカと赤文字で光っている。どうする、どうする?とはやての思考は回り続ける。


(くそぅっ、ドラゴンってトカゲよな? トカゲみたいな物や。元の起源は確かワームっていう足の無い竜やったよな? なのに空なんぞ飛びおって!)


 先ほどの感動はどこへ行ったのか。今では、その背に力強く羽ばたくその翼が憎らしいと思え………ん? まて……翼?


「それやッ!!!」


 声を挙げてはやてはすぐさま、思考を構築し出す。はやての頭の中では現在、超高速と言えるスピードで「術式」が組み上げられていく。


(思考構築)


 イメージする。更に、深く潜り込む感覚。己の内側へ、内側へ、内側へ。最奥の闇へとその意識を沈めていく。
 イメージ。想定完了。
 次に必要な素材を検索。該当件数確認、全情報記憶。完了。
 自己領域内の自分を認識。そこで今、自己領域内の自分が凄まじい速度で「六芒星」の魔法陣を描きながら術式を構築しているイメージ。必要な情報が記載された文字が闇の中で踊る。


(構築、開始)


 イメージとして引っ張り出すのは、眼前に「情報」として存在する「竜の翼」。
 動きを見きる。集中した意識が動きをスローにさえ見せてくれるような錯覚すら抱く程、細かく、観察していく。


(想定式、構築完了)


 はやての脳内で術式が完成される。目を見開き、身体に魔力を込める。イメージは完璧。想定された術式に狂いは無い。確信する。行ける。この魔法は発動する。
 はやての背に六芒星を描いた魔法陣が展開される。それははやての背に溶けるように消えて行き、そして、はやての背より、「竜の翼」が開いた。


「飛、べぇっ!!!」


 はやての意志に応じて、竜の翼が羽ばたく。空を飛ぶ生物の翼の構造の本など読んだ事もあるし、何より、目の前で「実物」を見せられたのだ。故に、飛べない道理があるのか?いや、無い。
 飛べる。確信を持って羽ばたかせる。そしてはやては空を舞った。
 その眼下を、自らを喰らおうと口を閉じた竜が通り過ぎていく。喰われていたかもしれない、という恐怖心に身が震えたが、心は歓喜に震えている。


「うわっ!? ホンマドラゴンやっ!? しかも私飛んでるわっ!! ハハハッ!! アハハハッ!!」


 無邪気にはやては笑う。きっと、この状況で笑っていられる彼女の神経はきっと図太いのだろう。周りから見れば狂っていると取られてもおかしく無い程、はやては笑っている。
 だが、はやての笑いはまたも…。


「た、助けてーーっっ!!」


 悲鳴に変わる。後ろをドラゴンが追いかけてくるのだ。はやてはとりあえず全速力で逃げる。翼がバサバサと急がしく動き回る。だが、その逃走劇もすぐに終わりを迎えるのであった。


「この、馬鹿がぁっ!!」


 その追いかけっこを阻止したのは、はやてがデザインした騎士甲冑を纏ったヴィータであった。彼女は自らの相棒であるデバイス「グラーフアイゼン」を振りかぶり、ドラゴンの頭を強打した。その衝撃に、竜は目を回し、動きが止まる。


「レヴァンテインッ!!」
『Explosion!』
「紫電一閃!!」


 その間にシグナムがレヴァンテインよりカードリッジをロード。その刀身に炎を纏わせる。それは、シグナムが得意としている魔法。「紫電一閃」。
 業火を纏ったその一撃は、竜の体躯を真っ二つへと切り裂いた。竜がそのまま、地へと落ちていき、大地を振るわせる音が響いた。


「…グロッ」


 思わずはやてが口元を抑えて呟いた。その背ではその場に留まる為に翼がせわしなく動いている。そして、ギロッ、と睨み付けてくるヴィータとシグナムにはやては思わず、その場で気をつけ、をしてしまう。気づけば、背後にはシャマルとザフィーラまでいる。
 四面楚歌ってこういう状況言うんかなー? とはやては、引きつった笑みを浮かべて。


「主っ!!」
「テメェ何やってんだよっ!?」
「危ないじゃないですか急に飛び出すなんて!?」
「自重してくださいっ!!」


「す、すんませんでしたーっ!!」


 ヴォルケンリッター達の説教を受けながら、縮こまるはやての姿がそこにあったとか無いとか……。
トラックバック(0)+ +コメント(0)
HOME NEXT
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログ内検索
リンク
カテゴリー
最近のコメント

 
 
 
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。